皆の傷になって死にたい転生者がベルの兄で才禍の怪物なのは間違っている   作:マタタビネガー

31 / 139

総UA300万突破ありがとうございます!!





三十一話 英雄

僕、フィン・ディムナは自覚する。

 

自分は全てを救う英雄なんてものにはなれないと、自分は人工の英雄でしかないのだと。

 

見せかけの勇気に、演出した栄光、造られた偉業、鋪装された冒険、ツギハギされた人工の英雄、それがディムナ()なのだ。

 

冒険者に、フィン・ディムナになる前の僕はこの世界に反抗する小賢しい子供だった。僕が生まれたのは様々な種族が混在する山間部の村落、そんな小さな世界でも小人族は差別され、見下されていた。

 

かつて小人族によって結成され、多くの魔物達を倒し人々を救った『フィアナ騎士団』を擬神化した『女神フィアナ』を信仰していた。

 

小人族の英雄にして聖女である彼女の意思は当時の騎士が一人として最後の戦いから生還しなかったことによって残らず消えた。それでも、小人族の心の中に彼女の存在は信仰として残り続けた。だが、そんな信仰も実在する「神々」の降臨によって否定され、架空の女神に成り下がった。そして、拠り所を失った小人族は零落した。

 

『誇り』も『勇気』も失った小人族は身体が小さく、力も弱いため、他の種族に見下され、劣等種として扱われていた。

 

僕の生まれた村でも小人族は弱者だった。両親も小人族というだけで馬鹿にされて言い返すこともできず、ときに搾取される。小人族というだけ全てを諦めたかのように笑い、自身を卑下する両親を僕は嫌悪した。

 

──なぜ、知恵を絞らない?

 

──なぜ、大きいだけで相手に屈する?

 

──『架空の女神(フィアナ)』のように立ち向かわない?

 

──僕たちを下に見る他種族のものよりも俯くだけの同族が僕を苛立たせた。

 

肉体で及ばなくてもその分、知恵をつければいい。僕は村長の書斎に潜り込み、何百冊、何千冊もの本を読み漁った。知識を得るのは楽しい。何より自分が知らないことを知ることができるのは快感だった。

 

得た知識を活かして小人族の中で僕だけは謙りはせず、トンチを利かせて村人たちに一泡吹かせたこともあった。その返答が拳や蹴りだったとしても自分はあんな惨めな両親とは違うのだと。

 

10歳の頃、真夜中に山に潜むモンスター達が村を襲った。

 

両親の手を振り払って僕は恐怖と戦いながら走っていく。村の広場に着くとそこにはもうすでに血を流して倒れている人が何人もいた。

 

悲鳴を上げることしかできない大人たちが殺されていく中で僕は自分より小さい女子供を、いつもイジメてくる悪童を逃がして火の手を消して回った。『架空の女神(フィアナ)』のように、太古の英雄のように。

 

だが、それは『勇気』と呼べるものではなかった。根拠のない自信にただの慢心、矮小な矜持に踊らされるだけの身の程知らず。

 

猛り狂うモンスターを前に千の知識は無力だった。僕は、モンスターを前にして足が動かなくなった。その時、僕を突き動かしていたのは『勇気』とは程遠いただの傲慢だったと気がついた。

 

決定的なモンスターとの実力差に震える僕はモンスターの爪から──────見下してすらしていた両親に身を挺して庇われた。

 

『······ディムナ』

 

『良かった······』

 

 両親は死んだ、呆気なく僕だけを残して僕を守るように抱きしめたまま息絶えていった。それからの記憶はあまりない。

 

駆け付けた他種族の大人達にモンスターが討たれたあと、僕は呆然としながら山の奥へ奥へと逃げ込んだ。森の闇の中に消え去りたかった。こんな醜い自分を誰にも見せたくなかった。だから、獣道を駆け抜ける。

 

やがて、視界に広がる満天の星空。

 

月明かりに照らされた夜の崖際まで追い詰められた時、自分の愚かさを悔いるように泣いた。嗚咽を上げながら泣き喚き、僕は叫んでいた、生まれてからずっと溜め込んできた感情が爆発した。

 

両親が死んだときも、モンスターに襲われたときも涙は出てこなかった。けれど、今になって堰を切ったかのように流れ出す涙を止めることはできなかった。

 

悔しかった。辛くて苦しくて痛くて怖くて恐ろしくて。どうして僕だけが生き残ってしまったのか。

 

僕は泣いた、泣き続けた。絶望に、失望に、我先に逃げる同胞の姿に、勇気を知らなかった自分自身の姿に。

 

そんな僕を嘲笑うかのように夜風が吹き荒れた。寒気に身体を震わせ、目を瞑った。閉じた瞼の裏には己より大きな怪物に立ち向かった父と母の姿があった。

 

二人の姿に『勇気』を、小人族の『希望』を、見出した気がした。

 

だからこそ、僕はあの日に誓った、小人族の誇りを取り戻す為に、『英雄』になるのだと。

 

故郷と姓を捨て、親から貰った『ディムナ』と小人族の言葉で『光』を意味する『フィン』を名乗ろうと決めた。あの日見た『希望』を、俯く同胞に見せてやりたくて、一族の再興を果たす為に。

 

それが僕───『フィン・ディムナ』の冒険の始まり。

 

僕こそが『架空の女神(フィアナ)』に代わる一族の希望になるために、冒険を重ね、力をつけ、名声をかき集めた。ロキに掛け合って拝命してもらった『勇者(ブレイバー)』の二つ名を名実共に認めてもらえるように努力を積み上げてきた。

 

必要なのは見せかけの『勇気』ではなく、確たる実績。一族の全てを背負えるだけの名声をひたすらに求めた。その中で僕に冒険を教えてくれた冒険者の先達やともに戦ってきた戦友を見殺しにもした、それがより多くを救うと確信したから。

 

人工の英雄、造られた偽物、ツギハギだらけの虚構。僕は歩みを止めなかった。止まるわけにはいかなかった。小人族がかつて持っていた誇りを取り戻すために、僕は歩み続けた。

 

だが、ある時気がついてしまった。英雄とは作り出すものではなく求められるものなのではないのか、と。

 

そんな時、彼に───アル・クラネルに出会った。

 

ロキに抱えられた彼はかつての僕と同じくらいの年頃でありながらこの世すべての怒りを煮詰めたかのような紅い瞳をしていた。

 

かつてのアイズ以上の苛烈さにアイズ以上の才能。まるで、死地の中を生き抜いてきたような少年の瞳は僕の知るどの人間よりも鋭かった。

 

連日実力に見合わない階層に潜るアルをガレスは生き急ぎすぎだと諌め、リヴェリアは目を離したら死ぬと自ら教育係を申し出て、ロキはその瞳の奥底で渦巻いている何かに畏怖していた。

 

だが、僕だけはアルの計算高さに気がついていた。アルはいつもボロボロになって帰ってきたが一度たりとも深手を負ってきたことはなかった。

 

かつてのアイズとは違う、自身の実力を冷徹なまでに測りきってギリギリ死なない程度の試練を己に強いて、限界ギリギリのところで生還しているのだ。

 

そんなアルが初めて死にかけたのは冒険者となって三週間目、リヴェリアの言いつけで無理やり組まされたパーティの者達を突如上層へ現れたインファント・ドラゴンの強化種から逃がすために戦ったときのこと。

 

逃げ帰ってきたパーティリーダーであるLv2の男性団員にアル一人が殿となってダンジョンに残ったと聞いたとき、僕が感じたのはかすかな失望の念。

 

アルをかつての傲慢と『勇気』を履き違えていた自分自身と重ねていたからかもしれない。すでに死んでしまったであろうアルへの失望を隠しつつガレス達とともにダンジョンへ向かった。

 

僕はもちろん、ガレスでさえも死んでいるものと思っていた。だが、当の階層にたどり着いた時に僕たちが見たのは一山いくらかの雑多な武器を使い捨て、少しずつ身を削られながらも決して諦めず敵へ立ち向かうアルの姿だった。

 

その姿に、僕は目を疑った。目の前で戦う少年が信じられなかった。それはまさに僕が思い描いていた理想そのものだからだ。

 

自分の命を燃やしてでも仲間を守らんとするその姿に、僕の中の何かが震えた。第一級冒険者からすれば遥かに低次元なはずの戦いから目を逸らすことができず、僕はただただ魅せられていた。

 

その目に恐怖はなかった。あるのはただただ強い戦意のみ。Lv2の上級冒険者ですら逃げ帰る相手に冒険者となって一ヶ月も経っていないのに勝てるわけがない、それほどの実力差を身で感じながらもその足は止まっていなかった。

 

ガレスも、ベートも、ティオナも、誰もが呆然とする中、圧倒的格上に対し、賢しく、懸命に立ち向かい、傷を負って倒れた仲間を背に庇いながら戦うアルの姿に僕は『勇気』を見た。

 

────僕にできただろうか、あの小賢しいだけの子供だったころにあのような『勇気』を示すことが。

 

もし村をモンスターが襲わずにいたら、僕は生意気な少年としてあの村で生涯を終えていた。そんな僕とは違い、アルは自分の意志で住んでいた村を飛び出し、オラリオへやってきた。

 

そして、決して諦めずについには圧倒的な実力差を持つ敵を打ち倒す偉業を成し遂げた。

 

 

一年、二年、三年、四年、気がつけばアルは僕たちに並び、そして追い越した。

 

アルがファミリアに入団してからの四年間、ファミリアでは誰一人として死者が出ていない。アルが守ってきたからだ。

 

アルがいなければきっと誰かしら死んでいただろう。僕たちだって何度も危うい場面があった。それでも、アルがいたから皆無事でいられた。

 

僕が欲するのは小人族の新たな光となるための英雄譚。『大衆の英雄』であり、『奸雄』であり、『人工の英雄』だ。全てを利用し、全てを切り捨てる。輝かしい名声とは正反対に穢れきった薄汚れた道

 

だが、それこそが『英雄』へと至るための最短の道なのだ。

 

だからこそ、僕はアルが眩しかった。損得を顧みず、ただひたすらに前を見続けるアルが羨ましくて眩しくて仕方がなかった。

 

アルは僕とは違う、アルには英雄願望はない。

 

アルの横に立つと自分がひどく薄っぺらに感じてしまう。

 

 

 

そして、今もアルは英雄そのものだった。

 

 

 

 

 

 

 

立ち上がっていた。リヴェリアの魔法でもエリクサーでも決して塞がらない傷を、英雄に自死を選ばせる英雄殺しの毒を受けながらも。

 

全身から腐臭と焦げた肉の臭いを漂わせながら幽鬼のように立ち上がったアルの姿にレヴィスは自分でも気が付かずに足を竦ませる。

 

「(なぜ立てる?! いや、それ以前になぜ血が止まって─────)」

 

 アルは貫かれた胸の穴を焼くことで無理矢理に塞いでいた。アルが持つ朱剣は永き時の中で呪いを帯びて穢れ果てた忌物。

 

その呪いの悍ましさはベヒーモスの呪毒にも匹敵する。その呪いは自らの肉体を焼き焦がす事を代価に攻撃を劇的に向上させる傷つけることしかできない自滅諸刃の力。傷を癒やすことはできないが、その濃さゆえに呪いを()()()することはできる。

 

それも、血の流出を無理矢理に食い止めただけで。もはや、アルに残された時間は残り少ない。アルの身体はとうに限界を超えていた。

 

心臓を穿たれ、血を失い、魂を削るような呪いと毒によって血から骨に至るまで全身が腐りつつあり、歴戦の勇士ですら自死を選ぶほどの言葉では表現できない苦痛に苛まれている。

 

遅かれ早かれ確実に死ぬ。だが、アルの瞳はまだ死んでいなかった。それがどれほどの苦痛を伴うか、理解しながらもアルは立ち上がった。

 

死すら救いだと思わせるほどの激痛が、脳髄を焼き切るような熱さが、肺を締め付けるような苦しさが、全身を駆け巡るのを感じながらもアルの心は折れていなかった。

 

白目は黄色く濁り、瞳は視界が潰れているのか焦点があっていない。肌は水分を失って褐れた朽木のような質感で顔中の粘膜という粘膜からタールのようにドス黒い血が滴っている。

 

「何なのだ·······貴様は、一体······なんだっていうんだ··········!!」

 

 まさに満身創痍の死に体。剣を杖代わりにしなければ立ち上がることすらもできない。だが、レヴィスはその有り様にこれまでにない恐怖を味わっていた。圧倒的優位にあるはずなのに無意識に後ずさりし、歯がガタガタと震える。

 

焼いても塞がりきらない胸の大穴から真新しい鮮血が流れている。だというのにアルは倒れていない。まるで、不死身の怪物を相手にしているかのような錯覚をレヴィスは覚えていた。

 

己の命を省みることなく、他者を守るために命を燃やし尽くして戦うその姿にレヴィスは畏怖した。アルが放つ覇気は先程までの比ではない。その目に宿るのは怒りでも殺意でもない。

 

「─────ッ、」

 

 その光を喪った瞳でアルはフィンを「見た」。その視線の意味にフィンは、『勇者(ブレイバー)』は気がついてしまった。尊敬する友の最期の願いをフィンだけが理解してしまった。

 

『総員、アルを守れ』

 

 そう、命令できればどれだけ楽か、このまま全滅できればどれだけ楽か。できない、してはならない、そのような『逃げ』は自身の過去が許さない。

 

フィンはその神々をも凌駕する理知によって気がついてしまっていた。単一の属性を司る精霊であるにも関わらず複数の属性魔法を使う穢れた精霊、新種のモンスターの()()()の魔石、そして迷宮神聖譚の風の大精霊アリア。

 

多数の属性魔法のうち、風属性だけは使えない穢れた精霊と怪人に『アリア』と呼ばれて付け狙われる、ヒューマンとしてはありえない出力の風魔法を使う『アリア』と言う名の母を持つアイズ。

 

その全てが一つの答えへと収束していく。

 

死に体のアルよりも優先し、死守するべきはアイズ。仮にアイズを奪われれば穢れた精霊は『完成』しかねない。

 

何よりアイズを奪われてはアイズを自らの身を呈して庇ったアルの想いが無駄になる。

 

怪人にとって自分たちはおまけに過ぎない。怪人の目的はアイズとアルだけ、おそらくそれ以外の【ロキ・ファミリア】の面々は敵としてすら認識されていないだろう。

 

それは正しい。階層主以上の力を持つ精霊四体を相手に戦えていたのはアルとアイズがいたからだ。そしてそのアルは死に体な上に魔法を封じられ、アイズももはやさっきまでのようには戦えまい。

 

そして、あの赤髪の怪人。いくら精霊たちへの前衛を一人で熟し、無防備なアイズを庇ったとはいえ、()()()()()()のだ。あの緑肉の鎧のせいか、それともモンスターとしての特性で強化種のような力をつけているのかあの動きは確実にLv6の範疇にない。

 

自分があの怪人と戦うには凶猛の魔槍を使わなければならない。だが、それは指揮の放棄を意味する。現状、このパーティで指揮をできるのは自分を除けばリヴェリアとアルのみ、ラウルではまだ足りない。

 

ならばリヴェリアに後を任せ、自分が殿となるか?

 

······不可能だ。怪人を押し留めている間に精霊の魔法で焼き殺されるのが精々だ。

 

今、この場において殿を務められるのは唯一人。

 

 

 

「赦しは請わない」

 

 だからこれはフィンが言うべきこと。フィンにしか言えぬこと。

 

「─────アル、僕達のために死んでくれ」

 

 

 

「フィン!! 何言ってんの!?」

 

「総員撤退だ!! あの怪人と残りのモンスターはアルに任せる!! 反抗は許さない──!!」

 

 常に冷静沈着な頭目の歯を砕きかねないほどに噛み締められた口とその気迫に反論できる者はいなかった。

 

「怒りも、侮蔑も、地上に戻ったあとならばその全て受け入れる。だから、今は従え──!!」

 

「···········気に病むな。今日が俺の番だった。ただ、それだけの、こと、だろう········」

 

 誰よりも早くその指示に従ったアルと言葉もなくアルから手紙のようなものを預かるフィンの姿はまさに以心伝心。『勇者(ブレイバー)』と『剣聖』、最大派閥の頭と右腕。他のどの団員よりも二人は噛み合っていた。

 

その二人の決定に誰も口を挟めなかった。

 

一人を除いて。

 

 

 

 

 

 

アルとはいつも一緒に戦ってきた。

 

私の魔法や、アルの剣技で敵を屠り、二人で協力し、時には競い合い、そうしてお互いを高め合ってきた。どんな強敵が相手でも、どんな苦難でもアルと一緒なら乗り越えられた。

 

けれど、アルは私を見ていない、先を見てる。アルは私を置いてどんどん先に進んでしまう。このままだときっと置いて行かれてしまう。それは嫌だ。アルがいないと私は駄目だ。

 

アルと同じ光景を見ていたい、アルと同じものを食べていたい、アルと一緒に寝起きをしていたい、アルともっと色んな話をしたい、アルの隣にいたい。アルのいない生活なんて考えられない。

 

アルがいなくなったら、私は生きていけない。

 

アルはいつだって、私を助けてくれた。私が迷っていれば、手を引いてくれる。

私が悩んでいれば、背中を押してくれる。

 

必死に追いつこうとした。

 

焦燥感に駆られながら、毎日のようにダンジョンに潜り続けた。私は強くなった、アルの隣で戦えるぐらいに強くなった……! なのにどうして!?

 

フィンが何を言っているかがワカラナイ。アルを見捨てる?

 

「だめ、そんなの、ゆるさない」

 

 そうならないために、私は強くなった。アルに守られているだけではいけないから強くなりたいと思った。アルに追いついて今度は私がアルを守るために。私はもう、アルの隣で───

  

「【猛け息吹(テンペス)───」 

 

 魔法は成立せず視界が崩れ、身体が崩れ落ち、チカチカと点滅する意識。

 

「(精神疲弊(マインド・ダウン)──!! もう、身体が)」

 

 限界を超えた魔法行使の連続に、ようやく身体がかけられていた負荷に「気がつき」、何もできなくなる。剣は握れず、立ち上がることすらできない。それでも這うようにして前に進む。アルのもとへ、アルのもとへ行きたかった。その想いだけが、私を突き動かす。

 

そして、その想いすらも、崩れ落ちる。

 

『貴女は強くならなくてはいけない、でなければ貴女は───()()()()()()()()()

 

 いつか見た、幻の自分の言葉が脳裏をよぎる。ずっと否定してきた最悪の未来が目の前にある。アルが死ぬ? アルが死んでしまう? アルがいなくなる? そんなの、絶対にダメだ。

 

「あ、うそ·····いや、いやいや、やだ!! やだ!!」

 

 力が入らない。指先が動かない。腕に力を込めてもまるで動かない。動けない。動かせない。動いてくれない。どうしようもない現実に涙が溢れる。アルに死んでほしくない。アルがいなくなったら、どうすればいい? わからない。なにもわからない。

 

アルがいなかったら、私はどうやって生きればいいのかわからない。あの日、あの時から私とアルは一緒にいたはずなのに、今はもうこんなにも遠い。藻掻く指の先にアルの背中が見える。

 

どうやっても思うようには動かない身体を引きずってイモムシのようにもがきながら幼子のように泣き叫ぶ。そうすれば全てが解決するような、誰かが『助けて』くれるような気がして。

 

「聞き分けろ!! アイズ・ヴァレンシュタイン!!」

 

 文字通りに血を吐くような声でアルが叫ぶ。初めて聞くような裂帛の声。だが、私を見るその『瞳』は私をおいてモンスターのもとへ行ってしまったおとうさんが最期に向けてきた太陽のように暖かい目。その目に宿るのは諦めではなく、覚悟だった。

 

「·······すまない」

 

「俺は、お前の英雄にはなれないようだ」

 

『私は、お前の英雄になることは出来ないよ』

 

 その言葉は、その背中はかつてのおとうさんと重なった。やめて、それ以上は言わないで、置いていかないで、アルが死ぬなら私も死ぬから、一人にしないで。

 

そんな私の願いは届かずにアルの背中は少しずつ遠くなっていく。私にはどうしようも出来ない、いくら歯を食いしばっても身体が言うことを聞かない。ダンジョンの床を這うことしかできない。

 

嫌だ、やだ、やだやだやだやだ!!!! いっちゃだめ、いっちゃだめだよアル。

 

いかなきゃ、行って止めないと。アルが死んじゃう。アルが殺されちゃう。いやだ、いやだいやだ!! なんで、どうして、私はまだ戦える。まだ、戦えるから。だから私を連れて行って。お願いだから。

 

アルが死ぬくらいなら、私が死んだほうがマシだ。

 

アルを連れて行かないで、私からアルを奪わないで。

 

どんなに願おうとも、どれだけ叫ぼうとも、私の身体は微塵も動くことはない。ただ、遠ざかっていく背中を見ることしか出来ない。

 

声にならない叫びは誰にも届かない。アルは振り返らない。

 

最後に、もう一度立ち止まってこちらを背中越しに見るアルの顔には苦痛なんて一切感じていないかのような笑みが浮かんでいた。

 

それは自分に初めて向けられた、いつか向けてほしいと思っていた満面の笑み。その笑みはかつて、おとうさんに向けられたのと同じ───

 

 

 

 

『「─────いつか、お前だけの英雄に出会えるといいな」』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──────────────────────────────────────────────────────────────────

 

 

ロキファミリア、アルと仲良いランキング(曇らせPT抜き)

 

一位 フィン

ニ位 リヴェリア

三位 ティオナ

四位 アリシア

五位 ガレス

六位 ベート(後方兄貴ツラ)

七位 アイズ(天然コミュ症)

八位 レフィーヤ(そもそもそんな関わんない)

九位 ティオネ(フィンガチ勢)

 

 

 

 

 







▼((嬉´∀`嬉))ノ

あんまフィンを掘り下げるssってないよね。

アルは視界が潰れてても曇り顔は見れます(??)

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。