皆の傷になって死にたい転生者がベルの兄で才禍の怪物なのは間違っている 作:マタタビネガー
アニメ4期が凄い良い
八十五話 ················は?できるが?
ダンジョン37階層。
真の死線と呼ばれる深層域。最低でもLv.4の中盤までステイタスを伸ばしておかなければ、到達することすら不可能とされている領域。
白濁色に染まった壁面、灰色がかった天井と床はどこまでも続き、その果てを視認することはできない。
恩恵を持たぬ者や低レベルの冒険者からすれば暗闇としか表現できないが第二級冒険者相当にまでステイタスを伸ばしたものには仄かに輝く燐光を放つ水晶群が見える。
そこは神秘的とも言える空間だった。しかし、そこには神秘とは程遠い光景が広がっていた。
無数の死体だ。それも冒険者のものではない。モンスターの死体である。
階層の中央部にある乳白色の巨大なドーム状の物体を中心にして円形に広がった場所。そこかしこに転がるモンスターの死体はどれもこれも原形を止めていないほどに破壊されつくされている。
オラリオにも匹敵する広大な土地を埋め尽くすモンスターの死骸。
リザードマンの上位種であり巧みに武具を扱う『リザードマン・エリート』。
骸骨の前衛戦士であり、剣や盾を装備した『スパルトイ』。
低躯な人型狼型の魔物で群れを成し襲い掛かってくる『ルー・ガルー』。
驚異的な隠密能力を持ち、戦闘においては骨のパイルを操る骸骨の二足羊『スカル・シープ』。
第二級の上級冒険者であっても適切な対策を施さなければ死を免れない劇毒の針を持つ蛇蜥蜴『ペルーダ』。
そのいずれもが最低でも第二級冒険者でなければ太刀打ちすら難しいとされる強力なモンスター達。
そんなモンスター達がまるで虫けらのように殺されていた。魔石を破壊されずに殺されたモンスターの血肉が地面に染み込み赤黒い水溜りを作り、血生臭い異臭を放っている。
一方的な殺戮の様相を呈するその場所の中心には一人の青年がいた。
白髪のヒューマン。端正な顔立ちをした少女とも見紛うような容姿の青年。血のように紅い瞳と周囲に散乱する怪物の死骸さえ無ければ美麗と称することもできるだろう。
第一級冒険者であっても踏み入ることはしない『闘技場』。
無尽蔵に湧き出るモンスター同士が延々と殺し合いをすることで
もっとも、彼にとっては第一級冒険者になってから定期的に行っている流れ作業のようなもので安定して質の高い魔石やドロップアイテムを収集できる狩場である。
無尽蔵に湧いて出るモンスターをリスポーンキルし続けるだけ。本来この階層を探索する推奨レベル帯を考えればステイタスの成長には到底繋がらない行為だが彼の目的は修行や偉業の達成ではないので問題はない。
彼の周囲には大小様々な形状のドロップアイテムや魔石が転がっている。
それらは彼が倒したモンスター達の残した戦利品だ。
上層や中層でとれるものとは一線を画する力を秘めた魔石に鍛冶師の腕によっては第一等級武装の素材にもなり得る良質なドロップアイテムの数々。
そのうちのどれか一つを売るだけでそこらの第二級冒険者ならば遊んで暮らせるほどの金額になるだろう。
無論、この場にあるものを地上に持ち帰り売りさばくなんてことは彼も考えてはいない。
モンスターの無限湧きという性質上、大派閥の遠征帰りにも匹敵する量と質を誇る戦利品はその全てを売れば莫大な財産となるだろうがそんなことをすれば魔石はまだ良くともドロップアイテムの市場価格が崩壊してしまう。
そうなれば中堅・大派閥に属する冒険者の収入源は著しく損なわれることになる。
と言うかそもそも彼一人でこれほどの量の戦利品を地上まで持ち帰ることなど不可能だ。
それを踏まえた上で彼がモンスターを大量に狩り続けている理由は魔石と装備の素材の横流しのためである。
無論、横流しと言っても闇派閥や非合法の取引業者などに流しているわけではない。
異端児と呼ばれる知性あるモンスター達を強化するためだ。
彼一人で戦利品を運び出すことは不可能だが時期、異端児達があちらから受け取りに来るだろう。
数時間もの間モンスターを吐き出し続け、今は小休憩のため彼が傷つけた闘技場を修復するために停滞して死骸と戦利品しかないこの場所にもう一つ、生きた存在があった。
『────、────ォ』
筋骨隆々なんて言葉では表しきれない黒曜石を思わせる筋肉で覆われた巨体。
額から生えた二本の捻じくれた角、鋭い牙が並ぶ顎門に兇猛な眼光。下手な剣では逆に砕かれるであろう漆黒の体皮。
牛頭人体の怪物、ミノタウロス。
暴力というものが形をとったような威容を備えたそのモンスターは冒険者の装備を身に纏っている。
異物でありながら一角の戦士のような風格すら感じられるその巨体は今は傷に覆われている。
頭部に刻まれた裂創、左半身を覆う火傷痕、右脚に穿たれた貫通跡、そして背中に負った痛々しい斬撃の跡。
巨大な黒い大剣を杖替わりにして辛うじて立っている有様のそれは満身創痍であった。
そんな状態でもなお戦意を失っていないのか、爛々とした瞳で青年を真っ直ぐに見据える。
『はるか先を征く強き人よ、貴方の名を聞きたい』
「────アル・クラネル。どっかの『兎』の兄だよ」
「あの悪辣な罠に満ちた人造迷宮に加え、魔法でも破壊できないオリハルコンの扉、治癒不可の呪詛···········そして、仮面の怪人エイン、か」
人造クノッソスでの戦いから数日。誰もが浅くない傷とそれ以上に深い精神的疲労を抱えた団員達もようやく復帰した頃【ロキ・ファミリア】拠点、黄昏の館。
ロキの私室に集まっていたのはロキの他にファミリアの最高幹部であるフィン、リヴェリア、ガレスの三人だった。
既に報告を受けた段階でロキが頭を悩ませているように、今回の戦いで得た情報は有益ではあるが危険極まりないものでもあった。
フィンやアイズであっても到底破壊不可能なオリハルコンの扉、アミッドかアルでなければ治療できない不治の呪い。
その二つだけでも十分に厄介だが仮面の怪人エインの危険性は更に別格だった。
「·········あの禍々しい魔力の波導は地上にいた私のもとにまで届いていた。その怪人の実力、どの
たった一人で【ロキ・ファミリア】を壊滅させた『最強の怪物』。
直接相対していないリヴェリアでさえ本能的な恐怖を覚えるほどの圧倒的な力を持った存在を想像し、尋ねる。
「─────かつての最強派閥【ゼウス・ファミリア】と【ヘラ・ファミリア】の両団長。『英傑』と『女帝』以上、そう見ている」
昔日の英雄達の実力を、常に挑む側であったフィン達は痛いほどわかっている。未だ、自分たちがその域に指をかけてすらいないということも。
であるがゆえにフィンのその言葉は昔を知る二人の心を揺さぶるには十分すぎるものだった。
「それほど、か······」
「·······アルが正面から戦って押されていたというのなら確かにそうだな」
彼ら三人にとって有望極まる後進であったアルは、『剣聖』アル・クラネルはもはや世界の最前線を征く今代の最強だ。その実力はかつての最強にも劣るものではない。
そのアルを押し、なおかつあの『魔法』の使用にまで踏み切らせた仮面の怪人の強さは英雄ならざるものの目安で測れるものでは断じてない。
七年前、当時Lv.3でありながらLv.6、あるいはLv.7相当の漆黒の竜種を相手にリヴェリア達以上に奮戦したアイズの漆黒の風が通用せず、万全な状態ではなかったとはいえアル以外の第一級冒険者を一蹴したのだ。
どう甘く見積もってもLv.8以上、以下はあり得まい。
「········怪人の存在はもとより、人造迷宮に引き籠もる限り、奴等には圧倒的な地の利がある。決して迷宮の外で勝負を仕掛けることだけは避けるだろうね」
「うむ······」
「…………」
フィンの言葉にガレスもリヴェリアも無言の同意を示す。24階層や59階層、そして先日のクノッソスで【ロキ・ファミリア】と相対し、猛威を振るった精霊の分身。
深層の階層主をも上回る強さと制圧力を誇り、闇派閥の残党の企んでいるオラリオの壊滅。
全ての精霊の分身が成長しきって地上に放たれた時。それはオラリオの壊滅を意味するだけでなく世界の終わりを告げる始まりとなるかもしれない。
いかにアルが対精霊において無敵に近いといえども複数体もの精霊が同時に地上に現れてはその被害は想像を絶するものになるだろう。
「······まぁ、今ここで頭を悩ましていてもしょうがない。当面の問題は仮面の怪人とオリハルコンの扉、そしてあの呪道具の武具だ。その対策について考えよう」
「まずは呪道具に関してだが·····リヴェリア」
フィンは話題を変えるようにリヴェリアへと視線を向ける。
「ああ、その件で午後に【ディアンケヒト・ファミリア】に向かう予定だ」
北西メインストリートに建つ【ディアンケヒト・ファミリア】の本拠地であり、オラリオ随一の治療院。
白を基調にした清潔感のある建物で中には受付と待合用の椅子やテーブルが並んでいる。
「すまないな、アミッド。例の呪道具についてなにか進展はあったか?」
商談部屋に通されたリヴェリアはソファーに座って開口一番そう言った。対面しているのは女神に見紛う稀有な美貌を持った銀髪の美少女、『
「検証は済んでいます」
端的に告げた少女はあの戦いで団員達が人造迷宮から回収した黒短剣を机の上に置いた。それは黒い光沢を持つ不気味なナイフだった。
闇派閥の信徒や雇われたのであろう暗殺者が振っていた代物であり、見るからに呪いを帯びていることがわかる。
「異常な程に禍々しく凄まじい呪詛です。あの日、何度か治療をしましたが、一般の回復魔法や市販の薬品では止血すらままならないでしょう」
私かアルの魔法でようやくといったところです、とアミッドは付け加えた。リヴェリア自体はその脅威に晒されたわけではないが団員の中にはその時によって深い傷を負ったものもいた。
アルとアミッドの二人がいなければ【ロキ・ファミリア】にとって何年ぶりかの死者が出ていただろう。
「防御手段はなく、解呪も『戦場の聖女』かあの馬鹿者にしかできない強力な『呪詛』、か················」
それが単一の武器であればまだマシだったがおそらくは量産、そうでなくてもそれに近い生産能力が今の闇派閥にはあると思われる。
「この呪道具を作成した呪術師はおよそ私達の想像が及ばないほどの能力、あるいは妄執の持ち主。·········おそらく、赤髪の怪人がアルやフィン団長を斬りつけた
『三大冒険者依頼』の黒き巨獣の亡き骸より作られ、一度はアルを死の寸前にまで追い詰めた最強の英雄殺しの黒剣のことを思い出す。
仮にクノッソスにアミッドが同行していなければフィンは死んでいただろう。
現状、あの剣による死毒と呪詛から自力で恢復できるのはアルのみ。かつて世界を脅かしたベヒーモスの死毒を帯びた刀身は第一級冒険者ですらたったの一太刀で抗えぬ死の病に侵される。
そんな最強最悪の武器が今、『最強の怪物』の手に渡っているのだ。
「とはいえ、私もまだ本格的に試したわけではありませんがランクアップしたことで魔力、精神力ともに先日よりもかなり向上しました」
「直接斬られたとしても次は『即応』できます」
と告げるアミッドにリヴェリアは頼もしいなと微笑んだ。あの戦いで偉業を成したアミッドはLv.2からLv.3へと至り、もとより都市最高と言われていた回復魔法の腕と合わさってさらに強力なヒーラーとなった。
遠からずあるだろう闇派閥との決戦ではアルにも勝る冒険者たちの命綱となるに違いない。
「専用の解呪薬に関しても数日中に製造方法を確立させます。·········問題があるとすれば量産方法の確立ですね」
解呪薬自体は既に呪詛の解析を終えている以上、あとは安定した製法さえ確立すれば問題ない。
極めて難度は高いがアミッドならば本人の言う通り数日中に可能にするかもしれない。
しかし───
「現在製造中の解呪薬は私の血を既存のポーションに混ぜることで製作していますが、これでは限界があります」
アミッドの血には魔法同様癒しの力があり、マーメイドの血に似た効能を持つ。
製造した解呪薬に彼女の魔法効果を付与することで治癒効果を上昇させることができているのだが、どうしても素材として消費する血液の量が多い。
増血剤や魔法を併用すればなんとかなるが、それでも限度はある。アミッドがいくら優れたヒーラーであろうと無尽蔵に失った血を補充できるわけではない。
いかに彼女が優秀であっても万能の神ならぬ限り限界というものは必ず存在する。
「当然私の血の代用品となるダンジョン由来の素材は模索中ですが、これも難航を極めています」
そう言ってアミッドは手元の書類をリヴェリアに手渡した。そこには様々な材料名が書かれていた。
「なにか代用できそうなものはないか?」
「今のところはありません。アルに下層域から深層域のレアドロップを含めたダンジョン産の材料を探ってもらっていましたが、やはり芳しくないようです」
マーメイドの生き血やユニコーンの角、カドモスの皮膜など一部有用のものもあったがいずれも極めて希少性の高いものばかりだ。
アルが時間をかけさえすれば相当量手に入れることは出来るだろうが、それはそれでまた別の問題が浮上してくる。
「確証はありませんがおそらくこの呪道具を造った者は私と同じ【神秘】のアビリティを発現させています」
そして、アミッドは黒短剣に視線を落とした。その瞳の奥底に静かな激情と畏怖が見え隠れしている。
例の呪道具の製作者はかなり狂った思想の持ち主であり、呪術師と呼ばれる者達の中でも一線を越えた異端者であることが窺えてくる。
そして、そのアミッドの推測は的中していた。
「【神秘】のアビリティを以って作られた呪詛を祓う特効薬を作るには同じ【神秘】のアビリティが必須となります。·····ですが、知っての通り」
「ああ、【神秘】アビリティ発現者は稀少だ」
神々の特権である奇跡を人の身で発現させて魔法の域にある超常の力を宿す魔道具を作成するのに必須とされるレアアビリティ【神秘】の発現者はオラリオ全域に五名といない。
アミッドの他に有名なのは『万能者』の二つ名を持つアスフィだが彼女はアミッドのような薬品開発には従事してはいない。
何より彼女には闇派閥との決戦に備えて他の仕事がある。
「他の団員達では解呪薬の製法が確立したとしても製造するのは難しいでしょう」
材料と人手。その二つが解呪薬の量産を阻む。アミッド一人でも【ロキ・ファミリア】全員に行き渡る程度の量は生産可能だろうが、他の派閥との共闘やその交渉を円滑に進めるためにも数は多い方がいい。
深い疲労が蓄積されたアミッドの顔色を見てリヴェリアは苦慮の表情を浮かべた。
女神のように美しい容姿をした少女は心労が祟っているのか目の下に隈ができていた。
おそらくはあの戦いから今の今まで寝る間も惜しんで解呪薬の製作に取り組んでいるのだろう。
アミッドとアミッドが作る解呪薬はこれからの戦いに必要不可欠。しかし、これ以上アミッドを酷使するのは憚られる。
そうして、考え込むリヴェリアだったが、ふとあることを思い付いた。
それはとても簡単なこと。
「·······いくら血を抜いても問題ない【神秘】のアビリティ持ち、か」
「? どうかなさいましたか?」
リヴェリアの言葉にアミッドは小首を傾げた。すると、リヴェリアはニヤリと口元にエルフらしからぬ笑みを浮かべてアミッドに告げた。
灯台下暗しとはこのことだ、と。
「─────と、言うわけなのでアル、貴方も解呪薬の製造に協力してください」
「いや、調剤とかやったことないし、そんな暇もないし·······」
リヴェリアとの会話から半日後、アミッドはセントラルパークでアルを待ち伏せして解呪薬の量産について説明した。
アルがダンジョンに潜っていると聞いてそろそろ戻ってくるであろう時間帯を予測したのだ。
アルがダンジョンから帰宅するまでの時間で解呪薬の製法の確立に成功したアミッドとしては一刻も早く解呪薬を作ってしまおうと思っていたのだが、アルは露骨に嫌そうな顔を見せた。
「私一人では限界があります。それにあの呪いへの対策は【ロキ・ファミリア】にとっても急務ではないのですか?」
───アミッド・テアサナーレは正論しか言わない。
アルがアミッドを苦手としている理由は何もそのバカみたいに高い回復能力だけではない。
彼女の生真面目さ、良い意味での融通の利かなさがどうにもアルの舌先三寸を鈍らせる。
潔癖がゆえに生真面目なエルフとはまた違う、剛胆さを持ちながら冷静に状況を見極め、事実に即した判断を下す。
アミッドはアルが出会った中でもトップクラスに、アマゾネス以上に厄介な人種だった。
ここで断ったところでアミッドは諦めない。むしろ断れば断るほど強硬手段に出るだろう。
普段は聖女然とした瀟洒な振る舞いを見せる彼女だが、一度決めたことはどんなことがあろうとやり通す頑固な一面を持っている。
それが治療に関わることならばなおのこと。
「いや、でも、俺にもやることあるし······」
「例えば?」
「えっ、えーっと、それは、ほら、ダンジョンに行ったり、モンスターと戦ったり······」
「つまり、やることがないのでしょう?なら、手伝ってください」
取り付く島もない。アミッドの切り返しにぐうの音も出なかった。
普段ならばもっと気の利いた舌先三寸で煙に巻くこともできるが、弟が姉に敵わないのと同じようにアミッドには逆らえない。
それにアミッドの言っていることは何一つとして間違ってはいない。
Lv.8へとランクアップして新たに発現させたアビリティである【神秘】、そしてそのレベルゆえにアミッドとは比にならない精神力量を誇るアルはアミッド以上に解呪薬の作成に適している。
素材となる血液も第一級冒険者であり、それで相応しいバイタリティーを持つアルからならば大量確保が可能だ。
唯一、懸念点があるとすれば────
「悪いけど俺、調剤に関しては完全に素人だから、役に立てないと思うぞ?」
探索系ファミリアの主力であるアルの役目は迷宮攻略。ポーションなどの薬品作成は専門外であり、経験もあるはずがない。
【神秘】のアビリティが発現したのも手慰みに余った魔石でちょっとした魔石製品を作っていたのと第三魔法の影響だ。
「貴方のスキルならすぐに覚えられるのでは?」
「········あ」
スキル【
さすがに本業であるアミッドに及ぶべくもないが、それでもアルの学習能力を考えれば十分過ぎるほどに習得は早いだろう。
「(······まぁ、じゃあ、仕方ないか)」
アル自身、死者を出さないためにも解呪薬は大量に欲しいところだし、アミッドが無理をしているのも知っている。
断る理由は正直、あまり無い。
あえて言うならこの間の件でランクアップしたアミッドに対する恐怖心があるぐらいか。
それも来たる戦いで少しでも死者が出る可能性を減らせるという利点と天秤に掛ければ些細なことだ。
実際本気で嫌がっていたわけではなくアミッドに対するちょっとした意趣返しのようなものだったのだ。
「仕方──」
「········そうですよね。すみません、私としたことがいくらアルとはいえ無理が過ぎました」
「え?」
「アルはLv.8になったとはいえ、まだまだ発展途上ですし、【ロキ・ファミリア】幹部としての仕事もありますよね」
「ん?」
「私も少し焦り過ぎていたようですね。申し訳ありません」
「ちょっ·······」
「解呪薬の量産については他の団員達と検討してみます」
「あの········」
勝手に自己完結して立ち去ろうとするアミッド。そんな彼女を呼び止めようとするが、アミッドは振り返らずに言った。
それはいつものように感情を感じさせない平坦な声音で。
「通常のポーションの錬成ならいざ知らず解呪薬、それもあれほどの呪いに対する専用のものとなればその製造難度は極めて高いです。」
「········すみません、できない事を強要するのは私の本意ではありません。どうか忘れてください」
「······························································································································································································································································は?できるが?」
他の誰に侮られようと構わないがアミッドにだけは、とそんならしくないプライドが無意識に言葉を遮って口を突いて出た。
その言葉を聞いたアミッドの顔がいたずらに成功した童女のようにパァッと明るくなる。
「それではお願いします、私は新しく事前に呪いを弾くための耐性薬の製造に取り掛かりますね」
では、と今度こそアミッドは足早に立ち去った。後には呆然とした表情を浮かべたアルが一人残された。
アミッドに対するつまらないの意趣返しなどどこへやら。
逆に意趣返しされて遊ばれた上に結局は彼女の思惑通りに動かされてしまった、とアルは悔しげに頭を掻いた。
───────────────────────────────────────────────────────────────────────
対アミッド時は年齢相応に思考デバフがかかります。
アミッドも対アル時は割りといじわるします、それこそこれまで散々苦労かけられた意趣返しですね。