皆の傷になって死にたい転生者がベルの兄で才禍の怪物なのは間違っている   作:マタタビネガー

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再投稿です

オッタルがアルの血縁を知っているのは顔面傷だらけの男のせいです。





五話 アル✕アイ見守ろうの会 特攻隊長ベート氏

 

 

 

 

俺、ベート・ローガにとってアイツは、アル・クラネルは過去の自分を見ているようだった。

 

四年前、ロキに担ぎ込まれてきたアイツの目は何よりも大事なものを守れず自分だけが生き残ってしまい荒れ果てていた自分を思い出させた。

 

奴は俺と同じように、あるいはそれ以上に、苛烈なまでに強さを求めた。ババアやロキの言葉も聞かず実力に見合わないダンジョンの階層へ潜っていき、我が身を省みることのない戦い方をし続けた。

 

飢えた獣のような渇望の秘めた瞳で全てを睨みつけ、自分の限界を超えるまで鍛錬を続けた。日々、命を削っているようだった。

 

ダンジョンから無傷で帰ってきたことはなく、その度に死にかけていた。

 

何度、死の淵を彷徨ったか分からない。何度、血反吐を撒き散らし鮮血を流したか分からない。それでも、あいつは止まらなかった。

 

【ロキ・ファミリア】に恨みを持つLv2の冒険者崩れ複数に絡まれた際もアイツは音を上げず最後まで食い下がり、ボロボロになりながらも雑魚どもを根負かせて見せた。

 

その無様な風体を俺が罵倒するとやつは言った「勝者は常に敗者の中にある、俺はそれを証明して見せる」と。

 

その気迫に俺は何も言えなかった。そして実際にアイツはその言葉通り、偉業を成し遂げ、それを証明してみせた。

 

Lv.1でありながら上級冒険者ですら勝てない強化種からファミリアの仲間を守りきり、瀕死になりながらも勝ちやがった。

 

雑魚どもはアイツがオラリオ史上最速でレベルアップしたのは才能のためであると宣っているがそれはあの戦いを見てない奴らの戯言だ。

 

逃げ帰ってきたアイツのパーティーメンバーからの報告を受け、当時Lv.4だった俺やアマゾネス姉妹の妹の方、フィン、ガレスと共に救援──────生きているとは思っていなかったがそれでも向かった先で見た光景を決して忘れることはない。

 

そこで見たのは、インファント・ドラゴンの強化種を一人で相手取り、仲間を守ったアイツの姿だった。

 

その戦いは英雄の戦いなんて立派なものからは程遠い泥臭く見苦しいものだった。

 

レベルの差を覆したわけじゃない、自分の倍以上のドラゴンを相手に逃げ出した奴らの武器を使い捨てながらちまちまと鱗を削っていき、最後のトドメは雷の魔法をデコイに使った自らも感電する自傷覚悟な不意打ちの一撃だった。

 

圧倒的格上相手に無様もいいところな情けねえ戦い方だったがそれでも諦めず、己のすべてを費やして食い下がることで自身の実力以上の相手を打ち破り、自身が敗者の中にある勝者であると証明して見せたのだ。

 

アイツとアイズがよく関わるようになったのは二人がそれぞれLv.4、Lv.5となって二つ名が『剣鬼(ヘル・スパーダ)』から『剣聖』になってからだ。

 

······向こう見ずで天然なアイズとそれを無茶しながら助けるアイツらの姿は昔の、平原の王に集落が滅ぼされる前の自分と幼馴染を見ているかのようで眩しく見えた。

 

一つ違うところがあるとすればアイツは俺とは違い、血反吐を吐きながらアイズを守り通した。

 

俺は取りこぼし続けてきた、妹を、幼馴染を、恋人を、寄り添ってきたすべてを失った。

 

半年前、遠征の帰りにインターバルの最中であるにもかかわらず異常事態で発生した亜種の階層主バロールから俺達を逃がすためにたった一人で戦いを挑み、倒しやがった。そうだ、アイツからしたら「俺」も守る対象なのだ。

 

··············巫山戯るな、巫山戯るんじゃねぇ!! テメェなんぞに守られるほど俺はヤワじゃねぇ!! テメェが守るべきは俺やフィンたちではなくアイズだろうが!!

 

他は切り捨てろ、どれだけ力が強かろうといざというときその場にいなけりゃ救えるもんも救えねぇ、だからテメェはアイズから離れるな。

 

テメェは、お前は雑魚じゃねえが全てを救える英雄じゃあない。力をつけただけのただのガキだ。だから、だからこそ。

 

 

 

 

 

お前は、アイズだけの英雄になるんだ、なってみせろ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

曇らせが足りない。

 

最後に誰かを曇らせたのいつだ·········? 半年前?

 

このままだと餓死するぞ。クソ、どっかに丁度いいエルフでもいねぇかな。

 

次にあるのは··········ああ、フィリア祭か、モンスターが逃げ出したり食人花が出てくるんだっけ? 

 

俺あんま覚えてないんだけどたしかベルが逃げ出したモンスターのシルバーバックと戦うからソイツは殺さないようにしなきゃな。あ、いやどのみちその日はダンジョン潜るか、異端児に用もあるし。

 

「·····おい、テメェ。あのトマト頭が弟ってのは本当か?」

 

「トマト頭······ベルのことか、そうだがそれがどうかしたか」

 

 ベートじゃん、昨日は随分と酔ってたみたいだな。どうやら原作同様ベルを散々けなしたみたいだが俺に対してはそんなにキツイこと言ってこないんだよな、ベート。

 

もっと言ってもいいんだよ、ツンデレが素直になれないまま死なれて曇るというのもなかなかに美味しい。

 

「·············チッ、なんでもねぇ」

 

 ポッケに手突っ込んだままどっか行っちゃった····何がしたかったんだ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ガキ、止まれ。テメェだ、そこの白髪頭」

 

「えっ、貴方はロキファミリアの·····」

 

 ダンジョン第六階層、二日酔いを醒ますためにダンジョンに潜ったベートは昨日嘲笑った白髪頭の少年、ベル・クラネルと遭遇した。

 

ボロボロながらも明確な傷は負っておらず『ウォーシャドウ』のようなニュービーでは対処が難しいモンスターも出現する第六階層に一人で潜っていたと考えれば大したものと言える。

 

「(コイツ、ミノタウロスから逃げてたときとは動きが別もんだ····、どう考えても数日でできるレベルの成長じゃねぇぞ)」

 

 一瞬、見えたナイフ捌きは相応のアビリティがなければできないものだ。ベート自身、センスがあった故に最初からできていただけで眼前の少年には自分のような武器を扱う才覚はない。

 

凡人が天才と同じことをするには基礎能力、アビリティを上げる他ない。それもたった数日で到達できる領域ではないはずだ。

 

その動きを見て湧き上がる既視感。毎日、ボロボロになりながらも膝をつかず加速度的に強くなっていった『剣聖』になる前の『剣鬼(ヘル・スパーダ)』の姿が重なって見える。

 

「テメェ、あんときアイズから逃げたトマト頭だな。ミノタウロスからも逃げた情けねえ冒険者の風上にも置けないカスがなんの真似だ? ニュービーが一人で潜る階層じゃあねぇだろ」

 

 他人にバカにされたことで頭に血がのぼって実力に見合わない階層へ潜り、野垂れ死ぬ雑魚をベートは何人も見てきた。コイツもそんな救えねぇ雑魚共と同じなのか、それとも。

 

「酒場で聞いてたんだろ? 俺が言ったのをよ。もう一度言ってやろうか? テメェ程度が多少無理した程度であの『剣姫』アイズ・ヴァレンシュタインに並べるわけねぇだろうが」

 

「·····わかってます。アイズさん達と僕では積み上げてきたものが違う。努力も経験も、覚悟も何もかもが足りない。でも、それでも何もしないわけにはいかないっ!!」

 

「·········強く、なりたいんです。このまま弱いままじゃ僕は許せない――――何もしなくても、何かを期待していた、僕自身を!!」

 

 ······吠えやがった。その姿があの時と、四年前のアイツと再び重なる。普通、無理なはずだ、第一級冒険者であるベート・ローガを前にしたただのニュービーがここまでの啖呵を切るのは。

 

「随分、講釈たれてくれたけどよ。口先だけの雑魚を俺は何人も見てきたぜ、テメェもどうせそうなんだろ?」

 

「、ガッ」

 

 少年の腹をベートが蹴り上げる、加減したとはいえLv5の蹴りだ。反応すらできずマトモに食らった以上、腹の内臓が掻き回され、立つことすらできない苦しみに襲われているだろう。

 

本来、ベートは手を出すつもりはなかった。いくらアイツの弟とはいえ同じファミリアでもないガキがどこで野垂れ死のうと知ったことではない。

 

しかし、コイツは吠えた、あのときのアイツと同じ瞳で。そして今も、痛みに身を捩り、地に付しながらも瞳の中の光は消えちゃいない。

 

「うぐ、あ」

 

 それどころか立ち上がった。Lv1序盤の耐久では決して耐えることのできないはずの痛みを耐え抜き、震える手でナイフをベートヘ向ける。

 

「あ、ああああああ!!」

 

「―――ハ、いいぜ ()()をアイツの弟と認めてやるよ」

 

 相手が人間であることも忘れたのか力の限りナイフを振り抜くが二人の影は交差しなかった。今度は痛みを与えぬようより加減された、それでいてLv5に相応しい冴えの蹴りが顎を蹴りぬいて糸の切れた操り人形のように崩れ落ちる。

 

「お前が、もし本気で強くなりてぇならもう一度立ち上がれ、俺がお前を冒険者にしてやる。―――ベル・クラネル」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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このように今作のベルの師匠役はアイズじゃなくてベート・ローガになりました。まあ戦闘方式似てるし、むしろアイズより教えるのうまそうなんでいいかなって

 

今作のベートはアイズに対して男女の情はないです

 

アルが死んだらめっちゃ曇ります

 

 

 


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