皆の傷になって死にたい転生者がベルの兄で才禍の怪物なのは間違っている   作:マタタビネガー

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九十六話 終わったら俺寝るからあとよろしく

 

 

 

 

 

神様が快復してから数日、神様を介抱してくれた村の人たちに恩返しするために集落の豊穣祭の手伝いをしていた。

 

村の中央広場で行われる収穫を祝うお祭りだ。今年取れた作物や来年の豊作を願って祭りを行うらしい。

 

冒険者としての身体能力で力仕事も苦にならないので村中の飾り付けを手伝ったり、料理の準備をしたりしていた。

 

その準備が一段落して休憩に入ったところで神様の様子を見に行く。借りた家の中に入ると神様の寝ている寝台の横にカームさんの姿があった。

 

「·······カーム、さん?」

 

 静かに穏やかな視線を眠る神様に向けるカームさんの背中に声をかけると彼はハッとしてこちらを振り向いた。

 

僕を見て一瞬だけ驚いたような顔をしたがすぐに先程までの優しげな微笑を浮かべて頭を下げる。杖を突く音が静かな室内に響く。

 

「女神様には何もしていません、ご安心を」

 

「は、はい。········どうかしたん、ですか?」

 

 どこか生気のない立ち姿に疑問を覚えて訊ねるとカームさんは身体をこちらに向き直って再び口を開く。

 

「ベルさん、貴方と話したかった。少しばかりこの老いぼれに時間を頂けますか?」

 

 神妙な面持ちで言うカームさんに戸惑いながらも了承するとカームさんの自室へと招かれた。

 

質素な木製のテーブルと椅子があるだけの殺風景な部屋に入り、勧められるがままに席に着く。僕の対面に座ってしばらく無言だったカームさんだったがやがてゆっくりと話し出した。

 

「これは·········ファミリアのエンブレムですか?」

 

「ええ、何十年も昔の話ですが私はとある女神様の眷属でした」

 

 時間による劣化によってくすんだ、かつては鮮やかであったであろう緋色のエンブレムを見せながら懐かしむように語るカームさんの横顔には哀愁のようなものを感じた。

 

エンブレムに描かれているのは燃えさかる炎のようなシルエット。年季こそ入っているものの大事に仕舞われていたのか状態は悪くない。

 

カームさんは遠い昔を思い出すかのように語り始めた。

 

「私はあの方をお慕いしておりました。あの方も私を愛してくださった········」

 

「えっ········!?」

 

 女神と眷属という立場でありながら愛を誓い合ったという話に驚きを禁じ得ない。カームさんはどこか悲しげな笑みを浮かべて続ける。

 

「··········ですが、私はあの方を守ると決めたのにあの方はモンスターの爪から他でもない私を庇って送還されてしまったのです」

 

 五十年以上も昔の話だとカームさんは言う。ごほごほと咳き込みながらカームさんは懺悔するように両手を組んで項垂れる。

 

カームさんしか眷属のいなかった女神様はモンスターの群れに襲われ、カームさんを逃がすために自らを犠牲にしたのだという。

 

下界に降りたことで神の力を失い、常人以下の全知零能となった神は死ぬことはなくとも下界での生命活動が停止した時点で天界に強制送還されてしまう。

 

それはつまり、愛する人が自分を守るために目の前で死んでしまったということだ。仮にヘスティア様とそんな状況になったら僕は耐えられるだろうか。

 

愛する人に、護るべき人に守られてしまったカームさんはどんな気持ちでその時を迎えたのだろう。

 

何もできなかったカームさんはきっと自分を責めたに違いない。そして今もなお、後悔しているのだ。大切な人を死なせてしまったことを。

 

その気持ちは痛いほど理解できる。僕だって何度も自分の弱さに嘆いて悔しい思いをしてきたのだから。

 

そのいずれよりも辛い思いに苛まれたであろうカームさんにかける言葉が見つからない。

 

その辛さが分かるからこそ安易な慰めの言葉をかけることは躊躇われた。

 

「あの方を失って生きる気力を失った私は失意のまま自死するためにこのベオル山脈に赴きました」

 

 生きる希望も目的もなく、ただ死に場所を求めて山を越えようとしたカームさんは図らずもこの村に辿り着き、似たような過去を持つ村人達に迎えられたのだという。

 

そして今に至るらしい。カームさんは僅かに自嘲するような笑みを浮かべて窓の外を見やる。窓から見える空は茜色に染まっており、夕方になっていた。

 

「あの方に救われた命を私はついぞ捨てることができませんでした」

 

 黄昏の光が差し込む部屋の中でカームさんはそっと目を閉じ、過去を悔いるような声音で呟く。

 

しばらくして目を開けたカームさんは視線を僕に戻す。その瞳には若い僕には測れない意志が宿っていた。

 

「ベルさん、どうかあなたはあの神様をお護りください」

 

 私のようにはならないでください、と咳き込みながらも僕を真っ直ぐに見据えて告げたカームさん。

 

若かりし頃の自身と僕を重ね合わせて自分と同じ道を歩んでほしくないと願うカームさんの願いは切実なもので、だからこそ真摯に受け止めなければならないと感じた。

 

僕の返事を待つことなくカームさんは部屋を出ていき、僕だけが取り残される。

 

カームさんの悲壮さを秘めた願いに僕は強く拳を握った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アルが去ってから数時間後、私は村外れの丘に一人で佇んでいた。祭りの準備をしている村人達を眺めながら私は物思いに耽っていた。

 

心の中にあったのはさっきのアルの言葉。

 

仮に、人間と同じ情動や生きる理由が怪物にあったとしたら。なんでそんなことを言ったのかはわからない。

 

「··········」

 

 掻き乱された心を落ち着かせようと村を眺める。竜の鱗に護られた営みは平和そのもの。

 

········けれど。

 

「この村がお嫌いですか?」

 

「······い、いえ」

 

 不意に背後から聞こえてきた声に振り向かず答える。そこに立っていたのはこの村の村長であるカームさんだった。

 

病を患っているのか顔色が悪く痩せ細った身体は弱々しい。どうにか否定しようと慌てて首を横に振るが言葉が詰まってしまう。

 

「お知りになられたようにこの村はモンスターによって守られています」

 

「日々モンスターと戦っていらっしゃる冒険者やモンスターによって大切なものを失った方からすれば思うところはあるでしょう」

 

 私の心を見透かしたかのような言葉にどきりとする。柔らかな笑みを浮かべたカームさんの瞳には僅かに哀しげな光が宿っているように見えた。

 

「私も最初、この村を嫌っていました」

 

「えっ·······?」

 

 意外な告白に驚いて振り返ると彼は遠くを見つめていた。その先には祭りの準備をする村人達がおり、その中にベルやアルの姿もあった。

 

「········私はかつてとある女神様の眷属でした」

 

 そこから語られたのは彼の半生。

 

他ならぬモンスターによって最愛の女神を奪われて生きる希望も目的も失ったこと。

 

失意に沈んだままこの村に辿り着き、似たような境遇の村人達に受け入れられたこと。

 

「まだ癒えないあなたの心の傷を埋めてくれる誰かに出会えることを祈っております」

 

 そう言って一礼するとカームさんは立ち去っていった。彼の背中を見送りながら私は自分の手を見下ろす。

 

茜色に染まった空の下で私は暫くの間、動くことが出来なかった。

 

私の傷を塞いでくれる存在なんていないはずだ。

 

私を救ってくれる英雄なんて──────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「んん? あれは村の踊りかい? 何だか若い子達が多いね?」

 

「あれは············」

 

 祭りの準備を終えて村の中央に焚かれた篝火の周りで男女二組になって踊っている。その動きに規則性は無く、ただ自由に踊っているようにしか見えない。

 

陽気な歌声や楽器の音色の中、様々な種族の人達が楽しそうに笑みを浮かべて踊る様を見ていると不思議とこちらまで楽しくなってくる。

 

首を傾げて踊りを見る神様の問いに年嵩の男性が答えた。

 

その人によるとこの踊りは村に古くから伝わる伝統的なもので特定の相手のいない男性が女性を誘って踊るものらしい。

 

ようは告白の場であり、意中の相手に踊りに誘うことで愛を告げるのだそうだ。

 

その答えに神様はほうほうと興味深そうに呟きながら目を輝かせている。

 

すすすと僕にすり寄って僕の腕を掴んだ神様。

 

「あー、ベル君? その·····なんだ、君さえよければ君さえよければ··········」

 

 頬を赤く染めて上目遣いで見上げてくる神様。その姿はとても可愛らしくて、思わずドキッとして一瞬思考停止してしまったけどすぐに我に返った僕は苦笑いしながら言った。

 

「えっと·············わかりました、僕と踊ってくれます、か?」

 

 照れくさいけれど神様から誘われたので断るわけにはいかない。神様の手を取り、ぎこちなく誘いの言葉を口にすると神様はパァッと顔を明るくして何度も嬉しそうにうん!と返事をした。

 

そんな僕らを村人達が微笑ましそうに見ていて少し恥ずかしい気持ちになったものの、逃げ場の無いこの状況ではもう開き直るしかない。

 

神様の小さな手を引いて一緒に踊りに加わる。

 

「むむぅ、中々に難しいね·········」

 

「あはは····················」

 

 ステップを踏む度にふわりと揺れる射干玉の髪。普段とは違う民族衣装に身を包んだ神様はいつもとは違った魅力を放っている。

 

「ベル君、しっかり先導してくれたまえ!」

 

「は、はい」

 

 ぎこちなさが否めない動きだけどそれでも何とかリードしようと必死になる。無邪気な笑顔を見せる神様の姿を見つめていると、不意に視線があった神様は少しだけ頬を赤らめてニコリと笑う。

 

胸の奥が熱くなるような感覚を覚えつつ僕も笑みを浮かべて返す。すると神様はさらに頬を紅潮させて幸せそうな表情を見せた。

 

楽しい時間はあっという間に過ぎていく。

 

篝火の周りで踊っていた者達は次第に疲れてきたのか次第に数を減らしていき、やがて踊りの中心にいるのは僕と神様だけになっていく。

 

最後の締めなのか音楽が一際大きく鳴り響き、周囲を囲む人達から歓声が上がる。

 

「そういえば、兄さんたちは··············あっ」

 

 村の片隅から上がる歓声に目を向けると片や研ぎ澄まされた剣のような美丈夫、片や精霊のような美しい少女。

 

篝火に照らされる白髪と風に靡く金髪が美しく、まるで絵画から抜け出してきたかのように映える二人の姿に周囲の人達は感嘆のため息を漏らしている。

 

互いが都市最高位の第一級冒険者にふさわしい身体能力を発揮することで見る者を魅了する見事な踊りを披露している。

 

まるで、物語の一節であるかのような光景に思わず見惚れてしまう。いつにない優しげな空気を放つ兄さんと可憐な雰囲気のアイズさんが踊る姿はまさしく幻想的と言えるだろう。

 

照れくさそうに手を伸ばすアイズさんも周囲の明るい様子につられてか、楽しそうに笑みを浮かべて踊る。

 

その様はさながら精霊のようにすら思えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えっと·············わかりました、僕と踊ってくれます、か?」

 

「ああっ!!」

 

 ベルと神ヘスティアが篝火に照らされた村の中央で踊る。明るい曲に合わせて二人は拙くも楽しげにステップを踏みながら、手を取り合って踊り続ける。

 

その様子を見て他の村人達は拍手を送り、郷土の民謡を口ずさむ。明るくて楽しげな空気にズキリ、と心が痛んだ気がした。

 

黒い炎が揺らめくような感覚に思わず胸に手を当てる。ざわつく心に歯噛みしながら私は二人から目を逸らす。

 

何故だろう? どうして、こんなにも苦しいのだろう? 二人が笑い合っている姿を見るだけで、どうしようもなく仄暗さが募っていく。

 

この感情は何?わからない。

 

けれど、とても嫌なものだということだけはわかる。

 

「··········そっか」

 

 寂しいんだ。

 

私は今、孤独感を感じている。賑やかなお祭りの光景に疎外感を覚えて仕方がない。だから、苦しくて悲しくて辛い。

 

戦いしか知らない私はきっと異物だ。

 

「(···········場違いだな、私)」

 

 いちゃいけない、と二人の邪魔にならないよう私は静かにその場を離れる。

 

明るい広場に背を向ける。笑い声が遠ざかるにつれて気分が沈んでいく。村人たちの団欒を邪魔しないように人気のない場所を探す。

 

気配を殺しながら歩いて隠れるように木陰に入る。そのまま膝を抱えて座る。誰もいない静かな夜の森は私の心を落ち着かせてくれた。

 

静かだ。風が葉を撫でる音だけが耳に届く。喧騒から離れてようやく落ち着きを取り戻した私は深く息をつく。

 

隠れるのは昔から得意だ。なにせ誰にも、英雄にも見つけてもらえなかった。

 

そんならしくない自虐的な思考に苦笑する。

 

ふと、視線を感じて顔を向ければそこには。

 

「······アル?」

 

 どきん、と心臓が跳ねる。村の人に貸してもらった祭りの服を着崩したアルがそこにいた。

 

「·········一人でなにやってんの、お前?」

 

 何かとても哀れなものを見ているかのような目を私に向けるアルがいた。

 

村は祭りで盛り上がってるというのに夜の木陰の下で膝を抱えて一人で座っている私は確かに変かもしれないけどそんな目で見られる謂われはないと思う。

 

さっきまでの陰鬱な気持ちも忘れてむっ、と睨み返す。

 

「別に、何してても私の勝手、でしょ?」

 

「いやまぁ、そりゃそうだが········」

 

 気まずそうに頬を掻いて言い淀むアルを見て私は首を傾げる。普段なら「あぁそうだな、それじゃ」とでも言ってどっかに行くはずなのに。

 

「············みんな、楽しそうだね」

 

「あー、まぁ、そうだな。たまにはこういうのもいいんじゃねぇの?」

 

「うん、そうだね」

 

 そう言ってまた沈黙が流れる。なんだろう、この感じ。妙に落ち着かないというか居心地が悪い。

 

昔、リヴェリアが私に向けていたような扱いに困るものを観る目にそっくりだった。

 

アルが何を考えているのかよく分からずに私が何も言わないで見つめ続けていると、やがてため息をついてからアルが口を開いた。

 

「はぁ··········」

 

「?」

 

 疲れたように項垂れるアルに私は再び首を傾げた。すると、おもむろにアルがこちらに手を差し伸べる。

 

「··········俺と踊ってもらえるか?」

 

「え、あ───う、うんっ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いや、いやいや、いやいやいや、曇れ曇れとは思ってるけど、早すぎるわ。まだ、異端児編始まってねぇぞ。みんなの輪に入れない子供かよ。

 

まあ、一回、踊れば周りの奴らもアイズを誘うだろ。

 

そら、踊るぞ。俺も一切、経験ないけど身体能力でゴリ押せばなんとかなるだろ。

 

終わったら俺寝るからあとよろしく。

 

 

 

 

 






まずは更新を休んですみませんでした。

誹謗中傷とかは気にしても仕方ねぇってことで好きなアニメをエンドレスで見て受けたダメージを回復させて復帰しました。

コメントや評価などをしてくれると励みになりますのでこれからもどうかよろしくお願いいたします。


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