皆の傷になって死にたい転生者がベルの兄で才禍の怪物なのは間違っている   作:マタタビネガー

65 / 204
六十五話 やられてなくてもやり返す。 ───────八つ当たりだ!!

オッタル

『Lv.8』 

 力:I0

 耐久:I0

 器用:I0

 敏捷:I0

 魔力∶I0

 

狩人︰D

耐異常︰E

魔防︰F

破砕︰F

剛身︰G

剛心︰I

《魔法》

【ヒルディスヴィーニ】

 

《スキル》

戦猪招来(ヴァナ・アルガンチュール)

・任意発動。

・獣化、全アビリティ能力超高補正。

・発動毎に体力及び精神力大幅減少。

 

我戦我在(ストルトス・オッタル)

・戦闘続行時、発展アビリティ『治力』の一時発現。

・戦闘続行時、発展アビリティ『精癒』の一時発現。

・戦闘続行時、修得発展アビリティの全強化。

・戦闘続行条件は能力に───────。

 

 

 

 

「─────積み上げられた偉業はここに刻まれた。新たな境地への到達、おめでとうオッタル」

 

「ハッ、ありがとうございます。御身の護衛を長く離れてしまい申し訳ございません」

 

 都市随一の高さを誇る、千年もの前に神域の天才によってオラリオの中心へ建てられた塔、バベル。

 

その最上階には美という概念が擬人化ならぬ擬神化したかのような銀糸の女神───オラリオ二大勢力の片割れ【フレイヤ・ファミリア】の主神である美の神フレイヤと団長の猪人オッタルがいた。

 

神血によって更新されたオッタルのステイタスは新たな階位、Lv.8へと至っていた。

 

かつての二大派閥【ゼウス・ファミリア】と【ヘラ・ファミリア】が都市を去って以降、十数年といなかったLv.8へのランクアップという偉業。

 

「ふふ、いいのよ。そういえば、知っているかしらアルも貴方と同じくランクアップしたのよ」

 

「なんと············」

 

 【ロキ・ファミリア】が未到達階層への遠征を行ったことは当然、オッタルも知っている。

 

だが、まさかランクアップするとは、これまでからアルの成長速度の異常さは知っていたがLv.7に至ってから半年も経たずランクアップするとは思わなかった。

 

しかし、これで両者ともにかつての最大派閥【ゼウス・ファミリア】【ヘラ・ファミリア】の英雄、『暴食』と『静寂』を真に超えたことになる。

 

未だ、神時代の頂天にして最凶の眷属たる『女帝』の域には及ばぬものの近いうちに到達できるだろうアル。あれほどまでに才に溢れた眷属はかつての全盛期を知り、自分自身も英雄たる器を持つオッタルをして知らない。

 

かつての最恐派閥【ヘラ・ファミリア】においてなお、異端とされた『静寂』の二つ名を持つ女の再来とすら思える少年。

 

神時代始まって以来の、千年来の英雄になり得る器を持っていよう。あるいは、前人未到の階梯───Lv10にすらたどり着けるかもしれないほどの才だ。

 

「どれだけ追い詰められようとあの子の魂は曇らない。磨き上げられた黒曜石、いえ、幽谷の孔のように他の一切の輝きの影響を受けないまさに漆黒の魂」

 

 ならば自分もまだまだ成長しなければならないと改めて決意を固めるオッタル。そして、そんなオッタルを他所にフレイヤは言葉を続ける。それはどこか、恋する乙女のような表情だった。

 

それでいて、子を見る母のように優しい笑みでもあった。まるで、愛しいものを眺めるような眼差し。

 

そこにあるのは愛情か慈しみか、それとも別の何かなのか? どちらにせよ、フレイヤがアルに対して並々ならぬ想いを抱いていることは確かであった。

 

それはある種、親心に近いものなのかもしれない。

 

「本当なら手に入れたかったけど、あの子の魂は既に完成されている。私でもロキでもあの黒さを薄めることも深めることも出来はしない」

  

 漆黒にして純潔。無垢にして不純。穢れを知らないようでありながら穢れそのものが凝縮されたかのような矛盾した魂。

 

絶対不可侵、孤高にして孤独の魂。その全てが合わさり、相まって完成した一つの芸術品。

 

それがアルに対するフレイヤの印象であり評価であった。この世のあらゆる悪徳に染まったようでありながら決して染まり切らぬ黒曜の如き魂。

 

「·······存外、アストレアやアルテミスなら変えられそうな気もするけれど」

 

 片や都市を去り、片や········。久しく顔を合わせていない女神のことを思い浮かべながら、フレイヤは呟く。

 

「私としてはあの子よりも弟の、未完の輝きを手に入れたい。·····協力してくれる?」

 

 とはいえ、すでに完成されているアルよりも未完であり、発展途上のベルのほうが興味がある。

 

フレイヤにとってアルはあくまで観賞用なのだ。眺めるためだけの観賞物。触れようと思えば触れられるが、決して手を出すつもりのない芸術品のような存在。

 

かつてはそうではなく、なんとしてでも手に入れるための努力をした時期もあったものの、フレイヤがどんなに手を尽くしてもアルの魂を揺らがせることはできなかった。

 

故に、今では諦めている。今となっては、ただ眺めるだけでも十分満足しているのだ。

 

そんなアルよりも未完ゆえの美しさと可能性を持つベルこそがフレイヤにとっては欲しい存在である。

 

「ご随意に」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヘレイオス殿、お聞きしたところ本日は相当ついているご様子········そこでご提案なのですが、あちらの貴賓室に来られませんか?」

 

 勝ち続けるヘレイオス(アルの偽名)のもとに恰幅の良い一人のドワーフが現れた。見るからに質の良い服に身を包んだ彼こそこのカジノのオーナーであり、アンナを買った元凶でもあるテリー・セルバンテスだ。

 

商人らしい抜け目のなさと狡猾さを滲ませながらも、愛想の良さそうな笑みを浮かべて話しかけてくる。

 

「貴賓室、ですか·······」

 

「───あぁ、どうかそう構えずに。要はより高額の賭博を楽しもうという話です。あの部屋でしかできない賭博は勿論のこと、最高級のサービスを提供させて頂きますよ?」

 

 そう言ってテリーが一瞥する先にはホール奥の扉。その扉の奥にある部屋こそが、極々一部の上客のみが立ち入りを許されているVIPルームへの入り口だ。

 

「ヘレイオス殿のような金満家の方々が揃われています。同じ境遇の者にしかわからない話もあるかと」

 

 しかし、その言葉とは裏腹にテリーの目には怪しい光が宿っており、まるで品定めするような視線をアルに向けていた。それに気づかない振りをして頷くと、テリーはにこりと笑って踵を返す。

 

テリーの後に続き、アルはVIP室へと向かう。両開きの扉が開け放たれるとそこは、絢爛豪華な装飾品が並んだ広々とした空間が広がっていた。

 

 

【挿絵表示】

 

 

落ち着いた魔石灯の光に照らされた室内には豪奢なテーブルと椅子が置かれ、そこには外にいる富豪のそれに比べてもなお、質の良い身なりをした者達がいる。

 

そこは賭博場特有の熱気に溢れた雰囲気は感じられない。ある意味、社交場のようでも在る。給仕が洗練された動作で飲み物や軽食を用意して回る中会話を楽しむ者たちの姿が見受けられた。

 

重厚な作りの円卓テーブルの上にはトランプのカードが並べられており、白い賭札が山のように積まれている。

 

見目麗しい美女や美男達がディーラーを務める傍らで、カードを手に取り真剣な眼差しで勝負に挑んでいる。

 

「そう言えばこちらは例の戦闘遊戯で活躍された······」

 

 一行を案内するテリーの目がベルに向く。【アポロン・ファミリア】との戦争遊戯で格上であるはずのヒュアキントス率いる上級冒険者複数人を相手に大立ち回りをやり遂げ、世界最速記録に迫る速度でのランクアップを果たしたベルの名は冒険者でなくとも知るものが多い。

 

まして、オラリオの重要産業であるカジノ経営に携わっている程の大商人ならば知っていて当然だろう。

 

急に向いた視線に慌てるベルがボロを出す前に口を挟む。

 

「ええ、彼とは先日、オラリオに来た際に知り合いましてね。前途有望な冒険者とは早いうちから親しくなっておくべきでしょう?」

 

「はは、それは確かに」

 

 二人の会話が途切れると先に貴賓室にいた富裕者が席を立った。そして、こちらに向かって歩み寄ってテリーに親しげに話しかける。

 

「今夜も楽しませてもらっていますぞ、経営者」

 

「ところで、そちらの方は?」

  

「紹介します。 今初めて我々どもの店に来られた。アレク・ヘレイオス殿です。お隣におられるのはそのご夫人のセリュー殿」

 

「経営者のご厚意でこちらへ来させて頂きました。 よろしくお願いいたします」

 

「お初にお目にかかります。 皆さん」

 

 新顔を歓待するムードの中、アルは内心では辟易していたが顔ではにこやかな笑顔を浮かべて挨拶をする。

 

アルと······夫人扱いにまごまごするカサンドラ(セリューが偽名)、次いで護衛のように付き従うバーチェとベルが会釈すると、美麗な亜人の美女が酒の入ったグラスを差し出してきた。

 

カサンドラの手を取って受け取りながら、アルはそっとベルとバーチェの様子を窺う。二人はきらびやかな貴賓室の様子に混乱した様子だが、どうやら一周まわって平静を取り戻したようだ。

 

「そういえば、先程から見かけるこの麗しい方々は····」

 

 美麗なドレスに身を包むエルフやヒューマンの美女達を見つめるテリーに、アルはさり気なく探るような言葉を掛ける。

 

「彼女達は、まぁ聞こえが悪いかもしれませんが、私の愛人でして······」

 

「ほう······」

 

「自分で言うのもなんですが、私めの求愛に、真に応えてくれました」

 

 自慢気に語るテリーの言葉を聞き流しながら、アルはテリーの背後に控えていた美麗な美女達に目を向ける。

 

確かに美女揃いだがその目は虚ろであり、表情にも覇気が感じられない。まるで人形のように無感情だ。

 

アンナと同じようにテリーが財力によって無理矢理に手籠めにした収集品なのだろうと推測できる。

 

テリーは背後の美女達を一通り眺めてから、再び視線をアルに戻した。表面上は隠しているものの、その目に宿るのは、優越感と下卑た色。

 

人形のような美しい女達の首にはテリーの所有物だと示す首輪が巻かれている。彼女達の意思など完全に無視した所有物の証。

 

オラリオの法に縛られない治外法権の空間だからこそ許される暴挙だ。

 

アルは一瞬だけ目を細めると、すぐに笑みを貼り付けてテリーに向き直った。

 

他の招待客もまた、テリーの同類なのだろう。テリーに従うことで甘い蜜にありつける連中。

 

経緯を知っているベルとカサンドラは僅かに顔を歪めている。

 

そしてその美女たちの中に亜麻色の髪のヒューマンの少女が混ざっていることにアルは気づく。可憐な純白のドレスに着飾られている少女は、一見すればどこかの貴族令嬢にしか見えない。

 

他の美女と同じように首輪を着けられてはいる。神々に求婚されるほどの美貌は暗く沈んでおり、見る影もない。

 

花屋の看板娘としての麗らかで明るい雰囲気は完全に鳴りを潜めて、代わりに陰鬱とした雰囲気を纏っていた。

 

目を伏せて俯く姿はそれでも男を魅了するほどに美しくはあるのだが、アルの目には、その姿はあまり好ましいものと映らなかった。

 

アルにとって女性の好みは曇るか、曇らないかなので外見は割とどうでもよかったりする。

 

しかし、それでも目の前の光景を見ていい気分になるほど腐ってはいない。アルの瞳の奥底で冷徹な光が灯る。

 

そんなアルの心中を知って知らずか、アンナに集まる好奇の視線に気付いたテリーは誇るように語り出した。

 

テリーの自慢話に適当な相槌を打ちながら、アルは内心では思考を続ける。

 

ふと、顔を上げたアンナと目が合った。不思議そうに見つめ返してハッ、と目を見開く。どうやら、アルの正体に感づいたようだ。

 

あれからまだ一日しか経っていないのだ。昨日あったばかりの相手を騙せるほど変装の魔道具とて万能ではない

 

そしてその様子にテリーが気付く。

 

「ヘレイオス殿、彼女の顔に何か付いていますかな?」

 

「いえただ、彼女と似ている者を知っておりまして」

 

「知人の話なのですが、彼女はたちの悪い冒険者くずれに持ちかけられた賭け事に負けた父に売られてしまったのです」

 

 アルの言葉に、テリーの顔が強張る。アンナの素性について知っている者はテリー以外にいない。

 

「詳しく調べてみると、どうやらその一件は何者かの差し金で仕組まれたものだったらしく·········」

 

 言外にお前のやってきたことは既に知ってると匂わせると、テリーは露骨に顔を歪めた。

 

「その者は彼女を手にする為に、冒険者くずれを雇い、彼女の父を脅して半ば無理やりに彼女を奪って囲っているそうです」

 

 アンナについての事を全て知っていると理解したテリーは先程までの人の良い笑みを完全に消して、額に青筋を浮かべて怒りの形相を浮べる。

 

剣呑なテリーの怒りを感じ取った美女達は怯えたように震え、招待客達の中でも聡い者は状況を理解して冷や汗を流しだす。

 

「·········ヘレイオス殿。ちなみに、今更ではありますが、貴殿はかの海国の王族に連なると聞いておりますが······」

 

「いえいえ、傍流も傍流。かろうじて一族の末席にいるだけのものですよ」

 

 曲がりなりにも一国の王族を敵に回したとなればグランカジノで絶対的な権力を持つテリーといえど、無事で済むはずがない。

 

実際はアスフィに偽造させた身分なのだが、テリーにそれを知るすべはない。

 

「どこのどなたと勘違いされているのかは存じませんが·········どうやらヘレイオス殿は奥様を差し置いて、 このアンナに相当ご執心の様子」

 

「ならば、賭博をしませんか?」

 

「賭博?」

 

「そうです。賭けに勝った者は敗者に願いを聞き入れてもらえる権利を得ることが出来る。更に、賭博に用いるのは全て最高額の賭札」

 

 給仕に目配せすると、荷車に大量の賭札が運ばれてくる。白金のチップが山のように積まれ、その総額は先程までアルが賭博で稼いだ額を遥かに超えていた。

 

「お貸ししましょう。 これでなければ我々の求む賭博は成り立たない」

  

 拒否権はないとばかりに屈強な男達がテーブルを囲う。カタギではなそうな用心棒達に、招待客達は息を飲む。

 

雇い主のテリーの目配せに剣呑な雰囲気を漂わせてアル達を威圧するが、いずれもアルどころかベルにも劣り、残念ながらアルとバーチェの『擬態』を見抜けるほどの使い手はいないようだった。

 

「いいでしょう。その賭博を受けます」

 

 躊躇わずに承諾するアルにテリーは内心ほくそ笑み、余裕を取り戻そうと努める。

 

「皆様もどうですかな!!勝者の願いは私が叶えるとしましょう!!」

 

 調子を取り戻したテリーの言葉を皮切りに、余裕を戻した招待客が参加を表明する。

 

「賭博に何かご希望はありますかな? なければポーカーを行おうと思いますが」

 

「おまかせします」

 

「では勝敗は賭札の有無・元手の賭札が全て無くなった時点で、その者は敗者です」

 

 配られる白金の賭札。アル達の前にはディーラーとしてテリーの部下である男が立つ。

 

「では、手始めに私は賭札二十枚から賭けるとしましょうか」

 

 テリーはまず二十枚を賭ける、それに対してアルは────。

 

 

「オールイン······手持ち全てを賭けましょう」

 

「──────は?」

 

 アルは、手元にある今しがた渡された掛札を全て差し出した。意味がわからないとテリー達の目が丸くなり、カサンドラ達も呆気にとらわれている。

 

できた役によって上乗せするのならばともかく、まだカードが配られてすらいないのにオールインするのは控えめに言っても狂気の沙汰だ。

 

テリーの思考が一瞬止まるが、直ぐに持ち直して笑みを浮かべて口を開く。

 

「わかりました、では始めましょう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺はな、誰が成功しようと誰がいい思いをしようと、それがどんな悪人だろうと知ったこっちゃない。

 

俺の言えたことじゃないからな。

 

ただ俺は俺の目の届く範囲で俺より悪巧みが巧くいってる奴らは須く敵として認識してるんだ。

 

·········だから潰す。

 

やられてなくてもやり返す。

 

───────八つ当たりだ!!






スランプつらい

アル「他人の曇りは蜜の味。俺よりいい思いしてるやつは全員地獄に落ちればいいと思ってるよ」

アミッド「………」

アル「…………………………」

アミッド「正座」

アル「いや、その、あのそういうことじゃ……」

アミッド「正座」

アル「(;・∀・)」

アル「(・∀・;)」

アル「(´・ω・`)」
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。