今日は担当アイドルである木村龍と水族館に来た。
彼が海の生物に関わる番組に出ることになったので、海の生物について少しでも知っておこうとこうしてやってきた訳だ。
「わぁ〜、見てくださいよ!プロデューサーさん!!どこを見ても魚ですよ!!」
「まあ、そりゃ水族館なんだから当たり前だろう」
「いやー……なんかテンション上がりますね!」
「そんなものかね?」
「えぇ、こんな体験なかなかできませんよ!!」
確かに、言われてみれば大人として成長した今、水族館に行くなんて滅多に無いだろう。
それこそ、このように仕事で来たり、あるいはデートで....というくらいだろうか?……いかんいかん。変なことを考えるんじゃない私。
彼はただの担当アイドルであってそれ以上でも以下でもない。
そう、だよな…?。
「ん?どうかしましたか?プロデューサーさん」
「あぁいやなんでもない、少し考え事をしていただけだ。」
「そうですか、それよりもあっちの方行ってみませんか?」
そう言って彼の指が指している方向を見ると、深海魚コーナーと書いてある
「へぇー、何だか意外だな。龍が深海魚を見たいだなんて」
「番組の台本に深海魚について触れている所があるので、少しでも予習できたらなと思いまして!」
「なるほど、そういうことなら俺も協力しようじゃないか」
「本当ですか!?ありがとうございます!!」
深海魚コーナーへ足を踏み入れると、流石深海魚を扱っている場所なだけあってより一層暗く、水槽の中にある照明が際立つ
。
その雰囲気も相まってか、普段では考えられないような神秘的な空間が広がっているように感じる。
「うわぁ〜……綺麗ですね……」
隣にいる龍も、いつものような元気さではなく、まるで少女のように目を輝かせながら水槽の中を見つめていた。
「確かに綺麗ではあるが、少し不気味だな」
「言われてみると、ここにいる魚達はよく見たらすごい姿をしてますね」
展示されているのはラブカやメンダコ等といった、俺でも知っているような生物から名前や姿すら知らない生物まで様々だ。その中でも一際目を引く存在がいる。
それは、俺達の目の前にある巨大なガラスケースの中にいる生き物だった。
それはとても大きなサメであった。
普通のサメと比べてかなり大きい。
一般的なサメの大きさなどあまり詳しくはないがこれは明らかに大きいものだろうと推測する。
解説板によるとこのサメは『オンデンザメ 』と言うらしい。
このサメは非常に長寿らしく、なんと成熟するのでさえ150年掛かると書かれている。つまりこいつは150歳越えの大先輩ということになる。
「プロデューサーさんどうしたんですか?」
「ん?あぁ、少しこのサメが気になってね」
「わぁ......他の深海魚と比べてすごく大きいですもんね」
「だろ?しかもこのサメは大人になるのに150年かかるらしい」
「150年も!?」
「あぁ、それに伴って寿命も他のと比べて凄く長いみたいだぞ」
「ほえ〜」
「まあそんな訳だから、龍もこのサメみたいな男になれよ?」
「はい!!頑張ります!!」
それからしばらく彼と深海魚について見て回った後
「よし、じゃあそろそろ出ようか」
「はい!次は何に行きましょうか?」
「そうだな……あっ!ペンギンのコーナーがあるじゃないか」
「いいですね!行きましょう!」
そして、俺たちは次の目的地であるペンギンコーナーへと向かった。
「うわぁ〜、可愛いですねぇ」
「だなぁ、特にあの子達なんか可愛すぎるんじゃないか?」
「そうですね!!めっちゃ癒されますよね」
「ああ、あんな風に自由に泳いでる姿を見てるとこっちまで笑顔になってしまうな」
「わかります!僕も水族館に来ると自然と元気を貰えます!」
「ん?水族館に来たことあるのか?」
「来たと言っても、高校生の時に彼女とお出かけしたくらいですけど」
「ふーん、『彼女 』とねぇ...」
少し妬いてしまった
「プロデューサーさん、どうかしたんですか?」
「いや、別に」
「あっ、彼女と言っても高校の時にもう別れちゃってるんで!!今はもう居ないですから大丈夫ですよ!!」
「あっ、いやまぁ、そういう意味じゃないけど」
何を言っているんだ俺は、彼はあくまでも担当アイドルの1人でそれ以上でもそれ以下でもない、そのはずだ。
「ん?何か言いましたか?」
「いやなんでもない、それより早く次のコーナー行こうぜ?」
「そうですか?分かりました」
そう言って彼と一緒に水族館を見て回ると、時刻は既に夕方になっていた。
「いやー、楽しかったな」
「そうですね!色々と勉強になりましたし、番組への準備もバッチリです!」
「期待してるぞ」
「はい!任せてください!!」
そう言って彼はガッツポーズをする。本当に頼りになる奴だな。
「さて、今日はこの辺で解散するか」
「そうですか、それなら駅まで一緒に帰りませんか?」
「あぁ、構わないよ」
「やったー!じゃあさっそく駅に向かいましょう!!」
「おい、走るな転ぶぞ」
「平気ですってばー!」
龍は、俺の制止の声を無視して駆け出す。
全く、しょうがない奴だ。
「うわっと!」
案の定足を滑らせては転んだ
「ほら、言わんこっちゃない。立てるか?」
そう言って俺は転んだ彼に駆け寄る
「すみません、ありがとうございます」
「全く、龍は子供なんだから」
「むぅ、そんな事ないです。これでも成人男性ですよ?」
「はいはい、分かったから」
「本当なのになぁ……でも、プロデューサーさんとこうして帰れるのもいいですね。小さい時にお父さんと水族館に行った帰りを思い出します。」
「お父さんって......おいおい、俺はそんなに歳離れてないぞ?」
「分かってますよ〜」
「本当かなぁ……」
そうこうしているうちに駅はすぐそこだった。
「それではまた明日、よろしくお願いしますれ!」
「おう、気をつけて帰るんだよ」
「はい、では失礼します!」
そうして、龍は駅の改札を通って行った。
「お父さん、か......。俺はお前の事を自分の子供のようには思えないみたいだ。」
誰もいないホームに向かって呟く
「でも、それでも、俺は……」
電車が到着するまで、あと5分。