皆の傷になって死にたい転生者がベルの兄で才禍の怪物なのは間違っている 作:マタタビネガー
「たとえハイエルフであっても·····いえ、ハイエルフであるリヴェリア様だからこそ何にも縛られることなく過ごされるべきです!!」
「いや、だから違───」
「皆までおっしゃらないでください!!リヴェリア様の恋路を邪魔する同朋達は私達が諌めます!!」
「その前に私の話を聞───」
「お二人の関係を同じファミリアでありながら察することのできなかった私達が今更何を言うのかと思われるかもしれませんが、ここはどうか、私達におまかせください!!」
「いやだから私の話を··········」
女性と見間違う金色の長髪と、澄んだ紅い瞳。白磁の肌は透き通るように白く、まるで陶器で作られた人形のように美しい。
しかし、その美しさとは裏腹に彼の纏う雰囲気は氷のように冷たく、そして酷く重いものだった。
「し、失礼します」
「入っていい」
怜悧な美貌に宿る表情には怒りと苛立ちが浮かび、鋭い視線が執務室に入ってきた団員を射抜くように向けられる。
背筋を凍るような冷たい殺気に当てられ、冷や汗を流しながら部屋に足を踏み入れる団員もオラリオにおいては実力者として名が通っている第二級冒険者だ。
それでもなお目の前にいる人物から放たれている威圧感に気圧されていた。
この殺気にも似た緊張感が張り詰める部屋で普段通りの態度を取れるのは、ファミリアの中でも限られた幹部だけだろう。
「【モージ・ファミリア】を中心に各ファミリアの神共が騒ぎを大きくしているという報告は既に受けている。それで?」
「は、はい。その件で『勇者』から言伝が·········」
「······················」
『勇者』、そのワードにファミリアにおいて唯一と言ってもいい頭脳役を担う白エルフの額に青筋が浮かぶ。
今すぐにでも怒声を上げそうなほど顔をしかめるが、ギリギリのところで堪えて深呼吸する。
「············こ、『これはもう僕とロキでは抑えきれない。出来る範囲で頑張るから、後は任せたよ』とのことです」
「············そうか、分かった」
怒りを抑えた声でそれだけ言い放つと、彼は椅子に深く座り込む。そのまま無言になった彼を前にして、報告に来た団員はどうすれば良いのか分からず狼狽する。
「────自派閥でその種を作っておきながらこちらに面倒ごとを押し付ける厚顔無恥の小人族がッ!!」
そんな彼の耳に遅れて聞こえてきたのは怨念に満ちた呪言だった。感情を爆発させたことで荒くなった口調と共に、普段は冷静沈着な彼が見せる激しい憎悪と憤激が爆発する。
あ、これはやべぇ、と自分に飛び火することを恐れてそそくさと退散していく団員を見てもいない。
「··············」
スーーーーッ、ハーーーーッ、と再びらしくない深呼吸を繰り返して精神を落ち着かせる。エルフ特有の長い耳が僅かに揺れ動いていた。
しばらくそうした後、先程までの剣呑な雰囲気が色を失い、代わりに疲鬱とした空気が流れ始める。
重苦しいため息と共に脱力した身体を背もたれに預けると、ギィッと軋む音が響いた。
「············どこまで私を手間取らせるつもりだあの愚物は」
静寂が支配する空間の中、彼はポツリと呟く。
それは、誰にも聞かれることなく虚空へと消えていく。
彼の名はヘディン・セルランド。
オラリオにおいて最大勢力を誇る【フレイヤ・ファミリア】の幹部にして現状、例の『騒動』にこの都市においてとあるハイエルフの次に頭を悩まされているエルフである。
暖光色に照らされ、落ち着いた雰囲気を醸し出している木造の内装。暖炉には火が焚べられており、室内はほんのりと暖かい。
火花の弾ける音と薪の燃える音が聞こえるだけの静かな部屋で寝ている神様の寝顔を眺めながら僕はベッドの横に置いてある椅子に腰掛けていた。
規則正しい呼吸音をたてる神様の顔色はかなり良くなってきている。そのことに安堵しながらそっと指を伸ばして手を握ろうとするとノックの後に扉が開かれた。
「女神様のご容態はどうですか?」
入ってきたのは腰の曲がった高齢のヒューマン。優しげな笑みを浮かべて部屋に入ってくる老人に僕は立ち上がって礼をした。
「カームさん················大丈夫みたいです、今は寝ていますけど顔色は良くなっていると思います」
神様と崖から渓谷に落ちた後、そこに偶然通りかかったこの村の人に村まで案内してもらい、僕らはこの家の一室を貸してもらえることになったのだ。
ベオル山脈の山々に囲まれて隠れるようにある『エダスの村』。山間部に隠れ里のように存在する小さな集落だ。衰弱した神様を休ませるために村長であるカームさんの家に厄介になっている。
カームさんは穏やかそうな微笑を湛えたまま神様の眠るベッドの傍らまで来ると優しく目を細めた。
「カームさん、本当にありがとうございます」
「いえ、気にしないでください。困っている人がいたなら助けるのは当然のことで、ごほっ、こほ」
「だ、大丈夫ですか?!」
「はい、いつものことなのでお構いなく」
身体が弱いのか話している途中に苦しそうに咳き込むカームさんをカームさんの娘さんらしい女性が慌てて介抱する。
緩慢とした動作で彼女に肩を借りながらドア近くに移動すると眠っている神様の顔をじっと覗き込んでなにか思いつめるように表情に影を落とす。
そしてそのままお大事にと言ってから部屋を出ていった。
「··········あの人、病気なのかな」
見ず知らずの僕たちに親身になっていろいろと取り計らってくれたカームさんだが顔色が悪くどこか身体が重そうだ。
なんにせよ神様の容態が戻るまで村にいさせてもらうのだからその分、力になろう。
ラキア王国の軍勢にさらわれた神ヘスティアを救出するためにオラリオを出発してから数日。
渓谷に落ちて衰弱してしまった神様を介抱してくれた『エダスの村』という集落の豊穣祭の手伝いをしていた途中、私は『ソレ』を目にして呆然と立ち尽くした。
ゾクリ、と背筋が凍りつくような感覚。
「──────これ、は」
一抱えはある黒曜石のような輝きを湛えた鱗。
まるで生きているかのように禍々しい気配を放つその物体から放たれている強烈な存在感は私の知るどの生物とも似ても似つかない異質なものだった。
ここはいい村だ。村の人達も皆優しくて親切ですぐに打ち解けることができたし、とても居心地の良いとこだと思う。
ここがいい村だと思ってすぐに祭壇のような小さな小屋に祀られていたこの鱗を見つけた。
不規則な動悸とともに全身から冷や汗が流れ出す。骨が撓むような怖気を感じながらも視線を外すことができない。
不吉な黒曜の輝きを放つそれは見ているだけで胸の奥底にある何かを呼び覚まされるような得体の知れない恐怖があった。
私は無意識のうちに腰に差している剣の柄へと手を伸ばしていた。かたかたと小刻みに震える手で鞘を握り締める。
怪人レヴィスの持っていた呪いの大剣やアルのバルムンクからも感じた寒気にも似た威圧感と本能的な畏怖を呼び起こすような感覚。
「どうかなさいましたか冒険者様···········?」
「·············この、鱗は?」
石の小屋の前で直立する私の姿に気がついた村人が不思議そうに声をかけてくる。
「············それは黒竜様の鱗です」
私が動揺を隠しきれない掠れた声で問いかけると村人は静かに答えてくれた。
「黒竜
黒竜、隻眼の黒竜。約束の地たるオラリオに住まう冒険者ならば誰しもが知っている怪物の王。
下界全土の悲願である『三大冒険者依頼』。
『陸の王者』ベヒーモス、『海の覇王』リヴァイアサンに並ぶ全世界にとっての討伐対象であり、太古の昔に大穴から出でた大災厄の最後。
オラリオの冒険者たちがいずれ達成しなけれればいけない原初の約定。
神々に認められし最強の集団は前人未踏の領域の階位に至った『英傑』と『女帝』─────Lv8とLv9の団長達によって率いられた【ゼウス・ファミリア】と【ヘラ・ファミリア】によって『陸の王者』と『海の覇王』は討たれた。
しかし、神々の予想と人々の希望を裏切って最強の集団はたった一匹の竜に敗北を喫した。
今は世界の果てで深い眠りについていていずれ世界を滅ぼすと言われている黒き厄災。
その鱗を前にして私の心臓は大きく跳ね上がった。呼吸が荒くなり、瞳孔が大きく開く。身体中の血液が沸騰したように熱を帯びていく感覚。
なんでこの鱗は祀らわれているのだろうか?
「この鱗を恐れてモンスターは村に近付こうとしません」
私の疑問を見透かしたかのように村人は言葉を続けた。
確かになぜこんなところに村があるのか疑問ではあった。太古の昔にダンジョンから進出し、繁殖したモンスターの系譜がこの村の周囲の山脈には根付いている。
魔石を劣化させてオリジナルの個体に大きく劣っているとはいえ、それでも恩恵を受けていないただの村人では勝ち目のない怪物であることに変わりはない。
山に囲まれたこんな場所に集落があること自体がおかしかったのだ。
普通ならば立ちゆくはずがないが、この鱗が放つ怪物の王たる竜の気配に怯えて近づくものがいないらしい。
だからこうして祭壇のような小さな小屋に安置されているのだという。
「黒竜様の鱗のおかげで私達は無事に生活を送れています。··········『三大冒険者依頼』のことは存じておりますが、それでもこの鱗は私達にとって守り神なのです」
だからこそ奉らずにはいられないのだと村人は語った。
「─────」
太古の昔から人類に悲劇を齎し続けてきた怪物。揺るぎない人類の敵。そんな化け物の頂点に立つ怪物の鱗。
それが人間を守る?
冒険者でも神でもない怪物が?
私は込み上げてきた吐き気を堪えながら拳を強く握り締める。悍ましく、残酷で、どうしようもなく不快な現実に目の前が真っ暗になる。
人類に数え切れない涙と犠牲を生みだしてきた怪物に同胞が守られているという矛盾と冒涜。
その事実に気が狂ってしまいそうになる。私は一体何のために戦ってきたのだろうと私の中にあった絶対の価値観が音を立てて崩れ落ちていく。
怪物を殺す、ただそれだけのために剣を振ってきた。それなのに私達が倒さなければいけない怪物が人の命を守っていたなんて。
「············怪物は、倒さなくちゃいけない。怪物は、『竜』は殺さないと、だって、そうしないと········また誰かが泣くことになる·····はず、なのに」
ぐしゃぐしゃになった感情のまま私は無意識のうちに呟いていた。心の裡でなにかが軋む音を聞きながらも止められない。
人と怪物の共存なんて認められない、認めてはいけない。それを認めてしまったら私が剣を振るう理由がなくなってしまう。
私が戦う理由はただ一つ。
怪物を倒すこと、その一点だけ。それ以外には何もない。それが私の存在理由であり、私が私であるための証明だった。
全ての元凶であるはずの黒竜が村を守っているという事実に途方もない怒りが沸き上がってくる。
こんなもの知らなければ良かった。
知るべきじゃなかったと心の底から思う。
怪物は殺す。それが私の使命。この手で必ず成し遂げると決めた誓い。
それを否定されたようで堪らない。
今すぐにでもこの鱗を叩き斬ってやりたい衝動に駆られるが、なんとか踏みとどまる。
怨嗟の火種を振り払うように大きく深呼吸をして気持ちを整える。
ふぅ、ふぅ、と肩で息をしながら黒竜の鱗から視線を外す。
「ぼっ、冒険者様···········?」
「·············大丈夫です。少し歩い、てきます·············」
心配そうに声をかけてくる村人にそう告げて私はその場を離れた。
「············」
村の外れにある丘から村を見下ろす。眼下に拡がるのは穏やかな風景。遠くに見える村人達の営みに耳を傾ける。
聞こえてくるのは楽しそうな笑い声。子供達が無邪気に駆け回り、それを優しく見守りながら祭りの準備に精を出す大人の姿が見える。
それはどこにでもあるありふれた平和な光景。
私が、剣を振るうことで守ろうとしてきた光景そのもの。
「·············なんで」
村と森の境界にはモンスターの侵入を拒むかのように黒竜の鱗が並べられていた。
宛もなく、村の周りを歩きながら私は力無く呟く。村の外縁に等間隔に置かれた鱗を眺める。モンスターの侵攻を防ぐ結界のようにも見えるその鱗の祭壇に胸の奥がざわつく。
黒い怨嗟の火種が燃え盛るように胸の中で燻り続けている。壊したい、斬りたい、砕きたい。そんな破壊的な衝動が鎌首を持ち上げようとしている。
だが、この村のためにはそんなことをしてはいけないこともわかっている。
この鱗はモンスターから村を守るためのもの。もし、この鱗を壊してしまえばすぐにでもこの村はモンスターによって滅ぶだろう。
石の祭壇のさまざまな装飾や捧げものはこの村の人達のモンスターへの恐怖と竜への崇拝を表している。
ぎちり、と剣の柄を掴む手に力が籠る。
矛盾に苛まれながら村を順繰りに歩き続ける。やがて、村の中心に位置する広場まで来たところで私は足を止めた。
やはりここにも竜の鱗があった。
先程の場所や村の外周に等間隔で置かれたものと同じ鱗の祭壇。小さな祠のような祭壇の前で私は立ち尽くす。
黒き災厄の欠片。いつか世界を滅ぼす怪物の鱗。全てを奪い去った存在の一部。
渦巻くように私の心を掻き乱す激情。
うつむいたまま柄を強く握り締めたその時だった。
「アイズさん?」
アルの弟────ベルの声。フラフラと村を歩き回っていた私を追いかけてきたのか、不思議そうにこちらを見つめているのが気配でわかった。
振り向けない。
きっと、今の私はひどい顔をしていると思うから。
鱗を睨んだまま私は動かない。そんな私を見て何かを察したのか、ベルが隣に並んで同じように鱗を眺める。
「············神様みたいですね」
ぽつり、とそんな言葉が耳に届いてきた。
「············違う」
ぎり、と歯を食い縛って私は言葉を絞り出す。この鱗は神じゃない。神とは程遠い醜悪な怪物だ。
だって、この鱗の、竜のせいで私は、私達は·········。
怨嗟の火種が燃え上がる。抑えろ、と自分に言い聞かせるが上手くいかない。
「あれは神なんかじゃ、ない···········!!」
··············しばらくして、ベルが去っていくのを感じた。それでも私は動けなかった。動く気になれなかった。
このまま消えてしまいたいとすら思った。怪物に守られている人間がいるなんて知りたくなかった。私が倒すべき怪物に人が守られているなんて認めたくなかった。
ぐるぐると思考が巡る。どうすればいいかわからなくなる。
わからない。もう何もかもがぐちゃぐちゃでぐちゃぐちゃで、自分が何を考えていて何を思っているかさえもわからなくなってくる。
ただ一つわかることは、こんな感情は知らないということだけ。
憎悪とは違う。怒りとも違う。哀しみでもない。これは、なんだ? わからない。
けれど、とても苦しい。胸が痛い。張り裂けそうだ。まるで心臓を直接掴まれて握られてるような痛み。
「··············」
しばらく呆然としていた私だったが知る気配を背に感じた。
「『隻眼の黒竜』の欠片か」
「だから俺の【バルムンク】がカタカタ震えてるわけね」、と今も鱗から目を離せない私の後ろで話すのはアルだった。
「随分、思い詰めてんな。『怪物』が人を守っているのがそんなに気に食わないか?」
「────っ」
私の中で渦巻く黒い炎を見抜こうとするかのような直截な言葉に私は息を飲む。
「『怪物』は敵、でしょ?」
そのはずだ。アルも冒険者としてそれは分かってるはずだと確かめるように訊ねる。
モンスターを無尽蔵に産み出すダンジョンに蓋がされて幾星霜。モンスターの脅威と残酷さを最も間近で知っているのは冒険者だ。
「仮に··········」
「?」
ふいに、アルが口を開く。思っていたとは違う声音に思わず振り返るとそこにあったのはいつになく真剣な表情をしたアルの顔。
そして、その口から放たれたのは予想外の言葉だった。
―――例えば、の話だが·······『怪物』に人間と同じ情動と生きる理由があるとしたら、お前はそれを殺せるのか?
そう問われて私は一瞬、意味がわからず呆ける。何を言っているか理解出来なかった。
意味が分からない。モンスターにそんなものがあるはずがない。
要領を得ない話に困惑するが他でもないアルの質問だということに何故か答えなければならない気がして必死に頭を働かせる。
だが、考えれば考えるほど頭の中が混乱していく。
モンスターに情動?生きていく理由?一体なんのことだろう?
モンスターは殺すものだ。それ以外にありえない。
········仮に、あるとしても。
情動があったとして、生きる理由があったとして。そんな『怪物』を前にしたとして私がすることなんて決まっている。
斬る。ただ、それだけだ。
迷いはない。躊躇もない。
それこそが、私の存在意義なのだから。
「私はそれがどれだけ人間に近い怪物であろうと、怪物のせいで泣く人がいる限り───────私は『怪物』を殺す」
迷いのない、私の意思。揺るぎない決意。それをはっきりと告げた。
アルは私の言葉を黙って聞いていた。
そして、やがて納得したように踵を返して去っていった。
一人残された私は再び鱗へと視線を戻す。
やはり、この鱗を見るたびに心がざわつく。
胸の奥が疼いて、叫び出したくなる。
「··········アルは違うの?」
アルが去った後に、私は誰に言うでもなく呟いた。
現在、オラリオのエルフは大きく三つの派閥に割れている。
一つは、ヒューマンの分際でリヴェリア様を誑かした『剣聖』を亡き者にしてやると意気込む───過激派。
一つは、ヒューマンといえどリヴェリア様がお決めになった相手なら&瑕疵のない英雄が相手だし外野の我々は介入せずにただ祝福しようとする───
最後は、アルの熱烈なファンであり、その相手が自分達の王族であるリヴェリアであることに情緒が破壊された───虚無派。
比率は六、四、一以下であり、過激派が優勢ではあるが祝福すべきだという歓迎派も首脳陣がリヴェリアのお付きとも言える【ロキ・ファミリア】所属のエルフたちであるというのもあって負けていない。
所属ファミリアや業種に関わらず三分割されたエルフ達の諍いは悪乗りした神々の干渉もあってギルドですら抑えきれぬ大騒動となりつつあった。
そんな状態であるがゆえにアレスを逃がすための殿としてオラリオの周囲に残る数万ものラキア王国軍は「テメェらの相手なんざしてる場合じゃねぇ!!」と、派閥を問わず結託したエルフの上級冒険者達によって、抵抗すら許されずに殲滅。
そのエルフ軍を指揮したのは【過激派】のトップであり、事実上の最高位の階梯であるLv.6の魔
泣く子も黙る【フレイヤ・ファミリア】の最高幹部である彼は『黒妖の魔剣』ヘグニ・ラグナールとともに白黒の騎士と呼ばれ、アルが台頭するまでは
まあ、もっとも頭の茹だった同族たちとは違い、かつてはハイエルフではないのにも関わらず賢王として白妖精達に掲げられていた彼がこのようなことに介入し、【過激派】のトップとして騒動の手綱を握ったのは統率の取れてないエルフ達が無秩序に暴走することを防ぐためである。
他でもない同族達によって巻き起こされるどこに飛び火するかも、至高たる女神に及ぶかもしれない混乱の渦を放置するほど、ヘディンは怠惰ではない。そして、今回はいつもなら鶴の一声ですべてを片付けられるハイエルフのリヴェリアが騒動の発端なのだ。
それを『収める』のはいかにヘディンといえど、不可能だ。ゆえのはけ口としての『生贄』、アルが不在なために行き場のない熱情を自らが旗印となることで『生贄』たるラキア王国へ向けさせてアルが帰還するまでの時間稼ぎに努めていた。
一度火が付けばアマゾネス以上に感情的になるエルフ。それもハイエルフ関連ともなればその炎は燃え上がる一方だが、それでもなお、ヘディンは同胞が引き起こすであろう問題をどうにか最小限に抑えることに専念していた。
無論、【ロキ・ファミリア】と敵対する【フレイヤ・ファミリア】に所属するヘディンとてアルがハイエルフであるリヴェリアと結ばれるというのには苛立ちを持たざるをえない。
ヘディン自身、後続の身でありながら自分と同じ雷魔法の使い手であり、最凶の魔法剣士のお株すらあっさりと掻っ攫っていったアルのことは機会があれば殺してやりたいぐらいには嫌っている。
しかし、『根拠のない噂』を信じるほどヘディンは純真ではないし、仮に信じたとしてもこの騒ぎに便乗することはない。
もとよりリヴェリアとアルの熱愛報道は七対三で嘘偽りだと考えてはいる。
とはいえ、逆に言ってしまえばヘディンをして三割は『ありうる』と考えてしまうぐらいには『
エルフではないフィンや何を言っても照れ隠しとしか受け取られないリヴェリアが何もできない以上、今のオラリオの行く末はヘディンに掛かっていると言っても過言ではなかった。
幸い、ちょうどよくいてくれた『生贄』ことラキア王国軍の尊い犠牲によって【過激派】達も若干のクールダウンはなされており、これならばアルが帰還するまで持つだろう。
問題があるとするなら、一つ。
「あの愚物はいつまで外で遊んでいるつもりだ────ッ」
噂というものは人から人へ伝わるごとに個人の解釈によって少しずつ歪められていくもの、ましてイタズラ心を発揮した神々の介入が入ったこの噂は段々と元の『リヴェリアの想い人はアル』というものから形を変えていった。
当事者であるアル・クラネルがオラリオに帰還するまであと三日。
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フィン『やれることやったけどエルフじゃない僕じゃ抑えるの無理だね、これは』
ガレス・ロキ『(レフィーヤの誤解で良かった·······)』
ロイマン『』イツウキリキリ
レフィーヤ『』ソンナツモリジャ...
ヘディン『』ナゼワタシガ...
ディアンケヒトFエルフ『─────って話、本当なんでしょうか?!』
アミッド『·······なんで私に聞くんですか?知りませんよ、そんなの』