皆の傷になって死にたい転生者がベルの兄で才禍の怪物なのは間違っている   作:マタタビネガー

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アルを上手く使えるのはアミッドとミアくらいだよ


八十六話 助けろアミッド、助けてフィルヴィス

 

 

 

 

「あー、つまりウチのフィンがお前のサポーターへの縁談を申し出た、と」

 

「うん········。リリにとってはいい話なのかもしれないけど、どうすればいいかわからなくて··········」

 

「まぁ、とりあえず、ティオネとアルガナにチクっとくわ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

不気味な石畳の床、壁には魔石灯の灯りが淡く揺れている。腐臭にも似た血と臓物の臭い、閉鎖空間ゆえのカビ臭さも混じったそれは、吐き気を催すような生々しさだった。

 

不自然なほどに静まり返っている人造迷宮クノッソス。【ロキ・ファミリア】と闇派閥残党の戦いの舞台となってから数日が経過していたが、未だかつてないほどの沈黙が続いていた。

 

クノッソスの最奥の監視の間でクノッソスの主であるバルカ・ペルディクスは苦悩していた。

 

一つはクノッソスへの被害。

 

心胆を寒からしめた『剣聖』の快進撃を食い止めるために自ら崩落させた領域。イシュタルの要請によってタナトスが楔から解き放った『精霊の分身』によって破壊された通路や壁。

 

そして、『最強の怪物』と『最強の英雄』の戦いによって刻まれた凄絶なる戦痕。

 

魔法に対する高い耐性を持ち、上級魔導士の砲撃に対して無効化にも等しい効果を発揮するはずのオブディシアンソルジャーのドロップアイテムで作った強固な石壁はいとも容易く破壊されたどころか両者の魔法によってところどころ()()させられていた。

 

第一級冒険者でも破壊は困難であろうその頑強なアダマンタイトの壁ですら砂糖菓子のように砕かれたのだ。

 

一族千年の妄執によって生み出されたクノッソスそのものと言ってもいい罠の数々は跡形もなく破壊され、目を覆いたくなるほどの損害を出していた。

 

バルカ自身には傷らしい傷はないが、バルカの一生で創り上げた分よりも多い損害。

 

これを取り戻すにはいったい何年もの歳月が必要になるのか……考えただけで目眩を覚えるほどだった。

 

その事実は人造迷宮完成のために生きるバルカ・ペルディクスとしては死ぬよりも重い。

 

そして、二つ目は『聖女』だ。

 

「よもや、『剣聖』以外があの剣から生還するとは···········」

 

 【神秘】の発展アビリティを使用して作成した不治の呪詛を帯びた呪道具。一般の回復魔法や市販の薬品では治療不可能であり、精霊の奇跡でもなければ癒せない傷を与える呪いの武器。

 

その中でも『三大冒険者依頼』の黒き巨獣の亡き骸より作った【ベヒーモスの黒剣】は別格の品だ。

 

この世に二つと存在しない魔の剣であり、生粋の英雄殺しとして第一級冒険者であろうと間違いなく殺す、命あるものを害することに特化した至上の一振り。

 

量産した雑兵用の短剣ならばいざ知らず、あの剣は間違いなく最強の一つである太古の怪物から創り出したもの、その出来栄えは人造迷宮の完成にしか興味を持てないバルカですら感慨深いものがあった。

 

いや、そもそもの話、【神秘】の発展アビリティによる不治の呪詛を当然のように解呪して治癒するどころか全快させるなどあり得ない話なのだ。

 

そう、あり得ないこと。あり得てはならないことだ。しかし、現にこうして現実に起こっている以上認めるしかない。

 

「·······『剣聖』といい、『聖女』といい·······なんなのだ、奴らは」

 

 一族の者たちが千年をかけて作り上げたクノッソスの機構をことごとく打ち破る『剣聖』。

 

絶死の域へと至った最強の呪いをただのヒューマンでありながら魔法一つで快復させる『聖女』。

 

想起するだけで怖気立つほどの不理解。情動を理解できぬバルカは己に巡る感情が恐怖だということにはついぞ気づかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「す、少しお時間いいでしょうか? ·······お聞きしたいことがあって···········」

 

「ん? ああ、リーネか。珍しいな、俺にわかることなら構わないぞ」

 

「ベ、ベートさんの好きな女性のタイプってど、どのような方だかわかりますかっ?!」

 

 団員たちが出払い、人気の少ない【ロキ・ファミリア】のホームでアルへ恐る恐る話しかけてきたのはおさげに眼鏡をかけた冒険者とは思えぬ優しげな風貌をしたヒューマン。

 

先日のクノッソス進攻では闇派閥によって深手を負わされてようやく【ディアンケヒト・ファミリア】から帰ってきた、ファミリアにおいてはヒーラー兼サポーターを務めるLv2の少女。リーネ・アルシェだった。

 

その質問の内容が意外すぎて思わず目を丸くするアルに顔をほんのりと赤く染めるリーネ。

 

「じ、実はさっきアマゾネスの女の子と腕を組んで歩くベートさんを見ちゃって···········まぁ、そのすぐ後に女の子は蹴り飛ばされてましたけど、ちょっと不安になってしまって。ベートさんと親しいアルさんなら好きな女性のタイプもご存知じゃないかと思って·······」

 

 彼女はたまに見る、何故か正反対のヤンキーと付き合ってるおとなしい文学少女よろしく、【ロキ・ファミリア】随一の問題児、ベート・ローガを好いている恋する乙女なのである。

 

「まぁ、強い奴、なんじゃないか?」

 

「強い、それは············」

 

「───まぁ、そうだな。短期間で強くなるのは現実的じゃあないからな」  

 

「·········死にかけて悔いが残らないようにしたいと思った、とか言ってティオネ(アマゾネス)よろしくガンガン行っちゃえば?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オラリオの西南西部。中央大通りから外れた隘路にひっそりと佇む一軒の酒場。

 

『小人の隠れ家亭』という看板が掲げられた店の中はその名の通り小人族の体格に即した家具で統一されており、店内にいる客も全てが小人族である。

 

瀟洒な造りをした木製のテーブルや椅子を縫うように歩くウェイトレスの姿もまた小さく、まるで妖精のように美しい女性や可愛らしい男性ばかりだ。

 

「「─────────だんちょう(フィン)?」」

 

「「「「「ひぃッ」」」」」

 

 そんな和やかで賑やかな雰囲気漂う店内に、突如として響き渡った女達の静かな怒声。

 

殺気にも似た気配にその場にいた者達は首筋に刃物を突きつけられたような錯覚を覚えて身を強張らせ、思わず悲鳴を上げて身構える。

 

フィン達が振り返るとそこには二人のアマゾネスが黒い瘴気のようなオーラを背負いながら立っていた。

 

「···········ティオネ、とアルガナ?!い、いつからそこにっ」

 

 驚きの声を上げるフィンだったが、ティオネ達はそれを無視してズンズンと歩み寄ってくる。

 

「いまのことば、どーいうことですか? けっこんする? およめさん?」 

 

「ふぃん、ふぃん、フィイイイイイインッ!!」

 

 怒り心頭といった様子の二人、ティオネに至っては既に瞳孔を開いてしまっている。二人が滾らせる激情によって空気がユラユラと揺れているようだ。

 

そしてその矛先は当然フィンとリリルカに向けられており、二人は今にも飛びかかってきそうなほど前のめりになっている。

 

一歩ごとに床板を踏み砕かんばかりの勢いで近づいてくる二人に気圧されて、フィンは咄嵯にカウンターの向こうに避難して助けを求めようとするが、しかしそこは酒盛り真っ最中の小人族達、誰もが我関せずと視線を逸らしている。

 

怒れる第一級冒険者の覇気は凄まじく、他の客達に逃げ出す隙すら与えない。そうこうしているうちに二人の距離は瞬く間に詰められていき、最早あと数歩の距離にまで迫っていた。

 

「どうしてここにいるとわかったんだい········?」

 

「あるにききました」

 

「(なんてことを?! 裏切ったなッ、アルッ!!)」

 

 リリルカへの愛の言葉を冗談半分だったとはいえ聞かれてしまったことも相応に恥ずかしいが何より一番聞かれてはならない相手へ告げ口されてしまったことにフィンは内心で絶叫する。

 

一途と言えば聞こえは良いがその本質は雄を捕食する雌蟷螂であり、一度狙った獲物は決して逃さないアマゾネスの習性をよく知るフィンだからこそこの窮地をどう脱するか必死になって思考を巡らせた。

 

だが、そんな考えも次の瞬間には全て吹き飛んだ。

 

ダンッ!!! 激しい音と共に眼前に迫ったティオネの拳がカウンターを叩き割らんばかりに打ち付けられたのだ。

 

それだけで第一級冒険者として並々ならぬ胆力を持つはずのフィンの顔から滝のような汗が流れ落ちる。

 

「団長ッオオオオオオオオオオオオッ!!」

 

「フィンッンンンンンンンンンンッッ!!」

 

「落ち着け!!」

 

 クラウチングスタートもかくやという勢いで駆け出そうとしたティオネとアルガナの勢いは凄まじかった。

 

小さな酒場の中で閃光のようにフィンに向かって突進した二人に敏捷で勝るフィンが転げ回るように店から飛び出した。

 

───────リスト・イオルム!!

 

───────よくやった、ティオネ!!

 

───────ま、待ってくれ。話し合おう!!

 

───────ええ、じっくり話し合いましょう。

 

───────ああ、存分に話し合おうじゃないか。

 

───────身体でなぁッ(身体でなぁッ)!!

 

───────グ、グワァアアアアアアアアアアアッ!!

 

「「「「(リ、リンチよりヒデェ)」」」」

 

「············帰ろっか、リリ」

 

「え、あっ、ハイ」

 

 数分後、騒ぎを聞きつけた善良なるアマゾネス二人───本人達曰く、決して、色ボケ共の妹ではないとのことなのであしからず───によって救出されたフィンは一線は守り通したものの、あと一歩のところまで服を剥ぎ取られた半裸状態で譫言のように呟いたという。

 

───────アル、覚えておけよ············。

 

普段の、常に冷静沈着な頼れる団長らしからぬ言葉に善良なるアマゾネスの片割れは涙を堪えられなかったという。まんまんちゃん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラキア王国軍、出兵の報はまたたく間にオラリオへ伝わった。

 

オラリオから見て西に位置する大国、ラキア王国。典型的な君主制国家であり、国王と主神が絶対的な権力を持っている軍事国家だ。

 

土地と戦そのものを求めて領土を広げてきた歴史があり、他国への侵略も辞さない姿勢から近隣諸国からは恐れられている国である。

 

戦好きな軍神アレスを主神に頂くラキア王国の軍兵は大陸でも屈指の精強な軍隊として知られており、神の恩恵を受けた兵士の数はなんと60万人にも上ると言われている。

 

そんな彼らは度々、冒険者の都であるオラリオに侵略行為を仕掛けてくることがあった。

 

そのたびにオラリオの冒険者が迎え撃ち、撃退してきたのだが······懲りずに何度も攻め込んでくるため、オラリオの冒険者たちにとっては迷惑極まりない話だった。

 

此度の兵数は約3万。

 

その九割九分がLv.1前半の烏合とはいえ、それでも一都市を攻め落とすには十分すぎる戦力と言えるだろう。

 

 

 

─────········

 

 

 

何物も視界を阻む物のない見渡す限り緑の大草原。澄み切った碧い空に浮かぶ雲はまるで綿菓子のように白く、穏やかな陽光が降り注ぐのどかで平和な風景が広がっている。

 

そして、その平原に布陣するラキア王国の軍勢。

 

重々しい甲冑に身を包んだ屈強な兵士たちが、規則正しく隊列を組んで並び立っている。

 

整然とした隊列を組み、静かに佇むその姿は非常に威圧感があり、明るい日差しをその銀の鎧が反射し煌めいていた。

 

雲河の如き兵数に一糸乱れぬ規律は実際に矛を交えずとも相対するものの心を折らんばかりの迫力と圧力がある。

 

精強な騎馬隊に重厚な歩兵隊が織り成す陣形はまさに鉄壁と呼ぶに相応しいだろう。

 

だがしかし、彼らの表情は決して明るくはなかった。むしろ緊張や恐怖といった感情が見て取れるほどだ。

 

それも当然のことだろう。彼らがこれから相手にするのは世界有数の大都市にして、英雄の都たる迷宮都市。

 

常日頃からダンジョンのモンスターとしのぎを削る冒険者を相手にするには3万といえどあまりに心許無い兵力だ。

 

彼らの前に立ちふさがるのはたった一人のヒューマンのみだというのに身体に走る怖気を抑えられない。

 

それは彼らを指揮する将軍も同じことらしく、彼は青ざめた顔で隣に立つ一人の青年を見やる。

 

処女雪を思わせる白髪に血のように鮮やかな紅眼を持つ美丈夫。

 

鍛え上げられた一本の剣のような肉体に纏うのは黒を基調とした軽装とも言える戦闘服。

 

一見すると細身に見える体躯でありながらも内包された力は凄まじく、ただそこに立つだけで歴戦の猛者であるはずの兵士たちですら息を飲むほどの存在感を放っている。

 

そんな彼が手にしているのは漆黒の鞘に収められた一振りの大太刀。

 

「「「「「ウ、ウォォオオオオオッッ!!!」」

 

 軍馬に跨り、先頭に立って進軍していた将が声高々に叫ぶ。それに呼応するように兵士の一人一人も雄叫びを上げながら武器を振り上げ、行軍を始めた。

 

その動きは洗練されているとは言い難いものの力強さを感じさせるものであり、それが虚勢であったとしても十分な士気の高さを感じさせた。

 

2km、1500m、1000m、900m·······間合いが800mを切ろうとした瞬間、今まで動かなかった青年が突如として動いた。

 

「はい、サンダーボルト」

 

「「「「「ぐ、ぐぎゃあああぁぁあっっ!?」」

 

 天高く掲げた右手に雷球が出現し、次の瞬間には轟音と共に稲妻が地を這った。

 

一瞬にして数百の兵士を巻き込み感電させるその威力は絶大であり、巻き添えを食らわなかった兵士すらも恐怖に顔を歪めながら次の瞬間には雷の弾幕に呑み込まれていく。

 

「サンダーボルト、サンダーボルト、サンダーボルト、サンダーボルトサンダーボルトサンダーボルトサンダーボルト」

 

 詠唱を必要としない速攻魔法ゆえの無理無体。一抱えはある雷の大砲が大気中に次々と装填されては発射され、瞬く間にラキア王国軍は壊滅状態に追い込まれる。

 

最早戦いですらない一方的な蹂躙。

 

迅雷の狂奏とでも呼ぶべき魔法の嵐を前にしてラキア王国の兵士たちは為す術無く倒れ伏していく。

 

それでも果敢にも、あるいは運良く雷から逃れて立ち向かってくる兵士も中にはいたのだが、そんな勇気ある者たちは例外なく青年の振るう大太刀の一閃によって無力化されていった。

 

盾となる前衛も反撃しようとする後衛も区別なく雷光は斬り裂き、戦場は悲鳴と怒号が飛び交う阿鼻叫喚の地獄絵図へと変わる。

 

魔法の精密射撃により敵を薙ぎ払い、一騎当千の活躍を見せる青年はしかし、その端正な容貌に一切の笑みを浮かべていない。

 

ただひたすらに冷徹に、淡々と、機械の如く敵兵を無力化し続ける彼の姿からは面倒くさいという感情がありありと滲み出ていた。

 

殺気はなく、あくまでも無力化に努めているがそれはラキア王国軍にはわからぬこと。

 

「ヘディンほど器用でもないんでやっぱりこの数相手だと弾数でゴリ押しするしかないなあ」

 

 アル・クラネルは典型的な前衛であり、攻撃魔法はオマケ程度の認識だ。だが、このような数だけは多い烏合の衆を相手にする場合はそれでも十分すぎるくらいに火力過多である。

 

何せ、放たれる魔法は一撃必殺の威力を秘めているのだ。並のモンスターなら消し炭どころか塵一つ残さず消滅させられるほどの威力。

 

そんなアルの戦闘面での唯一の弱点を挙げるとするならばそれは有効射程の短さだろう。

 

当然ながら攻撃魔法を一切持たない生粋の前衛戦士に比べれば遥かにマシなのだが、それでもリヴェリアやヘディンなどの第一級冒険者クラスの後衛に間合いを取られては一方的に射撃されるのがオチである。

 

────アルは第三魔法として大規模殲滅を可能とする広域制圧型の魔法を習得しているが普段使いするような魔法ではないためこういう時にはやはり不便に感じてしまう。

 

付与魔法は謂うまでもなく、【サンダーボルト】の射程は込める魔力にも左右されるが単射魔法の中でも短い方である。

 

威力を減退させずにダメージを与えるには100m以内。それ以上は格段に威力が落ちる上、命中率も著しく低下するためあまり現実的ではない。

 

ヘディンの【カウルス・ヒルド】の有効射程が500mを優に超えることを考えればいかに遠距離攻撃手段が心許ないかがよくわかる。

 

まあ、アルの場合はそもそも近接戦闘特化の戦士なので遠距離攻撃を主体としないのだから仕方ないといえばそれまでだが。

 

故に今回のように多数の雑魚を相手にする場合にはどうしても手数が足りなくなる。

 

「『これ』は効率悪いんだがな」

 

 ─────当然、対策は講じている。

 

四年間もの間、自らのスキルと魔法に向き合い続けた才禍の反則技。

 

【英雄覇道】の0.1秒にも満たぬ時間での超短チャージ。

 

それを威力にも破壊力にも変換せずにただただ持続力に変換することで実現した超射程の単射魔法。

 

【サンダーボルト】が詠唱を不要とする速攻魔法だからこそできた反則。

 

魔力を込めて魔法を発動させるまでの二工程の間にスキルをほんの一瞬だけ発動させることで完成された視界内全てを間合いに含む極大範囲魔法。

 

当然ながら一瞬のチャージでは威力も火力もお粗末なものしか出ないが、それでもその効果は絶大。

 

「サンダーボルト」

 

 放たれるのは天より降り注いだかのような雷光。それはまるで夜空を照らす流星群の如き輝きを放ちながら戦場を駆け巡っていく。

 

その光景はまさに圧巻。

 

雷の奔流が荒れ狂うその様は正に雷神の怒りそのもの。無数の雷光が戦場を埋め尽くし、その雷光に触れた者は等しく感電して倒れ伏していく。

 

もはや戦争ではなく蹂躙と呼ぶに相応しい惨状の中、アルは一人戦場に立ちながら小さく嘆息する。

 

「全く、フィンのやつめ·················」

 

 弟のサポーター(15歳)に縁談を申し込んだ頭目の小人族(40代)の引き攣った笑みを思い出しながら鉄棒を肩に担ぐ。色ボケアマゾネス(Lv6×二人)にリリルカであることは伏せて縁談の件をチクった腹いせかこんな仕事を押し付けられたのだった。

 

「まあ、これで埋め合わせも済んだろ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数時間後、『剣聖』アル・クラネルは逃げていた。

 

先程、万の軍勢を単騎で押し返した英傑とは思えぬ見事な逃げっぷりは弟のそれよりも遥かに洗練されており、その走りには一切の無駄がない。

 

都市最速の名に偽りなく、神速の速度で逃走する彼の背後には既に数多の追っ手が迫っているが彼は振り向くことすらしない。

 

【疾走】の発展アビリティをも全開にしたアルを捕まえることはアミッドですら困難だ。

 

しかし··········。

 

「「「「「いたぞッ!! 早い者順だぁ!!」」」」」

 

 追跡者は目の色を変えた褐色の美女達の軍勢。百を超える女性たちの中にはヒューマンやエルフ、獣人などもいたが一番多いのはやはりアマゾネスである。

 

「(イヤーーーーーーーッ!!)」

 

 彼女達は皆一様に目を血走らせており、中には舌なめずりする者もいる始末だった。そんな女性達に追いかけられて平静を保つことなどできるはずもなく、アルは内心で乙女の悲鳴を上げる。

 

彼女らの大半は都市に残留した【カーリー・ファミリア】と他派閥へ改宗を済ませた元【イシュタル・ファミリア】の女戦士たちだ。

 

第二級冒険者にすら届く実力者が混雑するどころか、中には【ロキ・ファミリア】でも精鋭扱いであるLv.4にまで至った猛者がおり、その目はいずれもマジだった。

 

もとよりアマゾネスは自分より強い雄に惚ける性質を持つ種族であり、強ければ良いという訳では無いがそれでも実力主義の傾向が強い。

 

年若い身でありながら都市最強の双璧を担うアルの存在はまさに格好の獲物であったのだ。オラリオどころか世界に2人しかいないLv.8に到達している上に美形とくればアマゾネスとして狙わない方がおかしい。

 

【カーリー・ファミリア】の団員に関してはメレンでの戦いで一蹴されたことでその強さを肌で感じてしまったのがきっかけである。

 

その色情の丈は恐ろしく、何度追い払っても諦めずに迫り来るため、流石のアルも逃亡を選択した。

 

いかに『数より質』の神時代の英雄といえどもラキア王国の軍とは比較にもならない練度と士気を持って追いかけてくるアマゾネス達には恐怖を抱かずにはいられない。

 

捕まったら最後、間違いなく尊厳の危機に陥ること請け合いだ。そう確信できるほどにアマゾネス達の瞳の奥にある欲望の色濃さは凄まじかった。

 

まあ、とはいってもLv.8のステイタスを持つアルがいくらアベレージが高いと言っても最大で第二級冒険者相当しかいない相手に追い付かれるはずもない。

 

面白がって指揮官として参加したカーリー(戦いの女神)の指揮下で統制された女戦士の軍勢にバーチェとティオナが参加していないのがせめてもの救いだろうか。

 

あの二人がいればもっと厄介なことになっていただろう。アマゾネス軍隊に加えてLv.6二人を相手にしては流石に骨が折れるどころではない。

 

どれだけ引き離されても決してあきらめないアマゾネス達の気迫はアルをビビらせるに足る恐ろしさに満ちていた。

 

「·········というか、アイシャよぉ。さっき、『勇者』が言ってた『『剣聖』が彼女募集中』って話、本当なのか?」

 

「·········さぁ、知らないねぇ。さて、あたしも行くか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

助けろアミッド、助けてフィルヴィス。

 

アマゾネス共、せめてエルフになってから来いや。

 

にげようにも諦めないし、下手に反撃したらレベル差的に死にかねないし、アマゾネス相手だと逆効果な気もするし··········。

 

フィンの野郎、病院(ディアンケヒト・ファミリア)送りにしてやる·······!!

 

 

 

 

 

─────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────

 

日に二度、恋する乙女を無責任に焚き付けた男

 

・素の単発火力(Lv.8サンダーボルト)

アルフィア>アル

速度はやや勝る

 

・素の火力(レァ・ポイニクス)

Lv.8アル≧ベート>Lv.7アル

損傷吸収ありならまだ負ける

 

・素の射程

ヘディン≫アル 

魔法方面においてはだいぶヘディンを参考にしてる

 

・素の速さ

アル>アレン≧Lv.6アル

同レベルならアレンのがやや速い、魔法込みなら一レベル差程度ならかなり迫る

 

・傷の回復性能

アミッド≫アル

言わずもがな

 

・傷の回復性能

ヘイズ>アル

普通に負ける、ヒーラーとしては都市第三位。

 

・持続力(体力と精神力)

アル≫≫その他

バイタリティの怪物

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