皆の傷になって死にたい転生者がベルの兄で才禍の怪物なのは間違っている 作:マタタビネガー
「そろそろ、『精霊郷』だ。··········何を騒いでいる?」
「「「はッ···········!! 申し訳ありません(すみません)、何でもありません!!」」」
精霊の住まう『精霊郷』まで間近となり、護衛そっちのけで騒いでいる三人へリヴェリアから注意が飛んできた。
「あまり騒々しいと、精霊の気分を害しかねない。森に入るまでに気分を落ち着けておけ」
「「ハッ!!」」
「は、はいっ。気をつけます!!」
軍隊のように揃って返事をするフィルヴィスとリュー、慌てて声を張るレフィーヤ。
わかってねえなあ、という嘆息を漏らしながら進むのを再開したリヴェリアの背後で多少、頭の冷えたエルフ達の談合が再開する。
リヴェリアに聞こえないように声を潜めるエルフ達。茹だった頭も少しは冷静さを取り戻したようだ。しかし、やはりというべきか、話題の中心は先程のレフィーヤの発言についてだ。
から先程のリヴェリアの忠告がすっかり抜けてしまう。
「(それで、レフィーヤ。本当にリヴェリア様の想い人は···········ク、クラネルなのか?!)」
「(い、いや。只の私の予想ですから············)」
だが、実際、異種族であることにさえ目を瞑ればアルとリヴェリアはお似合いといえなくもない。
中年ショタや髭ドワーフとは違い、背が高く容姿端麗で変なスイッチが入らない限りは英雄然、騎士然としたアルと一族の誇りたる美姫であるリヴェリアの組み合わせはとても絵になるといえよう。
常日頃の言動もその並外れた力故か、多少常人とはズレているものの、それは許容範囲。むしろ、そこが良いというファンもいるらしい。
ハイエルフの伴侶に求められる品性も普段のアルならば十分過ぎる程に備えている。
あれで割と家庭的だし、料理もできる。掃除も、洗濯も、裁縫も、ちょっと気持ち悪いくらいできる。
最強の魔導師であるリヴェリアと最強の前衛であるアルは戦闘においても相性が良い、理想の関係だ。
なによりアルは真に救世の英雄であり、数年前に
比喩でない、救世の大偉業を成し遂げたアルだからこそリヴェリアと並び立っても違和感がない。
神を撃ち落とす、その偉業は世俗に疎い閉鎖的なエルフの耳にも届いているほどだ。
かの聖女セルディアも史上最強とも目される大英雄、傭兵王ヴァルトシュテインと恋仲であったという逸話もある···············敬虔なエルフからすれば憤慨も甚だしいが。
排他的で他種族のものを見下すきらいがあるエルフの者とて相手が押しも押されもせぬ大英雄であればヒューマンといえど、そこまでの反発はできないだろう。
「(ですが、他に候補となる方もいないのでしょう? ···········しかし、仮にそうだとしても、どうすれば真相を確かめることができるのか········)」
「(·········それは)」
「(·········やはり、『霊薬実』を何処の誰にお渡しになるのか直接お聞きするしか·······)」
そして、結局そこに行き着く。いくら論じようともその相手がアルかはわからない。それなら、本人に聞いてしまった方が手っ取り早い。
「なっ!? それは不敬では!? 貴人の恋路を暴くなど赦されることではない!!·······いや、だがしかし、そうでもしなければ確かめられない·········」
フィルヴィスの言葉にリューも考え込む。確かに、それも一理ある。ハイエルフであるリヴェリアの恋路を詮索するなど許されることではないが、その予想される相手はあのアルだ。
その実力は疑うべくもなく、人格や人間性も問題ない。少なくともリヴェリアの恋慕を無下にすることはないはずだ。
しかし、アルが世間一般の倫理では測れない問題人物でもあるのもまた事実。
下衆の勘繰りと謗られるかもしれないが、万が一、億が一の可能性を考えるのであれば、その真偽は確かめるべきだ。
エルフの誇りであるハイエルフがまさかあのイカれた白髪頭を相手に恋心を抱くはずはないと理性では思うのだが、感情を無視することはできない。
「不敬だということは重々承知の上だッ!! だが、知らずにいられんのだッ!! もし、万が一···億が一、リヴェリア様の想い人がクラネルだとしたらッ!!」
「ッ···!! そ、そうです、我々には知る義務があるッ!!」
「ありませんよッ?!」
レフィーヤのツッコミも届かず、フィルヴィスとリューの暴走は止まらない。
一度、激情に駆られたエルフはもう誰にも止められない。
二人の脳裏に浮かぶのは、アルとリヴェリアが並んで歩く姿。手を繋ぎ、腕を組み、寄り添うように歩む二人はとても絵になり、祝福するエルフ達の姿まで想像できてしまう。
そんな光景を思い浮かべてしまっては、フィルヴィスもリューも居ても立ってもいられなかった。
口の中が血の味がするほど歯を食い縛り、拳を握る二人。
頭の茹ったエルフ二人には制止するレフィーヤの言葉も届いていない。
「リヴェリア様の想い人を突き止···いや、確認するべきです」
「いや、だから······」
冷静沈着な妖精剣士のリューまでもが普段とはかけ離れた剣幕で詰め寄る。
レフィーヤは困り果てた。
レフィーヤからすればリヴェリアとアルが恋人同士になろうがなるまいが知ったこっちゃない。
師であるリヴェリアはもとより、アルも同期として尊敬している。
レフィーヤはリヴェリアとアルのどちらとも大切だと思っているし、二人が幸せになってくれるのであれば、それが一番良い。
さっきは年頃の乙女らしく親しい相手の恋沙汰に興味があっただけで別に本気でアルとリヴェリアが付き合っているなんて思っていない。
確かに要素だけを挙げていけばアルとリヴェリアの相性は割りと良さそうな気もするが、あくまでそれは、そういう可能性もあるという話でしかない。
「レフィーヤ、わかってくれ。我々はリヴェリア様のお幸せを何よりも願っている。それがクラネルでもそうでなくとも構わない」
「だが、それとこれでは話は別なのだ。たとえ、この身が砕け散ろうとも、真実を突き止めねばならない」
「えっと······」
特に必要のない覚悟を瞳に宿すエルフ達に、レフィーヤは言葉を失う。冷静さの欠片も感じさせない様子は最早、狂気の域に達している。
一体、どうしてこんなことになったのか、とレフィーヤは頭を抱えたくなる。だが、ここで止めなければ本当に実行に移しかねない勢いだ。
どうしたものかと考えあぐねていると。
「お前たち、いい加減にしろ」
「「·············はい」」
精霊郷での儀式を聞きつけたテイマーの強盗達によって精霊郷が襲撃されるハプニングこそあったが闇派閥でもないオラリオ外の野盗が第一級冒険者二人と第二級冒険者二人の相手になるわけもなく撃退でき、大聖樹に火がつくという大事件も精霊と心を通わせたリヴェリアの活躍によって解決したのだった。
「そ、そのリヴェリア様···············『霊薬実』は、どなたに渡すんですか?」
「なに?」
「いっ、言いづらいことなのはわかっています。もちろん、私もフィルヴィスさんたちも絶対に口外はしません。ですから··············。こっそり、その············、リヴェリア様の想い人を·············」
長老たちから大聖樹に実った『霊薬実』を受け取った帰り、四人は【ロキ・ファミリア】ホーム一室にいた。レフィーヤについてきた二人はブンブンと頭を縦に振り、レフィーヤ自身もアル関係なしに師匠の恋沙汰に興味あるようだった。
「·······なるほど、そういうことか(確かに『霊薬実』は、恋が成就するとされる秘薬でもあったな)」
たしかに、リヴェリアが『精霊郷』に赴き、受けたくもないハイエルフ扱いまで受けた理由は『霊薬実』だ。だが、あくまでも『恋が成就する』なんて効力は『霊薬実』について回る逸話でしかなく、その本来の価値は霊薬としての高い効能だ。
それこそ、伝説にうたわれるほどであり、事実『大聖樹』の実たるその果実は万能薬といってもいい力を秘めている。リヴェリアがそれを求めたのは古くから自分を知る旧友のためであり、ある意味では『想い人』と、言えなくもない。
「············いいだろう、口外しないと誓えるのであればお前達だけには明かそう(散々、騒いでいたのはそれか·······少し、からかってやるかな)」
その『想い人』の名はアイナ・チュール。自分の知らない世界を自身の目で見たい、という思いから王族の身でありながら里を飛び出してしまったおてんば姫を見放さずについてきてくれた元従者であり、唯一無二の親友である。
今はヒューマンの男性と婚姻し、娘をもうけている。だが、里の外の環境とは水が合わなかったのか、年月が経つにつれ不調が目立つようになっていた。
その不調をわずかでも和らげるためにリヴェリアは万能薬としての力を持つ『霊薬実』を求めたのだ。
「ほ、本当ですか、やったあ!!」
「「あ、有難き幸せっ!!」」
「············その想い人は私のすべてを知っている」
まあ、そんなことでリヴェリアからすれば恋の成就などという不確かな逸話などかけらも気にしてはいなかったのだが、自分がハイエルフだということを度外視しても面白いぐらいに食いついてくるレフィーヤ達に些かイタズラ心がわいたリヴェリアは、どこか嘆願するような二人の視線の意味に気がつかずに意味深な言い方をする。
「す、全て··········」
レフィーヤもフィルヴィスもリューも、リヴェリアの言葉を聞いてゴクリと生唾を飲み込まずにはいられなかった。
そして、リヴェリアは静かに語り出す。その想い人のことを。
「笑った顔も、怒った顔も、泣いている顔も·············寝顔まで、な」
「寝顔っ?!」
「ああ。寝所を共にすることもあったからな··········。というか、私が頼んだ、人肌恋しくてな」
「えっ、ええぇ········っ」
「「─────きゅう(失神)」」
立ちながら静かに気絶した二人に昔を懐かしむリヴェリアも尊敬する師匠の恋沙汰に興味津々なレフィーヤも気がつかないのか、すでに満身創痍の二人を後目に爆弾が次々、投下されていく。
「当然、抱擁をかわしたことも··········」
「ほ、ほ、ほっ、抱擁········?!」
「あぁ。湯浴みをともにすることもあったか··········」
「「─────ウッ(脳破壊)」」
当然、アイナ・チュールは女性なのでなんの問題もないのだが、かろうじて意識を取り戻した絶賛誤解中のフィルヴィス達からすれば脳が破壊されるような衝撃だった。
それはもう、二人のエルフにとってまさに天変地異に等しく、この場にハイエルフ過激派の敬虔なエルフがいれば憤死していたかもしれない。
「お、おふっ········お風呂·······。ウソ·········そんなあ··········· 」
「お互いの背に湯をかけ、髪を洗いあった。ふふふ、懐かしい」
レフィーヤはリヴェリアとアルの関係が師弟関係だというのは知っているが、まさかそこまで進んでいたとは思っていなかった、と愕然とする。
「··············じょじょじょ冗談ですよね? リヴェリア様が·····そんな破廉恥な···········殿方とそんな·········私達のリヴェリア様··········」
「「─────ブクブク(白目剥いて泡吹いてる)」」
自分達のアイドルであるリヴェリアが男性、それも同期と混浴していたということに半分、涙目のレフィーヤともはや理解を拒み、夢の世界へ旅立ったフィルヴィス達。
まさか、そのような誤解をされているとは知る由もないリヴェリアはそんな妖精達の様子に気がつくことなくからかうのを続ける。
「あとはそうだな·············いや、これは流石に言わないほうがいいか」
「なっ、なんですか?! ナニをしたんですか?!」
まるで、初恋を語る乙女のようにかつての思い出に浸り、頬を赤らめるリヴェリアの姿にレフィーヤはあわあわと慌てる。
「いいのか? 聞いたら最後、あとには戻れなくなるぞ?」
「なんですか、それっ?!」
「それだけの覚悟が必要ということだ。お前たちの意思が硬いのなら、私もそれに応えよう」
「ま、まままままっ、待ってください!! まだ、心の準備が·······」
同衾、抱擁、混浴に加えてそれ以上───?! それは、初心な乙女エルフであるレフィーヤからすれば想像もできないとんでもなくピンクなことなのでないか、と熱暴走気味のレフィーヤの頭が沸騰寸前でパンクしそうになる。
リューはもはや息をしていないし、フィルヴィスは顔を真っ青にしてガタガタ震えていた。
「いや·········こういうことは勢いで言わせてくれ。でなければ、私も臆してしまう」
茹だりきったレフィーヤ達の目からは恥じらうリヴェリアの姿が恋する乙女であるかのように見え─────。
「い、───」
「その相手は─────ア」
「いやああああああああああああああああああああ───ッ」
「「─────(爆走するレフィーヤに失神しながら引きずられてる)」」
その先を聞く勇気を持てなかったレフィーヤはLv.3の上級冒険者としてのステイタスをフルに発揮し、抜け殻となっている二人を引っ張りながら逃げるようにリヴェリアのもとから去っていた。
「─────────イナという昔馴染みなのだが················。はぁ、行ったか、これに懲りたらハイエルフへの野次馬根性を控えてほしいが···········まあ、誤解を解くのは少し経ってからにするか」
この場をアルが見ていたら内心でこう言っていただろう。
──────エルフ、ってポンコツ種族なのでは?
「同衾··········抱擁···········混浴···········それ以上··········ウッ」
「ああっ、フィルヴィスさんがまた卒倒してしまいましたっ!!」
「気をたしかに!! 気持ちはわかりますが、まずは現実を受け止めなくてはいけない。そう、リヴェリア様がアルと同、ウッ」
「ああっ、リオンさんがまた失神しましたぁっ!」
「─────お二人共しっかりしてくださぁいっ!!」
◆◆◆◆◆
しばらくして正気に戻った三人は近くのカフェに入り、リヴェリアからの爆弾投下の嵐について談合していた。
リヴェリアの口から語られたのはどれもこれも衝撃的なことばかりで特に異性とのお風呂など経験のないレフィーヤにとっては刺激が強すぎた。
「リ、リヴェリア様はアルさんが入団してしばらく、教育係をなさっていたと聞きます。その延長では··········?」
「バカなッ、どこの世界に教え子と混浴する教育係がいるんだ!!」
「それは·······そう、ですが」
種族として潔癖な傾向にあるエルフにとって混浴はあり得ないことだった。ましてや、ハイエルフであるリヴェリアが異性と混浴したなどという話は信じられない。
敬虔なエルフ達がもしそれを聞けばリヴェリアが穢されたと思い込み憤死することは間違いないだろう。
だが、しかし、あのリヴェリアがそのようなことをするだろうか?
弟子として常日頃からリヴェリアを間近で見ているレフィーヤにはどうにもそれが真実だと思えなかった。
いや、だが、当の本人から直接聞いたのだから事実なのだろうが。
「教育係といってもクラネルが【ロキ・ファミリア】に入ったのは四年前、その時はまだ11か12歳だぞ?! 当然、ハイエルフであられるリヴェリア様は既に成人だ!! 異種族間の年の差は致し方ないが、流石に············」
流石に三桁に届いてはいなかったであろうが、ヒューマンの尺度で言えば老婆といっていい年嵩であるリヴェリアと、当時まだ12歳だったアルができていたなど信じられる話ではない。
しかも、当時はアルも成長期に入る前でかなり小さかった。女性にしては長身なリヴェリアとの体格差もかなりあったはず。
レフィーヤからしてもその絵図は犯罪臭しか感じられなかった。
もっと小さければ混浴していても話は別だが、12歳となると妙にリアルすぎて直視できない。
本当にそうだったとしたら自身の三分の一の年齢の少女に縁談を申し込んだ某、中年ショタよりも罪深い。
最高幹部の三分の二がそういう趣味だとしたら残るガレスが気の毒すぎる。
そんなレフィーヤの心境を察してかフィルヴィスが言葉を引き継ぐ。
レフィーヤよりは長く生きている分、フィルヴィスの方が幾分理知的であった。
ちなみに、フィルヴィスは先程までショックのあまり泡を吹いていたが、今はなんとか持ち直しつつあった。
「────はッ!!」
「ど、どうしたッ?! 『疾風』?!」
半分、夢の世界に出張していたリューは唐突に何かを思い出したかのように目を見開き、椅子から立ち上がる。
「輝夜········昔の仲間から聞いたことがあります。極東の地には自分が慕う年下の人物を自分にとって理想的な大人に育てようとする計画を題材の一つとした昔話があるとかッ!!」
ここにフィンやガレス、ロキなどがいれば「いや、そんなわけ無いだろ」と言うだろうが、ざんねんにもここには頭の茹だった三人のエルフしかいない。
「あっ!! それ私もロキから聞いたことがありますっ!! 本来は男性が年下の女性にするものらしいですけど、その逆もあるって··········!! そ、そういった際は··············『逆光源氏計画』、そう呼ぶらしいです」
リヴェリアに助走つけてブン殴られても仕方ない侮辱であったが、残念なことにこの場にいるのはポンコツエルフ達だけである。
つまり、この場において三人の盛大な勘違いを修正する者は誰一人いなかった。
「「ぎゃ、『逆光源氏計画』·············!!」」
当のアル本人がオラリオを不在としていたこともあり、その誤解が解かれることはなく。他言しないという約束は守ったもののあまりに挙動不審が目立つレフィーヤをロキが、リューにはシルが誘導尋問をしたため、リヴェリアとアルができているという噂はあっという間にオラリオ中に広がったのだった。
そして、当のアルがベルとアイズとともにオラリオに帰るとオラリオ中のエルフがアルを殺意半分好意半分の瞳で見てきたという。
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珍しく何一つとして悪くないアル