皆の傷になって死にたい転生者がベルの兄で才禍の怪物なのは間違っている 作:マタタビネガー
やっぱりちょっと長いよ
『じゃあ、改めてやろうか』
『·····················あぁ!!』
まぁ、今回も別に最後まではやらないけどね?
今、この段階で死んじゃうと俺ありきのフィンの計算がエニュオの策に対応できなくなっちゃうだろうから死ぬのは第二侵攻、というよりエニュオの策が全部暴けてからだな。
59階層のレヴィスちゃんもそうだったけどあの酒カス、露骨なまでに俺のこと警戒して手札を増やしてる節あるし、趨勢が決まってからの方がいい。
なにより表立って眼晶を使えるようになったのにベルもアレンも戦場にいないんじゃあ勿体ないしね。
だから今回は軽く遊んで適当に痛み分けで終わらせるか。
どっちにしろ今回ばかりはエインばかりに気を配ってはいられないしな。
精々、楽しませて──────ん?
えっ、なになんなん、まだ精神攻撃も何もしないのに急に苦しみだしてどうしたよ。
どうしちゃったの、何か悪いものでも食べた?
『私から、これ以上、奪────』
なんか魔力の質が急に変わったけどなんだよこれ。
量自体は増えたし強くなるなら別に何でもいいんだけど·············。
『アル、貴方モ、一緒ニ成リマショウ?』
··································································································································································································································はぁ?
てめえ、まさかしなくても穢れた精霊の本体か?
この局面で、この状況でエインの意識をジャックしやがったのか!?
信じらんねえ、クソ萎えたわクソ下がるわクソが。
ふざけんなよ、せっかく今いいとこだったのに何、水差してくれてやがるこの野郎。
空気読めないにもほどがある。
てか、エインを俺以外が曇らせてんじゃねえよ、ぶっ殺すぞ。
はぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー(溜息)
仕方ねぇ、こうなったらボコボコにしてさっさとエインに自我を取り戻せるしかないか。
エニュオを見習えよ、エニュオを。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
アルと穢れた精霊の器と成り果てたエインの戦いは先ほどまでとは一変していた。
先ほどまでの雷鳴交じる剣戟は鳴りを潜め、代わりに情婦の如き女の狂笑と魔力の猛りが戦域に響き渡る。
「『【─────ファイアーストーム】!!』」
属性も種別も異なる精霊の魔法。エインという蛇口から放たれる力ある古代の精霊にのみ赦されていた神秘の暴威。
超短文、短文、長文、超長文。
炎、氷、雷、土、光、闇。
本来一個の存在が放つことを許されない多種多様なんて言葉すら陳腐に思えるほどの属性魔法。
今のエインは穢れた精霊の器にして、人型の精霊の分身。
59階層の個体すら到底及ばない魔力の丈と人型でありながら深層種すら比較にならない肉体強度を誇る超常の存在。
『猛者』と相対する巨獣の精霊の分身と同等かそれ以上の脅威。
或いは穢れた精霊の本体すら凌駕し得る破壊の化身と化したエインはどこまでも愉しげに嗤って蠱惑的に躍動する。
超長文詠唱の末、解き放れた真紅の魔法円。
人工迷宮の広間という限定された空間で放たれる熱風の猛威は、正しく炎嵐とでも呼ぶべき威力を以てしてアルに襲い掛かる。
魔法に対して高い耐性を持つ深層種のドロップアイテムで作られた石畳が融解し、その下の超硬金属をも融かす。
超硬金属すら溶解させる熱風は紅の津波となって広間の全てを焼き焦がし、蹂躙する。
第一級冒険者の肉体すら微かな猶予なく炭化せしめる灼熱の暴威。
「················はぁ」
だが、その猛威を前にしたとしてもなお、剣鬼は揺らがない。迫り来る炎の嵐を前にアルはただ静かに構えて剣を一閃する。
当然のように破断、両断された炎の波濤はその魔力の猛りごと次ぐ二つ目の剣閃によって微塵に切り裂かれる。
炎嵐は両断された上で炸裂し、その残滓がアルの頬を掠める。
だが、そんな傷とも言えぬ火傷を気にも留めずにアルはエインへと肉薄する。
エインは嗤う、嗤う、嗤う。
自らの攻撃が容易く打ち破られたというのにその笑みは崩れない。むしろより深く、愉しげに笑う。
それはもはや人ならざる者の在り方だ。人の形をした怪物の在り方だ。
そして、その笑みがそのまま今のエインという怪物の精神の在り様の全てを表していた。
仮面によってその表情は伺えないが、恐らくその仮面の下では妖艶の色を孕んだ嗤いが浮かんでいることだろう。
響く魅惑的な甘い笑い声を唾棄するように神速で繰り出される剣閃が応じる。
迷うまでもなく神の眷属として下界最速の速度域で振るわれた剣閃だったが
「あ゛ぁ?」
「『アァァ〜〜〜〜♪』」
ぐりん、と骨格を無視するような異形の体勢でエインが上体を逸らし、仰け反って初撃を躱す。
弓なりに反った上半身はバネ仕掛けのように元に戻り、その勢いのまま背中から生える四対八本の蜘蛛の脚の如き竜翼がアルの剣閃を迎撃する。
凄まじい速度、そして尋常ならざる膂力を以て振るわれる剣閃を微かな欠けもなく受け止め、弾く。
蜘蛛の脚と見紛う歪な竜翼はその美しい見た目から想像もつかないような頑強な硬度を誇り、羽ばたき一つで暴風を巻き起こす。
同時にエインが放つ魔法がアルに襲い掛かる。
「【突キ進メ雷鳴ノ槍代行者タル我ガ名ハ雷精霊雷ノ化身雷ノ女王───サンダー・レイ】」
一足一刀の間合いで紡がれ、放たれる短文詠唱。雷の槍が数十と生み出され、一斉にアルへと襲い掛かる。
エインの周囲を取り巻くように浮かんで宙を奔る雷の槍はその一本一本がアルですら警戒を禁じ得ない魔法の矢幕。
それでも、剣鬼は揺るがない。
その雷の槍もエインの竜翼すらもまとめて打ち破るとばかりに再び剣閃を散らす。
世界をも断つばかりに振るわれる剣閃、その悉くが雷の槍を、そしてエインの竜翼をも切り裂かんと猛威を振るう。
予定調和の如く一切を斬り裂かれた雷の槍が炸裂し、閃光の暴威となって広間に吹き荒れる。
雷光の嵐が広間全体を白熱させ、大気を焼き焦がす。それはまるで落雷の如く降り注ぐ破滅の散光。
見ようによっては絶景とも言える光景ではあるがそんな閃光の嵐すらも斬り裂き、再度エインの懐に剣閃が奔る。
一度は止められようとも才禍の怪物を前にして二度は有り得ない。
「『あはっ───〜〜〜〜〜ッッ!?』」
ただの斬撃では自らの竜翼は断てぬとばかりに笑みを以って剣閃を迎えたエイン。
その笑みが剣閃の鋭さに一瞬崩れ、最高純度の超硬金属すら上回る強度の竜翼が軽い音を立てて斬り裂かれる。
「『───痛イッ!!』」
その勢いを少しも失わぬまま、剣閃がそのままエインの胸元を浅く斬り裂き、鮮血が飛び散る。
その痛みにエインは悲鳴のような叫びを上げ、虐げられた幼子のよう泣き叫ぶ。
「『イタイッ、いたいっ!!』」
幼子の駄々のように残る竜翼をはためかせ、暴れさせる。水晶体の翼から魔力光の爪閃が放たれ、大気に白い爪痕を刻む。
だが、その程度の抵抗で剣閃は止まらない。
アルの剣閃がエインの竜翼に、そして肉体に刻まれるたびにエインは痛みを訴えるように泣き叫ぶ。
それでもなお、仮面に覆われたエインの口元に浮かぶのは妖しい笑みだ。それはまるで痛みに悦んでいるかのようでもあった。
「『あァ─────でもっ、愉シイッ!!』」
反転。暴力に怯える幼子から情事に浸る毒婦のそれへと、嬌声と共にエインは嗤う。
痛みを訴えるその表情は悦楽に染まり、陶酔したように頬を染める。
逆巻くように損傷の全てを怪人の治癒能力で以って修復し、竜翼の蜘蛛脚を地に付けて文字通り虫のような姿勢を取る。
そう、まるで今から捕食する獲物に食らいつく蜘蛛のような姿勢で醜悪な怪物は嗤う。
瞬速。
アルすらも凌駕する速度で地を這うようにエインは駆ける。蜘蛛の脚の如く生え揃った竜翼は地を、壁を、跳ね跳び、空を翔ける鳥のそれにも劣らない三次元の動きでアルへと迫り来る。
稲妻の如き速度を持って剣閃を振るうがそれら全ての剣閃はいとも容易く躱される。
広間という限られた空間の中で白光の軌跡と紫の妖光のみが疾駆する。
「『お友達にナリましょう?』」
甘い吐息と共に蜘蛛脚の先から真紅の鋏角が伸びる。醜悪な怪物は嗤いながらその鋏角をアルへと突き立てる。
それはまるで恋に焦がれた乙女の告白のように、甘く、切なく、そして狂おしく響く声。
だがしかし、そんなエインの想いとは裏腹にその一撃には一切の容赦がない。
剣閃すら超える速度で突き出される鋏角は回避する間もなくアルの背を貫く。
猥雑な交配のように振りかぶられた鋏角は、歪な竜翼のそれと同じく水晶体の輝きを帯びていた。
「──────【レァ・ポイニクス】」
瞬時、立ち昇る浄化の烈火。
魔法の『待機状態』。すでに詠唱を終えて発動を待機させていた烈火の付与魔法が発動する。
先の精霊の火には火力も範囲も及ばない、それでも色に濡れる鋏角を焼き消すには十分過ぎる浄化の炎。
「『───なんでっナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデ、ただお友達にナリたいだけなのにナンデ嫌がるの!?』」
神の眷属を乗っ取って己が眷属とする触手を跳ね除けたことにエインは怒りと、そして悲しみの声を上げる。
それはまるで恋に焦がれた乙女が想い人への告白を袖にされたかのような悲痛の叫び。
聞く者に深い罪悪感と憐憫を抱かせ、胸を痛ませるような儚い嘆き。
だが、そんな嘆きはアルにとってはどうでもいい。
「端的に言って誘い方がなってない。ムードと情緒がねぇんだよ、妖異」
誘いに甘んじた場合の結果自体はそう悪くないがそこまでの経緯が台無しだとアルは吐き捨てる。
エインとしての誘いなら考えてやらんこともないが、と付け加えて赫灼と燃える剣閃を振るう。
「『アァァ、熱いッ!?』」
「『アァッ!? イッタィ痛イ痛イイ痛い!!』」
醜悪な鋏角を焼き焦がしながら浄化の炎が燃え盛る。痛みに悶えながら反撃とばかりに他の蜘蛛脚から鋏角を突き出すもアルはそれを易々と躱す。
詠唱なく宙を断つ魔力の爪閃がアルを追わんと奔るがそれすらアルは剣閃で斬り裂く。
流麗、そして苛烈。
剣の鬼はどこまでも美しい剣技を以てして穢れた精霊の器に堕ちた怪人と対峙する。
それはまるで歌劇の一幕のように美しくも残酷な光景。
だが、そんな美しき一幕を汚すかのように醜悪な怪物が嗤う。その笑みは歪でありながらも、どこか恋する乙女のような純真さを感じさせるもの。
「『───────もう、イイや』」
そして、その純真な笑みが唐突に消える。姿には出さず、しかして明確にエインの纏う雰囲気が変わる。
甘ったるく、蕩けるような女の気配が皮を破り捨てて湧き出す。
その変化にアルも思わず眉を顰める。
まるで今まで見ていたのが質の悪い悪夢だったかのような怖気。
これまでの妖気などとは比べ物にならないほどに悍ましい気配と濃密な魔力がエインの全身から滲み出て空気を歪ませる。
醜悪で淫猥でありながら、清純さすら感じる歪な圧が内側から膨れ上がるように変貌する。
その様相はまさに蠱毒の壺から生じた毒虫が熟成し、羽化しようとしているかのよう。
「『お友達にナラないなら』」
吹き上がる魔力の奔流。先ほどまでが児戯にすら見えるほどの濃密な魔力。
エインという器から溢れ出す膨大な魔力は、まるで底なしのように際限なく膨れ上がり続ける。
その魔力の圧に思わずアルすら僅かにその眉を動かす。
「『────貴方ヲ、食べさせて?』」
瞬間、躍動する四肢。その圧にアルは咄嗟に剣閃を振るうが、それは彩を変えた紫紺の竜翼に阻まれる。
そして同時にエインの姿が霞む。
一拍遅れて広間全体を衝撃と轟音が襲う。まるで爆発でも起きたかのような衝撃と音の乱舞。
しかし、それは砲撃によるものではなく純粋なる暴力の余波。
その衝撃の中心にいるのは、アルとエイン。
エインは八本の竜翼を剣のように振るい、アルはそれに応じて剣を閃かせる。
第一級未満の者では聞き捉えることすら困難な衝音。竜翼と剣閃が奔る度に大気は震え、衝撃と魔力の波動が広間を蹂躙する。
その一撃一撃はこれまでのアルの剣技の中でも最速にして最重。
軛を解かず、スキルや魔法の最大支援を受けていない状態としては最上の連攻。
だが、
それはまるで餓えた獣が獲れた獲物の心臓を食い散らかさんばかりの暴虐な剣戟。
アルの剣閃は確実にエインを捉えてはいるもののその全てを躱され、弾かれ、受け流される。
肉が裂け、血が弾け飛び、骨が砕ける。器に収まりきらぬ魔力が溢れ出し、漆黒の風となって吹き荒れる。
その姿はまるで、神話に登場する黒い竜そのもの。エインの身体から噴き出した魔力がエインの身体を包み込み、人型の竜体へと変えていく。
だが、それでもエインは嗤う。
仮面の下のその笑みはどこまでも美しく、そして悍ましい。
まるで恋に焦がれる乙女のような純粋さと、男を手玉に取る悪女の如き蠱惑さの同居する微笑み。
竜体蜘蛛脚、人型の異形。
その背から生える八本の蜘蛛の脚は、辛うじて人の輪郭を残す半身をも覆い尽くす。
蜘蛛脚の竜翼はエインの魔力に呼応して、その先端を剣のように鋭く尖らせる。
パキリと水晶体の蜘蛛脚と竜翼が分かれ、四対八本の蜘蛛脚と同じく四対八本の竜翼に分離して都合十六本の爪となってアルをその間合いに捉える。
そして、エインの竜翼と脚から放たれるは十六条の魔力刃。それはまるで蜘蛛の糸のように粘性を持って放射状に広がりながらアルに迫る。
変容に次ぐ変容。
エインという器から溢れ出た膨大な魔力は、まるで巨大な奔流となって広間を蹂躙する。
アルの放つ剣閃が振るわれる度にそれは蜘蛛脚によって弾かれ、八つの竜翼に阻まれる。
そして、その間隙を縫うようにして放たれる魔砲の如き紫紺の光爪がアルを襲う。
十六条の魔力刃は放射状に広がりながら檻を作る。
その一つ一つが必殺の威力を秘めた魔爪。直撃すればたとえ第一級冒険者であろうとも致命傷は免れない。
アルは剣閃を振るい、魔爪を斬り裂こうとするが今度は魔爪そのものが剣閃に食らいつくように追い縋ってくる。
「───────っ」
三、六、七、十一、とそこまでは斬り伏せられた。だが、残り五つの爪がアルの剣戟を凌いで確かにアルの身体を穿つ。
アルは剣を持たぬ左腕に力を込め、強引に五本の爪を押し退けるが熱とも毒とも違う魔力の凌辱に血肉が焦げる。
それは只人でも妖精でも怪物でもない、反転した精霊の魔力。魂を蝕む毒そのもの。
「『やぁっっっと当たった!! どう!? 苦シイ? 痛イ?痛イヨネッ、苦シイよネッ!!』」
「『アハッ、キャハハハハハッ』」
「『イイ顔!! そのカオが見タカッたノ! 』」
舌を打つアルにエインは嗤う。それは恋する乙女のように、愛を語る乙女のように。
だが、その笑みに宿るのはどこまでも純真な悪意。
アルは妖毒の爪に蝕まれる肉体を無視して剣を振るう。その剣閃をエインは蜘蛛脚で受け流し、八本の竜翼が魔力刃を放つ。
八条の魔爪による波状攻撃。甘い瘴気を撒き散らし、死をもたらすそれを剣閃が拒む。
魔爪だけでは不足、と芳醇な魔力に満たされた緑肉による精霊の肉鎧により限界を超えて躍動する肉体。
魔力の爪だけでなく拳打、蹴撃、果ては頭突き。肉体の全てを使ってアルを苛まんと激風の如き猛攻がアルに襲い掛かる。
『技と駆け引き』とはまた違う、魔性と野蛮の暴風。
穢れた精霊にその精神を乗っ取られたが故に今のエインに冒険によって磨き上げられた駆け引きの妙はなく、身体に染み付いた技のみが繰り出される。
だが、その欠落を補って余りある身体能力の激上。神の眷属が階位を一つ上げたような、怪物の膂力と魔力。
八本の竜翼がアルの死角を作り、八本の蜘蛛脚が魔爪を伸長させて死角を狙う。
拳が、蹴りが、魔爪が、不死鳥の火衣に守られたアルの肉体と魂を抉らんと荒れ狂う。
「『愉シイ、楽シイ、タノシイ!! 』」
嗤う、嗤う、嗤う。
甘き毒を孕んだ魔性の哄笑がアルの耳朶を打つ。花園で戯れる乙女のように、雪原で戯れる仔猫のように。
魔力爪が宙で裂け、数多の光条となってアルの首を刈り取らんと奔り、竜巻のように旋回しながらアルの剣閃と火花を散らす。
絶え間ない猛攻、流麗にして苛烈なる剣技をもってしても捌ききれないほどの魔爪の嵐にアルは徐々に追い詰められていく。
視界を埋め尽くす無数の魔爪と八本の竜翼の連撃を捌きながらアルはエインの仮面に隠された表情を見透かさんと睨む。
「『【闇ヨ、満タセ───来タレ来タレ来タレ遮光ノ檻ヨ暗澹タル霊妙ノ力ヲ受ケテ空ヲ覆エ星ヲ隠シ月ヲ染メ全テヲ黒ヘト】』」
そしてその合間に挟まれる精霊の歌。魔力の燐光すら隠す漆黒の帳がエインを中心として広間を覆う。
並行詠唱と呼ぶにはあまりにも流暢で淀みない歪な詠唱。
エインとアルの間に生じた衝撃の余波をも遮る黒闇の帳はまさしく檻と呼ぶに相応しい代物。
逃げ場のない広間において、それを破るにはエインという歌い手を狙うしかないが────それは叶わぬとエインは嗤う。
魔力爪の嵐が光の疾走を阻むように、四方八方からアルを穿たんと迫る。
「『【代行者タル我ガ名ハ闇精霊、闇の化身、闇ノ女王───ダーク・スマイト】!!』」
艷やかでそれでいてどこまでも妖しげな少女の嬌笑。
長文詠唱にて成立した闇精霊の権能が、エインを起点に放たれ周囲一帯を漆黒に染め上げる。
それは光をも塗り潰すような黒き闇の奔流。一切の光を吸収する黒の波導が広間の床を、壁を、天井を余すことなく蹂躙する。
闇は光を塗り潰し、周囲一帯を黒き深淵へと変える。
アルの身を包む不死鳥の火衣とて例外ではなく、闇の侵食の前にその輝きを蝕まれていく。
「──────ちっ」
舌を打とうとも、悪態を吐こうとも、不死鳥の輝きは刻一刻と黒に侵され、失われていく。
黄金色でも獅子色でもない『黒銀色の斬光』で以って闇の侵食を断ち斬り、漆黒の天蓋に孔を穿つ。
「『可哀相なアル!! 一人デ誰にも見つけられずに死ンデいくのね!!』」
それでも晴らしきれない闇の檻に閉ざされたアルを見下ろしながらエインは嗤う。
黒き天蓋の隙間から覗く、その仮面の下はきっと喜悦に歪んでいるのだろう。
「『でも大丈夫! 私が貴方ヲ愛シテあげるカラ!! 私ダケガ貴方ヲ愛シテアゲルカラ!! 』」
粉砕され尽くした石畳が近くの簡易苗花から触手を伸ばしてグチュグチュと盛り上がる緑肉に覆われる。
そして、エインはアルにその歪んだ愛を告げるとその両腕を勢いよく広げる。
瞬間、爆発的に膨張した緑肉が広間全体を包み込み、この場を自らの領域へと塗り替える。
醜悪に過ぎる、しかしそれ故に美しい魔性の侵域。
花が咲き乱れ、肉の花弁から蒼い花粉のような光の飛沫が噴き上がる。
緑肉に侵蝕された空間を彩る蒼き花弁の輝きは、どこか幻想的で退廃的な美を湛えている。
吸い込めばまず間違いなく状態異常を与えるだろう花粉の霧。
その花粉には幾分の注意も払わず、今度こそ完全に闇を斬り払う。
要した時間はたったの一秒程度。
だが、その一秒は戦域そのものを自らの一部へと変えた彼女の前には長すぎた。
「『うふ、うふふふ、あはっァははハハハハはぁぁぁぁぁァァぁぁっァァァァッァア─────!!』」
嗤いながらエインが虚空に腕を振るう。するとそれに合わせて宙に
炎、氷、雷、土、光、闇。
それぞれが全くもって 別種の魔力光を放つ魔法円。その円の数は無数。
アルの視界に映るだけで十、二十、三十────数えることすら億劫になるその数は、まさに絶殺の陣。
壁や天井、宙空そのものを砲門とした魔法円に装填される輝きはその一つ一つが必殺の威力を秘めた魔法の矢弾。
「『あはァ』」
吐き気を催すような醜悪な魔力光を放つ砲門たちがアルに照準を合わせ、複数の砲門を結合させて一つの多大な魔法を放とうと唸りをあげる。
凄まじい魔力の旋律、この第一侵攻が始まって以来、最上の魔力の奔流がアルの命を刈り取らんと牙を剥く。
────【ファイアーストーム】
────【アイシクルネビュラ】
────【サンダーレイ】
────【メテオスウォーム】
────【ライトファング】
────【ダークロアー】
その砲門から放たれるは万象を灰燼と帰する破滅の炎。
あらゆる生命を凍てつかせ、死へと至らしめる絶凍の円環。
天から下り、全てを一切の例外なく穿つ雷鳴の巨槍。
大地に仇なすもの全てを打ち砕く破壊の流星群。
そして光と闇の極大魔法。
一つ一つが今もクノッソスを侵攻している【ロキ・ファミリア】の部隊を殲滅させて余りあるだろう威力を秘めた、至域の砲撃。
闇の帳によって魔法を防ぐ不死鳥の火衣の輝きを損なわせたところに放たれる超過剰火力。
精霊の魔法に対する耐性があろう関係なく全てを消し飛ばす六つの砲撃、晒してはいけなかった致命的な隙をついた砲撃がアル一人に対して解き放たれた。
──────────────────────············································································································································································。
光条の氾濫、理を逸脱した魔力の嵐、天変地異にも等しい超常の砲撃。
その余韻が広間に広がり、光の粒子を孕んだ砂煙と黒煙が広間を覆う。
アルだけを狙った集中砲火だったが故に広間が崩落するようなことはなかったが、それでもその衝撃の余波は凄まじく広間を確実に破壊し尽くした。
だがしかし、そんな惨状の中でエインは嗤っていた。
それはまるで恋する乙女のように、愛を語る乙女のように。
「『あはっ、ァハハハは、アハハハハハッ─────!!』」
アルを喰らうのに生きているままである必要はない、五体満足の死体である必要もなく、最悪バラバラの肉でも構わない。
愉楽に蕩けるエインの思考は、アルを自らの手で殺し喰らうという極大の快楽に酔いしれる。
そして、砂煙が晴れる。
「『アハハハハハハハハハハハハハハ─────エぁ?』」
そこに在るのは───────
「─────────····················はぁ」
嘆息を漏らして砲撃の残滓である魔力の光条を斬り払ったアルの姿。
その身には魔法による傷は一つもなく、不壊剣には刃こぼれの一つもない。
いかなる術理によるものか六つの砲撃を凌ぎきったその剣技は、まさしく英雄のそれ。
その『英雄』の姿に初めてエインの笑みが曇る。
「やはり神や精霊では駄目だな、人の感情を持った者でなくては美しさに欠ける」
「『ッ、何を言って───』」
欠伸でもしそうな気軽さでアルはエインに語りかける。その口調とは裏腹に、その表情には笑みはなくどこまでも冷たく、冴え切っている。
「エインの意識を戻せないかしばらく観察して検証したが中々に面倒そうだ」
「『何を言ってルノ!!』」
独り言のように紡がれる言葉に理解できない、理解したくないとばかりにエインは震える声でアルに問いかける。だが、そんなエインの疑問にも、あるいは嘆きにも似た声を余所にアルは淡々と言葉を続けていく。
「魅了や毒や呪詛による狂化、精神汚染ならば俺の【レァ・ポイニクス】でいかようにも掻き消せるが············どうやら身体に根差した
流石に今それを砕くわけにはいかん、とアルは独りごちる。
エインの感情に呼応して魔力爪がより一層にその鋭利さを増してアルに襲い掛かる。
が、一蹴。
それはもう何度も見た、とアルは容易く竜翼の連撃を斬り伏せる。
「『なんで、ナンデ私と遊んでクレないの!?』」
アルの冷めた視線にエインは駄々っ子のように喚き散らす。今までの余裕も、狂気も、その全てが剥がれ落ちたエイン───穢れた精霊の素顔がそこにはあった。
だが、そんなエインにアルはどこまでも冷たい目を向ける。
「退屈な座興は終わり··········いや、そうまで俺と遊びたいというなら片手間ではなくちゃんと遊んでやろう」
「『────?』」
アルの言葉にエインは首を傾ける。今までとは明らかに違う、何か含みのある物言いに訝しむエインは言いしれない不安に蝕まれる。
「お前にとっては知ったことじゃないんだろうが俺は俺でいいところを邪魔されて少しばかり苛立ってる」
「それに、今のお前のような状態を打ち破るには支配元との接続を悪くするための肉体的ダメージと支配元への精神的ダメージがセオリーだしな」
「だから、まぁ·············」
「·············少し、本気を出してやる」
─────話は変わるが現代の英雄たる者達には共通する一つの資質がある。
それは己の器の限界を超える力の発露。
『勇者』フィン・ディムナならば【
『ナイト・オブ・ナイト』レオン・ヴァーデンベルクならば【
そして『猛者』オッタルならば【獣化】。
神の眷属の頂。
現代においてその器を最上の域まで高めている
ならば、彼らにも劣らない現代の英雄である『剣聖』アル・クラネルは───?
彼には付与魔法や特定条件で自らの能力を底上げするスキルはあれど任意で
では、『剣聖』は自らの
─────断じて否。
同質の力を持ち得ないのではなく、不要と恩恵が判断しただけのこと。
「【
才禍の怪物がその軛を解き放った。
────────────────────────────────────────────────────────────────────────
Q.好きな女性(語弊あり)と楽しく踊ってたら蛆虫が入り込みました。どうしますか?
A.殺す。
【穢れた精霊inエイン】
向上:魔力、身体能力、再生能力
獲得:各属性の精霊の魔法
低下:技、知性
消失:駆け引き、エイン本来の魔法
白髪「技と駆け引きがある分元々のエインの方がずっと強かったな」
穢れた精霊「怪人になって!!」
白髪「エインに誘わせろ」
穢れた精霊「必殺砲撃!!」
白髪「俺、精霊由来の属性魔法が一番効かねぇんだけど」
白髪の自動迎撃解除≒伯母さんの【シレンティウム・エデン】解除。
【各ルートしぶとさ】
聖女アルちゃん(各√最弱だが肉体言語と治癒に特化しているため不死身、魔石のない怪人)>ベル妹(執念)、古代(生態)≫本編>アストレア(本編より世界から愛されてない)>静穏(目的>人の心)≫女帝(デバフもりもり、火力はクソ高)
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