皆の傷になって死にたい転生者がベルの兄で才禍の怪物なのは間違っている   作:マタタビネガー

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二十八話

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

三カ月に一度開かれる神々による会合─────『神会(デナトゥス)

 

Lv2以上の眷属がいる【ファミリア】の主神であることが参加条件の集会であり、至極どうでもいい話題からオラリオの運営に関わる重要案件についても語られる神の集会。

 

【ソーマてファミリア】、【ラキア王国】に関してとロキから挙げられた『極彩色のモンスター』に関する連絡が終わった後、新しくランクアップした眷属への二つ名の『命名式』が行われた。

 

 

 

 

「じゃあ、命ちゃんの二つ名は『絶†影』で」

 

「「「「「異議なし!!」」」」」

 

「巫山戯んなあああああああああああああああああああああああ?!」

 

 未だ未発達な下界の民の感性からすれば名誉そのものと言える素晴らしい二つ名も全知零能の神々からすれば小っ恥ずかしい厨二センスの塊として爆笑モノも多い。

 

愉快犯の多い神々の悪乗りによって今日も下界に降りてから日の浅い中小ファミリアの眷属には『美尾爛手(ビオランテ)』や『暁の聖竜騎士(バーニング・ファイティング・ファイター)』などの聞くものが聞けば身体が痒くなりそうな二つ名がつけられている。

 

「話もとに戻すでー。今度の冒険者は·········大本命!! うちのアイズたん!!」

 

「『剣姫』キタァー!!」

 

「相変わらず姫は美しいな」

 

「はぁー、ていうかもうLv6かよ·······」

 

「まーたイかれた真似しでかしたなぁ、この小娘」

 

「階層主一人でぶっ倒したとか········やべえよ、頭おかしすぎるわ!!」

 

「それ、一人で遠征するオッタルさんとアルきゅんの前でも言える?」

 

「アイズちゃんは別に変えなくてもいいんじゃないか?」

 

「まぁ、最終候補は間違いなく『神々(俺達)の嫁』だな」

 

「「「「「「「だな!!」」」」」」」

 

「殺すぞ」

 

「「「「「「「すみませんでしたッ!!」」」」」」」

 

「ったく、喧嘩うる相手は選べっちゅうねん────で、次が最後か」

 

 最後の資料には開催ギリギリでランクアップした白髪のヒューマンが書かれていた。

 

 

 

 

 

『ベル・クラネル』

所属ファミリア︰【ヘスティアファミリア】

種族︰ヒューマン

到達階層:第10階層

主要武器:ナイフ、短剣

 

所要期間:約一ヶ月

モンスター撃破記録:5899体

 

【ランクアップ理由】

上層で突如発生した強化種と思われるミノタウロス(以後、片角のミノタウロス)と10階層で戦闘。全身に重度の火傷及び骨折、裂傷を負いながらもこれを単騎で討伐。また、ランクアップ以前から単独探索でキラーアン───────────

 

 

 

 

 

「「「「また、クラネルかよ」」」」

 

 神々の中で「下界の可能性の煮こごり」と称される『剣聖』アル・クラネルの弟という血統とその兄に追従する記録を叩き出したヒューマンに神々は叫ぶ。

 

「え、なに? そういう一族なん?」

 

「あら、でも『剣鬼(ヘル・スパーダ)』と違って、随分かわいらしいじゃない」

 

「元『剣鬼(ヘル・スパーダ)』な、あと『剣聖』も顔はいいぞ」

 

「『首刈り兎』!!」

 

「『都市最カワ』!!」

 

「『化け物の弟』!!」

 

 頭のおかしいランクアップ速度にこれ以上ない理由がある以上、虚偽などの疑いは生まれず神々は好き勝手に二つ名を出し始める。

 

「そういえばロキ、貴方のところの『凶狼(ヴァナルガンド)』が弟子を取ったって噂が一時期あったけど·······この子、噂の子と特徴似てない?」

 

 騒がしい神々の中から発言したのは胸部が特徴的な栗毛の髪を伸ばした穏やかな美女神、オラリオの食料生産の大部分を担う生産系ファミリア【デメテルファミリア】の主神、デメテルである。

 

「たしか、兎のようなヒューマンの少年だっけ? 確かに似てるな」

 

「戦い方も同じようだしねぇ」

 

 その言葉に真っ先に反応したのは吟遊詩人のような格好をした軟派な男神、ヘルメスとこれまた軟派な貴公子のような格好の神デュオニュソスの二人だった。

 

「はあ? いくらアルの弟って言ってもベートが弟子なんかとる·····わけ······が·····」

 

 ロキの脳裏に浮かんだのは自分たちのレベルでは使わないような低級のポーションを大量に買い、休日には良く外出するようになったベートの姿だった。

 

「········マジか」

 

 ありうる、と策謀の神と知られるロキの頭脳が結論を出す。

 

「どうなんや、ドチビ? ウチのベートはあんま自分の私生活曝け出さんからな」

 

「······うん、ベルくんは君のところの狼人に鍛えられてるよ」

 

「マジかよ?! ツンデレウルフが弟子とるとか面白すぎだろ?!」

 

 少年の主神であるヘスティアの言葉に神々にツンデレと称されるベート・ローガに弟子ができたと神々が沸き立つ。

 

 

 

 

 

「いやー、マジで二つ名どうするよ?」

 

 騒ぎが一段落してから二つ名の話に戻るが『剣聖』の弟で『凶狼(ヴァナルガンド)』の弟子という濃すぎる背景に決めかねるが、デメテルの言葉で決まった。

 

「『兎狼(ラビット・ウルフ)』で、どうかしら」

 

 

「「「「「「それだぁッ!!」」」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

59階層、前世代の最強たる【ゼウスファミリア】のみが到達した現状のオラリオにとっては未開拓領域を目標とした遠征が再開される。パーティは下手な階層主よりも厄介な『階層無視の砲撃』を行う『砲竜(ヴォルガングドラゴン)』すらも容易く倒し、『竜の壺』を踏破した。

 

58階層からの階段を下りた【ロキファミリア】は、未到達領域59階層へ進出した。

 

【ゼウス・ファミリア】の残した情報によれば59階層から先は絶死絶凍の『氷河の領域』であり、その極寒の氷獄ではあらゆる生命は瞬く間に凍結し、第一級冒険者でも凍てつくという。

 

しかし、現在のオラリオにおける最高戦力である第一級冒険者達ですら未だ到達していない未知の領域に足を踏み入れた彼等の前に待っていたのは──凍土とは程遠い密林だった。

 

氷山や凍河などは見当たらず、代わりに鬱蒼と生い茂る樹木の数々。そして、まるで森の奥深くまで誘い込むかのように入り組んだ樹海は進むにつれて複雑怪奇に入り組み、迷宮の如く道を変えていく。

 

毒々しい色をした茸類やダンジョンでも見たこともない極彩色の花々が咲き乱れ、濃霧が立ち込めて視界悪くなり、いつの間にかモンスターの姿までも消え失せていた。

 

「密林·············?」

 

「【ゼウス・ファミリア】の残した記録では59階層から先は『氷河の領域』とのことだったが·············」

 

「ああ、至るところに氷河湖の水流が流れ、進みづらく、極寒の冷気が体の動きを鈍らせる第一級冒険者ですら凍てつく絶死絶凍の世界、だったか」

 

 ティオナが呟いた言葉にフィンが答え、リヴェリアが続く。他の団員達も困惑したように顔を見合わせている。

 

背の高い樹々、不気味なほどに鮮やかな色彩を放つ植物群。濃厚な緑と青臭さが鼻腔を刺激し、肌に纏わり付くような空気が喉を刺激する。

 

今までとは違う環境に誰もが戸惑いを隠しきれない。地面にびっしりと生えた苔、そして所狭しと並ぶ草木の間からは腐った果実のような甘い腐臭が漂ってくる。

 

緑に覆われた天蓋からは無数の蕾が垂れ下がり、今にも花開こうとしている。それはあたかも何かが生まれ出ようとしているかのような光景だった。

 

「これって、24階層の··············?」

 

 レフィーヤは見覚えのある景色を見て呟く。まるで巨大な生き物の体内にいるのではないかと錯覚してしまうほどの圧迫感を覚えさせる広大な空間。

 

大空洞の内部には奇妙な形をした大樹が乱立しており、地面を這うように根付いた苔は淡く発光している。天井を覆う葉脈のように張り巡らされた蔦は壁際に沿って伸びており、その先端には毒々しい色の花を咲かせていた。

 

この階層に来てからというもの、自分達以外の生物の存在を感じない。まるで自分達だけが世界に取り残されたかのように静寂に包まれた密林。

 

24階層の苗花と酷似した光景を前にして、一同は得体の知れぬ不安を覚える。その時、きょろきょろと周りを見ていたラウルは声を上げた。

 

「音が················」

 

 密林の奥から聞こえてくるのは悲鳴とも咀嚼音ともとれる奇怪な音。甲高い鳴き声のようなものが反響しながら徐々に大きくなっていく。

 

「前進」

 

 集まる団員たちの視線にフィンはただ一言そう告げた。団長の命令に従い、全員が一斉に歩き出す。生命の気配が感じられない鬱蒼とした森の中を進んでいく。

 

変容した階層の中を何が出てきても対応できるように警戒しつつ進むことしばらく。密林の先に広がっていたのは、これまでとは違った異様な光景だった。

 

 

巨大な木々が絡み合うようにして生えていた森とは異なり、ここはまるで大きな生物の体内に侵入したかのようだった。太い幹を持つ大木がいくつも折り重なるようにして連なり、それが幾重にも重なって巨大な塔を形成している。

 

それらの巨木の間には大量の蔓が絡まり合い、その先端は様々な方向へ伸びている。それらは互いに複雑に絡み合って一本の通路を形成しており、まるで迷路のようになっていた。

 

その巨大樹の回廊はどこまで続いているのか分からないほど長い。奇怪な音響に誘われるように奥へ進んで行く一団の視界に映り込んだのは、薄暗い闇の中で輝く淡い光だった。

 

「·········なに、あれ」

 

 密林の中にぽっかりと空いた広場にひろがる光景にティオナが呆然と呟く。灰色の荒野に広がるのは、おびただしい数の極彩色のモンスター。死したモンスターの死骸である灰の海の中に屹立しているのはそれぞれがいずれも巨大な。

 

巨大植物の下半身を持つ────

 

邪悪に歪んだ巨大蛾の身体を持つ────

 

蟷螂と蟻をかけ合わせたかのような下半身を持つ────

 

肉塊の塔としか評しようがない醜悪な肉体を持つ────

 

四体の女体型だった。

 

「『宝玉』の女体型か」

 

「寄生したのは········『タイタン・アルム』『タイラント・モス』『ヴァーミンイーター』『フレッシュワーム』·······か」

 

 額を寄せるガレスの横で、リヴェリアがモンスターの名を次々に口にする。そのどれもが深層に棲息する凶悪なモンスターである。

 

その全身は周囲の密林と同じく光沢のある緑色の葉脈に彩られ、頭部には花弁に似た器官がある。そして、頭部の花は毒々しい紫色をしており、そこから伸びる触手の先端では牙状の突起が不気味に揺れている。

 

自らの魔石を捧げるように周囲に群がる夥しい数の極彩色のモンスターは次々とその口元へと運ばれていく。

 

「まさか、あれほどのモンスターを喰らってたというのか?」  

 

「ざけんな、アレが四体だと?!」

 

 24階層の食料庫で『穢れた精霊』と戦った経験のあるベートが吐き捨てる。赤髪の怪人が『失敗作』と称したものですら深層の階層主に匹敵する怪物だった。

 

それと同等の存在があと三体もいるという現実を前にして、レフィーヤの顔色が曇る。もし、仮にこの四体が『成功作』だとしたら·······?

 

『穢れた精霊』を知るアイズやベート、レフィーヤがそう考えた次の瞬間、変化は起こった。

 

蕾の表面に浮き上がった血管が脈動するように収縮を繰返し、やがてその中から現れたのは巨大な翅だった。昆虫のそれに酷似した翅を震わせながら、巨大な花から伸びた無数の蔓はうねり、捻れ、捩じれて巨大な繭を形成する。そして、蝶が蛹から羽化するように繭が開く。

 

 

その中から現れたのは、人型だった。醜怪な蕾の姿からは想像できないような美麗な女性の姿をした上半身は裸身。

 

その肌もまた緑と紫の葉脈に覆われておりその腰から下は、まるで植物のように葉脈によって構成されたものだった。花から伸びて蔓が絡み合い、一つの生命体として存在しているかのようなそれは、まさに奇怪そのもの。

 

四つの花弁の中心にあるのは、妖艶に微笑む美女の貌だ。緑色の肌に腰まで伸びた黒髪を靡かせる女性は長い舌をちろりと覗かせて、濡れた唇を舐める。無い掌の代わりに薄い緑の葉を纏ったその両腕は、誘うように宙空を撫ぜた。

 

「アアアアアアッ!」

 

 おぞましい外見をした美しい異形の存在に誰もが言葉を失う中、蕾から生まれた四つ子のあげる産声は歓喜であり、快楽に酔っているかのような甘い響きを持っていた。生まれ落ちたばかりのその身体を絡みつく蔓が締め上げ、ドレスのように醜悪な花を咲かせていく。

 

ドクンッ!

 

脈打つ鼓動が大気を揺るがす。喜びに打ち震える美しい異形の存在は己の誕生を祝うかのように両手を広げ、天を見上げると甲高い絶叫を上げた。

 

それは誕生の雄叫びであると同時に、生誕の祝詞でもあった。巨大樹の森中に反響する産声と共に、世界が胎動を始める。

 

世界を揺らし大音響で鳴り響く轟音は、もはや歌というよりも音楽だった。聴く者の心を掻き乱し狂わせるその調べは、魂までも震わす異境の音色。

 

「ア【アリ、ア】リ『ァアリア、アリア』アアリ「アリア、」ア!!」

 

 

「『精霊』·········!!」

 

「『精霊』········?! あんな薄気味悪いのが?」

 

 アイズの言葉を聞き、24階層に行かなかったティオナが視線の先の存在に向かって叫ぶ。

 

毒々しくも美しすぎるその姿は、まるで悪夢の世界から抜け出してきた魔性のようだった。怪物の下半身を持つ女体型など比較にならないほど禍々しい姿をした存在を前にして、ラウルは吐き気を堪えるように口元を押さえる。

 

『精霊』の腰から下は蔓によって形成されており、その背中には一対の翅がある。その翅は巨大で、昆虫の翅というよりはむしろ植物の葉脈に近い形状をしていた。

 

神聖と魔性が入り交じる、その容貌は見る者に生理的な嫌悪感を与える。

 

「アリア、アリア!!」

 

 「彼女達」は一人の少女に向かって笑みを浮かべて呼びかけ続ける。

 

「会イタカッタ、 マタ、会エタワネ!!」

 

「··········っ!!」

 

「貴方モ、一緒ニ成リマショウ!!」

 

 

 

 

 

 

 

「貴方ヲ、食ベサセテ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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【Q&Aコーナー】

Q.兄さんのようになりたいです。どうすればなれますか?『匿名希望の白兎』

 

A.なるな、頼むからなるな。

 


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