皆の傷になって死にたい転生者がベルの兄で才禍の怪物なのは間違っている   作:マタタビネガー

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五十三話 俺が死ぬって予知夢見るの三回目だろ、その度にぬか喜びさせやがって

 

 

 

キラキラと光を反射する蒼い水面に白渇の砂浜、ダンジョンでも中々見ないような変わった形の木々。さざめく波の音色は聞くものの心を穏やかにさせ、その絶景は見る者の心を癒やす。

 

青く澄み渡る空に浮かぶ太陽も、優しく肌を撫でる潮風も、全てが心地良い。

 

こここそが迷宮都市オラリオの玄関口であり、かつては海洋神の大派閥が拠点を構えていたメレン港。そして海ではないが海の如き広大さと生命の豊かさを誇る汽水湖、ロログ湖である。

 

「海や!!」

 

「湖だけどね、にしても久しぶりだわ。『外』の水辺なんて」

 

 そこにはアマゾネスのような肌色を晒す衣服───神々が創造した三種の神器の一つである水着に身を包んだ様々な種族の美女達がいた。

 

胸や臀部などを除いた身体の大部分を太陽のもとにさらけ出した女性達は、一様に目を伏せて恥らっている。

 

この光景を見て、心が踊らない男がいるだろうか? 否、いるはずがない! そう断言できるほどの美しさがここにあった。

 

ヒューマン、エルフ、小人族、獣人などなど。主神たる神の趣向によって例外なく美形である彼女達の姿はここには一人としていない男からすれば垂涎の、男子禁制の花園の様相を呈している。

 

特に目を引くのはやはりアイズ・ヴァレンシュタインだろうか。普段の勇ましい雰囲気とは打って変わって可憐な印象を与えるワンピースタイプの水着を身につけた彼女は同性ですら息を飲むほど美しい。

 

まず目がいくのは歳の割に豊満な胸部。きらきらと輝く金色の頭髪と相まって非常に艶めかしく見えるそれは大きく揺れ動き、視線を引きつけて止まない。

 

そしてその美しい肢体は惜しげもなく陽光の輝きを浴びており、まるで絵画のように幻想的な光景を生み出していた。

 

「こ、これが水着···········。神々が発明した、三種の神器の一つですか·········」

 

「あ、ある意味、裸よりも恥ずかしいんですけど」

 

 主神でありロキが用意した様々な水着を身に着けた【ロキ・ファミリア】の女性陣は頬を赤く染め、羞恥心を押し殺しながらアマゾネスの面々が着るような肌面積のピチピチの服を着た自身の身体を見つめている。

 

中でもエルフであり、『純潔の園』という二つ名をつけられるアリシアなどはぷるぷると小刻みに震えている始末だ。

 

·········同じく純正のエルフであるはずのレフィーヤはアイズの水着姿に夢中でそれどころではないようだが。

 

「18階層での水浴びとはまた違った気恥ずかしさがありますね······」

 

「リヴェリア様はどちらに?」

 

「あっちで水着持ったまま石になってたわよ」

 

「おいたわしい·····」

 

 彼女達はメレンへ遊びに来たわけではない。最近の極彩色のモンスターと怪人に対する同盟関係にあるデュオニュソスから齎されたメレンでの極彩色のモンスターの目撃情報を確かめに来たのだ。

 

そうでなければオラリオ最大派閥である【ロキ・ファミリア】の主力の都市外への出立など神経質なまでに戦力の流出を恐れるギルドが許さない。まあ、主力と言っても最大戦力であるアル及び団長であるフィンなどの男性陣はまるまるオラリオに残っているためそういった憂いはない。

 

「ティオナさんたちは恥ずかしく·····ないですよね」

 

「というか、いつもより元気?」

 

「へへー」

 

 姉妹揃って蒼いプリマ───水着風のウィンディーネ・クロスに身を包んだティオナはいつも以上にニカニカしている。ティオネも妹程ではないにしろ新しく手にした力に舞い上がっているようだ。

 

「Lvも上がったからさ〜、身体を動かしたくてウズウズしてるんだよね〜」

 

「肉体と感覚のズレも修正したいし、久しぶりに水中戦でもする?」

 

 【潜水】のアビリティを持つティオナがウィンディーネ・クロス─────精霊の護符を身につければ一時間は水に潜れるだろう。

 

水精霊の魔力が編み込まれた布地は護符として水に関する護りや熱波を遮断する効果があり、水の抵抗や水圧の影響なども緩和される。

 

少し前の59階層での死闘でも精霊の護符は大いに力となった。むしろ、なくてはリヴェリア以上の砲撃魔法を連発する精霊の分身には勝てなかったかもしれない。

 

そして、この水精霊の護符が真価を発揮するのは水中戦だ。

 

陸上と比べてどうしても鈍る速度やパワーを水中でも変わらず発揮できるようになるため、水中のモンスター退治などには必須アイテムとも言える。

 

値は張るし、性能にも限度はあるが、それでもこの護符があれば水中での戦いはかなり楽になる。

 

「しかも、ティオナ達は発展アビリティ【潜水】持ち。もともと水中でも魚顔負けに泳げる。水精霊の護布を装備した暁には鬼に金棒、いや女戦士に斧槍や!!」

 

「何よその例え」

 

 ロキから二振りの対水中戦装備を受け取ったティオナとティオネは何度か確かめるように素振りした後、水面に向かって走り出す。

 

水のモンスターが辿る経路、水辺に繋がる出口が、ダンジョン下層から通ずる穴がロログ湖にはある。その湖底の穴は十五年前、男神と女神の派閥が【ポセイドン・ファミリア】の協力のもと、完璧に塞いでいる。

 

ダンジョンのモンスターが現れることは、これで絶対にありえなくなったはずだったが、神出鬼没に現れる食人花の存在とレヴィス達怪人や闇派閥によって正規のバベル以外のダンジョンの出入り口の存在が今になって明らかになった。

 

もしかすると塞がれたはずの湖底の穴が再び開いている可能性だって否定できない。

 

それを調査するために水中の動きに秀でたティオネ達は精霊の護符を特別に身に着けているのだ。

 

僅かに助走をつけてティオナ達は水に飛び込む。そのまま勢いよく潜行していき、数秒後にはその姿が見えなくなった。

 

「········あの、今更なんですけど、ティオナさん達だけでいいなら、私達が水着になる必要はなかったんじゃあ········」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────────『予知夢』。

 

十七節の詩と映像からなる神々ですら見れぬ『未来』を垣間見るスキルでも魔法でもないカサンドラ・イリオンのみが持つ唯一無二の『異能』。

 

恩恵に依らぬその異能は確かに人間に許された力の領域を逸脱するものであり、あやふやな映像に付随する予言めいた詩は恩恵に依らぬ故にこそ神にも届きうるものかもしれない。

 

占いの如く脳裏に焼き付けられる予知夢の不確かな、それでいて鮮烈に過ぎるイメージ。

 

恩恵を受けるより以前、子供の頃からカサンドラの人生について回った呪いじみた宿痾。それこそが彼女の持つ異能の正体であった。

 

――そして今、この瞬間も彼女はそれを見ている。

 

――視界が暗転し、意識が遠退く。

 

――闇の中で無数の光が瞬き、その一つ一つが映像として浮かび上がる。

 

――それは烈火であり、雷霆であり、疾風だった。

 

――あるいはそれら全てであり、またあるいはそれらは何一つでもなかった。

 

――光は人の形を取り、その白い人型は兎のように跳ねる。

 

──雪のように白い髪の少年が駆けていた。

 

──少年は月を飛び越え、太陽を地に叩き落すように跳躍する。

 

──そうして彼は何かを掴むのだ。

 

──手を伸ばして、掴み取るのだ。

 

──それが何であるかなど解らない。

 

──ただ、それは……。

 

 

 

 

 

 

「──────っ」

 

 嗅ぎ慣れた安眠効果のハーブの香りで、カサンドラは目を覚ました。寝起き特有の倦怠感が残る身体を起こしながら辺りを見回せば、そこはホームの自室である。

 

窓から差し込む朝の日射しはまだ弱いもので、早朝であることを窺わせた。寝汗のせいで衣服が肌に張り付いており、酷く気持ち悪い。

 

耳朶を打つのは自らの動悸と呼吸音のみで、他の皆はまだ寝てるようだった。

 

目眩を覚えつつもベッドから這い出て、洗面台へと向かう。鏡には寝不足気味の顔色の悪い少女の姿があった。

 

顔を洗い歯を磨き、髪を櫛で整える。普段通りの一連の動作を終えて、ようやく落ち着いてきた頭で最初に考えたことは先程の夢のことだった。

 

「あれは·········?」

 

 烈火と雷霆を纏った兎のような少年が疾風となって地を駆け、月を飛び越すような跳躍をして最後に強く輝く太陽を地に落とす光景。

 

悪夢、とは言えないかもしれないが太陽を自分たちのファミリアに置き換えて考えるならば、それはまるで···········。

 

そこまで考えてカサンドラは首を振るう。そんなことは考えていてもしょうがない。

 

身支度を整えたカサンドラは部屋を出て、廊下を歩きながら【ロキ・ファミリア】の未開拓領域への遠征の前日に見た悪夢、これまで見てきたどんなものより鮮明で、恐ろしく、救いのない夢の内容を思い出すだけで背筋が凍るような心地になる。

 

けれど同時に奇妙な既視感もあった。それはきっと、あの少年の容姿に起因するものだろう。今日の夢に出た白髪の少年と悪夢に出たアルの姿は何処か似ている気がした。

 

どちらにせよ、自分一人が悩んでいてもどうにもできないことはとうの昔に理解している。

 

──────カサンドラ・イリオンの『予知夢』には神ならざる身には過ぎた力の代償であるのか、見た予知夢の内容を誰にも信じてもらえないという呪いにも似た欠陥が存在する。

 

それ故にカサンドラは周りからは突拍子もなく意味不明なことばかり言うおかしな娘だと思われ、奇異の目で見られることも度々あった。

 

『悲観者』という不名誉な二つ名までつけられた。見たくないものを押し付けられて、その苦難を他人と分かち合うことすら許されない自分の力を呪いだとさえ思う時もある。

 

故にこそ歓喜した。

 

この世でおおよそ唯一であろう、自分と同じ未来を垣間見ることのできる人間と出会えたことに。

 

これまでカサンドラだけが抱えていた、抱え込まざるをえなかった苦しみを理解してくれたことに。

 

初めて会った時、悪夢が脳裏から離れず、寝不足気味になっていた頃に出会った少年。

 

その悪夢の原因でもあった白髪赤目の少年は冷静さを失い、突拍子もなく意味不明なことを言い出す彼女の言葉にも否定から入らずに接してくれ、予知夢の内容に対してこう返した。

 

『········そうか、それで俺はどうなった?』

 

 ─────その言葉がどれだけカサンドラを救ったか、それは当のアルにすらわかるまい。

 

これまでの人生で母を除く全ての人からくだらない妄想だと鼻で笑われ続けてきた自分の予知夢。

 

その内容を話すカサンドラに対して、()()()()()()()()相手は産まれて初めてだった。

 

そして、『自分も似た力がある』 

 

と打ち明けてくれた。彼もまた、彼女が見る予知夢と似たようなものを視ていたのだという。

 

それは彼女の神の理からも外れてた完全なる予知とは違い、第六感を極限まで強化する発展アビリティ【直感】と彼女が知る由もない知識によるもの。

 

だが、原理や精度は違えど同じ視点で物事を見られる存在がいるという事実はカサンドラにとって希望だった。

 

これまでの苦難が報われた気すらした。悪夢の事件が解決して以来も彼とは頻繁に連絡を取り合い、時には直接会い、共に互いの持つ情報を交換し合ったりもしていた。

 

彼の持つ知識はカサンドラの予知夢で見ていないものも多く、実際にそれに救われたことも何度もある。

 

何より彼は自分に『頼って』くれた。

 

誰もが─────神や親友であっても根拠のないくだらない妄想だと一蹴するカサンドラの予知夢を重要な情報源だと認めて、必要な時には役立ててくれる。

 

呪いのように感じていた自分の力が誰かの役に立つ、それがカサンドラにとってどれだけ嬉しかったか。

 

だからこそそんな彼が窮地に陥っているのならば、助けになりたいと思った。

 

一方的にすぎるが、彼に恩返しをしたかった。

 

そして、【ロキ・ファミリア】の未開拓領域への遠征の前日にカサンドラは見た、見てしまった。

 

 

 

『妄執に囚われし王の代行者』

『牙を折った天狼』

『翼を奪われた風精霊』

『誇りを失った勇者』

 

·············『滅びをその身に受ける英雄』。

 

 

そんな単語の含まれた詩とともに脳裏に焼きつけられた、『英雄』が、白髪の少年が黒き呪いを帯びた大剣で胸を貫かれて殺される姿。そして、そんな光景の最後に見た女性の姿。

 

『妄執に囚われし王の代行者』────美しい赤髪に翡翠のように輝く瞳を持つ妖艶な美女。その笑みは悦楽に満ちており、しかしその視線は侮蔑と嘲笑と憤怒が入り混じったもの。美の女神とはまた違った、背筋が凍るような美しさを纏っていた。

 

あの女性はいったい誰なのか? 予知夢の中では顔すら見えなかった。ただ漠然としたイメージだけが浮かび上がり、それが誰のものかも分からない。だが、なぜか、その女性から視線を逸らすことができない。まるで蛇に睨まれた蛙のように、動けなかった。

 

少年が、アルが死んでしまうと分かっていても、カサンドラはその場から動くことができなかった。

 

夢はそこで終わり、カサンドラは飛び起きた。心臓が早鐘を打ち、冷や汗が流れ落ちる。呼吸が荒く、視界が定まらなかった。

 

そしてすぐに、遠征に行く直前であったアルに予知夢の内容を事細かに伝えた。アルは最後まで真剣に聞いてくれ、その上で必ず戻ってくると約束してくれた。

 

アルが遠征から帰ってくるまでの半月間は生きた心地がしなかった。

 

そして、帰ってきたアルの姿を見た時、カサンドラは涙を堪えきれずにはいられなかった。  

 

もっとも都市最大派閥の幹部であるアルとカサンドラでは立場に差がありすぎる上に命に別条はなくても深い傷を負ったためにすぐに治療院へ行ったため、直接話すことは叶わなかったのだが。

 

けれど、それでもよかった。アルが生きて帰ってきてくれた。それだけでカサンドラにとっては十分だった。

 

 

─────そんなことを考えながら朝の散歩をしているうちに、いつの間にかカサンドラはある場所へと辿り着いていた。

 

そこは都市の片隅にある小さな、寂れた教会。ボロボロで、今にも崩れそうなほど古い建物。

 

地震でも起きれば一発で倒壊してしまいそうだが、薄っすらながら人の気配を感じる。

 

よくよく見てみれば竈の火のようなエンブレムが扉にかけられているのが分かった。

 

「·······帰ろう」

 

 なぜこんな場所に足を踏み入れたのか、カサンドラ自身にもよくわからなかった。

 

ただなんとなく、気づけばここまで来てしまっていたのだ。もうここには用はない。そう思って踵を返そうとした時だった。 

 

「·····カサンドラ、か? こんな寂れた教会になにか用か」

 

 後から声をかけられて振り返ると、そこには白い髪の青年がいた。

 

 

 

 

約半月ぶりに会ったアルはいつも通り無愛想ながらも、どこか優しげな雰囲気を醸し出していた。

 

少しだけ安心して思わず泣きそうになったが、それをなんとか我慢する。

 

聞けば、治療院で拘束される日々が続いていたがつい先日、ようやく退院できたのだという。

 

話を聞く限りやはり重傷だったようで、後遺症などが残らないか心配だったが、それも問題ないらしい。

 

だが、カサンドラの目にはなにも問題はない、と言うアルの姿がいつもより何処か儚げで、怒りにも似た焦燥感を感じさせた。

 

『何か、悩んでいることがあるんですか』

 

 そんなふうに聞くことはできなくて、結局そのことについては触れられないまま、話題はカサンドラの夢の話になった。

 

夢の中で見た光景、そこにいた人物について話すと、アルの顔つきが変わった。

 

これまでとは違う、どこか愉快な表情でこの教会に来たのは無駄ではなかったな、と口元を歪ませて言った。

 

最後になぜ、こんな寂れた教会にいるのかとカサンドラの方からアルに質問すると。

 

『曲がりなりにも母が愛した場所、らしいからな見納めのようなもんだ』

 

 酷く曖昧な言い方ではあったが、それ以上は踏み込むまいとカサンドラに思わせる雰囲気がそこにはあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カサンドラァ·············!!

 

よくもまあ、この間はぬか喜びさせてくれやがったな!!

 

クソッ、予知夢があったってことはかなり高い確率の未来だったってことだろ?

 

ソレをベートの野郎が台無しにしやがってよぉ············。

 

カサンドラ、お前もお前で俺が死ぬって予知夢見るの三回目だろ、その度にぬか喜びさせやがって。

 

そろそろ【直感】と原作知識ありでも俺の中で予知夢の信憑性下がってきたぞこのやろう。

 

あ? ここに来た理由だと?そら、お前らがぶち壊すから壊れる前はどんなもんなのか見ておこうかと思っただけだわ。

 

 







アルの未来視は精度の高い勘でしかないので具体性に欠ける上、(アルにとっては)役に立ちません。

どちらかといえば戦闘系アビリティ

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