皆の傷になって死にたい転生者がベルの兄で才禍の怪物なのは間違っている   作:マタタビネガー

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最近、早寝早起きが極まって二十時に寝て五時に起きてる。今日は二十三時に目覚めた、一時にもう一回寝よう。



エニュオを筆頭にアルに対して好感度低い奴のがアルの正体に近いです(怖·······ってなるだけで本質とはずれてる)

例外は二人、if込みで四人





二十五話 英雄願望(アルゴノゥト)

 

 

 

 

 

 

荒れ狂う精霊の風でもとより荒れ果てていたダンジョンの地面はその風を遥かに上回る炎雷と剛撃の応酬によって英雄ならざる余人が立ち入れば余波で簡単にその命を砕かれる絶死の領域と化していた。

 

階層主をも上回る個のぶつかり合い。

 

「「───ッ!!」」

 

 その中心に立っているのは錆色の頭髪と瞳を持つ巨躯の猪人と白髪の頭髪と血色の瞳のヒューマン。紛れもない英雄の威風を纏う両者の剣戟は先の戦いが児戯であったかのような大地をも揺るがす神域の攻防となっており、そのさまは頂上決戦と評するほかはない。

 

緋色の大剣による連閃をアルは最小限の動きで回避する。攻撃に込められた殺気や敵意を感じ取り、その軌道を読み切った上で、反撃を繰り出す余裕すらある。

 

対するオッタルもアルの斬撃を紙一重で避けるものの、隙あらば大剣を振るって一撃を叩き込もうとしている。

 

オッタルの振るった大剣をアルは左のバルムンクの刃先で受け流すと右の呪剣の切っ先がオッタルの腹を掠めていく。一瞬の膠着状態が生まれた瞬間、両者は同時に動いた。渾身の力を籠めた斬撃を放ったオッタルに対して、アルもまた必殺の威力を込めた刺突を放つ。

 

互いの一挙手一投足が大気の壁を突き破り、衝撃波を生み出す。両者の間で空間そのものが悲鳴を上げているかのように軋みを上げる中、互いの武器の先端が衝突した。次の刹那には互いに後方へと飛び退き、距離を取る。

 

戦気を滾らせぶつかる両者の認定レベルは共に世界最高たるLv7。

 

恐るべきは『猛者』オッタル。才能の権化であり、あらゆる術理と奥義を修めた新世代の若き英雄筆頭の一撃一撃が即死につながる連撃を尋常ならざる不屈の肉体と不撓の精神をもって紙一重で凌ぎきっている。対してアルは天性の才能と類まれなる戦闘技術を以てしてこの怪物に食らいついている。

 

今のオッタルのステイタスは魔力を除けば全てが上限たるSランクの999にまで至っており、スキルによる後押しを受けたその剛力は全盛期の『暴食』を確実に上回っている。

 

 

オッタルの表情に浮かぶのは歓喜の色だった。それはまるで強敵との闘争を楽しむかの如く、笑みを浮かべる姿はまさしく戦士の姿だ。

 

「どこまで登り詰める、『剣聖』」

 

 心の底から湧き上がる感嘆と歓喜。七年前、【ゼウス・ファミリア】最後の眷属と戦って以来、自分とここまで打ち合える者などいなかった。

 

アレンのようにあるいは自分以上の才を持つ後進もいるが、それでもかつての最強を知る身としては自分程度を目標にされても困るのだ。

 

だが、目の前の英雄は違う。間違いなく、自分の知る『真の最強』の領域に到達できる器を持っている。己が身を襲う衝撃と激痛も忘れてオッタルは全身全霊の力を込めて大剣を振り下ろす。

 

オッタルの言葉を受けてなお、アルの表情に揺らぎはない。ただ静かに眼前の敵を屠るべく意識を研ぎ澄ましていく。

 

【力】と【耐久】ではオッタルが、【敏捷】と【器用】ではアルが優る果たし合いはさらなる苛烈をもって────

 

「やけに親指がうずいていると思ったら·······これも含まれていた、ということかな?」

 

 その人界最高の戦いに水を差す声はオッタル達がいる通路口前とは真逆の位置にある通路の奥から聞こえてきた。黄金の長槍を携え、同じ黄金の輝きを秘めた髪をなびかせる小人族の美丈夫。

 

「やあ、 オッタル」

 

「·······フィンか」

 

 親しげに、それでいてどこか冷徹さを感じさせる声で呼びかけてくるフィンに対し、オッタルは微かに顔をしかめる。しかしそんな反応を意にも介さずフィンは言葉を続けた。

 

彼の視線はアルにも向けられており、その瞳はどこか楽しそうな色を含んでいる。それはオッタルにも同様であり、その瞳には興味深げなものが含まれていた。

 

ついで、リヴェリア、ティオナ、ティオネ達も姿を現し、全員が二人の傍まで歩み寄ってくる。全員、それぞれの得物を握りしめており、臨戦態勢を整えていた。先ほどまでの激戦が嘘のように静まり返った戦場で、全員がオッタルに向き直り武器を構えてみせる。

 

アルに加え、第一級冒険者四名は流石に手に余ると臨戦態勢を解除すると、オッタルは小さく息をつく。敵意が消えた相手にアルも興が削がれたのかなんの未練もなく戦意をかき消して翻る。

 

敵への興味を失い、リヴェリアとともに血まみれの小人族の少女の治療に向かうアルの姿を見送りながらフィンはオッタルに問いかける。

 

「状況は把握できていないんだが··········何故この場所で、この時に僕達と矛を交えたのか、理由を聞いてもいいかな、オッタル?」

 

「敵を討つことに、時と場所を選ぶ道理はない」

 

「もっともだ。では、それは派閥の総意、ひいては君の主の神意と受け取っていいのかな? 女神フレイヤは、僕達と全面戦争をすると?」

 

「あの色情魔の命令だろう? 振り回されるお前やアレンには同情するよ」

 

「·······いや、俺の独断だ」

 

 アルの言葉に、フィンは苦笑いする。確かにオッタルの言う通り、今回の件は【フレイヤ・ファミリア】団長としてではなく、単独で動いていることだ。だが、その裏には主神であるフレイヤの意志があるのもまた事実だろう。

 

「お前達が徒党を組む以上、俺に勝ち目はない」

 

「そう言ってもらえて助かるよ。僕達も、君とはことを構えたくない」

 

 ティオネ達の鋭い視線に晒されながらもフィンたちの入ってきた8階層への通路へ向かおうとするオッタルは、ふと足を止める。

 

「とどめられなかったこの不覚、呪うぞ」

 

 雷による火傷と出血で全身を赤く染め上げながらもなお威風堂々とした立ち振る舞いを見せるオッタルの眼光は振り返らずに背中越しに向けられたにも関わらずフィン達の更に先を射貫く。

 

「自分の無力を棚に上げ、言おう」

 

 通路の先から響き渡るミノタウロスの咆哮を背にオッタルは言い放つ。

オッタルの声音には確かな怒りが、自身の無力を呪うかのような怒り込められていた。フィン達ですら感じ取れるほどの明確な意志を纏いながらオッタルはその言葉を紡ぐ。

 

「殻を破れ、他者の手などはねのけろ、『冒険』に臨め。お前の見るべきものは前だけだ」

 

「─────あの方の寵愛に応えろ」

 

 

 

 

 

 

 

 

チェンジで。

 

なーにが寵愛に応えろ、だ。

 

女神至上主義マジつまらんし、むさくるしいわ。

 

今度、アーニャが作った弁当デリバリーしてあげるからアレン連れてこい。 

 

あるいは見てて愉快だから魔法使用中のヘルン連れてこい、他は女神ともどもいらん。

 

 

 

 

 

 

 

 

絶えずに襲い来る痛みに意識を失いかける中、僕の意識は目の前に立ちふさがった人影に吸い寄せられていく。ベートさんとアイズさんが、憧憬が、僕を庇うように立っていた。

 

状況に思考が追いつかない。どうしてここに二人がいるのか、なんで僕を助けようとしているのか、なんで、なんで────。

 

二人は武器を構えることすらせずに、ただ立っているだけだった。ミノタウロスの殺気に当てられても、微塵たりとも怯んでいない。むしろ、ミノタウロスのほうこそ二人の放つ威圧感に気圧されているように見える。

 

僕は呆然としながら、二人が立つ姿を眺めていた。

 

二人の姿はまさに憧れた英雄の背中で────

 

「蹴り殺してやるよ」

 

「今、助けるから」

 

 その言葉に身体に走る痛みが消え去った。それはまるで魔法のように、あるいは奇跡のように。激情が身体を支配するのを感じた。憧れの背中が、すぐそこにある。手が届きそうなほど近い場所にいる。

 

これじゃ、あの時と同じだ。燃え盛る気炎が、恐怖を焼き尽くしていく。虚勢、強がり、勇気、それら全てを燃料にして、熱く、熱い感情が身体を支配していく。

 

立たなくては、立って戦わなくてはならない。

 

また、助けられるのか?

 

また、守られるのか?

 

また、何も出来ないのか?

 

何のために強くなろうと決めたんだ!!

 

動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け!!!!

 

竦む体に喝を入れろ! 怯えて縮こまった心に活を入れる。弱音を吐こうとする自分を叱咤し、奮い立たせる。

 

闘志に、火を灯せ。

 

覚悟を決めろ。

 

決意を固めろ。

 

ここで意地を張らないで、いつ張るんだ。

 

ここで立ち上がらないと、僕は一生後悔する。

 

瞬間、僕の視界がクリアになった。

 

歯を食いしばって、震える膝を殴り、体の芯から冷え切った指先の末端に至るまでの感覚を取り戻す。そして、僕は足の裏を地面につけてしっかりと立った。

 

「········には、いかないっ」

 

「もう誰かに助けられるわけにはいかない」

 

「ここで逃げたら、もう僕は何者にもなれなくなるッ!!」

 

 立ち上がった僕にニヤリとミノタウロスは笑みを浮かべると、大剣を担ぎながら歩み寄ってくる。僕はそれに相対するように前へと出た。怖い。怖くて仕方がない。それでも、僕は逃げない。逃げたくない。立ち向かう。その想いを胸に抱きながら、僕はミノタウロスを見据える。

 

「勝負だッ······!!」

 

 これこそが僕の、ベル・クラネルにとっての初めての冒険。

 

 

 

 

 

ミノタウロスとベルが相対するルームにリヴェリア達もやってくる。

 

視線が集まる先にあるのは彼らにとっては遥か低次なはずの戦い、しかし誰もがその戦いから目を離すことが出来ないでいた。魂の燃やすようなベルの叫びが、ミノタウロスの咆哮とともにルーム中に響き渡る。

 

傷だらけの身体に活を入れ、ミノタウロスに立ち向かっていく。大剣とナイフが火花を散らす。互いの攻撃が掠め合い、血の粒が飛ぶ。

 

一撃でもまともに喰らえば死ぬかもしれない状況だというのに、ベルの心には恐怖心というものはなかった。ただ目の前にいる強敵を倒すという闘争本能のみが身体を突き動かしていた。

 

甲高い金属音が鳴り響く中、腕を振るうだけで暴風を巻き起こす怪力に圧されながらも、ベルはなんとか躱して致命打を避け続ける。

 

「(図体に、騙されるな!)」

 

 恐怖を砕き、勇気を振り絞って何度も立ち向かう。恐怖の呪縛から解き放たれた今のベルに後退という文字はない。ただひたすらに前進あるのみだ。

 

ベルはミノタウロスの攻撃を避けると同時に懐に入り込み、ナイフによる斬撃を繰り出す。ミノタウロスの怪力はベルを一撃で潰すことなど造作もないだろう、掠っただけでも致命傷となるだろう。

 

だが、それだけだ。

 

はなから当たるつもりはない。ベルはミノタウロスの大振りの攻撃を見切り、バックステップを踏むことで間一髪で回避し、そのままミノタウロスの背後に回り込む。そして、再び斬撃を放つ。

 

ミノタウロスの首筋に刃が迫るが、腰の入ってないその斬撃では分厚い肉鎧にはかすり傷しか負わせることはできない。だが、少しずつではあるが確実にベルはミノタウロスを削っていく。

 

速攻魔法の火雷が轟く。一発一発の威力に乏しい代わりに精神力が尽きない限り連射の効く無詠唱魔法。直撃を受けた箇所は焦げて煙を上げているものの、ミノタウロスの頑丈すぎる肉体はその程度の損傷ではびくともしない。

 

それでいい、ミノタウロスの視界を遮ることさえできれば十分だ。恐怖を拭い去り、冷静に見据えれば見切れない速度ではない。

 

「(コイツより速い相手と、何度も戦ってきたんだろう!!)」

 

 師である狼人はミノタウロスより遥かに素早く、力強い。ベートに比べればミノタウロスの一直線な動きなんて簡単に予測できる。

 

ミノタウロスの攻撃は苛烈を極めるが、ベルはギリギリのところで全てを回避する。嵐のような剛撃を潜り抜け、避けきれないものはナイフで受け流す。ナイフを持つ手に痺れを感じても決して手放さない。

 

「ナイフであの攻撃を逸らしてる·····?」

 

「いや、何よりも注目すべきはあの足捌き······ベート、お前が教えたのか」

 

「········」

 

 リヴェリアの言葉に答える余裕のないベートはただじっと戦況を観察し続けている。その表情からは何を考えているか読み取ることは出来ない。そうこうしているうちにミノタウロスの動きに変化が訪れる。

 

ベルに対する警戒心を抱いたのか、今までのように力任せに剣を振り回すのではなく、拙いながらも剣技。それも突きを主体としたものへと変化させていく。

 

ミノタウロスの持つ大剣は両手持ち用の巨大なものだ。そのため、リーチが長い反面、小回りがきかない。それはつまり、一度でも懐に入られれば一気に劣勢に立たされるということだ。それを理解したのか、ミノタウロスはベルに対して果敢に攻め立てる。

 

それでもベルは怯まない。一撃でも当たれば即死するような攻撃を前にしても冷静に対処する。時には相手の力を利用すらして、ベルは着実にダメージを与えていった。だがそれでも基礎能力の差は歴然であり、次第にベルの体力が削られていく。

 

徐々に的確になっていき、退路を塞ぐように繰り出される剣戟を必死になって避ける。頬を掠める刃に冷や汗を流しながら、ミノタウロスの隙を窺う。少しの狂いが死を招く紙一重の攻防。

 

「本当によく凌いでる。でも········」

 

「攻めきれないっ」

 

 両者の間に隔たる致命的な差、それは攻撃力にほかならない。ベルのナイフや短剣での一撃では分厚いミノタウロスの肉鎧を貫くことが出来ない。

 

対してミノタウロスの攻撃は一撃一撃が即死の必殺、掠めただけでも致命傷になりえる。当たらずともこのままでは、いずれ押し負けてしまうだろう。

 

ミノタウロスによってルームの地面は隆起し、亀裂が生じ、砕けた瓦礫が散弾のようにベルの身体を襲う。

 

「ヴァムゥウウウウウンッ!!」

 

「づっ!!」

 

 ベルの身体に無数の裂創が生まれ、鮮血を散らす。苦痛に顔を歪めながらもベルはナイフを握り締め、ミノタウロスの猛攻を掻い潜る。ミノタウロスにある怪物としての基礎能力というアドバンテージを覆さない限り勝利はない。

 

「あのミノタウロス、やはり変だな」

 

 二人の攻防を観戦していたリヴェリアが片角のミノタウロスの他との差異に気づく。天然武器でない一廉の冒険者が持つような大剣を鈍器ではなく刃物として使い熟しているのも目を引くが、何よりも目を向けるべきはその純粋な身体能力の高さ。

 

ダンジョンから産まれる同種のモンスターにも多少の個体差はあるが、片角のミノタウロスのポテンシャルはもはや別種と言えるほどに高い。

 

「······強化種か」

 

「うそ·····」

 

 以前逃したミノタウロスが生き残り上層のモンスターを狩ったのだろうか? いや、格下の魔石を喰った程度の強化率ではない、同等の階位の中層域の魔石を複数喰らわなければああはならない。

 

「【ファイアボルト】!!」

 

 右手を突き出し、速攻魔法を連射する。炎雷の嵐にさしものミノタウロスも後退を余儀なくされ、攻撃の手を止める。

 

「········詠唱してる? あの魔法?」

 

「いや、アルの【サンダーボルト】と同じ速攻魔法だな」

 

 連射可能な魔法の火矢。絶体絶命の状況においてもこの魔法によってかろうじて九死に一生を得ている。この魔法がなければ勝負はすでに決していただろう。

 

だが、これでもうベルは後がない。体力はとうに限界を超えている。一撃でも貰えばそこで終わりだ。頼みの魔法も精神力に底が見えてきた。

 

なにより、ベルの魔法では。

 

「決定打には届かない」

 

 無詠唱ゆえの欠陥。本来、奥の手として扱われる魔法を詠唱なしで発動、挙句の果てには連射すら可能とする速攻魔法は確かに強力ではあるが欠点も存在する。威力が通常の魔法よりも遥かに劣る。ミノタウロスの体はダメージこそ負っているが深手には程遠い。

 

「アルの、同じ無詠唱の【サンダーボルト】の威力が反則なだけといえばそうなんだろうけどね」

 

「手詰まりか」

 

「決めつけるにはまだ早い······と言いたいところだけど」

 

 刻一刻とベルの限界が近づきつつある。このまま戦い続ければ遠からずベルの敗北が決定する。防御にすら全身全霊を注がなければならない状況で有効打につながる反撃に転ずることは不可能に等しい。

 

急所である魔石を狙おうにもナイフのリーチでは分厚い胸筋に隠されたミノタウロスの魔石には到底届かない。

 

酸欠か、精神力の消耗か、少しずつベルの視界が狭まっていく。このままではミノタウロスの攻撃で潰される前に意識を失うかもしれない。

 

大気に悲鳴をあげさせながら振り下ろされるミノタウロスの剣をどうにか防ぐものの、体勢を崩したベルに対して容赦なく放たれた追撃が【バゼラード】の刃をたたき折る。

 

甲高い音とともに宙に舞った刀身に目を剥くベルに対し、ミノタウロスは容赦ない攻撃を叩き込む。回避は不可能、防御すらままならない。

 

ベルの華奢な体が吹き飛び、地面に叩きつけられる。口から鮮血が零れ落ち、激痛に悶える暇もなくミノタウロスの巨躯が迫ってくる。

 

「彼には、武器がない」

 

 フィンの言葉の通り、魔法でもナイフでもベルではミノタウロスには決定打を与えられない。刀身を半分以上失った短剣を持ったボロボロの左腕を庇いながら立ち上がるベルの姿は満身創痍そのもの。もはや勝機はどこにもない。

 

絶望的な光景に誰もが息を呑む中、ミノタウロスの振り上げた大剣がベルにむかって一直線に落下する。

轟音が鳴り響き、大地が揺れ動く。砕けた地面の破片と砂煙が立ち込める。

 

煙の中、薙ぎ払うかのように放たれた致命の一撃を、鍛冶神が鍛え上げたナイフで防いだ時─────

 

バキィンッ、と。

 

噛み合った衝撃に、小柄なれど遥かに質の高い漆黒の刃にミノタウロスの持つ大銀塊が砕け散り、ベルの漆黒のナイフが遥か後方に吹き飛ぶ。瞬間、二人は互いに無手となった。

 

ベルは唯一の攻撃手段を失った、ベルの使っていた短剣はすでにその刀身を半分以上失っていてミノタウロスの筋肉の鎧には通らない。

 

そして、決定打を失ったのはミノタウロスとて同じだった。無論、ベルとは違ってその鋼の肉体は無手でも人間一人を殺してあまりある凶悪さを秘めている。

 

しかし、ミノタウロスはベルの逃げ足の巧みさを知っている。相手も武器を失って攻めてくることがない以上、リーチが短い無手ではベルを捉えられないと理解していた。

 

「───ブムゥ」

 

「········はぁ、はぁ」

 

 激戦が僅かながら膠着状態に至り、互いに攻めあぐねる。だが、それを覆すように静かな言葉と共に二人の元へ二つの武器が飛来する。

 

「──使え」

 

 それはアルが投げ渡した大剣と片手剣。どちらも握ったものを呪うような鬼気をまとう魔の剣。歴戦の勇士でも持つことを躊躇うような剣を両者は迷うことなく掴み取った。

 

ベルは左手で、ミノタウロスは右手に。同時に走り出す。ベルは左に、ミノタウロスは右に。ベルは呪剣をミノタウロスの首筋へ、ミノタウロスは竜剣をベルの胴へと。互いが借り受けた獲物を振り抜く。互いの得物が交錯し、激しい金属音を奏でる。

 

片や、隻眼の黒竜の鱗から作られた下界至高の竜殺しの大剣。

 

片や、自らを焼く事を対価に凄絶なる一撃を放てる呪詛武器。

 

下界において至高の域にある、竜剣と呪剣。

 

初めて握った二人に特殊武装たる異能は発揮できない。だが、どちらも異能を抜きにしても第一級冒険者の頂天が持つ名剣を越えた名剣、此処から先の攻防に防御は不可能。

 

英雄の武器を手にした両雄が戦意を滾らせる。

 

最後の攻防が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──────────────────────────────────────────────────────────────────

 

 

全然関係ないけどクロエ(当時17歳)とアル(当時12歳)は互いにとって危険っすね、性癖と性癖とバトルや。

 

ミア以外に豊穣の女主人で一番真っ当に接してるのはルノア

 

アル「チェンジ」←オッタルをその他大勢扱いしてる変態

オッタル「どこまで登り詰める······!!」

 

アル「アーニャが作った弁当デリバリー」←アレン曇らせのために数年前アーニャに貰った今の能力的には弱いアミュレットつけてる変態

アレン「死ね、殺す」

 

アル「見てて愉快」←素でフレイヤかどうか判別する変態

ヘルン「弟が逆に怖い」

 

 

【Q&Aコーナー】

Q.アル・クラネルが私を見て「あ、今日はお前か」とか言ってきます、最初は殺意だったんですがだんだん怖くなってきました。なんでわかるんですか?『匿名希望の従者』

 

A.嗅覚です。アル☆ノーズ。

 

匿名希望の従者『聞かなきゃよかった』

 

回答者『アル☆アイでも看破可能』

 

匿名希望の従者『目と鼻、いや、いっそ五感全部潰せばいいですか?』

 

回答者『アル☆ハート』

 

回答者『ちなみにアルは攻めに弱い、というより被害者の立場だと生意気にもまっとうな価値観になるのでアポロンやアマゾネスレベルまで突き抜ければ無害です』

 

 






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