皆の傷になって死にたい転生者がベルの兄で才禍の怪物なのは間違っている   作:マタタビネガー

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熱39度あんだけど、コロナか・・・・・?

頭まわんないのでqaコーナーはお休みします


三十話 英雄殺し

 

 

 

 

 

 

オラリオのとある酒場、主に脛に傷持つ者や闇に生きる者たちが密会や『偶然』会うことのある暗黒期以前からある曰く付きの店であり、非合法の賞金稼ぎや暗殺者の斡旋場としても使われている。

 

そんな店にそぐわない冷涼な美貌をもった青髪の美女と物語の吟遊詩人のような格好をした金髪の男神、そして黒いフードに全身を包んだ魔術師と思わしき者がいた。

 

「で、どうだったアスフィ?」

 

「·····確かにここ半年、闇派閥の残党と思わしき信者たちがあの砂漠付近の街で確認されています」

 

 酒場の奥の部屋を貸し切って話しているのは【ヘルメスファミリア】団長の『万能者』アスフィ・アル・アンドロメダとその主神であるヘルメス。そして、ギルドの創設神ウラノスの腹心の魔術師、フェルズの三人だった。

 

「黒き砂漠デダインか·····」

 

 フェルズとてその土地の「意味」は理解しているが、今更闇派閥が手を出す意味がわからない。

 

「なんでまた、あの不毛の地に·····七年前の大抗争のときのような理由があるとは思えませんし」

 

海の覇王(リヴァイアサン)亡骸(ドロップアイテム)海竜の封印(リヴァイアサン・シール)としてロログ湖の蓋として今も機能している」

 

 悩む二人を他所にいきなり、まったく関係のない話を始めるヘルメスを訝しむ二人の『神秘』持ちには次の言葉は無視できなかった。

 

「··········なら、陸の王者(ベヒーモス)

 

「あの巨獣(けもの)の亡骸はどこにあると思う?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

精霊の四重奏によって展開された暴虐の嵐をたった一人のヒューマンの魔法が、不死鳥が如き炎の衣が押し留めていた。その光景はまるで神話の一ページを切り取ったかのようだった。

 

単一の魔法でありながら攻撃、治癒、防御を極めて高いレベルで振るうが故に最優と称される魔法であり、単純な出力こそ劣るもののその応用性は大精霊を由来とするアイズの【エアリアル】にも優る。

 

無論、いかに強力とはいってもその魔法だけでオラリオ最強の魔導士リヴェリア・リヨス・アールヴの結界魔法ですら防ぎきれない砲撃魔法の四重奏を防ぐことはできない。

 

スキル【加護精霊(スピリット・エウロギア)】。英雄を手助けするよう創造主たる神々によって定められた存在である精霊、世界中に揺蕩う彼女らは比類なき英雄の器であるアルに無条件で加護を与えている。

 

とはいっても歴史や英雄譚に名を残すような力ある精霊や力を有さずとも神に近い精霊は勿論のこと、精霊の護符などを作成する際に協力するものよりもさらに低位、方向性なき微かな力として世界中に漂う人格も知性も持たない自然そのものとも言える最下級の精霊からの加護。

 

しかし、いかに低位と言っても低俗なわけではなく、その神秘性は本物だ。一体一体は意思も持たない微弱な精霊だが無数に重なった加護により対精霊においてアルは無類の強さを誇る。

 

スキル【加護精霊】は世界に揺蕩う精霊たちからの惜しみない加護と祝福の現れ。火のクロッゾの魔剣を水精霊の護布が防ぎ、穢れた精霊の魔法を反対属性の護符で防げるように精霊の力は相克する。ゆえにこそ凡そあらゆる精霊の加護を受けるアルには精霊由来の攻撃はほとんど効かないのだ。

 

『穢れた精霊』にとっての唯一無二の天敵がアルなのだ。

 

そもそもの話、都市最速たるアルは詠唱を潰し慣れている。流石に対魔導士と違って巨大なモンスターの肉体を持った精霊四体では詠唱を妨害しきれないがそれでも半分以上の詠唱を中断させている。

 

第一級冒険者の超長文詠唱以上の砲撃魔法からときおり交ぜられる超短文詠唱の高速詠唱にまで対応してみせるアルはたった一人で穢れた精霊を完封していた。

 

とはいえ、いかにアルといえどたった一人で四体の穢れた精霊を相手に倒しきれるわけではない。付与魔法とて永続ではないのだ、いずれ限界が来る。

 

だが、問題はない。

 

【ロキファミリア】はただ守られるのを良しとする弱輩の集まりではないのだ。

 

「総員、対魔法はアルに任せて一体ずつ確実に仕留めろ!!」

 

 予測を全て的中させた小人族の勇者の指揮のもと、アイズが、ベートが、ティオナが、ティオネが、リヴェリアが、ガレスが、ラウル達が対精霊戦に突入した。

 

 

一体一体が深層の階層主を遥かに凌駕する絶望的な戦闘力を有する穢れた精霊が四体、本来単独のファミリアでは全戦力を注いでも抵抗すらできない絶望に対して【ロキファミリア】は未だ優勢に戦えていた。

 

それは指揮を取るフィン・ディムナという男の能力の高さ故であった。彼は優れた戦術眼を有し、敵の弱点を見抜き、仲間達に指示を出すことができる。だからこそアイズ達はフィンの指示に従って行動することができるのだ。

 

そして何より彼の存在そのものが士気の維持に貢献している。フィンの号令を聞いた瞬間、ベート達は迷わず駆け出した。加えて戦場を縦横無尽に走り回り、戦線をたった一人で維持し続けるアルの働きの他に、アイズ・ヴァレンシュタインの風の力が大きかった。

 

いかにアルが魔法に対処するとは言え、取りこぼしは当然ながらある。それをアイズのLvを超えた出力の風が抑え込んでいた。

 

アイズの怪物種に対して自能力を高域強化する下界最高の出力を持つスキル【復讐姫(アベンジャー)】とアルの()()()において特殊な補正を齎す【加護精霊(スピリット・エウロギア)】による二重強化を受けたアイズの風は戦場を支配していた。

 

魔法を抜きにしても階層主以上の膂力を持つ触腕の一撃は、マトモに喰らえば第一級冒険者でもノックアウトしかねない威力を秘めているがその全てが一ヒューマンに許された力の領域を超えた白い風()によって抑えられていた。

 

「────【白き風よ(ニゼル)】」

 

 心に渦巻く黒い恩讐の火と母から授けられた暖かな風、この二つを完全にものにしたアイズの振るう力は精霊のそれに限りなく近い。そして精霊とは古代より自らが見初めた当代の英雄に力を貸し、ともに戦ってきた。故に────今のアイズ・ヴァレンシュタインはアル・クラネル(彼女の英雄)の隣が最も強い。

 

「アイズさん、凄い·····」

 

「レフィーヤ!! 詠唱を絶やすな──【ウィン・フィンブルヴェトル】!!」

 

 そして────

 

 

 

 

 

「ぜりゃあああああああああああッ!!」

 

「やった! ガレスが一体倒した!!」

 

 アイズの風で拘束された巨君毒蛾(タイラント・モス)に寄生した精霊の魔石が魔法の被弾覚悟で特攻したドワーフの大戦士の一撃によって砕かれ、その巨体は灰となり霧散した。

 

勝てる、その光景を見て誰しもが確信した。  

 

無論、油断はない、スキもない。喜びながらも歴戦の冒険者達の意識は残る三体に油断なく向けられている。

 

だが、その三体以外への警戒が一瞬、緩まった。

 

 

 

──その女は機を待っていた。女は二度の敗走により病的なまでに恐れていた。『剣聖』を、『アリア』を。故に確信があった。第一級冒険者複数人を圧倒する力を持つ『精霊の分身』であっても、『剣聖』が相手では何体いようと狩られるだけだと。

 

故に待った。誰もが意識を完全に逸すのを。

 

まずは『アリア』を殺す。死んでしまえばあの女にくれてやるときに面倒極まるが、最悪肉体さえ残っていれば問題はない。あの黒い風を向けられる前に確実に殺す。『アリア』さえ確保できれば『剣聖』は後回しでもいい。

 

そして機は来た、冒険者達が勝利を確信した瞬間、女は身を潜めていた食人花の口内から全速力で駆け出した。

 

二度の敗走後、膨大な量の魔石を取り込み、『緑肉の鎧』を纏った彼女のステイタスによる肉体の自壊前提の吶喊は、歴戦の勇士であるフィンやガレスですら反応できない

 

そのすべてから解放された肉体の躍動に────アルだけが気がついていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

24階層のときと同じように私を『アリア』と呼び、私を食べようとする禍々しく、毒々しく、在り方が反転した『精霊』。

 

この歪みきった精霊は強い、私一人では一体も倒せない。けど、今の私は一人じゃない。何より、今の私はアルの隣で戦える!!

 

「──!! アイズッ!!」

 

 

 

「アル? なに、を───」

 

 アイズが見たのは、すでに息絶えた食人花の口から出てきた赤髪の怪人───レヴィスの剣から自分を庇って胸を貫かれるアルの姿だった。

 

 

 

 

 

 

決して倒れぬ最強の象徴だった。倒れてはいけない最強だった。いかなる怪物が相手でも、いかなる強者が相手でも、いかなる苦境でも決して折れずに、最後には必ず勝ってきた正真正銘【ロキファミリア】最強の英雄だった。

 

故に、そのさまに、膝から崩れ落ちたアルの姿に、【ロキファミリア】の面々は───その光景に、フィンですらも意識のすべてを奪われた。

 

「······ッ、ぁ·········」

 

 刺された傷からはもちろん、口、双眸、鼻、耳とあらゆる顔面の器官から腐ったような配色に澱んだドス黒い血を垂れ流し、その顔を苦痛に歪めたアルの姿に。

 

「あ、ああああああああ──【吹き荒れろ(ニゼル)】!!」

 

 英雄からの加護を失い、黒に戻った風がアルに止めを刺そうとするレヴィスを吹き飛ばす。

 

「リヴェリア!!」

 

「今、詠唱し終えた!! ──【ヴァン・アルヘイム】」

 

 刺された瞬間から即座に詠唱を開始し、膝をつくアルに駆け寄って発動させた第三位階回復魔法【ヴァン・アルヘイム】、半死人ですら再起させる都市最強の魔道士の回復魔法。だが───

 

「───ッ、治らん!!」

 

 それどころか加速度的に死に近づいているとわかるほどにドス黒い血の流出が止まらない。ただ発動させているだけで自身の損傷をも癒やすアルの付与魔法の火も、まるで魔法が封じられたかのようにかき消えた。

 

「あの武器に、少したりとも斬られるな!! 呪詛(カース)だ!!」

 

 アルの尋常ならざる様子とそのアルを刺した剣の禍々しさを見てフィンが指示を出す。その呪いはおそらく治癒不全と魔法封印。ただ、その様子は劇毒を受けたかのようでもある。Lv7のステイタスを侵す毒などそうあるものではない。

 

「どういうこと?! アルに呪詛(カース)が効くはずないじゃん?!」

 

 

 

 

「───は、ひとまず『アリア』を殺すつもりだったが······愚かだな、『アリア』を庇わなければ私程度(・・・)の攻撃を防げぬわけないだろうに」

 

 アイズに吹き飛ばされ、少し離れたところで立ち上がる全身を蠢動する肉の鎧に身を包んだレヴィス。その顔には侮辱と昏い歓びが垣間見え、彼女が現れたのと同時に精霊達の動きが止まる。

 

「エニュオから『剣聖』に通常の呪詛は効かないと聞いていた。確かにこれで即死しないところを見るに呪いだけでは、あるいは毒だけでも効かぬのだろうな。だが、この剣は英雄殺しだ」  

 

 紫の得体の知れない液体の滴る黒い鱗のような刀身の大剣を翻させながら、勝利を確信したように語りだす。まるで聞く者たちに生きて帰る者がないかのように。 

 

「ダンジョンに住まう私には縁のない話だが、これは十数年前に『デダイン』なる地で討たれたという巨獣。その巨獣のドロップアイテムを闇派閥の呪術師(ヘクサー)が加工した、私でなければ握ることもできない呪毒の剣だ」

 

「『デダイン』、だと······まさか·······!!」

 

 その地の「意味」を知るフィンが真っ先に反応し、その毒ならばアルにも効くだろうと納得すると同時に勇者としての仮面を剥がしかねない恐怖に襲われる。

 

「確かその巨獣の名は────陸の王者(ベヒーモス)、と言ったか」

 





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