皆の傷になって死にたい転生者がベルの兄で才禍の怪物なのは間違っている   作:マタタビネガー

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眠い


六十一話 あー、毒使いのアマゾネスなら紹介できるぞ

 

「【アポロン・ファミリア】との戦争遊戯の助っ人かぁ」

 

「·····うん、そうなんだ。君なら都市外の実力者にも覚えがあるんじゃないかと思ってね」

 

 【ヘスティア・ファミリア】と【アポロン・ファミリア】の戦争遊戯。

 

ベルを手に入れたいアポロンの意志を汲んだ眷属の独断専行によっておきた両派閥間の抗争。

 

神会でのロキの提案によって抗争の落とし前として戦争遊戯による明確な決着がつけられることになったのだが、その勝負方法はクジによって相手側の城に攻め入り、相手のボスを討ち取れば勝ちとなる『攻城戦』に決まった。

 

そこで問題になったのが互いの戦力差である。確かにベルは強い、ついこの前にランクアップしたばかりではあるもののベートという第一級冒険者の師匠による薫陶や死地から生還してみせた経験によって冒険者としての経歴の短さに反して確かな実力が備わっている。

 

対人・対怪物問わない万能の対応力を誇る詠唱不要の速攻魔法に加えて、スキルによるステイタスの急成長と度重なるモンスターとの死闘で培われた実戦経験も合わさって既にLv.2の中でも最上位に位置するほどだ。

 

一対一ならば【アポロン・ファミリア】に所属するLv.2の上級冒険者が相手でもまず間違いなく勝てるだろうし、複数人で来られても対処できるだけの『技と駆け引き』もある。

 

たとえ、団長であり【アポロン・ファミリア】唯一のLv.3であるヒュアキントスであっても格上殺しを成し遂げてしまうのではないか、そんな期待さえ抱かせるほどの成長を見せている。

 

一対一の決闘方式であれば誰が相手だとしてもアルやロキの想定通り十二分に勝利できる可能性はある。

 

だが、今回の勝負方法は相手側の城に攻め入り、相手のボスを討ち取れば勝ちとなる攻城戦。攻めにも守りにも人数が必要になってくる。いくらなんでもたった一人ではどうしようもない。

 

ヴェルフやリリルカ達が改宗したとしても片手に収まる程度の数しかいない【ヘスティア・ファミリア】に対して【アポロン・ファミリア】には冒険者が総勢百十人ほど所属しており、Lv.2の上級冒険者もそれなりの数がいるのだ。

 

とてもではないが戦力に差がありすぎる。その不利を打ち消せるものではないが一人まで【ヘスティア・ファミリア】は助っ人を戦争遊戯に参加させることができる。

 

しかし、助っ人を提供する派閥は、都市外のファミリアに制限されている。参加させられれば確実に勝てる【ロキ・ファミリア】の団員などは都市の外に本拠を構えるファミリアしか助っ人として参戦することができない決まりとなっているため、必然的に候補から外すことになる。

 

都市外で助っ人の募集をかけても集まるかどうか不明だし、何より戦争遊戯開催日時に間に合うかもわからない。 

 

なにより、オラリオ内のファミリアに比べて外のファミリアの眷属の水準は低い。ダンジョンでの効率的な経験値稼ぎができるオラリオとは違い、オラリオの外ではオラリオの冒険者ほどレベルを上げることができない。

 

ダンジョンという魔境に挑戦し、日々モンスターと死闘を繰り広げて鍛え上げられた冒険者と魔石を劣化させたモンスターや人間同士の戦いしか経験していない都市外の使い手では実力に大きな隔たりが生まれるのは必然だった。

 

だからこそ、都市の外から助っ人として呼べるファミリアは必然的にレベル2以下の中堅以下に限られるというわけだ。

 

オラリオ内外では戦う相手と成し遂げられる偉業のレベルが違う。当然、得られる経験値も桁違いになるだろう。

 

良くてレベル2の都市外の実力者を呼んだところで戦況を覆すことなど不可能に近い。

 

中には【アルテミス・ファミリア】のようにLv.3の眷属を抱えた機動力に長けるファミリアもあることにはあるものの、それほどの戦力を抱えたファミリアを探しだして戦争遊戯までにそんな有力派閥に協力を仰ぐためのコネなんて【ヘスティア・ファミリア】にはない。

 

つまり、事実上、この戦争遊戯での勝利は不可能なのだ。そして、この勝負に勝たなければベルは手元から離れてしまう。

 

だが、ベルの兄であり、都市内に留まらない名声を持つアルであれば? 本人の協力が得られずとも或いは、という考えでヘスティアはアルヘ頼ったのだ。

 

「【ヴェーラ・ファミリア】·······は間に合わないか」

  

 とあるモンスターの存在によって猛毒の沼と生者を冒す瘴気に覆われた過酷極まりない環境へと姿を変えてしまった泉と霧の郷、ベルデーンに根ざすファミリアの名前を口にするも、アルは首を横に振る。

 

あの盲目の剣豪であれば【アポロン・ファミリア】程度、容易く一蹴できるだろうが、流石に遠すぎる。

 

彼の地の眷属は軒並み高レベルの精鋭揃いではあるが、その強さは環境の過酷さの裏返し。

 

モンスター以外は草も空気も、人すらも腐らせる死の大地と化したベルデーンは歪な形での進化を遂げたモンスターの存在もあって図らずもダンジョンの中のような様相を呈している。

 

原因である『泥の王』と呼ばれるモンスターに生贄として特殊な魔法を発現させた巫女を捧げることで辛うじて滅びを回避してきた地。

 

アルがお使いのついでに歩くお手軽版・炉神の聖火殿(レァ・ポイニクス)で瘴気もモンスターも焼き払ったため、今は正常化しつつあるものの、それでも近付くだけでも命の危険があるほどに過酷な土地だ。

 

流石に今回の戦争遊戯には呼べない。

 

だが、それを除けば滅多にオラリオの外へ出ることのできないアルはヘスティアが思っているほど都市外のファミリアに顔が利くわけではない。

 

「都市外の派閥で実力者···········あっ、あー、いるわ」 

 

「本当かい?!それで、紹介してくれるかいっ!?」

 

 アルの呟きを聞いたヘスティアの顔がぱぁっと明るくなる。

 

確かにいる。それもついこの間に知り合ったばかりでこれからオラリオに移住する予定だが、今はまだ都市外に所属していることとなっており、Lv.2どころか、Lv.3やLv.4の実力者がオラリオに来ている内の大部分を占めてさえいる。

 

しかし─────

 

「できるだけマシなやつ··········。あー、毒使いのアマゾネスなら紹介できるぞ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

戦いとは恐怖と向き合う事。

 

強さとは恐怖から逃れる為の手段。 

 

私、バーチェ・カリフにとって人との戦いに恐怖を感じない日はなかった。

 

テルスキュラのアマゾネスは産まれてすぐにカーリーから『恩恵』を受けてファミリアの末席に迎えられる。

 

そして、幼い頃から戦闘訓練を積み重ねる。言葉を覚えるよりも先に武器の握り方を覚え、言葉を覚えた頃にはモンスターと戦う日々だ。

 

私はその日々に疑問を持ったことはない。それが当たり前であり、疑問を持つ必要がなかったからだ。

 

手に残る肉を潰した感触も骨が砕ける音も何もかもが日常だった。だけど、そんな日常はある日に突然終わりを告げる。

 

その日、殺し合った相手はモンスターではなく同胞のアマゾネスだった。  

 

知性も理性もないモンスターとは違う、拙いながらもテルスキュラのアマゾネスとしての『技と駆け引き』を身に着けた敵。相手を殺すことに躊躇はなく、殺し方も変わらない。自分と同じ形をした生物をただ殺すだけ。

 

理由はわからない。きっと、相手の瞳を見てしまったからだろう。そこには怯えと恐怖があり、彼女は私に助けを求めていた。

 

そんな彼女の表情を見た瞬間、全身に鳥肌が立ち、思わず手に力が入った。今までにない感覚。心臓を鷲掴みされたように呼吸が乱れ、頭の中が真っ白になった。

 

周囲の囃し立てる声も聞こえず、ただ目の前にいる同胞の姿だけが目に映った。

 

その顔に浮かぶのは絶望、助けて欲しいという懇願、何故、どうしてという疑問。

 

いつもと違って手が震える。相手と同じように私も怖かったのだ。今まで一度も感じたことが無い感情。恐怖というモノを理解していなかった私が始めて知った感情。

 

怖い。殺されることが恐ろしくて堪らない。

 

必死になってナイフを突き立てんとする相手に、私は初めて恐怖を抱いた。そして、気が付いた時には相手を殺し終えており、血塗れになった私の前には物言わぬ死体となった同胞の姿があった。

 

冷たい石の闘技場は勝者を讃えて敗者を貶める。歓声を上げる同族の声を聞きながら、私はその場に立ち尽くしていた。

 

身体を濡らす同胞の血の温かさを肌で感じながら、胸の中にはモヤがかかったような違和感が残った。

 

戦いと死の中で少しづつ理解する。戦うことは恐ろしい。傷つくことも痛むことも死ぬことも全て恐怖に繋がる。

 

殺されないためには、喰われないためには、強くなるしか無い。

 

なによりも恐ろしかったのは姉のアルガナだ。才能も能力も五分、だが血を分けたはずのアレを姉だと思ったことは一度として無かった。

 

アルガナは、いつだってあたしを殺そうとしていた。血と戦いの申し子、カーリーの生き写しのような怪物。テルスキュラの化身そのもの。それがアルガナに対する偽らざる私の本心だった。

 

血と命を啜る生来の捕食者にして、強者を求める戦闘狂。その性質ゆえにテルスキュラの中でさえも畏怖され孤立していたアルガナは、それでも平然と笑みを浮かべて戦場に立っていた。

 

殺戮を繰り返す姉は私にとっての死神だ。ずっと私は姉の影に追われている。

 

現に儀式の中で殺されかけ、カーリーの制止がなければ確実に死んでいたはずだ。 

 

怖い、怖い、怖い! 何よりも姉に喰われることが怖い!!

 

死の恐怖と生の恐怖。二つの相反する恐怖が私を襲う。今にも発狂しそうな程の激情の中、私は一つの結論に至る。

 

恐怖から逃れる方法など一つしかない。何ものにも奪われることのない強さを手に入れればいい。

 

そうすればきっと、この恐怖からも逃れることができるはずなのだから。

 

戦いの果てに同胞も、姉も殺してテルスキュラの掲げる理想にして命題たる『真なる戦士』へと至る、至ってみせる。

 

その為ならどんな犠牲だって払ってみせる。例え弟子を殺めたとしても。

 

その一心で私は強さを求めて戦い続けてきた。

 

──────しかし、私はあの港町で『本物』に出会ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「········ッ」

  

 それは驚愕であり、恐怖にも似た嫉妬であった。紙を持つアイズの手は震える。その震えを止めようと必死に握り締めるが止まらない。

 

止めどない感情が溢れ出る中、言葉にならぬまま歯を噛み締めた。昏い炎が胸の内で燃え盛っていることを自覚する。

 

「へぇ、あの野郎······!」

 

「ちょっとベート!! 早く見せてよ!!」

 

 そんなアイズの内心など知る由もなく、情報紙をベートから奪うように見たティオナ。そしてその記事を読み進めていく内に、二人とも興奮した様子で騒ぎ出す。

 

幹部に限らず、他の団員も集まってきて、口々に騒ぎ立てながら情報紙を読む。その内容に第一級冒険者までもが驚嘆の声を上げた。

 

アイズは悔しそうに拳を震わせながらも、冷静さを取り戻してあらためて他の者達と同様に記事に目を通す。

 

そこには先日起こった抗争の結末が綴られていた。

 

【アポロン・ファミリア】が【ヘスティア・ファミリア】にベル・クラネルを奪うために仕掛けたとされる抗争の落とし前としてロキが提案した戦争遊戯。

 

アポロンの派閥は曲がりなりにも上級冒険者を複数抱えた中堅ファミリアであり、派閥としての規模も大きい。

 

それに対し【ヘスティア・ファミリア】は零細ファミリアで構成員もベルのみだ。普通に考えれば、どちらが勝つかなど火を見るより明らかだった。

 

圧倒的な戦力差と数の差を面白がった神々が囃し立てる中、冒険者の誰もがアポロン側の勝利を信じて疑わなかっただろう。

 

しかし結果は、なんと【ヘスティア・ファミリア】の勝利で終わったのだ。

 

神アポロンは潔く敗北を認め、莫大な賠償金の支払いと派閥の解散を受諾したという。

 

いくら助っ人として第一級冒険者相当の使い手がいたとはいえ、ベルは格上であるはずのヒュアキントスに対して一対一でありながら冒険者にとっては絶対であるレベル差を覆して勝利した。

 

そして─────ベル・クラネル、Lv.3へのランクアップ。

 

たった一ヶ月の所要期間でのレベルアップという偉業にオラリオ中が沸き立った。記事を読んだ団員が驚きと称賛を隠せずざわつく中、アイズだけは昏い瞳で黙り込んでいた。

 

兄であるアルがLv8というかつての最強派閥【ゼウス・ファミリア】と【ヘラ・ファミリア】しか到達していない領域へ達したこともあり、兄弟揃ってオラリオの注目が集まっている。

 

兄の無茶苦茶な成長速度をよく知る【ロキ・ファミリア】の団員も、弟の急激な成長には流石に驚かざるを得ない。

 

面々もベルのランクアップは都市中の冒険者と同じように仰天するのも無理からぬことであった。

 

「ほら見て見てアイズ!! 弟君Lv3だってすごいねー!!」

 

「うん·······すごく、すごいね」

 

 アイズはアルの弟が更なる高みへと至ったことに嬉しく思う反面、それ以上に焦燥感を覚えずにはいられなくなる。

 

「いや、いくらアルの弟でも······。どう考えたって一ヵ月で昇格っておかしいでしょ全アビリティオールS······あれも何か関係あるのかしら? どう思いますか、団長」

 

 ティオネの言葉にフィンは少し考える素振りを見せる。確かに一ヶ月という短期間でのランクアップは異常だ。だが、その要因について考えてみるといくつか浮かぶものがある。

 

例えば、未発見の発展アビリティやレアスキルの存在とかだ。

 

「(······アルと同系統のスキルなのかな)まぁ、なにか特別な能力は持っていても不思議ではないけど、それに胡坐をかいているだけじゃあすぐに限界が来る。彼が偉業を成し遂げたのは彼自身の努力と気力によるものだろう」

 

 強いスキルや魔法に胡座をかいているような使い手にはいつか必ず限界が訪れる。

 

ベルは違う、とフィンは確信していた。確かにアルのように強力なスキルを持っているかもしれない。けれど、それは彼の不断の努力を否定する理由にはならない。

 

何かしらの諍いの抱えたファミリアとファミリアが互いに公平なルールの元、行われるファミリアの眷属同士による戦争遊戯の記事。

 

アイズの手がくしゃり、と音を立てて紙にシワを作る。震える手を抑えようと必死に握るも、それを止めることは出来なかった。

 

そこに描かれているベルの似顔絵を見て、胸の奥に鋭い痛みが走る。嫉妬と羨望が入り混じった複雑な感情。

 

行きどころのないこの気持ちをぶつけるように焦りが募っていくのを感じながら、アイズは記事を強く握り締めた。

 

美しい金の瞳に曇りがかかり、昏い炎が燃え上がる。

 

アイズがLv3となったのは、冒険者となって二年以上経ってからだ。

 

それなのに、ベル・クラネルは、アルの弟は容易くその階梯を上り詰めていく。アイズはかつてアルヘ抱いた、否それ以上の嫉妬の炎が燃え上がっているのを自覚する。

 

 

冒険者として最上に限りなく近いはずの才能を持つアイズ。しかしそれでも、彼女は己が停滞して足踏みをしているかのような錯覚に陥る。

 

アルが新たな階梯であるLv8へと至って縮まったはずの差が再び広がったからだろうか、アイズの心を蝕むように暗く冷たい闇が広がっていく。

 

自分とアルの間にある差が、さらに開いてしまったような気がした。

 

アルも半年足らずで今のアイズの階梯であるLv6からLv8へと至ったのだ。自分が、アルが次にランクアップするのはいつだろうか。

 

「······強く、ならないと」

 

 アルにおいていかれたくない。このままだと決して追いつけないほどの差が生まれてしまう。そんな不安と恐怖がアイズの中で渦巻いていた。

 

アルにおいていかれたらまた一人になってしまうのではないか。かつての両親に置いていかれた時のような孤独を味わうことになるのではないか。

 

アイズにはそれが恐ろしくてたまらなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【リーヴ・ユグドラシル】や多分あるであろう憧憬スキルとかいらねぇから代わりに使ったら死ぬ系の魔法か、アルフィアのマネできる仮病スキルが欲しい。

 

俺の魔法やスキルは雑に強いのばっかでダンジョン探索とかだと便利なんだが、死ぬことを前提に考えると邪魔でしょうがないんだよなあ········。

 

なんかもう、手っ取り早くフィルヴィスあたりに2レベルくらいあげたいなぁ·······

 

 





戦争遊戯はバーチェ以外は原作ままなのでカットです

・アル
仮病スキルか命削る系魔法がほしい今日この頃

・ベル
ランクアップ。ステイタスはともかく、『技と駆け引き』は原作以上。








・アポロン
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