皆の傷になって死にたい転生者がベルの兄で才禍の怪物なのは間違っている 作:マタタビネガー
ちょっと難産
他ならぬアルの『熱』に焦がされたが故の変転にして回帰。
他者の為に自らを擲ち、最後には昏い迷宮の底で力尽きた自分。
『
重ねてしまう、情を移してしまう。
それ以上、傷ついてほしくない。
だから、一緒にいよう。
貴方を傷付ける全てから私が守ってあげる、と。
『私の時は誰も助ケテくれなかった、誰モ手を差し伸べてはクレナカッタ』
怨嗟にも似た、悲哀に満ちた叫びがアルの耳朶を打つ。幼子のように縋り付き、情に訴えかけるように。
誰からも見捨てられ、忘れさられ、救いのないまま死んでいった自分への哀傷が嗚咽となって響く。
『だからァ!!だから、だから、だからだからだからだからだからだからだからだからだからだからだからだからだからだからだからダカラぁ────』
────彼女は疾うの昔に身も心も真に『怪物』と成り果てている。かつて助けを求める声に、嘆きに手を差し伸べてきた天の寵児であったことに違いはないが最早その在り方は欠片も残っていない。
だが、でも、それでも、その根底にあるのは英雄に対する果てなき献身であり、人類への愛。
だから、目の前の憐れな『怪物』を放置することなど彼女にはできない。
『──────だから、私は助けなきゃ』
ほんの一瞬。天にて産まれ、下界に降りてダンジョンに取り込まれた彼女のこれまでの年月からすれば瞬きにも満たない時間。
だが、その刹那の邂逅が『穢れた精霊』にかつての自分を思い出させる。
かつて、自分が求めたことを。
かつて、自分がされなかったことを。
かつての自分のように献身の末に誰に看取られることなく朽ちていく目の前の憐れな英雄に手を差し伸べなければと、その想いに偽りはない。
24階層、59階層、クノッソス。
数えること三度、個体にして六体の精霊の分身がアルと戦い、討たれた。
穢れた精霊は見た、触れた、アルの英雄の輝きという『熱』を。
そして、自らの胎内と化したクノッソスに鳴り響いた『鐘』の音色と異端を浄する神域の『聖火』にその魂を照らされてしまった。
『穢れた精霊』は識ってしまった、アル・クラネルという英雄を。
『私は貴方を助けたい』
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おやおや、おやおやおやおやおやおやおやおやおやおやおやおやおやおやおやおやおやおやおやおやおやおやおやおやおやおやおやおや。
もしかして、コイツ、
ぶっちゃけ舞台装置というか眼中にすらなかったけどそういう感じとは思わなかったぞ。
もしいい感じならこれからの予定を変えるまであるぞ。
んー、でもこいつ現実をちゃんと認識できているかちょっと怪しいよなぁ。
俺が死んだら死んだで普通に割り切って栄養にしそうでもあるし················。
やっぱり、神やら精霊やらはなぁ················。
食わず嫌いなんかなぁ?
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「···············再開したか」
宙空を散っていた火片が消えたのをきっかけのようにその動きを止めていた緑肉の脈動が再開する様をレイによって九死に一生を得たフィンは見届ける。
一度は聖火に炙られ、灰となった緑肉は失った魔力の補填が完了したのか思い出したかのように活動を再開した。
その緑肉の濁流が再度、クノッソスを呑み込み始める。だが、それはもはやクノッソスを脱出したフィン達にとっては脅威ではない。
地下に収まらない緑肉は神の送還によってできた二つの穴からボコボコと地上10メドルほどの高度まで地上に噴き上がる。
しばらくしてみずみずしい肉が外気に触れて乾燥したかのように硬質化し邪悪に捻じ曲がった樹木の林へと変じた。
【ロキ・ファミリア】をはじめとした冒険者達の脱出はすでに完了し、今は【ガネーシャ・ファミリア】にあとを任せて各自陣へと退避している。
ベヒーモスを素体としたと思われる『精霊の分身』を初めとした想定外の数々、幾重にも重ねてきた事前準備を覆す邪神の悪意を前にしてこちらが負った損失は幸いと言っていいかそう大きくはない。
けれど。
【ディオニュソス・ファミリア】主神送還及び犠牲者一名。
取り返しのつかない明確な犠牲者として取りこぼしたものがあるのも事実。
クノッソスに巣食っていた脅威を前にした損失が中堅派閥の主神と第二級冒険者一人と考えれば趨勢への影響は微々たるもの。
そう、少し前までのフィンならば割り切っていただろうが捨てる事をやめた今のフィンには割り切ろうとしても割り切れない。
無論、そのせいで判断を鈍らせるような愚行は間違っても犯さないがそれでも後味の悪さは拭えない。
とはいえそんな個人的感傷にかかずらってる余裕もない。
「ロキ、オッタルの容態は?」
コツコツと足音を響かせて陣の中心から外れたフィンの元に合流したロキにフィンは問いかける。
「『戦場の聖女』が言うには峠は越えたみたいやけど次の戦いまでに再起できるかは微妙なところらしい」
「そうか···········」
ベヒーモスを素体とした『精霊の分身』と相対してその災毒を受けたオッタルはヘディンの手によって一足先に地上へと帰還し、他ならぬアミッドによって治療を施されていた。
アミッドの万能回復魔法によってオッタルは一命をとりとめているが意識は戻らず容態は予断を許さないという。
英雄殺しの災毒を抜きにしてもその身に刻まれた損傷は深く、受けたのがオッタルでなければ死は免れなかっただろう。
「『白妖の魔杖』は比較的軽症、臥せてはいるけど明日には復帰できるみたいや」
ベヒーモスの災毒、下界に消えぬ災厄の毒跡を残して数多の英雄達を殺してきた最悪の猛毒。
ベヒーモス討伐の立役者であった【ゼウス・ファミリア】の英雄すら冒した猛毒だが例の黒剣による前例もあってアミッドならば解毒可能なのは分かっている。
だが、対毒のスキルや専用の武装を持っていないオッタルがその毒に冒されてからアミッドによる治療を受けるまで軽く半刻以上。
むしろ再起の芽があるだけ異常と言える。
「そうか················わかった」
「················聞きたいことはそれで終わりか?」
「······················」
僅かな沈黙。静かに嘆息を落としたフィンにロキは向き直り、その碧眼を真っ直ぐと見据える。
「──────『
「···············見抜いているなら回りくどい聞き方はやめてくれ」
『祭壇』の起動によって緑肉の氾濫が起きてから一刻あまり。
全ての冒険者はとうに地上へ帰還しているがたった一人、フィンや【ディオニュソス・ファミリア】を緑肉から救った他ならぬアルだけは未だ帰還していなかった。
クノッソスの上層から中層、大まかに考えても迷宮十階層以上を効果範囲とした聖火による『穢れた精霊』の触手のみを攻撃対象とした超々広域攻撃魔法。
フィンが聞いたあの『鐘』の音から察するにあの聖火の祭壇はスキルによって最大限その範囲を拡張したアルの【レァ・ポイニクス】。
精霊に対する特攻を有するスキルの後押しもあってか、その出力は個人の眷属の放つものとしては例を見ない最大級。
だが、クノッソスを呑み込まんとする緑肉全てを焼き尽くすにはそれでも範囲が足りないはず。
代償。
アルの持ちうる全ての力を把握してはいない為断ずることはできないが限界を超えた───それこそ階位の壁を覆す程の力の行使を行うためにナニカを支払ったのではないのだろうか。
むしろそうでなくてはアルが地上に戻ってこない理由がない。
精神力を使い果たした程度であれば即座に復帰して戻ってくるであろうアルが戻らないという事はそういうことなのだろう。
それが何かまでは分からないがフィンには嫌な予感がしてならなかった。
「それで、数は?」
「安心せえ、減っとらん。アルは無事や」
────今のところは、という注釈はつくがとはどちらも口に出さない。
フィン達がいる場所からは当然見えないクノッソスの深部を睨み付ける。
最早、クノッソスは全て緑肉によって完全な形で埋め尽くされて脱出は不可能。
クノッソスに取り残されたアルの生還は絶望的だ。
ただ強いだけの敵と戦うのとは違う脅威。クノッソスそのものを魔城へと変えた精霊の奇跡は本来、個人の眷属が抗えるようなものではない。
その条理を覆したアルはまさに現代の英雄と評するにふさわしいがどこまで行っても下界の存在である以上は限界が存在する。
「アルは中層手前·········12階層にいたはず、緑肉に狙われたならもうすでに喰らわれていなければ可笑しい」
「··········せやな。可能性としては今も緑肉から逃れているか、
緑肉が明確に冒険者達を追っていた目的はわからないが察するにその肉体や魔力を喰らって糧とするためだろう。
ほんの数日前、『異端児』と協力して解決した上級冒険者行方不明事件。
ミュラーなる闇派閥の研究者が企てた例の事件では行方不明になった上級冒険者たちを今クノッソスを埋め尽くしているのと同質の緑肉に取り込ませ、その魔力を『穢れた精霊』の領域を構築するために使っていた。
規模も出力も遥かに違うがやっていることは同じだろう。
喰われるのではなく取り込まれる、仮に都市最大の精神力総量を持つアルを件の上級冒険者たちと同じようにエネルギー源とすることができるのであればその丈は計り知れない。
精霊の血を持つが故に狙われたアイズの例もある、混血でこそないが多大なる精霊の加護を受けているアルも同様に狙われていても何もおかしくはない。
最悪の可能性として喰われたり、取り込まれるだけでなく何らかの手段で『穢れた精霊』の触手に、怪人にされるという可能性もあるがそこまで考えても意味はない。
クノッソスに取り残されたアルの生存以上の安否を確かめる手段は現時点では存在しない。
「·············とりあえず緑肉を突破してアルが登ってきた際、すぐに救援に入れるようシャクティ達には言っておく」
夜の終わりを告げる淡い陽光が二人を照らす。
眼下ではクノッソスから溢れ出た緑肉を民衆に見せないための突貫工事を【ガネーシャ・ファミリア】が総出で行っている。
それらを横目にフィンはロキを連れて歩き出す。その歩みの先にいるのは今もアミッドによって治療が続けられているオッタルがいる仮設テントだ。
第一侵攻の戦果は闇派閥の完全壊滅。
代償は【ディオニュソス・ファミリア】の主神と団長の損失───そして、『猛者』と『剣聖』の戦線離脱。
「──────認めよう、僕達は負けた」
【ロキ・ファミリア】は───否、オラリオは『
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破綻している、とアルは目の前の女体に対して強く思う。善意と憐憫、その裏に隠された渇望と悲哀。
アル自身の祭儀に中てられた結果とはいえそれはあまりにも歪だ。
アルを助けたい、と。一緒にいたい、と語る言葉に偽りはないが結果的にやろうとしているのは魔石を埋め込んで怪人とすることに他ならない。
悪意はそこにない、ただただ壊れきってしまっているが故の矛盾。救いのない、果てなき狂気の成れの果て。
その成れの果てには善性も悪性もなく、ただ単純にアルを助けたいと願うあまりそれ以外の全てを蔑ろにしようとしている。
かつての自分を思い起こさせるが故に全てを投げ捨ててでも手を差し伸べようとし、肝心のアルのことすらもその瞳には映っていない。
故に。
「悪いが、お前の未練に付き合う気は毛頭ない」
突き放すように言い捨てたアルの言葉に『穢れた精霊』はほんの少しだけ動きを止める。
『────────』
その言葉に、女体の瞳に初めて紅い感情が灯った。それは怒りであり、そして失望だった。アルの拒絶に対する悲しみと絶望がその瞳を暗く染め上げる。
『なんで、なんでなンでナンデ、ドウシテ寂しくなクてスむのに、わタしが一緒ニいてあげルのに』
「寂しさを埋めたいのはお前だろう? 俺をレヴィスの代わりにしたいだけだろうに」
『違ウ、私は貴方を助けたいの』
「結果、魔石を埋め込んで怪人にすると?」
その言葉に、女体は押し黙る。図星を突かれたからではない。その沈黙は、アルの拒絶に対する怒りと悲しみが故だ。
彼女は、『穢れた精霊』は誰かを助けるにはもう壊れすぎている。
死してなお、ダンジョンに取り込まれた彼女は既に壊れている。
それは最早、精霊ではない。精霊の形をした何かでしかない。そんな存在に手を差し伸べられても、誰もその手を取る事などできないし、ましてや誰かを救う事などできはしない。
「お前の俺への憐憫は、その『未練』故か。完全に壊れきっていないのが始末に悪い───いや、俺が壊れた人形に火を入れてしまったのか」
一過性のものとはいえそれは確かにアルへの嘘のない同情であり、穢れのない想念だった。
それは偏にかつての自身の似姿であるアルに対する憐憫と英雄に対する羨望と憧憬、そして自らと同じ末路を辿らないでほしいというある種の祈りに近い。
救いたいと願った相手に拒絶され、傷付きながらもそれでも救おうと縋る姿は哀れみを誘う。
「同情しているようで同情を誘っている。お前の
『─────ッ』
ゾワリ、と。『穢れた精霊』の魂に刻まれたその感情が再び顕在化する。
既に炭化しかけていた筈のアルの肉体から熱気が揺らめくように立ち昇る。
熱は、揺らめく炎となってその身体を覆う。炭化した皮膚がボロボロと零れながらも陽炎の衣に阻まれるように肌を包み隠していく。
アル・クラネルの身体を巡る膨大な魔力が燃え盛る炎の勢いを増して周囲から水気を奪わんと荒れ狂う。
同時に、その瞳には赫炎が煌めく。
灼熱に燃え盛るその双眸は見る者を焼き焦がすかのように爛々と輝き、相対する存在の心をも焼き焦がさんとしている。
『いやっ─────』
それは、その輝きは。
その瞳は、その存在は。
女体の貌に宿った怒りの色が恐怖へと塗り替えられていく。紫紺の闇を払う深紅の光はまるで荒れ狂う業火の如く。
一切の容赦なく、無慈悲に全てを呑み込んでいくかのように緑肉も女体も区別なく焼き焦がしていく。
赫炎が女体の貌を焼き焦がしていく。それでも燻るような白煙を上げながら融解していく女体は一層強くアルに取り縋る。
その身を焼かれる苦痛よりも目の前の存在との繋がりを失う事への恐怖が勝る。
地の底で生きながらにして死んでいる『穢れた精霊』として在り続けるしか無かった彼女にとって目の前の相手は余りにも眩い光だ。
その瞳は憐憫も同情もなくただ純粋に
ただただ敵と定めた相手を打ち倒さんとする意志だけがあった。
「少し、お前を見誤っていたのは認めよう。だが───
それをなぜお前程度に許容しなければならない、とアルは女体をそして自分自身をなお焼き焦がしながら告げた。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
··················そりゃ俺が怪人になったらめちゃくちゃ美味しいよ?
フィルヴィスは元よりアイズやベート、なによりフィンすら俺が殺すべき『怪物』になったことでめちゃくちゃ曇ってくれるだろう。
下手すりゃ盛大に死ぬより美味しい思いできそうだけどさ。
············でもさ、今のタイミングで俺が怪人になったらオラリオ滅んじゃうよね?
俺が怪人になった場合の強化率がどんなもんかは知らんけどエインとかの例考えたら···················ねぇ?
魔石という明確な弱点ができるけど強化された俺の急所ブチ抜けるやつなんてベルの他にはオッタルかフィンくらいしかいないだろうし···················。
てか据え置きでも穢れた精霊の人形に俺がなっちゃったらバベルとか戦いの野に残光英斬に【リーヴ・ユグドラシル】乗せた誘導型ミサイルが飛んでっちゃう。
相性的にアイズも割と簡単に攫えちゃうだろうし························。
··············うーん、悩ましい、悩ましいけどその誘いには乗れないかなぁ。
『レヴィスと一緒ニしてあげるから淋しくないのに』
『えっ』
─────────えっ、それ七代目レヴィスの魔石なん?
·······························································································································································································································································································································ちょっと待って、少し考えるわ。
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穢れた精霊『助けてあげる!!』
穢れた英雄『怪人化って言うほど助けてるか?』
穢れた精霊『なんで嫌なの!!』
穢れた英雄『精神構造が人間からかけ離れたやつはちょっと···』
穢れた精霊『レヴィスの魔石にしてあげるのに』
穢れた英雄『おい、ちょっと待て、話が変わってきたぞ』手首球体関節