皆の傷になって死にたい転生者がベルの兄で才禍の怪物なのは間違っている   作:マタタビネガー

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二十九話 精霊の分身

 

 

 

 

 

『精霊』、神にもっとも近い種族。神に最も愛された子供。

 

『古代』、神々が降臨する以前から地上に降りていた人類の導き手。下界に遣わされた精霊は人類、ひいては英雄を手助けするよう創造主たる神々によって定められた存在であり、その奇跡の力を以て英雄を導く。

 

英雄の剣であり、盾であり、友である。

 

その存在は英雄譚や神話において常に重要な位置を占めている。

 

『古代』における精霊の加護は現代における神の恩恵と同義のものであり、それこそ英雄譚の時代においては英雄達の戦いを間近で見届けた精霊は彼らと共に戦い、共に生き、そして死んでいった。

 

旧オラリオの大地に空いた大穴。無尽のモンスタ—を産み出し続け、今なお数多の命を飲み込み続ける奈落の間隙を塞ぐために戦った数多の英雄達も、そうした精霊達の力を借りていた。

 

今も受け継がれる『迷宮神聖譚』。それはただの英雄譚ではない。当時の真実と、そこで起きたことを描いた物語だ。精霊達は、英雄たちとともにダンジョンが生み出したモンスター達と戦いながら大穴を封じる方法を模索し続けた。

 

だが、ダンジョンでモンスターに捕食され、その在り方を反転させた精霊は今や、黒い欲望に支配された怪物へと成り果て今代の英雄たちの前に立ちふさがった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「貴方ヲ、食ベサセテ?」

 

 三日月の笑みを浮かべアイズに歩み寄る怪物。その瞳に宿る狂気に、レフィーヤが悲鳴を上げる。精霊の意思をうけて芋虫型と食人花が照準をアイズたちへ変え、津波のように押し寄せてくる。

 

同時に、階層からの出口が緑肉の壁によって塞がれる。退路を失ったアイズ達は、やむなく戦闘態勢を取る。

 

「精霊の護符準備!! リヴェリアとレフィーヤは結界を張れ!!」

 

 フィンの号令が何よりも早く飛び、動揺することも許さぬ速度で隊列を組み直させる。鋭い首領の声に即座に応じたベート達が前衛を務め、その後方にレフィーヤとリヴェリアを配置し、精霊の攻撃に備えるため、詠唱を開始する。

 

24階層での戦いの報告を聞いたフィンは尋常ならざる直感と熟達した冒険者としての経験から『穢れた精霊』への対処法を編み出していた。

 

復数の属性の砲撃級魔法を連発してくる『穢れた精霊』、その砲撃への対処法はこちらも精霊の力を使うこと。オラリオには先に上げた火精霊の護衣のように精霊の力を由来とした護符が存在する。

 

対精霊を想定していたフィンはどのような属性で来られても対応できるよう各属性の護符をサポーターを含めた全員分をすでに準備していた。数多の冒険に挑み続けてきた経験値は単純な強弱を凌駕する。

 

『未知』を探求する『冒険者』として『勇者』フィン・ディムナを超える傑物はたとえ冒険者の都市であるオラリオにも居はしない。それは『猛者』や『剣聖』とて例外ではない。

 

そう、フィンに不備はなかった。

 

事実、今の【ロキファミリア】であればアル抜きでも『穢れた精霊』()()の討伐は深層の階層主の討伐と変わらない程度の難度だったであろう。それはフィンが知りえなかったたった一つの要素。

 

百を優に超える数の芋虫型と食人花が襲いかかってくる中、冒険者たちは押し寄せるモンスターの津波に不壊属性の武器を握り締める。

 

「どうせいつもとやることは変わらねえ、ブッ殺すッ!!」

 

 押しよせてくる極彩色のモンスターを斬撃の渦で吹き飛ばしながら、ベートが吠え、ティオナ達がそれに応えるように続く。

 

動揺を振り払ったアイズも細剣を振るい、迫る食人花を一閃の下に両断していく。

 

断末魔をあげることもなく、ただの一撃のもとに絶命する食人花の残骸を踏み越え、アイズは迫りくる芋虫型の溶解液をかわしざまに一刀で斬り伏せる。

 

「ラウル達は魔剣でアイズ達を援護!!」

 

「わ、わかりました!!」

 

 フィンの指示に従い、魔剣による無詠唱の砲撃によって芋虫型を薙ぎ払うラウル達の援護を受けながら、アイズとティオナは押し寄せる食人花を次々と葬っていく。

 

雑兵達が倒されていく中で、巨大樹の根がうねり、まるで蛇のように動き出す。

 

芋虫型を蹴散らし、食人花を粉砕しながら突き進むアイズたちへ、巨大樹の根が伸びていく。

 

鞭のようにしなる巨大樹の根を回避したアイズが跳躍すると、巨大樹の根は先端から分裂するように枝分かれして伸びていき、ガレスに襲い掛かる。だが、ガレスはそれを大斧の一振りで切断する。

 

四体の女体型の下半身の触手がアイズ達に殺到するが、それをティオナとティオネが迎撃する。

 

「「重いっ!!!!」」

 

 深層の階層主の一撃すらも凌駕しうる速度と破壊力を秘めた触手の連撃がつけられる。

 

ウダイオスの逆杭以上の衝撃に顔を歪めながらも、二人はこれを弾き返す。触手の雨が100メートル以上離れた地面に降り注ぎ、土煙を巻き上げる。

 

「アル、君は待て」

 

「フィン」

 

 右の親指に奔る激痛に顔を歪めながら、フィンはティオナ達に続こうとするアルへ指示を出す。『勇者』の仮面を今にも剥がれそうなほど、焦燥の色を浮かべる。

 

「親指の疼きが止まらない·······あり得るのか·····そんな力·····」

 

「【火ヨ、来タレ───】」

 

 魔樹の下半身のもとに展開される深紅の魔法円が光を放ち始める。吹き上がった魔力の出力は今まで見たことのないほどの規模であり、湧き上がる魔力光を前にフィンは、全身の毛穴が開くような感覚に襲われる。

 

「「【────ヴィア・シルヘイム】!!」」

 

 それと同時にリヴェリアと召喚魔法による詠唱を終えたレフィーヤの二人がオラリオ最強の魔導士たる『九魔姫』リヴェリア・リヨス・アールヴが誇る最硬防御魔法の二重展開───二重に展開された翡翠の魔法円がドーム状の障壁を展開する。 物理・魔法攻撃を遮断する翡翠の絶対防壁。

 

精霊の護符を加味すれば超長文詠唱による砲撃でも完全に防ぎきれる万全の守り。

 

繰り返すがフィンに不備はない。

 

恐るべきは絶殺を誓い、すべてを賭けた赤髪の怪人の執念。

 

【炎ノ渦ヨ紅蓮ノ壁ヨ業火ノ咆哮ヨ突風ノ力】【黒鉄ノ宝閃ヨ星ノ撤退ヨ開闢ノ契約ヲモッテ】【凍土ノ如ク氷結セヨ数多ノ刃】【白夜ノ天ヨ天魔ノ王ヨ天ト共ニ在ルモノ】【突キ進メ雷鳴ノ槍代行者タル我ガ名ハ雷精霊雷の化身雷ノ女王】【ヲ借リ世界ヲ閉ザセ燃エル空燃エル大地燃エル海燃エル泉燃エル山燃エル命】【陽射シヲ奪ウ月ノ引力ヨ星星ノ力】【終ワラヌ夜ヨ来タレ永久ノ闇】【反転セヨ空ヲ焼ケ地ヲ砕ケ橋ヲ架ケ天地ト】【ヲ以テ黎明ノ階幾億ノ歎キヲココニ雹嵐ヲヨ】【光ノ螺旋トナル星々ヨ輝キヨ】【深紅ノ原野ヨ怒レ怒レ怒レ怒レ】【雷鳴ノ命運ヨ汝ノ御名ヲ今コノ場ニ轟カセ森羅万象ソノ一切合切ヲ滅却スベシ灰塵トナセ】【海ヨ陸ヨ大気ヨ全テノ生命ヨ満チ】【燃ユル地平線凍土の極冠溶ケル太陽ヨ大海ニ沈ム夕日ヨ】【流浪ノ旅路ヨ永遠ニ巡リ煌々トシテ流星群ヨ落チロ天蓋ノ穴カラ】【吹雪ク白銀ヨ静寂ノ氷雪ヨ荒ブリ踊レ荒ブレ切リ裂キシ魂ヨ英霊ト為ッテ手向ケヨウ】【捻レ捻レ捻レ捻レ捻レ捻レ荒野ノ枯木ヨ英雄ヘノ賛歌ヨ今此処ニ雄大ナル大地ノ力】【天衝ク閃光トナレ日輪ノ力】【昏キ闇ヲ砕キ世界ニ燃ユル光輝ヲ】【全テヲ焦土ト変エ怒リト嘆キノ号砲ヲ我ガ愛セシ英雄ノ命ノ代償ヲ】【為レ降リソソグ天空ノ斧破壊ノ厄災】【天地ヲ閉ザシ悲嘆ノ時ヨ止マレ調べデ貴方ヲ凍テツカセル】【幽旭ノ仮面トナッテ響キ渡ル恋歌ヨ】【緋色ノ翼ハ黄昏ノ羽撃キハ夜空ヲ駆ケテ蒼イ海ヨ波打ツ銀輝ノ剣】【見果テヌ夢ハ永遠ノ夜ニ包マレル愛スル英霊ト共ニ戦ウ夢】【ノ扉ヲ開ケロ新タナ希望ヲ生ミ出シ終焉ノ鐘ヲ鳴ラセコノ場ニ残サズ私タチノ敵ヲ討テ】【楽園ヨ彼方ヨ安寧ノ地ヨ帰ル場所ヨ還ルコトヲ許サヌ者ヲ】【黒雲ヨ雨ヤ涙ヨ怒涛ヨ雷ノ鎚ヨ大海ノ雫ヨ】【夜ノ帳ヨ暗幕ヨ暁ハ来ナイ闇ヲ喰ライ尽クセ深淵ヨ混沌ヨ虚無ヨ冥府ヨ常世ヨ我ガ友ト成ルモノヨ】【焔ヨ炎ヨ紅蓮ヨ劫火ヨ灼熱ノ牙ヨ憤怒ノ刃ヨ空ヲ焼ケ地ヲ砕ケ橋ヲ架ケ天地ト繋ゲ】【陽射シノ抱擁ヨ星々ノ鼓動ヨ深紅ノ瞳ヨ黄金ノ髪ヨ星霜ヲ経テ永劫ニ眠ル英雄達ヨ】【我ガ名ハ雷精霊雷の化身雷ノ女王】【ヲ借リ世界ヲ閉ザセ燃エル空燃エル大地燃エル海燃エル泉燃エル山燃エル命】【激震ノ槌ヨ雷電ノ弓ヨ巻キ起コセ雷ノ鉄槌ニ呑メ残光ヨ照ラス星ヨ光ノ矢ヨ嵐ヨ雷雲ヨ】【月夜ニ舞エ星屑ヨ宵闇ヨ紅ヨ黄金ヨ純白ヨ廻レ巡レ星辰ヨ始マリノ刻ヨ悠久ノ時ヨ輪廻ノ円環ヨ】

 

四重奏を終えてなお続く精霊の歌。多口の異形から紡がれる歌の連鎖。

 

炎の津波が、巌の凶星が、氷の地割が、光の咆哮が、闇の雷が、太陽の剣が、暗黒の爆音が、万雷の波動が、光輝の衝撃が、大爆発が、世界を焼き尽くさんばかりの劫火と極寒の大波濤。それら全てがまるで一つの巨大な生き物のようにうねりながら暴れ狂い、絶えずに降り注ぐ。

 

それはまさに天変地異。

 

かつて見たことのない規模の魔法が、奇跡の具現が、至上の神秘がたった十数人の人間へ向けて放たれ、【ロキ・ファミリア】は成すすべなく壊滅─────することはなかった。

 

フィン・ディムナに不備はない。『穢れた精霊』という凶悪無比な怪物にとって唯一と言っていい天敵がこちらにいることを見抜いていた。

 

その天敵は────

 

 

 

 

 

 

「【妖精の葬歌(うた)遺灰(しかばね)の残り火よ。宿れ、焔の権能、天空(そら)覇者(おう)。我が身を燃ゆる(はね)と成せ────────【レァ・ポイニクス】」

 

 

 

 

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