皆の傷になって死にたい転生者がベルの兄で才禍の怪物なのは間違っている   作:マタタビネガー

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第三章最終話 

対峙するは呪毒の大剣を持つ赤髪の怪人と金銀の双槍を携えた黄金髪の小人族。

 

怪人の肢体から放たれるは竜の肉体を裂き、英傑の心を殺す絶死の呪毒を帯びた剛撃。

 

Lv7相当のステイタスから放たれるその一撃はオラリオ随一の耐久を誇るガレスとて防ぎきれぬ破壊力が秘められていた。

 

だが、フィン・ディムナには届かない。

 

フィンの視界に映る怪物の姿がぶれたかと思った瞬間、既に彼は視界を捨てていた。極限まで研ぎ澄まされた五感で知覚した空気の流れと歴戦の経験で培った神がかり的な勘によって斬撃の軌道を見切り、必殺の間合いから逃れている。

 

防御は不可能だと判断したフィンは回避に徹することにした。怪物の振るう大剣が風を切る音を頼りに槍を振り回して攻撃をいなし、紙一重で避け続ける。岩盤を砕くほどの破壊力を秘めた攻撃も当たらなければ意味がない。

 

平時のフィンであれば押し通されてしまっただろうが、今のフィンは戦意高揚の魔法によってそのステイタスを限界以上に激上させていた。そして、ステイタスで拮抗する以上は技量で勝るフィンに分がある。

 

そして何よりも精神面。

 

殺したと思ったアルが遥か格下だと思っていたベートによって再起し、死に体であるはずのアルに打ちのめされたことで表には出さないものの、レヴィスの心は酷く追い詰められていた。

 

対してフィンは仲間の立ち上がる姿を胸にこれまでのいつよりも猛っていた。同格の相手同士の戦いではその精神面が勝敗に直結する。ゆえにフィンは未だ優勢であった。

 

しかし、フィン自身焦ってもいた。その理由はレヴィスの持つ剣、呪詛に耐性をもつアルをあそこまで追い詰めた黒獣の剣はかすり傷すら許されない。

 

おそらくその凶悪さのほどはラウルやレフィーヤであれば、即死。Lv6である自分ですら死にかけるであろう。

 

そのかすかな恐れによってフィンの流れるような所作にほんの少しだが歪みが生まれ、それを見逃すレヴィスでもなかった。

 

「死ね、小人族」

 

 ───振り下ろされる大剣はフィンの身体に届く前に止まった。

 

「なん───」

 

「【───リスト・イオリム】」

 

「私の団長になにすんだ、テメェ!!」

 

 後方から光の鞭がレヴィスの身体を拘束したのだ。その魔法の使用者はフィンを誰よりも愛するアマゾネスの少女。

 

そして、そのスキにフィン・ディムナの奥義が装填される。光粒が集い、魔槍に収束していく。それはまるで光の橋のように美しく煌めきながら穂先へと集まっていく。

 

紅い瞳に湖水の如き静かな闘志を燃やしながら、フィンは静かに告げる。

 

【─────此処は遥か夢の楽園(ティル・ナ・ノーグ)

 

 日に一度しか使えぬ代わりにLv及び潜在値を含む全アビリティ数値を魔法能力に加算して放つ絶大なる威力を秘めた投槍魔法。

 

その奥義が一足一刀の至近距離で金槍でもって放たれる。フィンの愛槍が音速を超え、轟音を響かせて光の奔流となって怪物を貫く。

 

レヴィスは咄嵯に大剣を掲げて防御しようとするも、光の洪水に押し流された。凄まじい熱量と衝撃によって周囲の大地ごと吹き飛ばされていく。

 

「こんな奴らに─────!!」  

 

 魔石こそ避けたものの、アルでもなく、アイズでもない。敵として認識すらしていなかった二人によって怪人レヴィスの肉体の大部分が消し飛ばされた。レヴィスが最後に見たのは金色の髪を靡かせる小人族の英雄だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「【──────間もなく、焔は放たれる。怒れ、紅蓮の炎。無慈悲の猛火。汝は業火の化身なり。悉くを一掃し、大いなる戦乱に幕引きを】」

 

「【焼き尽くせ、スルトの剣――我が名はアールヴ】!」

 

「【レア・ラーヴァテイン】!!」

 

 都市最強魔導士の攻撃魔法。第二位階攻撃魔法【レア・ラーヴァテイン】。展開された翠色に輝く魔法円から炎の柱が噴き出す。炎熱によって形作られた幾本もの紅蓮の大槍が、分厚い鉄板にも勝る花弁を貫き、灰へと変える。

 

「リヴェリア······!!」

 

 迸る炎の中、溢れ出る火の魔力に包まれたエルフの女王の姿を見上げながらアイズは無我夢中で走った。火照った身体と荒い呼吸で胸元を大きく上下させながも、その瞳には強い意思が宿っている。

 

ベートとガレス、ティオナと共に疾駆するアイズに、燃え盛る花びらの向こう側にいる少女は微笑む。

 

花弁の守りを貫かれたことで、少女の顔から余裕が消える。残る彼我の距離30メートルを一気に詰めるべく、アイズは走る。紅蓮の世界の中で、アイズの金髪が揺れて煌めいた。

 

轟ッ!! と、空気を裂いて飛来した巨大な物体が、アイズの行く手を阻む。黄緑に輝く蔓、鞭のようにしなるそれがアイズを襲う。長い緑髪を揺らす精霊の少女がアイズに向かって叫ぶ。それに応えるように夥しい緑槍が、精霊の前に壁を作る。

  

幾束もの植物が織り成す防壁がより下層から階層を貫いて伸び上がり、精霊とアイズ達の間にそそり立つ。触手の束が円形の壁となってアイズたちの前に出現し、アイズは急ブレーキをかける。

 

一瞬前までアイズが立っていた場所には、深々と植物の大槍が突き刺さっていた。直ちにベートとガレス、ティオナが加速してアイズを追い抜いて双剣と大斧、両双刃を振るう。

 

「「~~~っ!!」」

 

 だが、突き破らんとしたそれは突き刺さるだけに終わる。破壊も貫通もできない。弾力性のある硬い感触だけが手に伝わる。まるでゴムのようなそれに、冒険者は顔を歪める。突進の勢いそのままに突っ込んだ第一級冒険者三名の渾身でもってしても打ち破れない。

 

疾走の速度が緩んでしまう。その隙を逃すほど、精霊は甘くない。再びアイズと視線を合わせる精霊は笑みを浮かべると、両手を広げる。

 

彼女の背後から現れた無数の蔦や枝葉が、精霊の周囲を取り囲み始めた。身を守る緑のドレスを纏う精霊が歌うように言葉を紡ぐ。

 

こちらに傾きかけた戦況が覆される。時が止まったような感覚に陥るガレス達の背後より、紫電を纏った黒刃が音を置き去りにして雷光のごとく駆け抜けた。

 

何者よりも速く、そして誰よりも重い一撃だった。緑の防壁へ深く食い込んだ漆黒の大剣に、ガレス達は目を見張る。

 

黒い影がガレス達を追い抜かしていく。緑壁にめり込む大剣を握る少年は、一切速度を落とさず更に踏み込み、力任せに大剣を振り抜く。

 

「────【サンダーボルト】」

 

 食い込んだ【バルムンク】を引き抜き、もう一度魔法の雷を籠めた破砕の一撃を精霊に向けて振り下ろす。大気を引き裂く落雷の音。ガレス達では破壊できなかった緑色の防壁が、粉々に打ち砕かれる。

 

雷撃を帯びた斬撃は、それだけで終わらない。鳴り響く雷鳴の中、空中で身を捻ったアルの朱剣が緋炎を帯びる。

 

聖焔の英斬(ディア・アルバート)

 

焔雷が収束し、緋色の斬閃となる。大炎衝を纏った朱剣が、今度こそ緑の防壁を打ち破った。防御を失い驚愕に硬直していた精霊に、紅蓮の業火が迫る。

 

精霊が凶声を上げて緑の触手を伸ばして迎撃する。アルの足もとから樹木の槍が生え、彼を串刺しにせんと襲い掛かる。

 

触手の槍に全身を串刺されながらも、しかし少年は止まらない。むしろ加速して、炎を纏った剣を薙ぎ払う。炎の斬閃は緑の触手を切り裂く。

 

鮮血が散った。蜂の巣のように穴だらけになり、全身から噴血するアルは、身体を蝕む病毒と噴き出す血潮など意にも介さずに、燃え盛る炎を纏う刀身を縦一線に振るった。

 

「どりゃあああああああああああああああああああああああッ!!」

 

 その間隙に裂帛の声を上げてティオナとガレスが飛び込む。二人はアルの剣戟によって出来た隙間に、それぞれ大双刃と銀斧を叩きつけた。

 

ズドンッ!! という轟音が炸裂し、人が通れる穴が開く。ベートがアルを追い越して、アイズの隣に並ぶ。最後の障壁を越え、アイズ達はついに少女へと肉薄する。

 

アイズの視界が開ける。目の前には、あの精霊がいた。燃える花畑の中心に立つ少女は、息を呑むほど美しかった。

 

共食いにより再誕を遂げた精霊の分身。透けるような白い肌。翡翠の長い髪と濡れ羽色の瞳。瞳孔はなく、瞳は白濁している華奢な身体を覆う純白の衣。

 

その美しい相貌に刻まれた紋様が、一層輝きを増す。精霊の魔力が跳ね上がる。膨大な魔力の奔流に、アイズは気圧される。精霊が両手を掲げる。

 

「─────ッ!!」

 

 残り10メートル。精霊の眼前に迫るアイズ達に、幾束もの触手と植物の蔓が殺到する。

 

「邪魔だァ!!」

 

 四肢に焔を纏ったベートが吠える。炎牙を炸裂させた獣人の青年は、爆発的な推進力で迫りくるそれらを迎え撃つ。両脚の緋炎、両手の双剣が赤い軌跡を描く。触手蔓が一瞬にして灰になる。

 

「ガア、アアアアアアアアアアアアアアア──ッ!!」

 

 【ハティ】による炎牙を纏った連撃。ベートは縦横無尽に飛び回る。その動きについていけない植物たちは、ただ無惨に切り刻まれていく。四つの斬撃痕が宙に刻み込まれ、植物たちが千切れ飛ぶ。

 

全身を掠められながらもベートは全てを切り伏せた。その時にはもう、アイズの姿は精霊の前にあった。アイズは空を蹴り、疾走する。

 

「行け!!」

 

 精霊の濁った瞳とアイズの視線が交差する。アイズは愛剣を手に、精霊へ斬りかかる。精霊の手が動いた。無数の蔦や枝葉がアイズと精霊の間に割り込み、壁を作る。

 

それらを紙でも破るように貫いて、アイズは精霊へ迫る。モンスターの下半身に生えている女体の上半身に【デスペレート】を見舞う。暴風を纏う一閃が、女の胴体を袈裟懸けにしようとする。

 

だが────精霊は笑った。

 

刹那、アイズは目を見張る。精霊の口が僅かに開き、そこから漏れ出したのは蒼い魔力だった。口内に隠された極小の魔法円。

 

【氷血ヨ、舞イ踊レ──シュラウド・グラキエイ】

 

「(───氷の付与魔法?!)」

 

 アイズの【エアリエル】と同様の超短文詠唱による付与魔法。蒼色の魔法光が精霊の身体を覆う氷刃の鎧へと変わる。

 

精神力が尽き果て、次の瞬間に精神枯渇状態になり、風を維持できなくなりかねない今のアイズではこの蒼氷の壁は突破できない。

 

だが──

 

「【妖精の葬歌(うた)遺灰(しかばね)の残り火よ。宿れ、焔の権能、天空(そら)覇者(おう)。我が身を燃ゆる(はね)と成せ」

 

「【起動鍵(スペルキー)───緋翼(レギオ)】」

 

 大破した緑壁の前で精根尽き果てたティオナと共に後方で仰向けに倒れたアルは最後の詠唱を口ずさんだ。全身を緑槍で貫かれ、病毒に身を焼かれながら、力を失いながら。腕をはるか先にいるアイズに向けて伸ばす。

 

それはアルの付与魔法のスペルキー、本来は一撃の威力を引き上げるものだが、多大に消費される精神力によってその効果は他者への【レァ・ポイニクス】の付与へと変わる。

 

「正真正銘、最後の詠唱だ。───行って来い」

 

 その言葉を最後に流石に限界、どうせ死なないんだろうが、とつぶやいてから眠るように気絶した。

 

 

「アル───ッ!!」

 

 消えかけていた闘志に、掠れていた風に火が入る。火と風が交わり、アイズの背に不死鳥の翼が現れる。その暖かさに先程までの悲嘆は、嘆きは何だったのかと我ながら単純だと笑ってしまうほどに力が湧いてくる。

 

ベル・クラネルが、ベート・ローガがそうであったように、アイズ・ヴァレンシュタインも今、『殻』を破る。

 

「【吹き荒れろ(テンペスト)】──!!」

 

 最後の最大出力。全開まで引き出された風の暴威が、緋色の炎翼がアイズの背中を押し出す。後のことは考えない。ここで倒さなければ全てが終わる。

 

だから────アイズは行く。

 

精霊の眼前まで迫っていたアイズは、己の全てを賭けて剣を振るう。限界を超越して、精霊の障壁を打ち砕かんと振りかぶった剣に全ての力を込める。

 

闘志が 【エアリエル】 に装填される。身体を駆け巡る魔力が、アイズの意思に呼応して爆発的に増加する。先程までの全ての風を超える緋色の大気流が咆哮を上げた。

 

空中で装填されたアイズの必殺に、精霊は即座に反応する。

 

無数の蔦がアイズの視界を埋め尽くす。その全てが、アイズの振るう剣を阻まんとする。

 

【閃光ヨ駆ケ抜ケヨ闇ヲ切り裂ケ代行者タル我が名ハ光精霊光ノ化身光ノ女王】

 

 精霊が手を掲げ、魔法を発動させる。精霊の口元が動くと同時に、白い魔法陣が展開する。視線が交錯する。精霊が何かを呟いた。

 

アイズの剣が精霊の障壁に激突する。轟音と衝撃。精霊の表情が初めて歪む。アイズは止まらない。押し込む。

 

「────私は『アリア』じゃない」

 

 精霊の唇が動いた。アイズは聞こえなかった。だが、その声は確かに届いていた。アイズは知らない。精霊が何を言ったか。だが、意思を以って『彼女』の言葉を否定をする。

 

「────でも、貴方はいちゃいけない」

 

「────リル・ラファーガ」

 

【ライト・バースト】

 

 白き絶命の閃光が、紅き激風の咆哮が、衝突し、弾け飛ぶ。拮抗は一瞬、風が光を食い破る。光の奔流の中をアイズが突き進む。

 

蒼氷の鎧を溶かしきって緋色の神風が精霊に肉薄する。緋色の一閃が肉を断ち、精霊の上半身が宙に舞う。ひた走る火風の螺旋が精霊の頭部に食らいつく。燃え上がり、精霊の絶叫が響き渡る。

 

緋色の神風が精霊の魔石に到達する。胸の魔石を貫かれた精霊は力なく崩れ落ちていった。

 

 

 

 

勝敗は決した。アイズたちによって精霊は討たれ、怪人ももはや死に体である。そう結論付けたフィンは話を聞き出すよりも敵の始末を優先し、銀の穂先を倒れ伏すレヴィスに向けようとしたが。

 

「───ッ!!」

 

 瞬間、奔った親指のこれまでにない激痛にティオネを引き寄せてその場から退く。魔法によってLv6を超えたステイタスは、それまでにいた地面が漆黒の雷によって消し飛ばされる前に避けることに成功した。遅れて爆風が押し寄せてくる。

 

穢れた精霊の砲撃に匹敵、否凌駕するほどの破壊力を持った黒雷の砲撃を放った人物は、紫の外套に奇っ怪な仮面を嵌めた男とも女ともわからない不気味な人物だった。

 

ただ一つ、フィンがわかるのは───

 

「(赤髪よりも格段に強い──ッ!!)」

 

 動きが洗練されているわけではない。見ただけでわかる有りえぬほどのステイタスに穢れた精霊すらも上回る可視化できてしまうほどまでに悍ましい漆黒の魔力。少なくとも魔力においてはアルすらも上回る怪物。

 

Lv.7すらも超えた絶望の化身がそこにはいた。

 

「········エ、イン·····か·····」

 

『無様ダナ、レヴィス。ダガ、マダオマエニハ死ンデモラッテハ困ル』

 

 何らかの魔道具によるものか、不鮮明な声色で喋り、死に体のレヴィスを抱える仮面の怪人に対してティオネはおろか、フィンですら動けない。動けば殺される、そんな確信があった。

 

『······アア、『勇者』。オマエ達ノ処分ハ私ノ仕事デハナイ。追ワヌトイウナラ、殺シハシナイ』

 

『··········クラネル、マサカレヴィス程度ニ追イ詰メラレルトハ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──────────────────────────────────────────────────────────────────

 

 

 

 

 

【アルの強さ】

実のところ、アルの素のステイタスはそこまでじゃないです。積み立てがあるのでアイズの四周り上くらいはあるんですがソロで慢心ゼロガチ装備レヴィスをベヒーモスの毒+心臓に穴で手玉に取れるほど突出してはないです。

 

アルのヤバさは技量、というか『恩恵』では数値化できない所にあるのでオッタルやアイズとはそもそもスキルツリーの仕組み自体違います(神の眷属がレベルアップで10ポイント、ならアルは偉業でAポイント、みたいな)。

 

エピメテウスやフィアナに恩恵与えてLv1になっても絶対ラウルより強いやん、ていう感じ(ベルと真逆で中身に器が追いついてない)。

 

アルから『恩恵』剥いだ場合、『精霊式恩恵』に切り替わってレベル自体が無くなるので単純なスペックは下がる。代わりに最適化されてない分、やれることが増える。

 

結論、アルは古代が一番輝く。

 

古代編(やるとしたら14章)のヒロインはエピメテウスと古代フィン、ラスボスはバロールでも黒竜でもなくアルゴノゥト。

 

 

 

【今回の戦いでのアルへのダメージ】

・ベヒーモスの大剣で心臓(肺とかも)貫通

・ベヒーモスの蝕毒

・治癒不全の呪い、魔封じの呪い

・全身穿かれて蜂の巣

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






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