皆の傷になって死にたい転生者がベルの兄で才禍の怪物なのは間違っている 作:マタタビネガー
【アルと相性いい主神ランキング】
一位 アストレア(説明不要)
二位 アルテミス(一万年後じゃなくなる)
三位 エレボス(悪友系)
〜壁〜
四位 ガネーシャ(普通に良い神)
五位・六位 ロキ、フレイヤ
フィンも、アイズも、誰しもが心を砕いた。アルを犠牲にしなければ全滅する自分達の現実に、怪人に追おうともされない自分達の惰弱さに。
たった一人、駆け出す狼人ウェアウルフを除いて。
やったぜ(満面の笑み)
そう、これだよ、これ!!
俺の目に狂いはなかった、レヴィスちゃんよくやってくれた!!
いやー、これまで長かったなあ。インファントドラゴンから始まって黒いゴライアスにジャガーノート、古代の神獣、異常個体の階層主、尽く死に損なってきたがようやくこのときが来たかッ!!
ベヒーモスの毒とか割とマジで死ねるやつじゃん!! 早くとどめくれ、早くしないと耐性ついちゃうから。
『赦しは請わない』
おん? なんだ、フィン?
『─────アル、僕達のために死んでくれ』
いいよッ(食い気味)!!
フィンはそういうこと言ってくれるから大好き!! よしよし、みんな逃げな逃げな。文字通り刺し違えてでも逃してやるからさ。
『あ、うそ·····いや、いやいや、やだ!! やだ!!』
お黙り!! 黙って見てな!! 華々しく死なせろ!!
「·······すまない」
「俺は、お前の英雄にはなれないようだ」
これ言うためだけに馬鹿みたいに前準備重ねて来たんだぞ?よし、言うぞ言うぞ。一世一代のラストワードだぞ、耳かっぽじって聞けよ?
「─────いつか、お前だけの英雄に出会えるといいな」
─────ああ、それだよ、その顔だよ。その顔が見たかった。
もう、思い残すことはねぇな········よし、じゃあ残りの力使い切ってレヴィスちゃん達倒すからお前らは逃げな。
「【────を破却する。仰ぎ見る月女神の矢、約定の槍を携える我が身は偽りの英雄】】」
「【
魔法封印の呪詛なんざ気合で突破できんだよ!! 俺の最強魔法くらわせてや─────は?
え、いやいや、ちょっと待てや、何やってんだ?! お前!!
俺のこれまでは、大切なものを取りこぼし続けた人生だった。
俺の故郷は大陸北方の大地。国や都市とは無縁の放浪の獣人部族『平原の獣民』。神もいない、恩恵もない。それでも下級の眷族ごときには負けない程に強い。
モンスターを一蹴し、悪さをしてくる奴らは護衛ごと叩き潰してきた。族長だった親父は誰より強く、俺の誇りだった。
豪快なお袋と妹のルーナ、狼人の兄貴分達。そして、俺と同じ日に生まれた幼馴染のレーネ。部族には似合わない程に弱く、けれど誰よりも美しかった。
部族の教えである「弱肉強食」は欲しけりゃ奪い取れ。日ごとに綺麗に成長していくアイツを巡って男児達は争い合った。俺は自分の牙を磨き続け、子供の中では誰よりも強くなっていた。
『お前は弱っちくてもいいんだぜ! お前の力がみんなの半分なら俺が二倍も三倍も力を出してやる。俺がお前の分も強くなる!!』
そんなことをレーネに言ったこの頃の俺は、自分さえ強くなればいいと思っていた。
それは12歳の誕生日を迎えた年だった。その「怪物」は世界三大秘境の一つ、北の果ての『竜の谷』から降りてきた。部族が培った技も知恵も月夜の獣化すらも何一つ通じることなく虐殺された。
金色の月の夜、部族は死に絶えた。俺一人を残して。弱肉強食、強いものは何をしたって許される。弱いものは何をされても抗えない。父親から教わった世界の理を俺はようやく理解した。
───親父は弱かった、だから八つ裂きにされた。
───お袋は弱かった、だから真っ二つにされた。
───妹は弱かった、だから踏み潰された。
俺は弱かった、だから
俺は故郷を捨てた。弱者だった部族を再興しても、また奪われるだけ。「強さ」を求めた。『草原の主』となったあの「怪物」を倒すために、二度と折れることのない牙を。
自分の弱さの戒めとして忘れることのないように傷跡はあえて残し、その上から刺青を彫った。
長い旅路の末、迷宮都市オラリオに辿り着いた俺が最初にしたことは『恩恵』をもたらす神を探すこと。主神選びには細心の注意を払うつもりだったが、早い段階で契約を結んでいいと思える神と出会えた。
男神、ヴィーザル。
静謐な眼差しと俗物離れした無口な神物。稀に溢れ出す言葉は神託めいていた。
『その牙ごと、顎を引き裂かれないようにな』
【ヴィーザル・ファミリア】、探索系の派閥。男神を慕う純粋な冒険者達は皆若く獣人が多い。胸をよぎる鈍い痛みが俺を此処に入団することを決めさせた。
入団後、団員との喧嘩は日常茶飯事。頭一つ抜けた実力を持ち、リーダー的なポジションにいたヒューマンの女、セレニアは強く、美しい女傑だった。
俺は無我夢中で戦い続けた。数ヶ月経つ頃には団員たちは背中を預けられる戦友となり、いつしか俺の強さは認められていた。
ステイタスでセレニアを追い越した頃に俺は【ヴィーザル・ファミリア】の団長として憧れた親父のように群れを率いる狼になっていた。
弱小だった【ヴィーザル・ファミリア】は俺を始めとして他の団員たちも昇格を次々果たし、中堅派閥の一つに数えられるまでになっていた。
『灰狼』、それが俺が得た最初の二つ名だった。
弱者をいたぶる雑魚にはならない、強者の傲慢も許さない。
ただひたすらに「牙」を磨く俺の背中を追うように団員達も強さを貪欲に求めた。いつしか、俺の在り方が 【ヴィーザル・ファミリア】の在り方になっていた。
強くなるだけでなく在り方を示す、俺より弱い団員達も『牙』を得た弱肉強食の摂理にも逆らう戦士になる。居心地が良かった。失った「家族」がそこには確かにあった。
失った「愛」も。
『平原の主』を必ず俺の手で討つ為にしばしオラリオを離れた。
『·······ヴィーザル』
『ベート······いつかお前の『牙』の意味を知れ』
あの夜と同じ蒼い月の夜、俺は故郷に帰ってきた。再び、アイツと対峙した。死闘は一晩中続いた。武器という武器を使い尽くし、全身から血を流し、骨を砕かれながら親父とお袋を引き裂いた爪を砕き、妹を潰した足を折り、レーネを喰い殺した口を引き裂いた。
『草原の主』以上の獣と化して『牙』を振りかざした。
巨獣の骸の前で俺は雄叫びを上げた。歓喜と怒り、悲しみと虚しさ。俺は強くなった。もう何も奪われることはない。だというのに『牙』の痛みが引くことはなかった。
あの日も空から雨が降っていた。『平原の主』を討ち、迷宮都市に帰ってきた俺を待っていたのはセレニアの骸だった。
いつものダンジョン探索だった。何てことのない、何十回とこなしてきた日常。何故だ、
俺は強くなったはずだ。なのに、どうしてまた奪われる?
しばらくして【ヴィーザル・ファミリア】はオラリオを出ることを決めた。
アイツらを自ら嫌われるように言葉で傷つけ、半ば追い出すように迷宮都市から遠ざけた。ギルドも第二級冒険者の俺が残るならばとヴィーザル達の移住を認めた。別れの言葉は無かった。
それから喧嘩をしない日はなかった。だが、どんな『強者』も俺を打ちのめすことはできなかった。
俺を打ちのめしたのは他でもない『弱者』だった。弱肉強食の世界に逆らえない弱き者達。どんなに
その出会いは必然だったのだろう。派閥に所属せず、 喧嘩に明け暮れる日々。俺がいる酒場に現れたのは普段見慣れない顔ぶれだった。
【ロキ・ファミリア】。
初めて同じ冒険者に叩きのめされた。鍛え上げた俺の強さは、第一級冒険者のドワーフの大戦士には何一つとして通用しなかった。つい、おかしくなって笑ってしまった。
『何だ、いるじゃねぇか。話にならねぇ程強い奴らがよ』
ロキに勧誘され、ファミリアに入ってからすぐに俺はLv4ヘランクアップした。
入団して驚いた。決して才能に恵まれていない奴らがこうも戦えるということに。群れを率いる頭への信頼の高さに。頭が違えば群れがこうも変わるということに。
『
強さも聡さも覚悟も俺がこれまでに出会ったどんな男も及ばない、一族の全てを背負う覚悟を持った紛れもない『英雄』の器。
そしてアイズ・ヴァレンシュタイン。年若いヒューマンの娘。生きていたら妹と同じくらいの年頃でありながら魔法を使えば俺以上に強い女。
俺以上に強さを求め、着実に強くなっていくアイズを見るのがいつしか一つの楽しみになっていた。
それから二年後、アル・クラネルが入団した。誰よりも苛烈で誰よりも才能に溢れ、誰よりも上を見据えるアイツは眩しかった。
俺とは違い、なにも取りこぼさずにアイズを、皆を助けていたアイツはまたたく間に強くなっていき、気づけば俺を超えて更に先の領域まで足を踏み入れていた。
【ロキ・ファミリア】に入団してから六年。認めよう、悪くなかった。傑出した頭領に雑魚だが愚図では決してない団員たち。切磋琢磨できる対等以上の実力者。
その頃には気がついていた。俺にとって『牙』とは『傷』なのだと。傷だらけの狼、それが俺の正体。
牙を磨けば、俺が強くなれば全てを守れる。そう思っていた頃もあった。導けば誰もが強くなれる。そう信じた時期もあった。
戦場に立っていいのは強者の嘲笑に吠え返せる者だけ、それほどの気概がなければ、変わらなければ、『雑魚』は無為にその屍を積み上げる。
だから、蔑み、嘲り、笑い続けた。戦場に立とうとする『雑魚』どもを。どいつもこいつも吠える事も出来ず変わる事もねぇ·······。
─────だが、
「【戒められし
『傷』の象徴とも言える詠唱を、二度と使わないと自分自身に課した戒めを解く。子供じみた意地でもあった。死んでも守ると決めたわがままだった。
「【飢えなる涎が唯一の希望、川を築き血潮と交ざり涙を洗え、癒せぬ傷よ忘れるな】」
だが、
「【この怒りとこの憎悪、汝の惰弱と汝の烈火、
家族も幼馴染も恋人も、何一つとして守れなかった。とりこぼし続けた人生だった。
「【───喪いし
もう失わないために、これ以上奪われないために。今度こそ───守るぞ、俺はッ!!
「【その
「【─────ハティ】!!」
穢れた精霊が散々吐き出した魔法の残り滓を平らげて、リヴェリアの【レア・ラーヴァテイン】にも匹敵する緋焔の巨狼が顎を晒して猛り吼える。炎に照らされ緋色に輝く瞳。だが、レヴィスも精霊もアルすらも呑み込む火の津波は─────レヴィスの大剣によって容易く払われる。
「Lv5如きが目障りだ」
いかに、封印を解いて魔法を使ったとしてもLv5のベートではLv7に肉薄する程のステイタスを持つ怪人レヴィスには到底届かない。それはベート自身が一番、わかっていた。ベートの狙いはレヴィスを倒すことではない。
【ハティ】の特性は『
「立ちやがれぇええええええええ─────ッ!!」
「·······ああ、参ったな。今回こそはと思ったんだが」
「ここまでお膳立てされて死ぬわけにはいかない、か」
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『いろいろな設定』
【ベヒーモスの大剣】
デダインの黒い砂漠から発掘されたベビーモスのドロップアイテムを『神秘』の発展アビリティを持つバルカ・ペルディクスが呪具へ加工した大剣。ベビーモスの死毒+バルカの呪詛とかいうクソ武器。呪詛防御のスキルと高ランクの『耐異常』、Lv7のステイタスのアルだからあんなもんで済んでいるが、ラウルやレフィーヤなら即死。アイズでも胸刺されたら数秒で死ぬ。
【レァ・ポイニクス】
簡単に言えば『エアリエル以下の出力』『ハティ以下の火力』『フェルズ以下の自動治癒』『アミッド以下の自動解毒・解呪』『アルフィア以下の耐魔法』。燃費が馬鹿みたいにいい。
【リーヴ・ユグドラシル】
使おうとした第三魔法。クソ技過ぎるのと他の二つが出し得技過ぎて使い所がない。
【加護精霊】
味方に精霊がいれば自身とその精霊に特殊バフ。敵に精霊がいれば自身に特攻バフ。常時、属性攻撃耐性&呪詛耐性付与。
『恩恵』を受けている状態では真価を発揮できない。
【Q&Aコーナー】
Q、アルと相性のいい奴はわかった、逆に悪い
A、ワースト一位はエニュオ。アルからすればいいが、エニュオが音楽性の違いで病んじゃう。二位はヘルメス(送還)
そろそろ三章終わりです。