皆の傷になって死にたい転生者がベルの兄で才禍の怪物なのは間違っている   作:マタタビネガー

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すでに消したけど寝ている間に遥か先の話が投稿されててビビった。何かで予定入れちゃってたのかな。


五十七話 ベートあげるから国に帰ってくれない?

「お前らが目的とするのは『真の戦士』、だったか?」

 

「なら、来い」

 

「歓べ、アマゾネス」

 

「今、地上で最もその高みに近づいているのはこの俺だ」 

 

 その威圧感に気圧される。これまで自分が相手にしてきた有象無象とは格が違う。目の前にいるのは怪物の中の怪物、まさしく本物の怪物だと。

 

──────否、怪物などではない。紛れもない英雄だ。かつて他でもないティオナに読み聞かせた英雄譚に登場する、英雄という存在そのもの。それがこの白髪の青年の正体だと理解する。

 

先程までの虫を払うかのような動きとは異なり、ゆっくりとこちらへ向き直るアルの姿がバーチェには巨大な壁のように思えた。

 

向けられる先程とは違う確かな戦意。それを感じた瞬間、バーチェの四肢は思考を置き去りにして動いていた。

 

「【食い殺せ】!!」

 

 消えかけていた猛毒の付与魔法を再度かけ直し、己が武器である拳を構える。

 

恐怖ではなく、闘争心を焚くことで身体を動かし、戦意を奮い立たせる。 

 

だが、それでも足りない。先程の攻防とも言えぬ一蹴でバーチェは痛感させられたのだ。

 

戦士としての『技と駆け引き』はもちろんのこと、単純な力比べすらも自分の遥か上を行く英雄を相手にするには力不足であることを悟った。

 

「あ、ああああああ───ッ!!」

 

 おおよそ『最強』という言葉を体現している英雄を前にもはや考える余裕などなく、バーチェが初めての咆哮をあげる。

 

常に平静を保った寡黙な戦士としての仮面を投げ捨てなりふり構わずに突撃した。

 

全身全霊、全力をもって英雄に挑む。眷属としてではなく、女としてではなく、戦士としてただひたすらに拳を振り上げる。

 

恐怖をアマゾネスとしての本能が塗り潰す。その闘志を燃やすことでバーチェは恐怖を乗り越える。

 

肢体の隅々にまで趨る充足感、これまでにない力の脈動は狐人の階位昇華によるものだけではないだろう。

先程までとはまるで別人。そう言わんばかりにバーチェの肉体は限界を超えていく。

 

殻を破らんとする雛鳥の如く、英雄へと飛びかかる。しかし、アルもまたそれを待っていたかのように迎え撃つ。

 

先程の一蹴が嘘であったかのような踏み込み。一瞬で懐に飛び込んできたバーチェに対し、アルはまだ動かない。

 

黒紫の魔力を全身に鎧のように覆い、死毒の化身となって吼りを上げる拳。

 

バーチェの付与魔法、【ヴェルグス】は攻守に作用する。あらゆる物理攻撃はバーチェが食らおうが防ごうが弾こうが、相手へ確かな損傷となって蓄積されるのだ。

 

元のLv.6の時点でも岩を溶かし、『恩恵』を受けた者の肉体をも溶かすほどの猛毒を宿していたバーチェの拳は一度侵されればいくら【耐異常】という恩恵があったとしても治療しなければ命は五分と持たない。

 

それほどまでにこの毒は凶悪であり、白兵戦においてはまさに必殺にして必毒の一撃となる。

 

更に、狐人の魔法によってLv7の階位にまで強化されたことにより、その毒性はより凶悪なものへと変貌を遂げていた。

 

生物、非生物を問わず触れたものを腐食させ、溶解させる猛毒の波濤。

 

無意識下に嵌めていた箍がアルという英雄を前に外れ、『魔法』の色は紫を超えた漆黒に近い色ヘと変色していく。

 

一時的にとはいえ、英雄の領域へと足を踏み入れたそのステイタスと魔法はまさしくLv.6の範疇を超越したものとなっていた。

 

その毒腕は敵はおろか、自分自身すらも侵す諸刃の剣と化していたが、バーチェはその危険性を理解した上でその拳を突き出す。

 

皮膚を、肉を、骨を自らの毒で焼きながらバーチェは渾身の一撃を放つ。

 

第一級冒険者であろうと絶命せしめる毒腕は、同じく箍の外れた肉体の躍動を見せるバーチェとともに、たった一人のヒューマンを殺すためだけに限界を超えた速度で迫る。

 

ティオナの視界から消えるほどの速度。肉体の自壊を前提とした赤髪の怪人すらも凌ぐほどの決死の一撃。だが────。

 

─────パシッ。

 

「悪い、俺に毒は効かないんだ」

 

 己の全てを賭けた一撃を豆でもつまむかのように止めた白髪の青年と眼前に迫る延長された時間感覚の中であっても神速を誇る手刀。それがバーチェが気絶する前に見た光景だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

─────海蝕洞窟での戦いとフィンがけりをつけた船上の戦い、ヒュリテ姉妹の二つの戦いは他でもない仲間の救援により幕を閉じた。

 

姉妹は笑った。今の自分たちには仲間がいることに、そして、その仲間たちが駆けつけてくれたことに感謝した。

 

翌日、メレンに来ていたウラノスの側近であるフェルズの秘密裏の手回しもあり、【ロキ・ファミリア】と【カーリー・ファミリア】の抗争という事件は一応の決着を見せた。

 

アルガナとバーチェの姉妹団長に加え、Lv.3からLv.4のアマゾネス達が全て負けたことにより不承不承ながらもカーリーは敗北を認めたのだ。

 

ギルドは抗争の中で起きた家屋の破壊などの原因は全て【カーリー・ファミリア】にあると発表することとした。

 

辺境の地からやってきた野蛮で無知なアマゾネス達が都市で暴れ回ったことによる結果だと、そう発表することで事を収めようとしたのだ。あくまでも田舎者の起こした不幸な事故だと片付けることで責任を押しつけたのである。

 

食人花のモンスターはたまたま湖から陸に上がってきただけに過ぎず、今回の事件とは無関係だと主張。結果として、都市の市民たちはアマゾネス達による蛮行だと信じて疑わなかった。

 

ギルド上層部としても、これ以上事を荒立てるわけにもいかず、また、善神ニョルズと市長、ギルド職員による密入などという醜聞を表沙汰にするわけにもいかないためにこの決定を下したのであった。

 

食人花のモンスターのこともあり、支部とはいえギルド幹部が闇派閥がらみの密輪に関わっていたという何よりも致命的な汚点を隠す必要があったのも大きい。

 

そんな背景があり、この事件は一応の解決を見た。

 

もっとも、これで全てが終わるわけではない。事件の後始末や怪我人の治療、破壊された家屋の修理とやることは山積みだ。

 

特に一番の問題はこの件、裏で糸を引いていたと思われる女神イシュタルの思惑と行方が未だにわかっていないことだ。

 

いや、事件を紐解いていけばわかるはずなのだがそうしては芋づる形式でギルドの弱味まで晒されてしまう。

 

裏で画策しているであろう黒幕の意図を汲んであえて泳がせるほかなかったのだ。しかし、いつまでも黙っているほどにギルドも甘くはない。

 

ギルドはこの一件で得た情報を元に、都市に潜んでいるかもしれない闇派閥の残党を炙り出しにかかるだろう。

 

港の運営はしばらく麻痺するだろうが、それでも今回の事件で死んだ者は一人もいない。

 

食人花の被害も予想以上に少なく、人的被害も最小限に抑えられた。後はこの騒動の後始末さえ済めば、メレンは再び平穏を取り戻すことになるはずだ。

 

「で、クソチビ。今度は自分の番や。洗いざらい吐いてもらうで」

 

 メレンのとある喫茶店。一通りの事後処理を終えたロキはアルと共にその店のテラス席に座っていた。ロキの眼の前では他でもないカーリーがテーブルの上に突っ伏し、項垂れている。

 

紐でぐるぐる巻きにされ椅子に縛り付けられた彼女の姿は、とてもではないが国家ファミリアの主神には見えない。

 

童女の女神は今、尋問を受けていた。それも当然のこと、ロキとしてはこの一連の出来事の裏で暗躍していたイシュタルの企みについて聞き出さなくてはならないからだ。

 

イシュタルは食人花のモンスターを使役していた。それはつまり、闇派閥の生き残りを利用していたということである。

 

いくら【カーリー・ファミリア】が他の闇派閥とは違い、オラリオ外の勢力であるとはいえ、明らかに闇派閥と関わっている以上、放置しておくわけにはいかない。

 

このままではギルドの信用問題に関わるだけでなく、今後の都市運営に大きく関わってくる。だからこそ、ここで徹底的に問い詰める必要がある。

 

「·······ふんっ、じゃ」

 

 ロキの鋭い視線に晒され、ぷいっと顔を背けるカーリーは相変わらず不機嫌そうだ。彼女はバーチェがアルに敗北した後、あっさりと負けを認めて引き下がった。

 

その潔さにロキ達も手荒な真似はせず、とりあえずは拘束して話を聞こうとしたのだが、彼女は何も喋らない。

 

バーチェを倒した後、ティオナを治療したアルによって未だ街中で戦っていたのも含めた残りのアマゾネスは簡単に無力化された。

 

敗者の扱いを受け入れ、抵抗の意思を見せない彼女たちを情けで治療して彼女たちの船に投げ込んだ後、カーリーだけはこうしてロキの前に座らされている。

 

「とりあえず、ティオネ達にもう関わらんことを約束しろ。特にあのアルガナっちゅう戦闘中毒者にはよく聞かせておけや」

 

 アルガナ・カリフ。バーチェと共に【カーリー・ファミリア】の団長を務める女傑であり、怪物。

 

そのステイタスはフィンたちと同じLv.6であり、その凶暴性は戦闘特化の呪詛を発現していることからもわかるように常軌を逸している。

 

彼女に限った話ではない。今回の抗争に参加した【カーリー・ファミリア】のアマゾネス達は皆、狂戦士とでも呼ぶべき危険な精神性を持ち合わせていた。

 

中でもアルガナの凶暴性は類を見ないほどに突出しており、そのあり方はカーリーが理想とするテルスキュラの狂戦士そのもの。

 

毒蛇の如き狡猾さと残忍さを兼ね備えた彼女は他でもないティオネと因縁がある。

 

ロキとしてもかわいい眷属に手を出されるようなことは避けたいため、これは譲れない条件だ。

 

しかし、カーリーの返答は意外なものだった。顔を上げずとも、彼女が嘲笑うかのように鼻を鳴らしたことにロキは気付いた。

 

「······もうアルガナは使い物にならん」

 

「あん?」

 

 机に突っ伏したままのカーリーの言葉にロキは眉根を寄せた。使い物にならないとはどういう意味なのか。アルガナがフィンに負けたのは確かだが再起不能になるほどの傷は負わせていないはず。

 

「アルガナだけでなく他の者達も········バーチェも貴様の男共にやられたもんは全員そうじゃ」

 

 むくり、と体を起こし、ロキを睨み付けるカーリー。唇を尖らせ、不満げな態度を隠そうとしない。まるで拗ねている子供のようだ。

 

「あやつも女であったか」とか「恋する乙女とかもう······」とか「お先真っ暗じゃ」などと死んだ魚のような目でぶつぶつと呟くカーリーにロキはますます困惑する。

 

カーリーが何を言っているのか理解できない。そもそもロキが聞き出したいのはイシュタルの動向だ。なのに何故そんな話題を持ち出すのか。

ロキが困惑する中、カーリーは言葉を続ける。

 

「国はもう終わりかもしれん·······あぁ、妾の楽園。·······主のせいじゃぞ、『剣聖』。妾の眷属たちを尽くダメにしおって·······」

 

 万が一、伏兵がいた際に備えてロキの護衛を務めているアルへ目を向けるカーリーだったが、アルはつまらなそうに目を瞑っている。

 

「······はぁ、妾が来た理由は【フレイヤ・ファミリア】じゃよ。嫉妬深い女神の依頼での。妾は噂の『猛者』をアルガナ達と戦わせてみたかったんじゃが·······」

 

 

 

 

 

 

 

 

「全くカーリーめ········予想通りロキ達にやり返されたか」

 

 既にメレンから離れたイシュタルはオラリオにて苦々しい表情を浮かべながら報告を聞いた。

 

イシュタルの助力があったのにもかかわらず【カーリー・ファミリア】が敗北し、アマゾネス達が捕縛されたことは既に知っている。

 

 

メレンにいる密偵と魅了した信者に並行して情報を集めさせていたのだが、結果は散々なもので、イシュタルとしては苛立ちが募るばかりである。

 

【ロキ・ファミリア】自体は気に食わないだけで直接、イシュタルの計画に関わっているわけではないが、カーリー達の敗北は計画の遅延を強いるもの。

 

とはいえ、それはまだ許容できる範囲内だ。元々、カーリーの勢力では【フレイヤ・ファミリア】を止めることなど不可能に近い。

 

本命の切り札を上手く使うための捨て駒にしただけに過ぎないのだ。

 

不機嫌さを露わにするイシュタルは薄暗い石畳の通路を派閥の副団長である青年男娼を付き従わさせながら歩く。

 

幸い、この件で【イシュタル・ファミリア】の戦力に目立った被害はない。むしろ、アンチ・ステイタスと魔法阻害の呪詛の試しが済んだことで満足しているくらいだ。

 

紫煙を燻らせながら、イシュタルはカーリーが集めたという情報を吟味していた。今回の件で得た情報は呪詛の効果を測るものと同時に、あの忌まわしき白髪の英雄の実力を探るためのものでもあった。

 

 

密偵の報告によるとあの男は春姫の魔法によって一時的にとはいえ、Lv.7相当の力を手に入れた【カーリー・ファミリア】の女団長を一蹴したという。

 

信じられない話ではあるが【ロキ・ファミリア】は遠征を終えてすぐであり、相当にそのステイタスを上げていると考えればレベルブーストの感覚に慣れていないバーチェを容易く倒したのも納得がいく。

 

「やはり当てにならん·····いざとなったら 「コレ」を使わせてもらうか」

 

 コツコツと石畳を踏み鳴らしながら、イシュタルは懐からオーブのような金属の珠を取り出す。それは魔導具の一種であり、この人工路の『鍵』である。

 

イシュタルがその魔導具に念じると眼の前のオリハルコンの大扉がズズズッ、と音を立てて開いた。

 

視界に広がるのは特殊な石材で設計された大空間。とある一族の妄執が生み出した異質な場所だった。

 

中では白いローブに身を包んだ不気味な者達が慌ただしく動き回っている。ある者は床に置かれた巨大な装置を操作し、また別の者は水晶玉を覗き込んでいる。

 

そして、部屋の中央には禍々しい祭壇があり、そこにイシュタルは歩み寄る。

 

バルコニーのような造りになっているその場所から覗き込むように下を見下ろすイシュタルは愉悦に満ちた笑みを浮かべた。

 

そこは広間の中心であり、ギチギチギチと耳障りな音が響く。視線を下に向けると、そこには巨大な怪物がいくつもの野太い鎖に繋がれていた。

 

全身を覆うのは青黒い肌と金属のような光沢を帯びた毛。巨大な牛の下半身に人間のような上半身が不自然にくっつけらえたような姿だ。

 

怪物の顔は醜悪そのもので、口の端からは泡を吹き出している。目は焦点があっておらず、時折ビクン、と身体を痙攣させている様は正気を失っているようだ。

 

この怪物こそがイシュタルの真なる切り札にして隠し玉。

 

「············差し詰め天の雄牛といったところか」

 

 

 

 

 

 

 

 

「やけに素直に言うやないか」

 

「いや、じゃって··········無理じゃろ」

 

 レベル7だか8だか知らんが、アルと同格の『猛者』を有する【フレイヤ・ファミリア】が相手ではいくら「切り札」や「隠し玉」を持っていたとしても【イシュタル・ファミリア】程度では戦いにもならぬと下手な口笛を吹いて嘲笑う。

 

 

 

 

 

「あ、妾たち。オラリオに移住するからの」

 

「「は?」」

 

「そっちのが惚けたあやつらは強くなりそうじゃからの~」

 

「「は?」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『アルすけ』

タイトル通り。Lv.8になったよ。

 

『イシュタルファミリアの皆様』

イシュタルがアルにちょっかい出したとき、アイシャなどはぶっ飛ばされてます。アルがアマゾネス嫌いになった理由。春姫とはあったことない。

 

『カーリーファミリアの皆様』

アルガナ、バーチェ以下、精鋭たちがオラリオ入り。国家系ファミリアなので極一部だが全員が上級冒険者並み。やったねウラノス、戦力が増えるよ!!

 

 

 

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