皆の傷になって死にたい転生者がベルの兄で才禍の怪物なのは間違っている   作:マタタビネガー

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ソードオラトリアのアニメの続きやんないかな


九十七話 ちょうどいいや、ヘディンに全部丸投げして俺は逃げよ

 

 

 

 

 

 

 

絶対的な死の予感。凍てつく神気が大気を震わせている。月下、横溢する圧倒的な魔力の渦。英雄たる人物であろうと抗う術なき力の奔流。

 

かつて下界最強の集団によって討たれた『陸の王者』ベヒーモスや『海の覇者』リヴァイアサンといった三大冒険者依頼の災厄に匹敵しかねないほどの怪物。

 

神を殺す大穴の刺客にして、世界を滅ぼしうる漆黒の魔獣。太古の時代より地上を荒らす災厄。

 

「─────俺はお前の英雄(オリオン)じゃない」

 

 月明かりだけが差す遺跡の奥。岩の天蓋に空いた穴から覗く夜空を仰ぎ、少年は静かに呟いた。

 

その瞳に宿るのは嫉妬にも似た感情。おおよそ彼が抱くにはふさわしくない羨望と憧恨。今後いかなる相手に対しても抱くことはないはずの感情。

 

少年の仰ぐ夜空には神の光が収束し、弓の形を成している。それは世界を穿つ滅世の輝きであり、虚構の月を砲台として顕現した天界最強の矢。

 

その一射はオラリオごと大穴の『蓋』を貫き、世界を再びモンスターの横溢する魔界へと回帰させるだろう。

 

「··········本当なら俺は関わるべきじゃなかったのかもしれないけどな。置いてくならともかく置いていかれる側になるのはイヤだったんで少しだけズルをした」

 

 次の瞬間には世界が滅んでもおかしくない状況だというのに少年の声音に焦りはない。

 

この期に及んでただただ穏やかで、凪いだ水面のように静謐なままだ。そしてその瞳には悲壮でも決意でもない感情が宿っている。

 

ただただここにいるべきでない自らへの苦慮。それが少年の表情を曇らせていた。

 

本来ならば『英雄』が立つべき場所にいるべきではない自分が何故立っているのか。そんな考えが脳裏から離れないのだ。

 

偽物の自分にできることは時間稼ぎにも似た『繋ぎ』しかない。

 

月光を背負いながら夜空を見上げる少年の周囲に黒い燐光が立ち上り、光の粒子となって収束していく。

 

それはまるで夜の闇を凝縮させたような漆黒。触れたもの全てを腐食させていくかのような禍々しい気配を帯びた何か。

 

しかし不思議と不快感はなく、むしろ安心感すら覚える優しい闇色。

 

────英雄覇道(アルケイデス)最大蓄力(フルチャージ)黒鐘桜(ブラックベル)ヘ。

 

リンリンと鳴っていた鈴の音が大鐘の音に変わる。ゴォンという重低音とともに遺跡全体が揺れ動き、大気が震える。

 

対峙するは神喰らいの黒き怪物が喰らった神の力を費やして装填した純潔の女神の権能そのものが矢を形どったモノ。

 

約定の時を待たずして地獄の蓋を解き放つ滅びの一矢。それはもはや下界の個では到底防げず、かといって神の力を解放した神であっても相殺しきれる前に送還されるであろう究極の一撃。

 

だが、少年はその脅威を前にしても微塵も怯むことなく佇んでいる。その胸中に渦巻いているのは恐怖ではなく後悔。あるいは未練と言ってもいいものだろうか。

 

永く待ち望んだはずの『死』の予感。あの矢が放たれれば間違いなく少年も死ぬだろう。

 

だが、世界の中心と呼ばれ、ダンジョンの大穴を塞ぐ『蓋』であるオラリオがそこに住まう有力ファミリアの主神たちとともに消滅することは世界の破滅と同義。

 

あれが解き放たれれば何もかも終わりだ。

 

だから、天秤にかけるまでもないのだ。

 

片や、世界すべて、片や、『既に』死した女神一柱。答えなど最初から決まっている。

 

この槍で、この神創武器で大穴の使徒────アンタレスに取り込まれた女神をアンタレスごと『殺す』、たったそれだけで世界は救える。

 

自分ならば、本来の『彼女の英雄(オリオン)』よりも遥か上の力を持つ自分ならばできる。

 

だが───────。   

 

「ああ、気に食わんな」

 

 そうだ、気に食わない。今の少年に駆け巡る感情はまさにそれだ。諦観でも、嘆きでも、悲しみでもなく気に食わないという怒気と憤激のみ。

 

魔獣に対してでも、世界に対してでもない、女神と自分自身への怒り。

 

勝手に英雄なんてものに仕立て上げられたことも腹立たしいが何よりもそれを一度は良しとした自分自身に一番苛立っている。

 

「俺以外が世界のために死ぬ?───冗談じゃねえぞ」

 

 英雄なんかではない、自分はただの人間だ。英雄になりたいと思ったことは一度もない。

 

弟のような未完の英雄にも、物語の英雄にだってなれない。なる資格もなる理由もない。

 

それでも、少年は英雄として、世界を救う者としてこの場にいる。それがどうしようもなく、許せない。

 

今ここにいるのは偽物で、贋作で、本物じゃない。

 

彼を突き動かすのはどこまでも自分勝手なエゴイズム。歪み淀み切った願望の発露。

 

世界を救う偉業だとか、女神を殺す大罪だとか、そんなものはどうだっていい。

 

そんなものは知らない。

 

世界が滅ぶかどうかすら知ったこっちゃない。外道と言われようが邪悪と罵られようが構わない。

 

「そんなこと、俺以外にやらせるわけねぇだろうが!!」

 

 苦慮も、葛藤も、あらゆるものを呑み込む激情。ズルい、それは俺の役目だ、お前は引っ込んでろ。そんな思いが胸中を埋め尽くしていく。

 

世界?

 

女神?

 

偉業?

 

大罪?

 

「そんなもん、知るか」

 

 ────死ぬなら俺に関係ないところで勝手に死ね。

 

自分でも御しきれないほどの感情の奔流。それが少年を衝き動かしている。自分が納得できないから邪魔をする。

 

それはまさしく醜悪そのものの我欲。

 

だが、だからこそ少年は止まらない。たとえ相手が世界を滅ぼす破滅であろうとも、たとえそれが己自身であったとしても。

 

「俺の前で死ぬなんざ、誰にも許すわけにはいかねぇ。───この俺が見送る側になんてなってやるものかよ!!」

 

 怒りを炉に火を入れる燃料にして、魂を熱く燃やす動力源にして、身体中に血潮を巡らせていく。

 

どうしようもないエゴイスト、それが彼の本性。この世で一番美しいと思うものの為なら、彼は躊躇いなく世界を敵に回す。

 

神殺しの大罪すら考慮に値しない。

 

もとより、この身は『彼女の英雄(オリオン)』ではないのだ。

 

なら好きにやらせてもらう。

 

世界を救う気なんて毛頭ない、死んだ女神の眷属だってどうだっていい、女神自体にすら興味がない。

 

ただ、自分の目の前で誰かがなにかの犠牲になるのが我慢ならないだけ。

 

だから、少年はこの場だけ英雄となることを決めた。それはまさしく偽善そのものの在り方。

 

けれど、それで構わない。

 

誰かを救うための英雄ではなく、ただ自分のエゴを貫くための外道。

 

女神は殺さずに、それでいて世界も滅ぼさない。

 

それは不可能に近い。

 

少年は知っている。世界はそこまで甘くないことを。

 

女神を殺すという大罪を背負うこと自体は酷くどうでもいいが、その犠牲の結果として世界が救われるのは許容できなかった。

 

だから、少年は決意する。

 

「────そう遠くない先、約束の地(オラリオ)にお前の本当の英雄(オリオン)がやって来る」

 

 まあ、俺の弟なんだが、と心の中で付け加えながら笑みを浮かべて。

 

これから行うのはただの時間稼ぎ、世界を救うなんて偉業とは程遠い行為。

 

怒りを鎮め、唄うように、笑うように詠唱を紡いていく。少年の手に握られるは神殺しの槍。

 

それは使わない、不要だと言わんばかりに投げ捨てる。

 

そして、代わりに構えるのは一振りの大剣。長大かつ無骨な両刃の大剣を両手で握り締める。

 

「───だから、今は寝てろ」

 

 時間稼ぎ、逃げにも等しい蛮行。それでも弟ならば真に世界を救った上で女神を救えると信じて少年は笑う。

 

その為の『魔法』だと穏やかな笑みのまま、少年は静かに告げる。

 

黒い光輪が収束し、雷光と聖火を纏いながら少年の背に九つの魔法円が顕現していく。

 

この世の理から外れた力を行使する為の代償を燃焼させ、魔力へと変換しながら。

 

器に余る力の奔流に身体が軋む音が聞こえる。限界以上の力を行使している証左。だが、少年はそんなもの歯牙にもかけず、高らかに謳いあげる。

 

詠唱を終え、火雷の束が魔法円を通り抜け、少年の身に宿っていく。魔法円に装填された光槍が夜の海に浮かぶ星々のように浮かび上がる。

 

九条の光が夜空に瞬き、黒鐘桜に負けぬほどに禍々しく美しく輝く。

 

魔力の高まりに呼応し、世界が震動する。少年の背後に展開された巨大な九つの魔法円が互いに干渉し合い、共鳴しながら回転する。

 

──────限界突破(リミットオーバー)蓄力装填(フルカウント)

 

恩恵が刻まれた背中が熱を帯びる。

 

神が力を使っても防ぐことのできないはずの大権能をあろうことが人の身で相殺するための奥義。

 

『神』の力そのものを、そのものだけを殺すために作り上げられた、ただただこの一瞬のためだけに発現した少年の第三魔法、神殺しの九環。

 

それは天の法典に背く下界の可能性。

 

それは神という概念そのものを撃ち落とす下界のイレギュラー。

 

少年は長剣を両手で握りしめ、静かに腰を落とす。

 

そして、その時は訪れる。

 

弓弦を引き絞るように、長剣を背後へ引き絞る。

 

世界を穿つ滅世の輝きが放たれる寸前、少年は────。

 

【────最後の英雄神話(リーヴ・ユグドラシル)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

祭りの後、カームさんは眠るように亡くなった。女神様への五十年来の想いを胸に抱きながら静かに息を引き取った。

 

娘さん達に囲まれた安らかな最期だった。カームさんの亡骸を埋葬した月夜。兄さんは僕の隣に座るとどこか物憂げな表情を浮かべて星々が瞬く空を見上げていた。

 

「兄さん········カームさんは、女神様に会えるのかな?」

 

 死した下界の魂は天界に昇って神様たちにその魂を管理されるという話を聞いたことがある。

 

なら、カームさんもいつかは女神様と再会できるかもしれない。いや、そうであってほしいと願わずにはいられない。

 

「·············難しいだろうな。神じゃない俺には詳しくはわからんが死した魂の管理は死の神の管轄だ」

 

 美神や大神などの特別な神格ならばいざしらず望んだ魂を自らの管理におけると限らない、と兄さんは付け加える。

 

神様は人間とは違う。不死の存在である神様はいかなる別れも忘れることはできない。それはとても残酷なことのように思えた。

 

一緒に歳を重ねることもできず、必ず先に人間が死に、神様だけが残される。人間の一生は永久を生きる神様にとってはほんの一瞬に過ぎない。

 

─────『神々の愛は一瞬なのだ』

 

いつだったか、ミアハ様が言っていた言葉が脳裏に過ぎる。それはあまりにも残酷で悲しい現実だった。

 

一瞬の愛の代償に永久の喪失感を抱える。それが永遠に近い時を過ごす神様との定めだというのだろうか? だとしたら、なんて酷くて哀しいなんだろう。

 

「まあ、そうだな。神は人間とは同じ時を生きていけない」

 

 兄さんは僕の頭を優しく撫でながら言った。それはどこか自分に言い聞かせているようにも聞こえて、僕は首を傾げる。

 

「だが、まあ、神·······特に女神は執着深い。曰く、一万年くらいなら待てるらしい。それに比べりゃ、人間が転生するのなんざ、僅かな時間だ」

 

「それ、は·······どんな神様が言ったの?」 

 

「···········お前ならいずれ会えるさ」

 

 必ずな、と月の光を浴びて微笑む兄さんは優しげで、それでいてどこか寂しげだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日の早朝。カームさんの埋葬を終えた後、村人達に見送られながらアイズ達は村を後にしてオラリオへの帰路につく。

 

度々モンスターが出現するものの第一級冒険者二人に一蹴され、あっという間に駆逐されていく。

 

「いい村だったなぁ············」

 

「また、遊びに行きたいですね」

 

 一団に流れる和やかな空気にアイズも僅かに頬を緩める。確かにいい村だったと素直に思う。

 

横に並んだアルの顔はいつもとは変わらず仏頂面だがどこか穏やかに見える。

 

そして、昨晩のことを思い出す。あの時、差し出された手を取った瞬間に胸の中に渦巻いていた仄暗い感情は霧散していた。

 

暖かな手の温もり。それはまるで陽だまりのようで、優しく包み込むような優しさがあった。

 

胸に蟠っていた仄暗さが消えて代わりにどこか満たされるような明るい感情が芽生えていた。

 

「·········ありがとう、アル」

 

「は?」

 

 突拍子もない言葉に不思議そうな顔でこちらを向くアルに誤魔化すような笑顔を向けてアイズは再び前を向き、歩き出す。

 

「(みんなの待つオラリオに帰ろう)」

 

 未だ、モンスターへの黒い炎は消えない。心の奥底で燃え盛っている復讐の炎は決して消えることはないだろう。

 

けれど、今はその炎が少しだけ小さくなった気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「「「アル・クラネル────ッ!!」」」」」」

 

 そんなこんなあって帰ってきたアイズたちを、出迎えたのは血走った目を向けてくるエルフの大軍であった。

 

あまりの数と迫力、その多くがランクアップを果たした上級冒険者であり一人一人が生粋のマジックユーザーであるエルフであることも考えればダンジョンの階層主すら殲滅しかねない────というかアンフィスバエナくらいなら普通に倒せる────戦力。

 

他でもないラキア王国の軍団を殲滅したエルフの派閥連合。一部、エルフ以外の種族の冒険者も疎らいるが、その誰もがアルへの殺意で瞳を燃やしている。

 

そんなエルフの大軍が一斉に声を上げ、武器を構えながら突進してくる様は下手なモンスターの大軍よりも恐怖を覚える光景だ。

 

「うおっ、いきなり何だ?!」

 

 驚いたアルに当然のように一蹴され、吹き飛ばされたエルフたちだったが、へこたれずに立ち上がるその様相はまともではなく、エルフというよりはキレたアマゾネスのようで恐ろしい。

 

百戦錬磨のアイズが自らに向けられた殺気ではないというのに思わず身構えてしまうほど、その様子は異様だった。

 

「ようやく戻ってきたか、愚物め」

 

 ゾンビが如く襲いかかってくるエルフ達の相手をするアルに手は出さないものの、その背中を睨み付けるようにして呟く白妖精の美丈夫。

 

女性と見間違う金色の長髪に澄んだ紅い瞳を不愉快げに細めるヘディン。

 

「『剣姫』、リヴェリア様とあの愚物の二人と親密なお前ならば知っているか」

 

「貴方は【フレイヤ・ファミリア】の··············。あ、あの、知っているって何がですか?」

 

 あまりにあんまりな光景にぽかんとしていたアイズのもとへ、怜悧な顔を些か疲労に染めた彼が歩み寄ってきた。

 

同胞達の狂乱ぶりに苛立たしげに舌打ちを漏らすヘディンはアイズの問いには答えず、代わりにアルのほうを向いてため息をつく。

 

アルは今まさに襲いくるエルフ達を千切っては投げ、千切っては投げを繰り返しており、その姿はまさしく修羅のよう。

 

その光景に呆れ果てたヘディンは、再び大きな溜め息をついて、 そして、言った。

 

「高貴の御方──────リヴェリア様とあの、アル・クラネルが秘密裏に婚姻しているというのは本当か?」

 

「··········································································································································································································································································································································································································································································································································································································································································································································································································································は?」

 

「嗚呼、いや、分かった。·······································分かったから何も言うなこれ以上面倒事を増やしたくない」

 

 

 

 

 

 

 

 

なんだこいつら、いきなり襲いかかってきやがって。まあ、一人一人はいくら上級冒険者って言っても第二級止まりだしどうということはないんだが面倒だな。

 

こちとら出かけ先から帰って来たばかりで早く寝たいんだよ。

 

─────ん?あれ?

 

そこに突っ立ってるのってヘディンか?

 

ちょうどいいや、ヘディンに全部丸投げして俺は逃げよ。

 

 

 

 

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「個人的に死ぬなら本当にどうでもいいんだけど俺の関係ないとこで死んでほしい」→「それに今、殺しちゃうとベルと出会えないよな·····」→「でもこのままじゃ世界滅んじゃうな」→「なにより俺以外が世界のために死ぬとかいうそんなおいしい真似するなんて許せねえ!!」→第三魔法発現!!

 

第三魔法「神の力だけぶっ殺して残った器は来たる日まで放置しておこう」

 

冒頭のは憧憬追想加熱+英雄覇道最大チャージ+精霊の加護限界突破+全ステイタス限界突破+逆境補正最大+付与魔法+漆黒特攻+神の力特攻を乗せた超長文詠唱の広域攻撃魔法(本来は九つの砲弾を打ち出すものを一つに集約)を一発の剣撃にのせたこれまでのアルの人生においての最大火力。

 

様々な補正が加算されているためエインに撃とうとしたものよりもかなり強力。できないけど仮に自分に対して放った場合、今のアルでも消し飛ぶ威力。

 

 

 

 

 

 





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