皆の傷になって死にたい転生者がベルの兄で才禍の怪物なのは間違っている   作:マタタビネガー

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168話 そういうのは俺のあとに頼むわ、マジで

 

 

 

 

 

豊穣の女主人。閉店して今は店員とベル達しかいない店内で慎ましくも賑やかな宴会が行われていた。

 

「あっ·········このケーキ、『ブッシュ・ド・ノエル』って言ってノエルの名前の元なんだよ」

 

「これ、ノエル? わたしとおなじ?」

 

 くりくりとした目で机の上のケーキを眺めるノエルにシルは笑顔で声をかける。

 

「そうだね、ノエル。ほら、食べよう、他にもたくさんあるから」

 

「うんっ、たべる!」

 

 ベルの言葉にニコニコとフォークで木を模したケーキを口に運ぶ。ふんわりとした食感と濃厚なチョコの味わいが口の中に広がり、ノエルは幸せそうに笑う。

 

「おいしい!!おかあさんもたべよ? おとうさんも! かぞくでたべよ!」

 

「···············うん、そうだね」

 

 ノエルの頭を愛おしげに、そしてどこかさみしげに撫でながら、シルは柔らかな笑顔を浮かべる。

 

「三人だけなんて許されないニャー! ミャー達も食べるニャー!」

 

「そうそう、みんなと一緒に───って、おいこらバカネコぉ!? 一人だけどんだけ取ってんだー!」

 

「フガッ!? フガフガフガ!! フゴゴゴッ!?」

 

 わちゃわちゃと騒がしく、しかしどこか温かな光景がそこにはあった。シルはそんな光景を、どこか遠い目で見つめる。

 

その胸中では、この幸せな光景がいつまでも続けばいいのにという願いと、そうはならないだろうという諦めが渦巻いていた。

 

そして、その願いは叶うことはないだろうと識っている。

 

なぜなら───。

 

「あはっ、あははははははははは!! あははははは············」

 

 ケーキを頬張るアーニャの姿にケラケラと楽しげに笑うノエルだが、その笑い声が次第に小さくなっていきやがて掠れるように消えていく。

 

「(アーニャ───クロエ───ルノア───リュー────おとうさん────おかあさん────みんな、だいすき────わたしのかぞくになってくれてありがとう)」

 

 ────ノエルの正体はヒューマンの子供ではなく人と触れ合うことを望んだ雪の上級精霊。

 

世界を揺蕩い、不確かなものとして存在する代わりに下界において神に近い力を有する精霊がその力を捨ててでも人と共にありたいと願った成れの果て。

 

知識はなく、理知にも乏しい様は本当にただの子供のよう。しかし、それは人と触れ合いたいという願いが叶った証。

 

精霊としての力を振るうことはできなくなったが、それでも人と共に在れるなら。

 

何も知らない無垢な子供としてオラリオを彷徨っていた彼女はシルやベルたちと触れ合うことで少しずつ機微を学び、人らしい感情を得ていった。

 

だが、そんな彼女の身を狙う者達がいた。

 

精霊の分身、ひいては穢れた精霊に上級精霊たるノエルを捧げんとする闇派閥残党の幹部。

 

一度は攫われ、未活性状態の精霊の分身が眠るダンジョン未到達領域にまで連れて行かれたがベルとシル、豊穣の女主人の店員達に助けられ、彼女の存在に目を覚ました精霊の分身もシルの護衛であるアレンによって討たれる形で事なきを得た。

 

しかし、その過程でノエルは使ってはいけない力を使ってしまった。

 

それは精霊の奇跡。

 

魔法ともスキルとも異なる、理を逸した力。

 

人の殻をかぶることで使えなくなったはずの力だったがベル達が闇派閥の兵が振るった不治の呪武器によって受けた傷を治すために無理矢理行使した。

 

『剣聖』か『聖女』でなければ癒やすことのできない呪いを打ち破る奇跡の行使。

 

ノエルが元の上級精霊としてあるのならば何の問題もなかったが既にノエルは『人』となるために力の大部分を使い捨てており、その器も元の精霊のものに比べて酷く不完全。

 

その不完全な器に奇跡の行使は毒のように回り、彼女の存在そのものを欠落させていく。

 

精霊でありながら自ら人に墜ち、人でありながら精霊の力を行使した。

 

全知全能の神が下界においては神の力を使えない全知零能の存在であり、無理矢理に神の力を使えば天界へと還されるのと同じ。

 

人と共にあるための制約を踏み倒した代償はノエルという存在そのものの消滅。

 

死すら生ぬるい、魂の消失。

 

すでにその兆候は現れていて、彼女自身も少しずつ自分が消えていくことに恐怖している。

 

だが、それを自覚していながらも彼女は静かに笑う。

 

「(──────もう、さみしくないよ)」

 

 淡く儚く、何よりも美しい微笑みを浮かべてノエルは大切な人たちと過ごしたこの数日の記憶を愛おしげに想った。

 

「────あっ、見てください。外、雪ですよ、雪!」

 

「本当·········綺麗」

 

「あっそうだ、ノエル。ノエルは本当の雪を見たことないんじゃない?ほらっ、この外に降ってるのが············」

  ───────────────────────────······························································································································································。

 

「············あれ?」

 

 彼女の想いに呼応するかのように空から舞い落ち始める白い雪片。それを目にしてベルだったが、振り向くとそこにいるはずのノエルの姿がなかった。

 

「ノエルは?さっきまでそこにいましたよね?」

 

「ありゃりゃ? かくれんぼかニャ?」

 

「ふふふ、甘いニャ! ミャー達の鼻にかかればすぐに見つかっちゃうのニャ!」

 

「ノエルー! 見つかる前に出ておいでー! 見つかったらこのバカネコに何されるかわかんないよー!」

 

······································································································································································································································································································································································。

 

「·················ノエル?」

 

「匂いが、しないニャ············気配も、なにも············」

 

······································································································································································································································································································································································。

 

「そ、そんなことあるわけないニャ! 早く出てくるニャー! 出てこないとノエルの分までミャーが全部ケーキ食べちゃうニャー!」

 

「··················ちょっと、嘘でしょ!? ノエル!! 出てきなって!!」

      ······································································································································································································································································································································································。

 

口々にノエルの名を呼ぶが返答はない。匂いも、気配も、なにもなく、そこにいたという痕跡すら残っていない。

 

まるで、ノエルという少女そのものが泡沫の夢であったかのように彼女がいた、その痕跡すらも全て消え失せていた。

 

「···············もう、終わり」

 

「シル、さん?」

 

 雨に晒された乙女のように悲しげな表情でシルが、『娘』が呟く。

 

『娘』は、人ならざる天の視座を持つ彼女は最初から全部分かっていた。

 

ノエルの正体も、その末路も全て分かった上でかぞくごっこを演じていた。

 

ノエルの存在そのものが不確かで不安定でいつ消えてもおかしくない、そんな危ういものは考えるまでもなかった。

 

けれど、『娘』は自らを母と呼んで慕うノエルを本当の娘のように思ってしまった。

 

酷薄な『女神』は一度の『お遊び』だったくせに、孤児院に通い詰めてすっかり子供に甘くなってしまったのかと嗤ったが構わなかった。

 

だから、と彼女は涙は流さない。

 

ノエルと過ごした日々が嘘ではなかったことを知っているから。

 

それは、短い時間ではあったがシルにとってはかけがえのない大切な思い出で、ノエルにとってもそうであったはずだ。

 

「みんな、聞いて。ノエルは、もう────「嘘ニャ!!」────アーニャ」

 

 シルの言葉を遮って、アーニャが叫ぶ。その瞳からぽろぽろと大粒の涙をこぼしながら。

 

シルだけではない、アーニャもベルも皆、元々心のどこかで悟っていた。ノエルとの別れが近いことを。

 

それでも、そんなはずがないと感情的な部分が否定し続けていたのだ。ノエルはきっとどこかに隠れていて自分達を驚かせようとしているに違いないと。

 

だが、それももう限界だった。

 

シルの言葉によってついに悟ってしまったアーニャの瞳から落ちる雫がぽたぽたと床を濡らしていく。

 

そして、我慢できなくなったのか感情を爆発させるかのようにアーニャは叫ぶ。

 

「ノエルはっ、ミャー達と一緒にいるって約束したニャ!───『家族』は一緒にいないとダメなのニャ!!」

 

「··············っ」

 

「ノッ、ノエルがっ、ノエルが消えちゃったなんて··········そんな、そんなことって─────!」

 

 悲痛で、残酷な現実を否定するようにアーニャは髪をくしゃくしゃにかき乱しながら啼く。

 

「────あの子はね、還ったんだよ」

 

「ミア母さん············」

 

「か、帰るって!? どこにニャ!? ノエルはここが『おうち』って───」

 

 ミアの静かな言葉にアーニャが噛み付くように反論する。だが、ミアはアーニャを宥めるでもなく淡々と事実だけを告げる。

 

「精霊ってのは気づいたら消えちまってるなんてこともよくあることなのさ」

 

「でもね、だからこそこっちの常識じゃ測れない。これは今生の別れと決まったわけじゃない」

 

「···············そう、なのニャ?」

 

「ああ、この店がいつまでも楽しく うまい店の匂いと笑い声が絶えなければまたいつかここを見つけてその扉を開けてやってくるさ」

 

 そう、だから───とミアは続ける。その店がいつまでも変わらずにそこに在り続けることこそがノエルへの手向けだと。

 

そして、ルノアもクロエもリューもその言葉に納得し、頷く。

 

「うん、なんだかそんな気がする」

 

「ええ、また笑いながらそのドアを開ける姿が想像できます」

 

 それはただの気休めかもしれない。だがそれでも構わない。いつかきっとノエルが帰ってくることを信じて待つことができるから。

 

「あんたもいつまでもベソベソしてんじゃないよ、バカ娘。あんたが泣いてちゃ、ノエルも来づらいってのがわからないのかい?」

 

「ミア母ちゃん·············」

 

「·············わかった、ミャー、笑うニャ、ノエルが戻ってこれるように」

 

 ぐしぐしと乱暴に涙を拭って、アーニャが笑う。まだ目尻に涙が浮かんでいたがいつかその涙も乾いて消えることだろう。

 

「ノエル·········ばいばい。いや·········ちがうね」

 

「はい、違います、ベルさん」

 

「「またね、ノエル─────」」

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

人造迷宮クノッソス。

 

その魔窟について【ロキ・ファミリア】が知っていることはあまり多くない。

 

だが、その脅威は悪意に晒された団員達の全員の骨身にしみている。

 

なんとしてでも自分たちを殺そうという意思が感じられる偏執的なまでの悪意に満ちた罠の数々、ダンジョンと遜色ない複雑怪奇な構造に最硬精製金属の扉、そして不治の呪いを振り撒く呪武器を持った兵や低く見積もっても第三級から第二級相当はある極彩色のモンスター。

 

未知を強制してくるダンジョンの悪辣とはまた違った人の悪意によって形作られた魔窟。

 

【ロキ・ファミリア】をして攻略しきることができず、結果的には痛み分けという形で撤退することを余儀なくされた。

 

それが人造迷宮クノッソスである。

 

だが、それを踏破しなくてはオラリオに明日はない。

 

クノッソスを打破し、その奥に待つ邪神の奸計を暴き、討つ。

 

悲嘆は要らない、悲劇も要らない。

 

ただ、勝利と明日を。

 

「団長、失礼します───あっ」

 

 ホームの一室で片膝をつき、瞑目して壁に飾られたタペストリーと女神像に誓いを捧げていたフィンの耳にノックの音とそれからティオネの声が聞こえてきた。

 

「だ、団長っ、お祈りの時間中にすみませんでした···········」

 

「構わないよ、ティオネ。それよりどうしたんだい?」

 

 慌てて謝罪しようとするティオネを手で制して、フィンは立ち上がった。

 

「はい、部隊の準備が整いました。もう、出れます」

 

 クノッソスへの第一侵攻直前、フィンは団員達を集めて作戦の概要を改めて説明し、各員が最後の準備の時間を整える間、『フィアナ』の女神像に祈りを捧げていた。

 

「···············今も『フィアナ』に勝利を祈っていたんですか?」

 

「いいや、『決別』を告げていた」

 

「─────えっ」

 

 一族の栄光を志すフィンが一族のかつての光である架空の女神『フィアナ』を崇拝しているのはファミリアの団員ならば誰しもが知っていることだ。

 

だが、そのフィンが女神像に勝利を祈願するのではなく、別れを告げているという言葉にティオネは驚きを漏らす。

 

「もう『フィアナ』を、かつての栄光を目指すことはやめた」

 

「かつての栄光には固執しない、僕は『フィアナ』のようにではなく、『フィアナ』を超えた新たな『光』になりたい」

 

「だから見守っていてほしいと願っていた」

 

 ある意味でフィンらしくない、不敵で凄絶な笑みにティオネは息を吞む。

 

「今の僕は嫌いかい?ティオネ」

 

「いいえ! 惚れ直しました!!」

 

「は、ならいい────勝ちに行くぞ」

 

「はいっ!!」

 

 【ロキ・ファミリア】がクノッソスに侵攻するまであと一刻。

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

ガチャ、ドアが開き、寒々しい冷気が店の中に入り込んでくる。

 

ぱらぱらと風と一緒に白い雪片が店の中に舞い込む。

 

「····································え?」

 

 月明かりに当てられてキラキラ輝く雪片が舞い散る中、店の中に入ってきたのは────。

 

「ノエル?」

 

 ほんの少し前に消え去ったはずの少女。ようやく落ち着いた感情をぶち壊すかのようにとんぼ返りしてきたノエルにシルは呆気にとられる。

 

精霊の奇跡を使って天に還ったはずのノエルが今、目の前にいる。

 

「どうして、いや、どうやって───」

 

「んっとね、ほわほわってどこかにいっちゃいそうだったんだけど」

 

 ノエル自身もよくわからなそうに首を傾げながら自分の両手を見つめる。確かに在る、消えゆく恐怖は残っているがそれでもまだ自分がここに在ると自覚している。

 

力を使って欠落したはずの暖かさも回帰している。

 

「なんかベルににてるしろいひとが『そういうのは俺のあとに頼むわ、マジで』っていってなんだかあたたかい『ひ』をくれたの」

 

 ノエルは消えゆくはずだった。しかし、散りゆくノエルの魂を地上に引き戻すように、暖かい光が彼女を包み込んだのだ。

 

ノエル自身、何が起きたのかよくわからないと首を傾げる。

 

だが、ただ一つだけわかっていることがある。それは──────。

 

だからノエルは満面の笑みを浮かべて言った。

 

「────ただいまっ!!」

 

「っ、ノエル!!」

 

 シルはノエルに駆け寄り、その小さな体をぎゅっと抱きしめる。ぽろぽろと別れの時は決して流さんとしていた涙がシルの瞳からこぼれていく。

 

薄鈍色の瞳から零れ落ちた雫がノエルの頬に落ちて、彼女はくすぐったそうに首を傾ける。

 

「おかあ、さん···?」

 

「··········ううん、違う」

 

 困惑の表情を浮かべるノエルにシルは首を振る。そして、優しい笑みを浮かべて言う。

 

「おかえり、ノエル」

 

 

 

 

 

 

────────────────────────────────────────────────────────────────────────

 

 

白髪「あっっっっぶな!?油断してたわ···········」

 

白髪「早めのレァ・ポイニクス間に合って良かった···········」

 

ヴィトーは画面外で倒されて救われるよ。

 

各√ファミリア

・本編

【ロキ・ファミリア】

・静穏

【イズン・ファミリア】→【フレイヤ・ファミリア】

・女帝

【バルドル・ファミリア】→【フレイヤ・ファミリア】

・聖女アルちゃん

【イズン・ファミリア】→【ディアンケヒト・ファミリア】

・聖女√

【ディオニュソス・ファミリア】→【ディアンケヒト・ファミリア】

・闇のモンペ

【ゼウス・ファミリア】→オラリオ

 

 

 

 






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