皆の傷になって死にたい転生者がベルの兄で才禍の怪物なのは間違っている   作:マタタビネガー

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溜め回
かなり短いです。


第十一章
167話 その時、かつてない衝撃が後方兄貴面を襲った!!


 

 

 

 

【ディアンケヒト・ファミリア】。

 

都市最高のヒーラーの片割れを擁する言わずとしれたオラリオ一の医療系ファミリアである。

 

そんな医療院としての性質も持つファミリアホームの一室には二人のヒーラーの少女がいた。

 

かたや白銀の長髪を後ろで結わえた

淑やかそうでありながらも強い意志を秘めた髪と同じ銀の瞳を持つ少女。

 

そしてもう一方は、眼鏡をかけた艷やかな黒髪をおさげに結わえた柔和そうな少女。

 

アミッドと【ロキ・ファミリア】二軍メンバーの一員であるリーネは治療室の中で()()をしていた。

 

「【集まれ、星の息吹、月の恵み】」

 

 目を閉じるリーネの周囲に集う魔力光は月を思わせる蒼。光の粒はリーネの両手の間に集まり、凝縮される。

 

「【平穏を貴方に、安らぎをここに。私は貴方を───癒したい】」

 

 決して派手ではない、支える者の魔法。Lv.2の魔力から紡がれるのは癒しの願い。

 

傷を遠ざけ、死を遠のける月光の雫。リーネは、その魔法を維持しながら、ゆっくりと瞼を開く。

 

彼女が治癒するのは、しようとしているのは不治の傷。

 

痛み分けで終わったクノッソスでの戦いと元【イシュタル・ファミリア】のアマゾネスを狙った襲撃で闇派閥の手の者が持っていた呪道具の短剣。

 

回収したそれでわざと傷つけたアミッドの腕に向けて回復魔法をかける。

 

アミッドの腕に刻まれた傷は通常の傷とは違い、只の解呪や治療では意味がない不治の傷。

 

解呪のアイテムはおろかリヴェリアの魔法ですら癒せないそれを癒せたのはアルとアミッドのみ。

 

だが、蒼い月光が触れたところから逆巻くように傷が癒えていく。全ての傷を癒し終えたリーネが静かに立ち上がり、アミッドと視線を交わす。

 

「大丈夫ですか、リーネさん。一旦、休憩にしましょう」

 

 精神疲弊手前。この一時間あまりで繰り返し何度も魔法を行使して精神力を限界ギリギリまで消耗してふらつているリーネにアミッドが声をかける。

 

「は、はい··········すみません············」

 

 魔法を行使した疲労と精神力の消耗から来る疲労感で浅い息を吐きながら癒した腕に残る赤黒い傷跡を見て、俯く。

 

アルの言葉をきっかけに始まったこの訓練。【ロキ・ファミリア】の一員としてヒーラーとしての基本は当然押さえているリーネだがこの訓練はこれまで求められていた傷の治療だけでなく不治の解呪を可能とするためのもの。

 

都市最強の万能付与魔法と都市最高のヒーラーの魔法でしか癒せない不治の呪詛だが、一度その呪いに身を侵されたリーネは翻ってその呪いに『抗体』を持つに至った。

 

それを見出したアルとアミッドの下、この訓練を続けているのだ。

 

最初はおぼつかなかった解呪も今では幾分マシになってきた。が、その表情は僅かに暗い。

 

「(アミッドさん、やっぱりすごい···········。少し前まで私と同じLv.2だったはずなのに魔力もヒーラーとしての能力も私とは比べ物にならない)」

 

 精神力が底をついて癒しきれなかった傷を何気なく癒すアミッドの姿にリーネはそう思わずにはいられない。

 

Lv.6の都市最強魔導士であるリヴェリアですら治癒の腕では及ばない都市最高のヒーラーであるアミッドの技量は言うまでもなく高い。

 

だが、それでもその元のレベルはLv.2。この間の戦いでランクアップを果たしたがそれでも第一級冒険者には遠く及ばないLv.3。

 

オラリオ全体で見れば無論上位に位置するレベルなのは間違いないが【ロキ・ファミリア】においては決して突出していない。

 

しかし、こうして精神力を使い果たして倒れ込みそうになる自分と呼吸一つ乱していないアミッドの間にははっきりとした差があると思わずにはいられない。

 

一つの魔法の効力の丈、魔力の総量、魔力消費の効率、そして何より魔法を扱う技量と経験の差。

 

ファミリアの幹部陣に対しても感じている英雄と凡夫の差とも言うべきものをアミッドに対してもリーネは感じずにはいられない。

 

「謝る必要も卑下することも不要です、リーネさん。貴方は元々、ヒーラーとして十分な力を備えています。··········それに次の戦いに参加するのであれば無理は禁物ですよ」

 

 諭すようなアミッドの言葉にリーネは僅かに目を伏せる。

 

解呪薬や精霊の護符、各種装備の準備も終わり、他派閥との調整も済んだ。クノッソスへの侵攻はもう間近に迫っている。

 

「はい··········でもここまで差があるなんて··········」

 

「···········私は七年前の大抗争にも後方支援のヒーラーとして参加していました、あの死の七日間で取り零した命は多かった。あえて差をあげるとするならば潜り抜けてきた死線の数の違いでしょう」

 

 リーネの瞳に宿る不安の色を見て取ったアミッドはそう言う。

 

「あなたも経験を積めば素晴らしいヒーラーになれるはずです」

 

「··········経験を積んでもアミッドさんと並べられる自分を想像するのは難しそうです」

 

 僅かに苦笑をこぼすリーネにアミッドもつられて小さく笑う。

 

「私も卑下することはよしましょう。··········これからの戦いは私も治癒だけに専念するわけにはいきません。闇派閥の呪術師が生み出した不治の呪いとの決着は私がつけます」

 

 笑みを消し、静謐な決意を秘めた瞳でそう言うアミッドにリーネもまた顔を引き締める。

 

「私も、誰も死なせたくない。誰にも··········傷を負ってほしくない」

 

 リーネの脳裏にはクノッソスでの戦いが蘇る。アルとアミッドの解呪がなければ自分は死んでいただろう。自分だけではない。フィンも他の団員も傷つき倒れた。

 

あれを繰り返さないために、悲劇を起こさないために決意を新たにする。

 

「リーネさん、あなたならできます。アルがそうであるように一度呪詛で傷を負ったリーネさんの身体は呪詛に抗う『抗体』を宿しています。いわばリーネさん自身が不治の呪いの特効薬です。きっと貴方のその想いは呪詛に打ち勝って多くの人を救うでしょう」

 

「はいっ、訓練の続きお願いします!!」

 

「ええ、勿論。あなたがもう一人の『聖女』となることを期待しています」

 

 誓いを同じくする二人の少女は再び訓練へと身を投じるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「·············どうぞ」

 

「やっほ、アミッド」

 

 静謐な雰囲気をぶち壊すが如く、無遠慮に治療室の扉をノックして入ってきた白髪の青年にアミッドは僅かに眉を顰めた。

 

なんだリーネもいたのか、と軽く手を挙手して挨拶するアルだが一人で来る時は大抵面倒ごとか厄介ごとを持ってくるのでアミッドとしてはあまり歓迎したくはない。

 

余暇に外遊に誘いに来るとかならいくらでも歓迎するのだが、アルがそういうタイプでないことは嫌というほどに知っている。

 

「魔道具作るのに使ってちょっと足らなくなったからもうちょい髪の毛くれない?」

 

「···············貴方はああはならないでくださいね」

 

 情緒もなにもへったくれもない言葉を放るアルにアミッドは深く溜息をついてリーネに視線を向けた。

 

「あ、はい」

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

『異端児』と【ロキ・ファミリア】が協力して上級冒険者 行方不明事件を解決してから二日。

 

遠征を直前に控えたベルはシルの頼みから豊穣の女主人の手伝いを引き続き行っていた。

 

「ふふ、今の私達、端からみたら家族みたいですね」

 

「なっ、何言ってるんですかシルさんっ!? 」

 

 買い出しに付き合うベルはシルのからかうような言葉に顔を赤くする。シルはクスクスと笑いながらベルとの間にいる子供の手をぎゅっと握る。

 

その子供、シルと同じ髪色をした幼子の名前はノエル。

 

ベルよりも半回りは幼いノエルは無論、二人の子供などではなく先日シルが路地裏で保護した孤児だ。

 

親の気配はなく、孤児院に預けようにもシルに懐きすぎていて離れようとしないことから暫くの期間豊穣の女主人で養護することになったのだ。

 

今もシルと繋いでる手とは逆の手をベルと繋ぎ、嬉しそうに無邪気に笑っているその姿は確かに見ようによっては二人の子供に見えなくもない。

 

「たのしいねぇ、おかあさん、おとうさん」

 

 くりくりとした薄鈍色の目がベルとシルを見上げる。雛鳥の刷り込みのようにシルとベルを本当の親のように慕って懐いている。

 

何事にも新鮮な反応をし、周りの情景全てに一喜一憂する。そんな姿に二人も自然と笑顔になる。

 

「·················うん、そうだね、ノエル」

 

 バイト中のヘスティアやホームでグロッキー状態のリリルカが見たら憤死するような穏やかな時間。

 

その光景を遠くから眺める者がいた。

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

クノッソスへ行く準備はあらかた済んだし、あとは中層から攻める『異端児』達に『炉』を配るくらいか。

 

行くまで割と暇だし、豊穣の女主人にでも────

 

「あれは、ベルとカスの方と···········」

 

 買い物通りの真ん中、人混みの中に嫌でも目に入る白髪と近くにこびりついている薄鈍色の髪が目に入る。

 

ベルとハズレの方のシル・フローヴァ。随分とまぁイチャイチャとしてて目に毒だけど二人の間にいる子供、ありゃ誰だ?

 

ぼんやり見覚えがあるから原作の人物なんだろうがぴんとこないな。

 

孤児院の子供か?

 

いや、そもそもあれ、ヒューマンじゃなくて精───

 

 

『たのしいねぇ、おかあさん、おとうさん』

 

「は?」

 

『·················うん、そうだね、ノエル』

 

「ふぁ!?」

 

 あ、ありのまま今起こった事を話すぜ。俺より年下でオラリオに来て半年も経ってないはずのベルが子持ちになっていた。

 

な、なにを言っているか分からねーと思うが俺も何が何だか分からねぇ··········頭がどうにかなりそうだ。

 

まさか、あのクソ捻らせ恋愛敗北偏愛美神の毒牙に!?

 

純真純粋唐変木のベルに女神如きが既成事実を作ったってのか!?

 

そ、そんなの僕のデータにないぞ·············。

 

いや、いやいやいや、待て待て待て、子供を作れない女神とまだ数ヶ月しかオラリオにいないベルの間に子供ができるわけはねえからあれは養子か!?

 

くっそ、俺を差し置いて家族ごっこなんざゼウスは許してもあの世のアルフィアが許さねぇぞ。

 

どうやってベルを毒牙で穢したかはしらねぇがただじゃおかねぇ···············。

 

ウダイオスより酷い目に遭わせてやる。

 

お手軽汚物消毒魔法、【サンダーボルト】いっとく?

 

アル・クラネル六大奥義コンボ、【戦界】からの【剣域】と【群轟】と【断世】いっとく?

 

リーヴ・ユグドラシル(■■■■■・■■■)】いっとく?

 

あーだめだ、流石にあの女神はやっちゃ不味い。

 

クソが、ヘスティアはなにをしてやがる。頭茹だった美神諌めるのがお前の仕事だろうが。

 

「仕方ねぇ、こうなったらアレンをあそこに突撃させ────ん?」

 

 隠れてベル達を尾行してる奴らいるな。

 

··············気配から察するに闇派閥の雑兵か?

 

あー、これ、美神をダシにしたベルの成長イベントか。

 

なるほどなるほど、把握。

 

なら、まぁ、邪魔はできないか。

 

····················はぁ。

 

 

 

 

 

 

────────────────────────────────────────────────────────────────────────

 

ベル妹√はこの30倍はモンペ。

 

画面外でベル視点のイベントやってます。

次話か次々話くらいからクノッソス侵攻。

 

【各√ベルに対する反応】

本編「がんばれベル·······おまえがナンバー1だ」

聖女アルちゃん√「頑張れ頑張れできるできる絶対出来る頑張れもっとやれるって!やれる気持ちの問題だ頑張れ頑張れそこだ!そこで諦めんな絶対に頑張れ積極的にポジティブに頑張る頑張る!オッタルやレオンだって頑張ってるんだから!」

アストレア「ああ、うん、原作主人公ね」→「きゃーこっち向いてー!!」

女帝「は?」

静穏「いつか、誰かの英雄になれるといいな(素)」

ベルが妹IF「兄さん呼びも良いけどお兄ちゃんって呼ん──あ、恥ずかしいから嫌だ?そう、そっか················はぁ」

 

 

 

 

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