皆の傷になって死にたい転生者がベルの兄で才禍の怪物なのは間違っている   作:マタタビネガー

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184話 英雄の皮をかぶった究極のダメンズ

 

 

 

 

クノッソス、12階層。

 

ダンジョンの階層と照らし合わせるのであれば中層の手前。

 

同階層でのエインとアルの戦い、そして11階層でのベヒーモスとオッタルの戦いによってその構造の尽くを破壊されてしまった層域である。

 

その砕かれた石畳や融解した金属の断面、半径にして500メドルにも達しようかという破壊の後を色濃く残す空間は今は醜い緑肉の海と化していた。

 

無数の蛇の群れが蠢き、絡み合っているような醜悪さ。それらはその蠕動を繰り返しながら、クノッソスの床を汚泥のように変化させていく。

 

グチュグチュと湿った音を立てながら、破壊の痕跡がより凄惨な醜い汚泥に埋められていく。

 

既に領域という領域は緑肉に埋め尽くされ、元の石畳の床は確認できない。

 

その緑肉の塊は互いに絡み合いながら、その体積を増やし、クノッソスの内部をより醜悪に変えていく。

 

流動する肉塊の津波は区別なく、全てを呑み込んでいく。

 

だが、その肉の海の中にぽっかりと空いた空白地帯があった。

 

その空間には肉塊が侵入できないのか、あるいはその空間を侵犯する事を()()()()()()()のか。

 

精々が5メドル程度の空白地帯。  

 

その空間に、一つの影があった。

 

超硬金属を剥き出しにした壁に寄りかからせるように佇む影はその全身を赤白い灰色に染め上げていた。

 

片腕は肩から先が焼け落ちて無く、炭化どころか灰と化しつつある。焼け落ちた腕部はその半ばから白い灰となって崩れ落ちている。

 

全身は大小様々な傷口から流れ出す血によって灰色を少しずつ赤黒く染まっている。

 

いっそ清々しい程に満身創痍と言って差し支えない有様だ。

 

「───────」

 

 人影───黙するアル・クラネルは、その灰に染まった瞳で虚空を見据えている。

 

その視線の先には何も無い。

 

ただ、虚空があるだけだ。

 

だが、アルはそこに何かを見ているように視線を外さない。

 

───────·········ァァァ······ル···········

 

ふと、そんな音がアルの耳に届く。

 

音というよりは振動だ。

 

何かが震えるように振動する音。それは次第に大きさを増していく。

 

59階層の戦いで負った以上の損傷が今のアルの身体には刻まれている。

 

第一級冒険者だろうが死は免れない火傷の牙。他者から与えられたものではなく奇跡の行使に対する絶大の代償。

 

都市最大の総量と無尽蔵の回復速度を誇る精神力は完全に尽きた、スキルとアビリティの効果によって急速で補填されつつあるが場に満ちる『穢れた精霊』の魔力が魔素の吸収を邪魔をしているのか未だ万全の一割にも届かない。

 

肉体が炭化した、死には届かずとも肉も神経も骨すらも焼け焦げで傍目には焼死体にしか見えぬ状態でもアルが生きているのは一重にその生命力の為せる業だ。

 

魔法も途絶えた、不死を騙る不死鳥の火衣も全てを吐き出したが如く掻き消えてしまっている。

 

今のアルは真実、ただの死に体。

 

神の祭儀を、精霊の奇跡を人の身で模倣した代償にその身は限界を迎えていた。

 

───────ォ·······ォォォ·············

 

アルの耳が捉え続ける振動音。

 

それは、次第に大きくなっている。

否、近付いて来ているのだ。

 

それは、アルの目前に現れた肉の津波から聞こえていた。ダンジョンの床に泥溜まりのように広がる緑肉が脈打ちながら、一か所に集まっていく。

 

まるで巨大な心臓のように鼓動し、蠕動する肉の塊は徐々にその形を変えていく。

 

そして、そこに現れたのは人の形をした何かだった。

 

人型ではあるが、人ではない。

 

だが、人の形をしてはいる。

 

頭があり、腕があり、胴がある。

 

かろうじて女体だとわかる異形の人型。

 

まるで人形のような何かはおぼつかない足取りで肉の床を踏みしめる。

 

その人型の何かはアルの目の前で足を止める。

 

その腕の先、掌というには歪な形状をした五指が掴んでいるのは()()()()()()()()()()()()()()()───。

 

「──────お前も大概しつこいな」

 

『置いていかレテ可哀相なアル、ヤッパリ私とお友達になりましょう?』

  

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 

 

 

 

 

 

『ァ、ァ、ァ、アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア────!?』

 

 精霊の絶叫がクノッソスに鳴り響く。

 

『祭壇』の起動によって横溢した精霊の魔力、方向性のない無色なそれに明確な指向性を与える六円環の精霊歌を無理矢理に遮り、文字通り放火した英雄の祭儀。

 

人類はもちろんのこと、怪物も非生物も脅かさない常温の幻火は、しかし、精霊にこそ猛威を振るう。

 

あくまでも氾濫する緑肉を対象とした祭儀の火は冒険者たちを『生贄』にせんと猛ける緑肉だけを焼き、『精霊の分身』にはさしたる損傷を与えてはない。

 

だが、その在り方を反転させた『精霊の分身』には劇薬に等しい聖火の熱に一様に悲鳴を挙げ、悶え、叫び狂う。

 

「これは、一体···········」

 

 誰も燃やさない聖火が奔ったのはほんの数秒。熱も痛みも与えないその炎の濁流の残滓たる火片を白昼夢でも見たように呆然と見つめながら誰かが呟いた。

 

そして、 ────オォオオオオオオッ!!!!!!! と。

 

クノッソスの天蓋を揺るがす大絶叫が響き渡る。

 

それはもはや美しい精霊の声ではない。

 

音ではなく、衝撃として叩きつけられるその絶叫に冒険者たちは耳を覆い、英雄の祭儀によって焼き焦がされた『精霊の分身』たちは苦痛に悶える。

 

「─────っ、今っす!!」

 

 恩恵を失った【ディオニュソス・ファミリア】の眷属達を呑み込む寸前、火に巻かれた緑肉が動きを止めてその増殖を止める。

 

全てが全て焼き尽くされたわけではないが表面が炭化し、まるで再生を阻まれてるかのようにその動きを止め、焼死体のように灰へと変じていく。

 

それを確認したラウルが叫び、 それに応じるように事態を未だ飲み込めていない【ロキ・ファミリア】の団員達が九死に一生を得てへたり込む【ディオニュソス・ファミリア】に手を貸し、出入口へと退避させていく。

 

一度は見捨てておきながら、いざ危機を脱した途端に手を差し出す自分達の変わり身。

 

その余りの落差にアキやアリシアは顔を歪めるが、今はその感情に蓋をして最善を尽くす。

 

「いつまた動き出すかわからないっ、だから早く!!」

 

 今度こそ恩恵を失った【ディオニュソス・ファミリア】の者達を優先的に逃がし、アキは叫ぶ。

 

幸い、聖火の瀑布の焼却対象には『穢れた精霊』の触手である極彩色のモンスターも含まれていたようで魔石を含め、極彩色のモンスターは灰のみを残して消え去っていた。

 

一分、三分、五分、と。

 

数分経ってもモンスターが再出現する兆しも、緑肉の濁流が再開する兆しもない。

 

まるで聖火に燃料を根こそぎ焼き尽くされたかのようにクノッソスは静かだった。

 

だが、その静寂が嵐の前の静けさであることは冒険者達の誰もが理解している。

 

その静寂はいつ破られてもおかしくはない。

 

再開すればまたすぐに地下空間は地獄へと様変わりする。

 

それを誰よりも知っているだろう【ディオニュソス・ファミリア】の者達も恩恵がないなりに我先へと出口から脱出していく。

 

元々、上層の出入口付近にまで前線を下げていた冒険者の撤退に然程の時間はかからなかった。

 

そして、約半刻。

 

それだけの時間をかけてクノッソス内の冒険者は地上へと脱出を完了した。

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 

 

 

 

 

 

 

 

甘い紫紺の吐息が、アルの耳元に囁かれる。その吐息に、言葉に、アルは眉を顰めた。

 

少しずつ形が整えられていき、今や正しく天女を思わせる瑞々しい裸身を晒す人ならざる美貌の女体。

 

その肉体が今も周囲を蠢く醜悪で冒涜的な緑肉がより固まってきたものと知らなければどんな男も骨抜きにされるだろう魔性の美。

 

無論、アルに機微を与えることは能わない。その美貌に、その肢体に、アルは欠片の関心も抱かない。

 

だが、わざわざ器を作ってまでやってきたソレの目的にはほんの少しばかりの興味があった。

 

アルは、その声の主を知っている。

 

先ほど、エインを器としてアルと刃を交わした『穢れた精霊』の意志がそこにはある。

 

エインの代わりに緑肉を練り合わせて拵えた女体。形作られた美の女神のような美貌。だが、その瞳は虚ろで何も映してはいない。

 

「また、それか」

 

 呆れを多分に含んだ溜め息と共にアルは呟いた。都合何度目になるか分からないその言葉への呆れに、女の姿をした緑肉の塊が嗤う。

 

人ならざる美貌は嫣然と微笑し、アルの首に腕を回そうとしてバチリ、と奔る紫電に阻まれる。

 

まるで、アルに邪なる者が近づくのを拒むように雷が纏わり付いている。

 

規模や質は違えどエインや『怪人兵』も見せた詠唱を介さない魔力の発露。

 

肉体が半ば炭化してそれを癒せぬ状態であろうとその身に宿す精神力の量は個人の眷属の域に収まらない。

 

緑肉で出来た女体の表情に一瞬だけ怒りが浮かぶも、すぐに蕩けた笑みを浮かべる。

 

その笑みに込められるのはアルへの執着心。アルへの計り知れない愛情。あるいは狂おしいまでの支配欲とでも言うべきか。

 

それ自体は精霊と呼ばれる存在の根底にあるものだ。

 

『英雄の介添』。

 

精霊、神にもっとも近い種族。神に最も愛された子供。

 

神々が降臨する以前から地上に降りていた奇跡。下界に遣わされた精霊は人類、ひいては英雄を手助けするよう創造主たる神々によって定められた存在であり、その奇跡の力を以て英雄を導く下界の導き手。 

 

英雄の剣であり、盾であり、友である精霊。 

 

オラリオの大地に空いた大穴。無尽のモンスターを産み出し続け、今なお数多の命を飲み込み続ける奈落の間隙を塞ぐために戦った数多の英雄達も、そうした精霊達の力を借りていた。

 

ダンジョンに喰われ、そのあり方を反転させたとしてもその根底が精霊であることは変わらない。

 

アルという至上の英雄の器、そして今しがた見せた人の身で神の力と精霊の奇跡に指をかけた『人の奇跡』。

 

その在り方に『穢れた精霊』は酷く焦がれた。

 

『ジュピターの天雷··········あァ、そう、貴方モアルに··········いや、デモ、違う?─────まァ、イイや』

 

 微かな困惑。だが、それもすぐに打ち消すように甘い微笑みを貼り付ける。アルの顎を細い指で撫で、唇に触れるような距離までその美しい顔を近づけて女体が囁く。

 

甘い紫紺の声。蕩けた笑みを形作る瞳もまた同じ色。されどその瞳は相も変わらず何も映していない。

 

ただ、虚空を通すようにアルだけを見つめている。

 

『痛いでしょ、ツライでしょ、死にたく────消えたくナイデショ?』

 

 今もアルの身体からは煙と血肉が焼けた異臭が漂っている。

 

治癒と損壊のループ、既に呪詛の代償の要求は消えつつあるがその残滓が今も火を灯して肉体を焼き続ける。

 

スキルとアビリティによる自己治癒力で焼けた肉と骨を急速に癒しているが、焼け石に水。

 

焼けて、癒えて、焼けて、癒える。

 

その繰り返しに焼ける肉の苦痛。

 

今も尚、アルの身体は自らを破壊しながら癒している。その痛みは筆舌に尽くし難く、マトモな神経の持ち主であればとっくに発狂していてもおかしくない苦痛だ。

 

ましてやそれを意識を保ったまま耐え続けるなど人には不可能の域にある。

 

既に毀れて破綻した精神が故に耐えられているがそれでも苦痛は苦痛なずだ。

 

現に、今のアルは半ば意識が混濁している状態であり、殆ど意識を失っているとも言える状態だ。

 

そんなアルを労るようにその身体を抱きしめて女体が囁く。

 

そっと壊れ物を扱うように優しく抱きしめるその手つきは男の性を奮わせる淫蕩なものだ。

 

蕩けた微笑みを浮かべる美貌も、甘く絡み付くような声音も、豊満で柔らかな肉体も男であれば抗えぬ蠱惑的な魅力に満ちている。

 

紫電に焼かれる事も構わず、アルの身体を愛撫する女体の手つきは酷く優しい。

 

だが、それは同時にどこまでも悍ましい。

 

その指先に込められた力はアルを決して逃がさぬという意志そのもの。

 

『────私も同じだった』

 

 なにより憐憫と同情、そして僅かな悲哀が『穢れた精霊』から発せられる。

 

涙すら浮かべ、縋り付くようにアルの身体を抱きしめる。

 

そこに悍ましき情念はあれど悪意は欠片程もない。

 

先ほどエインを器として嘲笑したのと同じ存在だとは到底思えない。

  

『痛かった!! ツラかった!! 寂しかった!! でも、デモデモデモ!! ─────誰も私を、見つけてくれなかった!!』

 

 遥か古代、英雄の介添として天より遣わされた彼女は正しく下界の、人の為にその力を振るった。

 

時には騎士と共に大地を駆け、時には村落の危難に駆け付け奇跡を行使した。その輝かしい英雄の偉業を彼女は誰よりも間近で見てきた。

 

だが、その最期は昏く、救いのないものだった。彼女は最期まで人の為に戦い、彼女の英雄も最期まで誰かの為に戦ってダンジョンの牙に貫かれた。

 

ダンジョンの地の底。

 

怪物を孕む魔窟の肚で彼女は最期を迎えた。

 

報いはなく、救いもなく。

 

ただ、彼女は独りで怪物の腹に収まった。

 

そこで終われればまだ良かった。

 

ダンジョンは、神を憎む地の魔は天の系譜たる彼女を冒涜的なまでに弄んだ。

 

神も人も誰も彼女を見つけられず、ただ独りで暗闇の底を彷徨い続けた。

 

『グチャグチャに溶かされ、食べられて!!』

 

 この世の全てを呪うかのような怨嗟が地獄の底に木霊する。確かにそれは全てを失った嘆きの声だ。空虚な痛みに満ち満ちた悲しい叫び。

 

『それでも私ハ独りだった!!』

 

『だから、ダカラダカラダカラダカラダカラダカラダカラダカラダカラ、私は、()()は他のみんなも食べてあげた!!』

 

 同胞たる精霊を己を喪った怒りと嘆き、その激情のまま食らい尽くした悍ましき食歴。

 

無論、それは善意などでは到底ない。

 

今、彼女が吐く言葉もアルの『熱』に当てられてその在り方を僅かに回帰させたが故の一過性のものだ。

 

だが、その一過性のものであってもそれは嘘偽りではない真。

 

嗚咽交じりに叫ぶのは、その激情を唯一共有できる相手への哀切と悲嘆。

 

『─────貴方モ同じ!!』

 

 矛盾、その一言に尽きる。

 

哀れみを垂れ、同じだと言いながら自分と一緒に居ろと、死にも近い存在になり果てろと喚く醜い精霊の成れの果て。

 

だが、けれど、それでも─────。

 

『貴方ハ、地上に戻ったらマタ()()()()()()()()()()()()!!』

 

『────だから、私と一緒にいましょう?』

 

 それは紛れもなく自分と同じ末路を辿ろうとしているアルへの憐憫であり、慈しみだった。

 

 

 

 

 

────────────────────────────────────────────────────────────────────────

 

 

白髪に放火されてトチ狂った穢れた精霊「可哀相!!私と一緒にいましょう!!」

 

英雄覇道「!?」

白髪変態「!?」

アイズサン「!?」

世界くん「!?」

エニュオ「ファッ!?」

エインサン「·········あ゛ぁん!?」

 

 

【女帝嘘あらすじ】

第一話、竜の鼾

第二話、リーヴ・スラシル

第三話、特に理由のない暴力が騎士を襲う!!

 

【聖女アルちゃん嘘あらすじ】

第11話、結果オーライで骨を砕く自称聖女

第12話、騎士「それ残光じゃないよ?」

第13話、さよならベヒーモスまた会う日まで

第14話、英雄とか知らないけど多分全員殴ったぜ

第15話、エピメテウス「帰ってくんないかな···」

 

 

 

 





 
たくさんのコメントと評価ありがとうございます!

メッセージとかはまぁあんまり気にしても仕方ないと思うのでできる限り割り切って地道に頑張らせていただきます。

これからもモチベーションにつながりますのでコメントや評価のほどよろしくお願いします!!
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