皆の傷になって死にたい転生者がベルの兄で才禍の怪物なのは間違っている 作:マタタビネガー
アルがオラリオに来たのは12歳の誕生日翌日です。当時のアルの見た目は目つきのちょっと悪いショタベル
『剣聖』アル・クラネル。
様々な偉業を成し遂げ、名声をほしいままにする冒険者の最高位に立つ今代の英雄たるその男は今────────土下座をしていた。
場所はオラリオのとある酒場。そこでウェイトレス達の視線を一身に浴びながら、床に頭を擦りつけている。幸い、開店前だったので客はおらず、店にいるのはこの場にいるアルと店の人間だけだったが…………それでもLv7の英雄が取るような行動ではない。
「アンタ、ウチの娘を傷ものにするたぁどういう了見だい?」
不可能を可能にする男と言われ、深層の階層主を一人で片付けるアルにも頭が上がらない人物はいる。一人は神々から『剣聖』の姉とも評されるアミッド・テアサナーレ。もうひとりがここ、【豊穣の女主人】の店主であるミア・グランド。英雄級の実力者でありながら酒場を切り盛りし、女将としてこの店を支配する彼女こそがアルが頭を下げている相手だ。
【フレイヤファミリア】の元団長のLv6の女傑であり、唯一フレイヤに忠誠を誓わなかった眷属でありながら女神至上主義の一癖も二癖もある団員たちを拳で纏め上げた猛者でもある彼女は怒らせてはならない人物の一人だった。【ゼウス・ファミリア】と【ヘラ・ファミリア】が壊滅する以前から【フレイヤ・ファミリア】に君臨し、半脱退状態であるいまも実力は健在で【ロキ・ファミリア】の幹部と同等以上のオラリオ最強候補の一角に名を連ねている。
アルもかつて、酒場で最速記録を妬んで別派閥の者に絡まれて喧嘩になった際、相手ともども容赦ない一撃で意識を刈り取られて以来トラウマにも近い感情を持つようになり、彼女に頭が上がらなくなった経緯があった。それはLv7になった今も変わらない。
「あ、あの、ミア母さん。私が無理を言ってついて行ったんです。それに怪我と言っても【ディアンケヒト・ファミリア】で治してもらいましたし·····」
「なら、今日から働けるのかい? なわけ無いさね。アンタのことだ、無理に働けば客に粗相するのがオチだろう?」
「えっ、あ、いや·············」
傷ものになった娘───ポンコツエルフ、リュー・リオンのことだ。24階層の戦いで穢れた精霊の魔法を受け負傷したリューは、当分はウェイトレスとして働けない········正確にはウェイトレスとして動けるくらいには治っているが、そんな状態で働けばポンコツさを発揮して客に料理をぶち撒けかねない、というのがミアの見立てであり、それは正しい。
「で、アンタもなんか言ったらどうだい。アンタのことはそれなりに信頼してたんだが、買いかぶり過ぎてたかね」
「いや、ホント·····俺の責任です。なんでもします、許してください」
なんて情けないのだろうか、英雄の姿か? これが。
「·······なんでも、するか。なら、働けないバカの代わりに治るまでウチで働いてもらおうか」
「はい、わかり──え?」
カサンドラ・イリオンは『予知夢』を見る。
十七節の詩と映像からなる神々ですら見れぬ『未来』を垣間見るスキルでも魔法でもない『異能』。唯一無二の、生まれ持った奇跡にも近い力ではあるが神ならざる身には過ぎた力の代償であるのか、見た予知夢の内容を誰にも信じてもらえないという呪縛がついてまわっていた。
それ故、周りからは突拍子もなく意味不明なことばかり言うおかしな娘だと思われ、『悲観者』なんて二つ名までつけられたりする始末だった。
見たくもないものを見せられ、それを他人と共有することもできない生まれ持っての『呪い』、自分の力をそう考えることもあった。
そんな予知夢の中でももっとも凄惨なものだったのは数年前、主神であるアポロンが世界最速記録を更新したアルヘ目をつけたときだろう。
『最も輝く銀星が黄昏を連れてやってくる』
その一節から始まった詩と見せつけられた光景はまごうことなき殺戮であった。
最も輝く銀星─────女神フレイヤによる極小の神々の黄昏。
その光景を見た瞬間に夢から覚め、全身の血流が逆流し、心臓を鷲掴みされたような痛みとともに吐き気を覚えた。
猪人の大剣で叩き潰され、肉の花を咲かせるエルフの魔導士。白黒のエルフに切り刻まれていくドワーフの大槌使い。小人族の騎士たちに蹂躙されていく獣人の剣士。
そして、赤銅色の髪の少女が血溜まりの中で倒れ伏している。その少女の傍らには銀色に輝く髪を持つ美しい女性が立っていた。
胸元が大きく開いた黒衣に身を包む妖艶な美女はこちらを見つめながら微笑んでいた。だが、その笑みは慈愛に満ちたものではなく、自らのものに手を出されたことに憤怒する悪魔の嘲笑のようなものであった。
その視線が物語っている。お前達は私のものに手を出したのだ、と。
自らに迫りくる猫人の槍を最後に終わった夢、自分の主神は決して踏んではいけない虎の尾を踏みつけてしまったのだと理解した。それから主神ヘ、そして他の眷属ヘ、赤銅色の髪の少女ヘ、夢のことを話し、手を引くよう説得したが誰一人聞き入れてはくれなかった。
主神の執着は凄まじく、相手が最大派閥の眷属であることすら気にせずにちょっかいをかけていた。その結果があの悪夢であるのだろう。
だが、それでも彼女は諦めなかった。あの悪夢の光景を変えるために、この予知夢の先にある悲劇を回避するべく行動を起こし
続けた。
そして、彼女は出会うこととなる、このオラリオで、この世界で唯一、自分と同じ未来を識る者を。
悪夢の実現は免れた。あの光景が脳裏から離れず、寝不足気味になっていた頃に出会った少年。悪夢の原因でもあった白髪赤目の少年は冷静さを失い、突拍子もなく意味不明なことを言い出す彼女の言葉にも否定から入らずに接してくれた。
そして、「自分も似た力がある」
と打ち明けてくれた。彼もまた、彼女が見る予知夢と似たようなものを視ていたのだという。
それは彼女の神の理からも外れてた完全なる予知とは違い、第六感を極限まで強化する発展アビリティと彼女が知る由もない知識によるもの。
それでも彼女にとって自分以外の者と未来を共有できるというのは、今まで感じたことの無い希望であり、喜びであった。
そして、悪夢の未来は、変わった。女神フレイヤが激昂する前に【ロキ・ファミリア】と【アポロン・ファミリア】の戦争遊戯で話をすり替えることができた。
都市最大派閥に【アポロン・ファミリア】が勝てるはずもないが、特別ルールで少年一人で百人以上の団員を抱える【アポロン・ファミリア】との攻城戦という
前代未聞の勝負に発展した。
いくらなんでもLv3になりたての少年が上級冒険者を数十人揃えた大規模派閥相手に勝利することなど不可能に近い。
しかし、その常識を覆し、スキルで強化した魔法で焼き討ち、攻城兵器のような雷槍、分断して各個撃破、などそれはそれは苛烈な戦術で勝利を掴んだ。
結局、【アポロン・ファミリア】に夢のような死傷者はでず、眷属に手を出されて怒り心頭な神ロキによって重い罰を受けて少年に近づいてはならない接近禁止命令が出されたことで事なきを得た。
それからというもの彼女は少し明るくなった。恐ろしい夢を見ても、一人で抱え込むのではなく素直に相談できる相手がいるということが何よりも嬉しかった。
彼にとっては救った数多くの中の一人でしかないだろうけど、それでも彼女に取っては紛れもなく運命の出会いであった。
「─────────ッ、う、あ」
夢を見た、恐ろしい未来の悪夢を見てしまった、これまでの何よりも鮮明でおどろおどろしい死の夢。
息苦しさに目が覚める。ベッドの上で上体を起こして、呼吸を整えようと深呼吸をする。嫌な汗が流れて気持ち悪かったがそれどころではない。
「うっ、あぁ」
あれは予知夢だ。これまで見てきたどんなものより鮮明で、恐ろしく、救いのない夢だった。頭痛が酷い、吐き気がする。胃酸が食道を通って喉の奥まで上がってくる感覚に口を押さえる。
寒い、体が震えている。布団を被っているにも関わらず寒くて仕方がない。
『妄執に囚われし王の代行者』『牙を折った天狼』『翼を奪われた風精霊』『誇りを失った勇者』
·············『滅びをその身に受ける英雄』。
そんな単語の含まれた詩とともに脳裏に焼きつけられた、『英雄』が、白髪の少年が────で────される姿。そして、そんな光景の最後に見た女性の姿。
『妄執に囚われし王の代行者』────美しい赤髪に翡翠のように輝く瞳を持つ妖艶な美女。その笑みは悦楽に満ちており、しかしその視線は侮蔑と嘲笑と憤怒が入り混じったもの。女神フレイヤとはまた違った、背筋が凍るような美しさを纏っていた。
あの女性はいったい誰なのか? 予知夢の中では顔すら見えなかった。ただ漠然としたイメージだけが浮かび上がり、それが誰のものかも分からない。だが、なぜか、その女性から視線を逸らすことができない。まるで蛇に睨まれた蛙のように、動けない。
怖い、あの女性が、あの女性があの少年を───す姿が怖くて堪らない。予知夢の中で見たあの女性があの少年を傷付けるのだろうか。あの女性が少年を殺すのだろうか。あの女性が少年を犯すのだろうか。
自分の知らない何かが、これから起きるかもしれない。そして、自分が何も出来ないまま、終わってしまうのでは、ないか。
それは、とても、恐ろしい。
ついに耐えきれずにせり上がった吐瀉物を吐き出してしまう。ビチャリと床にぶちまけられた汚物、ツンとした臭いが鼻を刺すが気にもならない。
これまで、悪夢の光景を変えるために行動を起こし続けた。だが、その全てが上手くいくわけではない。むしろ逆効果になることの方が多い。
あの少年を助けるためにはどうすればいいのか、考えなければいけない。そう思いながらも、考えることはあの女性のことだ。
あの赤髪の女性は何者で、何をしようとしているのか。
そして、あの少年とあの赤髪の女性の関係はなんなのか。答えの出ない疑問ばかりがぐるぐると頭を回る。いつの間にか日は高く昇り、夜から朝へと変わっていた。窓から差し込む光は眩く、明るいはずなのに、部屋の中に漂う空気は重苦しいものだった。
あ、カサンドラじゃん。いつにもまして顔色悪いな、またなんか見たのか?
·······えっ、マジで?!
24階層の事件の翌日、起きてしばらくぼやぼやしていたアイズはやけにテンションの高いロキに【豊穣の女主人】に行ったら面白いものが見られると言われて行ってみたが、そこで見たのはウェイター姿で接客をするアルだった。
普段から盛況な店だったが今日はいつもにも増して客が多い。
客層は普段通りの冒険者三割、神二割、エルフ一割、アマゾネス四割といったところか。どこからか噂を聞きつけた愉快犯の神々やアマゾネスがごった返しているのだ。
また中には接近禁止命令違反ということで猫人の店員に連行される太陽神やローブで顔を隠したお忍びの美神の姿もあった。
冒険者らしきアマゾネス達は皆、アルを見て舌なめずりをせんばかりであり、それはまるで獲物を狙う肉食獣のような眼光、あるいは捕食者を前に怯えながらも期待してしまう被食者の目つきである。
「(……ちょっと怖いかも)」
アイズがそう思うほどだ。だがそんな視線に晒されてもアルは全く動じていない。いつも通りの仏頂面のまま注文を取り、料理を持っていき、空いた皿を下げ、テーブルを拭き、食器を下げるとまた新たな注文を取っていく。その動きにはよどみがなく、熟練のプロを思わせるものがあった。
下手をせずとも勤務歴五年を超える栗毛の猫人以上の働きをしている。そして何より凄いのはその人気ぶりだろう。女性のみならず男性からも大人気であった。
今も給仕をしていたアルに声をかけた冒険者が、一緒に食事でもどうだと誘っているがそれをやんわりと断られている。しかしそれでも諦めきれないのかその後も何度も声をかけるも全て失敗に終わっているようだ。
それどころか神の中にはアルきゅんと呼んでナンパ紛いのことまでしようとする輩までいる始末である。太陽神は二度目の連行で呆れた顔の赤銅色の髪のヒューマンに引き摺られて行った。
ちなみにその時、引き摺られていた太陽神はアルにウインクを送っていたのだが、アルはそれを完全に無視していた。
他に比べれば少ないとはいえいつもより明らかに多いエルフ達は能動的に話しかけようとはしていない。むしろ遠巻きにしてチラチラと見ているだけという有様だ。
アルの多才さは知っていたがまさか接客業までこなせるとは思っていなかったアイズは内心驚いた。
この分なら冒険者としてだけではなく他の仕事に就いていても大成するのではないかとすら思ったほどだ。
店の営業が終わって解放されたアルに事情を聞けば、24階層で【ヘルメスファミリア】に同行していた覆面のエルフがここの店員であり、その穴埋めのために働かされているとのことらしい。Lv7を働かせる酒場って…………。
日もとっくに落ちた肌寒い街のベンチに腰を下ろす二人。暫しの沈黙の後、アイズは口を開く。
「なんで、アルは剣をとったの?」
いきなりの意図の読めないアイズの言葉に眉をひそめて首を傾げるアルに、アイズは返答も待たず続ける。
「私が、剣をとったのは────モンスターに奪われたおとうさんとおかあさんを取り返したかったから」
強くなりたいなんて思いはその理由に付随したものでしかない。それを自分の他に知るのはリヴェリアやフィン達だけだろう。アイズの両親はモンスターによって奪われてしまった。
だからこそ、アイズは強くならなければならない。いつか必ず両親の仇を討つために、いつか必ず両親を取り返すために。なら、アルは、アイズ以上に強さを求めてきたであろうアルは一体なぜ? それが知りたかった。
そんなアイズの考えなど露知らず、突然始まったアイズの独白に戸惑いながらもアルはその問いに答える。
「理由、か。どうしても見たいものがあった。それを見るためには強くならなくてはいけなかった、ただそれだけだ」
いつもと変わらない無表情でつまらなそうに言う姿は、アイズにはどこか寂しげに見えた。それを見ていられなくなって思わず肩を寄せる。
「······その、見たいものが見えたあとでいいから」
アイズの脳裏に浮かぶのは父と母の姿。何年も秘めてきた思いを告げる。
「アルは、私の英雄になってくれる?」
アイズ・ヴァレンシュタインにとって英雄とは、物語の中にしかいない存在だ。現実には助けてくれる英雄なんているわけがない。
それをわかっていたからこそ、アイズは自分の手で剣を取ることを決めたのだ。だが、今は違う。目の前にいる少年は、確かに自分を助けてくれた。そして今もなお、こうして隣り合って座っている。
『いつか、お前だけの英雄に巡り会えるといいな』
父が言ったそんな言葉を思い出した。それはきっとこの事だったんだと思う。今、私はやっと、本当の意味で英雄に出会えた気がする。アイズの言葉を聞いたアルは驚いたように目を丸くすると、少し考える素振りを見せた後に口を開いた。
「親代わりの爺は俺に英雄になれと常日頃言っていたが、俺は多くのために戦う英雄なんてものにはなれないし、なりたくもない。─────ただ、そうだな。お前一人くらいの英雄なら考えてやる」
と無表情をほんの少し崩してアイズに微笑んだ。
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アポ「アルきゅんがウェイターしてるだってえええええ?!?!?!!?!?!??!?! 行かねば!!!!!!!!!!」
ダフネ「はぁっ?! ちょ、ちょっと待っ、」
アポロン回にしようと思ってたけどアポロンムズいわ
カサンドラの件が後にも先にも原作知識が良い使われ方をされた唯一の事例かもしれない、あとは悪用しかされてない。
カサンドラに原作知識及び前世については言ってないです、全部【直感】さんのせいにしてます。一応、【直感】は擬似的な未来予知できるので嘘ではないです。
原作知識(+幸運)で予知夢の信憑性を信じ、【直感】で共感。
【直感】
第六感、及び危機感知能力の強化。初見の攻撃に対する対応に補正。幸運アビリティで稀に精度が上がり、その際は擬似的な未来予知に近い反応が可能となる。
《予知夢》との違いはある程度意識的に発動できるどうかという点にある。自由度は此方の方が高いが、具体性に関しては予知夢に軍配が上がる。
なお、戦闘中の予知はスキル【闘争本能】でアルの意識に関わらずオートで最適な迎撃行動を行わせられる、
【各員から学んだこと】
リュー:並行詠唱
クロエ:隠密
ルノア:格闘
ミア:料理
シル:耐異常
アーニャ:「槍は別に・・・・いや、アーニャの技術でアレンの相手するのはおいしいな」