皆の傷になって死にたい転生者がベルの兄で才禍の怪物なのは間違っている 作:マタタビネガー
バチバチにインフルになりました。
つらい。
俺がこれまでの人生で『英雄』というモノに打ちのめされたのは四度。そのうちの一度は言うまでもなくベルだが最初は違う。
最初は『一閃』だった。
自分に向けられたものではない、端から見ただけの一撃ではあったが、生まれて初めて目の当たりにしたその英雄の斬光は完成され尽くしていた。
今から七年前、まだベルとゼウスとであの村にいた頃。
あの一閃を見るに至るまでの経緯は正直よく覚えてはいないが確かあの時、普段ならゼウスやらが散らしてたモンスターが徒党を組んで村の近くまでに攻めてきた。
魔石を劣化させた地上のモンスターとはいえ神の恩恵もない村の大人では太刀打ち出来るわけもなく、村までたどり着けば皆逃げるしかなかっただろうが結果で言えば村までモンスターがたどり着くことはなかった。
村の近くの大樹の下で昼寝してた俺が真っ先に見つけた、というか出くわしてしまった。
恩恵抜きでも精霊の加護のある俺は地上のモンスターの数体程度であればどうとでもなったあの時は数なんざ数える気も失せるくらい大量に居てその上強化種も混じっていて「ある意味チャンスか?」とも思ったが共倒れできる数でもないし、誰も目撃者がいないんじゃ何の意味もない。
そんなこんなでドラマ性もなく死にそうになっていた俺を救ったのがその一閃だった。
『────騒々しい』
魔女を思わせる黒い喪服のようなドレスに閉ざされた双眸、そして何より目を引いたのは腰まで届く長い灰色の髪。
戦いに身を置いてるものとは全く思えない華奢で白く細い体つきはどこか病的な印象も受けるがその全身からのぼる圧倒的な鬼気はそんな印象なんてものともせずに吹き飛ばしてしまう。
その女がしたことはただ、手刀を水平に『一閃』しただけ。
瞬時───旋壊。
四足獣が、魔蟲が、怪鳥が、数十を超えるモンスターが例外なく斬断され、咆哮が断末魔もなく掻き消えた。
無音にして『静寂』の絶技。
瞬時の粉砕に連鎖する消滅。魔石が破砕されたモンスターの群れは塵となって風に吹かれ消えていき、後には何も残らない。
剣士や戦士なんて言葉とはかけ離れた細腕の手刀から放たれたその『一閃』は子供の俺から見ても完成された極到だった。
天才と呼ばれるものがその生涯を捧げてようやくその影を踏めるかどうかという頂の一。
『助かったが────あんた、誰だ? ジジイの客か?』
無論、事前の知識としてその女の事は識っていた。
────知識としてしか知らなかった。
高み、隔絶した強さ、おおよそ人の領域を凌駕したその存在。この世界で初めて出会った『英雄』。
思えばこの時、俺はこの世界が夢や死に際の幻の延長などではない揺るぎない現実だと真に受け入れたのだろう。
確かな現実のこれ以上ない輝きによって物語に対する『憧憬』を砕かれた、これから死ぬであろう『英雄の輝き』に心を焼かれた。
あれは、無理だ。
これには届かない。
それが『英雄』だというのならこの身は永劫、『英雄』になぞ届きはしない。
物心ついた頃から何でもできた。
俺にとって学ぶ事と成長は同義だった。
今まで学んだ物事の数なんて覚えちゃいないが俺は一度でも学べば理解に至るし、再現することも容易い。
けど───届かない。
文字通り桁が違う。俺が今後、五年、十年、二十年の年月を費やしたとしてもその域にこの身を届かせるイメージが湧かない。
『成し遂げた者』の輝き、覇道の先にある『斬光』、終わらない『英雄神話』。才の問題ではない、積み上げてきたもの、その重みと厚みが違う。
なによりその輝きに焦がされた。
弟の瞳の中にもあった光の瞬き。
「················命の恩人相手に言葉遣いがなっていないな、餓鬼」
たった、一度。半刻にも満たない邂逅に脳髄を刻まれた。
世界は、この『英雄』の代わりを見出さなくてはならない。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
『アルは基礎さえ創れば後は自分で改造すると言っていたが········』
ギルド地下。創設神ウラノスの座する地下祭壇から少し離れてた地下空間。魔石灯のほのぐらい明かりが照らす中、その部屋だけは煌々と光に溢れていた。
魔法大国の地下宮廷をどこか思わせる魔力計器や魔法液のシリンダーが所狭しと並んでいるその空間の中央には黒い人影があった。
工房のさらに奥に位置する特大のフラスコの様子を見ながら魔法大国の元賢者、フェルズは呟きを漏らす。
少し前、ウィーネとベルを追って地上にでてしまった『異端児』達の命を救う為にフェルズ個人からアルへと出した非公式の冒険者依頼。
紆余曲折あったが無事に遂行されたその依頼への報酬としてアルが求めていた神秘の結晶、『賢者の石』。
フェルズにとっては中々に複雑な報酬内容ではあったが断れるはずもなく、もともと『救界』の為に生成の下準備をしていたこともあって不完全なものを一個程度であれば生成は可能だと即座に生成に着手していた。
不足していた素材もアルが「そう言うと思って」と、いつの間にかは知らないが既に集めていたこともあり、予想よりもかなり早くに生成は進んでいる。
しかしだ。
フェルズの骨の面貌に浮かぶ表情は暗い。
それはその視線の先のフラスコに原因があった。
極彩色の輝きを灯すその結晶はフェルズの知る知識と照らし合わせても明らかに異質なものでしかなかったからだ。
そもそもの素材がおかしいのだ。
アルから渡された素材はいずれも必要なものだが一つだけ例外があった。
『まさか、穢れた精霊の端末··········その魔石を素材にしろとはな』
59階層での戦いで【ロキ・ファミリア】によって討たれた精霊の分身、その魔石の欠片。残滓程度のそれをファミリアの誰にも気づかれることなくアルはさも当然のように持って帰っていた。
【神秘】のアビリティがなくとも作れる魔石製品がそうであるようにモンスターの魔石は非常に効率の良いエネルギー源だ。
ダンジョンが下界に齎した数少ない恩恵の一つ、魔石。その加工技術はオラリオの運営を支えてきた。
そして、現在進行形でフラスコの中で脈動しているこの結晶もそんな魔石製品の技術の髄を流用して作られている。
だが、『賢者の石』を生成する上では魔石の断片は不要だ。余計とも言える。
なにより穢れた精霊を由来としたものなぞ生成物にどんな悪影響が出るかわかったものではない。
フェルズは眉を顰めながらも魔石との拒絶反応を軽減する為に処理を施していく。魔術による錬成物自体、単純な足し算によるものではない。
アルは簡単に魔石も使えと言っていたがフェルズの800年に及ぶ知識と経験、頭抜けた技量がなくては魔石という不純物の混じったこれを『賢者の石』に近づけること自体不可能だっただろう。
そんなものを素材に指定するアルの意図を測りかねるとフェルズは骨の顎から溜息を吐き出しながら作業を続ける。
『·············親和性を高めるためと言っていたが、なにに使うつもりだ?』
間違ってもあの英雄が悪用なぞするはずもないが···、と疑問を浮かべながらもフラスコの中の『賢者の石』の輝きは変わらなかった。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
オラリオのメインストリート。雑多な露店が人の往来を呼び、人の数だけ喧騒がある。
ダイダロス通りでモンスターが出現した事件の終息から数日。表向きは平和を取り戻したオラリオだがダイダロス通りに住まう者達には未だ不安の火種がくすぶっている。
メインストリートにいつもより人が多いのも【ロキ・ファミリア】と『異端児』の戦いによってダイダロス通りにある住居を破壊されたスラムの住人がギルドの支援のもと避難するかのように表通りで過ごしているからに他ならない。
不安を誤魔化すように喧騒が徐々に大きくなり、オラリオのメインストリートはいつも以上の活気を見せていた。
不安はあれど恐怖や怯えが蔓延しているわけではない。
安らかな日常が少しずつ戻ってきていることへの喜びがメインストリートに活気を与えていた。
だが、それでも『怪物』を庇った『英雄』の─────アル・クラネルへの不信感は消えていない。
アルへの民衆たちの視線はかつてとは違うものへとなっており──────
「······················」
そんな空気の中、暗い顔の妖精。『白巫女』の二つ名を持つ魔法剣士のエルフ、フィルヴィス・シャリア。【ロキ・ファミリア】と対闇派閥の同盟を組んでいる【ディオニュソス・ファミリア】の団長である。
硝子細工のような繊細さと儚さを感じさせる美貌はしかし、今は暗く陰り、紅玉を思わせる紅い瞳はどこか濁って見えた。
アルとフィルヴィスがいるのは街並みを一望できる小高い高台。人気のないそこは他人に聞かれたくない話をするのにうってつけの場所。
「私以外の団員·············【ディオニュソス・ファミリア】の作戦参加が本格的に決まったそうだ」
「ああ、そうらしいな」
クノッソスの攻略というよりはその事前段階としてのマッピングを目的とした第一次侵攻は人手を必要とする。
第一墓地での主神同士の協議でロキがディオニュソスへの疑いを一旦飲み込んだ以上、団員達のレベルは低いものの数で言えばかなりの【ディオニュソス・ファミリア】が参加するのは当然だった。
その言葉を皮切りにぽつりぽつりとフィルヴィスが話してアルが相槌を打つ。取り留めのない会話は続かず、すぐに二人の間に静寂が満ちた。
「····················なんで、なんでお前は平気なんだ?」
「何が?」
「────ッ」
ぽつり、と静寂に波紋を落とすようにフィルヴィスがアルに問う。眼下の人波を見下す赤緋の瞳には平和な人の営みに嫉妬や羨望、あるいは負い目のような暗い感情が見え隠れしていた。
自身の問いに首を傾げるかのように気の抜けた反応をするアルにぎりっ、と歯嚙みする。アルが不思議そうに視線を向ければ、フィルヴィスは堰を切ったかのように怒りにも似た激情を露にした。
「民衆達、そして冒険者達の視線のことだッ!!お前のは私に向けられたものよりも遥かに厳しいはずだろうッ?!」
竜の少女─────『怪物』を公衆の面前で庇ったアルの、これまでの溢れんばかりだった名声は手の平を返したように失望と敵意へとすり替わった。
無論、一部のファミリアのものやアマゾネス、一部のエルフなどは以前とそう変わらないがやはり大多数の民衆や冒険者の視線は厳しい。
流石にアルに対して直接食ってかかれる度胸を持ったものはいないが、都市全体から敵意を向けられる今のアルの境遇は針のむしろなんて生易しいものではない。
人類は何度もモンスターに滅ぼされかけた。男も、女も、老人も、幼子も区別なくその爪牙で以ってモンスターは蹂躙してきた。
人類は何千年もの間、数えきれないほどの犠牲を払ってきた。
何十世紀に及ぶ憎しみと因縁の歴史が覆ることはない。
そのモンスターを庇い、都市を混乱に陥れた存在に対して、人はどう反応するか。
名声は罵声に、勇名は汚名に、そして信頼は地に堕ちた。都市全体からの悪感情の丈は計り知れない。
フィルヴィスもかつては仲間が自分以外全て死に、それからも周りに死を生み出し続けたとして『死妖精』という悪質極まるあだ名をつけられ、同業の冒険者達から隔意の視線を向けられていた。
そんなフィルヴィスを恐れずにパーティーを組んだ無二の冒険者こそがアルなのだが、向けられる冷たい視線の数は比にもならないだろう。
あくまでも仲間を失った側であるフィルヴィスは同じ程の同情の視線も────それはそれで辛いものだったが────向けられていたし、多少なりとも名が売れていたとはいえ、オラリオにはいくらでもいる上級冒険者の一人でしなかったフィルヴィスとオラリオ最強の冒険者であるアルへの注目度は桁が違う。
むしろ、これまでさんざん持て囃してきた者たちがそのまま敵に回ったのも考えればフィルヴィスが置かれていた隔意と同情の視線よりもアルへの失望と敵意の視線はより重い。並のものでは心を折ってしまうであろう。
それなのに──────。
「なんでお前は·····················」
「別に、上辺だけの好意も敵意も俺にとっては気にするに値しないってだけだ」
それなのに、なんで、お前は──────。
「それに、お前は違うだろ? フィルヴィス。なら、俺はそれでいい」
私に、そんな顔を向けないでくれ。私は─────。
「(···········違う、違うんだ、クラネル。私は、私が、お前を───)」
スーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!(深呼吸)
染み渡るぜ················。
俺、お前がいなきゃ割と早い段階で世に絶望しきって最後にベルやらアイズやらに討たれる感じの魔王にでもなってたかもしれん。
あー、うん、お前だろ? ウィーネ拐ったの。
あのあと、ラーニェ達に聞いたわ、第一級冒険者以上の強さの仮面をつけた『混ざりもの』なんざ、お前だけだしな。【直感】に引っかからなかったのは気になるが、まぁええわ。
ウンウン、お前のせいで俺は民衆から白い目向けられるわけだ、どうせ、都市と俺を分断したいっていうエニュオの命令だろ?
いやー、いい仕事しますね、エニュオさん。
マジリスペクトですわ。
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前話の敗北者「オデ、オマエ、キライ」
敗北者「流石っすわ!!」テノヒラクルー
打ちのめした英雄の順番はアルフィア→ベル→違う奴
冒頭のはアルの【英雄覇道】発現理由の片割れです、もう片方は言うまでもなくベル。
・【英雄覇道】
原作におけるベルの【英雄願望】を由来としたチャージスキルでベルのとは正反対の黒い光が収束する。ベルと違って【レァ・ポイニクス】は付与魔法なためミスリルを含まない武器でも二重畜力の斬撃を使える、【サンダーボルト】でも四年間の経験とスキルの仕様の違いで力ずくでできないこともない。
ベルの【英雄願望】ほどの図抜けた爆発力がない代わりに色々と融通が利く。大鐘楼に相当するものとして黒鐘楼という形態があるがこのスキルをフルに使う相手と戦う際はだいたい単騎なので黒鐘楼までいかない。
スキルの引鉄になる憧憬の英雄は固定されている。
文字を書くことはできるけど読むことができない感じ。
体調がこれ以上悪化しなければ明日も更新します。