皆の傷になって死にたい転生者がベルの兄で才禍の怪物なのは間違っている 作:マタタビネガー
『黄昏の館』。
都市北部、メインストリート沿いから外れたところにあるいくつもの塔が重なってできているような長大な建物。
オラリオ有数の大手ファミリアであり、オラリオの中でも【フレイヤ・ファミリア】に並ぶ屈指の実力者集団として知られる【ロキ・ファミリア】本拠地。
道化師の旗が中央に立ち、燃える焔のような赤銅色の本拠を構える建物は当然のように一流の造りとなっており、外観だけでも十分に価値があるもの。
ファミリアの主神であるロキの自室はそんな豪奢な館の最上階にある。部屋に置かれた家具の数々もまた一級品揃いだが、それ以上に雑多な印象を与える物品が散乱している。
机周りには乱雑に投げ出された書類と高級品であろう羽ペン、床にも山積みになった本や紙束などが散らばっていて鮮やかに虹色の光を反射する白結晶や古ぼけた時代物の帽子などベッドの上ですらなにかしらの物品で埋め尽くされている。
もっとも多いのは部屋のいたるところに置いてある様々な種類の酒類だ。専用の小型保存庫まで部屋に備え付けており、いつでも好きなときに酒盛りができる環境になっている。
そんなロキの部屋の中には部屋の主人であるロキとアルがいた。
ロキはいつも通り、ステイタス更新のための器具一式、その中から針を一本取り出し自らの指に突き刺す。
アルの背中、首の根もとの辺りにその人差し指で触れ、神血で血文字の様な紋様をサインでも描く様な慣れた手つきで指をアルの背中に走らせる。
血の軌跡がアルの背中を一周した頃、何も描かれていなかった筈のアルの背中にすっと、ヒエログリフを彷彿させる文字列のような奇妙な模様が浮かび上がった。
ロキはそこに先程自らがつけた血液の跡をなぞり、新たな模様を描き加えていく。ロキの指が動く度に、描かれた血の文字は意味を成していき、やがてそれは一つの文章となる。
アル・クラネル
『Lv.8』
力:D528→B798
耐久:C607→SS1085
器用:A897→SSS1502
敏捷:B782→S998
魔力∶D541→SS1046
幸運︰D
直感︰F→E
耐異常︰D
疾走︰E
精癒︰F→E
剣聖︰I
神秘︰I→H
《魔法》
【サンダーボルト】
・速攻魔法
・雷属性
【レァ・ポイニクス】
・付与魔法
・火属性
・損傷回復
・毒、呪詛焼却
【リーヴ・ユグドラシル】
・広域攻撃魔法
・雷、火属性
・竜種及び漆黒のモンスターへ特攻
・対特定事態時、特攻対象を■へ変化
《スキル》
【
・早熟する。
・目的を達成するまで効果持続。
・想いの丈に比例して効果向上。
【
・あらゆる技能の習熟が早まる。
・
・戦闘時、発展アビリティ『剣士』の一時発現。
・戦闘時、発展アビリティ『魔導』の一時発現。
【
・対精霊で特殊な補正。
・精霊への特攻及び特防の獲得。
・各属性攻撃及び呪詛に対する耐性。
【
・能動的行動に対するチャージ実行権。
【
・自動迎撃。
・疲労に対する高耐性。
・体力と精神力の急速回復。
・逆境時、全アビリティ能力高補正。
一新されたステイタス。
下級冒険者でもまずないステイタスの激上具合はLv.8とはとても思えないが約一ヶ月ぶりのステイタスの更新であり、その間にあった戦いを思えばある意味妥当とも言えるかもしれない。
本来、冒険者のアビリティのランクは良くてBでランクアップ直前であっても大抵がCかDに落ち着く。Aランクですら並々ならぬ鍛錬と戦いの日々の末漸く、たどり着ける領域だ。
アビリティの最高評価Sに上り詰める者は全くと言っていいほどおらず、派閥の頭であり、七年もの間、Lv6としての器を磨き続けたフィンであってもSランクのアビリティは特化している【器用】だけだ。
そんな前提を当然のように覆してSランクどころか複数のアビリティが限界突破したSS以上。
初見であればまず間違いなく度肝を抜かれるであろう基礎アビリティの数値だが、ロキ的には複数ランクアップした発展アビリティの方が気にかかる。
例のクノッソスを埋め尽くした緑肉を焼き払った聖火に影響されたことは疑いようはない。
「終わったで〜」
「ん、そうか」
【力】以外は各ランクアップ直前時と同程度まで引き上げられた基礎アビリティと複数ランクアップした発展アビリティ。
ランクアップや新たなスキルの発現こそなかったが今のLv.8の器としてはアルは限りなく強くなっているのだろう。
その実力はかつての最強である『英傑』や『女帝』に劣るものでは決してないと断言できる。
今のオラリオが、下界が戴く『真の最強』となったアル。
そんな少年の背中を、オラリオが誇る最大派閥の主神であるロキはじっと見つめていた。
この背中に、たかだか16年しか年月を生きていない少年が背負うには重すぎるものを負わせてしまっている。
神たる視座からすれば当然の理、世界の滅びを防ぐために必要なこととはいえ未だ幼い少年の運命を狂わせてしまったことにロキは罪悪感を抱く。
「なぁ、アル」
「あん?」
「────死ぬなよ」
「はっ、誰に物言ってやがる」
決戦が始まるまであと数刻。オラリオと下界全ての運命を決める決戦は、もうそこまで迫ってきている。ロキがアルのステイタス更新を終えた頃、既に外は夜の帳が下りていた。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「─────アル」
「ん?」
決戦当日。セントラルパークに各自完全武装した冒険者が集まりだしている。
決戦を前に不安と戦意が綯い交ぜになった空気が漂う夜。
そんな中、その夜闇を払うが如く白い存在感を纏いながらアミッドが現れる。
美しい白銀の長髪に宝石のごとき輝きを秘めた同じく白銀の双眸。女神と見間違うばかりの美しい容貌とその美貌に違わない清廉な雰囲気。
ただそこにいるだけで場の空気を清浄なそれへと変えているのではと思わされる白い存在感。
防刃・防魔を始めとしたあらゆる攻撃に隙なく対応して各種状態異常攻撃にも耐性を持ち、装束でありながら精錬金属製の全身鎧にも勝る強度を誇る法衣。
魔法の効果増幅の他にも精神力消費軽減、状態異常打破効果強化と回復魔法の行使に特化し、さらに極僅かではあるが装備者の精神力を自動回復する特殊効果を持つ特殊武装の長杖。
彼女が身に纏うのは一次侵攻の際にも身に着けていた白を基調とした戦闘衣ならぬ『法衣』であり、その手には蒼水晶の長杖が握られている。
『戦場の聖女』の二つ名に違わない、聖女の名に相応しい出で立ち。
そのアミッドの眼前にいるのはアルだ。
アミッドがそうであるようにアルもまた完全武装。
アルの装備は黒を基調に所々に灰色の装飾が施された今代の才禍が着るに相応しい、どこか静寂の魔女を思わせる喪服じみた戦闘衣。
数年前、下層27階層に現れた漆黒のアンフィス・バエナのドロップアイテムから作られた第一等級武装、【
そして、その武器は腰に佩かれた二振りの片手剣と背に負われた一本の大剣。
決戦を前にアルから放たれる16歳の少年が漂わせるには重すぎる、最強の風格に同じファミリアの者達ですら息を吞み、近づく事を躊躇わせる。
その雰囲気に唯一、気圧されることなく、アルの前まで来たアミッドは口を開く。
アルの傍らにいたレフィーヤは二人の様子にゴクリと唾を呑み込む。それはまるで一幅の絵画の如き光景だった。
月光を背にしたアミッドと月光そのもののようなアル。
白銀と黒銀。聖女と剣聖。
互いの視界から他を排し、互いだけを瞳に映す。
そして、アミッドは口を開いた。
それは決戦を前にした激励の言葉か、あるいは────
「私がいる限り貴方は死なせません、ですのでいくら傷ついてもいいですがくれぐれも私の手の届かないところで死なないように」
「はいよ」
当然ながらアルとアミッドは別行動、決戦が終わるまで会うことは叶わない。だからこその言葉にアルはアミッドのその言葉に頷く事はなく、ただ一言そう返す。
そんなアルの態度に一瞬、ムッとした表情になるアミッドだがすぐに表情を引き締める。
「私はもう貴方を識ってしまった」
「どうか生きて帰ってきてください。·····················貴方がいないと私は、つらい」
感情を押し殺し、アミッドはそう告げる。不安はある、心配もある、恐怖もある。しかし、冒険者が戦うということはそういう事なのだ。
数多の言葉を重ねるよりもただ一言。
アミッドは不安と恐怖を押し殺し、それだけを告げる。死地に赴く戦士に対するはそれ以外の全て不純物でしかないのだからと。
アルもまたその全てを受け止めて頷く。
「まぁ、誰も死なせるつもりはねぇよ」
軽口のように答えにならない言葉をそう告げるアルだがその身体から沸き立つ鬼気とすら評せる剣気はアルの言葉が軽口でも何でもない事を証明している。
そうして最後にアミッドは無言でアルの傍まで近づくとその胸へそっと頭を預ける。
二人の様子を傍から見守っていた【ディアンケヒト・ファミリア】の女性陣がその光景に思わずいっそ感心したかのような感嘆の声を漏らす。
レフィーヤは「あれあれ?隣にいる私の存在感零なのかな?」とでも言いたげに頬をひきつらせる。
二人の世界を構築する二人にアミッドは数瞬の後、すっと頭を上げて白磁の肌をほんのりと赤くしながら離れる。
その行いには言葉以上の多くの意味が籠められていた。それは誓いであり、決意であり、そして願いだ。
もう言葉は不要とばかりにアミッドは黙すると踵を返してファミリアの下へと戻っていった。
「────じゃあな」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「───────聞いてくれ」
決戦直前、セントラルパークに集った冒険者達の前に立ったフィンが静かに語りだす。
美神の派閥だけはいないものの今、セントラルパークに集うのは正真正銘オラリオの総戦力。
「これより作戦を開始する。すでに通達している通り各部隊は指定されたルートよりクノッソスに突入。それぞれが十層を目指し目標の六体───『精霊の分身』を討つ」
各派閥から選び出された上級冒険者約250名、フィンの言葉に耳を傾ける冒険者達の面持ちは一様に厳しい。
全ての事情を把握しているものはごく一部だが何が起ころうとしているのかは誰もが肌で感じ取っているのだ。
二柱の神の送還やダンジョンの異変から並ならぬ危惧を抱く者が大半であり、その士気は決して高いとは呼べない。
しかし、そんな状況でもフィンの声は冒険者達の耳によく通る。
「先に言っておこう。この戦いに富はなく、名誉もない、僕達は誰にも知られることのないまま死地に赴き、見返りのない死闘に身を投じる」
深蒼の双眸が冒険者達を見渡す。その瞳に宿るのは絶対的なまでの覚悟であり、それは言葉の端にも見て取れた。
「あるいはここに望まずに立っている者もいるだろう。怯え、戸惑い、状況に置いていかれてる者もいるはずだ」
「だが、あえて言おう────奮い立て」
フィンの声色が変わる。どこか昏い顔をしていた冒険者達はその顔を上げ、一歩前に出たフィンを見る。
その姿に引きつけられる、 超越存在である神々が放つ神威やアルの持つ個を逸脱した覇気ともまた違う。
だが、その姿には人を惹きつける何かが確かに存在した。フィン・ディムナという一人の冒険者が持つ英雄の気質、魂の輝きに魅せられる。
「────今、歴史は繰り返されようとしている。ならば他ならない僕達の手で世界を脅かす破滅に抗い、人類を守り抜いた過去の英雄たちのように絶望を覆す」
不安があった、恐怖があった、絶望があった。
だが、その全てを蛮勇ならぬ勇気でもって捩じ伏せんとフィンは言葉を重ねる。
フィンの言葉の間隙に一瞬の静寂がオラリオを包む。
「そう、これは語り継がれることのない物語。この戦いに富はなく、栄誉もない。故に僕達は『名前のない英雄』となりこの世界を救う」
三千年の悲劇、千年の停滞、十五年の絶望。オラリオの誰もが知るその歴史を塗り替える。英雄なき時代、希望なき時代、そんな時代はもう終わりにする。
遥か古代、この下界の大地に大穴が穿たれてから三千年以上。
その大穴から湧き出たモンスターによって齎された嘆きや悲劇は今もなお収まるところを知らない。
年端もいかぬ少女がモンスターの手で両親を失い、強きを求めた狼は求めた理由の全てを失った。そんなものはありふれた世界の日常だ。
その積み重なった悲劇の精算、その第一歩目こそが『三大冒険者依頼』の遂行。すなわち、『陸の王者』ベヒーモス、『海の覇王』リヴァイアサン───そして、『隻眼の黒竜』ジズの討伐。
太古の昔に大穴から出でた三つの大災厄、オラリオの冒険者たちがいずれ達成しなけれればいけない原初の約定でありながらその強さゆえ、千年もの間放置され続けた黒き終末。
まさに最強、まさに無敵、下界全土の悲願を達成するに足る英雄旅団、神々の全てが英雄たちの勝利を疑っていなかった。
神々は確信していた、下界の可能性、その結晶とも言える最強達であれば真に『救界』を成し遂げられる、と。
だが、しかし、黒竜は討たれなかった。大穴より現れた怪物の王は打ち倒されなかった。最強の集団はたった一匹の竜に敗北した。
その敗北によって力を失った男神と女神の地位を奪おうとした【ロキ・ファミリア】と【フレイヤ・ファミリア】の計略により、生き残った眷属たちは都市から追放され、今代の英雄達は消えた。
かくして世界は変わった。かつてのように平和な時代ではない。かつての栄光を取り戻すための希望もない。
始まったのはまさに『暗黒期』、あらゆる悪が、邪悪が、巨悪が世界を覆った。更に積み上がった悲劇はその頁を増やすことしかなく、そして新たに台頭し始めた新たな勢力。
それらによって世界は更なる混沌に包まれて行き、正義の眷属を始めとした新たな英雄たちによって悪が砕かれるまでそれは続いた。
今あるのは仮初の平和、いつか崩れる砂上の楼閣。
かの竜は大昔に実在した英雄譚を元とした『迷宮神聖譚』においては黒き終末、生ける厄災と言われている。それは正しい。
そう遠くない未来、竜は黒き終末を世界へ届けるだろう。
もはや誰も彼もが己のことだけで精一杯で、誰かを救う余裕なんてない。いや、そもそもそんな考えを持つことすらおこがましいだろう。
世界には悲劇が満ちている。この世に生きる全ての者が悲劇に塗れ、悲劇と共に生きている。そんな世界で一体誰が他人のために何かをすると言うのか。
だが、誰しもがそんな暗闇のなかでも燦然と輝く光を求めている。
────────世界は英雄を欲している。
「讃える者がいないというのならば世界そのものを証人にしよう、僕達が救世の偉業を成し遂げたと!」
フィンの言葉に冒険者達が色めき立つ。財は不要、名誉は要らぬ、ただ自分達が今度こそ世界を救う英雄であると証明する。
「胸に刻め忘れるな今、この日が新たな
かつての偉業の再演であり、新たな歴史の開幕であり、絶望を塗り替える希望の始まり。
そう、これは現代の英雄たちによる新たな英雄譚。
オラリオで紡がれ続ける今は亡き英雄達への鎮魂歌にして未完の英雄叙事詩。
「故に名付けよう────決戦の名は『
誰しもが己の武器の柄を握りしめ、己の心を奮い立たせる。生まれも立場も種族も性別も何もかもがバラバラな冒険者達は今ここに一つの意思を宿す。
もう不安に俯く者はここにはいない、もう怯懦に震える者はここにはいない。
「千年の時を超えてゼウスとヘラの伝説を塗り替え、僕達が新たな『英雄』となる!!」
「ここに新たな
フィンが槍を掲げるとそれに合わせ冒険者達が一斉に武器を掲げ、天を衝くような雄叫びが上がる。
それはオラリオに響き渡る大咆哮であり、世界を震わせる英雄達の産声であった。
邪神と英雄。
ゼウスとヘラの敗北から始まった暗黒期の最後の残滓にして最大の災厄を討つ最新の英雄譚。
決戦が始まる─────。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
クノッソス最奥、精霊の緑肉に覆われた魔界に地上の喧騒が、冒険者達の上げる号砲が届く。
『─────来るか、クラネル』
この一戦における最強の個、英雄と怪物の領域すら逸脱した仮面の怪人は遥か地上を見上げるように呟く。
世界を救うべく地上より来る英雄達、その到来を今か今かと待ちわびる怪人は仮面の奥で静かに笑う。
『今日が私達の四年間の終わりだ』
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最終決戦。フィンの演説は原作そのままだとあれなのででちょっと変えました。
ロキ「死ぬなよ」
白髪「死ぬよ?」
アミッド「死なないで」
白髪「いやだよ?」
【
第一等級武装。酒カスの神威で現れた漆黒のアンフィス・バエナのドロップアイテムから作られた漆黒の戦闘衣。素材的には鎧にするべきだったがアルが鎧を嫌がった為、服になった。
アルフィアエミュの喪服。
ゴライアスマフラーの全身版だがあれ程硬くない代わりに自動修復機能と紅霧由来の魔法やブレスへの高耐性を持つ。対竜種へのちょっとした補正。
【
いつもアルフィアエミュの喪服の上に着てる白いコートのような戦闘衣。別にそんな強くない。Lv.5くらいの適正装備。
ようやくここまで来れました!!
これからもよろしくお願いいたします!!
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