皆の傷になって死にたい転生者がベルの兄で才禍の怪物なのは間違っている   作:マタタビネガー

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書籍アストレア・レコードで闇派閥の精神破綻エルフ(7年前の時点でLv5)とかいう好き好き要素てんこ盛りなキャラが出てきてビビった。




四十三話 ほら、レヴィスちゃんと一緒に殺しに来いよ、もうお前だけが頼りなんだよ…………!!

 

 

 

 

 

地上への螺旋階段を上がってゆく。【ロキ・ファミリア】の面々がひさしぶりの地上に出ると紅い夕焼け空が広がっていた。半月ぶりの地上に感慨を覚え、風を浴びるアイズ達。

 

「夕焼け········」

 

「遠征の帰りは、いつ見ても眩しいわね」

 

 死線を乗り越えて生還した冒険者の目にひさしぶりの太陽はとてもまぶしく映った。ティオネも目を細めて黄昏れ、真っ赤な西日に染まる都市を見てレフィーヤは感動に浸って涙ぐんでいた。

 

いつも見ていたはずの景色なのにどこか違って見え、斜陽に照らされるオラリオの街並みに心を奪われる彼女達。バベルの下の中央広場まで歩くと後続隊のガレスたちが来るまで少し待つことになった。おおよそ三十分後に到着した彼らと合流した【ロキ・ファミリア】の一行は周囲からの視線を一斉に浴びることになった。

 

オラリオの外にまでその勇名を轟かせる都市最大派閥であり、主神であるロキの趣向もあって美男美女ばかりで構成された【ロキ・ファミリア】の団員達は男女問わず人目を引く存在だ。英雄譚に登場する勇者のような容姿をした団長フィンを筆頭に、エルフの王族として女神にも勝る美貌を持つリヴェリアなど都市中の憧れを一身に集める存在である彼らが帰還するとなれば注目が集まるのも当然のことだった。

 

────都市最高の戦力と美形ぞろいの眷属を揃えた都市()()派閥である【フレイヤ・ファミリア】の場合はそこに怖いもの見たさも含まれてしまうのだが…………。

 

それはともかく、都市最強の冒険者集団は周囲の視線には慣れているのか気にせず中央広場の噴水前に移動した。そして全員が揃ったところでフィンが口を開く。

 

「ベートはまだ、18階層に?」

 

「ああ、何でも『野暮用』ができたそうだ」

 

 フィンの問いにリヴェリアが答える。ベートが弟子であるベル達と18階層にとどまっており、後続隊と彼等が一緒に帰還してこなかったことを少し心配に思いつつもベートであれば問題ないだろうと納得する。

 

メインストリートから伸びるいくつにも分かれた道を進む。大通りでは多くの商店や屋台が立ち並び、夕食時ということもあり様々な料理の良い香りが鼻腔をくすぐる。道行く人々はそんな賑やかな光景の中を行き交い、爛漫とした声が絶えない。

 

少なくない戦利品を積んだカーゴ車を引きながら大通りを凱旋するアイズ達に一般市民の誰もが目を奪われていた。夕暮れ時の大通りを歩く見目麗しい冒険者たちは多くの人々の心を惹きつけて止まず、彼女たちの美しさに思わず見惚れてしまう者もいれば、大きな歓声を上げる者もいた。

 

市民たちの反応に対してティオネは興味無さそうにしつつも嬉しそうな表情を浮かべており、ティオナは楽しげに手を振り返す。ガレスやリヴェリアも手を振ったりしてファンサービスに努める程度だったがレフィーヤなどは顔を赤くしてややうつむき加減で歩いていた。注目されることに未だ慣れていない彼女は気恥ずかしさに頬を染めて、時折ちらりと周囲を窺うように顔を上げてはまたすぐに俯くという動作を繰り返している。

 

そんな一行の中でも一際、視線を集めているのはアイズとアルであった。長い金色の髪に透けるような白い肌、整った顔立ちに華奢な肢体、まさに精霊のように可憐な少女と雪のように白い髪に血のように紅い瞳の青年の姿は多くの人々の注目を集めずにはいられない。二人を見かけた人々は男女を問わず足を止めてその美しい姿に見入ってしまう。

 

だが、当人達はまったく意に介していないのか周囲の様子を気にせずに歩き続ける。特にアルはいつも通りの涼し気な態度であり、アイズも普段通りだった。やがて大通りを抜け、北の区画へ抜ける路地へと入る。そこから更に進むと尖塔がいくつも重なって見える邸宅が見えてきた。

 

「やっと帰ってきた········」

 

 他でもない【ロキ・ファミリア】の拠点である屋敷を前にティオナが安堵の声を漏らす。ようやく帰って来たのだという実感を得て、ティオネたちもほっと息をつく。周りの建物に比べてもひと回り以上大きい館、『黄昏の館』の前でティオネたちは足を止める。

 

「今、帰った。門を開けてくれ」

 

 居残り組の門番である男女二人に話しかけると彼らは破顔しながら敬礼をして正門の扉を開ける。

 

「────お帰りぃいいいいぃいいいいぃいいっ!!」

 

 門が開いた瞬間、その向こう側から飛び出してくる人影があった。その人物は勢いよく飛びつくようにして男性陣には目をくれずに女性陣を抱き締めようとまっしぐらに突っ込んでくる。

 

「みんな大丈夫やったかーっ!! 感動の再会やぁッ!! うおおおおおおおおお!!」

 

 朱色の髪の女神、ロキはその勢いのまま跳んで抱きつこうとしたが、アイズ、ティオナ、ティオネ、リヴェリアはそれをひらりとかわし、レフィーヤは驚きながらもなんとか受け止めてそのまま流れるように投げ飛ばす。

 

「はぁ·······つ、強くなったなぁ、レフィーヤぁ。 見違えたでぇ········」

 

 そのまま地面に激突したロキはのたうち回るように転がり、涙目になりながら起き上がる。【ロキ・ファミリア】の主神である彼女はエロ親父のような性格をしており、眷属達──おもに女性陣──とのスキンシップを何より大切にしているのだ。だからこうしてたまに暴走してしまう。

 

そんな彼女に対してアイズ達は慣れた様子で軽くあしらう。これが【ロキ・ファミリア】の日常風景でもあった。

 

「ロキ、今回も犠牲者はなしだ。 収穫もあった。積もる話は色々あるけれど·······そのまま聞くかい?」

 

 フィンが苦笑しつつ問いかける。

 

「んんぅー、そうやなぁ······。じゃあ、まずは!!」

 

「溜まっとる問題は山ほどあるんやけど、取りあえず、今は········」

 

 そこで言葉を区切った彼女はニカッと笑い、両手を広げる。フィン、リヴェリア、ガレス、アイズ、ティオナ、ティオネ、レフィーヤ、ラウル達の顔を見回す。

 

「おかえりぃ、みんな」

 

 居残り組の面々も諸手を上げる。そんな彼女らに、アイズたちもまた笑顔で返した。

 

「ただいま」

 

 

 

 

 

 

 

「────ところで、アルはどこいるん?」

 

「え?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「······良かったのか? 館へ帰らずに?」

 

「あのまま帰ったら【ディアンケヒトファミリア】行きは確実だからな」

 

 館へ帰る一団から無駄に高い隱密技術を用いて誰にも気づかれずに離れたアルと【ロキファミリア】と同じくして地上へ戻ったフィルヴィスの二人は夕暮れに染まる路地裏を歩いていた。紅い空が藍色に変わりつつある中、ひさしぶりに見る地上の光景を見回しながら歩くアルにフィルヴィスが問いかけたのだ。その問いに苦笑するアルにフィルヴィスは少しだけ意外そうな表情を浮かべるも、すぐにいつもの不機嫌そうな無表情に戻る。

 

壁に寄りかかって「後でリヴェリアに大目玉を食らうだろうが、俺はアミッドの方が怖い」とつぶやくアルはアルの視界から逃れようとするフィルヴィスの退路を塞ぐように立ち止まる。

 

「何か、俺に話があったんだろう? テントでは結局、話さずに逃げたが」

 

「いや、逃げたわけじゃ·········」

 

 レフィーヤと共に見舞い?に来た際は挨拶して早々逃げ出し、遠征から帰る一団に同行していたフィルヴィスはアル以外ですら気づくほどに帰宅中、アルばかりをチラチラと見ていて落ち着きがなかった。ダンジョン内でそれを問い詰めるわけにもいかず、地上に戻ってすぐにフィルヴィスを連行したのだ。

 

「なんか聞きたげだったが、何が聞きたいんだ?」

 

「········お前は死ぬのが怖くないのか?」

 

 そして今に至るのだが、どうも歯切れの悪いフィルヴィスにアルは溜息をつく。そんなアルを見てビクリと震えるフィルヴィスだが、意を決したように口を開いた。

 

俯いていた顔を上げ、アルと同じ色の瞳を持ったエルフの顔はアルに対する引け目のようなものに覆われている。何を急に、と目を丸くするアルに胸ぐらをつかみそうなほどの剣幕でフィルヴィスは迫る。

 

「前から、前からそうだお前はッ!! 『死妖精』と言われる私と軽々しくパーティを組んだかと思えばなんなんだ?! あの戦い方はッ!!」

 

「パーティを組んだばかりの私を平気で庇う、負傷したパーティを逃がすために階層主に一人で突貫する、両手がグシャグシャになっても眉をひそめるだけッ!!」

 

「お前、頭おかしいんじゃないのかッ??!!」

 

 フィルヴィスだけでなく、【ロキファミリア】の幹部陣大多数が抱いている気持ち。たしかに、死を恐れずに戦える冒険者はいる。むしろ、死を前に恐怖を切り離すのは優れた冒険者の資質とさえ言えるかもしれない。

 

アイズやヒリュテ姉妹などがその代表例だろう。だが、アルのそれは常軌を逸している。時として冒険者は自らの命を天秤に乗せることはあるが、それにしても限度があるはずなのだ。しかし、目の前の男はそれを全く気にしていない。まるでそれが当然であるかのように命を賭けて戦う。

 

眷属の中で最も才能に愛され、数多の屍の山を築き上げてきた様から当時十二歳という幼さでありながら神々より『剣鬼』という二つ名を与えられたアルが潜り抜けてきた死線は他の冒険者の比ではないはずだ。

 

強化種、闇派閥、都市最強、階層主、古代の神獣。いかなる危機を前にしても一切揺るがない戦意と、それを支える異常なまでの胆力。自罰的とすら言える戦いに身を置く姿は死に急いでいるとしか言えない。

 

フィルヴィスにはアルの考えていることが分からなかった。なぜそこまで出来るのか、恐れを感じていないのか、それどころか自ら進んで死地へと飛び込んでいくような戦い方が出来るのか。

 

理解出来なかった。

 

一年ほどパーティを組み、あるいはアイズ達以上にアルの戦いを見てきたフィルヴィスであるからこそ余計に分からないのだ。

 

「今回もッ!!·········ああ、今回もそうだ、胸に大穴を開けられてリヴェリア様の魔法ですらどうしようもできない猛毒を流し込まれたんだろう。いくら助かったとはいえ、なぜそこまで平然としていられる?! なぜ、戦い続けるんだ?!」

 

 悲痛に顔を歪めながら叫ぶその目には涙すら浮かんでいた。まるで糾弾と自らの罪の告白を同時に行っているかのような様だ。アルは何も言わず、ただ黙って聞いていた。普段の態度からは想像出来ないほどに感情的なフィルヴィスの姿はどこか危うげで脆く見える。

 

 「どうして、戦うのをやめてくれないんだ······」

 

 嘆願しているようにも見える彼女は「そうすれば、私は······」と呟いてからハッとしたように乱暴に顔を拭って、静止するアルを振り切って走り去る。

 

 

 

 

「······『剣姫』、なのか? お前が戦う理由は?」

 

 追おうと思えばそのステイタスの差から確実に追いつけるアルだったが、去り際のそんな言葉に驚いたかのようにそこから動かなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヒャッッハアアァァ──!! がまんできねェ!! 曇らせだァァッ!!

 

いつでもどこでもこんな簡単に曇ってくれるとか…………マジ最高っすわ! !

 

59階層での失敗で負った心の傷が癒えていくぅ…………。

 

あー、にしてもあの剣幕のまま『私の正体は怪人なんだッ!!』とか言い出すんじゃないかってヒヤヒヤしたぜェ!!

 

そら、いつかはネタバラシしてもらうけど、今じゃないよな。今、戦っても分身状態じゃあ殺す、殺される以前の問題だしな。

 

で、死ぬのが怖くないのか、だって?

 

いや······そのために強くなったというか、俺の行動原理の全てはそこに集約すると言いますか·······。

 

毒食らったって言ってもその場で死ななかった時点で『ああ、どうせ死なないんでしょ。アミッドさんマジ困る』って察してたし······。

 

お前が派手に殺してくれたら戦うの止めるよ? ほら、レヴィスちゃんと一緒に殺しに来いよ、もうお前だけが頼りなんだよ············!!

 

 

 

 

 

·········え? アイズ?

 

なわけ無いじゃん、何言ってんの?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 







フィルヴィス「······『剣姫』、なのか? 」

アル「(*´Д`)ハァハァ………え?なんて?」


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