皆の傷になって死にたい転生者がベルの兄で才禍の怪物なのは間違っている 作:マタタビネガー
ちょいスランプで遅れました
「ラキア王国の侵攻、ですか」
「まあ、所詮は雑魚の寄せ集め。精々、Lv.2がいいとこだ、俺等からすりゃ話になんねぇよ」
市壁上部での鍛錬を終えたベートとベルの二人は商店街を歩きながら話をしていた。
片や、VS【イシュタル・ファミリア】、片やクノッソス侵攻で久しぶりの鍛錬はベートが【ロキ・ファミリア】の第一級冒険者としてラキア王国の進行の撃退を終えてから行われた。
いくら第二級冒険者となったベルがいるとは言え、新興派閥である【ヘスティア・ファミリア】にはあまり関係のないことではあるのだが。
「このあと、ダンジョンに潜んのか?」
「はい、今日は18階層までいけたらいいなっ──」
「あーッ!! ベート・ローガだぁ!!」
「あん?」
二人の後ろから明るい麗らかな声が響く。その言葉に反応してベートが振り返るとそこにはアマゾネスの少女がいた。
髪の色は黒茶色で瞳の色も淡い茶褐色、胸は控えめだが引き締まった肉体をしており、幼い印象を与える顔立ちをしている。
アマゾネスらしい際どい衣服を着ており、露出度は高い。歓楽街の娼婦のような格好であった。
ベートに親しげな声を上げた彼女はそのまま駆け寄ってくると彼の腕を取って抱きつく。
「なっ、誰だテメェ!?」
「えーっ、私はもうずっと会いたかったのにベート・ローガは私のこと忘れちゃったの? ひどい!」
犬ように人懐っこくじゃれついてくる少女にベートは困惑する。こんな女など記憶にない。とっさに蹴らなかっただけ褒めて欲しいくらいだった。
「テメェなんざ知るか! さっさと離れろ、気安く触んじゃねぇぞクソアマゾネス!!」
「ひどぉい! でもそんなところも好きぃ!」
ベタベタとくっついてくるアマゾネスの少女を引き剥がすが少女は堪えずにまた近づこうとする。
明るいというよりもやかましいアマゾネスの少女にベートは顔をしかめる。ベートの記憶にはない人物ではあるが、よく見ればどこか覚えのあるような気がする。
「あっ······【イシュタル・ファミリア】の······」
「んん? あっ、兎くんじゃん!! やっほー!!」
ベルの声を聞いてようやくその存在に気がついたのかアマゾネスの少女はベートから離れ、ベルに挨拶をした。
ベルと知り合い·······いや、それよりも【イシュタル・ファミリア】だと、と、そこでベートの脳裏に少し前に起きた事件が浮かび上がる。
「てめえ、まさかメレンで一戦やった 【イシュタル・ファミリア】の········?」
「うんっ、そうだよ!! 改めて自己紹介するね。私の名前はレナ・タリー、よろしく!!」
今度は忘れないでねベート・ローガ、と付け加えて彼女は元気いっぱいに声を上げた。
ぴょんぴょんと跳ねる度に揺れ動く髪を見ながらベートは呆れた様子で溜息を漏らす。
犬のようなアマゾネス、レナと名乗った少女はベートにべったりとくっつこうとしてその度に振り払わられていた。
お世辞にも人当たりが良いとは言えず、その刺々しい言動から各方面に敵を作りやすいベートは人からの敵意には慣れていても好意に慣れていない。
好意を向けてくる例外はそれこそ、弟子のベルくらいだろう。
だが、レナは違っていた。ベートのことを好きだと言って憚らず、ベタベタとくっついてきては尻尾を振る子犬のようにじゃれつく。
「ねぇねぇベート・ローガぁ、どこ行くの? ダンジョン?」
というか距離感がバグっている。何が悲しくてほぼ初対面の男相手にここまでくっつけるのか理解不能だった。
むっちゃ近い、とても近い。普通の男なら惚れてしまうであろう距離感である。とはいえベートにとっては鬱陶しいことこの上ない。
「おいっ、離れろっつってんだろうが!」
「もぅ、ベート・ローガったら照れ屋さんなんだからぁ」
ベートからすればほぼ初対面で先ほど名前を知ったばかりの相手だ。そんな相手がここまで馴れ馴れしく接してくることに不快感しか感じない。
ベルに至っては降って湧いてきた急展開に目を丸くさせて驚いている。
色情に濡れた視線で見つめられるのとは違った意味でベートにとって居心地が悪い。
「でも、そんなつれないところも素敵ぃ!」
「なんなんだ、テメェは······」
意味不明。理解不能。ベートの頭の中で警鐘が鳴り響く。このままではいけない。このアマゾネスの少女は危険だ。そう本能が告げていた。
色情に染まった瞳を輝かせてベートを見上げるアマゾネスの少女にベートは一歩後ずさる。
ベートの頭の中に浮かんでいるのは自らの所属するファミリアの団長に常日頃からストーカー一歩手前な行為をしているアマゾネスの女性の姿。
恋の凶戦士。ベートの中の嫌な予感は膨れ上がっていく。
ティオネの言動に胃を痛めながら引きつった苦笑いを浮かべるフィンの姿と遥か格下相手から全力で逃げるアルの姿が脳裏に浮かぶ。
─────コイツはやべぇ。
ベートの脳内で警報がけたたましく鳴る。レナはそんなベートの内心など露知らず、相変わらず犬のようにじゃれつく。
「メレンでベート・ローガに蹴られてじゅわって体が熱くなって、ああ、これが恋なんだなって思ったんだよ!」
メレンにいたアマゾネスは【イシュタル・ファミリア】と【カーリー・ファミリア】を問わず、その八割をランクアップしたばかりのアルに轢かれふっ飛ばされたが残りの二割はベート達が撃退した。
レナはその二割側のアマゾネスであり、ベートに蹴り倒されたことで彼女に芽生えた淡い恋慕の感情が燃え上がり、それが彼女を突き動かす原動力となったのだ。
「ベート・ローガ、好き!! 子供作ろ!!」
「ふざけんじゃねぇぞクソアマ!?」
ベートに抱きつこうとするレナの腹にとっさに腕を振りぬいたベートの鉄拳が突き刺さり、レナの体は宙を舞う。
「げふぅ!?」
「べ、ベートさんっ?!」
「あ、やべ······」
全力ではないとは言え第一級冒険者の一撃。上層のモンスターであれば爆発四散する威力のそれはいくら上級冒険者と言えど、レベル2程度のアマゾネスに堪えきれるものではない。
ベートの放った正真正銘の本気の拳に吹き飛んだレナの体はそのまま壁に激突し、ずるりと崩れ落ちる。
「お、おいっ、生きてるか······?」
やっちまった、とベートが思う頃には既に手遅れであった。慌てて駆け寄るベルと流石に心配して壁際で倒れ伏すレナに恐る恐ると近づき、安否を確認しようとするベート。
ぴくりとも動かないレナにベートは冷や汗を流した。もしかしたら殺してしまったかもしれない。
気持ちが悪くてつい殴ってしまったが流石にやりすぎた。ベルも慌てふためき、回復薬を飲ませようと腰のポーチを漁る。
そんな二人を他所にレナはむっくりと起き上がった。
「ふへっ、ふへへ、ふへへへへっ、ベート・ローガに殴られちゃったぁ······」
レナは頬を紅潮させ、口から唾液を垂れ流し、目はぐるんっと上を向いていて、明らかにヤバい状態になっていた。
「だ、大丈夫ですか?!」
ベルが慌てて声をかけるがレナには届いていない。ハァハァと息を荒げる彼女は自分の体を抱きしめるように両腕を回し、身悶える。
その姿はまるで変態だ。
「二回目も殴られちゃったぁ······これぇ、絶対に妊娠したぁ······」
「ひっ?!」
あまりにも危険な発言にベルは思わず悲鳴を上げてしまう。そして、ベートもまた顔を引きつらせた。
悦に浸る表情で呟くアマゾネスの少女はびくんびくんと痙攣を繰り返している。その様子は明らかにおかしい。
色情狂の娼婦ですらここまで壊れてはいないだろう。
「(コイツ···························)」
「(この人···························)」
二人はフィンとアル、【ロキ・ファミリア】が誇る実力ツートップの二人と同じ結論に至る。
すなわち。
「「(こわい)」」
─────恋するアマゾネス、怖すぎる。
迷宮都市オラリオ。世界の中心に存在するダンジョンを中心に栄える大都市である。
そこから産出される資源とモンスターの素材を求めて、多くの商人や職人が集まり、そして彼らが生み出す富によって都市の経済が回っているのだ。
そして、オラリオの管理をするギルド。
創設神ウラノスによって千年前にその雛形が作られた都市運営を始めとした様々な分野で冒険者や迷宮の管理を行うための機関である。
その窓口受付にはいつも喧騒が満ちている。迷宮から帰ってきたばかりなのか、武装した集団が大挙して押し寄せては列をなしている。
ヒューマン、エルフ、ドワーフ、獣人など様々な種族が入り混じった光景。ロビーでは依頼達成の報告をする者、魔石やドロップアイテムを換金する者など、大勢の人でごった返していた。
「それではこちらが報酬になります」
窓口に並ぶ受付嬢達はいずれもが才女と呼ぶに相応しい器量の持ち主達だ。冒険者と同じように様々な種族が混在しており、皆一様に美女揃いで男性冒険者から羨望の目を集めていた。
能力や人当たりが優れているのは前提として冒険者のギルドへの好感度に直結する窓口受付という仕事であるがゆえに容姿に恵まれた女性が多いのだ。
そんな彼女らは今日も忙しそうに立ち働いている。ベル・クラネルを始めとした新鋭ルーキーや【ロキ・ファミリア】、【フレイヤ・ファミリア】の二大派閥幹部のランクアップに伴って冒険者達が良くも悪くもやる気になっているからだ。
「ミィシャ、
「ん、わかったぁ」
ようやく繁忙期を過ぎてきて人が掃けてきた中、眼鏡の奥から覗く怜悧な緑玉色の瞳と妖精の血の混流を表す尖った耳が特徴的なハーフエルフのエイナが同僚であるミィシャに声をかける。
ピンク色の髪が特徴的で愛嬌のある顔立ちをしているミィシャを緊急とばかりに呼ぶ。
「そんなに焦らなくてもいいのに。というか、クラネル氏なんて他人行儀じゃなくてエイナも名前で呼べばいいじゃん〜」
「割と気易いし、エイナの担当の弟くんのお兄ちゃんなんだしさぁ」と緩い言葉とは裏腹にテキパキと無駄のない動きで換金の準備を整える彼女こそ、都市最強を誇る冒険者、『剣聖』アル・クラネルの専属アドバイザーなのだ。
「聞いたよー、アマゾネスの人達にモテモテだったんだって?」
「まぁ、な···········」
ちょっとばかり、騒ぎが大きくなりすぎたことから止めに入ったフィン達【ロキ・ファミリア】と【ガネーシャ・ファミリア】の介入によって治められた騒動。
先日、百を超える女性冒険者が制御の利かぬ半ば暴徒とかして暴れまわった話はギルドにも当然、届いている、その目的も。
幸い、フィン達の働きからか巻き込まれた市民や壊されたものもなく、ギルドとしては全体に軽い注意をする程度で済んだ。
「まあ、俺の思考を読んで先々に先回りするアミッドより振り切るのは楽だったな」
「いい加減、アミッドちゃんを困らせるの止めなよ〜。·······それで、ドロップアイテムの査定だっけ」
「ああ」
その一室にはアルが今日、持ち込んできた異様なまでに状態の良いドロップアイテムがところ狭しと並べられている。
レフィーヤとの訓練を兼ねた短期遠征の際に手に入れたものであり、疲労困憊で参ってるレフィーヤの代わりに換金に来たのだが、さすがに数が多い。
本来、魔石はともかくドロップアイテムはそれぞれそれを必要とするファミリアへ個別に売りつけたほうが稼げるのだが、個人でそれをするのは多大な時間がかかるため、アルはソロや少数で潜った際はギルドへそのまままとめて売ることにしている。
ミィシャは「うひゃあ、多いなあ」などと言いながら査定を開始していく。この辺りは経験だろう。手慣れた様子で次々と仕分けていく。
「えーっと、【オブディシアンソルジャーの黒曜石】、【スカル・シープの皮衣】、【ペルーダの毒腺】、【グリーンドラゴンの鱗】、【ラヴァ・タートルの甲羅】───【カドモスの皮膜】?!」
下層や深層のドロップアイテムばかりであることには慣れているものの最後の【カドモスの皮膜】に目を丸くして驚くミィシャ。
「え、『千の妖精』さんと潜ったんだよね? どこまで潜ったの?」
「51階層。まあ、少数のが速く潜れるからな」
ミィシャが「えぇ·······」と可愛らしい顔を引き攣らせるのも無理はない。いくら身軽な第一級冒険者といえど、日帰りできる階層はいいとこ中層の二十階層前後、二日程潜るにしても三十階層程度が限界だ。
それをギルドが定めた『真の死線』、その深層をさらに十階層以上超えて潜ったなど正気の沙汰ではない。
しかし、アルは物理アタッカー、短文系魔法アタッカー、砲撃系魔法アタッカー、ヒーラー、シーフ、マッパーなどのダンジョンにおける各役割を一人でそこらの熟練パーティよりもよっぽど高次元で無駄なく行える。
そしてアルは都市最速、つまりは世界最速の男。その速力はモンスターと一度も遭遇せずに上層から下層を踏破することも可能。
加えてレフィーヤも後衛としてアルにできない広範囲攻撃の行使が可能であり、二人でパーティーとしては完結している。
下手をすれば小回りが利く分、ファミリア全体での遠征よりも少数のほうがより深く進めるのかもしれない。
だから、別にそこまでおかしなことじゃない。そう思いながらもミィシャは苦笑を浮かべるしかない。
「······無理させてないよね?」
ミィシャはレフィーヤのことをよく知らないが外部から見た印象だと【ロキ・ファミリア】の幹部陣ほどイカれてはいない普通よりの常識人というイメージである。
アルという前衛がいるとはいえ二人というごく少数かつ超スピードで本来第一級冒険者のパーティーで潜るような階層まで連れてかれるなぞLv.3の魔導士からしたら地獄の体験だろう。
「·······いや、俺も37階層あたりで止まるつもりだったんだけど思った以上に気合入ってたみたいでなぁ。まあ、大丈夫だろ」
「そっかぁ、ならいいけど。あんまり無茶させちゃダメだよ」
アル自身、37階層の闘技場でレフィーヤの訓練に付き合うつもりだったがレフィーヤが思った以上にヤル気満々だったので深めに潜ってしまった。
アルとしてもレフィーヤのやる気を削ぐのは本意ではなく、本人が望むのであれば可能な限り深い階層で訓練をしたかったのだ。
「それにしてもドロップアイテム多くない?」
「まあ、俺は運がいいからな」
「これでも質が低かったり、嵩張るやつは捨ててきたんだ」というアルが持ってきたドロップアイテムはいずれも貴重極まる深層域のもの。
各生産系ファミリアが喉から手が出るほどほしいそれらは本来、【ロキ・ファミリア】や【フレイヤ・ファミリア】、【ガネーシャ・ファミリア】などの大派閥の遠征でしかまとまった量は得られない。
しかし、アルの場合は気軽に深層まで潜る上に道に落ちてたんじゃないかというレベルで大量にドロップアイテムを取ってくる。
実際、深層はモンスターのリポップ速度も早いため、確率の上では有り得ない話でもない。
「数多いし、助っ人呼んでくるねぇ〜」
ミィシャがこのイカレ白髪のアドバイザーとなったのは四年前、ミィシャにとってはアドバイザー業も二年目に入って仕事に慣れ始めた頃だった。都市最大派閥の新人ということもあり、緊張していたミィシャだったが、その緊張はすぐに別の感情へと塗り替えられた。
最初は自分より一回り年下の美少年ということもあり、弟のように可愛がっていたミィシャだったが···········『恩恵』を受けて三週間でランクアップ、またもその一ヶ月後にはLv.3、そのさらに数カ月後にはLv.4。
半年にも満たぬ期間で行われた三度のランクアップ。そんな才禍のアドバイザーなど当時、15歳のミィシャに務まるものではなかったのだが、面倒を押し付けるかのように上司から申し付けられたのはアドバイザーとしての専属。
それからの数年間、ミィシャは何度、アルに驚かされたのだろうか。そして、これからあと何度驚けばいいのだろうか。
レフィーヤどうしたんだアイツ。
一人じゃ手の回らないとこもあるからありがたいけどやる気ありすぎて怖いわ。
ほんとは金策も訓練ももっと50階層付近で粘ったほうが効率いいんだけど、あんまやりすぎると市場価値落ちるし、レフィーヤも危険だからなあ。
まあ、遺産のために稼げるときに稼いどかないとかなきゃだし半分レフィーヤに分けて後は貯金だな。
「あ、僕そろそろダンジョンなので········」
騒動を起こす天才である兄と神話級問題児である祖父という二人の身内の影響か、こういう事例においてはベートよりも遥かに判断が早いベルは当然のように師匠を見捨てて走り去る。
「はぁ?! オイコラ、ちょっと待てやッ!!」
Lv3へとランクアップし、敏捷に特化したステイタスを持つベルは兄を思わせる洗練された逃げ足を見せ、瞬く間にベートの視界から消えていった。
当然、ベル以上の速度で追おうとしたベートだったが、蛸のように足に絡みついてくるレナによってそれは阻まれる。
阻止される。その悍ましさに今回ばかりは弟子の方が状況判断が早かったことを悟るベートだった。
マトモに相手していたら切りがないと判断したベートはレナの腕を振りほどき、背を向ける。
··········ベルが見たら「いや、走って逃げましょうよ」と言うだろうが、ベートはアルを兄に持つベルほど熟達しておらず、格下から走って逃げるのを躊躇うプライドがあった。
無論、その道のプロフェッショナルであるアルが遥か格下のアマゾネスからガチ逃げをしていたことからもベートの中途半端な逃げは愚行なのは明らかだ。
しかし、それでもベートはベルのような潔さはなく、ベートの足は逃走を拒む。
「あっ、待ってよぉー!? ベート・ローガぁ~っ!!」
「来んじゃねぇ!!」
ついてくるアマゾネスの少女に青筋を浮かべながらベートは叫ぶ。レナはそんなベートの態度にもめげずに笑顔のまま追いかけてくる。
結えられた黒髪を振り乱し、ベートを追いかけるその姿はモンスターに追われるよりも恐ろしい光景であった。
「ねぇねぇどこに行くのぉ? 」
「宿だよ!! いい加減離れやがれ!!」
「宿? ファミリアのホームじゃ
なくて? どうして? 」
「········チッ」
口を滑らせてしまったことにベートが舌打ちする。レナはその言葉を聞き逃さず、にまにました笑みでベートにすり寄ってくる。
実はベートは先日、自分を好いているリーネを手酷く払い除けてしまったことでファミリアの女性陣から顰蹙を買ってしまい、今のホームにベートの居場所はない。
「も・し・か・し・て、仲間と喧嘩しちゃったのかなぁ?それで今帰る場所がなくなっちゃったんだよねぇ?」
「うるせぇぞクソアマゾネス!?」
図星を突かれたベートはレナを怒鳴りつけるが、レナは怯まない。むしろ、嬉しそうにベートの前に回り込む。
「じゃあ私のとこにおいでよ! ベッドもちゃんとあ·る·し」
「誰が行くかッ!?」
「ベート・ローガがウチに来てくれないならぁ、私【ロキ・ファミリア】の館に行って暴力振るわれたって言いふらしちゃおうかなぁ」
「テメェ······」
それはまずい、と苦虫を噛み潰したような顔になるベート。いつもならばそんな脅しなど鼻で笑って一蹴できるが、今はまずい。
リーネを振った挙げ句、他ファミリアの年若い少女に暴行を加えたとなれば派閥内でのベートの尊厳は地に落ちる。
オラリオ最強の一角であるLv.6の冒険者が性犯罪者扱いされるなど笑い話にもなりはしないし、ラウル達にゴミムシを見る目で見られること間違いなしだ。
人の目を気にしないベートだが、流石にそれはキツい。
というか今こうして人目のある場所で騒いでいる時点で既に危ないのだ。
仮にファミリアの連中と鉢合わせでもしたら─────
「·········ベート、さん?」
投げかけられた優しげな声にベートの顔は引きつり、心臓が跳ね上がった。
恐る恐る振り返るとそこには案の定、ベートを睨むファミリアの仲間の姿と黒髪おさげに眼鏡を掛けた優しげな少女、リーネがいた。
リーネに付き添っていたティオネやアキはリーネを手酷く振ったくせに女遊びをしているなんて、と極冷の視線を向けていた。
··········やはり、初手逃走のアルとフィンが正しかったことを遅ればせながら悟るベートだった。
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普段からアマゾネスと戦い、その恐ろしさを熟知するアル、フィンとベートの場数の違いでした。
なお、真っ先にベルくんが逃げたのはアルの姿を見てきて逃走が最善手だと悟っていたのとなんだかんだ師匠への信頼があったからです(ヴェルフや桜花なら自分が殿になってた)
フィルヴィス関連でやる気マシマシなレフィーヤとちょっとビビってるアル。