皆の傷になって死にたい転生者がベルの兄で才禍の怪物なのは間違っている 作:マタタビネガー
いつも誤字報告、感想コメントありがとうございます。
事前報告なく一か月ほど投稿を休んですみませんでした。
休み理由は進路関係で半ネット断ちしてたのと私生活がなかなかに忙しくて執筆の時間が取れなかったからです。
皆さんは共通テストどうだったのかな·····。
まだ全ての事が終わったわけじゃないのであれですが進路関係が片付いたらこれまでのように毎日投稿に戻していくつもりですのでこれからもよろしくお願いします。
千年前、神々がオラリオ後に降臨した神時代の始まりに今もなおその威容をオラリオの中心で保つ白き摩天楼バベルを建造した神域の天才ダイダロス。
ダンジョンという混沌の美に魅了され、人の手でもってその混沌の美を探求せんとした天才にして狂気の探究者。
そして──そんなダイダロスが己の生涯を費やして作りあげた未完の作品。
それがこの地下深くに広がる人造迷宮クノッソスである。
始祖たるダイダロスの妄念。1000年もの間一族に受け継がれてきた悲願であり、呪縛。
混沌の美の完成の先にあるものを求めて、完成を見ることなく散ったダイダロスの遺志を継ぐ者一族の末裔によって造られ続けてきた地下迷宮。
そんな一族の当代───バルカ・ペルディクスはこれまでの例に漏れず迷宮の完成のためだけに生を受けた
男だった。
彼はこれまでの一族と同じようにただひたすらに迷宮の完成を目指す。そこに何があるのかなど興味もない。
ただ、一族の悲願を達成することこそが彼の存在理由であったから。祖から継がれる血の呪縛から逃れられなかったから。
だから、彼がこれまで歩んできた道程には感傷も感激もなかった。なぜならば、それは彼にとって単なる作業に過ぎなかったから。
クノッソスを完成させるためだけの機構としてのみ生きる彼に喜びはなかったし、悲しみや怒りを感じる心すら存在しなかった。
生まれついて以来、他者と関わることもなく外界に触れることもなくただひたすらに千年の妄執に従うだけの人生。
彼を動かしているのは自我ではなく呪縛。物心つかぬままに魂に刻み込まれた呪いにも似た使命だけが判断基準であり指針である無機質な機械のような人生。
そんな彼にとって感情というものはひどく知識としては知っていても自らが体験することのない未知のものであり、理解できないものであった。
分かるのは自分には不要なものであり、クノッソスを完成させるための機構には不必要なものということだけだ。
だが、そんな持ち得ないはずの感情が言いしれぬ『恐怖』としてバルカの身を震わせていた。
「········なんと、これほどか。【ロキ・ファミリア】」
迷宮内のありとあらゆる所に配置された『目』。侵入者を監視する監視装置を通して通路の様子を観察していたバルカはその光景を見て戦慄していた。
岐路を前に二手に分かれた第一級冒険者達。『勇者』が率いる集団は赤髪の怪人レヴィスが相手をしておりそちらには一分の注意も向けてはいない。
戦慄の視線を向けるのはもう一方の最強の男に率いられた一団だ。
モンスターも、罠も、先頭を走るその男には通じない。バルカとて神の恩恵を得て、幾度かのランクアップに至っているがゆえに常人離れした強さを持つ。だが、だからこそその男の規格外さに自身の目を疑ってしまう。
たった一人で第二級相当の怪物の群れを相手にしながら全く遅れを取らずに先頭を走り続けるその男はまさしく英雄と呼ぶに相応しい存在だろう。
だが、そんな男が放つ存在感とは裏腹にその男からはまるで熱を感じなかった。まるで氷のように冷たく、それでいて刃のような鋭さを持った男。
「·······話には、聞いて、いたが。······『剣聖』」
外界に興味を持たないバルカといえどその名は何度も耳にしている。現在協力関係にある闇派閥の目的にあたって最大の障壁となり得るであろうオラリオ最強戦力の一人。
画面越しであるというのに感じる圧力にバルカは無意識のうちに冷や汗を流していた。
そこにコツン、コツンと規則正しい足音が聞こえてくる。
暗闇から鳴る足音に恩恵によって強化されたバルカの聴覚が反応する。いかに【ロキ・ファミリア】の進行が早いとはいえ、最奥に位置するこの場に敵が来ることはない。
おそらくはタナトスか、闇派閥の者。それがわかっているにも関わらず、言いしれぬ感情から身構えてしまう。
「───おいおい、今日はやけにクノッソスが騒がしいなぁ。問題でも発生したのかよ、兄弟」
「止めろ、ディックス。同じ女の腹から生まれた、それだけのことだ。間違っても私を兄などと呼ぶな」
暗闇から現れたのはタナトスでも、闇派閥のものでもなかった。
ディックスと呼ばれた男。痩せぎすのバルカとは違い、最前線で戦う戦士のような体つきと獣のような軽やかさを感じさせる男だ。
冒険者風の装備に身を包んでいることからも、彼が冒険者であることは間違いないだろう。しかし、彼の纏う雰囲気はどこか歪なものを感じる。まるで闇の中でこそ真価を発揮するような、そんな気配。
バルカと同じく一族の末裔でありながらクノッソスを嫌った密猟者。
【イケロス・ファミリア】の団長を務める第一級冒険者──ディックス・ペルディクスは口の端を吊り上げながら笑う。
「あぁ、冗談だよ。俺だってテメエみたいな気味の悪い呪縛の操り人形と一緒にされたくねぇわ」
「ならば黙っていろ」とバルカは素っ気なく返す。そんなバルカの反応にディックスは侮蔑にも似た視線を向けた後、興味を失ったように鼻を鳴らす。
「で、何を騒いでやがるんだ? おちおち『仕事』もできねえじゃねーか」
「我々を嗅ぎ回っていた【ロキ・ファミリア】をクノッソスへ入れた。·······だが、ちょうどいい。ディックス、貴様の仕掛けを使う」
「あ? 俺の仕掛けって······マジかよッ!!」
「────」
千年の妄執。生まれて間もなくしてその呪縛を脳髄に刻まれたバルカとは違い、自我を得てから呪縛に縛られたディックス。
自我を侵す抗えぬ呪いを嫌悪し、一族の全てを唾棄しながらもその呪縛から逃れることはできなかった。
その呪縛の根幹であるクノッソスを憎みながらも、バルカと同様に悲願成就のために生まれてきた彼はクノッソスにとある仕掛けを施していた。
迷宮を自壊させる機構。ディックス自身、つまらない意趣返しのようなものであり、バルカもその存在は許したが使うことなど考えたこともなかった。
だが、今の状況はそれを利用できる。特定の支柱を破壊することで階層そのものを崩落させる。そして、階層が破壊されれば当然そこにいる【ロキ・ファミリア】も無事では済まない。
「────ク、クク。クッハッハッハッ!! おいおい、マジか、クノッソスを壊すのかよ?! 他ならぬ、テメェの手で?!」
「────黙れ、ディックス」
バルカとて一部といえど自らの手でクノッソスを壊したくはない。一部であっても階層を破壊してしまえばその修繕には多大な時間と労力を要する。
もとより無理だとはわかっていたことではあるがバルカの代でのクノッソスの完成は絶望的になるだろう。
バルカの微かな自我が抱える唯一の心残り。
だが、このまま放置しては『剣聖』によってすべてが食い破られる。オリハルコンの扉を閉めようにも下がり切る前に大剣を噛まされ、力づくで開かれてしまう。
「ディックス、手を貸せ。一角を崩壊させただけで全滅はしまい、お前は『散った』者たちを殺して回れ。·······ああ、『剣聖』は放っておけ、『何をどうやっても勝てない』との神のお達しだ」
野卑に笑うディックスへとバルカは指示を出す。殺意すら帯びた不快気な視線を向けるバルカだったが、ディックスは気にした様子もなく肩をすくめる。
「·······まぁ、しょうがねぇな【ロキ・ファミリア】なんざ、関わりたくない筆頭だが······地の利ならこっちにある。ああ、新しい槍、貰うぜ」
呪槍を受け取りながらディックスは舌なめずりをする。獣じみた笑みを浮かべるディックスをよそにバルカはクノッソスの通路を映し出す監視装置の前に立つと二つの領域。
『勇者』と『剣聖』の一行のいる領域に目を向け、「崩壊」と念じながら機構を操作した。
「────【ロキ・ファミリア】狩りだ」
紅い鮮血がフィンの小さな身体に刻まれた傷から噴き出し、びしゃりと音を立てて地面を濡らした。瞬く間に紅く染まっていくその小さな背中を見つめながら、団員達は呆然と立ち尽くす。
赤髪の怪人レヴィスの奇襲。倒れ伏していくフィンの身体。
「··········団長ぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
石畳に叩きつけるように倒れたフィンは動かない、動けない。その光景を目の当たりにしたラウルは絶叫する。
【ロキ・ファミリア】をいかなる時も鼓舞してきた『勇者』が倒れる様を見て、団員達の士気は完全に崩れ去る。あるいは59階層でアルが膝を突いたとき以上の絶望。
武力的にも精神的にもファミリアのが支柱であったフィンの代わりとなる者はいない。リヴェリアやガレス、アイズであっても彼の代わりとなることは出来ない。
唯一、取って代われるカリスマを持つ『剣聖』はこの場にはいない。
『勇者』の倒れる姿にベートですら思考を停止せざるを得ない。外野であるカリフ姉妹もフィンによって打倒されたアルガナは男の朱に染まる様にかたまり、バーチェもそんな姉の姿に硬直する。
斬撃を受けたフィン自身、自らの体に打ち込まれた呪毒とまびろでていく臓物の感覚に誰よりも早く致命的な現状を悟りながらも霞んでいく意識の中で自らに迫る死の気配を把握する。
全身から力が抜けて、指一本すら動かせなくなる。視界が徐々に暗くなる。呼吸をする度に喉の奥から血がせり上がってくる。
死。それが今まさにフィンに迫っている。
そして、剣を振り下ろし追撃しようとする赤髪の怪人の殺意よりも早くフィンは自身を見捨てさせる決断を下し──。
──────そして、その全てよりも疾く、聖女の歌声が響き渡った。
【
【
─────
都市最高の治癒術師、アミッド・テアサナーレの判断は歴戦の第一級冒険者たちよりも早く、その動きは怪人レヴィスよりも早く、その表情に一切の動揺はなかった。
そして、その詠唱速度は常軌を逸していた。
同時に別の詠唱を重ねているかと錯覚してしまうほどの速度で紡がれる聖歌。
都市最強の魔導士リヴェリア・リヨス・アールヴや精霊の分身をも────或いはかつての最強術師『静寂』や最強の魔法戦士たる『剣聖』すらも凌駕する詠唱速度は追撃に走るレヴィスすらも置き去りにする。
光の粒子が旋律に合わせてホタルのように舞い、幻想的な光景を演出する。純白の光の粒が歌い手を中心に渦を巻き、傷ついたフィンを包み込む。
穢れを一切孕まない純白の魔法円、それが幾重にも折り重なって展開され、フィンの身体を優しく抱き締めるように包み込み、淡い光を放つ。
この世に存在するあらゆる毒を浄化し、あらゆる傷を癒す回復魔法の極北。
フィンが負った塞がらないはずの傷が、癒えぬはずの毒がまたたく間に時が逆巻くかのように全て癒えていく。その奇跡のような光景に団員達はおろか、レヴィスですらも目を奪われる。
傷の治療、体力回復、状態異常及び呪詛の解除と比喩ではなく、文字通り全てを癒す『全癒』魔法。
発展アビリティを発現させていないのにも関わらず展開される純白の魔法円。才禍の再来の第三魔法やとある賢者の禁術と同じ、
アル・クラネルですら届かなかった全癒魔法の効果はLv2の身でありながら、魔法大国の不死を実現させた賢者のそれを上回る。
「─────ッ?!」
純白の光粒によって時が逆巻いたかのように今しがた負わせた傷が癒えるフィンの姿に目を見開き、はなから視野にいれていなかった
「るがぁああああああああああああああッ!!」
いち早く正気を取り戻したベートの爪牙が立ちふさがるモンスターを瞬く間に灰にし、レヴィスに肉薄する。それに追従するように我に返ったカリフ姉妹も続く。
「───ッ、Lv6、か」
果敢に攻め立ててくる三名のLv6の猛撃に堪らず下がるレヴィスだったがその手には未だ蠢動する英雄殺しの古の死毒が渦巻いている。
しかし、この場には───。
『最強』を生かし続けた、アル・クラネルを唯一『諦めさせた』聖女がいる。
「ご安心を、私がいる限り誰一人死なせません」
突如、崩壊した地下回廊から間一髪で脱出したアイズは息を整えていた。団員達と逸れ、散り散りにされた状況の中、冷静さを取り戻した彼女は仲間と合流するために走り出す。
石畳の地面を踏みしめ、先ほどまでいた場所を振り返る。そこには崩れ落ちた壁や天井があった。
「(みんなは大丈夫かな······)」
咄嗟に発動させた風の付与魔法のおかげでアイズ自身は脱出できたものの、他の団員の安否は確認できていない。アルの近くにいた団員達は無事な筈だがそれがどこまでなのかわからない以上、心配でならない。
しかし、だからといって立ち止まっている暇もない。今もこうしてる間に闇派閥が動き出しているかもしれないのだ。
「(アル達は心配だけど·········今しなきゃいけないのは、敵との接触!!)」
ダンジョンにも匹敵する広大さと危険性を孕んだ人工迷宮。方向感覚を狂わせる構造とモンスターの襲撃。このまま後手に回っていてはいずれ追い込まれ、逃げ場を失う。ならばこそ、今は敵の懐に飛び込むしかない。
入口や迷宮内に設置されたオリハルコンの『扉』を開閉する術を持つであろう闇派閥の中心人物を何としてでも見つけ出し、確保しなければならない。
「………………階段!」
皆とはぐれてから十数分、四つ目の下り階段を発見したアイズが駆け降りる。独特な臭気と暗闇が支配する空間。第一級冒険者としての鋭い感覚が、この先にいる何かを感じ取る。
階段を駆け下りていくごとにだんだんと強くなっていく臭気。それに比例するかのように、心臓が高鳴っていく。まるで迷宮全体が生きているかのような錯覚を覚える中、ついにその部屋を見つけた。
魔石灯すらなく完全な暗闇に包まれているその部屋の奥に、ぼんやりとした光が見える。
「(なに、この感覚·········?)」
その光から目を離すことが出来ない。ゾクリ、と背筋を走る悪寒。心臓が早鐘のように鳴り響き、本能が警笛を鳴らしている。
身体に巡る精霊の血が何かを訴えかけている。それでも、足は前に進んでいく。ゆっくりと、音を立てないように歩を進める。近づくにつれて強くなる異質な気配。
恩恵により強化された冒険者としての視覚は灯りのない暗闇でも問題ない。
上層で時折遭遇していたモンスターの姿はなく、その代わりに暗闇の通路だけが続いている。そして、とうとうその部屋に辿り着く。
そこは広い空洞だった。
円形の部屋の中心に、淡い燐光の輝きを放つ水晶のようなフラスコがある。
壁や床には金属管が張り巡らされており、なかに電極らしきものを刺されたモンスターが溶液に入った巨大な水槽などが並べてあるどこか科学的な雰囲気を漂わせた異相の部屋。
部屋の中央にあるフラスコが放つ不思議な光が、アイズの視界を照らす。
工房、あるいは実験室という言葉が相応しいそこには緑色の水溶液だけを残して空となった十八個のフラスコが置かれていた。
「これ、は·······」
人一人が入れるほどの大きさをした容器。その中にあったものは既に無い。
だが、アイズの『血』が騒ぎ出す。
─────精霊の気配。
フラスコに残った緑色の水溶液から感じられる24階層や59階層で遭遇した穢れた精霊と同じ魔力の残滓にアイズはこの中にあの宝玉の胎児がいたことを確信した。
「(ここはやっぱり·······)」
壊れたフラスコの個数はそのまま胎児の数なはず。59階層での死闘では【ロキ・ファミリア】の最精鋭を相手に猛威を振るったあの精霊の分身が十八体も製造されていたことになる。
24階層で一体、59階層で四体、合計五体の分身が産み落とされた時点で残りはあと十三体。あるいはリヴィラの街で発見したものも含むのかもしれないがどちらにせよ軽く見積もってもあと十体以上は製造されているはずだ。
あまりの戦力に息を呑む。だが同時に納得している自分もいた。あれほどの力を持ったモンスターが複数いるのであればオラリオを滅ぼせるというのも無理はない。
そんな怪物達を製造するための拠点がここなのだとすれば、ここで全てを終わらせるべきだ。
そう思い、周囲を見渡した瞬間、 ぞわり、と全身を悪寒が駆け巡る。
『──嗚呼、やはり来たか『剣姫』』
不意に響く男女の判別もつかない声。背に投げかけられたそれに、アイズははっと振り返った。
「貴方は········?!」
『気配に引き寄せられて自らやってくるとは愚かな』
紫のローブに不気味な仮面。アイズの脳裏にフィンがレヴィス以上の脅威と判断し、先程クノッソスの入り口を開けた怪人がそこにはいた。怪人エインの登場に、アイズの緊張がはね上がる。
体の輪郭が見えないほどに濃密な黒い魔力が溢れ出し、その濃度に思わず息を詰まらせる。そして、何よりもその存在感。
魔力だけではない。ただそこに立っているだけで放たれている圧倒的な殺気に気圧されそうになる。
『───これは、ただの八つ当たりだ』
エインは何らかの魔道具によるものか、若者なのか、老人なのか、男か女すら判別できない声で自嘲するかのように呟く。その様にアイズはこれまでにない言いしれぬ不気味さを覚えた。
『構えろ、できれば無様に死んでくれ』
アル『はー、つまんな』
バルカ『あ、だめだこりゃ、自爆スイッチオン!!』
レヴィス『まだ、戦ってるんですけど?!』
原作からしてアミッドがLv2って可笑しいよね
《原作と比べて追加戦力》
【ロキファミリア側】
・レベル8のキチガイ
・カリフ姉妹(Lv6、二人)
・後詰めでLv3〜Lv4のアマゾネス数十
・アミッド
・アイズ、ベート覚醒済み
【クノッソス側】
・レヴィス強化
・ヘビーモスの剣
・エイン強化