皆の傷になって死にたい転生者がベルの兄で才禍の怪物なのは間違っている 作:マタタビネガー
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レヴィスちゃん、やっと逢えたね(クソデカボイス)
俺の目の前にいるこの女こそ赤髪の怪人レヴィス、現状の俺を殺せるかもしれない数少ない逸材だ。
繰り返すようだが俺は自殺したいわけではない、全力を出し切り、仲間を守りきり、その上で死に果てたいのだ。これまで様々な事件で肥えてしまった俺はそこまでしなければカタルシスを得られない身体になってしまった。
そのためには強い敵が必須だ、その中でも明確な敵対関係にあり、アイズを付け狙うレヴィスちゃんはアイズをかばって目の前で死ぬためには理想とも言える相手なのである。
当然、今のレヴィスちゃんはクソ雑魚だ、剣を交えてみてわかったが百回やって百回勝てる。なんなら目つぶってても刺し身にできるレベルの実力差が今の俺たちにはある。
そこはしゃーない、調子乗って経験値稼ぎすぎた俺が悪い。しかし、レヴィスちゃんにはそれを覆す大きなアドバンテージがある。それは人間ではなく『強化種』としての力を持つ怪人であるということ。
他にないレヴィスちゃんの強みは成長力、怪人は魔石を喰らうことで冒険者とは比べ物にならない速度で強くなる特性を持っていて物語開始時点ではLv5のアイズとどっこいどっこい程度だがまたたく間に強くなり、クノッソス編ではフィンを倒せるほどになる。
つまり今の段階からまだまだまだ伸び代があり、このままうまく行けばいずれ俺とタメ張れるレベルまで成長する可能性を持っているということだ。
これは非常においしい。そんな美味しい獲物を前にしてみすみす見逃すわけがない。ここでレヴィスちゃんにヘイト売っておけば俺は晴れて死ねるし、彼女も俺を殺して喜べる。お互いwin-winの関係になれるのだ。
そのためにもここで俺という明確な障害を教えてレヴィスちゃんのヘイトを買いまくれば、俺を強く意識してより強くなってくれるだろう。そのためにはまずレヴィスちゃんに俺の強さを認めさせなければならない。
─────さぁ始めようか、ここからが本当の戦いだ!!
レヴィスちゃん、サッカーしようぜ!! お前、ボールな!!
自身を圧倒した赤髪の女と対峙したアルの背中を見てアイズは勝ちを確信した。たしかに赤髪の女は強い、Lv5最上級の実力を誇るアイズを倒して見せた以上、その実力はLv6にも匹敵するだろう。
それでも、眼前の英雄には、15歳という若さでLv7に至った本物の英雄には及ばない。かつてアイズ以上に力を求めボロボロになりながらもあらゆる最速記録を打ち破った当時12歳の少年に神々がつけた二つ名は『
アルは決して無敗の英雄というわけではない、小竜に、黒いゴライアスに、『
幾多の敗北を糧として頂天へ上り詰めた、その男の力をアイズは誰よりも知っている。その敗北の過去を最も近くで見てきた者としてアル・クラネルの強さへの執念が赤髪の女に遅れを取るほど生易しいものではないとわかっている。
その安心感ゆえの余裕は次の瞬間、驚愕へ変わる。赤髪の女は神速の踏み込みで歪な刀身の大剣をアルへ叩きつけた。驚きは二つ、一つはその速さ。明らかにさっきまでよりも数段速い。
「(私と戦っているときは本気じゃなかった―――!! いや、それよりもあの剣は【
踏み込む前に地面から引き抜くように赤髪の女が持ち出したのだ。アイズが驚くのも無理はない。【
―――だが、驚愕に身を震わせたのは赤髪の女も同様であった。
「────ッ!!」
赤髪の女は自らの竜すら屠る一撃が受ける剣の角度を変えただけで簡単に防がれた事実に目を見開く。アイズからしてもそれは目を剥く神業だ。
アルの武器は新調したという漆黒の大剣、赤髪の女が振るうのは今しがた地面から引き抜いた
先の戦いの焼き増しのように数十の剣戟が交わされるが剣戟が続くにつれて赤髪の女の表情は険しくなっていき、少しずつ後退していく。
大きな得物と型にとらわれない自由な動き、とよく似た戦闘タイプの二人であるがその差は同タイプであるが故に浮き上がる。
力が、耐久が、敏捷が、経験が、何よりも技量が違う。
一手一手ごとに赤髪の女の間合いが死んでゆく。けして赤髪の女より早く動いているわけでもないアルの剣が少しづつ相手を掠める。そしてついにアルの攻撃が赤髪の女の身体を捉え始める。
一撃一撃に命を込めるかのような気迫の赤髪の女とは違いアルの所作は極めて静か且つ冷淡で少しずつ確実に命を削る剣鬼のそれだ。アルは赤髪の女の攻撃をいなしつつ少しずつ間合いを詰めていく。
一方、赤髪の女は攻撃に徹しつつも時折放たれるカウンターを警戒するあまり攻めあぐねていた。
ステイタスは【エアリエル】を纏ったアイズ以上であることからおそらくはLv6相当、いくらアルがLv7とはいえここまで一方的になるのおかしい。事実、Lv5のアイズも【エアリエル】ありきとはいえLv6相当の赤髪の女とある程度戦えていた。
その一方的展開の原因の一つはスキル【
・あらゆる技能の習熟が早まる。
・潜在能力(ステイタス)を限界まで引き出せる。
あらゆる技能の習熟とは当然、剣技や戦闘術も含まれ、それらはアビリティの成長と同じ速度で早熟している。
これまでその異常なまでの成長速度と重ねてきた無茶により各レベルアップ時の各アビリティランクはほとんどの場合、SSSランクという意味のわからないものであり、それら積み立てられたアビリティは数値に表れずとも確かに強さの基盤となっている。
このスキルはその積み立てられたアビリティを一切の無駄なく振るえるようになるものであり、身体能力任せの鈍獣にはならない。いかに高いステイタスでもただ怪力を振り回すだけではモンスターと変わらない、研ぎ澄まされた技量で振るわれるからこそ恐ろしいのだ。
赤髪の女からすれば自分以上の身体能力を持つ者が自分以上の技量を持ち合わせているのだ、絶望的だろう。その証拠に決して速くない速度で放たれるアルの斬撃を受け止めた赤髪の女の顔には畏怖の色がありありと浮かんでいる。
そして赤髪の女が攻めあぐねている理由はもう一つ。
「(殺気も魔力の蠢動もない、全てが静かで動きが全く読めん────ッ)」
敵として目の前にいるはずの男が少し目を離したら消えてしまうのではないか、そう赤髪の女に思わせるほどの所作の静けさ。
この動きの静かさの理由は───────ない。
本当にないのだ、スキルでも発展アビリティでもない。ただの才能の結晶である。効率化された機械に駆動音がないのと同じように極限まで無駄を排されたゆえにその動きにも魔力にも、一切のゆらぎはない。
かつて『静寂』の二つ名を持つ女がその生涯で唯一、自分以上の天才と認め、大神ゼウスに
その実力は、都市最強の一角とされるアイズですら届かない領域にある。
アルが赤髪の女の懐に潜り込む。赤髪の女が迎撃せんと大剣を振るうが、それを掻い潜ってアルは女の胸元に掌打を叩き込んだ。
回転が込められた一撃のあまりの衝撃に身体が宙に浮き、くるり、と空中で上下が反転する。ひっくり返った天地に藻掻くかのように手足で宙をかいたレヴィスの頭に容赦のない蹴りが打ち込まれ、レヴィスの身体は赤い残像だけを残して岩壁へ突っ込んでいった。
「
全身に浅くない傷を負い、息も絶え絶えな赤髪の女と、戦闘開始時と何一つ変わらないアル。勝負は決まった、そう言うが如きアルに赤髪の女は激昂する。
「─────ッ!! 舐めるなぁ!!」
赤髪の女の身体が震える。それは怒りか、はたまた畏怖か、次の瞬間、赤髪の女は地面を蹴る。そしてその勢いのままアルに斬りかかった。
怒りにより、限界を越えたその動きは傷だらけでありながら今日見せた中で最も鋭くなり、赤髪の女は勝負に出る。今までの攻防の中で最大の斬撃を繰り出すために重心を落とした構えを取り、渾身の力で階層主を一撃で葬りされるほどの破壊の一撃として振り下ろす。しかし、その一撃は虚空を切り──────。
「そりゃ、悪手だろうよ」
猛る赤髪の女の両腕に─────人界至高の刃が翻った。
誰の目から見てもそれは王手だった。両腕を失った剣士などカカシですらない。だが、赤髪の女―――レヴィスは人間でも剣士でもない。
「
両腕を
その花は花弁の一つ一つに牙のようなものが備わっており、獲物に飛びかかる蛇のように一斉に襲いかかってきた。
「待っていろ!! この私が、必ず!! 全存在をかけてでも貴様を殺す!!」
レヴィスは立ち昇る砂煙に紛れながらも聞くものの精神を押しつぶすほどの激情に満ちた怒号を残して去っていく。
「【
時間稼ぎか目くらましのためか暴れまわる
「―――ああ、本当に待ち遠しいよ」
その笑みを、アイズ・ヴァレンシュタインだけが見ていた。
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これとかベート話とかみたいな、視点増やすでもしないとあんま加筆できないのどうしよう。
公式チートから唯一の弱点を奪い、原作主人公の成長チートを付与したのがこの変態です