皆の傷になって死にたい転生者がベルの兄で才禍の怪物なのは間違っている 作:マタタビネガー
アストレアレコードが書籍化したので一話をその情報込みで改訂させてもらいました。
また、加筆が一万超えちゃったので二話に分けました。
次話投稿したら目次での一話〜四話の順番揃えます。
一章〜三章完結記念間話 偽善蠢動・前
「お前の正義は自己犠牲ならぬ自己満足、自らの死すら愉楽のために掃き捨てる究極の破滅願望」
「だが、お前の悲願が叶うことはありえない」
「原初の幽冥にして地下世界の神、『英雄』に斃されるべき『絶対悪』たるこの俺が宣告しよう」
「────強き者よ、汝の末路は『英雄』なり」
下界の悲願『三大冒険者依頼』の最後の一つ、『隻眼の黒竜』に当時最強であった男神と女神が率いる【ゼウスファミリア】と【ヘラファミリア】が破れた───それが『暗黒期』が始まったときだった。
大地に穿たれた大穴。それより産まれたモンスターによって積み重なった三千年に渡る悲劇の精算、その第一歩目こそが『三大冒険者依頼』の遂行。すなわち、『陸の王者』ベヒーモス、『海の覇王』リヴァイアサン───そして、『隻眼の黒竜』ジズの討伐。
太古の昔に大穴から出でた三つの大災厄、オラリオの冒険者たちがいずれ達成しなけれればいけない原初の約定でありながらその強さゆえ、千年もの間放置され続けた黒き終末。
だが、それを今こそ討伐しようと立ち上がった者たちがいた。それこそが千年の成果にして神時代の象徴、【ゼウスファミリア】と【ヘラファミリア】。
神々に認められし最強の集団は前人未踏の領域の階位に至った『英傑』と『女帝』、Lv8とLv9の団長達によってそれぞれが率いられ、更にその軍下にはLv7の英雄が幾人もいた。
まさに最強、まさに無敵、下界全土の悲願を達成するに足る英雄旅団、神々の全てが英雄たちの勝利を疑っていなかった。そして、成し遂げた。『静寂』の鐘の音が海の覇王リヴァイアサンを打ち砕き、『暴喰』の牙が陸の王者ベヒーモスを平らげた。
下界の住民は歓喜した、俺達の、私達の、千年は無駄ではなかった。自分達の英雄は世界を救えるのだと──!!
神々も確信した、下界の可能性、その結晶とも言える最強達であれば真に『救世』を成し遂げられる、と。
残るはただ一つ、絶望の化身たる黒き巨竜。突如として現れて全てを蹂躙したモンスターの王。あと少し、あと少しで人類は再び救われるのだ! あの者達ならばきっとやってくれるはずだ、必ず成し遂げてくれるはずだ。そう、誰もが信じていた。
────だが、敗れた。
人々の願いを、神々の予想を裏切って最強の集団はたった一匹の竜に敗北した。
間違いなく史上最強を誇った英雄達が敗れるなどありえないはずだった。なのに、なのにどうして? 答えは単純明快、ただ単純にして最大の問題。
竜は、強すぎたのだ。
あまりにも強く、あまりに異質だった。最強の称号をほしいままにした英傑は、最強の軍団はその力を踏み躙られ壊滅し、残った男神の団長も瀕死の重傷を負ってその力の大部分を失った。
幾多の試練を乗り越え、数多の偉業を成し遂げた彼ら彼女らならばきっとやってくれると、誰もがそう信じていた。··············だからこそ、これは予想外だった。
その敗北によって力を失った男神と女神の地位を奪おうとした【ロキファミリア】と【フレイヤファミリア】の計略により、生き残った眷属たちは都市から追放され、今代の英雄達は消えた。
都市オラリオ。モンスターを吐き出す穴たるダンジョンを封じる蓋であり、モンスターを倒すことで生計をたてる者たち──冒険者の住まう、英雄の都も最強を失い、零落した。
二つの最強、究極の抑止力を失った世界。それより始まったのはまさに『暗黒期』、あらゆる悪が、邪悪が、巨悪が世界を覆った。
オラリオ北の区画、メインストリートに面したリュー達のホーム『星屑の庭』。大派閥の立派な館の大きさとは比べ物にならないながらもその白い外観は清潔感と品格を感じさせる。
「─────ふふっ、貴方達の愉快なやり取りはいつ見ても見ていて飽きないけれど······。さて、始めましょうか。今回はどうだったの、アリーゼ?」
「はいっ、アストレア様!! 」
戦いから無事に帰ってきた眷属たちを迎えたのは艷やかな胡桃色の髪に白磁のような肌を持つ美しい一柱の女神だった。
その蒼玉が如き瞳には深い慈愛と人ならざる超越存在がゆえの叡智が秘められている。
貞淑にして聡明。そして慈悲深い正義の神、アストレア、新参でありながら第一級冒険者を有する新星ファミリアである【アストレア・ファミリア】の主神である。
「工場は燃えてしまいましたけど、一般人の被害はゼロ!! 勿論、私達冒険者も!!」
いっぺんの曇りもない生命力に満ち溢れた瞳を輝かせ、揺らめく炎のような鮮やかな赤髪をたなびかさせながら元気よく答えたのは太陽のように明朗で活発な少女。
「相変わらず敵は有象無象ばかり。けれど、けして烏合の衆でもございません」
そして濡れたように美しく伸ばされた射干玉の長い黒髪を持ち、その端正な顔立ちと美しい所作からは高貴さと気品を感じさせる。
彼女たちこそが【アストレア・ファミリア】の団長と副団長、アリーゼ・ローヴェルとゴジョウノ・輝夜。
オラリオでも限られた第二級の実力を持つ二人だ。そんな二人が敬愛する主神の言葉に応えるように口を開く。
『闇派閥』と呼ばれる組織が生み出した混沌が渦巻く迷宮街において秩序を守る側に立つのが彼女達、【アストレア・ファミリア】。その参謀役を担う桃色の髪にショートカットをした小人族の少女が忌々しげに言う。
「そう·······でも、侮っては駄目よ。闇派閥はかつての二大勢力がいた頃より都市に潜伏していたのだから」
「【ゼウス・ファミリア】に【ヘラ・ファミリア】······。『神時代の象徴』、そして『神の眷属の到達点』·······二大勢力は千年もの間、オラリオに君臨し、安全神話を崩さなかった」
アストレアは過去を思い出すかのように目を瞑りかつての最強を想起する。地上に降臨し、様々な恩恵を与えた神々の時代の象徴。その頂点に立っていたのは紛れもなく最強を誇る二柱の神が率いたファミリアだった。
だが、その時代は終わった。かつて最強を誇った二柱の眷属は敗れ、男神は姿を消し、女神も都市を去った。そして、今やその最強の座に君臨するのは道化師と美神の眷属。しかし、その眷属達は未だ英雄たりえない。第一級────Lv5に到達した者は数少なく、現オラリオ最強のオッタルでさえLv6止まり。
「闇派閥の連中がビビって活動自粛してたって·········どんだけ強かったんだよ、連中」
「『古代』から続く人類史の中でも
千年もの間、続いた神時代の中であっても間違いなく最強であった彼等彼女等だったからこそ究極の抑止力足り得たのだろう。なにせ、今のオラリオの最高レベルは6、それに対して二大勢力の団長のレベルは8と9。かつてと今の最強には比較にもならぬ差が開いているのだ。
それが意味することは即ち、英雄の不在。
「······ところでアルはどこにいるの?」
眷属の中で唯一、この場にいない黒一点の眷属。アストレアがその名を出した瞬間、若干名の顔が不快げに歪む───若干名というか輝夜だけだが。
「あのクソガキなら今も休む暇も惜しんでいつもの場所で鍛錬でもしているのでは?」
「まったくあの子は······迎えに行ってくるわ」
アル・クラネル
『Lv5』
力:C621→B786
耐久:D565→D569
器用:C682→A865
敏捷:S925→SS1011
魔力∶B776→A852
悪運︰E
直感︰G
耐異常︰G
奇蹟︰I
《魔法》
【サンダーボルト】
・速攻魔法
・雷属性
【レァ・アステール】
・付与魔法
・光属性
《スキル》
【
・早熟する
・目的を達成するまで効果持続。
・想いの丈に比例して効果向上。··················································································································································───────────────────────────────────────────────────────────────
ホームの一室。そこには目つきの悪い白髪赤目の少年と、その背中に指から血を垂らす女神の姿があった。
年の割に大きな、それでもどこか幼さを垣間見せる丸みを帯びた背中に灯っていた光が消え、傷だらけの様相を見せる。アルの身体には大小様々な傷の跡が刻まれている。本来、回復魔法やポーションであとも残らず消えるはずの傷跡が残っているのはアルが傷を負っても躊躇わず回復を後回しにして戦い続けてきたからためであり、アストレアにとっては余り見たくない悲痛なものだ。
アストレアの神血によって更新されたステイタスはアストレアのどの眷属と比べても高く、その上昇量も常軌を逸している。
それはすなわち、それだけの無茶を重ねてきたということ。いくら才能にあふれているとは言っても第一級冒険者のステイタスがたった一度の更新で500も上昇するなどありえない。
スキル欄からその非常識さの理由であろうスキル、【憧憬追想】を抜いたものを紙に写し、渡す。このスキルはその例を見ない稀少さと、何かはわからないがその憧憬を自覚することでアルが更に無茶しないためにも、主神であるアストレアしか存在を知らない。
「(ねぇ、アル。貴方がリュー達や都市の皆のために戦ってくれているのはわかるわ。けれど、このままじゃ貴方が······)」
最年少の第一級冒険者として同業者から嫉妬と畏怖を集めるアルだが、そのあどけなさを残した容姿からか。本人は嫌がっているが、同年代より少し上の女冒険者にはよく弟扱いをされ、可愛がられている。
「アルくーん!! 飴食べる?」
【ガネーシャファミリア】所属の第二級冒険者、アーディ・ヴァルマもその一人である。美しい青髪を煌めかせ、満面の笑みを浮かべながらアルヘ駆け寄る彼女の手には棒付きキャンディが握られていた。
「飴ってお前······。お前の中で俺は何歳なんだ?」
吹き上がる鮮血と悲鳴が辺りを彩る。ダンジョン中層域、安全階層18階層。淡い輝きを湛えた水晶と緑が美しい森林はここが怪物の巣窟であるダンジョン内だとは信じられないほど静謐で穏やかである。
「迷宮の楽園」とまで呼ばれる地下世界に広がる蒼と緑の色彩はまるで地上の光景をそのまま写し取ったかのようであり、ここに暮らすモンスターたちは他の階層から移ってきたものであり、この階層で産まれたモンスターはいない。
安全地帯―――ダンジョンの壁や天井を構成する石材から突き出た水晶が淡く発光しており、その光のお陰で暗闇に支配されることもない。
「いっ、闇派閥だああああぁ!!」
「まさか、冒険者狩りか?! 巫山戯んじゃねぇ、おちおち迷宮も探索させてくれねえのか、あいつ等は?!」
そんなダンジョンの中とは思えない壮観な『青空』を広げる地下世界の楽園が鮮血に染まっていく。剣戟の音と怒号と絶叫が響き渡る。
冒険者、それも紛いなりにもランクアップを果たした上級冒険者がその身体を斑に赤く染めながら逃げ惑う。
「おや、おやおや、まさか、逃げるのですか? お仲間の亡骸を置いて?それでよろしいので?」
「そこは戦うべきでしょう!!『英雄』とまでは言わなくとも!! せめて冒険者の名に恥じぬように!!」
それを狩ろうと嗤うのは幽鬼のようにゆらりと立つ白いローブ姿の男達だった。その中で穏やかに、しかし嗜虐的に笑う一人の男はフードの奥に見える口元に笑みを浮かべて楽しげに逃げまどう男達に語りかける。
フードを脱ぎ捨て、くすんだ血色の髪を見せるその顔には醜悪な悪意に満ちた表情がありありと浮かぶ。
白いローブを着た雑兵たちを引き連れ、劇の舞台に立つ道化師のような気障ったらしい動きで両手を広げている。それはまるで眼の前に広がる凄惨な光景を楽しむかのように。
「それすらできないと言うのであれば········貴方方に失望する私を、どうか鮮やかな血の宴で楽しませてもらいたい!!」
「う、うわぁああああああああ!!」
「──────させるか、阿呆」
冒険者に追いつき、手に持つ血に濡れた短剣を突き立てようとする男の頭上に影がかかる。
そして次の瞬間、鋭い剣閃が吸い込むように男の持つ短剣を弾き飛ばす。金属音が鳴り響くと共に宙を舞って地面に突き刺さるのは折れた刃の部分だけとなった短剣であった。
「─────おや、おやおやおやおや、これはこれは麗しい方々がいらっしゃいましたねぇ」
逃げ出す冒険者には目も向けず、男は目の前に新たに現れた三人の少女に笑いかける。
「かーっ!!また当たったぜ、フィンの読み!! どうなってんだアイツの頭は!! マジで結婚してやってもいいぜ、一族の勇者様ぁ!!」
「ゲスな笑みを浮かべる狡い小人族など、超絶無理に決まっています。────あとうるさいから少し黙れ」
艶やかな戦用着物に身を包む輝夜は手に持った刀を振って襲いかかる白装束を斬り伏せながら毒を吐きながらも油断なく『不吉』な男を見据える。
先行した輝夜に遅れてライラとアリーゼが合流してライラの投擲する爆薬やブーメランで敵の手数を削りつつ、接近戦では輝夜とアリーゼによる剣技が冴え渡り、瞬く間に敵の数を減らしていく。
「········貴方、どうして冒険者狩りなんてするの?お金や魔石が目的?」
「なぜ、と問われましても··········困りますねェ」
次々に斃れていく仲間であるはずの白ローブ────闇派閥の信者達を愉快そうに眺めている男に冒険者達を逃し終えたアリーゼが問いかけると、男は心底可笑しいという風に笑う。
その笑顔を見て、アリーゼ達はゾクリとした寒気を覚える。何と言えばいいのか分からないが、この男が放つ雰囲気は明らかに異質であり異端だ。
「質問に質問で返すようですが········貴女たちは美しいモノを観るのに、理由を必要としますか?」
「あぁ?」
睨みつけるライラに視線を向けることもなく、男は芝居じみた動きで大袈裟に両腕を広げて天を仰ぐ。
まるで神に祈るかのような仕草だが、その姿から感じられる感情は歓喜でもなければ信仰でもない。
もっと別の何かだ。
この男からは、得体の知れない狂喜のようなものを感じてしまう。
「澄みわたる青空を仰ぎたい」
「色とりどりに咲く花々を愛でたい」
「────私の欲望は、それと同じ。 ここの不完全な世界で·······最も鮮やかな血というものが見たいだけ」
怒りよりも嫌悪感が勝る不気味な笑みを張り付けたまま、男は告げる。それは、あまりにも理解不能で常軌を逸している思考回路。
「·········破綻者だな」
「く、くくっ、『破綻者』 ······鳴呼、実に歪で、心を打つ響きです。ええ、えぇ、きっと永劫私に付き纏う愛しき称号なのでしょう!!」
「そして、貴女達のことも存じていますよ。麗しくも愚かしい正義の眷属─────ところで本日は、『彼』はいらっしゃらないので?」
「あのクソガキのことか、いないが問題でも」
「おや、そうですか·······それは
「······なんだアイツがいなければ私達など恐ろしくないと?」
男の言葉に、輝夜の目が細められる。その声音には静かな怒りが含まれていた。しかし男は全く気にせず、むしろ楽しげに笑いながら答える。
「まさか!! ただ、『彼』がいないと知り残念なだけです。私は英雄たる者達を尊敬し、崇拝しています」
「『彼』は、その中でも特別でして········ふふっ、本当に惜しい。ああ、ああ······是非とも一度、お会いしたいものですね」
「わりぃが、ウチのやんちゃな弟分をテメェみたいなキチガイに会わせるつもりはねぇよ」
男の狂気を孕んだ言葉に、ライラは吐き捨てるように言う。男はくつくつと喉の奥を鳴らしながら、心外だと言わんばかりに手を広げる。
「おやおや、随分と嫌われたものです。────ただ、まあ、『彼』がいないと困るというのは本当でして」
「あ?」
僅かに人間味のある困惑したような表情を浮かべる男に、ライラは眉をひそめる。
「いえ、『彼』がいらっしゃるかもしれないというのでご足労いただいた『彼女達』にどう申し開きすればいいか、と。······下手をすれば
「······殺される? 貴方が?」
アリーゼの見立てが正しければこの男はアリーゼや輝夜よりも強い。認めたくはないが一対一では間違いなく負けるだろう。そんな彼が殺されるとはどういうことだろうか。
「おっと、少しお喋りが過ぎましたね。········では、行きますよ?」
疑問を浮かべる三人に、男は愉悦に満ちた笑みを見せる。狐のように細い瞳孔を持つ血色の瞳を向けられたアリーゼ達はぞっとした寒気を覚え、反射的に腰を落とす。
「────!!」
夜叉のように新たに抜き放った短剣を構えて襲いかかってきた男に対して、アリーゼ達は素早く反応する。ライラはブーメランを投げ、輝夜が刀を振るう。
男と三人の間で繰り広げられる刃の応酬。銀閃が舞い、火花が散る中、男の凶刃がアリーゼの頬を掠め、輝夜の刀が男の腕を浅く裂いた。
だが、それでもなお男は止まらず、そのまま二人に肉薄すると二振りの短剣を振り下ろす。その攻撃に前衛の二人は咄嵯に反応して回避するも、男はさらに追撃するように蹴りを放つ。
二人の身体を吹き飛ばす程の威力を誇る回し蹴りに瞬時に防御姿勢を取り、なんとか直撃を免れるも勢いよく吹き飛ばされてしまう。
「······なるほど、お強い」
ジクジクと血が滲む腕を押さえつつ、男は呟く。そして血に染まった手を掲げると、そこからポタポタと血が滴り落ちる。
「けほっ、よく、言う·····」
「······もしかして闇派閥の幹部?」
数合とはいえ、アリーゼ達三人をたった一人で相手にしてなお拮抗以上に渡り合う卓越した『技と駆け引き』は下っ端のそれではあり得ない。
おそらく幹部クラスの実力者だと判断したアリーゼの言葉に、男は小さく笑みを浮かべる。
「さて、どうでしょう·······おや?」
「·····チッ、増援か」
「ヴィトー様!!」と声を上げながら現れたのは先程まで戦っていた闇派閥の兵。彼らは手に武器を持ち、こちらに向かって走ってくる。
その数は10や20では利かない。その光景を見た瞬間、アリーゼ達の脳裏に浮かんだのは撤退の二文字だった。
「フフフ······!! 賑わってきましたねぇ、【アストレア・ファミリア】のお嬢様方?」
いくらなんでもこの男に加えて人数を相手にするのは無謀過ぎる。だが、逃げられるのか? そんな思考を読んだかのように、男がアリーゼ達を逃さないように兵を差し向ける。
そして、男もゆっくりとアリーゼ達に歩み寄っていく。
────────まずい
多勢に無勢。加えて相手は自分達より格上の敵。アリーゼ達が今いる場所は狭い路地。逃げるにしても大群を突っ切ることは不可能に近い。しかし目の前には、狂気の孕んだ笑みで迫る敵。
「チッ、やるしかないな」
吐き捨てるように舌打ちしながら輝夜が構える。ライラとアリーゼもそれに倣い、いつでも動けるように身構えた。
「ふふふ、素晴らしい!! やはり冒険者はこうでなければ!! さぁ、私を楽しませてくださ─────なに?」
男の視線の先ではこちらにやってくる雑兵達のほぼ半数が『吹き飛んだ』。
───────【ルミノス・ウィンド】
───────【サンダーボルト】
30を越える兵達が風と雷によって薙ぎ払われ、あるいは切り裂かれる。
突然の出来事に呆気にとられていたアリーゼ達だったが、すぐに誰がやったか察しがついた。
「アリーゼ!!ライラ、輝夜!!」
「間に合ったか」
振り向けばリューとアルが駆けつけてきた。援軍の登場にアリーゼ達は安堵するが、男は表情を変えず、ただ静かに笑う。
「·············お仲間ですか。 貴方達に加え、別の上級冒険者も相手取るとなると流石に分が悪い」
「──────ですが、『彼』も来てくださったとは幸いでした」
「これで私が『彼女達』に殺される心配はさなそうだ」
一騎当千の勢いで雑兵を蹴散らす少年の姿を見つめながら、男は愉悦に満ちた笑みを浮かべる。
「あ? 何言ってやがる、アイツは生意気だがウチのファミリアの中でも──────」
ゾクリ、と何かを感じ取ったようにライラの言葉が止まる。───『彼女達』とはいったい、誰のことを指しているのか。
そしてその答えはすぐに出た。突如として巻き起こる爆炎。それは瞬く間にアリーゼ達の視界を奪い、周囲の水晶を破壊する。
「この魔法────出待ちでもしてたのか?」
「まさかっ······!!」
自分達を襲う爆炎の波を槍で引き裂いたアルが呟き、そのアルの言葉と自身のそれを遥かに凌駕する規模の攻撃魔法に込められた『同族』の魔力を感じ取って思い至ったのか、リューが戦慄を隠しきれない声をあげる。
都市の守護者として若いながらも数多の死線と試練を乗り越え、都市有数の女傑揃いの【アストレア・ファミリア】。
だが、そんな彼女達でも太刀打ちできぬ悪がこの都市の闇には潜んでいる。その筆頭となるのが闇派閥の中であってなお、過激派と畏怖される二大派閥の団長。
闇派閥屈指の実力者を有する不正を司る闇派閥の蹂躙専門派閥、【アパテー・ファミリア】の事実上の団長である醜悪な老獣人、バスラム。
そして、最低最悪の妖魔を抱える不止を司る闇派閥の超武闘派、【アレクト・ファミリア】の団長と副団長である──────
「·······俺の行く先々にいやがるな、ストーカーかよ」
やがて、煙幕が晴れていく。そして、そこに立っていた人物を見てアルは至極呆れたように嘆息する。
「まぁ酷いわ!!私達はこんなにも貴方を想っているのに!!」
「冷たくて冷徹で冷淡!!冷酷な英雄様は私達がどれだけ愛を囁いても耳を傾けてはくれないのね!!」
「でも、そんなところが」「ええ、そんなところも」
「「───────ぐちゃぐちゃに
晴れた煙の中から現れたのは踊り子のような服装をした少女二人。二人はアルの姿を捉えるなり、嬉々とした表情で甲高い声で叫ぶ。
歌声のような美しい声音で紡がれる言葉は、まさしく愛の告白。しかし、その言葉に孕むのは紛れもない狂気。
物語の中の美姫のようでもある二人の容姿は艷やかに『尖った両耳』を除けば14、5歳のヒューマンの少女にしか見えない。
しかし、その爛々と輝く正気など微塵も感じられない瞳とリューやアリーゼが本能で勝てないと理解してしまえるほどに圧倒的な魔力の波動が、彼女達が尋常ならざる存在であることを如実に証明していた。
「その子もあの子も、みーんなディナお姉様と私が殺してあげなきゃ!!」
「ええ!!そうでなきゃ神に給うた命が勿体ないものね!!」
アリーゼや輝夜、ライラ。そして、リューを指さしてクスクスと笑い合う二人。まるで人形のように整った顔に浮かぶ狂喜に彩られた笑顔は見る者の背筋を凍らせるには充分過ぎるほどの異質さを醸し出している。
美しき妖精でありながら、人の理から外れた怪物。そんな彼女たちの吐く言葉の意味を『同胞』であるはずのリューは知らない。いや、知れるはずもない。
「「そうしたら、その子達の血の中で私達と
なぜなら、彼女達は『妖精』であるリューとは決して相容れない『妖魔』なのだから。
過去最高にモテてるアルくん(12〜13歳)とサイコパス妖精姉妹でした。
次話は『異常者VS異常者、巻き込まれるアストレアF』でお送りします
『アル』
内心、常に本編の三章終盤並のテンションのイカれやろう。本編より口調が荒いが、中身はテンション高い以外は本編と同じ。クラネルだけどベルとは義兄弟。本編と同じ血縁関係で年齢を10以上にするといろいろ噛み合わないが、それ以下だと餓鬼すぎて·····って感じなので血の繋がってない13歳ぐらい?。ゼウス、ヘラに拾われてメーテリアが引き取って養子にしたという脳内設定。実親は……。
基本的に成長スピードは本編×1.3ぐらい。スキルも一部、強化されてる。原作開始時のアイズならストレート勝ちできる。憧憬ブーストされまくってて原作開始時にはLv9行ってる。