皆の傷になって死にたい転生者がベルの兄で才禍の怪物なのは間違っている   作:マタタビネガー

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短いよ


191話 これがアマゾネスとか女神なら蹴り飛ばして窓から投げ捨てるってのに

 

 

 

「─────っ、アルが帰ってきたの!?」

 

「ああ、クノッソスを見張っていたシャクティから連絡が入った」

 

 ベルから邪竜ニーズホッグを葬った『精霊の六円環』について聞き、それを報告しようとホームに戻ったアイズを出迎えたフィンが告げたのは、アルが無事にクノッソスから生還したという吉報だった。

 

アルが生きて戻ってきた。

 

それを理解したアイズは、思わずフィンの前でへたり込みそうになった。だが、今はそんな場合ではない。まだ、その無事をこの目で確かめたわけではないのだ。

 

「────連絡? ホームに戻ってきたんじゃないの?」

 

 連絡が入ったという言い方は妙だ、口ぶりからするとフィンもまだアルを見ていないように思える。

 

クノッソスから生還してホーム以外のどこに行くというのだろうか。

 

「深手を負っているようでね、今は自力では治せない傷を治しに【ディアンケヒト・ファミリア】に行っているらしい」

 

「そっか、アミッドのとこに·················」

 

 どんな傷を負ってるか知らないがアミッドならきっと治してくれる。すぐに会えないのは残念だが後でいくらでも会えるだろう。

 

良かった、と安堵して胸が軽くなる。

 

張り詰めていた緊張が解れていくのを感じる。

 

だが、フィンの表情はどこか怪訝そうだ。

 

「どうしたのフィン?」

 

「いや、大したことではないんだが················」

 

 フィンはそこで言葉を区切り、少し間を置いてから続けた。

 

「(普通に考えれば重傷なのは間違いないけどアルのことだからすぐに治してさっさと帰ってくるものだと思ってたけどやけに遅いな)」

 

 普通の冒険者なら一生残る損傷に違いはないがアミッドの全癒魔法とはまた別に自前で全癒魔法に迫る回復手段を持っているアルならアミッドの魔法と合わせればすぐに全快しても可笑しくない。

 

経過観察やリハビリなどの言葉はアルの辞書にはない。

 

治ればアミッドの制止を振り切って普通に行動しだすはずだ。

 

しかし、それがない。

 

シャクティの報告から既に半日近く経過している。アルが同じ場所に半日も留まるのは滅多にない。

 

結果がどうあれそろそろ抜け出してきても可笑しくはなさそうなものだが。

 

「─────まぁ、考えすぎか」

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

「悪かった─────いや、ごめん」 

 

 静かなアルの声が耳朶を打つ。その声に思わず顔を上げ、アルの顔を見上げる。いつも揺るぎない紅い瞳が微かに揺れているのを目の当たりにして心臓が跳ねる。

 

鼓動の音が煩い、顔が熱い、目が離せない。涙でぼやけた視界の中でもはっきりとアルの顔が見える。

 

今まで一度も見たことがない苦慮に染まった顔。

 

そんな顔をしてほしくはないのにこんな顔をさせてしまっているのが自分だと思うと嬉しくも思ってしまう。

 

どくんどくんと早鐘を打つ鼓動の音は私のだろうか、それともアルの物だろうか。

 

どちらにしろうるさい。うるさくて仕方ない。もう少し静かにして欲しいと願うもののその願いは叶えられないだろう。

 

「·······················なんでこんな時に限って謝ろうとするんですか、貴方は」

 

 いつもは適当にはぐらしてばかりの癖に。いつも私の神経を逆撫でするような軽口ばかり叩いてくるくせに。

 

なんで、こんな時に限ってそんな顔をするのか。

 

アルらしくない、本当にアルらしくもない。

 

そんな顔をされると私はどうすればいいかわからなくなってしまうじゃないか。

 

いつもみたいに軽口を叩いてくれればいつもの私に戻れるというのに。

 

もうわけがわからない、感情がぐちゃぐちゃで自分がどうすべきなのかわからない。

 

アルの身体にもう傷はない。ならもうこうして触れ合う必要はないはずなのに、離れられない。

 

そうだ、もうアルに傷はない。

 

小さく、本当に小さく安堵の息を漏らす。

 

ようやく、安心できた。

 

「(··············だから、これで最後)」

 

 最後に一度だけアルの胸元に顔を埋める。もう涙は止まっているが泣き腫らしてひどい顔だろう。誰にも見せないためにもこれが最後だ。

 

もう一生分の涙を出したんじゃないかと思うほどに泣いたのだ。これ以上はもうないはず。

 

「(大丈夫、いつも通りの私に戻った)」

 

 なのに足に力が入らない。ガクガクと膝が震えて今にも崩れ落ちそうだ。

 

これ以上縋り付くわけにはいかない。これ以上は感情に歯止めが利かなくなってしまう。

 

だから、もう本当にここで終わり。

 

アルの胸から顔を離し、少し距離を取る。

 

離れたところで鼓動の音は変わらずにうるさいまま。

 

涙でひどい顔をしているだろう顔を見られるわけにはいかないので俯いて視線を逸らす。

 

まだ顔は熱いままだが呼吸と心臓を落ち着ける頃には収まってくれることを祈るしかない。

 

汗で張り付いた髪をかきあげ、一つ深呼吸をする。赤みが差しているであろう顔と涙で濡れた頰をなんとか誤魔化そうと軽く髪を整えてアルに向き直る。

 

そうだ、もう大丈夫だと言ってちゃんと離れよう。

 

それで、落ち着いてから改めて心配していたと、無事なようで安心したと言おう。

 

いつも通りの私でそれを告げていつもの軽口を叩きあえばきっとこの気恥ずかしさも消えるはずだから。

 

意を決して顔を上げる。

 

「───────っ」

 

 紅い双眸と目が合う。いつものアルからは考えられない揺れ動く視線。

 

いつもの悪知恵の働く子供のような笑みや人前での英雄然とした覇気も今は鳴りを潜めている。

 

けれども決して弱々しいものではない、アルの瞳に見つめられて心臓が一際大きく跳ねる。

 

あぁ、ずるい。いつもは意地悪で軽薄な笑みをいつも浮かべている癖になんで今日に限ってそんな顔をするのか。

 

ぎゅっと背中に回されていた腕の感触と僅かに汗と血の匂いの混じるアルの匂いに意識を奪われる。

 

駄目だ、顔が熱い。鼓動の音が頭の中にまで響いて鳴り止むことはない。

 

こんなの私じゃ·········私じゃない。

 

「いや、俺は───」

 

 紅い瞳が揺れている。魔性のような紅い瞳が。アルが何か言おうとしているがそれを遮って口を開く。

 

駄目だ、今、アルの言葉を聞いてしまえば私は今度こそ歯止めが利かなくなってしまう。

 

「───謝らなくていいからもう少しだけこうさせてください」

  

 そう言ってアルの返事を待たずにその胸に再び顔を埋める。アルが息を呑む音が聴こえ、動揺したように身動ぎするのが伝わってくる。

 

言い訳にもならない。アルの言い分を遮って身勝手に自分の欲だけを押し通そうとしている。

 

らしくない。本当にらしくない。

 

こんな自分勝手な我儘をアルにぶつけるだなんて私らしくもない。

 

それもこれも全部アルが傷ついたせいだ。私の知らないところで死にかけるから、勝手にいなくなってしまうから悪いのだ。

 

いつも私に好き勝手にちょっかいを出してくるくせに。

 

人の事を振り回すのは得意でも他人に振り回されることには慣れていないから私に付け込まれるのだ。

 

アルに関わると碌なことにならないし、ろくな目に遭わない。今回だってその典型だ。アルが関わったせいで私の四年間はめちゃくちゃだ。

 

だから、これはその仕返しだと言い訳をする。

 

散々、迷惑をかけられてきたのだから今日一日くらいは私がアルに迷惑をかけたって罰は当たらない、はずだ。

 

「··············あぁ、僕で良ければいくらでも」

 

 顔どころか全身が熱い。アルの鼓動が聴こえてくる。私と同じくらいに早鐘を打っている心臓の音が聴こえる。

 

二人しかいない空間でアルの心臓の音と私の鼓動だけがやけに大きく聴こえる。

 

全てが終わった後、いつもの私たちに戻れるのだろうか。

 

鼓動を落ち着けようと目を閉じるが、逆効果だった。目を閉じてアルの鼓動を感じると余計にその音が大きくなる。

 

この音がどうかアルに伝わりませんようにと祈りながらゆっくりと息を吸って吐いてを繰り返す。

 

自分のとアルの鼓動が混じり合い、どちらが自分の音かもわからない。

 

こんな自分を私は知らない。

 

こんなアルを私は知らない。

 

「(······················やっぱり、貴方は狡い)」

 

 心臓の鼓動は鳴り止まない。早く落ち着いて欲しいと思う反面、このままずっと落ち着かないでくれたらと願ってしまう。

 

最初に会った時は小柄だったのにいつの間にか私を包み隠してしまうくらいに大きくなったアルの腕に抱かれながらそんな身勝手な事を思う。

 

最初からそうだったけれどもし仮に今ここで組み伏せられたら私の力では絶対に抗えないだろう。

 

そんな逞しくなった腕と身体に包まれているとどうしようもなく安心してしまう。

 

なけなしの理性が早く離れろと叫んでいる。わかっている、こんなのはいけないと理性が叫ぶ。

 

なのに身体が動かないし、心臓が早鐘を打つのを止められない。先ほどまでこびり付いていた不安が薄れていくのに比例して別の感情が膨れ上がってくる。

 

ぞわぞわと背筋が粟立ち、首筋に熱が集まる。

 

私を抱き寄せる腕の力は少し痛いくらいに強いのにその手つきは添えるように優しい。

 

「(手慣れすぎなんですよ、馬鹿)」

 

 雑なようでその実、繊細に私に触れる手。アルの癖に、と悪態をつきたくなるがそれは言葉にならずに消えていく。

 

どこで慣れたのかは知りたくないし、考えたくもない。

 

「(···················でも、今は私が────、〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!?)」

 

 何を考えているんだ私は。本当にどうかしてる、全部が終わった後に思い出して悶える羽目になるのが目に浮かぶ。

 

甘ったるくて、むず痒い空気に頭が茹だる。アルの鼓動も私と同じかそれ以上に早鐘を打っている。

 

この雰囲気に呑まれて余計なことまで考えてしまいそうだと思考を無理やり中断させる。

 

こんな感情は知らない、私は私のはずなのに知らない私がどんどん増えていく。

 

水底に落ちていくように、意識と思考が沈んでいく。

 

この感情に名前を付けるのが怖い。

 

「··················もう少し、あと少しだけこのままでいて」

 

「··················ああ」

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

─────いや、もはや誰だよ!?

 

あんたそんなキャラじゃねぇだろ!?

 

えっ、ちょっ、何この展開!? なんだこれ、何がどうなってこうなった!? いや、本当、どうしちまったんだよアミッドさんよぉ·················。

 

いつもは呼んでもねえのに呼ばれて飛び出てジャジャジャジャーンしてくるあの雷爺はこねぇし、アミッドはこんなキャラじゃねぇし、もうなんか訳わかんねぇよ。

 

いつもの悪巧みする余裕なんて欠片もねえ。

 

クソッ、これがアマゾネスとか女神なら 蹴り飛ばして窓から投げ捨てるってのに、相手がアミッドだとそうもいかねぇ。

 

マジでどうしちゃったんだよ、神酒でもキメたんか? あのアミッドがこんなしおらしいとか、明日は槍でも降るのかよ。

 

【直感】も精霊共もうんともすんとも言いやがらねぇし、なんなんだマジで。

 

『··················もう少し、あと少しだけこのままでいて』

 

 一回、自分に【ディア・フラーテル(状態異常完全回復魔法)】使えよ、俺にもお願い。

 

『··················ああ』

 

 もう相槌しかうてねーよ。

 

これ終わったらちょっと暴れてこよう。

 

 

 

 

 

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聖女「あわわわ」

剣聖「」ピクピク

 

枝の破滅「アカン、このままやと聖女の枝史いっちゃう」

憧憬追想「あかん、このままやと全体バフスキルに転生してまう」

ジュ◯ター、ゼウ◯「「◯けーっ!」」

加護精霊、リーヴ「「黙れよ糞爺」」  

 

【一人称僕、頻出度】

メーテリア、アルフィア関係≫壁≫ゼウス>アミッド≫救界関係、曇らせ見せ場≫ベル

 

 

 

 

 

 






本編最初で最後のラブコメパート終了。
 






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