皆の傷になって死にたい転生者がベルの兄で才禍の怪物なのは間違っている 作:マタタビネガー
ソード・オラトリア13巻試し読みました
ベート、お前、ほんま·······
────興味はなかった。
ゼウスとヘラがどこぞの聖域から拾ってきたガキを妹が、■■■■■が養子として引き取り、息子としたという話は我々があの黒竜に敗北してすぐに伝わってきた。
だが、だからといってそれが何だと言うのか?
たしかに、私は妹は、妹だけは愛している。しかし、私はザルドとは違う。その血を継いでいるわけでもない子供に感傷を抱けるほど、私は真っ当な人間ではない。
──────その、はずだったんだ。
私が『悪』となる契約をしたその日、僅かに心にへばりついた心残りともいうべき感情に突き動かされ、その顔を見に行ってしまおうと思ってしまった。
ああ、つまらない気の迷いだ。なんの価値もない、抱くはずもない感傷だったはずだ。
けれど、妹の血を継いでいるであろう幼児を抱える妹とは血の繋がっていないはずの
アル・クラネルは戦士よりも魔導士に強い生粋の『後衛殺し』だ。
自らの付与魔法による魔法への絶対的な耐性と詠唱を不要とし、いかなる魔法にも先んじることができる速攻魔法の特権。
そして、オラリオの全冒険者の中でも一、二を争う敏捷がゆえの詠唱潰し。
相手が仮に第一級冒険者相当の魔導士だったとしても封殺できる手段と技量を誇るアルにとって、対魔導士戦において後れを取ることは決してあり得ない。
─────そう、思っていた。
「『福音』」
耳朶を震わせる荘厳なる鐘の音色。鳴り響く壊滅の旋律はまさしく天災。ワンワードで発動する音の『砲撃』。
その一撃だけで深層の怪物を跡形もなく消し去るであろう音撃。火や氷といった華やかな攻撃魔法とは違う、圧倒的なまでの破壊力を持って相手を物言わぬ肉塊に変貌させるだけの魔法。
「ガッ、────、」
速攻魔法による詠唱の妨害などできるはずもないワンワード詠唱。余波だけでも全身の血管が破裂しそうなほどの威力。
超短文詠唱でありながら都市最強魔導士の『砲撃』にも匹敵、あるいは凌駕する一撃がアルの小さな身体を蹂躙する。
たった一発の魔法でアルの動きが鈍くなる。全身が麻痺し、脳が揺らされ、意識が飛びそうになる。
凄絶の一言では到底言い表せない静寂の魔。
アルの全身から鮮血が噴き出し、肉が爆ぜ、骨が砕ける。第一級冒険者のステイタスをもってしても耐え難い激衝に悲鳴すら上げることもできず、ただ身体を痙攣させることしかできない。
だが、『慣れてきた』。
先ほどまで反応すらできなかった音撃に今は不完全ながらも反射で対応できている。
致命傷を深手に変える程度の効果しかないが、それでもこの場においては十二分の成果だ。アルフィアが追撃のために一歩前に踏み出すと同時にアルは付与魔法で己が肉体を治癒させる。
【レァ・アステール】は便利ではあるが万能ではない。失った血液は戻らず、欠損した部位は治らない。また、体力と精神力が尽きれば回復もできなくなる。
延命処置に過ぎないが、それでも
アルフィアの攻撃に耐えられる時間は限られてくるが、今のアルにはそれで十分だ。アルは地面を強く蹴って跳躍。空中で身を翻して銀槍を投擲。
高速回転する穂先がアルフィアの首筋を狙うが、彼女は首を僅かに傾けてそれをかわすがその隙に着地して、今度は拳打を繰り出す。
狙いは顔面。アルフィアの左目を狙った一撃だったが、それもあっさりと受け止められる。
「な、───ガッ」
それどころか、その腕を掴まれて地面に投げ飛ばされてしまう。
衝撃。背中が叩きつけられ、肺の中の空気が全て吐き出される。だが、そこで終わらない。アルフィアの靴がギロチンのように振り下ろされてアルの頭上に落ちる。
咄嵯に頭を横にずらして直撃こそ免れたが、それでも強烈な衝撃波がアルの頭部を襲う。脳が揺さぶられて視界が激しく揺れ、平衡感覚がおかしくなる。
『これだ』、と内心でアルは毒づく。
超短文詠唱による長・中距離戦闘と前衛顔負けな白兵戦能力での近接戦闘の両立と『切り替え』。
その『切り替え』こそがアルフィアの真髄。
魔法が効かない相手だろうと、近距離戦が得手な相手だろうと関係なく、自分の土俵に引き込んでしまう。
剣も魔法も半端な『魔法剣士』ではなく、あらゆる状況に対応できる完全なる個として完成している。
嫌になるほどに『上位互換』。
アルフィアという静寂の魔女はアルという才禍を全てにおいて凌駕する。
ステイタス、技、駆け引き、経験、全てにおいて遥か高みにいる。
瞬殺を免れている、この魔女を前にしてのそれがどれほどの偉業か。
「思いの外やるものだ。·······しかし、そろそろ終わりにするぞ」
「ッ、」
自分より強い相手なら幾人も見てきた。『猛者』や『勇者』はその筆頭であり、闇派閥にも『妖魔』や『殺帝』といった怪物がいた。
だが、そのいずれもがアルという才禍ならば越えられる、あるいは既に越えた者も中にはいる。
だが、この魔女は違う。彼女だけは、この女だけは決して今のアルが超えられない『壁』の先を行く存在だった。
才能だけではどうしようもない隔絶とした実力差。そんなものはこれまで腐るほど相手にしてきた。だが、ここまでの絶望的なまでの力量差を感じたことは今までなかった。
アルは自分が才能に恵まれた人間であることを自覚していた。その才能を存分に振るい、勝利を重ねて、栄光を掴み取ってきた。
不敗という訳ではない、敗北の泥の味は知っている、それでも次に繋げられる敗北だった。
次は勝てる。次なら越えられる。そのようにアルは幾度もの敗北を糧に今の強さを得た。
でも、これは違う。次などない。今ここで、アルはこの静寂の魔女に殺される。
「────なぜ、笑う」
「アストレア様ッ──!!」
「────!! アリーゼ?」
炎を突き払ってこちらに走って来る眷属の姿にアストレアが驚く中、アリーゼもアストレアの姿を視認し、声を上げながら駆け寄って来る。
他の団員達もまた珠の汗を流しながらも、懸命に走り、彼女達の元に集結する。
「ご無事ですか!?」
「えぇ······私は大丈夫よ」
「良かった、何だかすごくゾクゾクして······アストレア様のところに行かなきゃって」
今にも泣きそうな表情を浮かべて叫ぶアリーゼに、アストレアはその手を伸ばし───
『───────我が身を顧みず、 挺身し続けた正義の女神。故に見つけるのに時間がかかってしまった』
都市中に響く何者かの声。拡声の魔導具でも使ったのか、その言葉は街中の人々へと向く。
闇の底から響くような不気味な響きと、そしてそれとは別に感じる圧倒的なまでの威圧感。
まるで心臓を鷲掴みされているような感覚に陥らせるその気配に民衆は戦慄し、神々は警戒を強め、眷属達は本能的に畏怖を感じ取り震え上がる。
邪悪に満ちた神の声色は、何かを乱すかのような狂喜で満ちていた。
『正義を司る君だけは真っ先に葬り、この地を混沌に染めたかったんだが、
称賛と嘲笑、喝采と罵倒が入り混じったその言葉は他でもないアストレアへ向けて放たれたもの。
だが、それは同時にこの場にいる全ての人々に向けられたものだと言うことも理解した。
『君自身の勇断とそして眷族に感謝するといい。そして、これより始まる『邪悪』をその眼に焼き付けろ』
「貴方は────」
拡声の魔導具によるどこか聞き覚えのあるような男神の声。その声の主は一体誰なのか、誰もが困惑する中で天が『鳴いた』。
光。激音。響動。
都市そのものを揺るがすかと錯覚させるほどの鳴響と共に現れたのは巨大な『光の柱』だった。
雲を突き抜け、夜空に浮かぶ月のように燦然と輝くそれに人々は絶句し、そして見上げる。
人知を超えた力の奔流。下界にはあり得ない『神の力』の顕現に誰も彼もが息を飲む。
「あれは、まさか、そんな······」
その光景を見た只人の少女は目を見開き、驚愕と絶望に言葉を詰まらせる。
「嘘······どうして······?」
また、ある妖精は驚愕に打ちひしがれていた。
下界に降りる際、『神の力』を封じて下界の人間と同じ全知零能となった神々だが例外的にその『神の力』が強制的に解放される時がある。
それは神々がその肉体を殺された時。
「あの光の柱は·····神の送還か!!」
誰もが息を飲み、固まる中で最も早く我を取り戻したフィンが叫ぶ。
そう、今まさに都市へ降臨した光の巨柱こそ、神々の肉体が殺された際にその肉体を死なせない為、強制的に『神の力』が発動された証。
下界から天界へと強制送還する為に生じる現象であり、そしてこの光景こそがその意味を示していた。
つまり、あの巨柱の下で神が───
「────連続送還、だと!?」
輝夜が目を剥いて叫び、それとほぼ同時に都市の上空に複数の光の柱が立ち昇る。
一本ではない、二本、三本と次々と立ち上るそれはまるで天に届く虹のようだった。
轟音と震動を伴いながら昇る光の柱に悲鳴を上げる民衆。逃げ惑う民衆の波に飲み込まれながらも、誰もがその光景に釘付けになる。
「何だこれはッ!? こんなこと有り得ない!! 有り得るはずがない! 」
四本、五本、六本と次々に上がる光の柱。まるで天に届かんとするその光の柱に、ギルド本部で太りかえったエルフが焦燥に染まって喚き散らす。
激震に次ぐ激震。地面が激しく揺れ動き、既に燃えて黒くなった建物が倒壊していく。
光と炎が合わさる地獄絵図に人々が恐怖と混乱の渦に巻き込まれていく。
「あ、ああぁあっ、いやだっ、死にたくないぃいっ!」
「な、何なんだこれ·····? なんだよ、なんなんだよぉおおお!!」
神の絶叫に混じりだす『恩恵を失った』冒険者達の悲痛な叫び声。
「ヒャハ、ハハハハハハハハ────ッ!! いいぜ、いいな、最高じゃあねぇか、神様よォッ!!!」
恩恵を失った冒険者達を悦びの声を上げて殺戮するヴァレッタ。もとより第一級冒険者相当の強さを誇る殺人鬼に恩恵を失った冒険者が勝てる道理はない。
阿鼻叫喚の惨劇の中、狂喜の笑いを浮かべる彼女が剣を振るうたびに血飛沫が舞い散り、命が失われていく。
「あんなに面倒でやかましかった冒険者共が撫でるだけで死んでいくじゃねぇかァアアッ!! ヒハッ、アハハ、アハハハハハハハハハハハハ────ッ!!!」
それはまさに『邪悪』そのものだった。虐殺を愉しみ、殺すことに快楽を得るその姿はまさしく悪そのもの。
「殺さないでくれ、頼むから殺さないで────ぎゃああああッ!?」
断切された腕が、脚が、胴体が宙を舞う。血が噴き出し、内臓が零れ落ち、肉片が飛び交う中で彼女は笑う。
血の匂いを嗅ぐと興奮してしまう、殺してしまうともっと殺したくなる。だから殺す。それこそが彼女にとっての最高の快感。
「いやっ、いやよ、嫌ぁああっ、助けてぇえっ、誰か助け───」
「最っ高のショータイムだ、アハハ、ハハハハハハ、ッ!!」
抵抗しようと恩恵を失って緩慢に過ぎる動きで武器を振り回す女冒険者を斬り裂くと、彼女の胸元から鮮血が吹き出す。
痛みに泣き叫ぶ彼女を眺めながら、その手に握られたままの短刀を奪い取ると、それで女の腹を突き刺した。
更にそこから引き抜くと今度は別の男の冒険者の喉を突き刺し、そのまま持ち上げると他の男達に向けて放り投げる。
『殺帝』の二つ名に相応しき、悪辣極まりない血の宴が繰り広げられる。
七本、八本、九本と次々と上がっていく光の柱。そして、その下で悲鳴を上げる人々の姿はまさしく地獄の光景そのもの。
その惨劇の音色を聞きながらフィンは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる。
「これが狙いだったのか·········ッ」
これまでの意図の読めなかった闇派閥の行動。だが、ようやくその目的を察し、歯を食い縛る。
これまでの事件は全て布石。ギルド側の主神の居場所を探り当てるためだけの陽動に過ぎなかった。
加速度的に増えていく死人。そして、それを嘲笑いながら楽しむ邪神とその光景をただ見守るしかない善なる神々。
「助けてくれぇえっ、死にたくな────」
「なんて、鮮やかな血の宴·······いいですねぇ、実にいい!! 」
血の珠に目を輝かせ、歓喜に打ち震えるヴィトー。幽鬼のようにふらつきながらもその瞳に宿るのは狂気の光。
凶刃を翻し、区別なく冒険者や市民を切り刻んでいくその姿はもはや人間とは呼べず、人でありながら人に非ざるものと化していた。
「いや、いや、イヤァアアッ!! おかあさ───」
「あぁ、素晴らしい。その悲鳴、その恐怖、その絶望! あぁ、血飛沫のなんと美しいことか、クフ、クハハハッ!!」
泣き叫び、助けを求める少女の首を跳ね飛ばしながら狂笑する彼は冒険者も市民も関係ない。
そこにいるのは殺戮に酔い痴れる狂人だけ。ただ、蹂躙され尽くされた無残な光景だけ。
その光景にギルド本部の職員達が絶望に青ざめ、膝をつく。
血と嘆きと悲鳴が入り混じる地獄絵図。平穏に終わりを告げるこの光景に誰もが戦意を喪失する。
『正義』が涸れ、『悪』が蔓延る世界。その終わりの幕開けに誰もが打ちひしがれていた。
────────聞け、オラリオ。
邪神の声が都市中に響き渡る。闇夜に輝く柱の下で響くそれはまさしく天啓の如きもの。
邪悪の宣告。それを聞いた人々は恐怖に怯え、身動き一つ取れない。
『我が名はエレボス。原初の幽冥にして、地下世界の神なり!!』
高らかに宣言するエレボスの言葉に都市の民衆全てが絶句する。都市を震わせる声に誰も彼もがその言葉に耳を傾け、息を飲む。
莫大な神威が降り注ぎ、地上にいる者達の意識を根こそぎ奪っていく。
その圧倒的な圧力に抗う術もなく、恐怖に身を震わせながらただ聞くしかできない。
『────脆き者よ、汝が名は『正義』なり』
それは嘲りであり、侮蔑。英雄への賞賛であり、傲慢な嘲笑。悪の権化たる邪神の宣言が下る。
『滅べ、オラリオ。──────我等こそが『絶対悪』!!』
「【
「今はまだ、殺しはしない。これより『悪』の蹂躙が始まる」
「···········精々、噛みしめろ、『英雄』という末路を」
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祝・初敗北☆
アル「え? とどめは?」
·······ここに本編のアルぶっこんだらそれだけで話終わっちゃうって考えたら、やっぱアイツどうしようもないな。80話書いて初めての敗北がifだし、救いようがないわ。
13歳、Lv5のアルじゃ一人で虐殺止めて都市救うのは普通に無理ですね。まあ、本編のはなんだかんだいけそうですがアストレアレコードのアルは本編より才能?ある代わりに主人公補正が悲劇の英雄よりなんでしょうがないね。
アスアルはベルとあんまり絡んでない上に暗黒期スタートなのもあって本編アルとはそれなりに性格が違います。あとアミッドが年下なのも大きい。