皆の傷になって死にたい転生者がベルの兄で才禍の怪物なのは間違っている 作:マタタビネガー
本編最終章開始。溜め回。
188話 ステイタスの更新したくねー
「ディオニュソスの子供たちの様子はどうや?」
「うーん、正直に言ってあまりいい状態とは言えないかな」
オラリオを覆う大市壁の上で向かい合う二人の神。ロキとヘルメスはともにいつもの軽薄な笑みを潜めて、神妙な面持ちで言葉を交わしていた。
恩恵を失いつつも犠牲なく地上まで帰還することのできた【ディオニュソス・ファミリア】だがその精神状況は決して良いとは言えない。
敬愛する主神を亡くし、自分たち自身も恩恵を失った状態で緑肉の濁流に殺されかけたのだ。そのショックは計り知れない。
中には錯乱して自害をしようとする者や周囲に当たり散らす者もいる。
仕方がなかったこととは言え、一度は彼らを見捨てた【ロキ・ファミリア】とは顔を合わせられないだろうと【ヘルメス・ファミリア】とギルドによって保護されている状態だ。
「················なぁ、ヘルメス。その子たちに『開錠薬』は使ったか?」
「いや、使っていないがまさか─────」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
古代の神殿であるかのような荘厳さに満ちた石造りの地下空間。モザイク模様の意匠が凝らされた床には無数の石柱が立ち並んでいる。
魔石灯ではなく松明の炎に照らされて壁画のようなレリーフが浮かび上がっているさまは御伽噺の中に入り込んだような感覚を抱かせる。
等間隔で灯された松明の炎だけが唯一の光源だ。ぱちぱちと薪が爆ぜる音だけが響く地下神殿。ギルド本部の地下にある大広間、神座が中央に設けられている祭壇。
「────フェルズ、結果は?」
『結論から言えばクノッソスは『異界』と化した』
そこに腰掛けているオラリオの創設神にしてギルドの主神である老神ウラノスは眼前の人影に問いかける。
人影───フェルズは滔々と語る。
『24階層の食料庫に作られた『苗花』や先日の上級冒険者行方不明事件の『実験場』と似ているがその規模と深度は比較にもならない、正しく上位存在と言って差し支えない』
リド達、『異端児』達を使って状況を観測していたフェルズ。リド達が持ち帰った情報と尋常ではない魔力の坩堝と化したクノッソスの状態。
『術式は定かではないが思うに複数の『精霊の分身』を用いた『精霊の奇跡』、おそらくはそれに類するものだろう』
クノッソス全体を埋め尽くす緑肉によって内部へ侵入しようとする者は冒険者、モンスター問わず意思を持ったかのように襲いかかってくる緑肉によって阻まれる。
魔法や魔剣によって緑肉を焼き払って進むとしても『精霊の分身』がいるであろう場所までたどり着くのは一日や二日では不可能だろう。
現状、クノッソスへの侵攻は不可能と断じるフェルズ。
『幸い、緑肉の氾濫後すぐにクノッソス全体を包みこんだ『精霊の聖火』。あれによってクノッソス内部の『穢れた精霊』の魔力はその大部分を消費させられた』
『精霊の術式によって何を起こそうとしているかはわからないがどちらにせよその補填を終えるまでは『事』は起きないと見ている』
『精霊の聖火』────『祭壇』の起動によってクノッソス全体に横溢した『穢れた精霊』の魔力を横から掠め取るように燃料として消費して燃え上がった不殺の大火。
その正体はおそらく、フェルズがアルに渡された『炉』の魔道具を媒体に範囲拡張と対象選別を行った【レァ・ポイニクス】の火。
緑肉の氾濫から冒険者たちを守るために発動させたであろう超々広範囲魔法だがその副産物としてクノッソスに満ちていた『穢れた精霊』の魔力はフェルズの目算で元の三割程度にまで減っている。
『精霊の分身』からの供給か、その補填も少しずつ進んでいるようだが元の状態に戻るまでは 少なくともあと数日はかかるはずだ。
故に、急務なのはその補填が終わるまでに『異界』と化したクノッソスの調査と未だ素性も知れない『
事態の緊急性を憂慮するフェルズにウラノスは告げる。
「そうか··············では、デメテルの件はどうなった」
『··············【ヘルメス・ファミリア】がホームを捜索したが神デメテルはもとよりその眷属もその姿はなかった』
『精霊の聖火』による領域の焼却によって一時、増殖を止めていた緑肉から【ディオニュソス・ファミリア】を逃がすために動いていた【ロキ・ファミリア】の団員達は不自然に焼き切れた超硬金属の壁の切れ目の奥に『彼女達』を発見した。
光源のない隠し部屋の中に手足を鎖に縛られた状態で放置されていた複数の眷属達。
ガリガリに痩せこけた彼女達は意識こそあるもののその瞳に光はなく、まるで廃人のように生気を感じられなかった。
【ゼウス・ファミリア】や【ヘラ・ファミリア】がそうであったようにこのオラリオの根幹を作った生産系ファミリア、【デメテル・ファミリア】。
神血を刻まれていない非戦闘員を含めれば【フレイヤ・ファミリア】にも準ずるだけの団員数を誇る超々大規模派閥。
彼女達の正体は都市有数の善神として知られる女神デメテルの眷属。
相当劣悪な環境にいたのか意識はあってもちゃんと会話ができるようになるまでしばらくの時間を要する。
状況から察するに闇派閥───『
ウラノスはフェルズの報告に瞑目する。
女神デメテルはオラリオの黎明期から都市を支えてきた稀有な善神であり、『
むしろ、何らかの理由で彼女を邪魔に思った『
真偽はいまだわからないが都市内外の出入りを自由に許されている彼女が今どこにいるかは目下不明。
『彼女達の意識が早く定まれば話が聞けるのだが·········』
隠し部屋に囚われていた彼女達を【ロキ・ファミリア】が見つけられたのはそこまでの壁などが焼き切られていたからだ。
アルに直接聞かないことにははっきりとは言えないがおそらく、クノッソス全体を付与魔法である【レァ・ポイニクス】の効果範囲内に置いたことで魔法そのものがレーダーの役割をして隔離空間にとらわれていた彼女達を偶然発見したのだろう。
そして対精霊に特化していた聖火をその極一部分のものだけ通常の攻撃魔法のそれと同じにして冒険者達が見つけられるよう道を拓いた。
場合によっては彼女達を救えたことによって『
『····························ウラノス、貴方は『
しばらく考え込んでいたウラノスは、フェルズの問いかけにその重い口を開いた。
「既に前提は覆った。だが、私は元々───────」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「───状況を整理しよう」
クノッソスに対する一次進攻を終えてから一日と少し。ダイダロス通りに仮設していた陣から撤退した【ロキ・ファミリア】はホームに戻っていた。
その執務室ではいつものようにファミリアの首脳陣三人が顔を揃え、今回の戦いの総括を行っていた。
「アミッドと『女神の黄金』の尽力もあって我々や【ヘルメス・ファミリア】に大きな被害はない」
「明確な被害は四つ。神ディオニュソスの送還と同派閥団長の死亡、オッタルの重体。そして、アルの未帰還」
後ろ二つについてはまだ死は確定していないが都市最強の二人が戦力として機能しない時点で最悪に近い。
むしろ、その二人が矢面に立っていたからこそそれ以外の人員の被害が少なかったとさえ言えるだろう。
「主神が送還され、恩恵を失った【ディオニュソス・ファミリア】の者たちは【ヘルメス・ファミリア】に保護されている」
数こそ多いもののほとんどがLv.1である【ディオニュソス・ファミリア】は恩恵を失ったとしても戦力面での損失はないと言っても良い。
元々、数に物を言わせたマッピングの為だけに一次侵攻へ参加させただけでクノッソスの制圧を目的とした第二侵攻にはどうあれ参加させる気は毛頭なかった。
だが、善神の代表格であるディオニュソスの送還と数少ないLv.4である『白巫女』の死は実害以上に士気に小さくない影響を与えている。
結果的には無事だったとはいえ一度は死に瀕した【ディオニュソス・ファミリア】を見捨てた事も【ロキ・ファミリア】の団員達に動揺を与えていた。
そして、無駄な軋轢を防ぐためにも【ディオニュソス・ファミリア】の団員達は【ヘルメス・ファミリア】によって守られている。
「オッタルの方はまだ芳しくはないようじゃがあやつのことだ、そう心配あるまい」
「クノッソスの状況は?」
「地上からは【ガネーシャ・ファミリア】、ダンジョンからは『異端児』達が探っているようだが例の緑肉が邪魔で内部の把握は思うようにいっていないようだ」
神の送還をスイッチとして発動した『祭壇』。クノッソス内に響きわたった精霊の歌を皮切りに増殖し、全てを飲み込んだ緑肉の氾濫。
それには恩恵を失った【ディオニュソス・ファミリア】のみならず、他でもないフィンもその餌食になりかけた。
濁流のようであり、しかし明確な意思を持って動き始めた緑肉にクノッソスは埋め尽くされ、未だ内部の確認すらままならない。
「神ウラノス側··········魔術師フェルズの見解では『精霊の奇跡』、それに類する超常だそうだ」
「闇派閥の者達はそれを成立させるための生贄だったわけか」
外道が、と未だ顔も知れぬ邪神にリヴェリアは悪態をついた。
【ロキ・ファミリア】を中心とした派閥連合が先の一次侵攻で成せたのは闇派閥残党の殲滅と簡易苗花の破壊による極彩色モンスターの供給の停止。
二次侵攻の足がかりとしては十分な戦果を上げられたと思った矢先に盤面をひっくり返された。
フィンたちの作戦が思い通りに進むこと自体が『
「『顔』が見えなかった。神タナトスとは違う、あの神は盤面の指し手として僕やロキに向き合っていた、だが『
盤上の駒を動かすのではなく、盤面の外から剣を振り下ろすが如き神の視座。
勝利を求めるのではなく勝敗を無視して戦いそのものをなかったことにするような、そんな下界の住民である自分たちでは用いない視点。
「··················どちらにせよやることは変わらない。今度こそ敵の思惑を見破り、全てを喰い破る。それしか道はない」
フィンの迷いのない言葉に二人は頷いた。だが、フィンには拭いきれない違和感が胸中に渦巻いていた。
「(··················いつまで籠城してるつもりだ)」
『祭壇』の起動による緑肉の氾濫という必殺を聖火によって凌がれ、クノッソスに満ちていた『穢れた精霊』の魔力も聖火によってその大部分を焼き尽くされた。
とはいえ、それだけで終わるとは到底思えない。
失った魔力の回復に努めているとしても緑肉によって埋め尽くされたクノッソスには未だなんの動きも見られない。
不気味なまでに静かすぎるクノッソスにフィンは疑念を拭いきれずにいた。
「あとは────アル、か」
ポツリとリヴェリアのこぼした名前にフィンもガレスも黙り込む。
敵味方の思惑の外でイレギュラーとして動いた彼はこれ以上ない奇跡のような働きをした上で未だ帰ってきていない。
恩恵の反応でいまだ生きていることはわかるがどのような状態かまではわからない。
最悪、緑肉に養分として取り込まれている可能性すらある。
彼の救出は今のところ絶望的と言って良い。
壊れた『眼晶』の最後の通信からするとアルが取り残されたのは地下12階。
そこまで行くのは準備的にも戦力的にも不可能に近い。
「正直、アルの力なしにクノッソスを制することはできない」
戦力としてこれ以上ないというのもそうだが、何より彼がいるのといないのでは士気がまるで変わってくる。
アルが未だクノッソスに取り残されているというのを知っているのは一部の者達を除けば【ロキ・ファミリア】の面々だけであり、自分たちの最強が帰ってきてないことに少なからず動揺をもたらしている。
このままアルが帰ってこなければそれはやがて派閥全体に広がり、ついには他派閥にまで拡がるのは想像に難くない。
そして、戦力。
単純な話としてアルとオッタル以外にあの二体の大怪物を討つ勝算を持つ冒険者はいない。
彼らを欠いた侵攻なぞ今の状況では 自殺行為でしかない。
理想は二人が万全な状態での二次侵攻。
その前段階としてアルをどうにかして救出する必要がある。
そんなフィンの考えを肯定するようにリヴェリアもガレスも口を開かない。
「場合によって予定していた侵攻の数を二度から三度に分けるしかないだろう」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
··················さて、どうすっかな。
地上に戻るかこのままここで囚われの姫気取るか。
『穢れた精霊』も器焼き切ったらどっか消えたし、緑肉も襲い掛かってこない以上その気になれば頭上の全部ぶち抜いて地上に戻るのは別に普通にできるんだよなぁ。
焼き切れて灰になった左腕以外は完全に再生終わったし、精神力も自己補完の範疇にまで回復したからほぼほぼ万全。
あくまでもみんなを守るために傷ついた姿を見せる程度の想定だったのが思ってた以上に反動が大きかったからそうしてるだけで元々はクノッソスに残るつもりじゃなかったしな。
最終的な曇らせのこと考えたら代わりの『眼晶』必要だし、地上に戻って足並み揃えて二次侵攻するべきなんだけど·················。
あーーーーーーーーーステイタス更新したくねー。
今の状況で地上戻ったら絶対することになるよなぁ、断るための理由付けも難しいし。
このゾワゾワした感じ、相当ステイタス上がるか、或いは──────
どっちにしろエインに殺される確率が減ることはしたくないな。
··························仕方ねぇ、地上戻ってからどうすればロキから逃げられるかシミュレーションするか。
────────────────────────────────────────────────────────────────────────
ロキ、フェルズ、ヘルメス「「「送還されたっぽいけどやっぱり、あの葡萄酒オタク怪しくね······?」」」
フィン「どうにかしてアルを救出しないと」
白髪「戻ろうと思えば30分ぐらいで戻れるけどどうしよう」
【アルの装備】
バルムンク:デカくて硬い剣。
枝の破滅:クソピーキー片手剣。
ミスティルテイン:三代目不壊属性。
ファナ・トリエグル:前にアーニャに貰った弱い装具。
白氷のバングル:エルフ関係、そんなに強くない。
コートのような白い戦闘衣:定期的に大破してる、そんなに強くない。
下に着てる黒い戦闘衣:アルフィアのドレスの男版。
マフラー:三章以降は付けてない、割と強い。
ここから無駄に長い本編最終章開始となります。
正直ここまで来れると思ってませんでしたが皆さんの応援もあってここまで来ることができました。
ここまで来たからには最後まで書き上げたいと思っていますのでこれからも応援よろしくお願いいたします。