皆の傷になって死にたい転生者がベルの兄で才禍の怪物なのは間違っている   作:マタタビネガー

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とてつもない難産でした。


六十二話 もしかしなくても、教会が壊されたのって曇らせチャンスだったりしたのか?

 

 

──────ああ······妹よ(メーテリア)。ようやく、そっちへ行くよ───────

 

 七年前の大抗争。オラリオを滅ぼし、世に混沌と破壊を撒かんとする闇派閥とオラリオに住まう冒険者達の七日に渡る死闘は『暴喰』と『静寂』の敗北により終結した。

 

神時代以降、オラリオで最も多くの死者を産み出した戦いであり、今もなお都市に色褪せぬ傷跡を残す悲劇であった。

 

『絶対悪』を自称する地下世界の神エレボスが主導して起こした大抗争。その決着の片割れ、ダンジョン18階層で私は、【アストレア・ファミリア】は『静寂』と相まみえた。

 

焼け残った灰を思わせる灰色の長い頭髪に、固く結ばれた双眸、喪服を思わせる黒いドレスに身を包んだ女だった。

 

二つ名である『静寂』を体現するかの如き佇まいの女に私は、私達は戦慄した。

 

上級冒険者として確かな実力を持ち、格上の敵とも幾度となく剣を交えてきたからこそ分かる格の違い。

 

この上なく静かでありながら瀑布を思わせる魔力の奔流。かき鳴らされる破滅の喇叭は余波だけで身体の芯まで震えさせる。

 

対峙するだけで死を覚悟させられる怪物を前に、私は初めて心の底からの恐怖を覚えた。  

 

灼熱に包まれた18階層を血を吐きながらも悠然と闊歩する彼女はその場にいる誰よりも『英雄』であった。

 

『悪』に堕ちてなお誇りを失わず、最後まで己を貫くその姿はまさしく『英雄』そのもの。全てを薙ぎ払う福音の調べはまるで天より降り注ぐ裁きのように感じられた。

 

何より強く、何よりも美しいその姿は血に濡れて尚も輝いていた。

 

私達が、冒険者が黒き厄災に打ち勝てる最後の英雄となる為の『壁』とならんと、正義であることを捨てて悪へと堕ちた彼女は最後に自ら火に身を投げ入れた。

 

炎に焼かれながら、それでも彼女は笑っていた。それは歓喜でもなければ満足でもない。ただただ穏やかな微笑み。燃え盛る業火の中、彼女の唇が小さく動く。

 

全ては聞こえない。だが確かに紡がれた言葉。そして私の目にははっきりと見えた。

 

燃え盛る火口へと落ちていく彼女は確かに誰か、愛する者への言葉を口にしていたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

『まぁ、メーテリア······ああ、いや、家族の形見のようなもんだ』

 

 数年前、まだアルが第一級冒険者となる前の事。ふとした時にアルが訪れる寂れた古教会について尋ねた際、彼はそう答えた。

 

その表情はいつもの仏頂面ではなく、どこか懐かしむような、どこか儚げなものだった。

 

記憶の片隅を撫でるような、そんな表情でそっと息をつくアル。

彼は自分のことを滅多に語らない。だが、きっと、この教会は彼にとって大切な思い出がある場所なのだと察し、それ以来この話題を出すことを避けてきた。

 

だからこそ【アポロン・ファミリア】の件で教会が壊された時、私は──────

 

 

 

 

「メーテリア、とはどなたですか?」

 

「は?」

 

 私の急な言葉に目を丸くするアル。そんな彼に私は続けた。

 

「不躾な問いだとは自覚しています。ですが、どうしても─────」

 

「いや、別にそれはどうでもいいけど······」

 

  少し言葉を濁すアルから視線を外して窓の外を見やる。するとそこには大通りを走っていく白髪の兎のような少年の姿があった。

 

弟の姿に何を思ったのか、アルは小さく笑みを浮かべる。そしてポツリと呟いた。

 

「·······母親だよ」

 

「────!!」

 

「生来、身体が弱かったらしくてな。父親もそうだがベルが産まれてすぐに俺が子供らしい孝行の一つする前に亡くなっちまった」

 

 それが、それが本当ならば·····あの『英雄』は、アルフィアはアルにとって弟以外で唯一残された肉親ということになる。

 

避けてきた、頭の片隅でその可能性に気が付きながら無視してきた事実。それを今更になって突き付けられて私は胸が締め付けられる思いだった。

 

アルは皆が思っているほど無骨な人物ではない。人並みに笑いもすれば、人並みに悲しみもするどこにでもいる普通の少年だ。

 

だが、必要以上に人に入れ込むようなことはしないし、人に踏み込ませたりもしない。

 

孤高にして孤独、その身一つで全てを背負う。それが彼の在り方であり生き方であると私は知っていた。

 

例外があるとすればあの『聖女』くらいのものだろう。それ故に彼の過去を知る者はいない。

 

アルがオラリオに来てすぐに知り合い、冒険者としての技術や知識を教えていた私でさえ彼が幼いときに家族を失ったことを知っている程度だった。

 

常人離れした孤高の天才、それが私達の知るアルという冒険者なのだ。

 

だからこそ驚いた。まさかアルに弟がいたなんて。それも、ぶっきらぼうながらに所々で普段のアルからは考えられないほどの愛情を感じさせる態度を見せるとは。

 

私の知るアルは守られる側でなく、誰かを守る側の人間だ。そしてそこに間違いはない。生まれながらの英雄、そんな言葉さえ似合うほどに彼は心身ともに強い。

 

けれど、そもそもの話、親を早くに失ったアルはそうならざる、強くならざるをえなかったのではないか?

 

アルは、この16歳の少年は紛れもない『英雄』だ。

 

········『英雄』にしかなれず、『英雄』にならざるをえなかった。

 

だから、彼はいつだって前を向かざるを得なかった。後ろを振り向いて嘆く暇などなかった。

 

そんなことをしていては前に進めないと理解していたから。それは、あまりにも悲しく、残酷なことのように思える。

 

アルは英雄として生きることを望まれ、また望んでいるように振る舞ってきた。

 

それは、英雄以外の道を選べなかったからこその行動だったのかもしれない。

 

私は改めてアルの顔を見る。そこには普段見せる冷徹さはなく、ただただ穏やかな顔つきの少年がいるだけだった。

 

だからこそ負い目を感じてしまう。あの大抗争での戦いには一分の後悔もなけれど、もしアルフィアがあそこで死なずに生きていれば、あるいは彼女がアルの親のようになっていたかもしれない。

 

無論、目的はどれだけ高尚なものだったとしても彼女はオラリオを脅かす悪の一味であることに変わりはない。だから、これは本当にただの感傷。それでも、それでも私は考えてしまったのだ。

 

そんなありえたかもしれないIFを想像してしまったせいか、気付けば私の口は勝手に動いていた。

 

──────アルの家族のことを教えてくれませんか、と。

 

 その問がアルの傷をえぐるものだとはわかっていた。彼は自分の過去を語りたがらない。それはきっと私達を信頼していないからではなく、彼自身が幼いときに負った心の傷を他者に見せまいとしているからだ。

 

それを私は薄々と察していた。だからこそ、今までそのことに触れられないようにしていた。触れてしまえば、彼をもっと苦しめてしまうから。

 

だが、私は知らねばならないと思った。いや、誰かが聞くべきだと。

 

大切なかけがえのない者を喪う痛みは私も知っている。その苦しみは私が一番よくわかる。

 

だからこそ、彼の心の奥底にあるであろう悲しみは放置してはならない。かつての私が復讐にしか生きれなかったように今のアルは強くあることでしか生きていけていない。

 

痛ましいほど強い少年。そんな少年に寄り添うために、私は彼の過去に踏み込まなければならない。

 

例えそれがアルの逆鱗に触れることだとしても、私は聞かなければならない。

 

その覚悟を胸に秘めた私の問いにアルはしばらく黙り込んだあと、ゆっくりと語り始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

え、なに急に。

 

お前といい、リヴェリアといいなんだって俺の家族の話したがるんだよ。てか、ロキとかも最近、妙に優しくてキモいわ。

 

まぁ、アルフィア関連で曇らせの布石置けそうだからこの機を利用しない手もないんで別にいいんだけどよ。

 

俺がオラリオに来たのは寂しさを紛らわせるためとかじゃなく、単純にゼウスのジジイが嫌だっただけなんだけどね。

 

口を開く度『お前が最後の英雄になれ』だからな、あの似非好々爺。

 

いや、ベルだよ? 最後の英雄はみんな大好きベルだよ? 

 

俺は英雄になって世界を救うよりも曇らせたい派なんですけど?

 

にしてもメーテリアって名前どこで聞いたんだよ。

 

あーああ、あの教会か。

 

そういや、リヴェリアやカサンドラも教会がどうとか言ってたな。

 

··········ん?

 

·······················んん?

 

································あれ?

 

確か俺、あの教会って母親の形見、みたいなもんだってあいつらに言ってたよな。 

 

だからあいつら、あんなに俺を気遣うみたいなこと言ってきてたのか。

 

あれ、これもしかしてだけど俺、やっちまったか?

 

────────もしかしなくても、教会が壊されたのって曇らせチャンスだったりしたのか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

所要期間七年─────『猛者』オッタル、Lv.8へランクアップ。

 

アルのランクアップに続くようなそのニュースは瞬く間にオラリオ中に広がり、オラリオの民衆と冒険者達に多大なる衝撃を与えた。

 

ゼウスとヘラの派閥がオラリオを去って以降、十数年にも渡ってオラリオ最強の冒険者として君臨しているオッタルの強さは誰もが知るところであった。

 

『神時代の象徴』、そして『神の眷属の到達点』とすら呼ばれていたゼウスとヘラを、オラリオ千年の壁を崩して遂に破った存在。

 

都市最大派閥の片割れである【フレイヤ・ファミリア】の団長にして最強のエインヘリアル。

 

新進気鋭のアルと対をなすオラリオ最強の双璧として、オッタルの名はオラリオの冒険者の憧れとなっていたのだ。

 

そんな最強の片割れが単騎で深層への遠征を為すことで新たな階梯へと至ったという情報に多くの者が驚愕し、そして同時に歓喜した。

 

それはまさに偉業であり、英雄と呼ばれる持つ者でも至れるか分からない真の英雄の領域。

 

かつての最強を知る巌の古強者と五年にも満たぬ冒険者歴でそれに並んだ超新星。

 

ほぼ同時にランクアップを果たした『猛者』と『剣聖』の偉業に人々は熱狂する。

 

【フレイヤ・ファミリア】の『猛者』と【ロキ・ファミリア】の『剣聖』、そのどちらが真の最強かは意見の分かれるところだが、それでもどちらかが倒されるとしたらその相手は間違いなくこの片割れだと誰もが思った。

 

もとよりフレイヤとロキの派閥は険悪な関係であり、個人主義を突き詰めて個々の練度ではロキを上回る【フレイヤ・ファミリア】と『勇者』を頭に置きチームワークを重視して組織力ではフレイヤを上回る【ロキ・ファミリア】。

 

これまでは互いに牽制しつつも、良いか悪いかお互いの拮抗した戦力故に問題が起きなかったのだが……ここにきての第一級冒険者達のランクアップによってその均衡が崩れようとしていた。

 

ここ最近にランクアップを果たしたのはなにもその二人だけではない。

 

【ロキ・ファミリア】の主力にして幹部たる四名の第一級冒険者が深層階層主の単独撃破と未開拓領域での死闘によってLv.5から都市最強候補たるLv.6へと一気に飛躍したのだ。

 

以前は都市唯一のLv.7であったオッタルを抱えていたのもあり、個々の練度からも【フレイヤ・ファミリア】の方がやや上だと思われていたが、ここ二、三年のアルの追い上げによって並び、今回のアイズたちの躍進によってついに【ロキ・ファミリア】側に均衡が傾いたのだ。

 

ロキの三枚看板たるフィン、リヴェリア、ガレスに加えて新たに四名のLv.6を得た【ロキ・ファミリア】こそが迷宮都市の最前線だと謳う声も大きくなっている。

 

同格扱いならまだしも女神至上主義を掲げ、誰しもが最強を志す【フレイヤ・ファミリア】が格下扱いを許容するはずもない。

 

だが、ロキ最強の眷属であるアルにオッタルが勝てばその評判は覆るだろう。

 

遅かれ早かれいずれ、オッタルとアルはオラリオ最強の称号を賭けて雌雄を決することになるだろうと多くの者は予想していた。

 

しかし、当の本人たちには特にそういった話はないらしい。そもそもアルもオッタルもそんなことは望んでいない。

 

お互いに己が目的のためにただひたすら己を高めていくのみなのだ。

 

もとより冒険者の命題は己の派閥の利益ではなく、モンスターの討伐とダンジョンの開拓にほかならない。

 

オラリオ千年の歴史の中でも数えるほどしかいないLv.8に到達した強者は、オラリオに住む全ての者に希望を与える存在である。

 

ゼウスとヘラの敗北によってもはや不可能だとすら思われていた『隻眼の黒竜』の討伐。

 

未だ、神時代の頂天にして最凶の眷属たる『女帝』の域には及ばぬものの、遠くない未来に至るであろうアルと旧時代を知るオッタルのランクアップは、かつての最盛期の再来を感じさせるものであった。

 

そんな希望を胸に抱く者は数知れず。今回ばかりは一癖も二癖もある冒険者達も偉大なる先達にして自分達の頂天に立つ漢の階位昇華に派閥の区別なく惜しみない称賛を送った。

 

称賛、歓喜、畏怖、憧憬、羨望、尊敬·········様々な感情が入り混じる中に嫉妬、憎悪、怨恨などの負の感情も含まれるのは当然のこと。

 

アルやオッタルがランクアップを果たしたことに対して、冒険者の中にはその偉業に複雑な感情を覚える者も少なからず存在した。

 

それは同派閥である【フレイヤ・ファミリア】の団員であっても例外ではない。

 

むしろ、自分こそが最強へと至ると誓う彼らにとって、アルはもちろんのこと団長であるオッタルさえも目障りな壁として認識している者が大半だった。

 

その中でも更に負の感情が顕著だったのは───────

 

 

 

 

「巫山戯んじゃねぇッ!!」

 

 【フレイヤ・ファミリア】の本拠、戦いの野。その訓練場に怒号が響き渡った。アルとオッタルのランクアップに苛立つ【フレイヤ・ファミリア】の面々の中にあって、特に怒り心頭の眷属が一人。

 

猫人の青年アレン・フローメル。彼もまたオラリオに名を轟かせる第一級冒険者の一人であり、【フレイヤ・ファミリア】の副団長を務めている。

 

アレンはその手に握っていた長槍の石突で地面を叩きつけると、その矛先に鋭い視線を向ける。

 

ギリッ、と歯を食いしばる音と共に顔を歪めた彼は、憎き敵でも見るかのように磨き上げられた銀槍の穂先に映る自分を見つめた。

 

黒と銀の頭髪を持つその風貌は屈辱と怨嗟に濡れて歪み、瞳の奥に宿る光は暗く淀んでいる。そして、その奥底では煮えくり返るような激情が渦巻いていた。

 

「あのクソ野郎を斃すのは俺だ────!!」

 

 アルと雌雄を決するのはオッタルだというのが皆の見解だ。だが、それを良しとしない者達がいる。

 

 

 

 

 

 

アレンは『妹』と共に生きてきた。

 

物心ついた時には既に『全て』が滅んでいた。かつて、一夜で滅んだ大陸でも最大の大国。その面影を残す街は瓦礫の山となり、そこに住まう人々は殺され、冒され、喰われた。

 

『廃棄世界』と化した故郷の中で幼かった少年と少女は何も出来ず、ただただ死を待つだけなはずだった。

 

そんな中、奇跡的に生き残った二人は身を寄せ合って生き延びた。

 

足手まといだった『妹』を庇い、その身に傷を負いながらアレンは延々と瓦礫の骸の上を歩き続けた。

 

子猫は愚図な『妹』のために食料を探し、必死になって粗末な武器を振るってモンスターを狩り続け、時に襲いくる暴虐から『妹』を守らんと廃墟の街を宛もなく彷徨い歩いた。

 

弱虫で、愚図で、泣き虫で、いつも兄の後ろに隠れているような臆病者。

 

それでも、自分の背中に隠れながらも決して離れようとせず、涙を流しつつも付いてくるそんな彼女をアレンは何度も捨てようと思った。

 

自分が生きるために何度見殺しにしても構わないとさえ思った。

 

しかし、それでもアレンは泣きじゃくる『妹』を捨てることは出来なかった。

 

そんな日々を過ごしていたある日、アレンは『女神』に出会った。

 

─────それは美しかった。

 

あらゆる美を集約したかのようなその美貌は、幼いアレンの心を奪うに余りあるほどに鮮烈な衝撃を与えた。

 

心が、脳が、魂が、全てが目の前の女性に奪われた。

 

凍えるほどの絶望の中にあった二人に訪れた銀の『女神』。運命だとすら感じた出会いは、アレンの心に消えない熱をもたらした。

 

愚図で臆病な『妹』はその美しさに恐縮していたが、気にもならなかった。

 

女神は言った。

 

────私の眷属になりなさい、と。

 

銀の瞳に見つめられ、囁かれた言葉はまるで毒のように身体を蝕んでいった。抗うことなど出来ない。否、する意味がない。

 

アレンは差し出された手を迷わず掴み取り、その身を捧げた。

 

それからは戦いの日々が続いた。

 

命を賭して怪物どもと戦う毎日。死線を乗り越え、強敵を打ち破り、死闘の末に勝利を掴み取る。

 

血反吐に塗れ、泥水をすすり、苦痛に耐え、痛みに苛まれ、苦しみに悶え、恐怖に押し潰されそうになっても、アレンが折れることはなかった。

 

そして戦いの場はなにもダンジョンだけではない。【フレイヤ・ファミリア】のホームである『戦いの野』。

 

女神のために最強を目指す眷属達が日夜、殺し合いにすら発展するような激しい鍛錬を行っているその場所において、当時のアレンは負け続けた。

 

自分よりも年上の団員に完膚なきまでに叩きのめされた。

 

自分より格上の団員達に追い回され、痛めつけられた。時には、血反吐を吐き散らしてボロ雑巾になるまで殴られた。

 

屈辱だった。

 

惨めだった。

 

悔しくて、苦しかった。

 

だが、同時に心地よかった。敗北の屈辱を糧に強くなる度に心が満たされていく。打ちのめされるたびに、強くなっていく実感がある。

 

【ゼウス・ファミリア】と【ヘラ・ファミリア】という二つの最強派閥が存在する当時のオラリオで【フレイヤ・ファミリア】はその両派閥の後塵を拝していた。

 

何を費やしてでも越えるべき『壁』を前に団員同士の『洗礼』は苛烈を極めた。

 

恩恵を得たとはいえ、所詮は子供に過ぎない当時のアレンにとって、その試練は決して楽なものではなかった。

 

その辛苦に喘ぎ、血を流し、幾度となく膝を折ろうとも、それでもアレンは立ち上がる。そして、そんな彼を嘲笑うかのように当時のアレンでは話にもならないツワモノに踏み躙られた。

 

そこに容赦はなく、慈悲もない。彼らにとって、アレンはただの弱者であり、踏み台でしかなかったのだ。だが、それでもアレンは諦めなかった。

 

自分を踏みつけにした者達を打倒し、必ずや最強の座へと至らんと猛進し続けた。

 

そして、アレンは紛れもない天才であった。あるいはもっとも力ある先達であるオッタル以上に。

 

血を吐く努力を続けた結果、その力は凄まじい勢いで成長を続けて一年、二年、三年と経つうちにみるみると成長を遂げていった。

 

いつまでもついてくる愚鈍な『妹』を切り捨て、戦いに戦いを重ね、若年でありながら都市最強候補であるLv6にまでのぼりつめ、『都市最速』の名をほしいままにした。

 

アレンにとっては『猛者』も『勇者』も越えるべき『壁』であり、また二人を凌駕できるだけの才能が、信念がアレンにはあった。

 

そんなアレンがLv.6になって三年後、敬愛する女神からとある少年に試練を与えるために戦えと命じられた。

 

よくある─────よくある女神の退屈しのぎだと思っていた。

 

その子供がアレンがとうの昔に切り捨てた『妹』と懇意にしていることなど、気にもならなかった。

 

─────だが、アレンは理不尽なまでの『才』を目にした。

 

それは処女雪を思わせる純白の頭髪に血のように紅い瞳を持つ■しい少年だった。

 

一目見ただけで理解した。その少年が他の何物でもない、己の敵であることを。

 

その瞬間、アレンの心の奥底にあるナニカが疼いた。この手で殺せ、と本能が強く訴えかける。

 

本能に従い、その子供を殺す前にアレンは見てしまった。自身より遥かに劣るはずの白髪の子供、その子供が振るう剣技に目を奪われた。

 

それは、まさに■しかった。

 

思わず息を呑み、魅入ってしまうほどに■しい剣術。神速を以て繰り出される斬撃は音すら置き去りにし、光の軌跡を描く。

 

まるで完成された一つの芸術品のような剣閃は、見るもの全てを虜にするだろう。

 

これ以上ないほどに洗練された剣鬼の剣技。アレンの全身を駆け巡ったのは歓喜か、それとも憎悪か。戦いの道に生き、全てを捧げたアレンはそれを見て心の底から思ってしまった───。

 

─────なんて、美しいんだろう、と

 

片や、Lv2の子供、片やLv6の戦士。戦えば確実に殺せる力量差がありながらアレンはその『死剣』に魅入ってしまった。

 

気付けば、戦いが終わった後もその子供の姿を脳裏に浮かべていた。

 

そして、再びその子供と相見えた時、その想いは確信に変わった。間違いなくアレは俺が殺すべき敵だと。

 

俺以外に負けることなぞ許さない。

 

俺以外の者がアレを殺すことなぞ許してなるものか。

 

オッタルにも、『剣姫』にも·········『女神』にもくれてやるものか。

 

アレは俺の獲物だと、何に代えてでも狩るとアレンは強く誓った。半生をかけて磨き上げてきた狂猫の牙は漸く突き立てるべき相手を見つけたのだ。

 

だからこそアレンは自分を差し置いてアレの好敵手を気取っているオッタルを、アレに付き纏う『剣姫』を、アレと馴れ合う『妹』を─────────そして何より他ならぬ女神以外の者を美しいなどと感じてしまった自分を、未だ最強には程遠い我が身の惰弱さが赦せないのだ。





・日常的に笑みを見せる
ベル、アミッド
・あまり笑わないけど偶に笑みを浮かべる
リュー、クロエ
・見たことがある
アーニャ、アイズ(二回)
・見たことがない
ティオナやリヴェリアを始めとしたロキFの皆様

アストレアレコードだと途中までは割と笑いますがだんだんと「あれ、これ死ねないんじゃ····」ってなって笑わなくなります。それを見て、弟扱いしてた周りが曇ります。·····やっぱ、こいつ生まれる時期間違えたよなぁ。




なお、フレイヤ・ファミリアでアルから一番矢印向けられてるのはアレンな模様。




ヘディン→→→→→←←アル
オッタル→→→→→→→→←アル
フレイヤ→→→→→→→→→→→→アル


アレン→→→→→→→→→→→→→→→⬅⬅⬅⬅⬅⬅⬅⬅⬅⬅⬅⬅⬅⬅⬅⬅⬅⬅⬅⬅⬅⬅⬅⬅⬅⬅⬅⬅⬅⬅⬅⬅⬅⬅⬅⬅⬅⬅⬅⬅⬅⬅アル


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