皆の傷になって死にたい転生者がベルの兄で才禍の怪物なのは間違っている   作:マタタビネガー

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十九話 

 

 

 

 

 

今の俺を殺せる相手はレヴィスちゃんとオッタル、隻眼の黒竜などを除けば非常に少ない。

 

まあ、アステリオスとかもポテンシャルは高いけどあの牛は弟のヒロイン()なんで手を出すつもりはない。

 

現状、その中で殺されておいしい展開になりそうなのはレヴィスちゃんだが、実はレヴィスちゃん以上の逸材がいる。

 

それがフィルヴィスだ。

 

コイツはLv3だが、以前に27階層の悪夢で穢れた精霊の魔石を埋め込まれたせいで怪人化しているのだ。

 

にしては弱すぎない? って思うかもしれないがいつものフィルヴィスは分身魔法によってステイタスを半分に割っているせいだ。分身魔法を解除した際の強さは原作でLv7上位相当であり、終盤のレヴィスちゃんよりも強い。

 

·······もう一度言おう、原作でLv7上位相当で終盤のレヴィスちゃんより強いのだ

 

なんだかんだ言って俺と一年間ダンジョンに潜って階層主やら強化種と凄まじい過密スケジュールで戦い続けてたし、怪人がランクアップするかは知らんがそのステイタスはLv4にほど近い、分身魔法を解除すればLv8級にも届きうるかもしれない

 

しかも、レヴィスちゃんとは違って精神は人間寄りであり、俺がどうこうする以前から自分の変わり果てた身体や死んでいった仲間のことを思って曇っている。

 

俺を殺せるだけでなく仲良くなれば曇ってもくれるのだ。

 

···········おいおい、女神かな?

 

俺は考えた。フィルヴィスとこれでもかと仲良くなってから殺してもらおうと。そして彼女自身には生き延びてもらう。

 

本当ならレフィーヤたちの前で殺してほしいがフィルヴィス自身の曇らせ適性がダンまちキャラトップクラスに高いのでフィルヴィスだけの曇り顔でも満足できるだろう。

 

一人では無理だったとしてもレヴィスちゃんと二人がかりで来てくれれば確実に殺してくれるはずだ。

 

待ち遠しいぜ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アイズと【ヘルメスファミリア】が分断される少し前。レフィーヤとフィルヴィス、ベートの三人は目標階層である24階層に辿り着いていた。

 

道中、何度かモンスターとの戦闘があったのだが、そこはベート達、危なげなく撃破し、ここまで来ていたのだ。

 

レフィーヤ達は改めて気を引き締めると、警戒しながら先へと進む。そして、24階層についてみれば無数のドロップアイテムがモンスターの大量発生が報告されていた北の正規ルートから外れて少し進んだ先に散乱していた。恐らく先行した冒険者達のものだろう。

 

その数はこの階層を普段、探索しているLv2、Lv3の上級冒険者の手に負える数ではないはずだ。それこそ、統率の取れた何十名もの上級冒険者で編成されたパーティでなければ容易く圧殺されてしまう程の数の暴力だ。

 

しかし、この辺りにはそのような壮絶な戦闘の痕跡らしきものは見当たらない。極めて鋭い切断面をもった死骸や砕けた武器の破片などが散らばっているだけだ。

 

まるで何か強大な存在によって一瞬にして片付けられてしまったかのように。そう考えると、レフィーヤ達の脳裏には一つの考えしか浮かばなかった。アイズが先行し、これを行ったのではないかという考えだ。

 

「【一掃せよ、破邪の聖杖】」

 

 花状の盾を持った『リザードマン』を細剣で切り払い、【耐異常】のアビリティを持たない上級冒険者であれば即死する恐れもある猛毒の胞子を浴びても平然としながらフィルヴィスが短杖を構える。

 

「【ディオ・テュルソス】!!」

 

 なおも毒胞子を拡散させる『ダーク・ファンガス』に狙いを定め、超短文詠唱からなる雷魔法を放つ。放たれた稲光は瞬く間に広がり、視界を白く染め上げながら五体以上のモンスター達を貫いていく。

 

その一撃だけで数十体はいたであろうモンスターの半数近くを吹き飛ばし、残ったモンスター達に動揺が広がる中、フィルヴィスは一気に駆け出す。

 

ベテランの立ち振る舞いで振るわれるフィルヴィスの細剣は的確にモンスターの命を奪っていく。

 

高速戦闘下における『魔法』と『剣』の的確な切り替えによる戦い方はフィルヴィスが長年かけて身に付けたものだ。

 

 

それは第一級冒険者のように圧倒的な力をもって敵をねじ伏せるのではなく、敵の弱点を見極め、そこを突くことで敵を倒す技術であり、フィルヴィスはその道において卓越した腕前を持っている。

 

「凄い········」

 

「へえ」

 

 そんなフィルヴィスの戦いぶりにレフィーヤは思わず見惚れてしまいそうになり、ベートですら感心したように呟きを漏らす。レフィーヤのような純後衛の魔導士とはまた違ったタイプの魔導士である『魔法剣士』。

 

『砲台』である純後衛の魔導士のように強大な破壊力を持った砲撃を繰り出すわけではなく、相手の攻撃を前衛の間合いで回避しながら短文、超短文詠唱からなる射撃を繰り返し、相手を確実に仕留めるというスタイルであり、接近戦では相手に密着するほどに接近して前衛職のように斬り合いを演じるというまさに理想の中衛戦士と言える。

 

魔法を使える剣士と違うのは魔法円を展開できる【魔導】の発展アビリティを有しているかどうかで、オラリオでもっとも有名な魔法剣士は【フレイヤファミリア】の『黒妖の魔剣(ダインスレイヴ)』ヘグニ・ラグナールと『白妖の魔杖(ヒルドスレイヴ)』ヘディン・セルランドだろう。

 

一般に最強の魔法剣士と呼ばれ、オラリオ最強であるアルも一応、スキルによって【魔導】を一時的に獲得して魔法円を展開できるため定義上は魔法剣士と言えるが、前衛にして魔導士、『魔法剣士』とも異なる完全なる『個』であって魔法を使う剣士として扱われている。

 

そんな魔法剣士の中でもフィルヴィスは卓越した技量を持つ実力者だった。超短文詠唱による魔法の連射速度に優れ、その一撃一撃の威力も高い。

 

加えて、相手によっては近距離戦にも長けている。端麗な容姿も相まって彼女はまさしく戦場の花形に相応しい実力を持っていた。

 

前線で戦うことができる速度重視の上級中衛職、どんなパーティでも活躍できる万能性を持つモテモテひっぱりだこな役職──────しかも、美人!!(ここ重要)

 

レフィーヤは内心でフィルヴィスの強さに舌を巻きつつ、自身も負けじと魔法を発動させる。レフィーヤの放った魔法の威力はリヴェリア程ではないが、それでも並の魔導士が放つものより遥かに強力だった。

 

自分よりも年下のエルフの少女から放たれる強力な攻撃に驚きながらも、フィルヴィスはレフィーヤと背中合わせになるように位置取りを変えながら次々とモンスターを撃破していく。

 

戦いが終わってから暫くしてもフィルヴィスの戦いぶりにレフィーヤは感動していた。

 

リヴェリアやアリシアほどではないとはいえ、レフィーヤもまた、優秀な魔導士だ。単純な火力だけならレフィーヤの方が上だ。

 

しかし、戦いの立ち回り方に関してはまだまだ未熟で、何よりフィルヴィスのように的確な状況判断や中衛はできない。フィルヴィスの戦い方はレフィーヤにとって非常に参考になるものだった。

 

フィルヴィスの華麗な戦闘に見惚れると同時に、劣等感を刺激され、思わずレフィーヤは唇を噛む。

 

「てめーもアレくらいできるようになればな」

 

 そんなレフィーヤに追い打ちをかけるような言葉を放つベート。並行詠唱を習得しておらず、前衛の守りがなければ満足に戦えない純後衛の魔導士であるレフィーヤと近中遠に隙なく対応してみせるフィルヴィスではどちらが優れているかなど一目瞭然だ。

 

だが、レフィーヤはそんなベートの言葉に言い返せなかった。悔しかったが、それは事実なのだから。フィルヴィスがアルの元パーティーであることは聞いていたが、ここまで強いとは思わなかった。

 

レベルこそレフィーヤと同じLv3だがその立ち回りの巧さは第一級冒険者にも匹敵する。レフィーヤはフィルヴィスに尊敬の眼差しを向けると共に、自分の非力さを噛み締めていた。フィルヴィスはレフィーヤとベートの会話を聞いており、擁護してくる。

 

「火力特化の魔導士にそこまで求めるのは酷だ。真の局面で必要とされるのは、ウィリディスの力だろう」

 

 確かにレフィーヤのような火力特化の純後衛の魔導士でベートが要求する技術、並行詠唱を行えるものはそうはいない。火力に特化し過ぎた弊害とも言え、そんな凄腕の魔導士はレフィーヤはリヴェリアの他には『妖精部隊(フェアリーフォース)』の数名しか知らない。

 

ベートへ語気を荒らげて反論するフィルヴィスをベートは鼻で笑い飛ばす。フィルヴィスはベートの態度にムッとするが、ベートの言うことは正しいためレフィーヤは何も言えない。

 

「随分仲良くなってんな、エルフども」

 

 ボールスからフィルヴィスにつけられた『死妖精』の渾名について聞いた後、18階層で少し仲良くなったのを皮肉そうに笑ったベートは、そこからレフィーヤに視線を飛ばした。

 

「お前はそれでいいのか。自分の身も自分で守れねえで」

 

 いつものように侮蔑交じれの嘲笑を浮かべるベートに対し、レフィーヤは肩を震わせて俯く。

 

 

「馬鹿アマゾネスどもは甘やかしているみてえだがな、俺はそんなことしねえ。魔法だけが取柄だとか抜かしている内は、てめーは一生お荷物だ」

 

「お前は甘い」

 

 彼は多くの者が抱える傷口を抉るようにして言葉を紡ぐ。レフィーヤはベートの言葉に何も言い返すことができず、拳を強く握って下唇を噛んだ。優しさの欠片もないベートの言動だがそこにはなんの間違いもない。

 

ベートの言った通り並行詠唱を会得していないレフィーヤは魔法の威力は高いものの、詠唱中にモンスターに襲われれば回避も防御もできずに無防備な姿を晒してしまうことになる。

 

レフィーヤの持つ魔法は高火力で広範囲に影響を及ぼすため、複数のモンスターへの決定打になりうるが、逆に言えばレフィーヤ自身が対処しなければならない状況では使えないということだ。

 

そのため、レフィーヤは後方からの魔法支援に徹することにしていたのだ。だが、それではいつまで経っても成長しない。そのことを指摘され、レフィーヤは押し黙ってしまう。

 

火力は当然、リヴェリアには及ばない。

 

接近戦も苦手。

 

並行詠唱もできない。

 

それが今のレフィーヤ。

 

憧憬の少女達の足手まといから脱することができない現実を突きつけられる。彼女達の隣に立つ資格がないと言われているようでレフィーヤはただ唇を噛んで耐えることしかできなかった。

 

もう一度高みを目指さなくてはならない。自分が憧れるリヴェリアやアイズのような存在になるために、自分はもっと強くならなくてはならない。ベートへの悔しさも焦燥も全て飲み込んで、レフィーヤはその瞳に強い光を宿した。

 

フィルヴィスのこちらを気遣うような視線を感じながらうつむいていたレフィーヤはふと、顔を上げる。

 

チラチラとこちらを気にしながら前に進むフィルヴィスと言いたいことをさんざん言って先に行ってしまったベート。二人の後ろ姿を見ながら、周囲に違和感を感じたレフィーヤは立ち止まり、意識を集中させる。

 

「(魔力········?)」

 

 何か、モンスターでも自分たちでもない魔力を感じ取ったレフィーヤは自分達がやって来た道の後方を見つめたが、何もおらず前進を再開した。

 

だが、レフィーヤが見つめていた通路、その横穴の曲がり角には紫の外套、そして不気味な仮面を被った影が彼女達を追跡するように音もなく忍び寄っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

散乱するモンスターの死骸を頼りに食料庫への道を進んでいたレフィーヤ達は通路を埋め尽くすように密集した緑肉の壁を突破し、食糧庫へ続くであろう変質した緑の迷宮に侵入していた。

 

迷宮そのものを侵す蠢動する緑肉によって舗装された道はレフィーヤ達に事態の深刻さを伝えてくる。それはこの先で待ち受けているだろう激戦を予感させるものだった。

 

道しるべのように等間隔で撒かれていた水晶の欠片の道を慎重に歩みを進めていた一行は通路に溢れた緑肉と水晶の欠片が描く一本の道を踏み越えて食糧庫へと足を踏み入れる。

 

そこはまるでダンジョンの中とは思えない光景だった。視界一杯に広がる広大な空間は緑肉が埋め尽くし、その中央で食糧庫の核である大水晶に寄生するように巨大なモンスターが巻き付いていた。

 

戦力は三つ。自陣と思われる冒険者達十数名、最近になって度々見る食人花の群れ、尋常ならざる雰囲気を漂わせた白ローブの人間たち。

 

後者二つを敵と判断したレフィーヤは一掃するための詠唱を始めた。

 

「【帯びよ炎、森の灯火。撃ち放て、妖精の火矢─】」

 

「【雨の如く降りそそぎ、蛮族どもを焼き払え】!!」

 

 山吹色の魔力をたなびかせながら輝く魔法円。レフィーヤの頭上に巨大な火球が浮かび上がる。

 

「み、みんな、逃げてっ?!」

 

 竜を思わせる猛る魔力の規模に小人族の魔導士メリルが慌てふためき、叫ぶ。同じ上級魔導士に恐怖されるほどの魔力を内包した火球をレフィーヤは解放した。

 

瞬時に膨れ上がった火球は数多の火矢となり、凄まじい轟音と共に着弾した火矢が爆発を引き起こす。衝撃の余波で緑肉が崩れ落ち、膨大な熱量を含んだ爆風が吹き荒れる。

 

豪雨と評せる火の雨が降りそそぐ。それは戦場を一掃する広域攻撃魔法であり、またたくまに戦場を揺るがした。ローブの集団は爆風の余波で吹き飛ばされながら逃げ惑い、食人花達は無惨に燃え尽きる。

 

加えて、魔法の発射を待たずして疾走し始めた第一級冒険者、ベート・ローガの存在は大きく、突出した個のいない死兵とモンスターの集まりでは神速を誇る狼を止められるわけもなく、手が空いて追従し始めた『疾風(リオン)』やレフィーヤの守りから離れた超短文詠唱の使い手であるフィルヴィスの力もあり、勝敗は容易く───あまりに容易く決した。

 

「ハッ、こんなもんかよ。んで、アイズはどこ、に─────」

 

 この場唯一の第一級冒険者であるベートは誰よりも早く、『それ』に気がついた。

 

『蕾』。

 

それは食人花の死骸が転がる広場の中央に存在した。花弁のような無数の触手を備えた不気味な蕾が緑肉に覆われた地面に根を張っていた。一瞬にしてベートの顔から血の気が引く。獣人としての天性の勘が告げていた。あれはまずいと。

 

刹那の間も置かずベートは駆け出し、蕾に向けて拳を振り下ろす。その動きはまさに電光石火、反応すら許さない速度で振り下ろされた拳はしかし、蕾には届かなかった。

 

地面ごと砕きかねない威力を秘めた一撃だったが蕾に触れる寸前、金属で編まれたかのような肉厚の葉が突如として現れて防いだのだ。

 

葉っぱ一枚で止められたことにベートが舌打ちすると同時、蕾の表面を覆っていた緑肉の一部が盛り上がり、まるで生き物のようにベートへ襲いかかった。

 

蕾は攻撃の対象をベートに変え、周囲の緑肉を巻き込みながら膨張を始める。蕾を中心に発生した衝撃波がベートを吹き飛ばし、更に膨張を続けていく蕾はやがて直径二メートルを超えるほどの大きさになると一気に爆発した。

 

膨れ上がっていく蕾を前にベートは即座に立ち上がり、足裏で地面を踏み抜いた。瞬間、周囲に巻き起こる爆風にも似た衝撃の波が迫る緑肉の塊を押し戻し、吹き飛ばす。だが再び再生を始めており、ベートは忌々しげに歯噛みする。

 

その間にも蕾の速度は上がり続け、ついにその大きさは十メートルほどにまで巨大化していた。その巨大さは最早、花というよりも大樹といった方がしっくりくるだろう。

 

ベートの一撃を防いだ葉の強度は深層のモンスター並であるが、あのような姿の植物系モンスターなど見たことも聞いたこともない。膨れ上がっていくその姿を睨み付けながらもベートは思考を回転させる。

 

「(なんだあの馬鹿げたデカブツ……いや··············)」

 

 以前、51階層で遭遇した女体型モンスターを思い出す。あれと同種類のものなのか?そんなことを考えている間も蕾の成長は止まらない。

 

「あのときの『宝玉』のモンスター·······?」

 

 深層で一度、リヴィラの街で一度『宝玉』に寄生されたモンスターを見たことのあるレフィーヤはそう、判断した。

 

ベート、レフィーヤの判断は正しい。眼前の巨大な植物の体を持つモンスターは以前の二体と源を同じくするものだ。

 

唯一、違うのは────『質』。

 

ベートの攻撃を防いだ葉と同じ材質で構成された、蕾の表面に浮き上がった血管が脈動するように収縮を繰り返す。同時に蕾の根元から新たな緑肉が伸び始め、それが絡み合うように結合していく。そして瞬く間に蕾は一つの形へと変化した。

 

そして、()()した。

 

『───ァ』

 

 蝶が蛹から羽化するように蕾が開く。その中から現れたのは、人型だった。醜怪な蕾の姿からは想像できないような美しい女性の上半身。

 

その全身は蕾と同じく光沢のある緑色の鱗に覆われ、胸元には赤い宝石のようなものが埋め込まれていた。

 

緑色の肌に腰まで伸びた黒髪、頭部からは二本の長い触覚が生え、背中には翅がある。瞳孔のない真っ赤な双眼、首の上だけに美女の姿を残し、無い腕の代わりに薄い緑の葉を纏っている。

 

下半身は完全に異形であり、無数の細い触手に覆われている大木そのもの。蕾があったときと同じく、無数の赤い触手が生えた巨大な花が存在している。

 

蕾から現れた女性型のモンスター。明らかに人とかけ離れた姿をしているその上半身は、どこか神秘的な美しさを漂わせていた。

 

『ァアア、アアアアアアアアアアア───っ!!』

 

 蕾から生まれた女性のあげる産声は歓喜であり、喜びであった。ようやく外に出られたという解放感が滲む絶叫をあげる。蕾は産まれたばかりの我が子を抱く母の如く、愛おし気に自分の体にまとわりつく緑肉に触れた。

 

瞬間、蕾が触れた緑肉が沸騰でも起こしたかのようにボコボコと泡立ち始めた。そして蕾を中心に凄まじい勢いで増殖を始め、食人花の死体を飲み込んでいく。

 

緑肉の海は瞬く間に蕾を中心とした大きな湖となり、そこに浮いていた食人花の死骸を全て飲み込んだ。直後、湖の水全てが蕾へと吸収されていく。

 

まるで水面に吸い込まれるようにして消えていく緑肉を呆然と見つめることしか出来ない冒険者達。

 

その姿を目にしたベートの顔色が変わる。その表情は驚愕に染まり、顔中に汗を浮かべる。

 

「ウダイオスより上、か··············?」 

 

蕾のモンスターが発する圧は魔眼の階層主を除けば今までベートが戦ったどのモンスターよりも強力で、明らかに格上の存在だとわかる。

 

そして──────。

 

『ァ──。ア、ソビマショ?』

 

 蕾のモンスターが口を開く。そこから漏れたのは紛れもない人の言葉だった。含まれるのは楽しげな響きと微かな殺意。

 

そしてその言の葉は──

 

『【闇ヨ、満タセ───】』

 

 奇跡(魔法)を紡ぐための歌として冒険者たちへ向けられた。





まーた、文字消えた。自然保存も使えんし、重いしでやっぱり、メモアプリに書いたのを移したほうがいいな。

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