皆の傷になって死にたい転生者がベルの兄で才禍の怪物なのは間違っている 作:マタタビネガー
最近ダンまちの二次創作増えて嬉しい
町娘が炊き出しをしていた広場でアルと合流した輝夜とライラは未だ行方のしれないリューを探すためにオラリオ北西区画の路地をあてもなく歩いていた。
「てかよぉ、お前マジで歩いて大丈夫なのかよ」
「アミッドの魔法でガワは治されたから問題ねぇよ」
Lv.7の『覇者』をたった一人で食い止めた代償としてほんの少し前まで生死の境を彷徨っていたはずのアル、『戦場の聖女』による治療を受けたどいえどもボロボロの体に変わりはない。
袖や襟元から覗く巻かれた包帯や服には今も血が滲み、誰がどう見てもボロボロだ。
常人なら歩くどころか起き上がることすら困難なはずにも関わらずしっかりとした足取りで歩いている。
並外れた精神力と第一級冒険者の肉体で以って苦痛を一分も表に出していないが、アルがどういう男か知っているライラには逆にそれが痛々しく見えてしょうがない。
アルの魔法のことを考えれば戦いからあれだけの時間が経っていてなお傷が残っている時点で万全には程遠い状態なのは間違いない。
「うわぁ··········前々からネジが外れていると思っていましたが本当に頭の緩い子供ですこと」
紛いなりにも第一級冒険者なのだから死に体でもデクよりはマシな働きはできるだろうが普通に考えて数刻前まで瀕死だったのだから少しぐらい休んでいればいいのに。
そう輝夜は溜息をつく。末妹のエルフも大概に手間がかかるがここまでではない。
「てか、リューはどこ行ってんだ?」
「知るかよ、大方───」
ぞわり、と。ライラと輝夜の全身を悪寒が襲った。自然と足が止まり、まるで金縛りにあったかのように硬直する。
反射的に振り返った先にあったのは路地を挟む建物の隙間から覗く闇、その闇の中で何かが蠢いている。
それはゆっくりと、だが確実にこちらへ近づいている。闇から目が離せない。まるで闇が生きているかのように錯覚する。
やがて闇から現れたのは───極めて整った容姿をした漆黒の男神。
着崩した黒衣を身に纏い、闇色の髪は陽光に照らされて蒼く煌めいている。
まるで闇そのものを人の形に固めたような黒一色の美男神。だが、それ故にその異様なまでの存在感が際立つ。
「漸くリオンを見つけたと思ったが、別の眷属を引き当ててしまったか。··········まあいい」
神エレボス。地下世界の神であり、この大抗争を始めた黒幕。一夜にして数万の民の命と九柱の神を天に還した最低最悪の邪神。
眷属であるヒューマンの男、ヴィトーを側に伴っているその神はまるで猛禽のように鋭く、冷徹な瞳で正義の眷属を射貫く。
「俺は今、君達の末妹───リオンを探している。知っていたら教えてはくれないか。正義の眷属」
嗤うように、エレボスはそう問うた。
「·········リオンの居場所なんぞ知らねえよ。アタシ達が聞きてえくれえだが───戦いをおっぱじめる前からやたらとリオンに付きまとってるが何が狙いだ?」
邪神の威に一歩も引かず、何時でも動けるように意識を集中させながらライラはエレボスを真っ直ぐに睨み付けて問い返す。
「神々が言うところの気持ち悪い『すとーかー』というやつでございますか? 嗚呼、全くもっていいご趣味で反吐が出てしまいそう」
涼しげな美貌に青筋を立たせながら淑女の皮を被り直し、輝夜もまた敵意を隠そうともせず皮肉げに侮蔑を吐く。
表向きは凛としたお淑やかな雰囲気を纏い、その美貌と気品から多くの男神や民衆の人気を集めている輝夜だが、それはあくまでも外面だけ。
その内面はファミリアでも一、二を争うほどに血の気が多く、時にリオンやアルすらドン引きさせる程に苛烈だ。
だが、そんな輝夜にもエレボスは気にする様子もなく嗤って返す。
「猫のごとくじゃれるなよ、小娘。男などもれなく獣で、獣欲に塗れて倒錯に酔っている。生娘でいる間に精々覚えておけ」
「──────っ、こいつ····················!」
乙女の純情を穢すような発言に輝夜の額に更に太い青筋が更に浮き上がり、羞恥と怒りで顔を真っ赤に染める。
「そして、小人族。なぜリオンを付け狙うかと聞いたな。────だってあれがお前達の中で最も純粋で無垢な『正義』の卵だろう?」
「なっ········!!」
次の標的をライラへと変え、純粋を穢すことに悦楽を見出す男の欲望を見せるかのように嗤う。
「『絶対の悪』を提示されたあの娘がいかなる答えを出すのか。後学のためにも俺はそれを知りたい」
この都市と地上に地獄をもたらすまでの余興のようなものだと神は謳う。
神とはこうまで傲慢で自分勝手なのかと、幼い正義感を嘲笑い無秩序と混乱を巻き起こす災厄の神に怒りが沸くのを抑えきれない。
「ただまあ、そうだな。お前たちが俺の問いに答えて満足させてくれるならリオンをおもちゃにするのはよそう」
「················満足?」
笑みを鎮め、そう提案したエレボスにライラは怪訝そうな顔を浮かべる。
「─────お前たちの『正義』とはなんだ?」
先ほどまでの軽薄な笑みではなく、全てを見通しているような深い瞳。どこか神託じみた問いがその場にいる全員へと投げかけられた。
「············知れたこと。大義名分たるための武器であり、言動の暴力を正当化するための色のない旗。そして最善を目指して摩耗していく過程そのものだ」
僅かな沈黙の後、輝夜はそう答える。吐き捨てるように達観や諦観、あるいは自己嫌悪を孕んだような声色。
正義に殉ずる星の派閥にありながらどこまでも冷徹でそしてどこか悲哀を感じさせる輝夜の答えに対してエレボスが告げたのはたったの一言。
「失格」
「なっ!?」
輝夜がその答えに込めた過去も達観もつまらないとばかりにエレボスは切り捨てる。
「何を冷めたふりをしている?それは自分を偽るための鎧か?気取った真似をするお前が一番つまらない。お前の正義とは『未練』。現実にひどく裏切られた子供がそれでも手放さないでいる幻想だ」
輝夜の内心を見透かす神の視座はどこまでも深く冷たい。輝夜の正義とは冷徹な仮面で幼い正義感と現実との折り合いを無理矢理に付けた己を偽るための鎧だと断じる。
「そして答えを出さない、小人族。お前は会話を引き伸ばし俺からわずかでも情報を引き出そうと考えているな?」
「お前の正義は『毒』───と見せかけた『知恵』。あるいは劣等感を隠すための隠れ蓑か?」
嘲笑うように託宣を告げるエレボスにライラはギリッと歯を食い縛り、怒りを必死に堪えながら真っ直ぐに見据えて吐き捨てる。
「何でもかんでもお見通しってか、これだから神は嫌なんだ!!」
「はは、両者ともに実に不完全で下界らしい、お前たちはまさに迷える子羊だな」
そう嗤いながらエレボスは輝夜とライラを交互に値踏みするように見やる。
「────さて」
「では、最後に自分には関係ないとばかりにぼーっとしているそこの糞餓鬼」
エレボスの視線がここまで一度も口を開かずに明後日の方向を見ながらぼんやりとしているアルに向けられる。
主神の護衛として黙して側めているヴィトーと違い、紛いなりにも年頃の乙女である仲間二人が邪神の口先に心を乱されて侮辱にも近い言葉を投げられているのにアルは欠片も興味を示さずただ空を見上げていた。
「以前に聞いた時は適当にごまかされたが再度問おう」
「お前の『正義』とはなんだ」
はぐらかすことは許さないとエレボスはアルに問い質す。鋭利な神の視線を向けられてなおアルは興味も関心も抱くことなくつまらなそうに返答する。
「···········『自分を疑わないこと』」
「ほう」
「正しさを問うなら寧ろ自分を常に疑うべきなんだろうがそれでブレるくらいなら我が心と行動に一点の曇りなし、とでも突き通した方が色々とわかりやすいだろ?」
『正義』なんてものはどうでもよく、ただ自分の在り方を明確にするための道具であり指標の一つでしかない。
それはどこまでも自分本位な考えであり、正義を謳うにはあまりにも歪で不純なもの。だが、同時にどこまでも純粋なものでもあった。
己の信じる正しさに一点の曇りも迷いもなくただ己が道を突き進むという覚悟と信念。
「は、先ほどそこの生娘が騙った『正義』と同じか。まぁ、いいだろう」
輝夜やライラの『正義』が自分の影を隠すための鎧や隠れ蓑であるのならばアルのは己の存在を貫徹するための槍。
「それなりに楽しめたが俺を満足させるには至らなかったな。やはり予定通りリオンに問うとしよう」
好き勝手に胸の内を暴いておいて満足したと言わんばかりにエレボスは背を向けようとするが抜き放たれた刃とブーメランがその歩みを阻む。
乙女二人の得物がエレボスに向けられ、その敵意を隠そうともしない。
「おいおい、いくらクソまずそうとはいえ敵の頭っていうごちそうが目の前にあんだ、逃すわけねぇだろ」
「神を天に送る禁忌を犯せずとも捕縛する程度ならば神ならざる我々でもできる」
ヴィトーを牽制するようにそれぞれ構えて邪神の出方を伺う。だが、エレボスはそんな二人の敵意をまるで意に介さず、むしろ小馬鹿にしたように鼻で嗤う。
「勇ましいな小娘二人、主神譲りか? 我が眷属と戦わせてもいいが────どうだ?」
「期待に添えず申し訳ありません、我が主。お嬢様方二人だけならまだしも彼も含めた三人となると私では力不足かと」
慇懃な仕草でエレボスの問いに謝罪するヴィトーだが、その実それは謙遜でもなければ余裕の表れでもない。
事実としてアルを含めた三人を同時に相手取るとなるとヴィトー一人では勝算が薄い。
Lv.4であるヴィトーならばLv.3の輝夜とLv.2のライラの二人を相手にするまでなら如何ようにも立ち回れるが、アルはオラリオ最高戦力の第一級冒険者。
Lv.7との戦いを経て深手を負っているとはいえ英雄は英雄。最低まで低く見積もったとしてもLv.4並の働きはできるだろう。
同派閥の連携も考えれば主神のお守りをしなければならないヴィトーに勝ちの目は一分もない。
「そうか、なら仕方ない─────全てを薙ぎ払う『覇者』に頼るとしよう」
「···············やれやれ、どこへ行こうともこの都市は常に騒がしい」
瞬時、張り詰める緊張感の中、エレボスの言葉に応えるように路地裏に一人の影が現れる。
灰色の頭髪に固く結ばれた双眸、喪服を思わせる黒いドレスに身を包んだ、一見すれば華奢ですらあるその美女。
凪いだ湖面のようでありながら、同時に嵐のように荒れ狂っているかのような矛盾を感じさせる悪魔的な魔力の波動。
その身に纏う雰囲気はどこまでも冷たく、まるで死そのものを体現しているかのような魔女。
それはただ現れただけで【アストレア・ファミリア】に敗北を悟らせ、派閥最強のアルを真正面から打ち破った魔女の姿に、アルですら本能的な畏怖に身体を硬直させる。
「来たか、我が盟友。束の間の休息は終わったか」
「よく言う。教会のそばで騒ぎ起こしておきながら。私がいると知ってまどろみを妨げただろうに」
アルフィアは侮蔑を孕んだ視線でエレボスを見やり、面倒臭そうに溜息を吐く。
「故意に騒いだことは認めるがこの場所ばかりはただの偶然だ、だが、せっかくだ。起きたついでに一仕事頼めるか?」
アルフィアの閉じられた双眸の先にいるのは他でもないアル。アルフィアの身から放たれる濃密で底冷えする魔力に冷や汗を流し、顔を引きつらせながら得物である槍を握る手に力が籠る。
いかにアルといえど半日前に技も駆け引きも何もかも正面から捻じ伏せられて殺されかけた相手と相対して平静を保っていられるはずがない。
それでも手負いの獅子を思わせるような気炎を発し、静かにアルフィアを見据える。
強がりでも虚勢でもなく戦意を失うことはない様子に閉じた双眸のまま、静かにアルフィアは呟く。
「死んでいなかったか、糞餓鬼」
「よく言う。殺せるのに殺さなかった、だろ」
「死に体でよく吠える。そのざまで私に勝てるつもりか?」
両者から沸き立つ無形の魔力の渦がぶつかり合い、一触即発の空気が漂う。
輝夜やヴィトー達はおろかエレボスすら蚊帳の外とする二人の才禍。
都市最強魔導士すら上回る膨大な魔力の丈は路地裏全体を覆い尽くし、石畳を捲り上げ、無数の砂粒が浮き上がっていく。
「まさか、今の俺じゃアンタに届かないのはわかっている─────アンタには、な」
黒い収束光。軽い鐘の音のような響き。寸時のチャージ、アルフィアに刃を届かせるには到底及ばない黒光が瞬く間に解放される。
空に銀閃を描く槍の穂先、神速の踏み込みと共に放たれたそれはアルフィアではなく宙を断つ。
斬撃に依らぬ『残光』の一閃。距離を殺し、空を奔ってエレボスのすぐ横を掠める。
「この距離なら俺も死ぬかもしれんが道連れにそこの神は持っていける」
神殺しにわずかな躊躇すらないとばかりにアルは言い放つ。深手の身で圧倒的格上に不平等な天秤を突きつける。
「おぉ、怖いな。流石は
「··················
自らの首を狙われているというのにエレボスは心底愉快そうに笑うが余計なことを言うなと初めてアルフィアが機微を見せる。
氷を思わせる冷たい表情と声、だがそこには確かにアルフィアが見せた人間らしい感情の発露。
アルがそうであるように神殺しすら躊躇わぬアルフィアの冷徹な殺意にエレボスは肩を竦める。
「っと、途上の大器より余程恐ろしい魔女がいたか」
「やれやれ仕方ない、ここで天に還るのは本意ではない。今はその稚拙な脅しに従おう」
「嗚呼、そうだ。餞別というわけでもないがお前に対しても俺の私見を語ろう」
「お前の正義は自己犠牲ならぬ自己満足、自らの死すら愉楽のために掃き捨てる究極の破滅願望」
「だが、お前の悲願が叶うことはありえない」
「原初の幽冥にして地下世界の神、『英雄』に斃されるべき『絶対悪』たるこの俺が宣告しよう」
「────強き者よ、汝の末路は『英雄』なり」
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共倒れどころか輝夜達を逃がすことすらできない状態で伯母さんが出てきた時は詰んだかと思ったけどなんとかなりそうだな。
正直、正義とかクソどうでもいいから早くリューのいい空気を吸いに行────
『────強き者よ、汝の末路は『英雄』なり』
··········あーこれは見抜かれてますね。
脅しじゃなくてオッタルぶっ飛ばす用の奥義の【剣域】を至近距離で炸裂させて天に還した方が良かったかもしれなかったな。
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アルへの理解度はエレボス以外にはアフロさんとかが割と高い。
アルフィア「生意気抜かすな、糞餓鬼」
糞餓鬼「事前準備なしに相手するには伯母さんはちょっと化け物すぎて無理です」
【剣域】
【絶✝影】にとっての絶華みたいな技。心の中で技名呟く系のクソしょっぱい奥義とは名ばかりのハメ技。オッタルの絶対防御を破るために身につけた奥義でまだ試してはいない。本編でも同じ技を使えて実際にオッタルに使ったが後の先で嵌める前に一撃で沈められた。
本編アルはあと五個奥義を持ってるよ、すごいね!
どれもステイタスより技量に比重置いた技だから【闘争本能】の自動迎撃中は使えないし、使ったとしてもしょっぱいけど。