皆の傷になって死にたい転生者がベルの兄で才禍の怪物なのは間違っている   作:マタタビネガー

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九十四話 オラリオでもっともモテるエルフとヒューマンの熱愛報道

 

 

 

 

 

 

天然の要害とも言えるベオル山脈を越えることはオラリオの冒険者であっても容易ではない。

 

「雨、か·······」

 

 ましてや今の天気は雨、険しい山越えでは体力を奪われてしまう。オラリオの冒険者といえど散り散りに別れた部隊の中から本隊を探し出すのは至難の業だろう。

 

こちらは身を隠す場所が多くあるため捜索隊に見つからなければ逃げ切れるはずだ。

 

ラキア王国軍本隊の副官であるマリウスは雲に覆われた空を見て呟いた。

 

彼の部下である騎士団員たちも疲れの色が見え始めており、この天候の中での移動は厳しいものの今のうちに進まねばならない。

 

ラキア王国の精鋭である彼らにとって悪天候などさほどの障害とはならないが、それでも進軍速度は落ちざるを得ない。

 

「マリウス様、移動を止めてアレス様が雨を凌げる場所で休息を取った方がよろしいかと·······」

 

「·······いや、万一にもオラリオの冒険者に追いつかれぬように北の国境までは進んでおきたい」

 

 「それにあの馬鹿神は風邪引かないから問題ない」と付け足したマリウスの言葉を聞いた騎士たちは苦笑を浮かべるしかない。

 

全知零能であるアレスはともかく、Lv.1の一般騎士であろうと神の恩恵を受けた神の眷属の防病能力は雨に晒された程度ではびくともしない。

 

できるだけ早く帰国するためにも今は進むべき時だと判断したマリウスの判断は正しかった。

 

だが───。

 

「·········あれは、鳥か?」

  

 マリウスの視界の端に白い何かが映った。雨の中にあって微かに見えた明らかに意志をもって飛行している物体を捉えた彼は怪しく思いながらも目を凝らす。

 

Lv.3のステイタスを持つマリウスの視力でなければ捉えられないでいただろうそれは、確かに空を飛ぶように飛んでいた。

 

旋回を繰り返す白い翼を広げて飛ぶ姿に怪訝な表情を浮かべるマリウスだったが、その疑問はすぐに解消されることになる。

 

次の瞬間。

 

「けっ、『剣聖』だぁあああああああああああああああああ────ッ?!」

 

 後方から悲鳴にも似たつんざくような声が上がった。マリウスが慌てて振り向くとそこには直角に近い岩壁を駆け上ってくる白髪の男の姿があった。

 

雨が彼を避けているかのように水滴が散って揺蕩っている。目にしただけで彼我の生物としての格の差を思い知らされる圧倒的な存在感。

 

大気が揺らいでいるかのような錯覚さえ覚える程の覇気。

 

「敵襲!!総員抜刀!迎え撃てぇーっ!!」

 

 マリウスが咄嵯に叫ぶと、待機していた騎士団員たちが即座に武器を構えて迎撃態勢に入る。

 

しかし既に遅い。

 

直後、白い軌跡を残して白髪の剣士が飛び込んでくる。振るわれた斬撃に反応できた者は皆無だった。

 

神速の一閃によって先頭にいた十数名が瞬く間に斬り伏せられ、返す刃で紙屑のように薙ぎ払われる。

 

「け、『剣姫』もいるぞぉおおお────っ!!」

 

「?!」

 

 視界の端で金色の軌跡を見たマリウスは冗談だろ、と内心で吐き捨て

る。白髪の剣士に続いて岩肌を疾走してくる金髪の少女。

 

金色の瞳に苛烈なまでの戦意を乗せて迫り来る彼女を止める術は騎士達には無い。

 

オラリオが誇る第一級冒険者が二人。どちらか片方だけならば勝つことは不可能でも騎士たちに時間稼ぎをさせてアレスだけでも逃がせたかも知れなかったが二人同時に相手をするとなると絶望的だ。

 

銀と金の斬撃の渦が荒れ狂い、大地を穿ちながら吹き荒ぶ。神速の太刀筋に対処できる者は誰一人として存在しない。

 

オラリオ最強のファミリアに所属する二人の猛攻に騎士団の精鋭達は為す術も無く蹂躙されていく。

 

「ベル君···········!!」

 

 二人の第一級冒険者が切り開いてくれた道を通ってナイフを逆手に持った少年が自らの女神の元へ火雷のように突っ込んだ。

 

並外れた敏捷で騎士達を素通りしてヘスティアの目の前まで迫った少年を遮ろうとした騎士にヘスティアが押されて崖から転落する。

 

「······あ」

 

「神様ッ?!」

 

 ヘスティアはベルに手を伸ばしながら渓谷の底へ落ちて行ってしまった。一瞬の静寂の後、ベルの絶叫が響き渡る。

 

激流のような滝壺に落ちていったヘスティアを助けるためにベルは跳んだ。

 

空中で身を捻り、体を反転させ、岸壁の縁へと着地するとそのまま躊躇無く断崖絶壁を下っていく。

 

凄まじい速度で落下していくヘスティアの体を捕まえると抱えるように抱き締め、ベルは背中から激流に落ちた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「この包みをアイナへ頼む。いつもすまないな」

 

 『精霊郷』から帰ってきて数日、都市を不在としていた間の業務はロキに投げられたアルが白目を剥きながらほとんど片付けていたため、急務に追われることもなかったリヴェリアはアイナ宛の手紙と『霊薬実』を持ってギルドへ赴くことにした。

 

ここ最近は多忙を極めており、エイナになかなか会いに行くことができなかったため、久しぶりに顔を見たかったというのもある。

 

「こちらこそ、ありがとうございます。母も喜びます」

 

 渡す相手はエイナ・チュール。リヴェリアの親友であるアイナの娘であり、ギルドの受付嬢をしているハーフエルフの少女だ。

 

都市外に出ていた第一級冒険者として『精霊郷』での出来事を報告するついでにアイナへの贈り物を渡そうと訪れたのだ。

 

「万病の薬となる霊薬··········これがアイナの病を癒やしてくれるとよいのだが」

 

 エルフと精霊達と友愛の証として霊樹に実った果実。万能の霊薬とされるそれをリヴェリアはアイナのために持ってきたのだ。

 

「きっと癒えますよ。リヴェリア様の献身が、母にとって何よりの良薬でしょう」

 

 メレンや『精霊郷』などの例外を除けば、第一級冒険者であるリヴェリアがオラリオの外に、アイナに会いに行くことは難しい。それ故に娘であるエイナに託したのだ。

 

「そうか············。今度はアイナとともに『精霊郷』へ行きたいものだ」

 

「私もご一緒させていただいても?」

 

「無論だ。お前も共に来るといい、妖精と精霊の絆がつながる場所········魂の故郷へ」

 

 自分とアイナとエイナ、その三人で見る大聖樹はきっとなにものより美しいだろう、とリヴェリアは微笑んだ。

 

 

 

 

「あ、あの、リヴェリア様·······ちょっと、お聞きしたいことが········」

 

 荷物を渡してしばらくとりとめのない雑談をしているとエイナは恥ずかし気に問いかけてきた。

 

「ん? 何だ、言ってみろ」

 

「し、しかし、こんなことリヴェリア様に聞いていいのか······」

 

 しどろもどろになりながら恥じるようにこちらを見るエイナ。普段は凛としているエイナが珍しく頬を赤らめてモジモジしている姿にリヴェリアは首を傾げる。

 

腫れ物に触るようでも、どこかショックを受けているかのようでもある視線。

 

────いや、そうだ。

 

このエイナの視線には覚えがある。ここ数日、アリシアたちから向けられていたこちらを伺うようなものと同じだ。

 

そして、よくよく見てみれば、何人ものエルフの受付嬢達がさり気なくエイナの問に耳を傾げている。

 

どうやら、リヴェリアと個人的つながりがあるエイナがエルフ達に頼まれた質問のようだが········。

 

心当たりは·············ない。

 

ハイエルフ故に同朋の視線を集めるのは常のことだが、このようなことはこれまでになかった。アリシア達を問い詰めても気まずそうな顔ではぐらかされるだけ。

···········いや、ロキやガレスの視線のがキツかった。

 

そう、あれはまるで、親子以上の年の差のある遥か年下の少女に縁談を申し込んだことが露見したフィンを見るような──────。

 

「た、大変不躾な質問だとは思いますが············その·············」

 

 凛とした表情を崩さないエイナの顔は今や真っ赤に染まっていた。普段の彼女を知る者が見れば驚くであろうその様子は、リヴェリアが知る限り初めてのもので、彼女がそれだけ勇気を振り絞っているのがわかる。

 

一体、何を聞かれるのだろうか。

もしかしたら、自分のあずかり知らぬところで何かしら問題が発生してしまったのかもしれない。

 

「構わん、さっさと言え」

 

「は、はいっ···········リヴェリア様がクラネル氏·······アル・クラネル氏と、その···············こ、こっ、こっ、こっ」

 

「(こっこっこっ?·········ニワトリのマネか?)」

 

 母の知性を遺憾なく引き継ぎ、年齢の割に落ち着いているエイナにあるまじき動揺。それほどのことなのか、とリヴェリアもゴクリとつばを

飲む。

 

「クッ、クラネル氏と恋仲というのは、ほ、ほんとうなのでしょうか?」

 

「─────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────」

 

 エイナの言葉にリヴェリアの時が止まった。

 

 

「······························································································································································································································································································································································································································は?」

 

 数秒して再起動したが、依然としてリヴェリアの脳内は大混乱の真っ最中だ。────エイナガナニヲイッテイルノカワカラナイ。

 

「すっ、すみません!! や、やっぱりこういったことを聞いちゃいけませんよねッ!!」

 

 頭を下げながら走り去るという器用な真似をしながら遠ざかるエイナの姿を見ながらリヴェリアは混乱の極致でショートした脳をどうにか動かして思考する。エイナの言ったことが理解できない。

 

いや、理解できるのだが納得ができない。ギルドに来るまでもエルフ達の熱視線は絶えなかった。ギルドやファミリアではない者たちも、知っているのだろう。

 

アリシア達がこの噂?を自分に言わなかったのはハイエルフである自分の情事に口を挟むのを躊躇ったのと事実を確認するのを恐れたからだろう。

 

だが、それはリヴェリアにとっては最悪と言ってもいい。

 

·············まさか、既にオラリオ中に広まっているのでは?

 

当事者であるアルはタイミング悪くオラリオ外に出ており、自分はハイエルフゆえの周囲の配慮により今の今まで知らなかった。

 

·············それはつまり、ここ数日。誰一人として噂を否定できるものがいなかったということだ。しかも、当人であるリヴェリアはつい先ほどまでそのことを知らずにいた。

 

これはマズイ。

 

非常に、マズイ。

 

ロキやガレスの向けてきた視線からあの二人ですら半信半疑······否、恋仲だったのだと信じているのだろう。

 

·······だが、なぜあの二人は信じた?根も葉もない噂を信じる二人ではないし、たちの悪い嘘だと思えば自分に確認に来るはずだ。

 

それをしなかったということはその噂の発生源はあの二人をして信頼できる相手ということとなる。フィン········いや、違う、フィンには噂を流すメリットがないし、フィン自身、自分に生暖かい目を向けてきた。

 

他に私と近い人物、アリシアや他の団員たちもわざわざそんな嘘を流すわけがないし、あるとするならその団員自体が自分とアルの関係を勘違いしているということになる。

 

だが、誰だ?

 

自分の情事について何か、勘違いをしており、ガレス達並に私と親しい相手、そんな者···················。

 

──────そ、そのリヴェリア様···············『霊薬実』は、どなたに渡すんですか?

 

──────いっ、言いづらいことなのはわかっています。もちろん、私もフィルヴィスさんたちも絶対に口外はしません。ですから··············。こっそり、その············、リヴェリア様の想い人を·············。

 

──────ほ、ほ、ほっ、抱擁········?!

 

──────お、おふっ········お風呂·······。ウソ·········そんなあ···········。

 

──────··············じょじょじょ冗談ですよね? リヴェリア様が·····そんな破廉恥な···········。殿方とそんな·········私達のリヴェリア様··········。

 

──────いやああああああああああああああああああああ───ッ。

 

「························································································································································································································································································································································あっ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「神様っ、神様ぁ·······!!」

 

 神様を担ぎながら渓谷の川沿いを必死になって走るが、背負っている身体が冷たくなっていくのを感じる。

 

冷水に晒されて体温を奪われているのだ。川に落ちた時に頭を打ったのか意識は無い。いくら問いかけても返ってくるのは弱々しい呼吸音だけだ。

 

自分の鼓動が嫌になるほどうるさく聞こえる。こんな時に限って僕は無力だ。神様を助けられない自分が情けない。

 

「早くどこか安全な場所を見つけないと······」

 

 ベオル山地を抜ければオラリオに帰れる。そうすれば治療だって受けられるはずだ。まずはどこか休める場所を探さないと······。

 

幸いにもモンスターの姿は見えない。もしかしたらこの雨のせいで普段よりも大人しいのかも知れない。

 

雨粒が容赦なく僕達の身体を打ち付ける中、それでも走り続けて雨風を凌ぐことができる場所を探す。

 

「··········アルの魔法(レァ・ポイ二クス)で治せないの?」

 

「昔はできたんだが·······今はもう、『神』に対しては無理だ、俺の魔法は()()()に接しかねない。·········まして『不滅の火』をつかさどる神相手じゃな」

 

 並走するアイズさんと兄さんの会話が耳に入る。つまり兄さんの魔法では神様の体調を癒やすことは叶わない。

 

まずは暖を取らなければならない。魔法で着火はできても濡れていない薪がなければ意味が無い。辺りを見渡してみるものの、手頃な大きさの木片や枯れ枝など落ちていなかった。

 

この雨と崖からの落下で現在地が分からない。だいぶ流されてしまっているようだ。とにかく急がないと神様の命が危ない。

 

焦燥感と不安が胸中で渦巻く。

 

度々襲ってくるモンスターはアイズさんと兄さんが蹴散らしてくれているが、一向に雨脚が衰える気配はない。

 

このままだといずれ神様に体力の限界が来る。せめて雨宿りができる場所さえ見つかれば······。

 

「·············あれは」

 

 チカッ、と視線の先で何かが光ったような気がした。深い雨霧の中、微かに見えたそれは魔石灯の明かりだった。

 

 

 

──────────────────────────────────────────────────────────────────

 

実際、ロキファミリアでアルを一番御せるのはリヴェリアです(リヴェリアでもないと手綱を握れない、ベート達はいいようにやられる)

 

『ロキファミリアモテモテランキング』

一位 リヴェリア(同性含む同族全ての憧れ)

二位 フィン(あっち系のケがある人らに人気)

三位 アル(アマゾネスから圧倒的シェア)

 

アレス軍相手にこれ以上ないほどに手を抜いたアル。まあビビりまくってるLv.1〜Lv.2の軍とかこの間の色ボケ軍団(士気激高でLv.4複数)のが厄介だし········。

 

 

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