皆の傷になって死にたい転生者がベルの兄で才禍の怪物なのは間違っている   作:マタタビネガー

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八十七話 休息?何それ美味しいの?byアミッド&アル

 

「良かった、フィルヴィスさん!!」

 

「········レフィーヤ、か。無事だったのだな」

 

「? どうしたんですか?そんな──「すまない」──えっ?」

 

「もう、私に関わらないでくれ。······私はもうお前に合わせる顔がないんだ」

 

「·····え? ど、どういうことですか!?」

 

「······」

 

「待ってください!!一体何があったんですか!?」

 

「······」

 

「フィルヴィスさん!!」

 

「······すまない」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大穴を塞ぐ『蓋』として建造された迷宮都市オラリオ。

 

何らかの拍子にダンジョンを封じている創設神ウラノスの祈祷が破られた際に内部から溢れて出るであろうモンスターが外へ進出することを防ぐために都市を囲むように建設された市壁。

 

その厚さと高さによって市壁は外部へ被害を出さないための防衛装置であると同時に都市の出入り口としての機能も果たしていた。

 

その組成にダンジョン由来の特殊金属を含んでおり、大型モンスターの突進にも耐えうる堅牢な造りとなっている。

 

その市壁の上部。

 

都市を一望できる場所で師弟二人は普段通りの鍛錬を行っていた。

 

「来い」

 

 無造作にメタルブーツで石畳の床を叩くベートだがその構えとも言えない構えに一分も隙のないことはベルが一番良く知っている。

 

ベートが自分の遥か上位互換であることも。

 

故にこそベルは最初から全開だ。そうでなければ一撃すら掠らせてもらえないのだから。 

 

「─────ッ!!」

 

 二度のランクアップによって激上した敏捷()を活かして一直線に突っ込む。

 

逆手に持たれた短剣に一切の躊躇はない。殺意は当然ない、だが、それでも殺す気で突きかかる。

 

彼我の間合いを一瞬で潰す兎の速攻。

 

激速、そして鋭利さを増した刺突は歴戦の第二級冒険者であっても視認は難しいだろう。

 

ベートから叩き込まれた『技』の極意。

 

バーチェに教え込まれた対人に特化した『駆け引き』の妙。

 

そして何より実践の中で培った経験による『成長』。

 

この三つが組み合わさることで今のベルの攻撃速度はLv.3でありながらLv.4中堅のそれに迫るほどになっていた。

 

容赦も呵責もない。

 

如何なるときも相手を殺すつもりで攻撃する。それがベートから学んだことであり、ベル自身が己に課していることだ。

 

戦いを、命のやり取りをする以上は綺麗事など言ってられない。

 

ゆえにその突きは必殺。

 

たとえ相手が誰であろうと回避は不可能だと確信させるほどの速度と威力だった。

 

相手が二流(Lv.3)なら決定打になるだろう。

 

一流(Lv.4)でも手傷は免れないだろう。

 

超一流(Lv.5)であってもかすり傷ぐらいにはなるかもしれない。

 

三流(格下)ならばこの時点で勝負ありだ。 

 

───だが、規格外(Lv.6)だったら?

 

「甘ぇよ」

 

「っ·····!!」

 

 ベルの渾身の一撃が空を切る。突き出された刃はベートの身体に触れることなく、ただ空気だけを切り裂いた。

 

瞬間的に体勢を低くし、左脚を軸に半回転することでベルの懐へと潜り込んだベートは右の掌底を突き上げる。

 

それはベート本来の力からすればほんの僅かな衝撃に過ぎない。加減をしているわけではない、ただ次の動きにつなげるための簡単なフェイントにすぎない。

 

しかし、それで十分過ぎる。

 

「ガッ、ぁ」

 

 その衝撃はベルの小さな体を軽々と吹き飛ばしてしまう。小柄な体躯を活かした小回りの良さこそがベルの最大の武器ではあるが、ベートはそれを容易く凌駕してしまう。

 

圧倒的なまでの身体能力の差。

 

これが二流(Lv.3)規格外(Lv.6)の壁なのだ。

 

『技』と『駆け引き』以前の問題。

 

冒険者として積み上げてきた年月と乗り越えてきた死線の数の裏打ちされたステイタスの暴力。

 

遥か格下であるベルからすればベートとの戦いは深層の階層主(ウダイオス)を相手にしているようなもの。

 

「(やっぱり、この人は、本当に────強い)」

 

 そう心の中で呟きながら吹き飛ばされた勢いを利用して空中で身を捻る。そのまま着地と同時に地を蹴り、間合いを離す。

 

Lv.3にランクアップして初めての訓練だったがそれでもベートの差は全然埋まっていないと痛感させられる。

 

むしろ差は広がる一方なんじゃないかと錯覚してしまうほどに。いや、実際はランクアップもあって狭まってきているのだがそれでもまだまだ遠い。

 

「休んでんじゃねぇ!次だ!」

 

「ッ、はい!!」

 

 そんなことを考えている暇はない。今はひたすらに喰らいつくしかないのだ。

 

少しでも早く強くなるために。

 

少しでも多く学ぶために。

 

少しでも憧憬に近づくために。

 

「おおおぉッ!!」

 

 猛る。燃える。焦がれる。心の内を荒れ狂う炎はまだまだ燃え盛っている。

 

もっと、もっと強くなって憧れに追いつきたい。

 

今はまだ遠くてもいつかは追いついてみせる。

 

そのために猛進する。

 

「ファイアボルトォッ!!」

 

 周りに可燃性のものがないことは事前に確認済み。故に遠慮なく魔法を放つ。

 

モンスターでも敵でもない相手に魔法を放つなんてことは普通はありえない。だがベートとの訓練でそんなことを言っていたら何もできずに瞬殺されると理解している。

 

だから躊躇いも迷いもなく撃ち込む。

 

そして放たれた火球をベートは避けない。Lv.6のステイタスでも魔法の直撃を受ければ火傷程度は避けられないが、それでもベートに動揺はない。

 

────この訓練はベートがベルをベート基準で『マシ』になるまで鍛えるためだけにあるのではない。

 

もちろんそれも理由の一つではある。

 

だが、ただの『施し』をし続けるほどベートは優しくない。

 

ベルがベートとの鍛錬で対人の髄を、駆け引きを学ぼうとするのと同じようにベートもまた貪欲にベルとの鍛錬の中で得られえるものを全て吸収しようとしていた。

 

銀靴(フロスヴィルト)の魔法吸収の最適なタイミングや使用頻度、効果閾値。

 

そして、ベルの速攻魔法というアル以外では類を見ない攻撃魔法の使い手を相手にするからこそできる対魔導士戦闘方法の模索。

 

本来必要なはずの詠唱がない【ファイアボルト】はその分、一発ごとの威力はお粗末なものだが前衛の動きをしながら至近距離で撃てばそれだけで牽制になる。

 

威力、駆け引きともに第一級の水準には遠く及ばないものの詠唱しないということは疑似的にではあるが魔力暴発を起こす失敗をしない完成された魔法剣士に近い戦い方ができるということ。

 

つまり、それはベートにとっても他に中々類を見ない、それでいて簡単ではない相手と戦うことができるということでもある。

 

闇派閥との決戦を控えた今、呪詛や悪辣な魔法を使ってくる相手を想定した対人戦の練習は必須。

 

それがベートにとってのこの訓練の副次的な目的だった。

 

そしてそれをベルも察しているからこそ本気でぶつかることができる。

 

互いに互いを高め合う。

 

或いはそれは師弟として理想的な関係なのかもしれない。

 

「ぬりぃぞ!!その程度で俺の相手が務まると思ってんのかァ!!」

 

「っ、ファイアボルト!!」

 

「ぬるいって言ってんだろ!!」

 

「くっ!?」

 

 馬鹿の一つ覚えかと容赦のない罵倒とそれ以上に苛烈な攻撃が襲いかかってくる。

 

拳と蹴りの連打。

 

当たれば確実に骨を砕く威力を持つそれらをベルは必死に回避していく。

 

息をつく暇もない攻防。だがベルは確かに感じ取っていた。ベートの一撃一撃が徐々に、しかし着実と速くなってきていることに。

 

もとより手加減などしていなかっただろうがベルがランクアップしたことによって殺さない『一歩手前』のハードルが下がったことによりその一撃一撃の鋭さが増していた。

 

「(くそ、このままじゃ、本当になにも出来ずに終わる············なら、)ファイアボルト!!」

 

「!」

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()。捨て身どころか自爆に等しいその行動にベートが僅かに目を開く。

 

当然、その動きに反応できないはずはなくベートは咄嵯に魔法吸収の銀靴をベルとの間に挟みこもうとするが、それでも事前に動きを作っていたベルの魔法の方がほんの数瞬だけ早い。

 

「···ッ!!」

 

「あああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッ!!!」

 

「ッ、ちィッ!」

 

 炎雷はベートに届くことなく銀靴に吸収されるが、それこそが狙い。

 

この近距離ならば魔法吸収は必須、そして吸収するにしても一瞬の間を要するため『次撃』へ即座に対応はできない。

 

ベルが狙ったのはそれだ。

 

ベートが魔法を吸収しきる前に次の一手を撃つ。

 

【英雄願望】の発動──寸秒のチャージが左足に敢行され、即座に解き放たれた。

 

瞬時の加速。

 

自らの魔法の余波に焼かれるのも厭わず、最速最短で放たれた蹴りはベートの鳩尾を正確に捉える。

 

確かな感触。

 

クリーンヒットした───

 

「────今のは悪くなかったぜ」

 

「がはッッ!?」

 

 ───はずだった。

 

ベルの放った渾身の蹴撃はベートの掌底によって阻まれていた。

 

「げほっ、ごほッ!」

 

「ハッ!甘ぇんだよ!狙いがバレバレだっての!!」

 

 蹴撃を放った反動で体勢が崩れたところに容赦なく追撃が入る。無防備に受けたベルの体が吹き飛ばされる。

 

勢いよく地面を転がっていくもなんとか受け身を取れたおかげでダメージはそこまで大きくはない。

 

だがそれで攻撃が止まるはずもない。すぐさまベートは地を駆け、距離を詰める。

 

「それになんだァ?随分と雑な間合いの詰め方をしやがって!!テメェは魔法を過信しすぎなんだよ!!だから簡単に懐に潜り込まれてカウンター喰らう羽目になんだろうがッ!!」

 

「ッ、ぐぅう!!」

 

 追撃、追撃、さらに追撃。容赦のない猛攻が転がったままのベルに襲い掛かる。

 

一発一発が重い。

 

ランクアップして頑丈になったはずのベルの体でも耐えられるか分からないほどの威力。

 

そして何よりも容赦がない。

 

ベルが立ち上がるまで待つようなことはせず、ただただひたすらに蹴り続ける。

 

そうすることでベルの意識を刈り取ることをベートは何のためらいもなく選択する。

 

気絶するまで痛めつけ、限界の先まで追い詰めて、その上で叩き起こす。

 

「立てねぇなら死ねッ!!!」

 

「が、はっ!?」

 

 まるでサッカーボールのように蹴り上げられ、ベルの体は宙を舞う。そのまま重力に従い地面に落下する。

 

肺から空気が全て吐き出される。

 

呼吸ができない。

 

視界が霞む。

 

思考が定まらない。

 

だが、それでもベルは立ち上がらなければならない。なぜならまだ自分は戦えるからだ。勝てなくてもいい。負けなければそれでいい。

 

「あ、あァァアア────ッ!!」

 

「────そうだ、吠えてみせろ」

 

 吠声を上げてベルは何度でも立ち上がる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【ロキ・ファミリア】本拠地、黄昏の館。昼時を迎え、『鍵』の捜索に出ていた団員達も食堂で昼食を摂っている中、アマゾネス軍隊をフィンになすりつけたアルも本拠地に戻っていた。

 

アミッドと【ディアンケヒト・ファミリア】で行っていた闇派閥の残党の使う呪詛への対抗手段の模索。

 

解呪薬と呪い避けの装飾。

 

治すことに特化した聖女と万事万技に通ずる才禍による超高速のイノベーション。

 

構想、実行、精査、改良、量産化。

 

他を通さずに必要な材料を必要なだけ調達できるとはいえ、この短期間で成果を出した二人の手腕は流石だった。

 

三人寄れば文殊の知恵とは言うが、聖女アミッドと才禍アルによる共同作業はその言葉以上に迅速かつ効率的であった。

 

短時間のうちに行われる技術革新に次ぐ技術革新。

 

トライアンドエラーを超高速で行うことで劇的な速度での進歩を実現してみせたのだ。

 

執念の才女と絶世の才禍。

 

二人ともが前提として凄まじい才能の持ち主であるのは間違いないのだが、それ以上に凄まじいのはやはり積み重ねた試行錯誤の量であろう。

 

一切の無駄を排した効率的な試行回数によって生まれた成果は他の者達では到底真似できないものであった。

 

聖女の長年の勘と経験則で割り出した改良点を圧倒的なセンスと学習能力を持つ才禍が見事に実現し、失敗と改良のサイクルを超高速で繰り返すことで加速度的に進む革新。

 

休息?何それ美味しいの?と言わんばかりに働き続ける二人に当初は手伝おうとしていた【ディアンケヒト・ファミリア】の団員達はドン引きし、ディアンケヒトですら止めに入るほどだった。

 

結果、二人は食事休憩すらまともに取らず、徹夜続きで作業を続けた結果、三日という短期間でありながらも完成した新薬。

 

既に血液以外からの安定した製作法を見つけて量産体制に入っており、闇派閥との決戦までには【ロキ・ファミリア】どころかその他大派閥のほとんどの団員に行き渡らせることが可能になるだろう。

 

どちらも十分な効果を発揮することが期待できる品であり、今後のことを考えても非常に有益なものであると言える。

 

これで、先日のクノッソスでの戦いのようなことが再び起こったとしても被害を最小限に抑えることができるようになった。

 

そんなこんなで本拠地に戻ったアルは皆と同じように食堂で昼食を摂っていたのだが────

 

「あの、アルさん」

 

「·····ん?」

 

 むしゃむしゃと二日ぶりのマトモな食事───製作中はアミッド共々調理や移動の時間を惜しんで保存食や携行食料を口にしていた───にありついていると横から声をかけられた。

 

見ればそこにいたのはエルフの少女魔導士レフィーヤだった。どこかおどおどとした様子だがどこか決意を感じさせる表情を浮かべている。

 

どうしたのかと思いながらも、もぐもぐと口を動かしながら話を促すと彼女は意を決したように顔を上げた。

 

「私に戦い方を教えて下さいっ!」

 

「········えぇ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

先日の人造迷宮での戦いからもう一週間が経っていた。

 

複雑怪奇で悪辣な罠が張り巡らされた迷路、オリハルコンの扉、無尽蔵に湧き出てくる極彩色のモンスター、闇派閥の自爆兵、回復不可能の呪詛、そして怪人。

 

その脅威のいずれもが明確な悪意のもとに私達の命を狙ってきた。

 

深層でもあれほど死を身近に感じたことはなかった。事実、何か一つでもボタンの掛け違いがあったら死者が出ていてもおかしくはなかったはずだ。

 

─────なにもできなかった。

 

良いように罠にはめられて、何もできずに翻弄されていただけだった。

 

威力が上がった魔法も、せっかく覚えた並行詠唱もろくに発揮することはできなかった。それどころか、あの時私は足を引っ張るだけの存在だっただろう。

 

私が死ななかったのは単純に運が良かったのと団長やアイズさん達に守られていたからだ。

 

「(·········情けない)」

 

 自分の不甲斐なさに打ちひしがれそうになる。フィルヴィスさんとの特訓で、59階層での戦いで少しは強くなったと思っていた。

 

私に出来たのはモンスター複数体の討伐が精々だ。恐怖で足がすくみ、混乱に頭が回らず、結局団長達に助けてもらった。

 

そして、仮面の怪人との戦い。

 

もとより団長をして圧倒的格上と言わしめるような相手に戦えるとは思ってはいなかった。

 

矢面に立って戦ったのはアルさんとアイズさん。私はその援護をするどころか怪人の一撃の余波だけで吹き飛ばされてしまった。

 

それすらも団長に庇われなければ致命傷になっていたかもしれない。

 

私の力ではアイズさん達の力になるにはまだまだ足りない。それは分かっている。けれど、足踏みなんてしていられない。

 

早く追いつかないと、置いて行かれるだけだ。

 

────それに、私はあの時『見てしまった』。

 

赤髪の怪人の魔石を取り込んでより強くなった仮面の怪人と相対するアルさんの戦い方。

 

その戦い方は今まで見たどんな冒険者よりも鮮烈だった。

 

一振りごとに洗練され研ぎ澄まされていく剣技、まるで未来が見えているかのように敵の攻撃を見切り回避する動き、そして何より─────

 

そこには魔導士の『理想形』があった。

 

いつ暴発してもおかしくない膨大な魔力を抱えながら高速かつ緻密に行われる並行詠唱と詠唱中であるにも関わらずいささかも衰えない体捌き。

 

そしてそれら全てを完璧にこなすだけの立ち回りの巧さ。

 

そこには並行詠唱を扱う魔導士に求められるすべてが詰まっていた。

 

あんな戦い方を私は知らない。

 

致命傷一歩手前の傷を抱えながら一瞬の魔力の狂いが即自爆に繋がるような極限の状況で完璧な並行詠唱を行い、なお且つ圧倒的な強敵を前に一歩も引かない胆力と技術。

 

そんなことができる魔導士がいるなど聞いたこともない。

 

アリシアさんでも、フィルヴィスさんでも────リヴェリア様でさえきっと無理だろう。

 

それほどまでに完成された並行詠唱。

 

もしいるとするならそれは間違いなく英雄の領域にいる人物だろう。

 

あれはきっと才能とかそんな言葉では言い表せないような途轍もない努力の結果手に入れたものだ。

 

あの人が天才であることは疑いの余地はないがそれ以上にくぐり抜けてきた修羅場の数が違う。

 

練習の数ではない、一手の違いが死につながる死線の中で誰にも守られずに魔法を使い続けた果てにある境地。

 

私はそれを垣間見たのだ。

 

私はまだ、スタートラインにすら立てていない。

 

同期とは───厳密には私の方が少し遅く加入したが学区での経験を加味すれば変わらない───思えないほどの差が出来てしまっている。

 

才能の差はあるだろう。

 

だが、同じファミリアの所属なのだから周りの環境に差はなかったはずだ。

 

だとしたら後は覚悟の問題だ。

 

無駄を切り詰めて少しでも効率よく動く。

 

団長のような資質も、リヴェリア様のような慧智も、アイズさんのように卓越した戦闘センスも持ち合わせてはいない私に残された唯一の武器は魔法しかない。

 

せめてこれだけは負けないようにしないと私は私でなくなってしまう。

 

私はもっと強くなる。

 

アイズさんに近づけるように。

 

団長達の足手まといにならぬように。

 

そして、フィルヴィスさんを────ように。

 

だから─────

 

 

 

 

 

 

 

「私に戦い方を教えて下さいっ!」

 

「········えぇ?」

 

 決意を帯びた瞳と言葉を向けられたアルは思わず困惑の声を上げて掴んでいたパンを落としてしまった。

 

食堂で食事を取っている他の団員たちも目を丸くしてこちらを見ている。

 

しかし当の本人は気にした風もなく、むしろ周りなど見えていないかのように真剣な眼差しを真っ直ぐにアルへ向けてくる。

 

「······なんで俺なんだ?」

 

 戸惑いながらも理由を尋ねるアル。レフィーヤが自分に師事を仰ぐ理由は思い当たらない。

 

典型的な純魔導士であるレフィーヤと魔法も使うには使うがあくまでも前衛として戦うアルのスタイルはあまり噛み合わない。

 

既に師事を受けているリヴェリアやフィルヴィスならばともかく自分に教えを乞う理由が分からない。

 

「今のままじゃ駄目なんです······このままじゃ私は皆さんに届かない······」

 

 当然、リヴェリアが駄目という訳ではない。

 

純後衛としてみればアルと比べてもリヴェリアの方が長年の経験もあって遥かに優れているだろう。

 

レフィーヤの完成形が『九魔姫』リヴェリアだと言うのであれば彼女はその道を辿ればいいだけなのだ。

 

だが、それでは意味がない。

 

それではレフィーヤはリヴェリアの下位互換にしかならない。

 

それではいけないのだ。

 

リヴェリアに追いつく、ではない。

 

リヴェリアを、都市最強の魔導士を越える意気込みでなければいつまで経っても彼女達の背中すら見えないままだ。

 

リヴェリアにない武器を、アイズに足りないものを、レフィーヤは身に付けなければならない。

 

それこそが自分の、ひいては自分の大切な人達の力になるのだから。

 

そうしてレフィーヤが選んだ師こそ、この男だった。

 

自分の同期でありながら迷宮攻略の最前線に立ち続ける、オラリオ最強の双璧。

 

スタートは同じ。いや、学区での分を含めればリードしていたはずなのに遥か先へ行ってしまったファミリア最強の男。

 

神の眷属の中でもっとも才能と()()に愛された英雄の器、アル・クラネル。

 

「お願いします、私は変わらなくちゃいけない! もう守られるだけは嫌なんです!!」

 

「断る理由もないから構わんけど·······お前が変わりたい理由はフィルヴィスか?」

 

「っ、それは───────はい、その通りです」

 

 クノッソスでの戦い以来、影を落としたように沈んでしまった友人の姿。

 

レフィーヤにはそれが心配で仕方がなかった。以前にも増して人と距離を置くようになったフィルヴィス。

 

彼女に何があったかは知らないが、それでもレフィーヤは力になりたいと思っていた。

 

いざという時に頼ってもらえるようになりたい、それがレフィーヤの意識改革の理由の一つでもあった。

 

「─────まぁ、ならいい。俺に教えられることはそんなに多くないと思うがそれでも良ければ教えよう」

 

「はいッ、よろしくお願いします!」

 

 アルの武勇や冒険者として異例の経歴は知れ渡っているがそれに反してアルに師事を受けようとする者は極端に少ない。

 

一見すると無愛想で取っ付きにくい印象がある、というのもあるがその異常なまでの成長速度に追いつけないと感じる者が多いからだ。

 

しかし、そんなことは関係ないとばかりに頭を下げるレフィーヤ。

 

その姿を食堂の入口から見ていたアイズは──────。

 

 

 

 

 

 

 

「ところで前々から思ってたけどなんで俺に対して敬語でさん付けなの?」

 

「えっ?」

 

「歳もほぼ変わらんし同期だろ」   

 

「そ、それはぁ······」

 

 アルにタメ口なんてきいたらブチギレて殺されるかもしれない、とファミリアに入ったばかりの頃は思っていて、その止め時が分からないままズルズル引きずっていたからとは言えないレフィーヤだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

───────────────────────────────────────────────────────────────────

 

17.8巻を見る限り、ベルって案外思考がBANZOKUだよね·····。多分、優しく教えてくれるアイズとかより死ぬほど厳しいやつの方がベルの師匠に向いてる気がする。

 

・年齢

レフィーヤ15歳

アル16歳成りたて

 

ロキF歴はアルのがちょっと長いけど誤差

 

同じ年と言えば同じ年だけどアイズのが年長





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