皆の傷になって死にたい転生者がベルの兄で才禍の怪物なのは間違っている   作:マタタビネガー

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……………………めっちゃ間隔空いてすみませんでした。

以前にお伝えした重篤化したコロナ後遺症が悪化し、死の淵を彷徨ってました。今も真っ当な日常生活は送れてないです。 

峠は超えたはずなので前のような毎日投稿はまだキツイですが少しずつ頭を慣らしていくつもりです。



三十六話 超過剰戦力なベル・クラネル救助隊②

ステイタスの更新を受けてから数日。少し前に24階層で共闘した【ヘルメスファミリア】の団員に解毒薬調達の協力を強制させ、【ディアンケヒトファミリア】団長のアミッドの18階層への同行も取り付けたベートは【ディアンケヒトファミリア】にあるポイズンウェルミスの解毒剤をかき集めているアミッドが来るのを一足先に向かったダンジョンヘの入り口であるセントラルパークで待っていた。

 

第一級冒険者のベートとレベルこそ低いがその魔法ゆえに死ぬことがまずないアミッドの二人であれば18階層程度までならば半日もかからずに踏破できる。

 

本来、中層へのアタックは最低でも3,4人のパーティを組むことが前提とされているが、今回の場合は緊急を要するために主力が遠征に行っていてLv3以下しかいない【ロキファミリア】の者達は足手まといになるとベートとアミッドの二人で潜ることに決めていた。

 

「·····チッ、遅えな」

 

 或いは第一級冒険者以上に多忙を極める【ディアンケヒトファミリア】の柱とも言えるアミッドが急な同行依頼を請け負ってくれたのはベートからしても有り難いことであったが、それよりもベートの胸中を支配するのは焦りの感情だ。

 

ポイズンウェルミスに侵された団員たちはリヴェリアの魔法による遅滞があれば死にはしないだろう。問題は英雄殺しの病毒を受けたアルだ。いかに自身の付与魔法で抑えているとはいえ、ベートが18階層を出た時点で既に全身は腐って五感もろくに働いていない有様だった。

 

ポーションありきでも数日間も魔法を使い続けることはアルであっても困難だろう。ゆえに一刻でも早くアミッドを18階層へ連れて行きたかった。

 

「────あっ!! ロキんとこの狼人(ウェアウルフ)くん!! 丁度いいところに!!」

 

「あ?」

 

 苛立たしげに頭を掻いたベートに空気を読まずに声をかけたのはツインテールの黒髪をした少女神───ベートの弟子であるベルの主神のヘスティアであった。

 

「いやー、君がいるとはタイミングがいい!! 力を貸してくれ!!」

 

「いきなりなにおめでてぇこと言ってやがる。俺は忙しい、かまってる暇は───「ベル君が中層から帰ってこないんだ!!」────はぁ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ベートと会う少し前、ヘスティアは【ミアハファミリア】のホーム、『青の薬舗』にいた。

 

ヘスティアと神ミアハ、【ミアハファミリア】唯一の眷属であるナァーザ以外にこの場にいるのは、都市最大鍛冶派閥である【ヘファイストスファミリア】の主神ヘファイストス。そして頭髪を結った男神タケミカヅチと、その団員、【タケミカヅチファミリア】だった。

 

曰く、中層で仲間の一人が深手を負って危機に瀕した 【タケミカヅチ・ファミリア】 がベル達に怪物進呈を仕掛けたらしい。それを自らの眷属から聞いたタケミカヅチの謝罪に、ヘスティアは腕を組んで目を瞑り考え込む。

 

かわいい眷属を危険にさらしたことは到底許せるものではない。だが……。

 

ふぅ、と息を吐いて目を開くヘスティア。

 

そこにあるのはいつもの慈愛に満ちた女神の顔だ。蒼い瞳には怒りの色はなく、慈悲深い神の笑みがあった。

 

「ベル君達が戻ってこなかったら、君達のことを死ぬほど恨む、けれど憎みはしない。約束する」

 

 寛容な女神の答えに、毅然とした態度の女神の眼差し。ヘスティアは 【タケミカヅチ・ファミリア】 を許した上で嘆願する。

 

「今は、どうかボクに力を貸してくれないかい?」 「仰せのままに」

 

 ヘスティアからの申し出に団長である桜花も、他の団員も皆一様に頭を下げた。団員達の姿に満足げに微笑んだヘスティアは突然開いたホームの扉へと視線を向ける。物語に出てくる吟遊詩人のような恰好をした金髪の優男の登場にヘスティアは驚きの声を上げた。

 

「ヘルメス!!何しに来たんだ?!」

 

「ご挨拶だなぁ、タケミカヅチ。神友のピンチに駆け付けたに決まってるじゃないか」

 

 悪戯っぽく笑いかけてくる男神にヘスティアは頬を引きつらせる。帽子をくい、っと上げて挨拶をするヘルメスは軽薄そうな印象を与える美形。しかし、その瞳の奥には何かを隠しているような得体の知れない不気味さがある。爽やかに笑いかける姿とは裏腹にどこか胡散臭い雰囲気の男神であった。団長のアスフィは後ろから付き添うように静かに付いてきた。

 

「やぁ、ヘスティア。久しぶり」

 

「ヘルメス········?」

 

 そう言って近づいてくるヘルメスを見て、ヘスティアは怪訝な表情を浮かべた。ヘルメスは懐から取り出した一枚の紙をぴらぴらさせる。ヘスティアがギルドに出した冒険者依頼の依頼書だった。

 

「困っているんだろう?」

 

 ひらひらと、ヘスティアの眼前に突き出された羊皮紙の用紙。ヘスティアは言葉を詰まらせた。

 

「ヘスティアに協力したいというのは本当さ。オレも、ベル君を助けたいんだよ」

 

 胡散臭い笑みを張り付けながらも先ほどまでの騒がしい雰囲気とは打って変わって真剣な態度を見せるヘルメス。一転して真面目な顔つきになる彼に、ヘスティアも居住まいを正して向き直った。

 

「なんでベル君をヘルメス、君が?」

 

「俺の目で見定めたいのさ。当代最強の弟を、当代の新たな英雄候補を」

 

 その橙黄色の瞳は普段の安っぽい言動とはかけ離れた超越存在らしい非人間的な輝きに満ちていた。世界で二番目の速度でランクアップした新たな上級冒険者『兎狼』ベル・クラネルが『剣聖』の弟だという話は知る人ぞ知る話だ。

 

当代最強の弟であり、その片鱗を見せるベルはその血縁が知られれば確実に狙われる、零細ファミリアである【ヘスティアファミリア】がベルを守りきれぬと判断したギルドと·······【ロキファミリア】の主神ロキの指示でベルについての情報は不自然でない程度に隠されている。

 

しかし、当然ながら『神会』に参加していたヘルメスはそのことを知っている。彼の目には、ただの興味ではない別の感情が見え隠れしていた。ヘルメスの言葉の裏に隠された意図を探りながら、ヘスティアは口を開いた。

 

「どうかな、ヘスティア?」

 

「わかった·······お願いするよ、ヘルメス。ただし、ベル君に手は出させないよ」

 

「ああ、任されたよ」

 

 にやりと笑みを深めたヘルメスが了承すると、再び優男の雰囲気に戻っていた。アスフィは黙ってその様子を見守っていたが、やがて小さく嘆息する。

 

「ヘルメス様········先程、ベル・クラネルを見定めるとおっしゃっていましたが、まさか········」

 

「ああ、オレも同行する」

 

「えぇ……」

 

 アスフィの問いかけに対してあっさりと答えるヘルメスに、彼女はまたかと言わんばかりに額を押さえた。自身の主神の思いつきは大抵ろくでもない事だと身をもって知っていたからだ。そんな彼女を気にすることなく、ヘルメスは思案するように顎に指を当てて考え込む。

 

「神がダンジョンにもぐるのは、禁止事項ではないのですかっ」

 

「迂闊な真似をするのが不味い、っていうだけさ。なぁに、ギルドに気付かれない内に行って、さっさと帰ってくればいい。言っただろう? オレもベル君を助けたい、って」

 

「ヘルメス様、 まさか最初からそのつもりで私を·······!!」

 

「ははは、オレの護衛を頼んだぞ、アスフィ?」

 

 声を荒げるアスフィにヘルメスは悪びれもなく笑う。頬を引きつらせるアスフィに、ニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべてヘルメスは肩を組んできた。鬱陶しそうに振り払う彼女に構わず、ヘルメスは楽しそうに続けると耳聡くその密談を聞いていたヘスティアはヘルメスの首に勢いよくつかまる。

 

「ぐおっ!」

 

「ボクも連れてけ、ヘルメス!!」

 

 首を掴まれ苦しむヘルメスを無視して、ヘスティアは叫んだ。ぎょっとするアスフィ達だが、ヘスティアはお構いなしに有無を言わせない迫力で言葉を続ける。

 

「ボクもベル君を助けに行く。自分は何もしないまま、あの子のことを誰かに任せるなんてできない」

 

「ま、待ってくれ、ヘスティア!! 落ち着け!」

 

「そうです、神ヘスティア!!ダンジョンは危険です。「力」が使えない神達なんてモンスターに襲われれば一溜まりもありません!!」

 

 ヘルメスとアスフィが必死に説得するも、ヘスティアは頑として譲らない。説得するように語気を強める二人だったが、ヘスティアの決意は固かった。

 

「それでもヘルメスが行くなら、あと神の一柱や二柱増えたって問題ないだろう?」

 

「うッ········」

 

「ボクも付いていくぞ。いいね?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【豊穣の女主人】。店内ではせわしく店員達が動き回り、注文が飛び交っている。丸テーブルと椅子のセットが幾つも置かれており、冒険者らしき客達は思い思いに腰掛けて料理を楽しんでいる。見目麗しいエルフや獣人のウェイトレスが忙しく給仕する。厨房は激戦地のような有様だ。

 

ダンジョンから戻ってきた冒険者で賑わっている店内の中にアスフィを引き連れたヘルメスが現れた。顔に笑みを貼付けながら歩くヘルメスの後ろを、アスフィは無表情で歩いている。

 

「すまない、邪魔するよ」

 

 誰かを探すように店内を眺めていたヘルメスだったが、目的の人物を見つけたらしく歩み寄る。その人物は長い耳を持つエルフの女性、リュー・リオンだった。彼女は忙しそうに料理を運ぶ最中であり、突然歩み寄ってきたヘルメスを見て怪しげな視線を向けた。

 

「·······私に何か?」

 

「ああ、君に頼みがあるんだ、リューちゃん」

 

「引き受けてもらいたい冒険者依頼がある───『疾風』のリオンの力を貸してほしい」

 

 店の端で客達の耳に入らないよう小声で話すヘルメス。瞬間、一気に空気が張り詰める。店内にいるウェイトレス達の目がヘルメスに向けられ、リューの瞳には警戒の色が強く宿った。ルノアが、クロエが、店の全ての従業員達が殺気立つ。()()()()()()()()の使い手の殺気混じりの視線に、アスフィですら冷や汗を流さずにはいられないがヘルメスは涼しい顔をしている。

 

冒険者でない一般市民やレベル1の下級冒険者は店内にほとばしる殺気に気づかないのか、平然と食事を続けているが逆に実力者であるレベル2以上の上級冒険者は顔を蒼くして中には金を置いて逃げるように出て行く者もいるほどだ。そんな中、リューだけは冷静に口を開いた。

 

「········もはや、賞金首ではないとはいえど私はもう、表舞台に出るつもりはありません。先日はアルの補助として戦いに参加しましたが······」

 

 以前、ヘルメスつながりで24階層での戦いに参加したのは事実だが、便利屋扱いは困るとリュー自身、眉を吊り上げる。睨みつけるようなリューの視線に、ヘルメスは苦笑いを浮かべた。

 

「ベル君··········アル君の弟と、そのパーティの救助が目的なんだ」

 

「どういうことですか?」

 

 リューの顔色が変わり、声がより低くなる。ヘルメスはベル達の現状を簡潔に説明した。捜索隊にリューも加わってほしいという旨を伝えると、リューは思案するように目を細める。

 

「···········何故、私なのですか?」

 

「ダンジョンに入った経験なんてあるわけもない足手まとい二神を庇える実力者で、かつファミリアの縛りがない野良の冒険者の心当たりは、探しても君しかいなかった·········後は」

 

 空色の瞳を鋭く光らせるリューを前にして、ヘルメスはリューの背後、不安そうにこちらを見ている薄鈍色髪の少女を一べつすると言葉を紡いだ。

 

「君がアル君の戦友で·········シルちゃんの友達だから、かな?」

 

 リューはその言葉を聞き終えて沈黙する。彼女の後ろではシルが心配そうな表情でリューのことを見つめていた。しばらく考え込むように黙り込んでいたリューだったが、やがて小さくため息をつく。

 

ヘルメスは内心、「勝った」と薄く勝ち誇ったかのような意地の悪い笑みを浮かべたが、次の瞬間、店の奥から放たれた威圧感に思わず後ずさる。

 

「いいかげんにしな、アンタの持ってきた面倒事のせいでウチの娘が何日使いもんになんなかったと思ってんだい」

 

 奥からズシン、ズシンと歩み出てきたのは要塞のような重厚感すら感じられるドワーフの女傑、【豊穣の女主人】のオーナー、ミア・グランドだ。

 

元【フレイヤファミリア】団長である彼女の放つ苛立ちの念は直接向けられていないアスフィが膝を屈してしまいそうになるほどの重圧に満ちており、ヘルメスですら冷や汗を垂らしている。

 

引退して久しいがレベル6としてのステイタスは健在だ。そんな彼女が腕を組みながらヘルメスを睨んでいるのだ。そこらの冒険者ならばこの場で膝から崩れ落ちるだろう。

 

「ははは、いやいや、そんなつもりはないよ。··········出発は今夜の八時。よかったら来てくれ、待っているよ」

 

 ミアから逃げるように店から出る去り際、リューの耳もとにヘルメスは囁いた。

 

「············ねぇ、リュー」

 

「シル······」

 

 アスフィを連れて店を出たヘルメスの背中を迷いを帯びた鋭い目で追っていたリューのもとに、顔を蒼くしたシルが申し訳なさそうに目を合わせてきた。

 

「ごめん、リュー。ベルさんを助けて」

 

「シルには恩がある、貴方の頼みを断れるわけがありません。それに私も、アルの弟には死んでほしくない」

 

 シルの薄鈍色の瞳の奥には深い不安の色があり、それが何を意味しているのか分からないリューではない。

 

リューの言葉にシルはホッとした様子で胸を撫で下ろし、しかしすぐに真剣な眼差しでリューにごめんね、と呟いて頭を下げた。

 

そんな二人のやり取りを見守るように眺めていたクロエ達はふぅっと息を吐きつつ、笑みを浮かべて二人のもとへ集う。

 

「はぁ·······あのヘルメス様の思う壷っていうのが癪だけど·······ま、しょうがないか」

 

「ニュフフフフフ、リューよ、少年にたっぷり貸しを作っていってたっぷりと恩賞をせしめてくるのニャ」

 

 呆れ気味な笑みを浮かべるルノア、ぐふぐふと下品な笑い声をあげるクロエ、そして他のウェイトレス達も応援するかのように声をかける。

 

「──ったく、行くつもりかい」

 

「·········すみません、ミア母さん」

 

「次、怪我して帰ってきたら承知しないからね、バカ娘」

 

「·········はいっ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

リューがダンジョンに潜る支度をするために早めに上がり、店自体もいつもより早く閉めた【豊穣の女主人】の裏口から薄鈍色の髪をした少女が出てきて隣り合う家屋の屋根の上へ向かって話しかける。

 

「ねぇ、いるんでしょう。·······アレンさん」

 

「─────何でしょうか、シル様」

 

 なにもないはずの暗闇に話しかける少女の声に音もなく屋根から降り立ったのは黒と灰色の頭髪をした160cm程の小柄な猫人。全身を闇に溶け込むような黒い衣服で包んでおり、その所作には一切の無駄がない。一見、華奢にも見える細身だが鍛え抜かれた鋼のような肉体を持つ冒険者だ。

 

「あ、やっぱりいると思ってたんですよ。さっきのお話は聞いてましたよね?」

 

「アレンさんもベルさんを助けに──」

 

「お断りします」

 

 ひどく整った猫人の顔に苛立たしげな表情が浮かび、少女の言葉を断ち切る。 

 

「俺の役目はあくまでもシル様、貴女の護衛兼見張りです」

 

「なぜ、俺が兎如きの尻拭いに向かわなければならないんですか」

 

 上位者への口調こそ崩さないものの、オラリオの第一級冒険者の中でも指折りの実力者であるアレンはシルを睨むように告げる。しかしシルは全く怯むことなく、それどころか嬉しそうに微笑む。

 

「·····第一、兎が怪物進呈を受けたのは中層でしょう。なら、俺が出るまでもねぇ。『疾風』(あの女)一人で事足りる」

 

 アレンの言っていることに間違いはない。本来、中層の適正レベルは2、Lv4のリューはもちろんのこと、お荷物ありの救援とはいえLv6であるアレンは過剰戦力にもほどがある。

 

 

「えー、じゃあしょうがないですねー。それじゃオッタルさんに頼みましょうかねー」

 

「チッ、くだらねぇ········なぜ、貴女があの兎に執着するのかは知りませんし知りたくもないですが、最近の貴女の行動は少しばかり目に余ります」

 

 アレンにとって忌々しい『壁』であるオッタルの名前が出て、舌打ちすらして口調が平時のそれに戻りつつあるアレン。

 

だが────

 

「なぜ、俺かオッタルが向かう必要が?」

 

 純粋な疑問。

 

本当に過剰戦力がすぎるのだ、ベルの近くに手の者をおいておくならば目立つ第一級冒険者のアレンである必要はなく【フレイヤファミリア】に幾人もいる第二級冒険者たちでも中層ならば踏破は容易い。

 

()()()()()()······そんな気がするの」

 

「それは····予言か何かで?」

 

「ううん。女の勘、かな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





出席日数がやベェ………

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