皆の傷になって死にたい転生者がベルの兄で才禍の怪物なのは間違っている 作:マタタビネガー
最新巻良かった···オッタルは強いし、アレンはアレンで最高っす
リュー強化が予想外な報告で場合によってはランクアップあたりの内容ちょっと変えるかもです。
「────そいつ、ニーズホッグって言うんだってさ」
突如として崩落した領域から命からがら逃れた【ロキ・ファミリア】二軍のレフィーヤ達は地図を作製しながらクノッソス最奥へと進んでいた。
とある壁画の前で足を止めた一行。色あせた岩壁に刻まれている壁画はその形式からおそらくはオラリオの創設以前、古代に描かれたものだと思われる。
劣化が激しかったが辛うじて読み取れるのは様々なモンスターに人々が襲われている凄惨な光景だ。そしてその中央には巨大な漆黒の竜の絵。
その隣には六人の少女が目を閉じて手を組み、祈っているような姿が描かれている。
露悪的でありながらどこか惹きつけられるような不気味かつ幻想的な絵を前にふと目を奪われる一行の背後に暗い声が響いた。レフィーヤ達は振り向いて明かりの落ちた広間を見渡すと支柱の影に隠れる人影を見つける。
漆黒の衣に身を包み、黒いフードを目深に被った姿は暗闇に溶け込んでいるが隠しきれない神気がその人物の正体を示していた。
「その竜は三大冒険者依頼の目標······『陸の王者』、『海の覇者』、そして『隻眼の黒竜』。かの黒竜達が出てくるまで地上を恐怖のドン底に陥れていた化物だよ」
「貴方は·········!!」
陰鬱で冷たい声音。中性的ではあるが男性の声。神であると一目見て分かるその人物はレフィーヤ達に向けて静かに語りかけた。
ローブから長い灰色の髪が零れると、フードを払い除けて顔を出す。端正で整った容貌は超越存在である神の中でも美形に分類されるだろう。
しかしそんな美しさを不吉と思えるほどに、彼の表情は昏く歪んでいた。見惚れるより先に恐怖を抱かせるような邪悪な笑み。
「君たちとははじめまして、かな?俺の名前はタナトス。闇派閥の残り滓の主神、邪神なんてギルドに呼ばれてた神々の残党だよ」
「それじゃあ、貴方が闇派閥の遺志を引き継いで、こんな組織を·······!!」
緊張感のないその自己紹介にレフィーヤ達は目の前にいる男神に警戒と敵意を向ける。タナトスと名乗った男神は肩をすくめてみせ、おどけたように首を振った。
レフィーヤ達が今まで戦ってきた闇の眷属とは比べるまでもない神故の圧倒的な存在感。
無意識のうちに杖を握る手に力が入るレフィーヤ。フィンやアイズ、ティオネのよう第一級冒険者たちにはまだまだ及ばないのはわかっているが、レフィーヤもファミリアを支える第二級冒険者としての誇りがある。
オラリオの大敵である闇派閥の首魁と相対して怯むわけにはいかない。
そう思っていても、レフィーヤは足が震えそうになるのを止められなかった。
悍ましさすら覚えるほどの暗い瞳はそのまま深淵に繋がっているのではないかと錯覚させる。
「貴方が、闇派閥の長なんですか·······?」
「俺が? はははっ、違う違う。俺たちの頭は───エニュオさ」
「······エニュオ?」
何年も前から闇派閥関連の事件でその背後に姿がちらついていたタナトスこそが闇派閥の首魁であるとレフィーヤは思っていた。
思わず聞き返してしまうレフィーヤ達の視線を浴びながらタナトスは口元に弧を描く。戸惑うレフィーヤ達に気をよくしたのか、タナトスは上機嫌に言葉を続けた。
「そうとも、エニュオ。その姿はおろか、声ですら誰も聞いたことがない、本当に実在するのかもわからない。······俺と同じ神なのかすら知らない」
「し、知らない?そんな······姿も、声も?」
間派閥の残党を率いる首魁のことをおそらくは古参の邪神であろうタナトスが知らないなんてことがあり得るのだろうか。
レフィーヤ自体、エニュオという神の名は寡聞にして知らないが、それでもタナトスが知らないのはわけが違う。困惑するレフィーヤにタナトスは肩を揺らす。
「レヴィスちゃんやエインちゃんの話じゃあ、今やろうとしている悪巧みは、全てエニュオの考えらしいけどね」
「悪巧み······?」
「·········ああ、その壁画も、エニュオがどっかの遺跡から持ってこさせたらしいよ」
邪悪に歪んだドラゴンと祈りを捧げる六人の乙女。レフィーヤは改めて壁画に目を移す。
「ニーズホッグは『闇と絶望』の象徴·········都市の破壊者はあの魔竜にでもなりたいのかねぇ」
「───どうしたぁ『凶狼』? 本当に見殺しにするつもりかァ!!」
突如として崩落したクノッソス。その崩落から団員達を引き連れて逃れたベートのもとに奇襲をかけたディックスの哄笑が響き渡る。
錯乱の呪詛によりベート以外の団員は見境なく互いを襲い合い、叫喚をあげて殺し合っている。そんな中でただ一人呪詛を躱したベートは苛立ちながらも冷静さを保ち、状況を見極めようと目を凝らす。
狂気に囚われた団員達による同士討ち。傷つけあう団員の傷は深い、猶予はない。仲間の剣で貫かれようとも正気を取り戻さずに狂ったままだ。
チッ、と舌打ちをしてベートは襲撃者――ディックスを睨みつける。
闇派閥の使徒特有のフードを深くかぶった男は口角を歪めながら愉悦に満ちた声をあげる。
「───く、くくっ、すげぇ殺気だなぁ、オイ(さては俺の【フォベートール・ダイダロス】が術者の俺をブチのめせば解除されるたぐいの呪詛だと勘づいてやがるな?)」
ベートから発せられる剣呑にすぎる殺気を浴びながらディックスは軽薄そうな口調で呟く。この場にいる団員達はもう長くない。
放っておいても遠からず死ぬ。だが、肝心の狼人はそうはいかないだろうと嘲りを警戒心に変えて油断なくベートを睨む。
「(もし仲間を見殺しにして俺を狙ってくるようなら、扉を下ろしてトンズラさせて貰う。仲間を助け出そうとするなら、今度こそあの狼人に呪詛を喰らわせちまえばいい。俺の呪いはたとえLv.6だろうとブチ殺す)」
Lv.6であるベートに対してディックスのレベルは5。純粋な戦闘能力で言えば確実に劣るだろう。
しかしディックスの撹乱の呪詛、【フォベートール・ダイダロス】ならば相手が格上の冒険者であろうと決まりさえすれば確殺できる自信がある。
敏捷などのステイタスは当然ながら劣っているだろうが互いの距離と呪詛の射程を考えればベートの攻撃が届くよりも早くディックスの呪詛は届くはずだ。
すでに狂気に囚われた団員達と言う足枷と近接戦闘に持ち込まれさえしなければ一方的に必殺を叩き込めるという優位。
「出てこねえのか? Lv6が笑わせるぜ!!」
呪詛をかけるタイミングを窺いながら視線だけで人を殺しかねないほど鋭い眼光を放つ狼人に向けて挑発の言葉を投げかける。
団員達が全滅するまで残り数分もない。その数分間、この場で膠着状態を維持していればそれはそれでディックスの勝ちとも言えるがやはりここは【ロキ・ファミリア】の主力の一人であるベートを狩っておきたいところ。
そんなディックスの思惑通りに舌打ちとともにディックスに向かって駆け出す銀色の影。
「───もらったな」
呪詛の代償によってステータスを低下させた今のディックスには視認することすら難しいほどの速度だがそれでもディックスの呪詛の方が早い。
人差し指をベートへ突きつけ、その指先から不可視必中の呪詛が放たれようとした瞬間、通路にベートでも【ロキ・ファミリア】の団員のものでもない声が響き渡った。
【呪いは彼方に、光の枢機へ。聖想の名をもって───私が癒す】
「──────ッ?!(俺の呪いが掻き消されただと?!)」
その声の主はベートの背後から歩み寄ってくる白銀の聖女。その聖女の聖歌によってディックスは呪詛によって繋がっていた被術者との繋がりが強制的に絶たれたことを知覚し、驚愕に目を見開く。
「らァ──!!」
団員の呪縛からの解放と同時にベートは疾走を再開し、瞬く間にディックスへと肉薄すると手に持つ双剣を翻して斬りかかる。
唐突に呪いを解かれたことによるディックスの驚愕によるわずかな隙を見逃さず、ベートは猛攻を仕掛ける。
ベートの振るう二対の銀靴、それが描く銀閃がディックスに迫る。
「───っ?!」
ディックスの反応速度をゆうに超えるベートの連続攻撃。その絶大な効果の代償にステータスの低下を自身に強制する呪詛を発動していたら瞬殺されていたであろう怒り狂った獣人の攻撃。
あくまで見境なく暴れるように錯乱させるだけである呪詛ではこの至近距離で発動させたところで何の意味もなく今以上の狂戦士と化したベートにただただ殺されるだけだ。
戦慄しつつも冷静に判断したディックスはバックステップでベートの攻撃を回避しようとするが回避どころか全身全霊かけて防御するので精一杯だった。
「随分と舐めた真似してくれやがったな」
「ぐあっ!!」
ベートの激情に照らされたメタルブーツが翻る。銀閃がディックスの脇腹を捉え、その体をくの字に曲げさせる。
痛みに顔を歪めながらも即座に体勢を立て直そうとするがベートの追撃のほうが早い。
神速の連撃にディックスは防戦一方になる。一撃一撃が致命傷になりかねない威力にディックスは久しく感じていなかった死の気配を感じ取る。
「(────やばい、やばい、やばいっ!!)」
体中の骨という骨が軋みをあげ、体が悲鳴を上げる。一手間違えれば一瞬で死に至る極限の戦闘。焦燥と恐怖がディックスの心を塗りつぶしていく。
ベートの攻撃は苛烈を極め、ディックスが反撃に転じることを許さない。力が、速度が、技と駆け引きが、何もかもがディックスを上回っている。
死を予感すると共に、自身の体を最後の力で既に開閉された扉の奥へと押し飛ばす。扉の向こう側へ転がり込み、石畳に背中を打ち付ける。
「く、くそったれがァアアアアアアアアアアッ!!」
一族に引き継がれる真紅の瞳を輝かせ、最硬金属の扉を断頭台の刃の如く降り下ろす。ディックスに止めを刺そうとしたベートの片腕が超重量の最硬金属の扉に阻まれて撃墜される。
「はぁっ、はぁっ······くそっ、いてぇなちくしょうが······」
命からがら逃れられたことに対する安堵とともにふき出してくる脂汗と痛痒にディックスの顔が歪む。一方的に攻め立てられたディックスは満身創痍だ。
しかし、超重量の扉に押しつぶされ、今頃ベートの腕は押し潰されて原型も残らずに粉砕されているだろうとディックスはほくそ笑む。
「だが、これで·······」
ズズッ、と超重量の金属扉が床から浮く音が安堵に浸っていたディックスの耳朶を震わす。何十トンもある金属塊が上がっていく音。その音源の方角を睨んだディックスは息を呑んで絶句した。
「(おい、巫山戯んなよっ、どれだけの重量があると思って·······)」
その右腕は潰れることなく、その腕力のみで金属扉を持ち上げていたのだ。潰れていないと言ってもぐしゃぐしゃにひしゃげているはずだ。
だというのに、ベートはそんなことなど意にも介さず今も血を滴らせている腕一本だけでオリハルコンの扉を持ち上げる。
ベートが纏う闘気は、その瞳は、まるで猛る炎のように猛り続けている。
「〜〜〜〜〜っっ!!」
戦慄。ベートの瞳が告げる絶狩の意思にディックスは言葉にならない畏怖の音をもらし、ベートから逃がれるように迷宮の奥へ駆け出した。
「───ちっ、逃げやがったか······」
追いかけようとしたベートだったが通路で倒れ伏す団員達の姿に舌打ちをして立ち止まる。
「おい、この先へ行くぞ!! 正気に戻ったなら、急げ!!」
「ベートさんの治療をしますから皆さん、お早めに」
うーん。これ、レヴィスちゃん相手じゃ俺死ねなくね?
いや、レヴィスちゃんも強いよ? 【ロキファミリア】の幹部陣じゃサシで勝てるやつはいないんだろうし、魔石食らったのか前よりもだいぶ強くなってるよ。
でも、こっちもランクアップした以上、ステイタスはまぁコッチのが上だし、戦闘技術もそこまで突出してるわけじゃないしな······。
そりゃ、腕生やせるレベルの再生能力は大したもんだけど防御力と再生速度が釣り合ってないからちょっとした延命にしかなってないというか。
ベヒーモスの剣もぶっちゃけ普通に戦ってたらわざと受けない限り斬られないからあんま意味ないんだよね。
接触しなくても呪えるっぽいけどその発動より俺の電撃のが早いしな。
魔石食うことでの超成長もそこらの冒険者よりは格段に早いってだけで何なら俺のが成長速度早いまであるし、まだ閾値でないだろうけどLv9相当まで強くなるかって考えたら難しそうだな。
まあ、まだ殺しはしないけど。とりあえず今どうするかな、無力化して放っておくかな。
···········さっきからアミッドの魔力の波動が少しずつこっち来てんだよな、早くしなきゃ。
ん? 何だあの風と雷、もしかして·········あーなるほどね。丁度いいや、せっかくだから顔拝んでやろう。
でも、ギリギリのとこで助けんのこないだもやったな、ちょっとワンパターンが過ぎるかな、別パターンも用意しなきゃなぁ。
────オラッ、レヴィスちゃんデリバリーサービスだよッ!!
『「──────ッ?!」』
アダマンタイトの壁を砂の壁であるかのように粉砕しながら決河の如き勢いでキリモミしながら吹き飛んできた人影にエインもアイズも驚愕する。
驚愕するのも無理もない、その吹き飛ばされてボロ雑巾のような様相を呈しているのが赤髪の怪人レヴィスなのだから。
異種混成により『強化種』の性質を持ち、魔石を喰らうことで今やLv7を超える力を手に入れ、黒風を纏わなくては今のアイズでは太刀打ちできないほどの実力者。
そんなレヴィスは地面に叩きつけられると同時にゴロゴロと転がり、やがて勢いを失って止まる。アイズとエインが呆然と見つめる中、レヴィスはよろめきながらも立ち上がる。
その強さはアイズもエインも理解している。地上における最高戦力たる第一級冒険者をも凌駕する実力を持つ女がそのような様を晒しているなど信じられる光景ではない。
しかし、その原因であろう男が壊れた壁を越えてやってきたとき、その驚愕は納得へ変わった。
「グッ·······」
「こっちは随分と広いな·······。そろそろ、限界か?」
何よりも驚くべきはその男の、アル・クラネルの装備。アルは
第一等級を超えた領域に達している武具の数々は抜かれずに鞘へ仕舞われたまま。その事実だけでも異常だというのに、更にアルは無傷。
あのレヴィスを相手にして、無傷。
ありえない。レヴィスの身体にはいくつもの裂傷があり、そこからは血が流れている。間違いなく重傷、普通なら立っていられないほどの深手のはずだ。
レヴィスの負っている火傷から魔法自体は使っていたのだろうが、アルの悠然な姿からは圧倒的なまでの余裕がうかがえる。
「·········エインか、アリアを始末して手を貸せ。私一人ではもはや戦えん」
息も絶え絶えなレヴィスではあるが、出た先が良かったと言わんばかりに僅かに口角を上げる。
自軍における最高戦力。自分以上の強さを持つエインと死に体のアイズ。もはや、戦力にはなりえないであろうアイズを除けばこの状況は二対一。
Lv7相当のレヴィスとLv8以上のエインが二人がかりで戦えば相手がアル・クラネルといえど勝算は十分にある。しかし──────。
『───クラネル』
「ん? お前、どっかで会ったことあるか?」
エインの目に映る、アイズを背後に庇いながら抜き放った大剣を自身に向けるアルの姿がこれ以上ない悪夢としてエインを襲っていた。
『姫』を守る『英雄』の図、ならば自分は─────────。
「来いよ、『
『──────あ、ぁあ、あああああああッ!!』
曇らせ話、なのかな······
ちなみに曇らせを抜いたヒロイン?とアルの親密度はアミッド(凄女)とリュー(前作ヒロインみたいなもん)のツートップです。
アイズとフィルヴィスはリヴェリアのちょい下くらいかな
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