皆の傷になって死にたい転生者がベルの兄で才禍の怪物なのは間違っている 作:マタタビネガー
短いけどキリがいいので
「こんなことしてて本当に良いのかな··················?」
「良いんだよ」
オラリオ南部、綺羅びやかなアクセサリーや魔石製品、食べ歩きに適した軽食を扱う店々が立ち並ぶ露天街。
連日の騒動もあって常よりも人が捌けてはいるものの、未だ活気に満ちた大通りを歩く二人のヒューマンに周囲の視線が自然に集まる。
一人は見目麗しい金髪の少女、もう一人は白髪紅眼の少年。
どちらもヒューマンでありながらどこか人間離れした雰囲気を纏い、道行く人々も男女を問わず思わず目で追ってしまう。
目で追い、そして遅れてその二人が都市で知らぬ者のいない第一級冒険者だと気がつく。
「でも············」
少しばかり気まずくな表情を浮かべながらも抱えた紙袋からじゃが丸くんを次々に口に運ぶ少女に、少年はため息すらつきそうな様子で口を開く。
「今から血を吐くような修行したところで決戦に疲れを残すのが精々だろ? かといって細々とした資材の準備に横から手を出したところでラウル達の邪魔にしかなんねえし」
「それは、そうかもしれないけど···················。でも、本当に良いの? こんな時に」
「こんな時だからこそだ。まぁ、俺に付き合う必要はないが俺はもう次の侵攻まで一切働く気ないからな」
『剣姫』アイズ・ヴァレンシュタインと『剣聖』アル・クラネル。
オラリオどころか下界全体にその勇名を轟かせる二人の第一級冒険者。共に【ロキ・ファミリア】の幹部であり、もはやあと数日となったクノッソスへの第二侵攻においては主戦力となる人物だ。
そんな二人は揃って露店から購入したじゃが丸くんを頬張りながらオラリオの街を散策している。
─────早い話、二人はサボっていた。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
思えばアルと顔を合わせて二人で一緒に歩くのは案外久しぶりな気がする。
エダス村から帰ってきてからはリヴェリアのあれこれや異端児関係の事件もあってアルはファミリアを離れて行動していたし、事態が収束してからも今度は私がアルと顔を合わせるのを避けていた。
『············アルフィアは、アイツはお前のなんだったんだ』
『母親』
『───────ッ』
『──────に、なるかもしれなかった女性、と言ったところか』
『··············まぁ、今となっては死んだ母親の姉ってだけだよ』
『言葉を交わしたのも共にいたのも彼女が死ぬ··········死にに行く前のほんの少しの間だけだったしな』
『─────ただ、そうだな』
『彼女の為にも、ってわけじゃないが
『っ、なにを?』
『────────世界を救う『英雄』を』
リヴェリアとアルの会話を聞いて私は正直に言って臆してしまった。
────アルも私と同じように、私以上にモンスターを憎んでいるはずなのになんでモンスターと手を結べるのだろうか?
いくら理由を作ろうと私なら絶対にその『手』は握れない。嫌悪が、憎悪が、憤怒が、それを拒む。
私がお母さんを奪ったモンスターを憎むのと同じ以上にモンスターを憎むからこそその元凶を討つためなら憎いモンスターとでも組めるのだろうか?
モンスターである『異端児』とアルが手を組んでいたことを知った当初はそんなことを私は考えていた。
けれど、違った。
奪われた者の、届かなかった者の熱を秘めた『昏い目』。
私がアルに親近感を覚えたその根源はそれだった。昏いながらも全てを焼き尽くすような強い意志をも秘めた紅い瞳。
あの目で見られるのが怖かった。
─────私と同じ復讐者の瞳をなにより恐れた。
私はモンスターに憎しみを持つはずのアルが『隻眼の黒竜』を討つためとはいえ紛れもないモンスターである『異端児』と手を組んだことに対して理解できないと、間違っていると思っていた。
なんてことはない。
アルにとってそれはもう、経験済みだったということ。
世界を救うために私たちに殺された肉親とその肉親を殺したにも関わらず未だその域に達さない私たち。
モンスターを憎んで『剣』を執った私。
モンスターと手を組んででも世界を救うしかないアル。
その絶望と憎悪は、私よりも深くて昏くて、理解の外だ。
だから私は逃げたのだ。
アルのあの目を正面から見てしまえばきっともう私は折れてしまうと酷く恐れた。
どんな、気持ちだったのだろうかと理解が及ばなかった。
四年間。
四年間もの間、アルは【ロキ・ファミリア】の一員として私たちと一緒に戦ってきた。
苦楽を共にし、背中を預け合い、時には諍いもして、それでも一緒に戦ってきた。
その時間の中でアルは何を思って私たちと過ごしてきたのだろう。
──────私なら無理だ、と断じれる。
おかあさんとおとうさんを救うために、二人を奪ったモンスターに復讐するために『剣』を執った私なら。
その怒り故に、剣から手を離すことができない私なら、きっと耐えられない。
憎悪を隠せない、怒りを鎮められない。
私とリヴェリアとガレス。
自分の肉親の最期に立ち会った私達をたったの三年足らずで追い越してしまったアルは、何を思って私たちと過ごしてきたのだろうか、と疑問というよりはあまりにも当然なその答えからも私は逃げた。
その才能と力に嫉妬する私を心の中でどんな目で見ていたのだろう。
アルのことが私にはわからなかった。
その昏い瞳に何を映していたのかも。
だから、私は逃げて逃げて逃げ続けた。
目を背け、耳を塞ぎ、目を瞑って、寝台で蹲って。
アルと向き合うことから、逃げた。
子供のように私は逃げた。
─────寄りかかればアルは私を守ってくれるだろう。けどそれじゃあ駄目だ。
私はアルの隣に立ちたい。守られてばかりじゃなくて、一緒に戦いたい。
私じゃアルを助けられない。
私じゃ、アルの『英雄』にはなれない。
それはわかっている。私は『助けられる側』でアルは『助ける側』だ。でも、そのままでいたくない。
このままじゃ私は、私達はアルを死なせてしまう。
だから「『黒竜』を討つのは、みんなの願いだから。アルだけに背負わせたくない」と。
だから「私は、アルに置いて行かれたくない」と願わずにはいられなかった。
『静寂』のアルフィアが私達冒険者に託した悲願。
太古の昔に大穴から出でた三つの大災厄、オラリオの冒険者たちがいずれ達成しなければいけない原初の約定でありながらその強さゆえ、千年もの間放置され続けた黒き終末の討伐。
私にとって『剣』を執った理由そのものであるその願いは世界全ての悲願であり、冒険者全てに課された責務だ。
それを誰より才があり、誰よりその重みを知っていたからこそアルはその全てを背負おうとしていた。
この地上の誰より『最後の英雄』に近いからこそ、誰にもそれを明かせずにたった独りで。
私達が嫌いじゃなかったとしても複雑ではあったはずだ。自分の母親にも近しい人の犠牲の上にある私達の七年をたった三年と少しで飛び越えてしまったのだから。
でも、だからこそ、私もその責任を背負わなくちゃ駄目だ。アルの後ろを歩くんじゃなくて隣を歩いて支えることができるようにならなくちゃいけないんだ。
じゃないとまた同じ過ちを繰り返してしまうから。今度は本当に取り返しがつかないことになるかもしれないから。
──────だが。
だからこそ、リヴェリアに諭されてアルと話した時は驚いた。
昏い感情も後ろめたさも全てアルの『熱』に吹き飛ばされた。私の憂慮なんて取るに足らないとばかりにアルは全てを笑い飛ばした。
『相手が神だろうが精霊だろうが俺だろうが他人に考えを委ねるな』
『自分で『答え』を出せるまで悩み続けろ、どうするかはお前が見定めてお前が決めろ』
『お前が悩んだ末に出した答えなら俺はそれを尊重しよう』
どうすればいいか、ではなく、どうしたいかで生きろと。
答えはすぐには出せなかった。
それがどんな答えであれそれを掴むためには強くならねばならないことだけは分かっていたから『猛者』に頭を下げて師事を仰ぎ、深い戦いに身をおいた。
そして、クノッソスへの一次侵攻。
私自身は取り立てて危機に迫られるようなことはなかったがアルは死を目前とした【ディオニュソス・ファミリア】やフィン達を助けるためにその身を擲った。
結果的には戻ってきたとはいえ、アルがこのまま死んでしまうかもしれないという不安は私を強く苛んだ。
だから、だからこそ────。
「じゃが丸って丸めて揚げた芋だよな? いくらなんでも食べ過ぎじゃね?」
「なら、アルにもあげる。はい、あーん?」
「·················どうやらロキとは一度、腰を据えて話す必要あるようだな」
二人でホームを出る時にロキに言われた通りにじゃが丸くんを差し出してみたがアルは怪訝な顔をするだけでそれを食べようとはしないから仕方なく自分で全部食べちゃう。
戦いの場ではない、平和な場所でのアルとの時間なんて最近は本当になかったから、なんだか少しこそばゆい。
でも、だからこそ、私はアルに向き合わなくちゃいけない。
思いもしなかったけれどいい機会だとも思う。
とりとめもない話をしながらオラリオの街を歩む。
行き交う人々は、時に笑いあい、時に憤り、時に嘆きながらそれぞれの生活を営んでいる。
そんな彼らを見つめながら私は口を開く。
「·································アル」
「ん?」
復讐とはまた別の願いであり、目標であり、答え。
これまで漠然と心の中で在り続けたもの。剣を握る理由であり、生きる意味でもあるそれを、ようやく自覚して形となった想念を私は口にする。
まだそれをアルに言うのには少し勇気がいるから、大切な宝物を仕舞い込むようにそっと言葉を紡ぐ。
「私は、私の『答え』を見つけたよ」
アルは『英雄』で『救う者』で『助ける者』だ。
これまでは私はアルに救われて、助けられて、憧れてきた。
それを否定はしないし、ダメなことではない。
──────けれど、それは私に限ったことじゃない。
『いつか、お前だけの英雄に巡り会えるといいな』
『アルは、私の英雄になってくれる?』
昔、おとうさんに言われた言葉を思い出して私は以前、アルにそう願った。
『親代わりの爺は俺に英雄になれと常日頃言っていたが、俺は多くのために戦う英雄なんてものにはなれないし、なりたくもない』
『─────ただ、そうだな。お前一人くらいの英雄なら考えてやる』
アルは私の願いにそう言ってくれたけれど多分、それは叶わない。
アルは私『だけ』の英雄には収まらない。望む望まないに関係なくアルは視界全ての者を救う『英雄』となってしまう。
クノッソスを覆った、献身の末の大火を見てそう悟った。
私だけの英雄にアルはなれない。
そして、アルを救う『英雄』はいない。
なら、なら、なら!!
私が。
「私は、アルの─────貴方だけの『英雄』になりたい」
「────────」
もう、英雄を待つ子供の時間は終わりだ。
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『私は、私の『答え』を見つけたよ』
当然のように話の前後飛ばしてくるけどフィンもそうだが俺が過去の話を全部覚えると思うなよ?
こう言っちゃなんだけど俺の発言って七割その場の勢いだからな?
で、なに?
答え?
なんの答えだよ。
まぁいいや言ってみろよ、それっぽいことで返してやるから。
『私は、アルの─────貴方だけの『英雄』になりたい』
········································································································ン?
フィンみたいなこと言い出しやがって、なんか急に雲行き怪しくなってきたぞ。
悪いんだけどそういうのはもう間に合ってるからほんとマジでやめてくんねえかな、間違ってもお前まで光属性になるなよ。
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世界「おっ!!ええやん」
加護精霊「きゃぁぁ〜!!アイズちゃんこっちむいて〜〜!!」
各ルートで一番、アイズと仲良いのはアストレアで次点は静穏。
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