皆の傷になって死にたい転生者がベルの兄で才禍の怪物なのは間違っている   作:マタタビネガー

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シリアスベル編最終回です。


四十六話 えっ、ゴライアス、今くる? 空気読めよ·······。

 

大鐘楼によって増強された魔剣の刃から焔が噴き出した。その凄まじいまでの熱量に冒険者たちが瞠目し、悲鳴にも近い声をあげる。

 

そして吹き荒れる炎嵐の一閃が漆黒の閃光と衝突する。大鐘楼の音による強化によって、さらに威力を増した一撃がアステリオスの攻撃を押し返す。 

 

魔剣を覆う白布が焼け落ち、炎を凝縮したかのような紅蓮の輝きが溢れ出す。飾り気のない無骨な刀身に煌々とした白光の粒子が再び収束していく。

 

「あ、あああああぁ────!!」

 

 ベル・クラネルは叫ぶ。己の力を振り絞りながら限界を超えて意識が飛びそうになる中、ベルは渾身の力を込めて押しこむ。

 

灼熱を帯びた衝撃が大地を砕いた。

 

大気が震え、空間そのものが軋みをあげる。ベルとアステリオスの間に途方もない力がぶつかり合う。

 

しかし、それでもなお拮抗していた力はやがて傾き始める。徐々に押し返され始めたベルは奥歯を噛み締めて全力で抗うものの、ベルでなく全ての火焔を吐き出し尽くした魔剣が限界を迎えてしまう。

 

限界を超えた魔剣の刀身にバキバキッ、と亀裂が入る。

 

そして──── ────パキンッ……! 澄んだ音色とともに砕け散り、破片となって宙を舞った。

 

たった、一度の行使に全てを費やし、完全に自壊した魔剣による一撃が猛牛の奥義によって喰い破られる。

 

「───ぐっ、あぁッ!」

  

 衝撃の余波に耐えきれず、ベルは吹き飛ばされ宙を舞う。全身を襲う激痛と呼吸ができないほどの衝撃を受けて意識が薄れかける中、口から血を吐きながら天高く舞い上がる。

 

浮遊感を感じつつ落下していき、砕け散った魔剣の紅い破片とともに地面に叩きつけられる。

 

「があッ!?」

 

 大地に叩きつけらた衝撃により肺の中の空気が全て抜けて咳き込むことすらできない。背骨が折れたのではないかと思うほどの痛みが電撃のように走り抜ける。

 

血液の塊が器官に入り込み息苦しさに悶えるも、身体を動かすことさえままならない。

 

ダンジョンの床へ激突したことで粉塵を巻き上げているその場所には血溜まりができており、その中に沈むように倒れ伏す。

 

霞む視界の中で、ベルは必死になって手を伸ばす。ランクアップを果たしていなければ間違いなく即死していだろうが、何とか意識だけは保ち続ける。

 

仰向くベルの瞳に映るのは、亀裂の入った天蓋の水晶から差す月明かりのような淡い光。霞む視界の中、ゆっくりと歩み寄ってくる巨影が見えた。

 

アステリオスは大剣の刃先を身体を支えるための杖のように床へつけていた。その身体は或いは、ベル以上に満身創痍と言えるものであり、全身は魔剣の一撃によって焼け焦げ、剣を握っていない方の腕は炭化すらしている。全身を唐竹に深く抉った傷から滴る血すらも燃え尽きた有様。

 

だが、立っていた。

 

勝敗は決した、少年は倒れ、怪物が立つ。その事実に冒険者達が顔を歪めた。

 

「ベル········」

 

 人の言葉で呟かれた言葉は怪物の咆哮ではなく、確かにベルの耳に届いていた。勝者のように雄叫びを上げることもなく、敗者を見下ろすわけでもない。その眼差しは、ただ静謐だった。

 

静かにたたずむアステリオスの足下に倒れるベルは、その姿を見上げる。

 

「これで、一勝一敗·······」

 

「次だ」

 

 片腕がボロ炭と化し、全身に深い火傷を刻みながらも、アステリオスの言葉に一切の揺るぎはなかった。

 

猛牛の戦士としての在り方、その信念を体現するかのような宣言。

 

「次こそ決着を」

 

「·······うん、きっと」

 

 ベルはその言葉に僅かな賞賛と安堵、何よりも悔しさを噛み締めながら頷き、それを最後に気絶する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お、おいッ、ありゃなんだ?!」

 

 少年と怪物の戦いを見届けた冒険者は頭上を見上げ、驚愕の声をあげた。階層の天蓋に無数の亀裂が走っていたのだ。それは瞬く間に広がっていき、やがてバラバラと崩れ落ちていく。

 

降り注ぐ巨大な瓦礫の雨。既にアステリオスによって砕かれた青水晶の奥から覗かせるのは、産道を通る赤子のように脈動する闇色の胎動。

 

バキリ、と硬い何かが割れるような音が響く。ダンジョンの天蓋を突き破り、漆黒の輝きを放つなにかが亀裂の中から這い出ようとしていた。

 

先のアステリオスのように落下したその人型は極めて巨大であった。

 

巨人、と評するのがもっともわかりやすいその威容は『本来』の灰褐色の外皮をアステリオスと同じ漆黒のものへと変え、その体躯も二周りは大きくなっている。

 

漆黒の巨人は立ち上がると、その全貌を露わにする。歪な人型をした漆黒の外皮、その表面には血管に似た黒い線が浮かんで脈打っている。

 

殺意に濡れた紅い双眸がギョロリと見開かれ、その視線が矮小な冒険者達に向けられる。

 

「黒い、ゴライアス········?」

 

 階層主────迷宮の孤王ゴライアス。『本来』の認定レベルは中層では間違いなく最強のレベル4。下層のモンスターをも軽く凌駕する剛力と耐久、なによりもその巨体故のタフネスは上級魔道士の砲撃ですら耐え抜くほど。

 

「おい、おいおいおいおい───ッ!! 巫山戯んじゃねぇぞ?! ゴライアス、ゴライアスだとぉッ!!」

 

 リヴィラの冒険者総出でやっと倒せる階層主の誕生に冒険者たちの顔が青褪める。もとよりアステリオスとの戦いで主戦力であった第一級、第二級の者達は全てを使い果たしており、唯一戦闘能力をかろうじて残しているのはアスフィくらいだ。

 

あるいはこれが通常のゴライアスであれば残る戦力でもどうにか撃退ぐらいはできたかもしれない。

 

だが、危機感知に秀でる冒険者達は感じ取っていた。咆哮をあげる黒き階層主が放つ威圧は通常のそれとは比較にならない。

 

「···········ウダイオス、よりかはマシだろうがよ」

 

 深層の階層主に準ずるだけのポテンシャルを見抜いたベートは血を吐きながら悪態をつく。

 

このゴライアスこそが力を使い果たした強き冒険者達も、忌々しき神々も、自らの支配から脱却した猛牛も、一緒くたに粉砕するためにダンジョンがよこした神殺のモンスター。

 

その認定レベルは5·····以上。陸地でのアンフィスバエナを凌駕するそのポテンシャルは第一級以上であり、現状の戦力ではどうやっても打ち倒せるものではない。 

 

本来であればベート、アレン、アステリオスの三人のいずれか一人で打倒し得るが、その三人はいずれも死に体。意識を失っていないのが可笑しいほどの深手を負った三人に戦闘能力はもはやない。

 

絶望的な状況に冒険者達が顔を歪めていると、ゴライアスの視線がベル達へ向けられる。先の戦いを見て、ベル達に戦う力が残っていないことを見抜いているのか、その紅い瞳には嘲笑の色が映っているようにも見える。

 

「ク、ソが───」

 

 まさに漁夫の利。ダンジョンの狡猾さが全てを費やし、倒れ伏す戦士たちを死に追いやる。

 

『────ッ』

 

 ベートも、アレンも、アステリオスも限界は既に超えた、今にも崩れ落ちてもおかしくない身体を奮い立たせて武器を振るおうにも心に身体がついていかない。

 

ここまで来て、敵も味方も全滅する。

 

それを理解したリヴィラの冒険者達は誰が言うわけでもなく動き出す────アレン達を逃がすために。

 

「········おい、テメェら、何やってやがる」

 

 第一級冒険者の限界を超えた勇姿、自分たちよりも遥かに若輩であるはずの少年が見せた「冒険」。結局、何もできずに見ていただけの自分達が逃げるわけにはいかないと。

 

英雄が、少年が、怪物がやってみせたように今度は自分達が「冒険」をするのだと決起する。無論、勝てるわけがない。それは皆が理解していた、リソースを使い果たした彼等にできるのはアレン達を逃がすまでの時間稼ぎが精々。

 

いや、瓦礫で道が塞がれている以上はそれすらも無理かもしれない。だが、皆で逃げ出したとしても結果は同じ。僅かでも可能性があるのなら、自分たちとは違う本物の冒険者達を生かすために戦ってみせる。

 

「へっ、牛野郎よりはマシだろうよ」

 

 一人、また一人と立ち上がって一人は剣を構え、一人は詠唱を始める。ベルを、アレンを、ベートを、リューを限界を越えて戦った、自分達を助けた冒険者を今度は自分達が助けるために。

 

『ガア、アアアアアアォアアアアア───ッ!!』

 

 そんな冒険者達の決起を嘲笑うかのように破鐘の咆哮を上げたゴライアスは────────背後から飛来した漆黒の斬撃によって両断された

 

両断。ちょっとした地上の建造物よりも巨大な体躯と上級冒険者の全身鎧にも匹敵する漆黒の外皮が冗談のように黒き光の粒子を帯びた斬撃によって分割される。

 

『────、』

 

 あまりの光景に目を瞑った冒険者達がおそるおそる目を開けると、そこには、右腕と、上半身を失った巨人の体が立っていた。地面に落ちた左腕と下半身が、彫像のようにその場で静止している。

 

上半身ごと魔石を失った体は、溶けるように姿を消した。 さあ、と死骸の一部が宙を舞う中、大量の灰の上にドロップアイテム『ゴライアスの硬皮』が残される。

 

悲鳴すら上げずに灰と化した巨人の姿に先程まで猛っていた冒険者達が目を丸くし、アスフィやアレンですら目を疑う光景に唯一人、ベートが溜息を吐く。

 

「·······なんで戻ってきてんだ」

 

 ベルの純白の光と相反するかのような漆黒の光を帯びた斬撃に、微かに聞こえた『鐘』の音色。何度もその『スキル』を見てきたベートにはその一撃が誰によるものなのかすぐにわかった。

 

「お前、死にかけてただろうが───アル」

 

 ベートの視界の先には大剣を担ぐアル・クラネルの姿があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フィルヴィスに逃げられたアルは今度は自分がアミッドから逃れるためにダンジョンにもぐっていた。

 

今の今までダンジョンにいて、更には死にかけたにもかかわらずダンジョンへ逃げるとは考えないだろうと、端正な顔に青筋を立てた聖女からステイタスに物言わせて逃げてき……振りきってきたのだ。

 

『───助かるが、いいのか?』

 

「ああ、もう完治してるしな」

 

 そんなアルが通信魔道具を通して会話しているのはギルドの創設神であるウラノスの腹心、フェルズ。ダンジョン中に、監視の目をおいているフェルズは18階層で起きたイレギュラーとそれを見越したかのように再度ダンジョンに潜ったアルの存在を発見し、その調査を頼んだ。

 

『病み上がりの君に頼むのは心苦しいがあの猛牛········ダンジョンの意思を跳ね除けた異端児はどう見積もってもLv6以上だ。君でないと任せられない』

 

 冒険者達を容易く蹴散らすアステリオスを見て、アルでないと対処できないと判断したフェルズはアルに頼らざるをえなかった。

 

「構わない、ベルの邪魔をするつもりはないけどな·····」

 

『?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

·········アステリオスじゃん。

 

なんでアステリオスいんの? なんでゴライアスじゃないの? 生まれるタイミング今だったの?

 

·····いや、まあベートとアレンがいる以上はゴライアスじゃあ瞬殺だろうけど。

 

それにアステリオスの持ってる剣、俺の【バルムンク】にそっくりだし、いろいろおかしいよなぁ······。

 

·········てか、ベルってLv2だよね?

 

ヤバくなったら横槍入れるつもりだったけど、既にボロボロとはいえなんでアステリオスと戦えてるんだよ······。

 

········いいなあ、ベルは簡単に格上と戦えて、羨ましいわ。

 

まあ、真ヒロインとの逢瀬を邪魔するつもりはないし、気配消して見てるか。

 

 

 

 

えっ、ゴライアス、今くる? 空気読めよ·······。

 

 

 

 

 

 

 

 

──────完成された『英雄の一撃』によって階層主「ゴライアス」が撃破されてから他ならぬアルによって治療を受けたベル達は地上へと無事に帰還することができた。

 

階層主以上のイレギュラーとして誕生した推定レベル7の雄牛形モンスターはアルがゴライアスが撃破された後に現れた怪獣の骨のようなモンスターの対処をしている間に逃走し、ギルドによって弩級の賞金首として認定されることとなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【アステリオス】

早生まれの真ヒロイン。漆黒のモンスター✕異端児とかいうイレギュラー。原作よりスペックは高い。

・漆黒のモンスター補正(再生能力)

・第一等級相当の大剣

・ベート&アレン+αにより瀕死手前

 

【ベル】

・ベートにより技量アップ

・クロッゾの魔剣✕大鐘楼

・レベルが1低い

 

【アレン】

・やや強化

・顔見せ章

 

【漆黒のゴライアス】

・馬に蹴られた

 

【ジャガーノート】

・画面外で馬に蹴られた

 

【馬】

「レベル2で6以上の相手と戦えるなんていいなぁ」

 

 

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