皆の傷になって死にたい転生者がベルの兄で才禍の怪物なのは間違っている   作:マタタビネガー

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IF最強のアルはフレイヤFのTSアルとアルフィア生存√のアルのツートップ


九十一話 過去最高瞬間風速エルフと今、一番熱いエルフ

 

『なに? 異端児を保護しただって?』

 

「ああ、スラムの近くでな。怪我をしていたから治療してやった」

 

 人の目がない貧民街の片隅にある廃屋の中で眼晶という通信型魔道具を使って何者かと会話しているアルの姿があった。

 

周囲には誰もおらず、廃屋の窓からは貧民街特有の悪臭漂う風が吹き込んでくる。

 

その廃屋内は椅子やテーブルなどの家具が全て撤去されていて殺風景なのだが部屋の中央だけは違っていた。

 

茣蓙が敷かれその上には大型級モンスターが横たわっている。少し前まで傷だらけだった巨体は今はすっかり回復しており、先程までは苦痛に喘ぐように荒かった呼吸も落ち着いていた。

 

『どうやってダンジョンから出たのか·······』

 

 通信型魔道具の向こうから響く中性的で歳も性別もわからない声の主は少し考え込むように沈黙する。

 

「で、どうする? 二メートル近い図体だ。隠してダンジョンに連れて行くのは難しいぞ」

 

 現在アルがいる場所は貧民街の廃屋であり、人の目がないためにこの場で異端児を保護することができたのだが、それもいつまでも続けられない。

 

アルの言う通りこの異端児の身体の大きさではダンジョンに連れていくことは不可能だし、連れていったとしても人目について騒ぎになるだろうことは容易に想像できる。

 

『バベルの入り口を使うには人の目が邪魔だな······』

 

『そうだな······よし。暫くしたらギルドにダンジョンへの入場規制を出させる。そうしたら目立たないように、既に潜っている冒険者に気をつけて彼を護送してくれ』

 

「あぁ、わかった」

 

 常日頃からウラノスの腹心としてアルに通信型魔道具を通してウラノスからの特別な冒険者依頼を秘密裏に伝えている声の主───フェルズはその任務を無事に遂行するであろうアルに労いの言葉をかけ、通信を終えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「落ち着いてください。まず、リヴェリア様からご説明があります」

 

 もうひとりは全体的に緑の配色の服装をした覆面のエルフだった。なぜかリヴェリアから逃げようとするフィルヴィスとフィルヴィスを引っ張り戻してきたレフィーヤに話しかける彼女はその佇まいからして、おそらく剣士だろう。

 

一見して華奢な線の細い身体は無駄を排した機能美を感じさせるものであり、しなやかな動きは隙のない洗練された戦士の動きだ。

 

顔全体を覆うように布を巻いているため、表情は窺えないがその声音からは落ち着きがあり、冷静沈着な性格であることが伺えた。

 

身体から何気なく沸き立つ魔力は魔導士としても超一級品であることを示し、レフィーヤはゴクリと息を呑む。

 

「あなたは···········24階層や18階層でお会いした覆面の?」

 

 おかしい、と内心でレフィーヤは呟く。もとより実力者であることは疑っていないが覆面のエルフの実力は【ロキ・ファミリア】の幹部陣と比べれば見劣りする第二級冒険者相当だったはずだ。

 

だが、今目の前にいるエルフの放つオーラは明らかにそれとは違う。それは純後衛であるレフィーヤですら肌で感じることが出来るほどに濃厚で研ぎ澄まされ、洗練されたもの。

 

間違いなくLv.5以上。以下はあり得ない。

 

いや、あるいは───。

 

「(アイズさんと同じ───)」

 

「彼女はお前たちと同じく、冒険者依頼を成功させてしまったエルフだ」

 

「させて、しまった············?」

 

 レフィーヤたちにとっては一度、共闘した仲でもある彼女はそこまで言うとリヴェリアの方を伺うように向いた。

 

「·············私から本題に入ろう。とはいっても、わざわざ来てもらって悪い話ではあるが·········」

 

 頭痛を堪えるようなリヴェリアの様子にレフィーヤは首を傾けるが、リヴェリアは小さく嘆息すると口を開く。

 

「まずここに私がいたことも、冒険者依頼のことも全て忘れてほしいが······そうもいかないか。あの依頼は私が『精霊郷』に行くと知ってロイマンが勝手に出したものでな」

 

「··········『精霊郷』? 御伽噺の舞台となった、あの?! あれは創作の筈では·······?」

 

 またも逃げだそうとしたフィルヴィスがレフィーヤに引きずり戻されながら疑問を口にする。

 

聖樹の逸話の舞台はエルフが精霊たちと住まう精霊郷とされてはいるものの、実際にその場所が実在するなど聞いたことがない。

 

創作の類だと思っていたのだが、しかしリヴェリアは首を横に振る。

 

「いや、『精霊郷』は実在している。私はそこに私用があって行くんだが············。あの男が、第一級冒険者一人でオラリオの外に出るのに難色を示してきてな。それで勝手に冒険者依頼を出したというわけだ」

 

「···········あ、つまり、お付きのエルフを雇うということですか?」

 

「それもある。が、一番はロイマンが外聞を気にしすぎていてな。この時期の精霊郷は地位の高い部族のエルフが多く訪れる」

 

「·······なるほど、ハイエルフを一人で旅に出したとすれば都市は礼節を疑われ、従者を雇う金もないと軽んじられてしまう、ということですね」

 

「そういうことだ」

 

 エルフという種族は良くも悪くも気品高い、それ故に必要以上に高いプライドや排他的な面を持つ者も多ければ、他種族に対して見下すような言動を取る者もいる。

 

自分たちにとって神よりも尊いハイエルフが雑に扱われるなど、実際にはそうでなかったとしても凄まじく気分を害すだろう。下手をすればオラリオを敵視する程に。

 

「あの男はいかにオラリオが優れているか喧伝するのに余念がないからな、一番は迷宮都市の権威云々を気にしてのことだとは思うが···。今回の冒険者依頼も『精霊郷』に集まった同胞たちの目に適う教養者を選ぶテストに過ぎん」

 

 呆れたように肩をすくめるリヴェリアはため息をついて続ける。

 

「冒険者依頼は認めてやった。が、これで義理は果たしただろう、これ以上ロイマンに振り回される必要もない。一応の礼儀として、依頼を成功させたものには私から直接事情を説明し、報酬を支払うのが筋だとは思ったが···········精霊郷の存在も、私が赴くことも内密に頼む。巻き込んで悪かったな」

 

「待ってください、お一人でいかれるんですか?!」

 

「危険です。道中に何があるかわかりません」

  

 そう言って軽く頭を下げるリヴェリアに恐れ多いと慌てながらも一人で行こうとするリヴェリアに二人は物申す。

 

フィルヴィスはリヴェリアの視界に入らぬよう、酒場の外まで退避してはいたが。

 

「いや、問題ない。魔導士ではあるが、私はLv.6。都市の外のモンスターが相手であれば万一にも遅れは取らない」

 

「───わ、私も行きたいです!! 冒険者依頼を通して資格が証明されたのなら、連れて行ってください!!」

 

「お許しいただけるなら、私も力及ぶ限り、お守りいたします」

 

「フィルヴィスさんも行かれますよね!! ハイエルフの御方を一人旅させるなんてエルフの名折れです!!」

 

 従者のごとく、静かに頭を下げる覆面のエルフといつの間にか割と強引なレフィーヤの手から逃れ、店の外にいるフィルヴィスにも同意を求めるレフィーヤ。

 

「くっ··········!! わ、わかった!! リヴェリア様をお一人で行かせるわけにはいかない!!」

 

「声が店の外から······? というか、いつの間に外に··········?」

 

「穢れた身ではありますが、私ごときでできることなら、何なりとお申し付けくださーぃ!!」

 

 店の外からも聞こえにくいが同行の意を示すフィルヴィスの声が届き呆れたような、あるいは感心したかのような声を漏らす覆面のエルフ。

 

「·········はぁ、まあいいだろう」

 

「やった!!」

 

「お聞き入れくださり、ありがとうございます」

 

「ありがたき幸せー!!」

 

「·········同行するというのなら、汚れているかなんだか知らんが、あの困ったエルフにも、私に慣れてもらわなくてはな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ドチビが攫われた、やって?!」

 

 ラキア王国の進軍を退け、クロッゾの魔剣を求める奸計も退けてから数日。もとより彼我の戦力差からラキア王国に一分の勝機もないことは分かっていた。

 

しかし、だからこそラキア王国軍にヘスティアが拉致されたという報告は予想外だった。

 

ギルドから緊急招集を受けたロキは頭を抱えたくなる気持ちを抑えながら声を張り上げる。

 

「あのおっぱいドチビめ、こんなときに要らん面倒事を持ち込んできよってぇ··········」

 

 オラリオを覆う市壁の北門では冒険者とオラリオを出入りする商人たちが慌ただしく動き回っている。有力派閥の主神や冒険者にはヘスティアがさらわれたことはすでに通達され、救出のための準備を整えている。

 

ただでさえクノッソスの攻略と闇派閥残党の始末に苦慮している今のタイミングで、とロキは苛立ちを募らせる。

 

「神ヘスティアを攫った王国の狙いはクロッゾの魔剣だろうね。彼女を人質ならぬ神質にすることで交渉を有利に進めようという算段かな?」

 

「おそらくな」

 

 ──────『クロッゾの魔剣』。

 

太古の時代にとある精霊をモンスターから助けた鍛冶師が打ったという精霊の力を宿した魔剣。

 

その鍛冶師の血を継ぐクロッゾの一族が神の恩恵を宿すことで隔世遺伝し、再び打てるようになった伝説の魔剣である。

 

通常、魔剣は詠唱を不要とする代わりにオリジナルの魔法を劣化させたものを撃つことができるのだが、このクロッゾの魔剣には精霊の力が込められているため本物の魔法と同等、あるいは以上の威力を発揮する。

 

その性能は通常の魔剣とは比べ物にならないほど高い。

 

かつて一族の者がその魔剣をラキア王国に売り込み、ラキア王国軍は圧倒的な火力と制圧力でありとあらゆる戦争に勝利して常勝神話を築き上げた。

 

しかし、その中で森や山を焼き払い、川の流れを変え、大地を干上がらせるなど自然環境を破壊してしまったせいで精霊の怒りを買い、国中の魔剣を破壊され、一族の者も魔剣を打つことができなくなった。

 

クロッゾの魔剣を失ったラキア王国の常勝神話が崩れ去った。

 

だが────

 

「ヴェルフ・クロッゾ、やったっけか?確か、元はファイたんのとこの」

 

 何故か、魔剣を打てなくなったはずの一族でありながら精霊の怒りを買う前のものと同じ魔剣を再び打つことができた少年がいた。

 

それが攫われたヘスティアの眷属であるヴェルフ・クロッゾ。

 

彼は望まずに一族の悲願であった魔剣の復活を果たし、その力を狙ったラキア王国は人質とするためにヘスティアを攫っていったのだ。

 

「早急に神ヘスティアを奪還しないと不味いな」

 

 ギルドがその要求に応えるにしても応えないにしてもヘスティアを人質に取られている以上、交渉の手綱はあちらにある。

 

応じなかった場合、ヘスティアと仲の良い神の派閥───鍛冶系大派閥【ヘファイストス・ファミリア】を含む───から反感を買ってしまう可能性がある。そうなれば最悪の場合、仲間割れにまで発展する可能性もある。

 

「···········ロキ、フィン」

 

「門を開けた神ガネーシャも悪気はなかったんだろうがな······」

 

「おおアイズ、アル。来たか、ティオナ達は?」

 

「俺等しか来てない」

 

 クノッソスの『鍵』の捜索のために奔走している幹部陣の中で最寄りにいたアルとアイズが駆けつけた頃には既に門の前には多くの冒険者が集まっていた。

 

「あ、あの、神様が攫われたって本当ですか?!」

 

「········せや、アレスのバカに攫われてもうたわ」

 

「そんな······」

 

 その中にはヘスティアの眷属であるベルの姿もあり、ロキの言葉を聞いて顔を青ざめさせて愕然とする。

 

「神様は今どこにいるんですか!?」

 

「分からん。ラキアの連中は東西南北の四方八方に逃げてるらしい。まあ、追跡を撒くために分散してるのは間違いないやろうな」

 

「そ、それじゃあ、このままだと········」

 

 ラキア王国軍はヘスティアのいる本隊への追跡を撒くために部隊を四つに分けて四方に散り散りに逃げている。

 

延べ六度に渡る敗走によりオラリオから本国への逃走ルートを熟知している彼らはその地形を利用した巧妙な逃げ方をしているため、そう簡単には見つけられない。

 

むしろ、オラリオの市壁内に閉じこもっている冒険者たちよりも外に逃げたラキア軍のほうがオラリオ周囲の地理に詳しいまであり、捜索範囲を広げても徒労に終わる可能性が高い。

 

「·······とりあえず、俺行ってくるわ。アイズ、お前はどうする?」

 

「私も行く」 

 

 混乱しているベルを落ち着かせるように肩を叩いてからアルが前に進み出てアイズはそれに続く。

 

「まあ、俺が行くのが一番早いからな。アビリティで見落としもないし」

 

 機動力においてアルの右に出るものはいない。特に今回は相手側に地の利がある分、広範囲の索敵ができる直感のアビリティの存在は大きい。

 

「ぼ、僕も行かせてください!!神様を追います!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「その、風貌。まさか··········『疾風』か?」

 

「··········そういう貴女は『白巫女』。確か、アルとパーティを組んでいたとか」

 

「··········ああ、私もお前の話はクラネルから聞いたことがある」 

 

「「···························」」

 

「(────────空気が、重いっ!!)」

 

 『疾風』リュー・リオンと『白巫女』フィルヴィス・シャリア。片や第一級冒険者、片や第二級冒険者とどちらも冒険者として極めてすぐれた実力を持ち、エルフらしい美貌に恵まれた女傑である。

 

だが、そんな二人の間に流れる空気は非常に重苦しいものだった。

 

二人とも種族として潔癖なきらいのあるエルフ故なのかどちらも対人関係においてポンコ··········些かコミュニケーション能力に乏しかった。

 

ギクシャクとした様子の二人の会話はどこかぎこちなく、そして非常に気まずい。

 

そのどちらもが、『闇派閥』によって仲間を失い、自分だけが生き延びてしまったという過去を持つエルフだからだろうか。

 

二人の間はある種の同族嫌悪のようなものか、それとも共通の知り合いであるアルによるものか、険悪とまでは言えぬものの、あまり良くない空気が漂っていた。

 

「(助けて·······ティオナさん·········)」

 

 その向かい合う二人の空気に直面したレフィーヤはいつぞやと同じように心のなかで嘆きながらどんなに気難しい相手でも、胸襟をこじ開けるコミュ力おばけのティオナの助けを強く求めるのだった。

 

「何を遊んでいる。行くぞ、お前たち」

 

 

──────────────────────────────────────────────────────────────────

 

アルがフェルズとかと繋がるようになったのは第一級冒険者になってから

 

リューは現時点でLv.6です

 

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