皆の傷になって死にたい転生者がベルの兄で才禍の怪物なのは間違っている   作:マタタビネガー

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短いよ




十一章完結記念187話 英雄憧憬

 

 

 

アル達とエレボス達の遭遇から半刻ほど。

 

偶然にもリューと対面したエレボスはリューに残酷な『選択』を迫っていた。

 

「··················まさ、か」

 

 心が戦慄に震える、鼓動が早まる、呼吸が荒くなる。喉が張り付くように渇き、脚が震えそうになる。

 

「そのまさかだ。選ベ、リオン」

 

「────多を殺し、個を救うか。民衆を守るために友を犠牲にするか」

 

 悪辣なる邪神の、『悪』の二者択一。神の宣言に喘ぐように震える声を漏らすリオンの顔から一切の表情が消え去る。

 

「今にも死にそうな友を救いに行くのであれば我が神意のもと、民衆は全て必ず殺す」

 

「友を見殺しにするというのであれば我が名を持ってこの場での民衆の無事は確約しよう」

 

 リオンの友───『白髪鬼』をはじめとした闇派閥の兵たちに囲まれて絶対絶命の状況にあるアスフィの命とその他大勢の民衆の命を秤に掛け、選択を迫る。

 

お前の『正義』はどんなものか、と。

 

これ以上なく残酷なトロッコ問題。

その天秤はリオンに、己の中の善悪を問い掛ける。

 

この場でアスフィを見捨てることが正しいのか、それとも大勢を切り捨てるべきなのかと。

 

「···················ふざけるな····················ふざけるなっ!! 人の命をなんだと思っている!!」

 

「そんな 常套句は聞き飽きている。お前に求めるのは『選択』、それ以上でもそれ以下でもそれ以外でもない」

 

「選べる、わけが───」

 

「選べない、選ばない。─────救える機会がありながらそれに手を伸ばさない行為は『悪』だ」

 

「だがら、選べ。お前の『正義』を」

 

「うああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ────っ!?」

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

 

アイツ、また性悪神にいじめられて曇ってんのかよ。

 

まぁ、俺由来じゃないからくそどうでもいいけど。

 

どちらにせよアスフィも民衆も死なせる気ないから最悪、最大チャージのミサイル投槍ぶち込んでわやにするんだけどギリギリまでは邪魔しない方がいいよな。

 

アーディが生きてるからどうなるかわからんけど俺が死んだことを考えるならリュー自身に答えを出させるべきだろうしな。

 

まぁ、最悪いつでも介入できるようにそばに張っておくか───────ぁ

 

やばっ、しくった、流石に今の俺じゃ─────

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

オラリオが闇派閥に決定的な敗北を喫してから約一日。

 

都市を覆う盾であり檻である巨大市壁を押さえられ、強制的な籠城を強いらされたオラリオの冒険者達は少しずつその身体を削られ、刻一刻と悪化していく戦況に精神を磨り減らしながら耐え忍んでいた。

 

少ない物資を切り詰めながら不定期に行われるテロ行為や仮設キャンプへの襲撃の対応。

 

襲撃の度に冒険者達が死力を尽くしてこれを退けているが、その被害は冒険者・民衆問わず甚大なものだ。

 

既に全体の一割以上の冒険者が死亡し、その数は今もなお増え続けている。

 

冒険者達の士気は決して高いとは決して呼べず、民衆の精神状態はそれに輪をかけて酷い。

 

食料を始めとした生活必需品すら満足に手に入らない配給体制に市外へと避難することすら許されずに都市内に閉じ込められ、いつ自分達も闇派閥の凶刃に倒れるか解らないのだから当然と言えば当然だろう。

 

いつ終わるともしれぬ不安と恐怖は確実に人々の心を蝕み、その心を圧し折ろうとしていた。

 

秘密裏に冒険者や闇派閥の目に届かないところで動くギルドの私兵の魔術師や各有力派閥の尽力がなければ民衆による蜂起がいつ起こってもおかしくはなかっただろう。

 

「無知の罪人共を血に沈めろォ!!」

 

「っ、次から次へと」

 

 弾ける火柱、響く悲鳴、崩れる建物。何度目かと数えることすら馬鹿らしくなる襲撃に冒険者達は歯噛みする。

 

都市の憲兵であり二大派閥に次ぐ有力派閥の【ガネーシャ・ファミリア】が民衆の保護に奔走し、少しでも犠牲を減らそうとしているが、その奮闘も焼け石に水だ。

 

「自爆前提の雑兵ばかり··········!! 私達を削るための嫌がらせか」

 

 いくら数が多くとも第一級冒険者に限りなく近いLv.4であるシャクティを筆頭に第二級冒険者を多数擁する【ガネーシャ・ファミリア】を相手にして戦える者は闇派閥の中でもごく限られている。

 

襲撃を仕掛けてくるのは『殺帝』や『白髪鬼』といった幹部のいない雑兵の群れ。

 

鎧袖一触、とまではいわないがそれでも冒険者達からすれば大した脅威ではなく、また自爆するとはいえ初見だからこそ脅威となったのであって既に既知である以上、その対処も容易だ。

 

だが、休みなく襲いかかってくる雑兵をその都度倒していてはいくら上級冒険者といえど消耗は免れず、休息のない戦いの連続は身体から確実に力を奪い去っていき、守るべき民衆からの心ない言葉や態度が冒険者達の心を少しずつ苛んでいく。

 

「気を抜くな、アーディ!! 相手が雑兵とてそれでは足を掬われるぞ!!」

 

「ッ··············ごめん、お姉ちゃん」

 

 常であれば春風のような穏やかさと若草を思わせる爽やかな風貌を曇らせながら戦うヒューマンの少女、アーディはその風貌を曇らせ実姉であるシャクティに謝りながら次の標的を見据える。

 

Lv.3であるアーディにとって雑兵たちは苦戦するような相手ではないが身体よりも心がついて行っていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

················少し、疲れちゃった。

 

あの夜から私達【ガネーシャ・ファミリア】はほぼ休みなくずっと走り回っている。

 

都市の憲兵として、都市の平和を守る為に。

 

あの夜から絶え間なく起きる闇派閥信徒のテロ行為や民衆の蜂起の芽を潰す為に冒険者としての心身を削りながら奔走しているが終わりは一切見えず、終わりの見えない戦いにみんなの心も折れ始めている。

 

分かっているだけでも死傷者はすでに三万人を超え、自宅を失った避難民は膨れ上がり都市内は暴動一歩手前の緊張状態。

 

(このままじゃだめなのはわかってる。戦える私達こそみんなを勇気付けないといけないのに)

 

 そうは解っていても頭と身体に心がついていかない。

 

意識が途切れる寸前まで戦っていても蓄積した疲労は身体に重くのしかかっていて気を抜けば倒れてしまいそうだけどそんなことできる訳がない。

 

今のオラリオに明るい笑顔を浮かべている人などいない。みんな不安に怯え、恐怖に震え、絶望している。

 

それは私達冒険者だって例外じゃない。

 

『英雄の不在』。

 

今のオラリオに、今の冒険者の中に英雄足る人物は、みんなに『希望』を示せる人はいない。

 

(私じゃ···········みんなの英雄には、なれない)

 

 英雄に憧れていた。

 

いや、正しくは今も変わらず憧れている。

 

小さい頃から英雄譚が好きだった、絶望と困難を笑い飛ばして悲劇を喜劇に変えてしまう英雄の話が大好きで憧れた。

 

清廉な騎士であり、その勇気と勇壮でもってこのオラリオの地に偉大なる光の蹄跡を刻んだ小人族の英雄、フィアナ。

 

大精霊と共にモンスターの進出を堰き止める蓋、今の迷宮都市の前身となる要塞を築き上げた水光の騎士、フルランド。

 

そして、多くの人々に騙されて指をさされながらも最後には怪物を打ち倒して古代における英雄時代の幕開けの先導を担った『アルゴノゥト』。

 

憧れた、憧憬を抱いた。

 

自分もそうなりたいと強く望んだ。

 

でも、届かない。

 

この都市の風景に心をくじかれてしまいそうになる。

 

自分に悲劇を喜劇に変える──暗黒期の終結、そして黒き終末の討伐──程の『英雄の器』はないのだと心のどこかで悟ってしまった。

 

(今、私、笑えてる───?)

 

 辛いときだからこそ、辛いときだからこそ笑顔を絶やしてはならない。

 

冒険者の私が昏い顔なんてしてたらみんなも安心できるものも安心できなくってしまう。

 

それが解っていても水溜りに映った私の顔はどこまでも暗い。

 

(だめ···········笑え、笑わなきゃ)

 

 膝が震えて立っているのも辛い。

今すぐ倒れこんで眠ってしまいたい。

 

今になってあの時の恐怖が蘇ってくる。

 

アルが私を庇って火に巻かれて瓦礫に押し潰された姿が脳裏に焼き付いて離れない。

 

アルが生還したという話は聞いている。

 

その上、リオン達を逃がすために敵の最大戦力である【ヘラ・ファミリア】の『静寂』と一騎打ちで戦ったという。

 

英雄、或いはアルはそう呼ばれるのに相応しいのかもしれない。

 

(·················あぁ)

 

 アルとは会えていない。間が悪いわけではなく、私が避けているだけ。

 

庇われて合わせる顔がない、なんて意味では勿論なく、ただ────

 

(今の私には、多分、アルは眩しすぎる)

 

 希望を抱けない、憧憬が揺らいでしまう、そんな自分が彼に会える筈がない。

 

今、アルに会ったらその光に呑み込まれてしまいそうで怖かった。

 

だから、今は会えない。

 

「英雄ってなんなんだろう────」

 

 ぽつり、と口から零れた言葉は誰にも届かないまま雑踏に融けて消えていく。

 

おとぎ話の英雄達ならこんな時どんな風にみんなを勇気付けるのだろう。

 

わからない。

 

私は、英雄には────

 

「────なに、この『鐘』の音」

 

 ゴォン、ゴォォンという重苦しい響き。早鐘を打つような鼓動、鋭さより重さが勝る音。

 

どこからか響いてくるそれを私はどこかで聞いた覚えがあるような気がした。

 

確かそれは────······

 

ゴォン、ともう一度鐘が響くと同時に自分の中のナニカが赤熱する。

 

鐘の音が私の中のナニカを揺り起こすように、鐘の音が私の中のナニカをせき止めていたモノを取り除いてくれるように。

 

ゴォォン、と四度鐘が響く。

 

「これは、アルの───」

 

 理由はない、根拠はない。

 

だが、この『英雄の歌』を今のオラリオでこうまで高らかに奏でるのは、奏でられるのはアルしかいない。

 

ゴォン、と五度目の鐘が響くと同時に私は走り出していた。

 

この鐘を鳴らしているのが本当にアルなら、きっと今も戦っている。

 

根拠はないけれど確信があった。

 

だから私は走った、走って走って走り続けた。

 

アルが私より強いことなんてそこに行かない理由にはならない。

 

そして、その路地でその背中を見つけた。

 

英雄の背中だ。

 

私よりも小さいはずなのに、誰よりも大きく見えるその背中に私は───

 

 

 

 

 

 

 

 

「【レーア・アムブロシア】」

 

 その、背中が崩れ落ちるのを見た。

 

 

 

 

 

 

 

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ぶっちゃけ色々とばし過ぎな気もしなくないけど一章につき一話なのでこのくらいのダイジェスト感で。

 

白髪ショタ「あっ、張り込む場所しくった」

 

経験不足&思慮不足。かなり追い詰められてるがゆえに遊びがない本編と違って若い上にいつでも機会があると思ってるアストレアIFはかなり迂闊。

 

【〜大抗争一日目リザルト】

・ディース姉妹(二対一、剣技、魔剣、火の魔法)

損傷:ほぼなし

本気度:10段階中7

経験値:器用(微)、魔力(小)

世界「·················えっ、あぁ、見てなかった」

 

・自爆兵直撃&瓦礫

損傷:大火傷、軽い外傷

本気度:10段階中1

経験値:耐久(小)、魔力(微)

世界「·················(。-ω-)zzz. . . (。゚ω゚) ハッ!」

 

・アルフィア(才禍)

損傷:全身欠損手前の深手、音波で中身ミックスジュース、精神枯渇

本気度:10段階中10、なんなら11

経験値:器用(極大)、その他アビリティ(大)、発展アビリティ(大)

世界「がんばれーーーーーーーーーーー!!」

 

・次の戦い

世界「にげてーーーーーーーーーーー!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






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