皆の傷になって死にたい転生者がベルの兄で才禍の怪物なのは間違っている   作:マタタビネガー

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186話 長年熟成発酵を優先するべきか

 

 

 

 

 

レヴィスちゃんはエインやオリヴァスとは違う特殊な怪人だ。

 

いや、最初の怪人がレヴィスちゃんなのだから特殊も何もないか。

 

ともあれレヴィスちゃんは怪人化───魔石に魂を移された際にその魔石を『穢れた精霊』によって七等分にされている。

 

なんで『穢れた精霊』がそんなことをしたかは知らないが結果的に彼女はその身体が魔石ごと死ぬ度に新しい遺体に新しい魔石を埋め込むことで宿り蘇るという現象を何度も繰り返している。

 

前回のレヴィスちゃん───赤髪の怪人はその六代目。

 

『穢れた精霊』がダンジョンでレヴィスちゃんの魂に適合する冒険者の遺体を見つける度に復活してきた彼女だがそれも次で最後。

 

七つ目の魔石、七代目のレヴィス。

 

『穢れた精霊』の言葉が本当なら今、こいつが俺に埋め込もうとしてるのがそれなんだろう。

 

─────めちゃくちゃおいしい。

 

俺が魔石に適合するかは知らんけどどちらにせよめっちゃおいしい。

 

俺が怪人になることでのメリットは言うまでもないことだが、レヴィスちゃんの器になるというのはアイズと六代目レヴィスちゃんを殺したエインをめちゃくちゃ曇らせられるだろう。

 

まぁ、各代のレヴィスちゃん自体は連続性がなくて先代の経験は知っているだけで体験していないようなもんらしいからそこはちょっと味気ないけど仕方ない。

 

俺が死んだ後の反応を身体を生かした状態で見れるのはかなりでかい。

 

俺ならレヴィスちゃんに全部乗っ取られたとしても肉体か精神か魂のどれかが残ってれば外界を認識できる、できなくても気合でどうにかする。

 

これに頷いたらこれからの計画全部がなかったことになるけどどっちも同じぐらい魅力的だしなぁ。

 

何より美味しいのが本来どうやっても無理な冒険者側··········アイズやフィンの手で死ぬことができるという点だ。

 

アルフィアとザルドのあれこれを再演するってのも悪くないし、モンスター属性つけばアイズも割といい線行けそうだしな。

 

かーーーっ、どうすっかなぁ。

 

·········································あぁ、でも。

 

エインに言質取っちゃったからなぁ。

 

棚ぼたのレヴィスちゃんより長年熟成発酵のエインのが優先すべき、よな。

 

んー············惜しいけどまぁ、仕方ない。

 

初心貫徹ってわけじゃないがエインに殺されて終わるか。

 

エインが怪人化勧めてきたらその時はその時で。

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

熱が火となって女体の全身を包み込む。赤と橙が入り混じった炎は紫紺の闇を塗り潰すかのように燃え広がっていく。

 

緑肉に侵された領域を焼き焦がし、融解した超硬金属を更に溶かすように焼き祓っていく。

 

その炎に焼かれる痛みを怒りで紛らわせるように女体の貌が歪み、歯を食いしばった口から呪詛の如き呻吟の声が零れる。

 

焼き祓われた身体に炎が揺らめく。それはアルの感情を表すかのように強く激しく燃え上がり、女体を呑み込んでいく。

 

融解した石畳が蒸発して、石畳に穿たれた大穴からは蒸散するように水蒸気が立ち昇る。

 

蒸発した水分が熱されて湯気となりアルの身体を焼き焦がし、気化したそれらが呼吸と共に肺腑を焼く。

 

だが、それでもなおアルは炎を消すことなく女体を焼き祓う。

 

『なんで、なんでッ、私はタダ貴方を助けタイダケなのに、なんで!?』

 

 譫言のように、あるいは呪詛のように女体が呟く。その声音には既に恐怖が宿りつつある。

 

アル・クラネルという英雄の魂を垣間見た事による憧憬と羨望、そして憐れみは最早ない。ただ目の前の敵に対する濡れた渇望だけがある。

 

その双眸からは止めどなく涙が溢れて、炎に炙られた頬が涙の跡を刻み込んでいく。

 

縋り付くように伸ばされた腕が炭化してボロボロと崩れる。エインとは違い、緑肉を寄せ集めただけの急造の器ではアルの炎に抗うことなぞできるはずもない。

 

焼かれた箇所が炭化して崩れ落ちるたびに、アルへの憧憬と渇望が涙となって零れ落ちる。縋り付くように伸ばされた腕が炭化してボロボロと崩れる。

 

だが、それでもなお女体は止まらない。

 

その身は既に半ば以上が炭化し崩れているというのに、なおも焼き祓われながら手を伸ばすその姿はいっそ哀れですらある。

 

美しい緑髪を振り乱し、涙と煤で顔を汚しながら女体が泣き叫ぶ。

 

蠱惑的ですらあった白磁の美貌は無惨に焼け爛れて見る影もない。

 

身体を燃やされてなお、女体はアルを求めることをやめようとしない。その感情が憐れみなのか渇望なのかはもはや本人でさえもわからないのだろう。

 

それでも彼女は決して止まらないし止まれない。

 

彼女の慟哭に呼応するように緑肉が再び蠢き出す。触手のように伸ばされたそれはアルを捉えんと蠢くものの、それが叶う事はない。

 

紫電と聖火に焼き祓われ、瞬く間に炭化する緑肉。その焼け焦げた触手がアルの身体を捉えんと絡みつく。だが、それもまた聖火によって焼き祓われ、炭化した触手は灰となって崩れ落ちる。

 

いくら手を伸ばせどもアルはその手を取ろうとはしない。

 

『貴方も、私の手を取ってはくれないの────?』

 

「────あぁ、俺は君の『英雄』にはなれないよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アルが戻ってきてないってどういうこと!!」

 

「その言葉の通りだ、アイズ。壊れる直前の『眼晶』の通信からするとおそらくは中層手前の12階層に取り残されている」

 

 第一侵攻の翌朝、各員当然のように徹夜で休みなく動き続けようやく一息ついた頃。

 

ダイダロス通りに仮設した陣で昨夜の報告と、今後の方針について話し合っているフィン達のもとにアイズが血相を変えて飛び込んできたのが、つい先ほどのこと。

 

アイズの横で苦渋に満ちた表情を浮かべるリヴェリアを余所にフィンは冷静に、そして淡々と事実のみを語る。

 

「なんでっ、言ってくれれば──!!」

 

「だから君には言わなかった」

 

「────っ」

 

 地上に戻ってすぐは未だ状況を掴みきれていないのといたずらに戦意を落とさないようアルがクノッソスからまだ帰還していないということはフィン達首脳陣とシャクティ、アミッドのみにしか知らせていなかった。

 

とはいえ、アイズに伝えていなかったのはまた別の意図。

 

地上に戻ったばかりのアイズがアルがまだクノッソス内部に取り残されてると知ったらリヴェリア達が止めようとも振り払って単独で救援に向かおうとする可能性があった。

 

「ロキの恩恵の反応はいまだ消えていない。どういう状態かは分からないが少なくともまだアルは生きている」

 

「なら、すぐに助けに行かないとっ!!」

 

()()()

 

 焦燥に駆られる黄金の瞳の少女に対し、フィンははっきりと言い切る。アイズの咆哮に近い激情を一言の下に切り捨てる。

 

フィンの断言にアイズは息を呑み、その隣ではリヴェリアが目を伏せる。

 

「戦力と準備が足りない。オッタルが倒れ、アルがいない以上、今の僕たちにあの魔窟を征するだけの戦力は用意できない」

 

「他ならぬアルが囚われている領域に無策で向かえばまず間違いなく全滅する。戦力も準備も足りていない今の僕達ではアルは救えない」 

 

「っっ────!!」

 

 アイズの憤激を凌駕する程の静かなる激情。それがフィンの声色、表情から滲み出していた。湖のような蒼い瞳には強い光と鋭い意思が宿っている。

 

己に言い聞かせるように告げるフィンの言葉に、アイズは今度こそ言葉を失う。

 

感情のままに動けば全滅する。冷静でもアルを助けるのは困難極まりない。

 

最も有効な一手を打つために想いを封する。

 

感情と思考を切り離した冷徹な戦士の表情でフィンは告げる。

 

「最低でも状況の把握とオッタルの再起を待たなくてはアルの救助には向かえない」

 

「後は望みは薄いが既にギルドを通して秘密裏にオラリオ外········一部の世界勢力にも協力を要請している」

 

 フィン達が行かないなら私一人でも、そんな言葉が口の中で暴れては言葉となる前に霧散していく。

 

フィンが告げた言葉は正論であり、覆しようのない現実。反論の余地のない完璧な正論を感情論で否定したところで意味などない。

 

それでも、アルを助けに行きたいという気持ちを理性が抑え込む事など出来はしない。そんな葛藤に顔を歪ませるアイズにフィンは声をかける。

 

「僕たちは英雄じゃない。必要なら僕たちは············保身に走る『臆病者』を選ばなくてはならない」

 

 苦渋に満ちた表情で絞り出されるフィンの言葉にアイズは視線を背ける。感情ではアルを救いたい。けど、その感情に流される事は決して許されない。

 

感情に任せて動こうものなら最悪の事態を招きかねない。アルの救出を願うという感情は押し殺し、理性で感情を制御しろとフィンは言っている。

 

「──────────わかった」

 

 絞り出されていた言葉はか細く、掠れていて今にも消え入りそうなほど小さかった。

 

俯くアイズの肩はわずかに震えている。俯いたまま、それでもアイズははっきりとフィンの言葉に頷いた。

 

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 

 

 

 

 

 

 

「それに」

 

「履き違えるな、君の救いは俺を救う事じゃない」

 

『───────っ』

 

 アルの声色が変わる。それまでの冷淡な声音から一変、まるで諭すように言葉を紡ぐ。淡々とした言葉ではあるがそこには侮蔑も哀れみもない。ただ、当然の帰結を告げるような静謐さが満ちている。

 

『熱』が、先ほどまでの敵対者を焼くものとは全く別の、魂を赤熱させる清廉な浄化の炎となって燃え上がる。

 

超越存在である神々が放つ神威にも似て非なる、一個の存在として条理から逸脱した者が放つ魂の業火。

 

それを前にして女体の貌から畏怖と恐怖の色が引いていく。その瞳に宿るのはやはり英雄に対する羨望と憧憬。

 

「取り繕うな、願うのなら自分の言葉で望め」

 

『··································私は』

 

 こうしている今も聖火は女体を灰へと還していく。炭化した部位は最早、溶解しているかのようにボロボロと崩れ落ちるのみだ。

 

灰化しつつある女体は既に形を保つ事さえ難しくなっている。それでもなお彼女は言葉を紡ごうと口を開くが、果たしてそれは言葉となるのか。

 

アルの、魂を焼き尽くすような熱量に反して、その声音には一切の敵意も悪意も存在しない。ただ淡々と事実を述べるように言葉を紡ぐだけだ。

 

だが、だからこそその言葉は彼女の魂に突き刺さる。

 

「言ってみろ、精霊。君は真に俺へ何を望む?」

 

 女体の全てが灰となって消え去る寸前、彼女に問いかけた。

 

 

 

 

 

『·····························································································································································································································································································································お願い、いつか私に会い(怪物を殺し)に来て』

 

『今度こそ、待ってるから』

 

 

 

 

 

 

────────────────────────────────────────────────────────────────────────

 

 

・アルの曇らせ口調七段階

一段階(無関心、無口)→二段階(冷めた英雄憧憬、それっぽい発言)→三段階(荒い口調)→四段階(才禍モード、アルフィアエミュ)→五段階(本気才禍モード、アルフィア&ザルド&ゼウスエミュ)→六段階(二人称が君、貴方)→七段階(僕、アルゴノゥトエミュ)

 

基本は一段階対応、フィンやアイズが二段階、後はテンション次第。ベル、アミッドは三段階っぽい八。

 

アストレアIFは常時が三段階、静穏は五と六の間。

 

 

【11章リザルト】

・VSエイン(ベヒーモスの災毒、魅了の花粉、魔力毒の竜爪、精霊魔法)

損傷:即治癒できる範疇

本気度:10段階中7

経験値:力(小)、器用(中)、魔力(中)

世界「おっ、いいね」

 

・ラグナロク・ギムレー(全身火達磨)

損傷:全表皮炭化、片腕灰化

本気度:10段階中9(10は焼死)

経験値:耐久(中)、器用(小)、魔力(中)

世界「大丈夫? 死なない?」

 

・騙現・精霊の聖火殿(器の限界を超えた力の行使)

損傷:全身裂傷、精神枯渇

本気度:10段階中10 

経験値:耐久(中)、器用(極大)、魔力(極大)

世界「はわわわわわわわわわわわ!?!?!?」

 

・穢れた精霊の勧誘拒否(魅了、精神汚染)

損傷:火傷深化

本気度:10段階中2

経験値:耐久(微)、魔力(微)

世界「またやってんのか」

 

 

 

 






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