皆の傷になって死にたい転生者がベルの兄で才禍の怪物なのは間違っている   作:マタタビネガー

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短いよ




179話  ───────言ったな

 

 

 

「【ディアンケヒト・ファミリア】と【ヘルメス・ファミリア】は即時撤退、アミッドのみオッタルの回復の為残れ」

 

 オッタルの敗北を受けたフィンはおそらくこの場にいる冒険者の中で最も大きな衝撃を受けながらもそれをおくびにも出さず困惑する派閥内外の団員たちへと指示を飛ばす。

 

都市最強───世界最強の眷属であるオッタルの敗北は派閥を問わずこの侵攻に参加している全ての冒険者達にとって大きすぎる衝撃だった。

 

それだけLv.8という壁は高く、その敗北もまた信じられないものだった。

 

下手をすればこの局面で士気が最低まで落ち込むことだってあり得る。

 

「僕達【ロキ・ファミリア】も上層の【ディオニュソス・ファミリア】と合流しつつ、地上近くまで前線を下げる」

  

 派閥は違えど自身の派閥と対を成す【フレイヤ・ファミリア】の団長が打ち負かされたという事実に戦慄を隠せない団員達へとフィンは即座に指示を下す。

 

士気の下降を赦さない勇者の明瞭な言葉に、団員達は発破を掛けられるかのように冷静さを取り戻す。

 

どんな苦境にも揺らぐことのない指揮官の姿と敵対派閥であり実際の実力の丈を実感したことのない『猛者』以上に信頼を置く自分達の最強であるアルが未だ健在で闇派閥最大戦力であろう怪人を食い止めている最中である事。

 

その二つが【ロキ・ファミリア】を中心とした部隊の士気下降を食い止め、その指示に従わせる。

 

だが、肝心のフィンは59階層の戦いで感じたものと同等以上の危惧をオッタルの敗北から感じ取っていた。

 

「僕とティオネ達は神タナトスの拿捕に向かっているロキ達と合流する(あの仮面の怪人に敗れたのならば()()()())」  

 

 一度目のクノッソスでの戦いでは手負い揃いだったとはいえアルをはじめとした【ロキ・ファミリア】の主力に対してたった一人で圧倒してみせた最強の怪物。

 

その強さは派閥最強であるアルをも凌ぐ。

 

だが如何にLv.8の域を超えた怪物とはいえ怪人一人のみであればどうとでもなる。

 

一人ならばアルをけしかけることで勝敗はともかく動きを封じ、残る面子でそれ以外を殲滅する。

 

実際今回の侵攻においてはそれが途中まではかなりいい線を行っていた。

 

だからこそ、Lv.8を凌ぐもう一つの特大戦力を闇派閥が温存していたという想定外の事態に後手に回ってしまっている。

 

「(ヘディンの目算に誤りがなければそのポテンシャルは仮面の怪人と同じくLv.9以上···········!!)」

 

 しかも、あの『陸の王者(ベヒーモス)』を素体とした精霊の分身という想像だにしなかった隠し玉。

 

オッタルには悪いがこればかりは侵攻直前にオッタルを引き込んだアルのファインプレーと言わざるを得ない。

 

真贋はともあれ『三大冒険者依頼』の大いなる獣の系譜であり、オッタルを下すほどの力を持つ精霊の分身。

 

仮にオッタルとアル以外がその精霊の分身に相対していたら確実にその部隊は壊滅していた。

 

だからこそ今この局面で引き際を誤るわけには行かない。

 

「(アルが怪人を足止めしている間に第一侵攻を終わらせる)」

 

 正直脇目も振らず全隊撤退するべき状況ではあるが、タナトスを拿捕しに行ったロキ達の部隊はもうタナトスがいるであろう本拠地のほど近くまで到達している。

 

ロキが万一、送還されるようなことになれば言うまでもなく確実に全滅する。

 

ならば一種の博打ではあるがフィンをはじめとした主力の第一級冒険者のみの最精鋭による全速でロキと合流し、その後改めてタナトスの拿捕の是非にかかわらず即時撤退する。

 

フリーとなった『陸の王者(ベヒーモス)』だけが問題だが────

 

『結果から言う。エインと『陸の王者(ベヒーモス)』は気にするな、押さえた』

 

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

一切の静寂。

 

荒れ狂う魔素の渦も、吹き荒れる風の音も、周囲に満ちる精霊の魔力も何もかもが刹那の瞬間、その機能を失った。

 

そして、全てが元に戻った。

 

それはまるで時間そのものが切断されていたかのように。あるいは世界から音という概念が失われたかのように。

 

無音と静寂だけが世界を支配する中。斬り飛ばされたエインの右腕が宙を舞った。

 

「『イヤァァァ──「【戦界】」───かハッ』」

 

 もうお前に付き合ってる暇はないとばかりにアルは一瞬でエインの懐へと飛び込む。

 

瞬時、同時に放たれた一閃。音すら置き去りにした剣速で以ってして斬り裂かれる激痛にエインは絶叫を上げて火砲でアルを引き離そうとするが、それは叶わない。

 

大きく開かれた精霊魔法の顎門に雷の鏃で作られた無数の剣尖が突き刺さり、領域中に浮かんだ幾十の魔法円全てを縫い付けるように雷光の剣閃が駆け巡る。

 

「悪いが状況が変わっちまってな。決着は後回しだ」

 

「遠隔操作の人形操ってるお前をいくら刻んだところで上辺だけの悲鳴しか上がらないしな」

 

「やりたくはないが無力化させてもらう」

 

「『ァ、あアぁアああ!?』」

 

 エインの絶叫が響く中、アルは剣閃を奔らせる。雷光の剣閃が縦横無尽に走り、その悉くがエインと穢れた精霊の肉鎧を打ち砕いていく。

 

【剣域】は既に解除されている。にもかかわらず、瞬時すら置かずに振るわれる剣閃の冴えは些かも落ちることなく研ぎ澄まされる。

 

雷光の軌跡がその数だけ宙に描かれる度、エインの肉体は血飛沫と肉片をまき散らす。

 

再生し、再生し、そのたびに砕かれる。その度に斬線に断たれる。

 

百を超える剣閃を経てもなお穢れた精霊との接続は途切れない。今もなお穢れた精霊の魔力はエインの身体に刻まれた傷を癒し続ける。

 

それでも先ほどまでとは損耗の速度が明らかに違う。不殺前提の【剣域】から奥義を切り替えた事で癒す端から斬り刻まれていくエインの傷は塞がることなくその身に刻まれ続ける。

 

再生と破壊、無音にして剣戟の乱舞。

 

戦いを経るごとに洗練され、研ぎ澄まされていくのは剣技のみならず肉体さえもまた同様であり、アル自身の肉体がランクアップして以来初めての軛の解放に漸くその性能を十全に発揮していく。

 

器と精神の不一致。

 

階位昇華、獣化などの階位を覆すステイタスの強化やランクアップしてすぐに見られる肉体の変調への精神の不適合。

 

第一級冒険者ならば幾度かの戦闘で簡単に修正できる程度の問題だがLv.8にランクアップして以来、既にその器を半分以上埋めてるにも関わらず器と素の『技と駆け引き』の擦り合わせを一切行ってこなかったが故の感覚の齟齬が是正される。

 

今、漸くアルの技はLv.7のステイタスで振るわれるものからLv.8のそれに適応した。

 

そして。

 

「それに、俺ばかりを気にしていていいのか? 下手すりゃ眷属に足元すくわれるぞ」

 

「『? ─────っ』」

 

 その言葉にアルへの対処に全ての力を注いでいたエインは、穢れた精霊は遅れてアルの言葉の意味を理解する。

 

「『まさカ················』」

 

「『陸の王者(ベヒーモス)』の遺体(ドロップアイテム)を素体にした精霊の分身。··········そりゃ強かろうがそもそも御せんのか?」

 

 頭上、自分たちのいる一つ上の階層から感じる規格外の魔力。

 

魔力の質は変異こそしているが自らの分かれ身である精霊の分身のそれ。

 

肝心なのは今の今までアルに意識を奪われていたとはいえその分身が解き放たれたことに主である自分が気がついていなかったこと。

 

その事実にエインは戦慄よりも先に困惑を覚える。そんな馬鹿なと思わずにはいられないのだ。

 

穢れた精霊にとって精霊の分身はあくまでも魔石を埋め込んだだけの肉人形である怪人とは比べ物にならぬほど自身に近しい存在だ。

 

言うなれば自分の一部、いくら他のことに意識を向けていようが分身の挙動を掌握できていなければおかしいのだ。

 

それができなかったということは、つまりは。

 

─────穢れた精霊の支配から抜け出した『異端の孤王』と成りつつあるということ。

 

まだ、完全ではなく、未だ自身の眷属であることに違いはないが下手をすれば素体と融合している精霊の分身そのものが完全に喰らわれかねない。

 

その強さ自体、通常の分身数体分であり、代わりに敵対すれば穢れた精霊本体にまではたどり着けぬまでも自身の領域となりつつあるこの人造迷宮の仕掛けを粉砕しかねない。

 

その可能性を認識した穢れた精霊は、ダンジョン60階層にて微睡んでいた穢れた精霊の本体はその意識の一部をエインとアルからその上層にいる『亜種(ベヒーモス)』に切り換えた。

 

亜種(ベヒーモス)』とて覚醒したばかり、穢れた精霊が見張っている中で反目できるほどの力は蓄えてはいない。

 

意識全てを割かずともエインに割いていた分の半分もあれば暴走しないよう抑え込める。

 

エイン自体も一度、精神を沈めた以上はその状態を維持すること自体は片手間で可能だ。

 

故に、穢れた精霊はエインとアルから意識の一部を切ることを許容した。

 

あるいはそれは一瞬の、最善の判断ではあっただろう。

 

だが、今この時に限って言えばその一瞬の逡巡こそがこの場における穢れた精霊のエインに込めた仮初の命を終わらせる決定的な一打となる。

 

そう、神ならぬ怪物はその瞬間まで理解していなかったのだ。

 

運命に裏切られ、自他を呪い、他者の救いになど微塵も期待を寄せなかったエインがこの期に及んでもまだ心の奥底で誰かへの救いを求めていたことを。

 

そして、エインにとっての誰かが他でもない目前の『英雄』だということを。

 

·······································································································································································································································································································································································································································································································································································································································································································································誰か、私を助けて

 

 ほんの一瞬の意識の浮上。すぐにまた抑え込まれる刹那、エインは小さくそう呟いた。

 

それは偽らざるエインの本心であり、その願いは叶えられぬと知ってなお口にせずにはいられなかったエインの未練にして呪いだった。

 

穢れた精霊によって精神を封じられている今の状況を、かつて穢れた精霊によって仲間と自身の尊厳を奪われた時と同じと重ねたエインは不確かな意識の中で助けを求める。

 

魂の恥辱に苦しめられる微睡の中での悲痛な声。

 

『怪物』の助けを求める声に応えるものなどどこにもいないとわかっていながらもエインはそう口にせずにいられなかった。

 

だが、その届くはずのない願いは。

 

「───────言ったな」

 

 『異端の英雄』には届いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 

 

 

 

 

 

 

 

言質とったああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ───っ!!!!

 

言ったな!! 聞いたぞ!! 耳に刻み込んだぞ!!

 

俺の前で確かに助けを求めたな!?

 

もう撤回は許さねえ!!

 

とりあえず今は分かりやすく誘導されて意識されたバカからの支配解除して最終決戦の舞台整えるか。

 

しゃおらー!!

 

 

 

 

 

 

──────────────────────────────────────────────────────────────────────── 

 

 

エイン「たすけて」

 

世界「あっ」

 

白髪「言質とったあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」

 

世界「あーあ」

 

 

 

 

 






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