皆の傷になって死にたい転生者がベルの兄で才禍の怪物なのは間違っている   作:マタタビネガー

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右手が腱鞘炎なっちゃった


五十五話 エルフを見習えよ、エルフを

 

「やあ、聞いたよ、アルくん。Lv8になったんだって? いやー、めでたいねぇ。これで君のお祖父さん(ゼウス)の団長に並んだわけだ」

 

「黙れ、送還させるぞ」

 

「·····なんか、君。俺に対してだけ当たりきつくない?」

 

      

 

 

 

 

·············なにもめでたくねーよ。

 

このおちゃらけ伝令神(ヘルメス)が。階段で転んで頭打って送還されればいいのに·······。レベル8········いや、もう無理じゃん·······。

 

レヴィスちゃんはおろか、エインでも精々がLv7上位止まりだし·········。この際、レヴィスちゃんと悪魔合体とかしてLv9くらいになってくんねーかなぁ。

 

······まあ、いい、いつか、こうなることはわかってた。エニュオとかも俺への対策は講じているはずだしな·····あのベヒーモスの剣みたいな切り札もまだ······あるよね?

 

 

これからメレンか·······。正直、気乗りしないな、強い敵いないし、アマゾネスだし。アマゾネスって苦手なんだなあ。アイツら、生き死にの概念おかしいし、戦闘狂タイプじゃない奴らは頭ゆるい代わりに底抜けに明るいからなかなか曇らねぇ······。

 

エルフを見習えよ、エルフを。アイツら潔癖だけど仲良くなったらリューといい、フィルヴィスといい、わかりやすく曇ってくれるぞ?

 

敵は弱いし、アマゾネスだし·····やる気でないなあ·······。あーでも、確かベルのヒロインがいるんだっけか、リリルカ・アーデとは顔合わせたけどいい機会だからサンジョウノ・春姫も見とこ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「娘、やれ」

 

 豊かな胸と臀部、そして細い腰回り。艷やかな褐色の肢体を晒すアマゾネス特有の戦闘衣に身を包んだ毒蛾が如き魔性の美しさを湛えたアマゾネスの黒布で隠された口元から漏れる共通語での命令。

 

闇夜に包まれたメレンの町並みに一瞬だけ灯りが点った。それは魔石灯などによる明かりではなく神秘的な魔力の発露による光だ。

 

地面に魔法円のような紋様が現れて発光する。そして、その輝きは金色の粒子となって立ち昇っていく。

 

「【────大きくなれ】」 

 

 メレンに鳴り響くモンスターの

咆哮と戦士たちの雄叫びの中で紡がれた祝詞のような静かな詠唱。

 

詠うのは獣人特有の尾と耳を白い巫女服で隠した少女。その声音は幼くも美しい響きを持って大気を振るわせる。金色の光が集い、凝縮していく。

 

「【其の力に其の器。数多の財に数多の願い】」  

 

 金糸の髪の少女が祈るように両手を組んで目を瞑って言葉を紡ぐたびに魔力が高まっていく。渦巻く金色の魔力が密度を増していき、少女の髪をたなびかせている。

 

「【鐘の音が告げるその時まで、どうか栄華と幻想を】」

 

 か細い玉音の声音と共に眩いばかりの黄金の光が放たれて周囲を照らし出した。その光景はまるで昼間のように明るくなる。

 

霧状の魔力が光雲となって神秘的な光のドームを作り出す。

 

「【神饌を食らいしこの体。神に賜いしこの金光】」

 

「【槌へと至り土へと還り、どうか貴方へ祝福を】」

 

「【────大きくなぁれ】」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いつものようにバーチェとの訓練でボロ雑巾のようになったあたしは、捨てられていた古ぼけた紙の束のことを思い出して部屋の隅へと這っていって紙切れを手に取った。

 

「バーチェ········読んで?」

 

 それを両手で持ってバーチェに渡すと、彼女は表情を変えることなくそれを受け取った。

 

その紙の束は共通語で綴られており、アマゾネスの言語すら読み書きのできない幼子には当然読むことなどできなかった。

 

バーチェは手渡されたそれを無言で受け取ると、一枚ずつ捲り始めた。パラリ、と乾いた音が静かな部屋に響き渡る中、あたしは何も言わずに彼女の反応を待った。

 

その時のバーチェの顔を、あたしは決して忘れないだろう。常に無表情で冷徹な彼女が見せた、初めて見る顔だったからだ。

 

明らかに狼狽えており、額に薄らと汗を浮かべて目を泳がせる。盛大に動揺しているのがよく分かり、「ま、待て」と言い残してどこかへ行ってしまった。

 

後日、その日の鍛錬が終わったあとに紙の束を持って戻ってきたバーチェはその内容をどこかたどたどしい口調ながらも教えてくれた。

 

テルスキュラから出たことのないバーチェはその時のあたしと同じで共通語は読めないでいたのだが、十も年下のあたしと同じく文字が読めずに読み聞かせられないのは矜持が許さなかったらしく「何が書いてあるか教えてほしい」とカーリーに頼んだそうだ。

 

「『青年は、だまされているとも知らず、王に言った。わかりました かならずや、囚われの王女を、迷宮から救い出してまいりましょう』」

 

「それで? どうなっちゃうのっ?」

  

 冷たい石畳の上に座り込んで物語を聞くあたしの心臓は興奮で高鳴っていた。松明の火が照らす暗闇の中、バーチェの声だけが静かに響く。

 

慣れていないバーチェの言葉はところどころつっかえて聞き取りづらかったが、それでもあたしはその話を夢中で聞き入った。その日のあとも訓練が終わったあとに続きを読んでくれるようになった。

 

当然ながら物語には終わりがあり、紙の束でしかないそれはあっという間に最後のページを迎えた。

 

その数日間の読み聞かせでこれまで怖く思っていたバーチェへの恐怖心は薄れていった。

 

「敵の攻撃を誘導しろ。ぎりぎりまで引き寄せたところで、弾け」

 

「どうやって弾くの?」

 

「·········弾け」

 

 痛みと辛さしかなかった鍛錬もいつの間にか少しずつ楽しみになっていた。それに戦う以外の願望がなかったあたしに物語の続きを知りたいという新たな願望が生まれた。

 

そして、ある日、気まぐれを起こしたカーリーになにか欲しい物はあるのか、と聞かれたあたしは躊躇いもなく答えた。

 

カーリーはあたしの物語を読みたいという願いを聞き届けてくれて、すぐに綺麗な新品の本を買ってきてくれた。

 

カーリーに教えられて共通語はすぐ読めるようになった。読み聞かせの必要がなくなってなぜか、バーチェはどこか寂しそうな顔をしていたのが印象的だった。

 

戦いとは全く別の高揚感を味わえる娯楽を知ったあたしは、それから毎日のように読み続けた。

 

『儀式』で勝った褒美として度々、新しく買ってきてもらった本を貪るように読んだ。蝋燭の下で寝る間も惜しんで夜通し読み耽ったこともあった。

 

日に日に増えていき、石部屋を埋めていく本の山にブチギレたティオネに取り上げられたこともあった。

 

『英雄譚』と出会ってあたしは変わった。自分でもよく笑うようになったと自覚している。そんな日々を過ごしているうちに、バーチェとの会話も増えてきたように思う。

 

相変わらず表情の変化は少ないけれど、たまに微笑むことがあるのを知っている。皆はあたしが頭がおかしくなった狂戦士だと噂していたが、気にはならなかった。

 

 

 

それから数年後───国を出たあたしは英雄の都で真正の『英雄譚』が綴られた戦いを、その目で見ることとなる。

 

 

 

 

 

 

 

「あのクソチビィ·······うちに喧嘩を売りおったなァ」

 

 普段の飄々とした態度からは想像も出来ないほどの殺気を放ちながらロキは静かに呟いた。

 

メレンに同行していた、【ロキ・ファミリア】の中では低レベル─────それでも上級冒険者に変わりはないが─────の者たちが【カーリーファミリア】の者たちによって襲撃され、重傷を負ったのだ。

 

幸い、リヴェリアの魔法による治療によって傷は塞がったが、餌のつもりか、レフィーヤがLv6のバーチェによって拐われた。

 

付き合いの長いアキやアリシアなどの古参眷属ですら恐れを抱かずにはいられない神威がびりびりと伝わる中、しかしロキの内心は怒り狂いながらも酷く冷めきっていた。

 

リヴェリアに手当てを受ける少女達を見ながら、その視線に鋭さを増していく。朱色の瞳を細め、その内心では煮えたぎるような激情を抑え込んでいるのだろう。

 

「ん···········?」

 

 ふと、失神している眷属達の服からファミリアのエンブレムが無くなってることに気づく。剥ぎ取られたのかと思い、念の為に確認してみたがやはり無かった。

 

「(エンブレムを奪う宣戦布告のつもりかぁ? いや、ちゃうな、レフィーヤを連れ去った時点でそんなもん······ああ、そういうことか)」

 

 なるほど、頷きながらロキは忌々しげに舌打ちする。カーリーの思惑に思い至ったからだ。

 

「ティオナとティオネ、呼び止めるんや。どこにも行かせたらあかん」

 

 周りに集まってくる団員たちに向けて既に後手に回っていることを悟りながらも指示を出す。

 

十中八九、己の眷属にティオネ、ティオナとテルスキュラの殺し合いの儀式をさせるつもりだ。

 

「なぁアイズたん連中と戦ったのは自分しかおらんのやけど、あのボインボイン姉妹抜いたら、敵の強さってどんくらいやと思う?」

 

「·······私が戦ったアマゾネスは、Lv3から、4かな」

 

 

 町中で暴れたアマゾネスの相手をし、女棟梁とも相対した一戦を思い出して答えれば、ロキは難しい顔で腕を組む。Lv.6であるアイズからすれば───同じくLv.6である団長姉妹は除く───難敵とは言えないもののその特有の格闘技術は侮れないものがある。

 

何より自らの命すら顧みない捨て身で間合いに飛び込んでくる執念と思い切りの良さは厄介だ。命の奪い合いを日常とする戦いの中で磨かれたものであろう狂戦士の術理とも言える。

 

アイズが言う通り、アマゾネス達が全員Lv.3以上だとすると相当に厄介な相手になる。人間同士の殺生に慣れていない若手の団員達にとっては特に。

 

対怪物の専門家である冒険者達にとって人との戦闘経験は少ない。ましてや命の奪い合いを前提とした対人戦闘など皆無に近い。

 

無論、必要とあらば躊躇いはしないがそれでも怪物を相手にするのと比べれば少しばかり太刀筋が鈍る。

 

アイズとてそうなのだ、第二級以下の団員達では咄嗟に躊躇ってしまうかもしれない。今の【ロキ・ファミリア】で容易く迷いを捨てられるのは『暗黒期』の始まりから常に最前線にいたフィン達首脳陣の他には神殺しすら躊躇わないアルぐらいのものだろう。

 

「幹部はともかく、敵の中堅はこっちより手強そうね」

 

「ええ、悔しいですが········」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

テルスキュラのアマゾネスに拐われたレフィーヤを奪還するために、ティオナはあらかじめ指定されていた場所に向かった。潮水で湿った岩場を駆け上がり、鉄錆臭い匂いがする洞窟の中へと飛び込む。

 

汽水湖から塩水が流れてて岩壁を浸蝕している。そのせいか、洞窟内は湿り気を帯びていた。肌に張り付くような不快感と圧迫感を感じながら奥へ進んでいくと、広い空間に出た。

 

そこは、天井から垂れた水滴がぽつんぽつんと音を鳴らすだけの静寂に包まれている。

 

「海蝕洞·······?」

 

 人が何人も通れそうな巨大な入り口は波で削れたのか、人の手が加わったように綺麗な円形を描いている。中は薄暗く、ティオナは目を凝らして辺りを見渡した。

 

膝下程度の高さがある潮水に浸かった岩壁には苔や海藻が生えており、地面も濡れていて滑りやすい。そして、何よりこの湿気だ。空気が重く感じるほど、洞窟内の湿度が高い。

 

「なんかダンジョンみたい」

 

 蟻の巣のように入り組んだ道をしばらく歩くと、ぽつんぽつんと魔石灯が設置されている岩壁に行き着いた。

 

魔石灯は淡く発光しており、暗闇の中に道しるべを残している。ティオナは足を止めることなく先に進む。

 

やがて開けた場所に辿り着いた。そこだけそれなりに明るく照らされており、天井には大きな穴が空いている。そこから月明かりが入り込んでいるのだ。

 

そこには、下はティオナよりも若く、上は団長姉妹くらいの年齢のアマゾネス達が居た。彼女達は露出の多い扇情的にも見えるアマゾネス特有の踊り子のような服装をしている。

 

「よぅ来たのぉ、ティオナ」

 

 円形に位置どるアマゾネス達に囲まれるように自ら天然の闘技場に足を踏み込んだティオナに、中央にいた幼女神が歓迎の言葉を口にした。

 

彼女は腰まで伸びた長い臙脂色の髪を揺らしながら、幼さと老熟さを兼ね備えた妖艶な笑みを浮かべている。

 

アマゾネスとカーリーの他に唯一、見慣れない白い巫女服を着たアマゾネスではない少女がいるが、今のティオナには気にする余裕はなかった。

 

なぜなら、ティオナの正面に静謐とした雰囲気を纏った女がいたからだ。砂色の髪は肩まであり、高い背丈に女性らしい起伏に富んだ肢体に仄かな光の粒を纏うそのさまは堕落した天女のようでもある。

 

「バーチェ········」

 

 砂色の髪の女を見て、ティオナは小さく呟いた。バーチェは鋭い眼光でティオナを見据えたまま口を開かない。

 

「········カーリー、レフィーヤは?」

 

「こことはまた別の空洞に捕えておる。心配せずとも解放してやる」

 

 相対する師弟を見て目を細めるカーリーは、どこか愉快そうだった。しみじみと口を開く。「よもやこんな日が来るとは思わなんだ·········師弟同士、ここまで互いが成長した姿で争いを迎える時など」と独り言ちると、ティオナの控え目な胸もとを一瞥して哀れみを込めた視線を送る。

 

「まぁ、片方の胸はあまり成長しておらんが·······」

 

 気の毒そうに言うカーリーの一言に、ティオナの顔色が変わった。ティオナは自分の胸に手を当ててみる。確かに小さいかもしれないけど、これから大きくなる予定なのだ。

 

 

今は発展途上だから仕方がないじゃないか!それに、この大きさだからこそ出来る動きもあるし! などとティオナは反論するも残念ながら成長期はもうじき終わりを告げることを本人は知らない。

 

ちなみにアルガナもティオネと同じ程の胸囲であり、バーチェに至ってはその二人すらも上回る豊かさを誇っているのだが、それは今関係ない話である。

 

「────構えろ、ティオナ」  

 

 むきー、と憤慨していたティオナだったが、不意にかけられた声に我に返って前を見る。そこには既に構えたバーチェの姿があった。

 

口元を黒布で隠すその立ち姿はまさに戦士。彼女の身体から滲み出る覇気が、ティオナにも伝わってくる。

その威圧感に思わずゴクリと喉が鳴る。

 

「死合うぞ」

 

 そう、冷たく言い放つと弟子であり、妹のように接していたはずのティオナに向けて油断なく拳を構えた。

 

瞬時に張り詰めた空気の重さに否応なしにティオナは十年前に別れた時のバーチェと今のバーチェは別人であることを実感させられる。寒気を催させるほどの闘志がひりつくほどに肌を刺激していた。

 

テルスキュラではLv.2の戦士を選別するためにLv.1の幼子同士を殺し合わせる。

 

Lv.3の戦士を見出すためにLv.2の戦士同士を戦わせ、Lv.4の戦士を作り出すためにLv.3の戦士達を戦わせる。

 

Lv.5を生み出すためにはLv.4の戦士達を、Lv.6を生むためならばLv.5の戦士達をぶつけ合い、殺し合わせ、より強い戦士を作る。それこそがテルスキュラのアマゾネスという種族だ。

 

おそらく、ティオナの知らない年月の中でバーチェは『近づいた』のだろう。テルスキュラが理想として掲げる『真の戦士』に。

 

同胞同士の蠱毒、戦士同士の喰らい合いにより純化された肉体と精神。そして、アマゾネスの長い歴史の中で生まれた技術と戦術の数々。それらを身に着けた今の彼女は、紛れもなくテルスキュラの怪物。

 

姉のアルガナを毒蛇の怪物とするならばバーチェは───!!

 

「【───食い殺せ】」

 

「【ヴェルグス】」

  

 構えを崩さぬまま唱えられる超短文詠唱。それはアイズと同じ詠唱量で発動するバーチェにのみ許された付与魔法。

 

ティオナに向けられた拳が魔法の発動と共に蠕動を繰り返す黒紫の光膜に包まれていく。

 

見るからに毒々しい、悍ましさすら覚えるほど禍々しくも美しい魔力光がバーチェの右腕を覆い尽くしていく様を見て、ティオナもまた構えを堅くする。

 

派手で華やかな魔法のイメージを掻き立てるアルの炎やアイズの風などとは違う禍々しい付与魔法。

 

その属性は『猛毒』。触れた者全てを侵す防御不可の付与魔法。攻防一体にして徒手同士において最凶の攻撃手段。

 

必毒であり必殺でもあるその魔法こそ、彼女が持つ最強の矛にして盾。それを前にしてティオナは初めて恐怖を覚えた。

 

抵抗しなければ瞬く間も無く殺される。かつての師弟関係だった頃の記憶は今のバーチェには通用しない。

 

「──征くぞ」

 

 ────紫の残光だけを残して、ティオナの視界からバーチェが消え去った。

 

「───?!、───ぐ、あっ?!」

 

 次の瞬間、ティオナのすぐ前の空間が爆ぜる。ヒュンッ、と掠めるように通り過ぎた拳が生み出した衝撃波が髪を揺らした。

 

遅れて襲い来る影に対してかろうじて体勢を整えたティオナの防御を喰い破り、破城槌が如き一撃がティオナの臓腑を痛烈に穿つ。

 

衝撃が内臓を揺るがし肺の中の空気を全て吐き出させる。咄嵯に後方へ飛び退いたことで威力を殺すことは出来たものの、その凄まじさに吹き飛ばされ地面を転がった。

 

ティオナの眼前にはいつの間にか距離を詰めていたバーチェの姿がある。既に次なる攻撃のモーションに入っているバーチェの姿を認めたティオナは即座に身を起こし、迎撃せんと拳を振るう。

 

しかし、バーチェの拳は既にティオナへと迫っていた。慌てて軌道を変えようとするも間に合わない。

 

振り抜かれた右ストレートをティオナの左腕が受け止めるも、あまりの勢いにそのまま弾き飛ばされた。辛うじて空中で姿勢を制御し着地するも、ティオナの顔は苦痛に歪んでいる。

 

そんなティオナに向けて、バーチェは追撃をかけるべく疾駆していた。ティオナの頭上から放たれた左拳が、彼女の頭部を打ち砕かんと迫る。

 

それを察知したティオナはすぐに横っ跳びに回避行動を取った。直後、先程までティオナがいた場所に突き刺さるように降り注いだのは毒々しい輝きを放つ拳であった。

 

自分どころかフィンたちをも上回る速度にティオナがどうにか反撃しようにもこちらの攻撃は容易くいなさられ、あちらからの攻撃をティオナは全て避けねばならない状況。

 

毒の触腕による突きを腕を振り上げ直撃こそ防ぐものの受け止めた左腕が劇毒によって凄まじい悲鳴を上げている。

 

加えて、バーチェの拳は毒を抜きにしてもただの一発でティオナの腕を痺れさせていた。

 

ポイズン・ウェルミスの劇毒すらも遠く及ばないその毒はいくらLv6とはいえ、超短文詠唱によって引き出せるものではない。そして、何よりも。

 

「(ランクアップしたはずなのに力でも速さでも圧倒的に負けてる?! ─────まさか、Lv7?)」

 

 船で出会ったときはそれほどの威圧は感じなかった。Lv6になったばかりの自分よりは強くとも、アルや『猛者』に並ぶほどとは到底思えなかった。

 

「悪いの、ティオナ。妾とて本意ではないのじゃ。本来、対等のもの同士での戦いこそ至高なのだが········。『剣聖』がいない以上、「Lv7」の実力を見るにはこうしなくてはならなかったのじゃよ」

 

 カーリーはバーチェの圧倒的なポテンシャルに目を輝かせながら「アルガナは自分だけの力でティオネを殺したがったしのう」と、今のバーチェとの実力差の正体を明かす。

 

「にしても、紛い物でもこれ程とは······。純正の『剣聖』や『猛者』はいかほどなのか······」

 

 激痛の中で「場合によっては『剣聖』を種馬にしたいのう」などと呟くカーリーの言葉にバーチェの強さには何かしらのからくりがあるのだと、そしてカーリーの本命は自分たちではなくアルなのだと、理解したティオナだったが、一撃一撃を凌ぐのに命をかけなくてはならない今のティオナにはどうしようもできない。

 

「────さらばだ、ティオナ」

 

 紫を超えて漆黒の槍と化したバーチェの手刀が防御を崩されたティオナの胸へ迫り─────。

 

 

 

 

その瞬間、一迅の雷鳴が昏き洞穴を照らし、戦いを観戦していた数十ものアマゾネスが神速の斬撃によってまとめて吹き飛ばされた。

 

「──アル?」

 

 そして、返す刀でLv7相当のステイタスに強化されたバーチェも紫の残光だけを残して岩壁へ叩きつけられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






アルすけ『突撃!!お前が晩御飯!!』

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