皆の傷になって死にたい転生者がベルの兄で才禍の怪物なのは間違っている   作:マタタビネガー

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『フレイヤ→アル、ベル』
ベルに対して原作と大差なし。アルへは最初の一年くらいはベルみたいな感じで欲しがっていたが自分の手に負えないし、コイツに恋はねーな、と気がついた

愛でも恋情でもない、ミアとはまた違った友情を抱いた唯一の相手

『アル→フレイヤ』
女版アポロン




七十九話 最強の怪物②

 

 

 

 

 

············ここで殺されてもいい。

 

お前に剣を向けられた時、そう思った。嘘じゃない、もとより自害すらできない穢れた身。それを他でもないお前に終わらせてもらえるのなら、どれだけ恵まれた最期だろう。

 

『怪物』として死ぬとしても、最期に見る顔が『英雄(お前)』ならば悔いはない。

 

········そして、お前が死んだ私を暴いたとき、私の顔を見たお前の心に罅が入ればどれだけ幸せなのだろう。

 

ああ、けれど────。

 

 

 

 

 

 

 

 

穢れた精霊の鎧が聖炎の轟声によって砕け散る。朱緑肉の輝きを聖火の輝きが焼き焦がし、浄化していく。破砕の火炎がレヴィスの肉を炭化させ、肉が焼ける嫌な臭いが鼻腔を刺激する。

 

それでも致命傷ではないとレヴィスの身体を覆う緑肉が即座に再生し、レヴィスの命を繋ごうとするが炭化した傷が癒えることを拒絶する。

 

収束した聖火の一斬はレヴィスの肉鎧を構成する精霊の細胞一つ一つを焼き払い、死滅させる。

 

魔を討ち、闇を斬り払う聖なる炎。

 

その一撃の名は【聖焔の英斬(ディア・アルバート)】。

 

かつて、怪物の王たる黒竜を退けたという英雄王の名を冠した聖火の一閃。

 

一度は大剣によって穿たれた青年。今度は、レヴィスが穿たれる番であった。

 

鋼鉄の融点を超える灼熱の刃は大気をも切り裂き、空間すらも両断しながら突き進む。

 

アルの背後で爆ぜる雷光の爆発。雷の障壁が解除され、聖火の煌めきが一瞬だけアルの姿を照らし出す。

 

一瞬後、レヴィスの肩が爆ぜ、血飛沫が舞う。浅くではあるが肩を袈裟懸けに切断され、亀裂のように走った切創から血が噴き出す。

 

肩ごと右腕が斬り飛ばされ、レヴィスは片膝を着いて崩れ落ちる。ぐらりと揺れ、傾くレヴィスは遅れて胸部に一筋の線が入る感覚を覚えた。

 

それが自分の胸元に刻まれた縦の切れ目だと気づいた時、レヴィスの視界が紅蓮に染まった。

 

ピシリ、と胸の奥に埋め込まれた紫紺の結晶に罅が入る。

 

「くっ······ぁッ!!」

 

 レヴィスの全身を駆け巡る激痛、今まで感じたことの無い痛み。即死ではない。しかし、もはや趨勢は決した。

 

怪人であるレヴィスはモンスターと同じように魔石を破壊されれば死ぬ。そんな魔石に罅を入れられたレヴィスに大した継戦能力は残されていない。

 

倒れ伏すレヴィスを他所にアルの目が、剣が残るエインへ向けられる。

 

「────さぁ、次はお前だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『怪物』と『英雄』の戦いから逃されたアイズ。英雄から足手まといと断ぜられた彼女はしかし、その瞳に決意を宿して走る。

 

自分が情けない、不甲斐ない、弱い。その事実がどうしようもなく胸を締め付け、息が詰まりそうになる。

 

「(だけど、それでも、私は─────!!)」

 

 それでも膝はつかない。たとえどれだけ惨めでも自分にできることをやろうという意思が、折れそうな心を支える。アルにできず、自分にできる何かがあるはずだと。

 

「【目覚めよ】!!」

 

 アイズの、【ロキ・ファミリア】の敵はこの人工迷宮そのもの。ならばこの場でアイズにできることは風を呼ぶこと。

 

迷宮そのものを打倒するべく、アイズは風を行使する。不死鳥の火衣によって癒えたとはいえ、少し前まで致命傷だったアイズの身体は今も万全とは言い難い。

 

精神力も底を尽きかけ、身体は休息を求めている。酷使に次ぐ酷使に身体が悲鳴を上げていた。

 

「【目覚めよ】!!!!」

 

 塞がった傷から血が流れ出し、アイズの身体はまるで泥人形のように重たい。だが、構うものかとアイズは魔法を行使し続ける。

 

魔法を行使しすぎて頭痛が鳴り止まず眩む視界の中でアイズは精神力を絞って魔法を、大いなる風を操らんとする。

 

「【吹き荒れよ】!!!!」

 

 都合三度の詠唱により、アイズが呼び起こしたのは暴風。それもただの暴風ではない。広間一つにおさまらない、耐魔法の石壁すらも巻き込むほどの竜巻がアイズの意志に従い、渦を巻く。

 

アイズの周囲で渦巻き、暴れ狂う暴威の嵐。広間の全てを呑み込まんばかりに荒れ狂う風がアイズを中心に螺旋を描き、その威力を増していく。

 

それは破壊のためでなく、『道』を繋ぐための風の奔流。アイズの意思に従って荒ぶる風に無駄はなく、ただ己が使命を果たすために荒れ狂う。

 

アイズを中心として逆巻く風は、やがてアイズを中心とした一つの通路となる。周囲の通路口へ烈風を送り込み、迷宮に打ち勝たんと風を束ねて進む。

 

軋む身体に鞭を打ち、限界を超えて魔法を行使するアイズ。その額には玉のような汗が浮かび、今にも倒れてしまいそうだ。

 

それでも耐えて、耐えて、耐え抜いて、そして─────。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ティオナさん、アークスがもう·······」

 

「········やっばいね、これ」 

 

 悪と死の錯綜する人造迷宮、度重なる連戦と悪意に満ちた罠の数々によってティオナ達は疲弊しきっていた。

 

特に治癒不可であるポイズン・ウェルミスの劇毒を受けた男性団員のアークスは脂汗を流しながら苦しみ悶えている。

 

治療をしたいが、解毒薬がなく、ましてや劇毒を治癒できる回復魔法を使えるヒーラーはいない。

 

ティオナにバーチェという第一級冒険者、それもLv.6の二人がいる以上戦力的には問題はない。だがこの人工迷宮では戦闘に関係のないトラップが無数にある。

 

さらには無尽蔵に湧いて出てくる極彩色のモンスターとの終わりの見えない戦闘に、既に体力が尽きかけている者もいるほどだ。ティオナはそんな仲間達を鼓舞しながら、しかし自身もまた疲労を隠しきれない。

 

アークス以上の量の毒液を浴びたティオナはその耐異常のアビリティからなんとか持ちこたえているが、それでも毒の影響がないわけではない。

 

ティオナの顔色は悪く、呼吸は乱れ始めている。前衛として常に最前線に立ち続けんとしているからこそ、気力で押しとどめてはいるが、それでも少しずつ確実に蓄積している。

 

蓄積したダメージは決して無視できないものとなっており、その顔色は優れない。

 

誰も彼もが満身創痍、いつ全滅してもおかしくない状況。行き場のない人造迷宮の悪辣なる構造、閉塞感による精神的負荷も相まって心身ともに限界を迎えようとしていた。

 

休息も補給もままならない極限の状況に、ティオナ達は追い詰められつつある。孤立無援、救助は期待できず、希望は潰える寸前。

 

誰もが絶望に屈しそうになる中、ティオナの第一級冒険者としての感覚が『なにか』を捉える。

 

「なにか、くる······?」

 

 それは少しずつ近づき、大きくなっていく。どこか暖かなその気配にティオナは戸惑う。その戸惑いは他の者達も同じようで、ティオナの言葉に全員がその方向に目を向ける。

 

風が、空気の流れが変わった。そう思ったときにはすでにその流れは既に止まらない。荒れ狂う暴風が、まるで意思を持っているかのように広間を蹂躙し、耳をつんざく轟音とともに駆け抜けていく。

 

「な、なにっ!?」

 

「わ、わからない! でも、これは、この風は······!!」

 

 荒れ狂い、逆巻いていた風は次第に落ち着きを見せ、次第に穏やかに変わっていく。

 

暖かく、優しい風が吹き、傷ついた者を癒すように撫でる。

 

「──────アイズだ!! アイズが呼んでる!!」

 

 

 

 

 

「そうよ·······!! アイズが私達を呼んでるのよ!!」

 

 一方、アルガナと合流して暗殺者達と戦っていたティオネもアイズの風を感じ取り、歓喜の声を上げた。

 

アイズはまだ生きている。まだ戦っている。自分達を呼ぶ声が風を通して聞こえてくる。

 

ならば応えねばならない。アイズの呼びかけに応えずして、何が仲間か。人造迷宮そのものを巡る精霊の風。

 

自分の位置を、そして仲間達の集結場所を伝えんとするアイズの風。複雑怪奇な迷宮の機構を覆す、それはまさに起死回生の一手。

 

風が吹き、アイズの意思を伝える。アイズの風に導かれるように、彼女達の瞳に再び闘志の炎を灯らせる。

 

「行くわよ!!」

 

「はい!!」

 

 

 

 

 

 

「ベートさん、この風は·······」

 

「······ああ、これはアイズの風だ」

 

 姉妹以外の面々の耳にもアイズからの風が届いた。風に乗って届いたアイズの声は、微かに震えていた。だが、確かにそこにはアイズの意思があった。

 

自分達を呼んでいる。アイズは今、たった一人で戦おうとしている。自分達の助けが来るまで耐えようとしている。

 

『暴蛮者』を退けたベートとアミッド、呪詛から解放された団員達も風の便りにアイズの意図を読み取った。

 

「行くぞ、テメェら!!アイズの元に!!」

 

 ベートは吠え、仲間達に激を入れる。ベートもまたアイズの意志を感じたのだ。そして、その意志に応えるべく、ベート達は疾走を開始する。

 

風の導くままに、彼らは走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

「信じられん······ッ!!」

 

 人造迷宮クノッソス、最奥。迷宮中のいたる所に設置された『目』を介して罠や扉の操作を行う制御室にて、迷宮の主たるバルカは呆然と呟いた。

 

迷宮の主たる彼は人造迷宮の全ての機能を掌握する権限を持つ。それ故に、彼の眼前で起きている光景が理解できなかった。

 

監視の水鏡に写る【ロキ・ファミリア】の団員達が、次々と通路を抜けて広間に飛び出している。

 

たった一人の少女の魔法が、吹きすさぶ精霊の風が迷宮を塗り替えていく。

 

「我が血族の千年の執念にたった一人の小娘の魔法が打ち勝つだと? 」

 

 いくら最硬精製金属の扉といえど横溢する風そのものを堰き止めることは出来ず、風が起こす圧力は容易く通路の淀んだ空気を吹き飛ばす。

 

迷宮内を巡る風が『道』を作り、それを辿ってティオナ達が進む。

 

「『風』が······全てを導いているのか?」

 

 吹き荒び、暴れ回る風が徐々に収まっていく。まるで意思があるかのように、風は進むべき道を探り当て、仲間達を導く。

 

人造迷宮は複雑怪奇且つ難解な迷宮である。その全てを把握し、操作し、把握しているのは迷宮の主たるバルカだけである。

 

しかし、混沌の芸術たるクノッソスにも『秩序』が存在する。 

 

唯一の正規ルート。

 

それすなわち、『アリアドネ』。

 

精霊の風が真実の経路を照らしだし、仲間達を導き続ける。人造迷宮の深淵に潜む怪物を打倒するため、その身を削りながら風を呼び続けている少女の元へ。

 

しかし、それでもなお、人造迷宮には無数のトラップが仕掛けられている。例え真実の道筋を知ろうとも、そこを通るのを拒む悪辣なる罠の数々が。

 

しかし、戦意を取り戻した冒険者達はその悉くを打ち破る。

 

ティオナの振るう大双刃が、ティオネのナイフが、ベートの銀靴が、襲いかかってくるモンスターを次々と屠る。ベートが蹴り砕き、ティオナが両断し、ティオネが切り裂く。

 

「『剣姫』·······いや、『剣聖』のもとに集うというのか、【ロキ・ファミリア】······ッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「────さぁ、次はお前だ」

 

 剣を構えるアルの背後の通路からいくつもの足音。仮面の奥でエインは目を吊らせる。アルのもとへ集うように近づいてくる足音。

 

アルに視線を向けたまま、エインは後ろから近づいてくる複数の気配にギリ、と歯軋りをする。

 

闇に包まれた通路から真っ先に現れたのは銀の輝き。

 

「─────よぉ」

 

 精霊の風に導かれた狼人。アイズの治療をするアミッドを背にベートが激憤を隠さずに歩を進める。

 

「死ねッ!!」

 

『·········狼人』

  

 アイズの【エアリエル】をそのメタルブーツに纏って一筋の大いなる烈風となったベートの突進。

 

常の比ではない速度と威力、エインの想定を上回る速度で迫るベートは、そのままエインへ一直線に向かう。そして、ベートが放った拳撃を、エインはその腕につけたガントレットで受け止める。

 

金属音が鳴り響き、エインとベートの衝突の余波が衝撃波となって広間に吹き荒れる。

 

僅かに体勢を崩し、隙を作ったエインの頭上に影が差す。エインの頭に振り下ろされるのは断頭台の刃が如き脚。

 

「随分、うちのアイズを苛めてくれたみたいね」

 

 ベートの攻撃と入れ替わるようにして飛び込んできたティオネの足撃。高速の連蹴を繰り出し、蹴りの雨を降らすティオネは更に攻撃を続ける。 

 

ベートの一撃とティオネの連撃。二つによる同時攻撃を両腕のガントレットと精霊の鎧で防ぐエインだが、第一級冒険者二人の猛攻を捌ききれずに後退させられる。

 

ティオネが放つ強烈な回し蹴りを受け止めたエインは、その衝撃で後方へと押し出される。そして、そのエインの懐に飛び込む影。

 

「容赦、しないからね」

 

 いつの間にかエインの背後に回っていたティオナは大双刃を両手で握り締め、渾身の一撃を放つ。巨竜を容易く斬り倒す一撃がエインに迫る。

 

「おりゃああああっ!」

 

『チィぃ───』

 

 咄嗟に鎧のように硬質化させた『枝』で大双刃の一撃を防ぐエインだったが、ティオナの一撃は重く、その勢いのまま弾き飛ばされる。

 

壁に激突する寸前に壁を足場にして方向転換し、着地したエインは忌々しげに舌打ちをした。

 

鈍い痛痒を腕に覚えながら、構えるエインへの奇襲は止まらない。地を這う蛇の如く、床を滑るように疾走する褐色の女戦士。

 

間髪入れずに今度は双連の拳打が見舞われる。闘国の頭領姉妹の拳が強かにエインの胴体を打ち付ける。

 

『次から次へと煩わしい······』 

 

 第一級冒険者達の奇襲を受けてなお、最強の怪物であるエインに損傷はない。あるのは純然たる苛立ちのみ。

 

レヴィスと同じ精霊の鎧を身に纏ったエインの身体には傷一つない。

 

油断なくエインを睨めつけながら合流した冒険者達は互いに背中合わせになり、武器を構える。

 

「全員、速やかに状況を報告しろ!!」

 

 傷から再起したフィンを中心にティオナは大双刃を、レフィーヤは杖を構えて臨戦態勢を取り、ベートとティオナもそれぞれの得物を構える。

 

アルもまた剣を構えたまま、一歩も動かない。全員が戦闘準備を整えたことを確認したフィンは、鋭い眼差しをエインに向けたまま口を開く。

 

「フィン!! アークス達が毒妖蛆の劇毒にやられた!!」

 

「私が治します、ティオナさんもこちらに!!」

 

 互いの情報交換は迅速に行われた。チームプレイこそ冒険者の真髄だと言わんばかりに即座に連携を取り、エインを取り囲むように陣形を組み上げる。

 

そんな彼等をエインは仮面の下から鬱陶しい羽虫でも見るような目つきで見据えていた。

 

「·········タナトスの眷族どもは何をやっている」

 

 そこに冷迫な殺気を滲ませた声音。五体を血に染めたレヴィスが立ち上がろうとしていた。レヴィスは失った片腕を再生させつつ、肉の鎧を新たに換装して立ち上がる。

 

アルによって深い傷を負った怪人は全身を傷付けながらも、その戦意を衰えさせてはいない。

 

「まぁ、いい。邪魔な羽虫どもを、ここで全て片付けてやるだけだ。やるぞ、エイン················エイン?」

 

「ちょっと、この数とやろうっての?」

 

 底知れぬ圧力を漂わせる怪傑の魔人を前にティオネは不敵な笑みを浮かべるが、その額から冷や汗が流れる。

 

二人の怪人から放たれる圧倒的な存在感と威圧感に呑まれまいとはナイフを握る手に力を込める。

 

「囀るな、手負いのお前等など物の数では無い」

 

 ここに集う冒険者のいずれもが人造迷宮の悪辣なる罠に囚われ、消耗している。

 

【ロキ・ファミリア】で『万全』なのは付与魔法によって完全に傷を塞いだアルのみ。

 

しかし、それでも勝機がないかと問われれば否と答ずるだろう。

 

「予備の槍を」

 

「は、はいっ」

 

 フィンの指示を受けたラウルが駆け出し、予備の武装として用意していた槍を投げ渡す。それを受け取ったフィンは一瞬だけ視線を仲間達に向ける。

 

強敵であることには疑いはないが勝てる、と冒険者として長年培ってきた戦力分析を基とした冷静な判断を下す。

 

だが、それ以上に嫌な予感が拭えない。それは第六感としか言いようがない感覚。

 

まるで自分達が絶体絶命の状況に追い込まれているかのような、そんな不安が脳裏を過る。

 

「(親指が痛む······)」

 

 その痛みは胸の奥にまで浸透し、警鐘を鳴らしているような錯覚すら覚える。だが、今は迷う暇すらない。

 

────勝つ。

 

己が信念を胸に秘め、フィンは前を見据える。

 

その時。

 

背後よりレヴィスの胸が紫の手刀によって貫かれた。

 

 

 

エインの目には『英雄』と『姫』のもとへ集う『仲間』の姿が、そしてアルの剣の刀身に反射する『怪物』の姿が映っていた。

 

その光景を目にした次の瞬間。手刀をもうひとりの『怪物』に、レヴィスの胸に突き刺した。

 

とめどなく溢れ出る鮮血。レヴィスの身体がびくびくと身体が痙攣する。レヴィスは痛みより先に驚愕に目を剥き、美しい顔を歪めた。

 

「な、なんのつもりだ。エイン───ッ!!」

 

 体から力が抜けていくのを感じながらエインを睨みつける。まずい、と思った時には既に遅い。

 

エインの指先から伸びた黒い爪がレヴィスの魔石を掴み、引き抜かれる。

 

『お前も、オリヴァス・アクトの魔石を喰らったのだろう? 私も同じことをするだけだ。····················································私はお前のことは嫌いではなかったよ、レヴィス』

 

 いくらか前、レヴィスがオリヴァス・アクトに行ったように。エインもまた、レヴィスの魔石を奪った。

 

その行為の意味するところを理解したレヴィスの顔から感情という表情が失われ、虚ろな瞳を天井へ向けた。

 

エインの腕の中で力を失った怪人は崩れ落ち、床の上に横たわる。

 

「─────────────────そう、か」

 

 怪人はモンスターと同じく魔石を失えば死ぬ。胸をかくように腕を当てた怪人は、自分の死期を悟ったのか掠れた声で呟いた。

 

エインはその言葉に答えることなく、ただ黙って怪人を見下ろす。灰化していく怪人は、最後に口元を緩めて微笑んだ。

 

その死に顔はどこか満足げだった。

やがて、怪人の肉体は完全に消え去り、後には灰と罅割れた魔石だけが残る。

 

エインはその魔石を摘み、仮面の隙間から嚥下した。

 

『もう、取り繕うのはやめだ』

 

 ──────本当の意味での、『最強の怪物』が殻を破った。

 

 

 

 







本編前半の最高功績者のレヴィスちゃんに敬礼

ある意味での三章メインヒロインでした
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